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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
155/239

155 怖い形


 


 牢屋前から部屋のテラスへと帰ってきました。朝とは違う新規ルートの開拓です! なーんてね。


 「オンッ!」 

 「へ? アーティーース!」

 

 尻尾を振り振り駆けてくるから、手を広げて待つ。危険の字が脳裏にちらつくが待つ! ぐるっと回ってスピードダウン、体当たりはなし。飛び付きもなし。よし!



 「キュッ!」

 「だあっ!」


 しまった、膝カックン技術ーー!



 「おっと。アーティス、腹は張ったか?」

 「ワンッ!」


 「あ、そうか。お前もご飯まだだったもんな〜、美味かった?」

 「ワウッ!」


 言ってる事はわかるよーで、口の周りをべろりんしました。賢い子です。


 


 部屋に入れるのに、大急ぎで雑巾を取る。そして拭く。前足の時はお座りのお手、後ろ足は半回転して持ち上げる。犬だから、そーゆー足の出し方は向いてない。それをするのは後ろ足で砂を掻く時だけでしょう。なのに頑張って、ちょーっとだけ持ち上げてぷるってる。高ポイントに悶えます。


 「アーティス、偉い。賢い。直ぐ終わるよ」


 ほんとーに賢い子です。





 「リアム、来い。兄さんへの伝言だが」

 「は、横を失礼します」


 「あ、はーい」



 アーティスの足を拭いてる間、ハージェストが小声で何やら言ってました。人間の靴裏は…  特定の場所以外よしとしよう。するしかない。




 「では、自分は下がります。お食事の用意も伝えて参りますが、こちらにしますか? それとも」

 「こちらに頼む。時間も時間だ、朝昼兼用で良いと」


 「畏まりました」

 「お願いします、リアムさんも遅くなってすいません。お腹空いたでしょう?」


 「…お気遣い有り難うございます。朝は食べております」

 「…はぃ?」


 「兵が空腹で倒れるなんてやってられないから。奇襲でもない限り、活動前の食事は義務と同じです」

 「…そーでしたか。いえ、そーですね〜」


 「はい、時間がなくとも必ず何か口にします。非常事態用に支給された物もありまして」


 内ポケットから小さな袋をちらりです。


 現時点でも持ち歩いてるのかと思うと驚きですが、リアムさんの笑顔にあるのは充実でしょうか? きっと、そうですよね。もう一度、お礼を言って入り口までお見送り。


 「いえ、どうぞ休んでいて下さい」

 「いえ、トイレに行きたいので」


 ええ、にこちゃんで付いて行きました。アーティスのお供と雑巾付きで。





 「俺も行ってくる」

 「ほーい」


 トイレから戻ってきたら入れ替わりに行った。テラスに雑巾干して終了。部屋を見渡せば、椅子に掛けてる上着と剣。


 「えー…  こちらにハンガーさんはいらっさいましたよねえ〜? 俺は引き出しさん利用でしてー」


 ガチャン。


 うむ、いらっしゃった。

 しかし、未使用のハンガーは引っ掛けずに下に置くのが主流なのか?


 ちょっと湿ってる指を自分の服で拭いて、上着を手にする。特に汚れてないと思うが… 大抵は振っときゃ良いでしょう。それ、パンッとね。それからハンガーに通して、引っ掛ける場所を探しますと〜 やはり箪笥。


 箪笥の内側。手前の上部、『一時、どうぞ』な金具がある。利便性、考えてるね〜。


 カチッ…


 掛けたら良い感じ。

 一瞬、届かねー!?と思ったのは内緒。


 借り物のスカーフを外しまして、これも軽く振って汚れ落とし。 …多分、汚れてない。スカーフも一緒に掛けて完成。ええ、これっくらい俺だってね〜。



 吊るした制服を見て、自分の上着を見る。


 …制服でも学校の制服じゃないのがミソですね。制服はそこに属する顔。それから発生するだろう、諸々の付随。 …んでもさぁ、公の証を貰って自由がないとか言い出したら阿呆ですよね? 



