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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
163/239

163 流れに乗って

寒い、身も頭もダメになる。

寒波要らね。



春、かもーーーん!!



 


 ぐるった流れはぐるってるからぐるったままに猫さんに戻る。 …ねーこが さんかい まわします〜。ぐるぐるぐるっとリトライアール〜〜〜 って、そんなあ。



 「存在を信じると、問題はそこにしかない」

 「力を食したのなら、確かに魔獣の類いだわ」


 「優しかったのは、認めたからだと」 

 


 コンコン。


 話をしているとドアが叩かれた。再び置物化してたロイズさんがヒトに戻って向かう。密やかな伝言がセイルさんに回る。


 はい、これから現場へ行く事になりました〜。地下牢行きでーす。



 「気を付けてね」

 「はい、リリーさんも無理は禁物で」


 「有り難う、病人ではないのだけどね」


 リリーさんはお部屋に戻ります。セイルさんとハージェストが居なかったら現場へ行くそうですが、行く人間がいるんだから行かなくていーのです。


 「兄さん、上着を取って来ますので」

 「ああ、あちらでな」


 食堂を出たら二手に別れます。トロトロ歩きはしませんよー。


 「なぁ、セイルさんは力の流れを見てるんだろ?」

 「もちろん、把握してる」


 「それでも現場に行くんだ」

 「行かないと志気に関わる」


 「…なら、何で直ぐに行かないん?」

 「だから、ギルツが無能で不要になるよ?」


 「……あれぇ?」

 「現場の頭が動かない、それなんて能力詐欺。そもそも調べる能力を有しているのが獄吏官や牢番です。まぁね、無力者だけが囚人なら力の点では楽だけどさ」


 「有能な人… だけでしたな」

 「牢にぶち込んでれば、牢番なんて馬鹿でもできると思ってる素人もいるけどね。ま、確かにコレで動くのも居る。我が家の兵でないなら許されて然るべき存在だよ、あははは」


 お金を示すジェスチャーをしても下品にならない、この不思議。そして不思議とは非常に縁遠い、不正。不正撲滅運動を掲げるチート能力者。うん、居たらなんか笑う〜。真面目な人が損をする、そんな世の中ではありませんよーにお祈り申し上げます。

 

 ……そーいや、あの時お祈りなんてしなかったなー。



 「選ぶ余裕がないなら質は低下して当然。落ちていく」


 冷めた声で前を見る、横顔。


 裁判、セイルさん、上に立つ、責任の所在、その心構え、迎えに行く、不利な立場、対外、利益、人命、お金、理想に現実。



 事故が、領全体に被害を及ぼす事故があったとしてだよ?


 現場へ急行しなかったら、それは逃げたってコトか? 急行したら、現場に拘って他への手配を疎かにしたってハナシ? 誰が出す避難命令が一番効果的なのか?



 なーんて思ってる内に部屋に到着。はい、急げ急げ〜。



 バッタン。 カチャン!


 「はい」

 「かんしゃー」


 また、スカーフを借ります。今度は自分で結んでみせよう。


 ハージェストの手の動きを思い出して結ぶが〜〜  うーむ、一部思い出せん。しかし、首をシメているとセイルさんに首根っこをキュッとされた時を思い出す。光りに渦を思い出す。


 力の強さ、キラキラを勝手に取り込んでるっぽい優秀な能力。 …金魚に世界は広大だが、セイルさんにとってはちょーど良い水槽タンクですか? ふ。



 どう突っ込んでも、セイルさんが動くのが速い。被害を最小限に留める事も、命令を下す必要も、避難命令そのものも要らね。誰も気付かない内に、ぺぺっと終える。終えられる。


 そうなると真実を知る者は限られる。下々は知らないままにへーおん無事に生きていくのです。人知れず行われる苦労とゆーのは報われない。報われない事実が積み重なると、人は不満を覚えるはず。しかしだな…



