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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
160/239

160 そうして形は

前話で四年目に入りました。思い出す余裕もなかったな…



 


 零れ落ちる光りにお出ましかと思ったが、出てきたのが魚であるのに『はぁ?』と思った。透かさず、アズサが「俺のー」と主張したから流した。猫に魚の道理が何とも可愛らしく、微笑ましいと口元が緩んだ。


 しかし、魚が放つ光りが気に入らない。


 今までの光りと同じと見るのに、生まれる感情。 …自分が持つ感覚を是として、目を眇めて原因を探った。探るのに根性出した。行き着く理解に驚愕し、興奮した。


 理解に、とても興奮した。


 興奮の内に終わった。俺の力が保たなかった。飲んだが未だに回復してない。そろそろ少しはと思うが使い込みが早過ぎて追いつかない。


 視る事ができなくなった時点で、自分の力量にげっそりする。だから、考えるしかない。


 『どうした?』

 『少々、頭が痛くなりまして』


 『…ああ、足りぬか』

 

 さらりと告げられるのに、どうしようもない苦笑いで返す。目の前で繰り広げられる力の祭典。剥ぎ取り、嬉々として食らう姿に羨ましさを感じる… あんな風に食えていけたらと思ってしまう。


 思うが、それよりクロさんへの感嘆(ロマンティック)が止まらない。

 



 

 「〜〜は嫌ですが」


 アズサがお守りを握り締め、願ってくれている。一回で済ますと頑張る意気込みに、『頑張れ〜』と心の中で応援する。他の誰にもできないのだから、応援以外する事がない。


 最後の本音に、『そっちなら大丈夫』と返事をした。



 『手を』


 その一言に、頭の中で花が咲く。


 喜びが身を突き動かし、最小限の動作で重心を傾けて何気なく手を伸ばす。子供の強請りに近しい行為に生まれる微妙な感情は蹴り飛ばす。貰えるのなら貰う、欲しい物は欲しい。


 そしてアズサが見てない、今のうち!



 重ねた手のひらから力が流れ込む。

 強く重い力の譲渡に同質である幸運をしみじみ噛み締める。受け止められない力は毒だ、猛毒だ。単なる力の譲渡が拷問に為り変わる。


 兄さん自身がそれをどう思うか聞いた事はない。ないが、面と向かえば聞き辛くもある。兄弟でも計り知れるとするが傲慢か。 …調整がっつりできるから気にするはずもないかー。あー、羨ましい。


 受けた力が体全体へ回り始めると興奮に酔う。体が活性化する高揚には、どんな時でも酔える。


 宙を泳ぐアズサの黒い金魚とするモノが、振り返り、こちらを見た。無数の魚の目が寄せられては離れる。


 鰭を動かし、風を切る魚の姿。纏う光輝。

 泳ぎ続けて光りを散らす。


 光りを盾と隠しているのが見えた。見続けられるこの幸せ… これを噛み締め続けたい… !


 無力なら、わからない。表層しか見えないのなら、わからない。隠された奥に見える重なる事象を前に興奮するなと言うのが無理だ!


 赤が歓喜に身を捩り、我先にと掴みに走り、輝く。


 「覚ました」との声に駆け出す姿。

 裏付けに得心し、笑う俺は高揚している。最高だ。


 君の守りは確かに力を振るった。そうでなければ、あの力の放出は何だとなる。只、主原因ではなかった。


 君のお守りは推定無罪だよ。



 兄さんと目を合わすと、愉快で堪らない顔が鮮やかな笑みで応えてくれた。本心から楽しそうで嬉しそうで、見てるこっちも自然に嬉しくなる。兄思いの献身的な弟をやってるつもりはないが、事実上やっている。