 バイト先を思い出す。

 リアムさんの笑顔を思い出す。ちらりした小袋。今日見た他の人達。待ってると言ってくれたテッドさん。整然とした見送り。頭を下げ続けたあの人。牢屋での皆さん。


 みーんな、帰属意識を持ってる。



 チートを持ってる主人公は組織に組み込まれるのを嫌ってました。フリーダムにならんから回避しただけだろーが…  ジョーカーで居続けたいって願望もあったりする?



 ですが組織としたらですよ?

 始めから乗り気でない腰掛け感満載の協調性も薄そうな人間を本採用しようと考える人は、どーゆー人でしょう? 


 どんな立場であっても態度とゆーのは伝わるもんです。


 …大体、これでは社員が「うちの社長は見る目が無い」と言い出しそうではありませんか! そこから、「この会社、大丈夫か?」に繋がるのではないのですか!?  …始めっから短期パート従業員だったら色々違いそーだけどな。


 ん〜 実力買われてやってきても〜 統率乱す君じゃあねー。 …判断能力が高い兵の皆様にチートで対応した場合、どれだけ有効? 検討入りしたリアムさん、手強そうじゃありません?


 …現実でイジメもあったじゃない。チートの種類とかありますが、対応の仕方では〜〜  スキルも潰れるんじゃない? だって人ですもん。そーなると怖いやね〜。 



 眼差し、態度、連携。

 きっとそこには、その人の誇り(プライド)も。


 一人が持つチートよりそっちの方が強い気がしてくるのは〜〜 最後は団結モノが多かったからでしょーか? 『仲間を大事に(チームワークで)皆の力で(勝利)!』な標語なかったっけ?



 リアムさんの小袋ちらりなお顔。ええ、組織に属してるから出せるお顔ではないかと。 …自営業者の福利厚生その他は自前で当然ですし。


 


 フンッ。


 「お?」


 手に当たる鼻息に頭と顔を撫でます。手を追い掛けて鼻をピッタリしてくるのが可愛くて、可愛くて。手遊びしながら椅子に向かい〜   くりっと方向転換。


 鏡の前に立ちまして喉元確認、トイレで見てくるの忘れてた。途中まで覚えてたのに。 …うん、なさげ。良かった、ホラーがなくて。女の人の握力でも、ちび猫圧死するかと思った。


 噛み付けば良かった…  鈍うございますなぁ。



 ふらふら椅子に戻りまして、そこに上着をぽい。そんで椅子にすわ、すわ、  座る前に人様の剣に手を伸ばし、剣帯ごと取ります。そこでこっそり腰に回して宛てがって〜〜  ささささっと鏡を覗きに行きまして!


 「うわ」


 合ってない。


 壁の鏡さんは姿見さんではないので少し離れて見ます。アーティス隣に引っ付きます。


 映る自分とアーティス。



 …だめだ、どー見ても合ってない。大きさ長さに全体が合ってない。



 ガチャン。


 「だあ!」

 「ワウッ」


 「ん?」


 ああっ! 見られたあー。 …いや、こっちか?  みぃ〜たぁ〜なああ〜〜〜〜   え? きゃー。

 



 「止める位置が間違ってるし」

 「うひぃっ!  いえ、あの止めてませんし!」


 「はい、動かない。もう少し待つ」

 「えーと、鞘から抜いてません。それはしてません〜」


 「ん、こんな感じ」


 腰から肩に手を回されて正面向きます。鏡に映る、俺とアーティスとハージェスト。 …さっきと違ってどっかマシに見えます。何のマジックでしょーか? ……しかしよく見りゃ、余りの長さがべろんです。



 「これはこれで良いんじゃないでしょうか?」

 「…そうですかあ?」


 「可愛いですよ?」

 「……そっちではイマイチです。お返します、有り難う」


 「いえいえ、服を有り難う」


 コスプレ程の事もしませんでしたが、重みにやられる前に終わっときます。




 「あ、やるやる」

 「そう?」


 俺の上着を取ってくれるんで後は自分でやります。短時間着用で汚れもないから、これまたパンッとして終わり。上着だから俺のも一緒に、と思いましたからハンガーに通して箪笥の内に引っ掛けようとして。


 してだよ。


 ぎりっぎりでハンガー掛けに届かない事が判明した… おばちゃんが問答無用でちゃっちゃと引き出しに仕舞った理由がよくわかる。背伸びにぷるぷるしても届かない!