 「なぁ、蒸し返してナンだけどセイルさんが出たら「兄さん一人におんぶに抱っこな無能は要らね」


 「う! あぅ」


 のーみそにチョップな素晴らしい一言に反論は出てこない。そしてスカーフを結び終える。何その、『あれえ?』な顔。


 指が近づき、ちょちょちょちょちょいと。 …どうやら結びを失敗したよーだ。やっぱりな、たはー。


 「結界の再確認を終えたら絶対に手を伸ばしてる。そうに決まってる。見るに留めない、用心深くも絶対に手を伸ばしてる。人が止めろと言っても聞きやしない。 ったく!  力で力を閉じ込め、形式を切り取って維持できる。現状を保存できる。証拠としては最適で、それが現場を荒らすとも言わないけどさぁ!」



 ぶちぶち文句を垂れる。

 垂れながら上着を取ってくれる。


 セイルさんへの心配か、自分の無力さか? その他諸々が混ざったモンが唸りと一緒に顔に出る。


 『どうせ、俺は』


 こーゆー時に、殊勝なツラをこいつはしない。後ろ向きにならず、いじけず、立ち止まらないから文句が出る。ストレスの発散。 …ん?  立ち止まってたら仕事に埋もれて窒息死? うっわ、嫌。こわー。



 不満。

 それは満足しない・してない事実。


 相手への不満、環境への不満、状況への不満、自分に優しくない世界への不満。思い通りにならない、不満。


 パーセンテージ出して円グラフにしたら、どんな感じぃ? 自分自身への不満って何パーセントあるよ。 


 自分への不満。


 『じぶんのどりょくがたぁりません! どーしよう!?』


 なーんて不満は出ますかね? 出たら、それはストイック? それともマゾ?  ……そんな言葉で一括りにする頭のほーが残念ですかね?


 あ、それ。

 せーかい〜を〜 ひーろく〜〜  


 …って、そーか。


 人が自分の不満足に気付く時、その時、不満足は後悔とゆー名にネームチェンジするではありませんか! 最後の最後でも己の存在を気付かせず、グサッとやって知らん顔。


 …まるで忍びの人のよーだ。うむ、真の忍びはその場に根付く草のはず。生い茂る草の中にしっかりと根を張って、じわじわと勢力を拡大していくのだ! マーカーの付いた草は雑草ではない!!



 「ふ、ふふふふ」

 「え? な、何その笑い。俺、笑える事を言いました?」


 「いにゃーあ」

 「あ、また逃げた」


 「いえいえいえいえ、違いますー」


 零れてきたのは不満で不安じゃなくて不満だが不安のほーを望むのも、どっかおかしいですねー。ヘンタイさんですねー。しょーわるに根暗ひょーかが貰えるでしょう。あっはー。


 愚痴り合い。

 それって、なーんのバロメーター? 



 「そうそう。上着の前に、もう一枚」

 「え? 似たような服しかないですよ?」


 「ですから、これを」

 「お、ベスト」


 「軽くて保温効果の高い一品です」

 「…サイズが合ってないのですが」


 「気にすると際限がなく」

 「……そーですね、りょーかいです」



 それでも、「お前の分は?」に、「指輪がある」とゆー返事はおかしくないか?

 



 「行こうか」

 「ん、頑張りまっす」


 こーゆー時にする事は?


 人はやってました。ので、俺もしましょう。しかし、『ごん』より『ぱしん』のほーが良いと思うので、俺はぱーでいくのです。


 乗った気分で、イエーイと手を上げたが下にして出したら、『ナンかちょーだい』なんだよなー。あははは。





 テラスへ出たら、リアムさんとアーティスが並んで待ってた。


 「オンッ!」

 「アーティス、おかえりぃー!」


 飛び付かず、お座りで尻尾を振るアーティスはなんて頭のいー子でしょうか! 自慢ですので何度でも誉めましょう。


 「ほんと賢い、お利口さん〜」

 「キュッ!」


 頭と顔を撫で捲るがナンか忘れてる?


 「宜しいですか?」

 「あ、はい。リアムさん、またお願いしまーす」


 「はい、お供致します」



 三人と一匹で牢屋に向かいながら、ふと空を見上げる。


 日射しに気温。

 猫さん、本当に地下に行ったんだろうか? あんな寒いトコにナニしに行くよ? 巣穴?