 あまり見る事のない破格の笑みに、喜ばしい気持ちしか出てこない。この感情に妬みはない。


 知識に貪欲さを見せる兄が満たされる、良いコトだ。アズサのお蔭で俺も一つ勉強できた、素直に嬉しい。



 嬉しさいっぱいで居たらアズサが右へ左へふらついて、膝から崩れそうになったから慌てた。

 手を回して体を支え、隅の椅子を顎で示して持って来させる。よいせっと座らせる。ロイズが準備していた保温瓶から、カップに中身を注いで持ってくるのを受け取った。


 「はい、君が好きな豆のスープだよ。あったまるから飲んで」

 「…お、おおおお。  ふはあーー」


 湯気が立つカップを受け取った顔が輝いた。ゆっくりと啜り出す姿に、これで良し。


 湯がいて潰して漉して作る豆のスープは、君のお気に入り。代われない以上、頑張った後の準備だけはしておきました。





 「帰還するか」


 兄さんの声に気付けば、アズサの周りを巡っていた黒魚達が上空へと向かい、光りの中に消えていく。最後に光りの入り口も消えた。


 「帰還命令は聞こえませんでしたね」

 「力の質が違うにしても、つくづく残念だ」


 惜し気に首を振る兄さんと興奮を熱く語りたいが、また後だ。姉さんが知ったら、「見たかった!」と叫ぶだろう。






 「そうですか…  全く知らなかったと」

 「はい…  知ってたら怖くて居られませんよ!! 生き霊ですよ? いきりょーーーに、しりょーーーー!!」


 恐怖だと語る顔に、少しばかり魚の連中が可哀想な気もする。


 「ぶっ倒れたあの人が気絶赤なら、俺は死にたくないと逃げ出したのを死ぬから!と叫んで連れ戻したコトに…  本当に… 本当に俺がトドメを…  絶望を与えた、のでは、ないかと…   ううう」



 終れば、あんな所に留まる必要はない。


 官吏室に場を移して聞いていた。

 一通り「うんうん」と聞いていれば、「何でそんなに冷静でいられるん?」と不審な顔をされた。



 「あのな、医者や見習いは視えていなかったが視える者には視えたモノがあってだな」

 

 兄さんの言葉を継いで、「魚の姿に隠された本質を視た」と告げれば真っ青になった。


 「俺達は興奮したんだけどね」

 「へ?  …ゆーれーを見たい人?」


 声の震えに怖がりだとよくわかった。しかし、本当に世界が違うんだなぁ…


 「あのさ、君の言う生き霊ってのは〜〜 夢渡りで会えるから」

 「ほわ?」


 「術式で構築してる技術であるから素で同じとは言わない。けど、要約すると同じで良いと思わない?」


 真顔で言えば真顔で見続けられた。口を開けて見続けられた。


 「力量が物を言う。一方的に伝えるだけの場合もあるが、伝達に記憶の維持が夢渡りの特徴だ。当然、生身ではないぞ? 理解してなかったか?」

 「…いえ、それはそのとーりで」


 笑い泣きに近い。いや、泣き笑いか?