 「…お手伝いしましょうか?」

 「…お願いします」


 既に目の前に掛かってるブツを見ながら重低音でお願いした。


 平均身長の壁とゆー標準が憎ったらしく。しかし、こーゆーのは向こうでもあったはずだ。海外あるあるであるはずだ!!  …嫌な現実など流れてしまえ。



 「もう一段組み込めば良いだけです」

 「わお」


 サラッと言うが高級家具に何を言っとんじゃ。


 「一段足したら奥のが使えなくなるだろ?」

 「新しいのを作らせようか」


 「……違うだろ?」

 「え?」


 「もう少しなんだから、小さい踏み台があれば良いだけだろーが!」

 「えー」


 「俺の身長で笑い話を作る気か! 広げる気かーーーーっ!!」

 「…それも楽しいかな? あはは」


 「ぎゃーー!」


 怒って横から膝カックンの刑を実行した。逃げられた。


 「おのれ、逃げるな!」

 「わー、怖い〜」


 追い掛けようとして気が付いた。 …俺、ぼーりょくでのコミュニケーションを選択してる? 笑って る けど   猫、遠慮ない。痛いと言われました。

 


 「ん? どうかした?」

 「いえ、あの  何でも… 」


 「では、お伝えしておきますね〜」

 「…はい、何でしょう?」

 

 「背が届かない人の為に、引っ掛けて持ち上げる手持ち棒がありますから〜」

 「な! …マジックハンドがあっただとーー!」


 笑って箪笥の奥を指差してるのに、ぎゃーっと怒っといた。


 こっちの箪笥はハージェスト用。

 二人部屋で仲良くやるには最低限の礼儀が必要。俺のはオープンにしたが、こいつは触らない。なら、俺も触らない。大体、危険物有りと聞いた荷物を不用意に開ける馬鹿ではない。掃除の時も他をしてた。


 その心遣いが徒になるとは、どーいうコトだ! 








 「それでですね」

 「はい」


 「とりあえず、一つ終わりました。良かったです」

 「はい、お疲れ様でございました」


 椅子に座って、大反省会。色々、反省…   違う、ご飯がくるまで話し合い。


 テーブルの上には青の石。



 「再確認ですが、この石は貰ってきた物ではないですね?」

 「…はい、違います」


 「何処で入手しましたか?」

 「降りた場所です」

 

 「偶然、拾いました?」

 「…ええい、しゃーない。必然です!」

 

 「何故に断言が?」


 真剣な眼差しに目が泳ぐ。

 顔にしっかり書いてある、他にもあるなら取りに行きたい。


 「どの程度ありました?」

 「石は五色ありまして」


 「五!?」

 「あかしろきいろ〜 に、あおとくろが〜」


 目がキラキラしてます。よくわかります。お宝ですもんね。



 「…五つあって、どうして一つ?」

 「謙虚は美徳かと」


 「…え、 え?  ほん、 いえ、大変失礼な事を口走り掛け」

 「すいません、嘘です。いえ、その時は間違いなく本気でした! ですが先日、全部貰ってきたら良かったかと後悔しました!」


 「…先日?」

 「無くなった後」


 「もしや、石の効果に思い当たるコトが!?」

 「それはない」


 置いた石を手に取りますが、もう普通に石です。


 「…言いませんでしたっけ? この石は思い出です。思い出の為の石です。どんな力があろーとも、それは関係ありません。ですが無くしたら、それもまた思い出だとも思いました。んでも実際になくなると全く割り切れそーにない事実に口惜しくなって五つ持ってきてたら!とか未練たらたら出てきましてね。


 物より思い出とゆー人も居ますが、思い出とゆーのは物が切っ掛けで思い出しもするんです! つか、より鮮明に思い出すのは絶対に物がある方です!! これはあそこで買ったブツ〜とか思い出すでしょー!?


 俺の向こうの思い出は完全に記憶のみ。他にないのを理解してます。記憶が薄れる事も消えていく事も、未練は引き摺るもんじゃない事も理解してますが! でも、たらたらがあるんです!!


