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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
158/239

158 赤い形


 


 「落ち着いた?」

 「…だいじょーぶですよ? ええ」


 「それなら、行きましょうか」

 「はい!」


 さぁ、午前中からずーーーーっとお待たせしている仕立て屋さんに会いに行きましょうか!!






 ロイズさんの案内で向かった先は… 花籠の部屋でした。

 あー、服でこの部屋か〜。やっぱこの部屋か〜、どーしてこの部屋なんだと思うのが間違いか〜。は、上書きもしんどー。



 「構える事ではないのよ」

 「そうだよ、君に服を買う。それだけなんだから」


 「なぁに、この前と同じ事は起きん。怖い事などない」


 「………はい」


 そりゃまぁ、上の三人が全員集合ですから怖いものはないでしょう。いやー、まさかセイルさんまで一緒に来てくれるとは思いませんでした。



 ロイズさんが目で問われるが視線は止まらないから他を回って、あっさりドアオープンで入室となりましたです。



 

 入室の順番は決まってます。

 俺が先頭とかない、その方が楽。あったら怖い。


 そーんなつもりもなかったんですが少し歩みが鈍ってたっぽい、ハージェストがこっち向いて待ってた。はい、隣へgo。



 最初に迎えてくれたのは、クライヴさん。それから壁際に一列で並んだ仕立て屋さん、数名。その前にメイドさんずの双璧。その双璧の前にステラさん。


 居たのがクライヴさんなトコロが、ほんとにもう用意周到で!



 …ダメだ、のーみそを固めるな! 当番制でリアムさんはお疲れだ。残る二人のどちらかだとしたら、クライヴさんに思うところがないと考えるほーがおかしい!!


 よし、これは終了。



 皆さんの頭を下げてのお出迎え、何度見ても素晴らしい! 普通ならそっち側にいるはずの、なーんもしてない俺も偉くなった気分になるからアゲアゲのアゲがいーですね! 皆で俺の気持ちをアゲてくれますねー!! 何時もの礼儀なんてツッコミはしなーい。


 罠に見えない罠も罠なのかわからないが罠もあれだ! うひゃひゃひゃひゃ、見慣れて見切った罠は解除できるぜーーー!   な、はずだ。怖くない、怖くない、怖くな〜い。 よし。  …話は始まってたけど気にしな〜い。



 

 「長く待たせたか」

 「いいえ、縫いの話に花が咲き、楽しく話しておりました。一時の休息をありがとうございます」


 「は、お心を煩わせる様な事は無く」


 最初に返事をしたのはステラさんです。次がクライヴさんです。ステラさんが上。上! ステラさん、すげー!


 

 あれよあれよと誘導されて、椅子に座ります。そして壁の花をしてた仕立て屋さん、お一人呼ばれて紹介を受けました。お初のお顔でございます。


 さぁ、頑張りましょう。ココが俺の踏ん張りどころだ!



 「この度はご注文を賜り、有り難うございます。体調を崩されたとか、図々しくもお待ちさせて頂きましたが、もう大丈夫でいらっしゃいますか?」

 「あ、はい。大丈夫です、長くお待たせしてすいません」


 「いいえ、とんでもない! 良くなられて何よりです」


 身構えつつも、仕立て屋のおじさんと和やか〜〜に話をしてみた。壁際にいるのが奥さんとか、話題にそっちを見ればおばさんが深々と頭を下げられる。


 周辺を固めて来たかと身構えるが、おじさんの明るさにあれ?


 「ご注文通りにお作りしました。一部は大まかな指定のみでしたので、自分が選ばせて頂いた生地もございます。お好みであれば良いのですが。さ、どうぞご試着してみて下さい」


 満面の笑みに、より一層あれ?



 「違うわよ。ほら、他にも頼むと言ったでしょう?」

 「…あー!」



 言われて、のーみそ動き出す。


 そうだ、別にも頼むと言ってたよ! んでも、『跡継ぎが嘆願してて服作ってくる』って!  …固まってたな。だって確実に跡継ぎさんから、直でヘルプコール鳴らされるんかと思うと「うげえーっ」て。

 

 だーー! あのオーナー爺さんの跡継ぎって、この人じゃなかったんか! 年齢的にそうだとばっかり… うっわ、態度悪くてすいませーっ! どーして皆さん言ってくれない!?