 「俺のロマンはどこに?」

 「さあ?」


 かる〜く苦笑して逃げた。そして大事なコトを。


 「死霊は存在しますが直ぐに消える儚い存在です。長くその姿を留める事などありません。留め様がないのです。この身を巡るもの、世界を巡るもの、それが力。


 体と分かたれた力。


 それは形を成して魂とも呼ばれます。そして力は速やかに世界に還るのです。魂は、   の理に従うのです」


 自分の胸に手を当てて語る。

 黙った顔に少しの笑みを零す。君の居た世界とは、似て違うんだね。



 「力がしりょ…  姿を留め。  力が直ぐに さよならを」


 理解に、そうだと頷いた。


 「留めようと願う者もいる、故に技が生まれる。だが、永劫などない」

 「俺も永劫とか永遠と呼ばれるモノを望まない。永劫なる夢など見ない。だけど、技には惚れるね」


 「先に見たあの姿、あれに成りたいかと聞かれれば否だ。それでも、美は感じる。観賞用として欲しい気もするが、まぁ中身があれだからな」

 「散るはずのものが我を保ち、存在する。感嘆を覚えるよ」


 「如何なる術を用いれば、保存を可能とするのか? 興奮しない方が異常だと思うぞ? ん?」


 兄さんと二人で腹の底から感じた興奮を話す。次第に声が熱を帯びるのは仕方ない、本当に興奮した。今もしてる。


 「み、皆さんもご覧になられ… ました?   ほんとに? 魚の中身ってゆーか…  内側っての見えました?」


 揃い立つ並びから素早く送ってくる視線に、直答して良しと頷いた。


 「はい、居合わせた幸運に感謝を。視る事は個々の力に左右されますので、自分達の間でも詳細は区々(まちまち)になりますが」


 ギルツが答える姿に誠実と違いを見る。

 口調は然程変わらないが、慎重さに柔らかさが加わって完全な下手になった。落ちた。この変化に、『クロさん、良い仕事を有り難う!』と心の底から感謝する。


 破砕は力比べの一言でも終われるが、あれは心臓を打つ。打たれて響かぬ者など居ない。力を有して響かぬのなら死んだも同然。



 「あ。 ごめん、説明不足。死霊みたいなもの、は存在するからね。完全な皆無ではありません。君が言う、ゆーれーに該当するかは不明ですが居るのは居ます」

 「ぶっ!?」


 「自分達はそれを死霊みたいなもの、もしくはもどきと呼んでおります。みたいなものと死霊は完全に別物です」

 「ひああああ!」


 ギルツの補完に叫んだ(ムンクな)顔が印象的だった。

 

 恨み辛みを吐いて最後を迎える者が多ったのかな? そーゆーのばかり見てきたのなら不幸だ。 …君が大事に思ってるお姉さんが、嘆いてそうならないと良いな。


 「この世に留めたいと願う気持ちから技は磨かれる。しかし、そこには犠牲と呼べる事態も偶発と言えるものもある。


 魔具の劣化の話をしたな。あれと同じで崩れゆくものだ。形が崩れるが故に押える力に引っ張る力、留めようとする外部因子と粘質的に結びつく事で崩壊を防ごうとする。形状的には塊が一番安定するのだろう。それがまた同質を惹き付けて、一つよりは二つと安定を求めて会合を重ね、次第に違うモノへと変貌を遂げていってだ」


 「いやぁあああ! むげんぞーしょくうううう!」


 足元で伏せるアーティスが驚いて体を起こす程度には心配だ。そろそろ止めないと。


 「混ざり合うと汚らしくと言いますか… 最後は黒の泥濘ぬかりと言って良いかと」

 「うにゃあああ! コールタールのスライムーーー!!」


 「……叫ぶ割には楽しそうだね? 知識が増えると良い顔になるよね〜」

 「そこ、和まない! 違うから、違うからお前が止めろよぉおお!!」


 ガタンッ!


 怒って叫ぶが色々尽きたよーだ。


 「ぅあああああ… 」


 アズサがへたったから終了。先に出来なかった紹介をしておこう。やらないと哀れな奴から苦情が出るから、指で呼ぶ。顔が輝き、礼を取る。口上を述べ始めれば、シャキッとアズサが引き締まる。



 …ナンだな、最初からガツンとやられると挨拶からして違うな。


 「兄さん、後をお願いします」

 「おう」


 了承を得て、わーいと思ったら姉さんへの第一報告を任された。がっかり。







 「はぁ〜  ご飯は食べた。風呂も入った。後は寝るだけだが隣は帰ってこない。まだ帰らない… リリーさんへのご説明… うあーー、俺に説明を振られても困るから頑張ってくれー  俺は知りませんでしたあ〜〜 ほんとです〜〜」


 一人、ベッドでゴロゴロしながら無罪を訴えてもだーれも聞いてない。真実味も薄いねー。


 現実を考えたくない。それでも明日はお見舞いに? 

 

 「あなたの魚…  あああ、キッツ〜。赤金魚… 赤は全体の三分の一だった。それが全部消えた? まじで?  だーーー、色的にはすんごく寂しい!


 あーー、思考がおかしい。クロさーん、どっからあんな数を揃えたんですかぁあ? うああああ、聞き出し方がわかんねーーーー!」


 クロさんと金魚。 


 どっちからも聞き出し難い… 気絶赤の人が説明するだろうから、そっちに期待してもいーかな?  もう明日にしよーかな? そうだ、俺のメンタルの為にそうしよう!



 「…眠気がこないー、寝てろと言われたのにー」


 今日は色々ありました。部屋に居たら始まらないのがよくわかります。思い返すものが山のよーにできました…


 「そういや変なの思い出したっけ」


 記憶を探っても、着心地がおかしくてがっかりした記憶はない。いつも通りない、それを進めるとだ。  


 「ココの記憶…  入手したのは布の服(品質・下)… うーむ、実にゲームの定番を歩んだのだな!」


 穴のある俺の記憶、思い出すのが怖い記憶。


 「なーんでポコッと思い出す? 怖いから思い出すのはおかしいはずだが…  まさか… まさか俺は思い出したいのか!? 思い出す程の心残りがあったのか!?」


 きゅぴーんと閃いて、勢いよく起きる! 