 この石が俺に始まりを思い出させます。そして現在、変わりになるものはございません。


 高が石、然れど石、それでも石! 大事な石でも石は石! 石如きで女々しいとか言われたら八方塞がりで俺がぐちゃりと潰れますよ! でも、最善の形が『漸く潰れて、おめでとさん』だったら、うがーーーーだし! 俺は俺が俺である事の!」


 

 蒼い目が何とも言えない目に変化。

 変化に『しまった!』と続きをごっくんしてたら、俺の視界にキラキラ金髪。


 「邪推を心からお詫び致します」

 「…えーと」


 「君がふか〜く…  いえ、スパッと…  えー」

 「面倒い人間で、すいませ」


 「いえ、その様な謝罪は必要なく。 …うん、君は俺と違って終わってない。まだ、終わってない。その事実が全てだね。得心とはまた違う、心の落とし所を落とし所と自身で見定めるのだから何と言うか。 ねえ?  心に正直にあろうとするのは、分別を覚えるとそれだけ難しくなると言うもの。


 分別ふんべつが、心を分別ぶんべつさせて成長に導くとも言うそうですけどね?  あは。



 君は終わりを模索してる。用いて終わりに向かおうとしてる。流すより難しい選択を当たり前に選ぶ君が、    …いいえ、君の一助であれる自分であります様に」



 うにゃんと口を閉じました。『あ』からのクールダウン。


 コツンと石をテーブルに。

 二人して、なんとな〜くで石を見る。



 「この石のお蔭で色々知り得る。でも、石よりも君。石は君のおまけでしかないのに、石と表現して良いのか悩む大層な物ばかり。目が眩んで間違えそうですが…  これは山のどこら辺にあったのでしょう?」

 「あ、辿り着くのは無理」


 「…何故? 確かに今まで発見されなかった事を考えると、一筋縄ではいかないと思いますが」



 にーや〜っとチェシャな笑いをしてみる。


 「現場は村人がずーーーっと探しても見つからない幻の水源です。しかも、あそこ一本道だったけど〜 途中で道が途切れて〜 迷子してたみたいでさー。にゃはー」


 「待つ、それは遭難では!?」

 「そうかもー」


 「ぎゃーー!」

 「そう、うぎゃーでしたあ〜。あれ、惑わしの道とか言ったら、こーわ〜〜 登山と下山が関係なさげなのが容赦なく、こーわ〜」


 「ちょっと待つー!」

 「待ってたら迷う〜」


 あっさりと、そう、何でもない事の様に。 笑って。



 山に、村の話はした。あの人達の事も。ぽちの事も話したし、荷物の説明もした。お土産も渡し終えたし、猫も話してる。口するのはどうかと迷い続けたあそこの事も、今、正しく話を。


 「花冠もそこで編みました。それはもう綺麗な、生きていけない場所でした」

 「…そう、なんだ」


 「ちょっと休憩、わぁすごい〜〜ってのはできますが住むのはね。樹々は作り物めいて、命と感じられたのは花と水。それ以外ありません」

 「食べ物なし?」

 

 「そ、全くなし」

 「ああ、それはキツい」



 思い出す、あそこ。

 綺麗で生きていけない清らかに清められた場所は、穢れを知らない始まりの場所。前へ歩き出すしかない、始める為の場所。 


 おねえさんの行動とあそこ。

 アレな方法を含め、どこか似ている気がする。


 そーゆー場所を私利私欲で見るなんて、「えー!」ですよ。見渡す周囲に感動も覚えない、心に余裕もその他もない人間なんてええ〜  鈍さに笑います。 


 しかもあそこは、おねえさん訳で正面玄関。掃き清められてると考えても玄関暮らしがしたいなんて馬鹿笑いするってもんですよー!  なーはははは!