 想いの丈(不満)を込めて、ギリギリと隣を見た。


 にこ〜っと笑う顔に俺の手が自然に持ち上がり、相手の首に向かって絞め  違う、ぶんぶん揺すりたくなった。しないけど。自制あるし。うん、まだ大丈夫。 


 この場では〜 しませんよ〜 そーんな 危険な 怖いこと〜〜。



 おじさんには、てへっと笑っとく。





 「お手伝いを致します」

 「いえ、大丈夫です。必要な時にはお願いします」


 即席の試着室前でピシッと決めてるマチルダさんにノーサンキュー。目礼しつつも、なーんか言ってるよ〜で言ってないよーな顔してた。深く考えない俺は逃げてない。きっと逃げてない。だって言わないんだから、わかんなーい。ふは。


 ステラさん達が検品してくれた服が入った籠を貰って着替えです。

 

 一人入って籠を降ろし、布をペッとして中から取り出して広げた服は、着るにも全く困らないふっつーうの形でした。襟元と胸元に刺繍があるだけで他は特にない。フリルとかリボンで盛り上がってたんで怖かったんですが杞憂でしたね! 


 「よし」


 新品に袖を通すと生地が違います。

 当たり前に古着屋での触り心地とは雲泥の差です! ふんふんと気持ちよく着替えてたら、いきなりのーみそおかしくなった。


 『未使用の新品なのに着心地イマイチ、あ〜〜 あ』


 なんでかこんなん出てきました。

 間違いなく新品の未使用を着たとゆーのに、なーんでこんなん出てくんだ? あ?


 服を見て、手を見て、体全体を見て、着心地を確かめ直して、どっこもおかしくないのに頭ん中でぐるってるイマイチ思考に困惑・惑乱・らーんしん! 


 ……別にのーみそおかしかねーなぁ?



 「どうかした? 合ってない?」

 「へ?  あ、着た着た。今、出まーす」



 シャッ


 カーテン捲って待ってた顔に、ニッと笑ったら普通に笑い返してくる。


 その顔。

 笑い返すその顔に、同じで、違うナニかを見た。どっかのナンかが違う、同じ顔。しかしそんなんあるわけねーだろと無視して靴を履…    履こうとしたら、カーペット敷いてあった。一人幅のファッションモデルさん専用道を作ってくれてた。


 メイドさんずが仕事してますの良い顔されてて、うわーお。


 「このままで?」

 「「 はい、どうぞお通りください 」」


 すげー贅沢。

 


 「こんな感じです、どうでしょう?」

 「ん、良いね」 「普通だな」


 「寝間着からね」

 

 「へ?」


 ……ええ、そうだと思いましたー。普通に寝間着ですよね〜。 …寝間着の着心地がおかしい時点で服としては終わってんな。ズボンの寝間着で良かったよーん。


 「着替えまーす」


 寝間着の披露はさっさと終わらせて、次は普段着でーす。きっと。


 そう思ったらリリーさんに呼び止められた。御前に行って一回転要求にお応えして、ぐるりんぱ。生地に触れられ、頷かれ。解放に、試着室に戻りました。クライヴさんの微笑ましそうな顔に、ちょっと恥ずかし。


 区切りのタオルを取っ払い、次に取り出した服は…  大丈夫だ、着れる!




 「うん、似合ってる」 「色目も悪くないな」


 「後ろも見せて」

 「はーい」


 普段着だったんで、モデルさん道を歩いた後に靴も履きます。でないと全体的に締まらんし。


 ちょいと腕を上げて下げて〜 言われるままにワンターンを決めてみたりぃ〜。ええ、今度は大きく決めました。決めれますとも!



 夏の普段着、上下一式に靴下。それと寝間着。パンツと肌着は見せませーん。そして、手袋! 新しい指先カットの革手袋!!