 …ねーこはこたつが好きですよ〜。ごろごろぬくぬく、だーい好き〜〜。寒い地下より地上だって。涼しいにしたって快適空間なら他にもあるって。






 さぁ、地下に降りましょう。

 階段下でアーティスが待っている。セイルさんも待っている。 …行かねばならぬ。


 「無理は禁物です」

 「…だいじょーぶだ!」


 隣に向かってグッと拳を握ってみせる。後は度胸と根性だ。今日を逃せば、こんな豪華メンバーで行く地下牢トラウマ克服弾丸ツアーはない!



 下は見ずにがっちりと手で押え、ケツでずりずりしながら階段を降りる。自力で降りる。後ろにはハージェストがいる! 降りたら死ぬホラーゲームはしていない!!



 「ふ、ふあはははは。降りた、降りたぞぅぅう〜〜」

 「うん、降りた。頑張った。偉い。語尾が震えよーが足がぶるってよーが涙目だろーが君は偉い!」 「おう、よくやった」


 パチパチパチパチ。


 嬉し恥ずかし、皆様から拍手を頂きました。せんせー達に牢番さんもいらっしゃいます。ちょっと心臓がドキドキですが達成感も有り。自分へのご褒美に… あーー、飴ちゃん忘れた!! あ〜あ。


 今回は、もっと下へ降りるのに。



 「二階に降りれば鉄格子がある。思い出す事を思い流せ。過ぎし事象が影響を与え、今のお前と呼ぶ形ができた。それは最早、成った事実。泣くも喚くも震えるも、お前の形。

 ならば今日は、その形を崩す侵蝕を許すな。一人でできねば意味がないと思うなら流せ。確かに最後は己一人の戦いとなろうが、第一は侵蝕を許さぬ事だ。許さぬが主、為す術に拘り過ぎるな。皆が居るのだ」

 「…はい」


 「大丈夫、君ならできる。隣に居る」

 「ぬ」


 隣の断言に背中を押されて、さぁ行こう! のーみそ空っぽでgo!



 はーい、第二弾〜。

 二階へ続く道は足元が明るい。角度を付けた光りがはっきりと階段を照らし出して怖くない。ないんだが…


 思い出す地下牢の階段は…  こっちはあっちよりえっらく長くて地下牢Levelの違いが階段だけで浮き彫りに。いや〜、さーすが元おーさまんちの地下牢! あっちの牢屋って、あれで牢屋Level低かったんだなー。こっちはハードだなー、あはははは。


 「はい、待った」

 「うひっ!」

 

 ぶつかりそうでした。

 ドキドキします。前が止まった事に気が付きませんでしたので、心の余裕はなかったよーです…


 「どうかした?」


 皆に釣られて上を見た。

 そしたら、何にも見えません。黒い空間が広がってるだけです。


 見上げる空間は「あれ?」と声が出る程、圧迫感を感じない。何故に高さを感じるのか? そのまま、じーーーっと見てると何かがチカッと光りました。それからキラキラッと瞬くお星様。 はれ? え? 待て、頭の上に空間?


 上に向けた首を〜 ゆーっくり下へと降ろして行きますと〜〜  広大に広が  はて、左右に直立不動の壁さんが存在しますが? 



 規則正しく配置されてる照明さんがお友達の壁さんをくっきり照らし出してるのに、目を上げると高い空間が地下世界の空を模して広がるこの不思議…


 「えーーーと?」

 「此処には力の糸がある」


 「へ?」


 改めて目を凝らして見ると…  ひとーつ、ふたぁーつと数えられる光りを糸とは呼ばないでしょう。



 『うぇ!』


 吹き上がる冷風! 

 背筋を這う悪寒にぶるっとします。



 「…揺り返しがない?」

 「糸は揺れております。  …張り加減は変わらぬと見えますので、問題は変動の値と断言できます」 「返しの無さが糸をより明確にさせましたが… 不明瞭さも際立ったかと」 「自分が見えるモノは変わりません」

 

 皆さんの声には、冷静さと不機嫌さが混じってるが…   俺には…  さっぱり。



 「目は騙され易いがなぁ」


 セイルさんの言葉に俺ののーみそ、きゅぴーんできらきーーらん!! この天井、まさかの仮想現実(V R)か!? 


 よく見えないのが残念な俺です。



 「兄さん、目の問題を過ぎているかと」


 …そーだ、目が騙された時点でのーみそも騙されてるんだ! しかし、これはどー見てもトリックアートには分類されないでしょう。じゃあ、幻か? 錯覚ってのは知覚の誤りでぇ〜。

 


 誰が、何の為に、どうして、こんな幻を作り出した? この幻は誰に必要とされてるんですかね? 