 …笑ってみても家主さんを思うと不安を覚える。優しさなのかは不明だ。それでもこいつは金の切れ目が縁の切れ目などとゆー生易しい相手ではない。



 俺にとっての青い石、その価値(思い出)

 ハージェストにとって同価値を示す青い石、それは金。


 死に金の、青い石。


 それらはこれから姿を変えて飛んで行きます。少しずつでも飛んで行きます。だって、俺が飛ばしますから。飛ばして、代わりに違うものを運んで貰うんです。


 貰ったモノは俺を介してハージェストへも流れます。要らんゆーても俺が流す。




 俺にとっての青い石、ハージェストにとっての青い石。どちらも同じ様に思いを馳せる物ですのに、物の性質の違いから偉い違いですよねえ。






 幸せの青い鳥はドコを飛んでいるんでしょ?


 さっき見たのがそうでしょう。よく見えなかっただけできっと青かったんでしょう。そーです、幻影でも何でもケチケチせずに出して下さいってなもんですよ。


 ぬ、灰色猫が怖いとか?  あは。



 でも、怖いか…  怖い現実って、どんな形してる? 




 「え〜〜 お伝えします。危険を伴う故にと説明した事実は嘘ではありませんが、それだけでもなく。あの人達が任意で選んだ場所に降りたのではありません。任意ではない場所に俺は降りました。それがあの山です。


 この世界の神様を知りません。祈りの王様が届け上げをするなんてコトも知らなかった。成り立ちも知らないけど、降りる為に定められた場所がある。その場所が王領にあるのは偶然ですか?」


 結果論だけの言い分に、ハージェストがフリーズした。




 「…どっちもだあ? 二つを前に考えろだと?」


 小さな声で毒突き、舌打ちしたのが聞こえた。それはもう忌々しそ〜うに舌打ちした。   …お、おかしいな? あれえ? こーゆー時はショックを受けて敬虔な気持ちになって〜  とか、何とかなるはずでは?


 なんでそこで毒突くよ? 



 「…わかりました。派遣した兵の報告も踏まえますが、探索はほぼ不可能と進言します。それでも君に探索の同道をお願いするかもしれません。今回は却下しますが」

 「へ? 却下で通る?」


 「だから、シューレは別荘です。別荘には気が向けば来たら良い。その時に足を運べは十分」

 「へ? べっそ…   はい、別荘でしたね」


 「この地域に根差す話にも、俺が知るおとぎ話にも、神話と言われるものにも〜  君の話に該当するものはない。俺の記憶にはない。それに此処、シューレは王領ではなくなりました。そして現在、我が家の流儀を通そうとしてる所です。この現状で『実は此処は神が定めた…』なんて勿体付けたよーうな事を吹聴すれば、世間は何と言うでしょう? 言うだけ阿呆らしく、行うだけ馬鹿らしく」



 断言した顔と蒼が冷め切ってた…   わー、怖い〜。



 「…あ、あは、あは、あはは   えー、ご尤もで?」


 「目下、為すべき事は我が家の領としての安定に、キルメルの頭を叩く事です。従順にならなくても、我が家と事を構える愚を理解させる。あの村へ行って山登りする時間なんて欠片もないね。それに君の体力が持ちそうにない」

 「え? えー。  あ、いや… それはそうです  ね」


 「それに君がいて、なーんで仕事三昧の生活をせねばならんのか!! じょーだんでも許さない!!」

 「はえ?」


 「買い物も、川遊びも、ちょっとそこまでの散歩もしてないのにーーーー!!」



 がーーーっと吠え上げるのに、ベッドの脇でゴロンとしてたアーティスが上半身を起こす。散歩に反応したんでしょーか? 


 直ぐに寝そべりモードに戻ってく。素晴らしく見切りが早い。



 「えー、世間的に言うだけ無駄な馬鹿要素があるとわかりましたが…  お山の事は広めないで欲しいです」

 「兄と親父様には話をします。まぁ、姉さんも入るかな? でも、内容が内容だから口外はないかと。似非話として「似非話でもなしで」


 「……わかりました、通しましょう。探索時の名目には  ああ、君のぽちでも玉の関連でも何でもあるから」

 「よろしくお願い致します」



 「え? うわ、ちょっと待ったあ!」


 テーブルに両手を着いて深々と頭を下げた。テーブルに頭をゴツッとやりました。驚いて止められたが、安心との引き換えですから安いもんです。



 俺の行動にハージェストの顔がうにょーっとなりまして、そっからまた一悶着しそうな所へタイミング良く音がしました。


 ノックに声も聞こえます。


 「はーい」


 返事に返事がありまして。ワゴンの音に、またノック。それから〜 はい、料理長さんのお越しです。朝昼兼用、今日一番の食事の始まりです。



 「朝から大変なお務めになられましたそうで」


 労いのお言葉と共に、ご飯を並べてくれます。


 「あそこに降りた事はございますが、寒さの厳しい折でしたので更なる地下の寒さに身が凍みました。それで本日はこちらを」


 