 「黒革より、こっちが良い。はい」


 ハージェストが革手袋を差し出してくれたから、出来たんだと大喜びしましたよ。


 革手袋だけは、ステラさんが一人で検品して別置きにしたそうです。すんごく気を遣って貰ってます。ステラさんにお礼をした方が良いかな? 本来の仕事以外の事をして貰ってるんだけど、リリーさんに言われてしてる仕事なら〜  ん〜  有り難うだけで十分かな? でも、ロイズさんもな〜  はは。


 「問題ない。してみて」

 「ん!」


 皆が見てる前でしたが、レースの手袋を外して嵌めました。ええ、皆さんが見てた。まぁ、この面子で気にしてもねー。


 「レースの分も此処でね」

 「あ、このおじさんのお店で?」


 「はい、当店でございます! 何かございましたら、お繕いも致します」


 笑顔のおじさんは近づいて来なかった。返事をしつつ、徹底に感動〜〜 するトコですよね?



 ギュッとしてグーパー。


 「どう?」

 「うん、カットの長さもバッチリです!」


 おじさんの満面の笑みがすごい。不安が払拭された、すんごくいーい顔されました。


 その顔に、ひーふーと脳内で日数計算してみる。


 問題のあの日から、確か今日で〜 六日になるはず。午前中に持って来れたって事は昨日までにはできてた。昨日の内にできた連絡してくれたんなら〜〜 実質作成日数は三日か四日? そんなに早くできる…  そーですね、何人掛かりで仕上げてくれたんでしょ? それにしても、革手袋の縫製に感動。



 感動してる間、ハージェストがしてくれた。


 …こいつの量は足りてるんだろか? 回復したのを片っ端から使って回復が追いつかない状態じゃないかと思うが、「後でいーよ」と言えない自分が悲しい。無理させてんじゃねーかと思ってても〜〜  やっぱ嫌だし。 


 俺のガードで、魔法な本で、秘密の秘密の〜  命綱。



 マジックグローブに進化を始めた革手袋が、手の熱以上にあったかい気がする。 …思い込みが為せる業でないと良いんだが、そこら辺わからんし。こいつのちょっぴりもよーわからんし。


 早く違いがわかる大人のゴールド   ゴールド…  ゴールド〜〜  ゴールドの後が出てこなーい! ピンとくるもんがこなーいっ!



 「はい、良いよ」

 「ありがとー」


 「良かったわ」 「家の中では良いが、外に出るならやはり心許なかろう」

 

 革手袋をすると、レースの防御がペラッペラなのがよくわかる。ほーんと心許ない。けど、蒸れないし。


 「今日はもう充分にやってる、多過ぎかもしれない。明日は止めておこう」

 「え、多い? 危ない?」


 「さっきの遊びの影響も含めると、ね?」

 「あー、多いね」


 理解に頷いた。


 …命綱ってか〜 俺の黄金の賢者像を拝むべき? ……ふはははは! 賢者になるには魔力がちっとも、ございませ〜〜ん! こいつは賢者該当してねーな。賢者の概念が違いますかね〜〜、はははん。

 

 「…ナニかな?」

 「いえ?」


 要らん事を考えてたのがバレたらしい。体をちょっぴり傾斜させたら、よりバレた。 …そーゆー顔して指を動かすなっての。





 「次はこちらになります」

 「あ、はーい」


 

 メイドさんずの傍のテーブルの上には、もう一つ籠があります。検品済みの誰も触るな布が被せてあるから、こちらも中身は見えません。リリーさんが「着てみてのお楽しみね」と言ったから誰も取らない。


 その籠をステラさんが「どうぞ」と示してる。



 そこでナンでかおじさん頭を下げて、壁の花をしてるおばさんの隣に戻ってった。どちらも笑顔で仲良さそう。そしてステラさんの手招きで新たに前に出てきたのは、そのまた隣に居たにーちゃんです。緊張してんのか、傍からわかる位にドキドキな顔してた。そのにーちゃんをハラハラな目で見守る壁際のねーちゃんが、二人。


 …あやややや〜〜?


 「こちらへ」

 「は、はい!」


 ステラさんに促され、近寄って勢いよく頭を下げたにーちゃんは叫んだ。


 「この度は真に申し訳ありません! ご不興を買う事を承知で、どうかお聞き頂きたく!」


 

 あ、やっぱ居たんですねー。おじさんトコの人だと思ってたんですけどねー、半分は。あの爺さんの跡継ぎって息子じゃなくて孫だったんだー。 …いや、遅生まれの息子さん? ところでステラさん、籠を取りに行くかと立った状態でフリーズするのって大変なんですけど。



 「嫌よ、後にしなさい。煩わしい。それとも持って帰りたいのかしら? それならそれで良いのよ、始めからさげたいのなら持って来なくて良いわ」


 リリーさんがザクッと切った。

 白けた目をするおねーさまは怖くて口出しとか考えられません。いや、どこにそんな勇者がいるの?