 とーても綺麗なお星様〜 チカチカチカチカ    …流星にはならんかな?




 ギルツさんが空中を指差して説明するのを、俺もふんふんと聞きつつ目で追う。前の二人が話しながら一歩二歩と降りるのに釣られて、俺も一段降りる。後ろのリアムさんと話してる隣はほっといて、見えない力の糸を探す。


 「繋ぎ合わせを幾通りか思案しますが」

 「形式が古過ぎる、繋ぎ合わせは捨てよ。こんなモノと掛け合わすと弊害しか起きん。構築と並行して術式を解き、無に返せば良いのだが…  解かずに残せば後々面倒だ」


 前の二人が言ってる事はわかるのですが、コードは何処にも見えません。コードレスではないのに見えません!


 前の二人は歩みを再開して降りて行くが、後ろの話は続く。まだ動きそうにないので待つ。


 「あの位置には見えなかったはずだ」

 「はい、先に見えていたのは」


 セイルさん達の話と掛け算すると、コンセントと差し込んでるプラグが見つからないのは嫌みだと思う。コードだけ見えてるなんて、なんて酷い。古い家電製品の発火原因の第一位はコードの劣化と聞いてますのに! 


 そんな状態でプラグインハイブリッドができる訳ねえーーーっ!!



 しかし、コンセントの先にあるのはブレーカー。では、その先は? 色々かっ飛ばすと発電所か発電機。普通でしたら発電所。発電の種類を突き進めると原発が大。誰でも立ち入り可能な原子力発電所。


 いやーー! 考えるだけできょーふが倍増するではありませんか! 犯罪者が乗り込んだら終わる世界の危険な扉です! 鍵は厳重にして下さい!!




 頭を冷やせと、また、冷たい風が吹く。


 「 ( は、は、は〜〜 ) はしゅっ!」

 「あ、寒い!?」


 「あ、いや、うん。  足元がね」


 皆はロングブーツ履いてるが、俺は普通の靴なんです。ズボンの裾から風がスカスカ入ってくるんです。さぶーい。




 オオオーーーンッ!


 「あ、呼んでる」

 「あは、遅いってさ」


 たったか階段を駆け上がって来た黒い影。アーティスは地下を怖がらない。


 「キュッ!」


 「はは、すまん」

 「お迎えになったね」


 尻尾をブンッと振ったアーティスを先頭に再スタート。よしっと気合いを入れて降り始めると、隣が小さく笑った。


 「? どした」

 「あ、いや。  …冷気の漂う地下へ降りる自分と君に、ね。ほら、召喚は地下で行うと説明したろ? それを思うと懐かしい。


 あの時、俺は自分の未来を夢見て地下へと降りた。それが今、君とアーティスと共に地下へと降りる。見通せぬは闇、そう言うけれど…  本当に人生なんてわからないものだね」

 


 妙に感慨を込めて言う隣の言葉を否定はしない。それはしない。しかし、こんな所でそんなに感慨深く言われても、とも思わんでもない。ないが共感はある。それが俺の心に風を呼ぶ。


 こーんな地下で新風も薫風も吹く訳ないが、今の風は快いと思う。


 人が言う、その言葉を知っている。それがカッコイイ言葉なら誰だって覚える。澱みがあろうがなかろうが、吹き払らって力をみせる。口が吹かせる風の威力は、かる〜く物理を超越する。


 ほんと、すごいよね。






 階段降りたら、ガチの鉄格子がお迎えしてくれました。グレードアップ感が半端ない。思い出す以上の物に接すると、以前の物がちゃちくて馬鹿笑いしたくなる。


 灯りにリフトが見えまして、ワゴンに食器もありました。給食終了時間と重なったよーです。 …なんとな〜〜く、囚人食Levelを知りたかったり。自分の時と比較したいと思うのは人の性だと思います。自分の時より良いご飯を食べてたら…  給食Levelを落とせとか考えてませんよーーー!  俺のLevelが落ちるがなー!