 今日のメインはサンドイッチです。見慣れた食パンとは違うのですが基本は同じパンです。パンの断面から、みっちり詰まった具材が見えてます。美味しそうな焼き目付き。


 そう、ホットサンドなのです!!


 それと野菜のスープに、薄緑色の水。この前とは違う解毒水は… うん、解毒っぽい色で… ちょっと怖かったり。デザートは白い果肉にゼリー。果肉を盛った皿の真ん中に、その身を崩して見映えを変化させた黒ゼリー様が…  ぷるえておいでです。紅白でなく黒白であるのが渋いです。



 ですが、午後のおやつが楽しみ。水気たっぷりな、この白い果物で別のおやつを作ってくれると言いました! うっひょーう、期待してまーす! 


 一礼して出て行く料理長さんを、にっこにこして見送ったよ。




 バクッと一口。


 噛み締めるホットサンドは、あったかく美味しい… 野菜にチーズに何かのソースに、肉。肉! このスライスされた肉が大変美味しく!! 


 「胡椒も利いてて、うま〜。うああ、ご飯のご褒美はこの上ない至福!」

 「うん、美味しいね。これなら君も腹凭れはしないよね?」


 「しないって〜。こってりでもないし、へーきへーき」


 二つ目に手を伸ばします。


 「こーゆーの持ってピクニックとかいーよね〜」

 「良いね、それもしよう。でも、これを持って行くと冷めて固くなって咀嚼が大変だよ?」


 「うあ」


 もぐもぐしながら、冷めたホットサンドは強敵と記憶した。俺が思い出す強敵で難敵なご飯は牢屋とセットでしたが、此処のご飯はどうなんでしょ?


 聞きたいよーで聞きたくない。

 誰がどーゆー形で、牢屋の中の人のご飯を用意してるんでしょう?



 美味しい食事の最中なのでペイッとします。気が付きます。


 「あのさ、朝ご飯食べて動くんだろ? 今日は俺に付き合ったからだったりする?」

 「え? あ〜、そんな事ないよ。絶対に必要で外せないと判断する事には、ごめん。君を置いて行うから」


 「…そ、そっか」

 「そうでない時に、一人で食事を摂らせる気はございません」


 蒼い目が笑うのに、うにゃうにゃ言って食べ続けます。 


 テーブルの上のご飯は同じ内容ですが、ハージェストには別にもう一品あります。違うおかずをチラ見するが食う量が違うので手は出さずにスルー。


 「あ、一口どうですか?」

 「はい、下さい!」


 …食い物に関しては、つい浅ましくなりまするぅうう〜〜  まぁ、これっくらい問題ないよねー。そして何時の間にか横に来て、じーーーっと見てくるアーティスをどーしたらいーんでしょー?


 ハージェストじゃなくて俺の横に陣取るんですから、ほーんと賢くて。 …まぁ、当然か。




 ご飯は終わりました。

 デザートの黒ゼリー様は姿を変えても、やはり無敵。しかし、飲み下した解毒水様も強かった! 絶対、野菜オンリーだ! 