 「新しい服に喜ぶ顔をみたいと思って部屋に来たのよ。それをなぁに? あなたの悲壮な顔を見て楽しもうと部屋に来たのではなくてよ。誠実であるとしてもダメね、なってないわ」


 座りの並びも入った順。

 リリーさんの左右にセイルさんとハージェスト。男二人は何も言いません、どちらも薄く笑うばかりで動きそうにありません。役に立たないのか、立つ気がないのか?


 …どっちでも動きそうにないね。



 では、誰がこのカオスでもないブリザードを止めるのですか?  …俺? 俺がすんの? えー、そんな。にーちゃん頑張れ、現状は自分で打破しろよ! 


 俺にやったのはアナタではない、それだけは間違いない。しかし、やったのはあなたんトコの社員だ。社員教育が悪いのだ! …教育って、教える側の教育とゆーのはどーなってんでしょ?   …最終、転職ですかね?   …転職繰り返して職歴欄が真っ黒か、潔く端折って真っ白か? それに対して採用者の赤ペンかナンかが?


 ………就活に向けての履歴書とゆーのは〜  は! 今、違うだろ! そーだ、書類送付じゃなくてデータ送りとか! あ、のーみそ動いている〜。 …違うって。もうあっちとか関係ないって。





 グッと堪えたにーちゃんが過呼吸で倒れませんよーにと祈ってみるが、そんなに柔じゃないよーですのでイケそーです!


 にーちゃん、頑張れ〜と心の中で声援を送ってみる。


 みるが… バイト君なんてしたことなさそーな、キツい言葉を掛けられたこともなさそーな、如何にも〜〜な、お坊ちゃんの雰囲気を出してるにーちゃんに「このブリザード化した空気を何とかしてくんねー?」と頼むだけ間違えてそうな気もする。けど、俺より年上だろ?



 「あ… お心に添えず、気を回せず…  も、申し訳ありま「ほんと、そういうのを今は欲しくないのよ。どうしてわからないのかしらね」


 リリーさんが更にグサッと突き刺した。


 あうあうとは言わないが、言いたげなにーちゃんにダメージが蓄積されてってる。顔が赤くなってんのは血が上ってるからでしょーか? 羞恥心かパニクッてんのか? それとも実は短気なんか? 怒るのを堪えてんのかあ〜?  …だいじょーぶか? ここで領主様ご家族を罵ったら〜〜  どうなると思ってるよ?



 「じ、自分の態度がなってない事につきましては ほんと…  うに、「はあぁ」


 頑張ろうとしたにーちゃんの意気込みは、あからさまなリリーさんのため息で打ち消された。そんでにーちゃん黙った。俯いて〜 ぐるぐると〜 考えてるっぽいとゆーかぁ〜〜  あ、にーちゃん頑張る! 頑張れ! 頑張ってみせろ!!


 「自分の勉強不足につきましては、如何様にも! ご叱責も全て甘んじてお受けしますが、どうか家と家の者達には慈悲を願います! 皆は良かれと思って行っただけで悪意など決してありません! 気持ちを汲んでやって下さい! 歩んで来た人生の中から、経験から、そこから生じた気持ちからの行動なのです!」


 「あら、そちらに悪意がなくてもこちらが悪意と受け取った場合はどうするの? 実際、悪意と受け取ってよ。経験から悪意と判断するものを善意でしたと言われて「はい、そうですか」と引き下がる?


 あなた、納得するの(頭、大丈夫)


 するなら何を考え、何を基準に判断するの? それこそ、家と家の者を大事と考えるのではなくて? あなたは妥協点を何処に持っていったと言うの?」



 うああああああああ!  おねーさまの切り捨てるお言葉に居た堪れなーい! 俺が言われてるんじゃないのにナンでかひじょーに居心地わるーいっ! でも、出て行く先がなーーいっ! でも、このじょーたいがいやーーーー!!  つか、痛い痛い痛い!