 「平気?」

 「ん、へーき」


 そう言ったが、鉄格子がガラガラ声を上げたら怖くなった。


 いやいやいやいや、だいじょーぶ。セイルさんとギルツさんにも顔を覗き込まれて、はい、行きますよー。




 「あっちは灯りを点けないん?」

 「向こうも牢の並びだよ、最終は行き止まり」


 どーも人が居ないよーだ。なら、節電でしょう。


 「行くよ」

 「ん」


 頷いて、灯りの点いてる通路側へと踏み出した。



 「〜〜〜〜〜〜!」


 背後で声がした。 

 唸り声、引き攣れる声、声にならない声が心を鷲掴みにして 恐怖が俺を振り向かせた。


 ガシャン!


 「っ!」


 暗闇から呪われた声が響く。

 血が噴き出してそーなガチャガチャ音も響く。


 反響して大きな音が聞こえるが、暗闇に隠されて真実は見えない。


 とてもあんていしたおどろきのくろさにまったくかわらないれいきのかぜがおれのほほをひやりとなでてぇええ〜〜    うぎゃああああ! 



 「そ  そくだん、そっけつ、そくじっこーーー!」


 エンドロールがぁああっ!!





 「はい、素敵な決断ですが混乱状態で走らない。そこ、怪我するよ」

 「ぐえっ!」


 逃げようとしたら喉が絞まる。息が!


 「はい、襟元掴んでます」


 必死で暴れたら、俺の世界がぐるりからの暗転。真正面から拘束されました。


 「大丈夫、大丈夫。あのね、本当に一人で猫入りするのは止めましょう。このよーに容易に捕獲できません。だから猫入りは   首だけ出して袋詰め… あ、可愛いかも〜」


 拘束じょーたいで歩きます。歩かされます。後ろ歩きは難しいのですが、歩いてる感覚がよくわからなかったり。


 でも、キュンキュンと可愛らしい鼻声が。


 「どうぞ、こちらに」

 「お待ちを。その前に、これを」


 膝カックンで座りました。密着がなくなると明るいです。視界に鉄格子が見えます。一旦、外に出た模様。


 「大勢の気配に虫が騒いだんだよ。制御環が鉄格子と合わさって、あんな音が聞こえただけ」


 真正面からの説明に手が浮く。手首あったか。勝手に浮いてる手が横移動。触り心地のい〜い何かに触れる。接触物体を手確認。確かめて確かめて確かめに目を動かしたらアーティス。

 

 「ガウッ!」


 小さく吠えた。目が言ってる。

 何時か経験したよーな感じ。硬直からの弛緩を体験。アーティスに凭れる様に頭を抱えて両手で掻い繰りしてしてしてして、落ち着きを自覚。はぁ。




 「今はこれしかなく。何か取って参りましょうか?」

 「いや、これで良かろう」


 「え。 ちょっと、兄さん。それだと「正気になるだろ?」


 顔を上げたら、皆さんお揃いでした。

 セイルさんが俺の正面を占めて腰を屈められる。うあ、領主様上着の裾が! 


 「おー、目は開けてるな」

 「ほわ?」


 手には小瓶とスプーン。瓶を傾けると、細い口からとろろ〜〜っと薄い黄金色の液体がスプーンに溜まる。蜂蜜にしては色が薄い。


 あ、水飴ちゃん?


 「一日一回、一匙の薬だ。飲みなさい」


 スプーンを差し出された。 …受け取ったら表面張力とゆー偉大な結界がほーかいしそーなのだが、どう飲めと。





 「う!」

 「それなりに貴重な薬でな」


 「うう…」

 「瓶には戻さんぞ」


 「う、うう!」

 「ほれ、遠慮するな。ごっくんとな」


 べろ、ごきゅっ。


 「な、ななな  なまぐさあーーー!」 


 「魚の肝油だから仕方ないよ」

 「よし、意識がはっきりしたな」

 

 俺の叫びにアーティスが離れた。悲しい。しかし、何か違うと思う俺はおかしくない! あああ、俺の魚油知識は正しかった。証明された! 油違いだったけどなぁあ!