 「……待て、俺」

 

 よく考えるとあっとゆー間の帰還だったはず。あまりの無意味さにバタッと寝直す。


 「…心残り。あるのかそんなもん? 何か伝えたかったとか?   …苦情? 文句?  他に思いつかねーなぁ」


 ぐだぐだ考えてもわからんまま。そろそろ寝とかねーと隣は煩い。いやいや、子供じゃないしさ〜  へたったのはホントでも、子供に言う感じで言わなくても〜〜 


 そうか!こーゆー感じの文句を言いたかったのか!? そーだ、大体あいつはだ!



 カチャン… 


 「!」


 突然のドアの音に心臓がドッキン跳ねた。そのままソッコー狸寝入りの術を発動!! 忍び寄る気配を無視!!



 「……灯りを点けたまま? 明るいと寝難いと言ってたのに」


 しまった! そんなん言うんじゃなかった!!


 「…怖かったのかな?」


 そうそう、それそれ!


 狸寝入りの術が見破られそうな気配が怖い。息、落ち着け〜〜。違う! バレるから呼吸を変えるな!!


 「着替えるか」


 よし、今のうち!

 ゴロッと横向きになりま〜す。





 灯りが落ちてからも暫く様子見。

 それから、静かにホウッとね。背中を向けて寝ている姿に、帰ってくるタイミングが良過ぎなんだよ!と怒りたい。しかし、そんなん八つ当たり〜。


 そして狸寝入りの内に捏ねくり回された俺の思考は、究極の結論に辿り着いた。天井を見ながら再思考しても突破口が見つからない。


 「思い出した時、俺は生きてるのか?」



 滑り出た言葉。

 暗い中、黒い塊が見えそうな程に正しく思えた。


 思い出す事実は蓋が閉まってない事実。気付いた事に目を閉ざすと後でツケが回る。  …もう一度、蓋をキツく閉めよう。傷口には触れない。それで行こう。この先、思い出す事があっても完全にスルースキ「どーゆー事ですか? それは」


 バサッ!


 「…うえ?」


 冷め切った声に身動ぎ。

 腹に掛けてた上掛けが行方不明で部屋の灯りが点いて、あっかる〜〜く。眩しい。

 

 隣のキラキラが寝てなかったって酷い。寝入ったのがフェイクって酷い!





 「だから、どーして君は説明をしないんですか!」

 「だから、説明に至る前に心の整理をしててですね!」


 「では、説明を!」

 「それが怖いから考えないよーにとですね!」


 「話が先に進まないですが!」

 「傷口に触れないで進もうとしてましてね!!」


 ベッドの上、胡座と正座で言い合いした。身振りに手振りを加えるからリズミカルにやってた。興奮とも言う。


 「いー加減に少しは信用してくれてもいーじゃないですか!」

 「信用も何もそれ違うーー! お前なら少しは把握したーー!」


 「えーーーっ!?」

 「そんな疑い深く言わなくてもーーー!  お前のほーが信用してないでしょーがああっ!」


 「そんなはずありません!」

 「それ、うーそーーー! だってお前、引き摺り込むだのナンだのゆーて上げ落としを繰り返すでしょーーが!」


 「はああ!?」

 「俺の気分アゲをしてくれてるけどさあ! 反応見る事でしなくても良い確認をずーーーっとやってるでしょーーーが! 他人はどーでも、俺を誤摩化せると思うなよーーーー!」


 「俺が何を誤摩化そうとしてると言いますか!」

 「心配とゆー名目で確かめ続けてるってーのは、俺が言ってる事を信用してねえってコトでしょーーーが!! お前のほーが俺の言い分を心底信じてないじょーたいじゃないとでもぉおお!?」


 欲求不満を一気にぶつけたら、込み上げるモンと息切れがすんね。


 「「…………… 」」


 フリーズしたから突っつく。いや、一番の俺の蹴りを食らえ! 