 「教えてくれる? あなたが取れる責任ってなんなのかしら?」



 意地悪な私が生き生きと、じゃないんですけどぉおおお! あ、生き生き? …違うな。楽しいっつーより、ほんと心底うざい感じ。 ……俺へのお言葉じゃないけど〜  ああ、小心者の小動物の心臓にはあからさまなギスギス感は辛いです。辛くて痛くて繊細なこの   待てや、こら。


 俺は身代わりなんぞ引き受けてねーぞ!!



 これは部屋の雰囲気からくる錯覚だと自分自身に言い聞かせ、もだもだグッバイ! スルー能力、君に決めた。ヘイ、カモーン!



 周囲観察眼に切り替えます。


 そそそそっと周囲を伺うと、おじさんとおばさんは完全に壁の花。その顔に、忍の文字が見え隠れ。目の動きに口の動き、沈黙が痛そーな感じがします。にーちゃんが抜けた穴の隣に立つねーちゃんずは、俯く人と泣きそうな人と。


 ん?    …ガチで床睨みしてる人〜〜  目がギラついてないか?




 視線を飛ばして人を見ますが、居心地の悪い空気は重く停滞しています。雨雲レーダーより雷雲注意情報でしょうか? 両方あるから雷雨の警報?  ……嵐がくるんか?


 それにしても、あのねーちゃんヤバそ。

 あ、でも。大丈夫、か な?


 隣から伸ばされた手が触れて、俯くのやめた。顔あげた。伸ばされた手を握り返した。




 「せ、責任は… 」


 口籠もるにーちゃんをリリーさんが顎で促した。それ見てねーちゃんがキレた。




 「あっ!」  

 「偉そうにしないでよ!」


 ダンッ!



 床に蹴りを入れ、手を振り払い、にーちゃんを庇う形で飛び出たねーちゃんの目がほんとーに怖い。しかし誰も動かない。メイドさんずは二人でしっかりガードを重ねあってるが、一人のステラさんは違う。違うが凍てつく波動をじわじわと放出してて、こっちも怖い。


 それでも、ステラさんは動かない。



 「何もかも捲き上げて自分達のもんにしたいんでしょうけどね!」


 怒鳴り始めたねーちゃんの形相は凄かった。真っ赤になって怒鳴る言葉がたま〜にイミフ。スラングか方言かわからんけど、それを静かに拝聴してた。皆で。


 「だからあんた達、貴族なんてのは!」

 「やめろ、やめるんだ! すみません、申し訳ありません!!」


 「謝る必要なんかないわ、どうせ殺されるんでしょ!」



 部屋の中に響いた自分の声に初めて黙った。そんで『あ』みたいな顔した。 …これ、我に返ったっつーの? この人、鈍い人?  ……鈍臭くはないと思います、行動力あるし。





 「死にたいの? なら、一人で死ねば?」


 ブリザードにツンドラが見えました。


 「あなた、『どうせ、殺される』のを前提に延々と領主家の私達を誹り続けたのよね? 私達が誹るに相当する者であると。それを要約すると、『私は死を恐れない』で良いのかしら? 自己主張は大事、意見も大事。だけど、全てが通るはずもない。通るのなら他の誰かを踏み付けているのでしょ。

 

 まぁ、死を持って訴えるなんて言われてもねぇ… この場で実行されても迷惑だわ。そうね、人々に見守られながら自死してみる? 街中に首吊り台でも用意して人を集めてあげましょうか?」


 ツンドラ地帯に生えてるはずの荒涼とした木々が見えません。視界不良です!