 「虫には与えているのか?」

 「いえ、まだです」


 「状態は?」

 「負担と闇慣れに眠りが多く、目覚めの度に意識が明瞭(精神不安)になっておりますので与え時を検討中です。当初はあまりにも煩かったので」



 セイルさんとギルツさんの続く会話に割り込みます。


 「あの、この生臭い油に何の効果が?」


 舌になんたら施してございますとか、怖いって。






 「光りの射さない場所に長く居るとね、生存の為の活力(ビタミンD)が欠乏するんだよ」

 「欠乏しますと緩やかに塞ぎ込み、心が死を想い始め、突発を誘うのです。弱っている時はその誘いに乗る事もあり。長時間の闇を極めるには根性論ではいけません」

 「陽に当たる事で体内活力(ビタミンD)は湧く。この油は光りの代替品だ。引き籠もりや地下勤務者は、よく陽に当てろと言うのが昔からの名言だ」


 

 …生臭い魚の油。いえ、正しくは肝油(D3)さん。こちらは闇耐性アイテム ではなく、体内光増幅アイテムのよーです。精神向上系でしょうか? …向上じゃなくて、恒常?


 うーむ、精神恒常アイテム。 ……なんだかな?



 光り属性の回復薬は生臭い。

 しかし、その魚臭さが直ぐに素材を理解させてくれるので、安心して口にできます。ふ。



 「それにほら、虫干しは日干しです。光りと風が大事です」

 「え? 虫干しって… さっちゅー   ナンか違くね?  でも、お昼寝健康促進君は偉大だったんだな」

 

 「ああ、あれね。そうです、しっかり活用して下さい。  少しは元気になりました?」

 「ん、落ち着きました。皆さん、すいません。 …生臭さで戻る正気とゆーのは微妙ですね」

 「術に拘るな、が活きてます」


 「わお」


 油様は偉大です。

 大変偉大なので万能薬にも変化されるんです。あの作成はなー…  入れっ放しですネ。



 ゲームのチートな薬師さん、どーぶつせー由来の薬はお作りで? 薬草だけが薬だと、思い込んでやしませんかあ? 作ってないならカンストしてても薬師としてのLevel(知識)は〜〜  ほんとに高いんで・す・かぁ? あははは! 


 ま、ゲーム設定に添っただけのカンストだもんなー。カンストしてたら終わってるから考える事すらしなさそーう。



 「で、君は怖くないですか?」

 「へ?」


 「暗闇は怖くないですか?」

 「闇が   怖い?」



 うっかりボケた。

 ボケたから心配そうな顔された。


 いやいやと手を振ろうとして、上げた手のひらをみる。じっと見る。その手を胸に当てる。質問の意味を考える。



 「記憶に穴がある。それは聞いた。 地下での事を君は詳しく話さない。話したくないのは理解する。だけど、本当に記憶ある? 欠落してない?」


 金髪。


 「漠然とした恐怖が欠落からくるなら…  徒に増大させるだけなら別の療法を試す方が良い」


 金色と蒼の組み合わせは光り属性だと思う。










 牢の通路を歩きます。皆と一緒で大丈夫。中の人と目が合うと、唾がごっくん喉を鳴らす。


 けど、静か。

 こっちを見ても誰も文句を言いません。訴えません、怒鳴りません。話し掛けもしてきません。怖い静けさです。


 怖いので正面を向きますと、 …先を行くセイルさんが空気中に黄金を散布してた。


 此処も向こうと同じで照明は全てを照らし出さない。暗い場所は暗い。灯りの下を歩くセイルさんの金髪が光りを反射して綺麗。そんで、全身からキラリキラリと金の光りが舞う… 



 中の人の視線が散布に怯えてるよーな気がする…  これって、もしやの威圧? 無意識の威圧!?


 綺麗で無慈悲な光りの…  じゃねえ!



 即座に隣を向きまして、目が合ったがそれは放置。歩きながら観察。光ってる金髪は同じ。しかし、全身からの光輝はない。 …少しずつでも貰った事で俺は見える人になれたんか? いや、猫Levelが俺に影響を与えているのか!?


 「どうかした?」


 それにしても、こいつは光らねーなぁ。 …それを言ったらおしまいか。んでもなぁ〜。


 「  ………あそこから降りるよ」



 やべ、思考ばれた。

 いじけた顔、すんなよ。



 なんて余裕は階段を前にすると終わる。足が止まる。


 地下への階段、冷気、付属の暗さ。みえないと恐れるのは当然。持ってるはずのお守り。俺の護符。みえない護符。闇耐性なんてシロモノじゃない、俺のお守り。


 嫌な事には触れない。傷はほっとく。だけど、自分で、理解、してる。してるから此処に居る。選んだ。


 自分の未来を求めて地下へ降りよう、ガッツだ!