 俺の体内で黒ゼリーが解毒水で中和されていくのだと考えたが、成分を考えると中和ではなく手に手を取った共闘で共存共栄を計っていると思われる。そこからの連想ゲームなら乳酸菌なんだが… 


 しかぁし! そんな思考をオールキャンセルさせた白い果肉!! 美味い、さすがはピーチ系! しろもももももももしりしろさん〜  うっとり、しろじり〜  あれ?  …はれ?  …うは、もももももももーーーん。



 ま、食ったらHPが上がる訳でもないですが美味しさにうっとりです。おやつが待ち遠しい。  …ちったあ、良くなってますよねえ? ……今日もぶっ倒れたけど。 ……理由は別だし。







 「アーティス、貰えて良かったな〜」

 「キュッ!」


 うまうまとジャーキーを噛んでるアーティスは可愛い。人と同じ物は駄目なので、テンカブツは一切無しの干しただけの肉。ジャーキーは噛めば噛む程だったな〜。


 「動物用って売ってんだ」

 「ああ、それは俺が頼んだ」


 「特注!」

 「特注ってほどじゃ…  工程一つ抜いてるだけだし。自分で作る時間はないから、少しの経済を回してる感じ?」


 「かっこいーですよ」

 「あはは」


 笑ってワゴンに食器を片付けて廊下へ出します。すると、ジャーキー咥えたまま付いてくるアーティス。


 「お出掛けじゃないから、待ってて良いよ」


 付いてくる。ごめんな感じ。

 

 


 

 満たされたので休みましょう。昼寝といきましょう。

 ちょいと準備をしたら靴を脱いでベッドに上がる、背後から声が掛かる。振り向くが後ろが詰まるんで前へ進む。



 「でさぁ、君が五色の内から青を選んだ理由は?」

 「ん〜 インスピレーションとゆーか… 選ぶなら黄色・黒・青のどれかだと思いまして。白は白さから汚れが気になり、赤も赤紫系の渋い感じがどうかと。んで、黄色は白と同じ理由と色合いが実物と違ってたら微妙な気が。黒は俺の髪の色からですが、自分色とゆーにはナンか違い。青は良い感じで、これなら違ってても気にしなくてイケるだろと」


 「は、あ?  黒の自分色はわかるけど、他の違うとは?」

 「お前」


 「は?」

 「降りた時は注意事項にその他、お前の事も考えました。石に自分とお前を当て嵌めて、最後は目の色に決定」


 「……」

 「いやー、金髪と黄色は別だろー? 青を選んで正解でした。でも、石と目じゃ比較になんないね。青さが違う、お前の目の方がずっと綺麗だ。本物は違う」


 「………う、わあああああああああっっ!!」

 「どあっ!?」



 勢いよくベッドから立ち上がり、その場で顔を覆って右左。上下運動に回転する熊になって最後はしゃがみ込み、肩が震えて上下する。



 「……どーした、お前」


 こっちをチラ見する挙動不審者。


 「………いえね、経験がないとは言いません。言いませんが、正面切っての口説きに「君の瞳に乾杯!」と言われる日が来るとは考えた事も無く。まさか自分が言われようとは。  いやもう、うっわあああ〜〜〜」

 「…へ? へ?  へえええっ!?」


 「いやー、自然体が怖い怖い」


 照れ顔のハージェストが、あっついあっついと手で仰ぐのに開いた口が塞がらず塞がず叫びます。


 「乾杯とか、言ってなーーーっ!」

 「あ〜〜 不意打ちは効くなぁあ… 効果絶大。あ〜、言われた事のない奴にはわからない熱さだなー」


 「ちょっと待てーーー!!」


 襟元に指を入れ、服を引っ張り扇ぐ。顔が迫ってくるのに引きます。少し赤い顔に引きます! 無意識に手がベッドをぼふぼふを叩き、触れた枕を引っ掴み、抱え込みましたが枕はガードになるのでしょうか?


 「お返しはどうすれば良いでしょう?」

 「どうする必要もないですよ」


 体重が掛かってベッドが… その顔が怖いんですがあーー!