 口パクもできないねーちゃんに、視線を流すリリーさんはパチンと扇子を弄ぶ。


 「あなた、この跡継ぎが好きなのかしら?」

 「な、あ、あたしは!」


 「言葉に詰まる程度か、どうでも良いわね」

 「大好きに決まってるじゃない! 好きよ、大事よ!」


 「ふーん、そう。そうなの。 なら、あなたの行動は献身かしら?   …そうね。じゃあ、あなた一人が底辺に落ちる。代わりに皆が幸せになる。それなら受け入れられる?」

 「え?」


 「だから、新しい人生の始まりとしてあなただけが底辺に落ちる。代わりに跡継ぎや他の者は何も無い。あなたを忘れて新しい人生を始め、それなりに幸せな生活を送る。結婚もして子供も生まれ、それなりに笑って生きていく。真実あなたを忘れなくても探し出そうとはしない。あなたに対して行動を取る事はない。皆が送るそれなりの幸せの中に、あなたは居ない。


 あなただけが居ない。


 一人、終生底辺で過ごして呻くだけ。底辺でもそれなりに生きれるわよ、重罪指定するから。  ふふ」



 うああああ! 視界が開けたと思ったら、つるっと足が滑ってくよーーーーー! もしや氷の湖ですかーーー!?



 「人は生きていく以上、道を歩むわ。歩まず立ち止まり続けたとしても、時の流れは変わらないわ。時の流れを前に、ぼんやりしていたら幸せの欠片が流れて来ても、そうと気付かず見流すでしょう。見流すと解して尚、目を閉ざすのは愚か。


 陰気な顔をしていたら申し訳がない

 笑った顔が好きだった

 相手を思うなら笑って生きていかないと

 あの人の分まで私が幸せにならないと

 そこから私を見ていて


 どの様な言葉に代えようと、人は幸せを望むものではなくて? 全く望まぬと言うは嘘でしょう。生きてないわ。だから、あなたもそれで幸せよね? 皆を置いていくのはあなただけど、あなたが選ぶ献身(幸せ)なのだから満足でしょう?  …美談に似て違うのは、あなたが直ぐに死ぬか死なぬかの違いかしら?」



 うひょーーーっ! この湖、ふっか〜〜あ。深度どんだけあるんでしょーーー?



 おねーさまと目が合った。

 笑いも歪みも嫌みもない、答えを待つだけの顔は透明さが際立ってた。それがゆるゆると雪解けしてった。そしたら、とても綺麗な蒼い湖が出現した。




 深い蒼の中に沈んでも、一度は浮上 するんだろう。


 時間は留まらない。

 留まらないから、留まったモノは綺麗に残る。きっと、記憶ん中で。美化されて。とても大事に、大切に。 大事だった、俺のねーちゃん。置いていったのは、俺。俺の方。

 

 泣いてた。



 



 突然訪れた感傷。

 どうしようもない俺の感傷。今、思い出す事じゃない。だけど、思い出す。だから、少し目を落として沈める。それ以外にどーしろって。



 答えを出せないねーちゃんと目が合った。

 そしたら、即座に目の色変わります。目の奥に『俺を人質に〜』なんて読めたり読めなかったりするから、視線をねーちゃんの左右にガチ振りしてみた。

 

 ハッとしたねーちゃんは、にーちゃんの目に狼狽えた。そんでもう一人のねーちゃんを振り返る。呆然とした目とぶつかって、暫くお互い見合ってたが最後は逸らされた。


 「え、  え、あ」


 …この状態は四面じゃなーくて、二面そかあ〜。楚さんのお家のおーうたは〜 どーこからあ〜も聞こえませんが、目には鮮やかくっきりと〜 両者が歌っているのが見えましたあ〜。


 わぁお、静かに修羅場ですかあ?


 献身とゆー名を被せた、違うナニかを相手にきょーよ〜〜   あれ? 強要?   …献身って始めからそーゆー意味でなかったっけ?


 献、献、けんは〜〜〜   自分を あなたに捧げます〜 そーれはそーれは けーんじょう〜。  はい、献上でしょう。物品じゃなくて身だから献身になるんですよねえ?



 女の人は皆の為に、その身をほにゃららに捧げる尊い生贄となりました まる。

 女の人は皆の為に、その身をほにゃららに献身されました まる。



 うーむ、結果と内容同じなのにナンか違うねー。献身的な介護をする、とかゆーたら素晴らしい言葉に聞こえるのにねー。


 …自主性と〜 煽りと〜 もう一つナンか? の、違いですかねえ? 



 「あ、あ、   ひ、とりで… 」



 あー もー うざあー。


 画面の向こうでもない、目の前で繰り広げられる人間模様にしんどい〜と思う俺はナンかの主人公にはなれそーにないです。なれなくていーです。


 ケリ着けようって時に、なぁなぁの仲裁なんか役に立たねえわ。これにチートがあったら何とかなるん? 何のチート使ったら、これが全部丸く収まるよ?