 根性は三階に降りたら飛んだ。全部飛んだ。ものの見事に吹き飛んだ。見てはならない雰囲気が見えないモノを見せてくれそう。


 『ココは一体なんですか〜』


 そう言って、ぱらっぱっぱっぱで居たい。わかってても知らない振りに見ない振り、籠もっていてもおかしくない気配が漂うナニかな場所。


 怨嗟にホラーが詰まったよーな場所にはセンサーが反応します。怖がりを舐めて貰っては困るのです!



 こんなトコに猫さんが来るはずない!! あああ、帰りたい。帰還したい。今直ぐ安全な部屋に引き籠もってベッドに転がって安眠してたい。



 「だああ、アーティスおいでぇ〜。おい  あれ? うあ、先に行ったあ!?」


 「…どれか、ご説明しましょうか?」

 「にょー!」


 「遠慮しなくても」

 「聞いたが最後、要らん知識が俺を脅かすだろーーーが!」


 こんな実用品に興奮できる馬鹿ではない!


 「あはは、そんな事言わないで。折角なんだからさ、知識増やそうよ。あれとかどう? 放置が基本の長時間仕様を目的とした「うぎゃーーーー!  え? あれ?」


 「そう、怖くないよ〜」

 「いやいやいや!」


 後ろのリアムさんに救いを求めたら、微笑ましい笑顔で躱された。高度な技術の放置とか!!



 パワハラに似たもんを受けながら、とっととそこを通り過ぎた。逃げるよーに逃げたが次の階段前でまた停止。逃げれない、俺。


 「ほんとに怖くない?」

 「…あ?  ……違う意味なら怖くない」


 隣の策略に乗ってますかね?


 




 四階です。

 やっと辿り着きました。疲れた。


 四階への階段に照明は設置されてなかったので洋灯様が大活躍です。ほんと様々ですわ。 …俺は手ぶらでしたけど。


 カッ  コン。


 洋灯を窪みに引っ掛けますと、それなりに明るくなりました。明るさにホッとします。暗闇が怖いんじゃないといーましても〜〜  混ざってるよーだから…


 「改めましたが痕跡は発見できません」

 「寒かろう? 此処の説明もしてやりたいが、先にな」


 「はいっ! お待たせしました!」


 しゅぴっと背筋を伸ばして手を上げる。

 猫さんの痕跡を探します。足跡を探すのは、どー見ても無理。なので気配です!


 『俺の気配に釣られて出てきてよー♡』


 実に甘い考えですが、実際来てくれたのそんな感じっぽいし。一度あるなら、二度目はどうだ!作戦です。



 ですが最初は、このままで。

 皆さんはちょいちょいと散らばって、気配を断つそうです。一口に断てると言える実力がすっげー。


 「では、光度を落とします」

 「怖くなったら言って、灯すから」


 「…はい、ちゃんと言います」


 ええまぁ、闇は怖くないと言いましたし〜〜  自分で首絞めたかなあ〜〜?  あ、一つだけ残す? 置くのは俺の足元? やっりーい。





 心の中で呼び掛ける。

 姿を思い浮かべ、眼差しを思い起こし、叩かれた衝撃を思い出す。上がった猫手に、顔全体が口で牙な  …おかしいな、鬼猫固定してないのに鬼猫が先に出てくるぞ?


 優しい猫さん、かもーん!

 おられましたら、お返事下さい。此処にいまーーーす。











 応答なし。

 足元から深々と冷えてきました。にゃんぐるみに着替えましょうか。





 



本日の  えー、何にしよ。


プラグインハイブリッド ←こう書くとカー(car)の記載がなくても電気自動車の充電を連想すると思われ。


しかぁーし。


プラグイン=アドインソフト ←こっちでペコピーンとなると、ある意味似ていて違う意味に。かっくちょう〜。この場合のハイブリッドの意味はナンになりますでしょうか?





ビタミンD


D2よりD3。

薬もサプリメントも用量を守られたし。


白夜より極夜。

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