 「いえいえいえいえ、だからいえ!」

 「そうそうそうそう、だからこう。遠慮しない」


 「だーーーー!」


 「ヒュウン!」


 ベッドの上で攻防を繰り広げてたら、アーティスが大喜び。ジャンプしてドスッと。もう笑うしかない。食後の運動は待って下さい、腹にキます。


 「あー、楽しかった。頂いたお礼には遠く及びませんが」

 「お、ま、 あ〜〜  疲れました…」


 そのままベッドに横になります。つか、倒れます。非常にナチュラルに握力と腕力が鍛えられてる…



 「そろそろ休もうか。起きたら兄さんの前でもお願い」

 「ん、わかってる。 …失敗しない様に寝る」


 「…は? 着替えを失敗する?」

 「あ〜 なんてえの? 短時間での連続は上手くない。最短記録なんて目指すもんじゃありません」


 「……気負わない、逸らない、焦らない」

 「はい、お前も無茶しない」


 「俺は自分を把握してますが…  はい、気を付けます」

 「力を使ってるなら言ってくれないとー」


 「そんな大層な事でも」

 「そうですか?」


 「猫の君がした事の方が大層で怖いですよ」

 「わからないので寝ますわ」


 「…そうだね。朝も早かったし、休もう」








 肌に触れるシーツ、腹に掛けたタオルケット、窓から入る風、半分引いたカーテン、静けさの中の、遠い人の声。目を閉じて感じるモノ。


 眠気はあるのに、一本張った糸が緩まずに眠れない。




 薄く目を開ける。


 隣は既に夢の世界に旅立ったよーだ。

 ベッドの脇にいるだろうアーティスも静か、夢の中だね。

 


 ぼんやりと天井を見ては目を閉ざす。





 怖い、モノ。怖い形。


 ゆーれいもホラーも嫌いですが、生きてる人間が一番怖いと聞いてます。実感は〜  まーね、否定する経験値もございませんが肯定する経験値もあんまり。ろーやでは怖いより、寒さと理不尽に耐えてた記憶の方が強くて。


 あの時は、怖いではなかったと思う。




 でも、家主さんを考えると怖くなる。

 家主さんは、あの人達と同類だ。おねえさんが下がる程度には同類なはず。



 この世界には降りる場所が幾つかあっても現地人には認識がない。そういったおとぎ話もない。隠された場所に情報の遮断。


 『使われた事がない』


 これならまだ良い、前例がないだけ。だけど、そうでなく。あの場所ごと全てを隠蔽する方向で、オープン形式は良識でアウトだとしてるなら。


 今も行動を見ているのなら。


 俺が喋った事はアウトか? それに対して罰とかある? 叱られるだろうか? ハージェストにも及ぶとしたら。



 責任の所在はどこにある?


 情報を知っていて、それに気付いてる俺じゃない? 言ってはならないだろうと思いつつ、隠し事なっしーを選んだ。俺の希望で暗黙の了解と思われる事実を喋った。


 これで責任の所在は存じません、なーんて言うのがアウト。それに家主さんは人ではないおヒト。



 場所を文書にでも残されたら…  遠い未来に子供が「冒険だー!」とか言って山を荒らしたら嫌過ぎ。いや、もしかしたら… 過疎の活性化対策になるかな? 遭難確率の方が高いか。それにやっぱり荒らしはねぇ。





 でも、今は。

 俺が守らないと。俺が庇わないと。


 それは、俺がしないと。



 事実に対して家主さんがナニかするなら、それは俺の責任。


 『すいません、責任とって辞めます!』


 これで何の責任が取れるんだ? 使えない頭は使えないから辞めるが当然で一番だが、それで取れるなら俺はナニを辞めるの? こっわ。 



 俺は、どーゆー形で責任を取るのでしょう?


 口外禁止とは聞いてない。言われてない。空気を読んでたから黙ってたし、肝心な点は流して知らない振りしてた。でも、相手を知るんです。


 ねえ、家主さん。

 俺は相手を見て、相手を選んで言いました。相手が良かったから話したんです。それでは、 いえ、それでもいけませんか?







 天井は高く、少しだけ暗い世界は平穏。

 隣の安眠みてると、一人寝てないのが馬鹿みたいな。


 「ふぁ… 」


 





 ピョーロ、ピィロロロロロ〜〜〜





 …鳥? ……眠い、お休み鳥さんくるっくー。



 幸せの青い鳥。

 青い石。


 姿を変えてたら飛んで来ない。拾いに行かないと。




 家主さんに会うことがあれば、    …話を聞いてくれるヒトを希望します。  ……律に則り、言い訳無用の一切聞かぬではない方を切実に希望します。


 優しいヒトでありますよーに。



 おやすみ、な さ  ぃ。  ふぁ…  ふ。











お付き合い下さるあなたに、乾杯。

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