 つか、俺も当事者だ。



 パンッ!  


 『うひっ!』


 突然でしたので、心臓ドッキリです。


 「こんな粗雑な愁嘆場、面白くもない。変節物を見ているにしても白ける。姉上、時間は有限です。程々に願います、でないと疲れてしまう」

 「ええ? ハージェがそれを言うの?   …ノイちゃん、疲れてしまって!?」


 ハージェストに呆れた視線を送ったリリーさん、ハッとして俺を見てくれた。そしたら雰囲気サクッと変わりました。


 乗っかります! 黙って、うんうん頷きます!! おねーさま、疲れましたあ〜〜。




 「慣れない事に付き合わせてしまったわね、ごめんなさい。私にとっても大切な気晴らしの時間に案件を持ち込むのだもの。機会を捉えて活かしたいのは誰しも同じだけど、場の主旨を理解せずに持ち込むなと言うのよ。公私を纏めて行おうとするな、それが最低限の心得なのに。 …ああ、嫌だ。また繰り返しそう」

 

 パチン!


 唇を尖らせて文句を言うリリーさんは可愛らしく見えました。不思議な現象です。促されるのに従い、即行で着替えを続行します。籠貰って、試着室へひなーーーん。


 「あなた達」


 試着室の布の向こうで聞こえる声は聞こえない。俺には何にも聞こえなーーーい!





 「………… 」


 「ノイには、フリルよりリボンが良くないか?」

 「すっきり感を前面に出す方が」


 「それだと寂しくなり過ぎじゃない?」



 …ご意見を頂きました。

 お洒落着はそのままあっちに作らせて、おじさんの方には普段着を先に作らせた。それだけだった。自分でも鏡を見たが、フリル付きでもそこまでおかしな感じは…  しないよーな…  不思議だ。


 「飾りを色々持ってるから、そっちで飾りたい」

 「…それもそうねぇ」


 「え? あの〜 あれらは売り物で〜〜」  


 「自分で楽しむのも良いものだぞ、以前はどうしていた? 装いを楽しんでいたか?」

 「…え?」

 

 「土産は有り難い。しかし、自分用はどうした?」

 「…自分?」


 「今からでも取り分ければどうだ?」



 セイルさんの言葉に返事ができずに流される、どっぱ〜〜ん。


 それから、スケッチブックを見せられた。そこに書いてあったのはコートのラフ画だった。どれも色は同じだがデザインが違う。


 「ランスグロリアの物をシューレで作る気はない」

 「同じ型を君に着せるのは、ちょっと」


 「でも、皆と同じである事が身の保証になるわ」


 はい、俺のコートも作ります。皆と同じ基調で、リリーさんのと同じくアレンジを掛けようです。戦闘員さんではないよアピール、且つ、家に属していますよアピール。


 とても考えて貰ってます。三人の優しさを感じられます。貰って来た自分の服も大事だけど、今朝は間違いなくぼっちだった。


 皆が着てるコートはカッコイイ。だから俺もあれが良いんだが、「新兵さん、いらっしゃ〜〜い」になるのは遠慮する。ハージェストの「ちょっと」に激しく同意する!



 「これ、どうでしょう」


 スケッチを選んでみた。






 「有り難うございます…   有り難うございます…  」


 半泣きからの赤い目。

 にーちゃんに頭を下げられている。


 最終、俺が選んだのはにーちゃんのデザインだった。公私混同も何も、俺は誰のデザインかなんて聞いてない。知らん。免罪符とか発行してませんが、した事になるんでしょーか? つか、俺「うちの社員がすいません」って言葉まだ頂いてないんですけどー。


 有り難うでは、ちょーーーーーーっと違うんですけどぉ〜〜    は! デザイン認めてくれて有り難うなんか!? そっちか!? 半分違う気もするが、それはそれで間違いじゃないな! ないけど、さぁ。一発逆転、起死回生を狙うならきーーっちりと俺にしゃ…   ああ、おねーさまが切ったんだっけ。 



 相反する時、人が優先するのは…    おねーさまだな、うん。女の人だよね〜、あはは。なーかなーいよ〜〜ん。




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