 

 「お前さ、自分の不安は話さないわけ?」

 





 「不安…  不安? 俺が?  不安からの不信を?  えぇえ? 俺があ?   いや、失う不安はありますよ? 確かにありますけど話さないなんて言うのはですねえ」

 「ちゃんと居ますよ?」


 正面切って見てた。

 互いに自分の言い分が正しいと睨んでた。睨みに腹立つから繰り返した。


 「俺は、ココに、居ますよ? どこ見てんだよ」


 吐き捨てる程度に言ったら、ヤバかった。蒼い睨みが一気に増した。言い過ぎた感がゴスッと襲ってきて内心ビビるが引っ込みがつかない!!   …いーや、引っ込む気はない! 弱気になんなぁ!!




 「そう」


 …あああ、終わた。やっと終わた。疲れた。



 沈思に沈む顔は無表情。

 内に内にと沈む。


 沈んでも変わらない蒼が見えなくなったから、黙って見てた。待ってた。



 飽きた。



 ぼすっ…


 正しくベッドを使ったら、目が合った。そしたら誰かさんが剥ぎ取った上掛けがオートで戻ってきた。それから、隣も黙って寝そべる。手の一振りで灯りが明滅して一段階光度が落ちる。 あー、俺もそれやりたいー。


 明るさが落ちていく中、話し始めた。


 「えーとですね…  えー…  君が突然居なくなるのは怖いです」


 ホッとした俺ってヘン?


 今日一日の終わりに他人の本音を聞く。うだうだぐるぐる考えて寝るより良いでしょう。人の話を子守歌に寝ましょう。だって、お前が言ったじゃん。寝る前に考え過ぎるなと。俺には向いてないと。




 「なので、それらを踏まえると過失からの臆病を否定できません。無意識下にあると言われ る   あ?   ま、さか   …起きて、る よね?  ……ひ、人に語らせておきながら寝るとか。うっっわ、ひっでーーえ。   うああああああ。  ほんっとーに猫だね、君はぁ  く〜〜!」


 気持ち良さげに、すかーーーっと寝てる顔にやられたと思う。小っ恥ずかしい気持ちを抑えて言った事も聞いてないとか!! 何時から寝てた!?


 薄明かりの中で見る寝顔に湧き上がるモノがある。ふつふつと込み上げる何かに自分を知る。自覚の内に落とした何か。



 「はぁあ…  最初は起きてた、確かに起きてた。うん、聞いてた」


 眺める寝顔の安眠さに話した事が良かったのだと思うと、甘んじて受け入れるしかない。しかし、肝心な事を聞けてない。 …起きろと揺り起こさない俺は優しいはずだ。


 落ち着け、だから落ち着け! 俺!

 ナンかの予行演習をしたんだ。それだけだ。 …そうだ、今を楽しもう。この事態で楽しめる事を楽しもう!



 完全に灯りを消し、普段よりも近くで寝る。思いっきり寄る。足を伸ばす。


 「よっ… と。 お、涼しー。あー、涼し〜」

 

 回復の為にも良質の睡眠を求める。 お休み、俺も気持ち良く寝るよ。苦情は受け付けない。









 本日のちび猫遊び。


 『術式の破砕』

 爪と牙で行う崇高なる遊び。傲慢の諌めに最適。


 狩り、興奮、逃げ足、遊び心のレベルアップに繋がります。




 『必勝、猫祈願』

 祈りを覚える崇高なる遊び。音を立てて遊ぶと気分が上がって、より効果的。必勝とは気分を上げる最大の文言である。


 集中、祈り、運、遊び心のレベルアップに繋がります。




 本日、爪と牙の使い方を勉強しました。また、判断に伴う心痛の軽減を模索しました。相乗効果で猫としての自信を大いに深め、自分で心の幅を広げる事に成功。


 精神向上力アップ。追求力ダウン。

 new!鈍感。 力に対する危機感が低下した。

 new!安全地帯の感知。 状態異常でも、移動する安全地帯(ハージェスト)を感知できます。(近距離限定)








 今日のお天気は良いですね〜、晴れやか気分に猫の尻尾が揺れますよ〜。


 「うにゃーん」

 「じゃあ、クロさんによろしく伝えてね」


 「ふにゃあん?」

 「…金魚作成のご教授を頂けたら嬉しいですが、実地体験はまだ遠慮したいとお伝え下さい」


 「ぐにゃーーーー(誰がさせるかあ)!」


 飛び跳ねて怒っといた。笑うのに、全くもうですよ!



 「昼には着替えてて。クロさんが来られても良い様に人払いはもちろん、リアム達にも注意させるから」

 「にぃ」


 ハージェストのお出かけをドアまでお見送り。お澄ましで付いてく。ドアの前に来たら、いってら〜で足元をチョロチョロする。


 「ああああ!」


 歓喜の声に猫抱っこ。

 頬摺りされてから床に降ろされる。手を振るのに「にぃい」と答えてドアぱったん。足音が遠ざかってまたドアの開閉が聞こえた。


 「にー」


 再度言う俺って、なんて気遣いさん! なんつってー。 にゃふふ、朝一の約束を考えるとこれっくらいはね〜。にゃふふふふーう。


 さぁ、昼ご飯までクロさんとお話ししましょう。



 まいるーむ、かもーーーん!


 シャイニングカーペットを上ったら、黒い毛並みに突進だーーー!







 頑張ってみたが俺にクロさんの攻略は難し過ぎた… 


 無理ですよ。「どうやって金魚にしたの?」も、「何時から始めたの?」も、yesの頷きで終わってしまう…


 そんで、黒金魚達に戻る体がないのが確定した。そん時の、にい〜〜っと口を引き上げたクロさんは獲物を捕らえた猫だった。映像に残せないのが惜しい猫笑顔。


 「もしや、クロさん…  金魚にする為に 殺した…  と、か?」


 恐る恐るの質問に、笑顔のnoが返ってきたから気が抜けた。本気で脱力して猫尻ぺったんした。


 「そっか、偶々だったんですね。運悪く… いや、良いのか? 見掛けたから金魚にしちゃったんですね」


 笑顔でnoが返ってきた。




 この攻略、本気で俺には無理です。死と金魚の因果関係の追求は辛いです、特に今は。


 昨日の事実が心に響いて痛いんです。速やかに還ると告げた顔。


 皆さんが見せた顔。

 情報の興奮に素であろう顔はイイ顔してた。ギルツさんの笑顔があんまりにもナチュラルで驚いた。


 あの説明なら遭遇したコトあるんでしょう。



 この手の話は黒い淵を思い出す。

 ぼんやりとした記憶の中から自分の悲鳴が聞こえてくる。声にならない心の叫びが心臓を締め付けて、胸が苦しくなる。


 溶けて流れて広がって、散っていく… 



 なんで忘れてしまえないのか?



 ちび猫は頭をシェイクします。ぶるぶる震える前に自分で振るのです! んでもって黒の毛皮に猫頭をグリグリして消す。そう、猫頭は消しゴムなのです! いえ、違います!!



 本質が見えた。

 んじゃあ、速やかに還るのも見えるんじゃ?


 強制の約束? それとも循環? 速やかに行われるのに本人の力が加算されたら、そんなん逃れようもへったくれも…


 セイルさん…   確実に、セイルジウスさんは。



 だから、消しゴムーーー! この消しゴムは自分の為にある。人の為ではない!!




 思いっきり、猫ブルブルしましょー! 体も振りたくって気持ちに見切りをつけて、いやっほーーい!


 すてててっと行きまして、金魚プールを覗き込む。どぼんと泳ぐと頭も冷えて良いのかも!!


 どぼんっ!


 「うりゃーーー!  猫泳ぎ、猫掻き、猫の〜〜  あぶぶぶっ!」


 自分プールで水飲んで溺れるとか!



 ゆっくり泳ぎに変えると黒金魚達が寄ってくる。ほんと黒金魚ばっかりになっちゃったね〜〜。


 「赤金魚は残ってない…  寂しくなったな〜   いやー、酷い本音ですねぇ。 あ、戻せじゃありません! 違いますよ、クロさん! 増やさなくていーですから!」


 焦って訂正入れといた。

 プールサイドから覗き込んでるお顔が『そう?』な感じ。幽体離脱し続けて死んじゃってたなんて聞きたくない。


 すい〜〜っと猫泳ぎしてたら、足場を発見!


 「ありがとー」


 クロさんの目がとっても優しい。





 優しいクロさんに、この先、金魚作成をお願いするんだろうか?


 今朝、食事の席でリリーさんに「見たかった!」と言われた。「聞くだけで興奮して寝付けなかったわ」とも言われた。それから他にも話をした。軽くサラッと流れたが、『殉職』な言葉を知った。



 色々思いますよ、ええ。



 ぱちゃん!


 飛沫が上がれば、ご飯ちょーだいの水面ぱちゃぱちゃ状態。 …俺を取り囲んで、その場でバタ足? 違う! 上下入れ替え水中演舞か!


 なんて気遣いのできる金魚達!


 お兄さんの話はしたが魂の契約をしたつもりはない。掛け合ってみる?って聞いただけで、雇用契約にもなってないはずですし。クロさんとの間でなら… それは個人間で良いんじゃないかと… ですよねえ? ですよねぇえ??


 魂なんだから、約束したなら魂の契約だと言われたら泣くーーーー!




 「クロさん、上がります」


 お手振りで、プールの側面からキラキラが噴出して突起物ができた。手摺りのない階段なった。ひゃっふーー!


 「ただーいまっ です」


 再びのお手振り。そしたら階段が消えずに側面から切れた。切れて板状になったのが、上から順番にぐいーんと中央へ移動。速度に従い揃ってく。


 ふわふわ浮いてる光の階段。 …空中階段。踏んだら沈んで、ふよんと持ち上がりそう。


 「…は! クロさん、まさか!」


 クロさんが深く頷かれ、お手振りされる。新たな遊びに期待でいっぱい!



 「うひょおおおおっ!」


 何と言う事でしょう! ぱたたっと階段が連結して滑り台(ウォータースライダー)になったーー!



 「きゃ〜〜〜〜〜〜!」


 どぼんっ! 


 「ぷはぁっ!」


 遊ぶなと言うのが無理です。遊んでなんぼです! ほら、金魚も寄って来てるーー!! わーーーーい!


 そんで、プールん中で気が付いた。 どうやって登ろう? 爪立てたらイケるかな?



 「あ、はーい」


 クロさんの手振りから滑り台の前で立ち泳ぎ。滑り台にぺかかっと横線が入ったら、連結がぺぺぺっと解除されて階段に。

 

 「ふわーーっ!」


 ふわんな階段は上るのも面白い。



 「すべりだいーー!」


 俺のお願いにオートで変化する、この素晴らしさ!


 「いにゃっふーー!」


 滑れば光りが潤滑油。猫体どっこも痛くない。



 だっぱん! ばしゃしゃっ…

 

 飛沫と一緒に黒金魚も跳ねる。なんて楽しい!



 


 「くはー」


 遊び尽くせば、心地良い疲れ。


 それにしても、俺のプールはどんどん進化していくな。金魚鉢と言ったのが遠い昔のよーだ。見た目は子供プール、しかしその実態は底が知れない異次元だ! あ? まいるーむ自体が異次元な…  プールはオプションなだけですね。


 猫ブルブルしたら光りの水が飛び散って、床に波紋を広げて消えていく。これが魂を維持してる。保存してる…  保存液より天上の聖水のほーが聞こえが良くない?






 「クロさん、金魚を外に出して大丈夫な距離とか時間とか目安はないですか?」



 すっきりしたので金魚の勉強をします。クロ先生のご教授を受けます。


 お手がちょいちょいと振られると、キラキラが降ってきて形が生まれる。そこに光る水がちゃっぽんと溜まる。はい、光る水の入った金魚鉢(極小)の出来上がり。

 

 次のお手振りで黒金魚が一匹、鉢にぽっちゃん。すい〜〜っと鉢の中で泳ぎます。


 「あっ!」


 鉢の底から光りが零れて、そっからすぽんと飛び出ちゃったよ!


 「白のテガタが! 俺のぺっちが出たーーー!!」



 安全圏から出たら俺のテガタが浮かび上がる。戻ったら消える。

 

 「浮かんだら、金魚の危機なのですね!  …え、違う?」



 教えを読めない生徒ですいません…  とりあえず、少しずつ範囲を広げて確認します。まずは部屋に連れてってみまーす。







書いた通りですが、質問いきましょう。



心配の根底には、不信がある。

間違いなく「人の話を聞いてねえ」ではなく、「人の言うコト信じてねえ」です。


気付いたあなたは、どうします? 


この質問の回答を選択制にするのは微妙ですね。




みたいなもの。

説明に至り、安堵。




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