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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
154/239

154 それはタマタマなのです



 「くふん」


 良い気分で猫ゴロゴロです。

 そう、そこそこそこ。うにゃーん、ぱったん。


 「起きた?」


 優しい声に促され、ふかふかのベッドで目が覚めました…  には、ならなかったよーだ。どこだ、ここは? あ、ギルツさんの仕事部屋〜。



 「にーあ」


 起きなければと思いまして、寝返りを打とうとすれば足場が…   足がスカるぞ、おい!!


 ゴロンと寝返りを打てば奈落の底へ。

 一歩間違うと危険地帯、寝ていたのはハージェストの膝上でした。ハージェストの手が伸びてきて、猫をよいしょっと。猫は大きく伸びをして〜〜   いだ、いだ、いだあ〜。


 「にぁんんん〜」

 「痛い? もっとさすろうか?」


 手が首に触れ、背中へと滑ってく。さっきと同じ良い気分。 …ばったりしてる間中、撫でてくれてたよーです。痛む所は擦って貰うと楽ですね。


 「一通り終わりました。石はあそこ。 えー… 竜の方は冷気の放出が止まった事と、兄さんがナンか言ってたから納得したよーです。今は竜舎に戻ってる。着替えられそう?」

 「にーい」


 「ああ、でも待って」

 「に?」


 手が脇腹をぽんぽんした。


 ばらっ


 「にゃあ?」

 「まだ残ってるか…」


 ハージェストの膝上に零れ落ちたのは土です、砂です、埃です。総称として汚れと呼びますモノですよ…  地面と勝負してずべったから、ちび猫ボディが汚れてる。


 なんて事だ… ふわきらつやぴかボディだったのに! あー、エイミーさんの小動物愛護の精神はどこへ飛んでったあ〜〜。


 「櫛を通したいなぁ」

 

 お、ブラッシーング! 


 「でも、細目の櫛は置いてないんだよなー」


 あー、仕事部屋にはございませんか。ってか、細目って…  猫用をご所望で? それって蚤取り用か?   


 「洗うには時間が… うーん…  あ、そうだ」

 

 はい?


 「綺麗にする次いでにお試しもしようよ。猫の君にも有効かどうか、ね? どっちも君であるから有効だと思うんだけど、君の猫仕様ってよくわからないからさ」


 にこっと笑って言いました。

 何のこっちゃと思いましたが、ポーズで理解。魔力に慣れよう、色に染まろうを猫でもやろうです。試せる時がその時です。笑顔に釣られて「にゃー」ってね。


 余裕、余裕、余裕。

 こっこ ろっ のよーゆーう〜〜。余裕はゆとりと同じ意味のはずですが、何故か違う感じがします。どうしてでしょうね? そんでもう手櫛で良いですよ。


 

 ですから、こうするのです。




 ばら…  ばららっ…


 ちび猫、ハージェストの太腿を占領し、べたっと腹這いになっております。背中や脇を手で逆撫でして貰っとります。土を綺麗に取り除いて貰う全身マッサージ〜〜、やっほーう。手でがーーーっとやって指先でもにもに…  いい〜。尻尾も勝手に振れちゃいますよ。


 しかし、まだ毛に絡んでるんかい…



 ターップリしてもらったら、次は立ちます。猫手を上げて猫万歳。転けない様にハージェストの胸に猫手タッチの二足立ち、頑張りま〜す。


 手櫛ブラシが全身わしゃわしゃしてるから、元から安定感はあるけどね。



 「こんなものかな?」

 「にあ」


 「じゃあ、風を当てて整えようか」

 「にゃーん」


 あのふわんでスタイリングとかー! ご褒美ですかー!?  …いや、ご褒美じゃなくて詫びか? ご機嫌取りの   はいはい、貧相な思考カット。



 ふわんを受けるのに膝から降りま…  いでえ。 この角度… このカッコすると首が…  首と肩が痛いー。鬱血その他もわかりませんが辛いです。


 首にテガタが残ってたら怖い… 女の人が想いの丈を込めて付けたテ・ガ・タ〜    猫、ホラーに泣く。



 「はい、降ろしますねー」

 「にゃー」


 降ろして貰って離れます。はい、何時でもどーぞ!



 クリッと振り向けば、椅子から立ったハージェストが小さく笑う。その指先が動く。足元に風を感じるから下を見る。風に色は付いてない。だが、落としたばかりの埃が舞うのが猫の目に映るぅうううっ!! 目に入ると痛いから見ませんよー。


 「散らすから目を閉じて」


 もう閉じてまーす。ご機嫌で待ってまーす。


 まだかなまだかな〜風はまだかな〜をやってたら、少しの熱を感じた。その感覚を追っ掛けるが直ぐにわからなくなって全く以て残念賞。 …あ? 待てや。 感じてわからん、散って生まれる。 …わからんなって当たり前じゃねーか! 認知が遅いんじゃー!!


 あ、開けてどーする。目がやられる。




 今回は涼風でございます。

 うあこれ、気持ちいい〜。あー、扇風機さいっこー!



 「はい、おしまい。どうですか?」

 「にっあーん」


 最後の風の余韻を楽しんでました。自分の体をキョロリします。

 

 なんて素晴らしい! 風を当ててくれただけで大違い!! ふわきらボディに戻ってるー!!



 「俺が言うのもナンだけど、本当に元に戻ったね… これで光ったらあの時と同じだよ、すごいねえ。一番最初の姿とも大違いの段違い…  やっぱり、普段からの手入れケアが物を言いますね。綺麗にしようとする心掛けだよねー、あはっ」


 ナンか含みを感じるんで、へ?な感じですが美ボディは嬉しいです。人の時はそれ程でもありませんが、猫の時はどーしてかや〜けに気になります。にゃんぐるみが一張羅だからでしょうか? 


 …そうでなくても大事にしたいです。 ……だって自分ですからあ〜。




 美猫に戻ってにゃんにゃんにゃん。足元回って有り難う。


 「いえ、大した事でもなく。どう? 手の時とは感覚違う?」 

 「にあー?」


 「そっか… まぁ、君は難しいから…  浸透してなくても弾かれてないと思えるなら、きっと猫でも重ねられるはず! 人でも猫でも、君の一助に成れます様に」



 しゃがんで俺の頭を撫でた。

 猫は猫扱いされてます。そんで言われた事に照れを感じます。正面からのセリフはどこか小っ恥ずかしく。ですが、はっきりと口にしました。当たり前に口にしますが俺はそんなセリフ言った事ない。


 こーゆー持ち上げ方をよくやられてると思うんで、慣れたら本当に怖いですねぇ〜。にゃふん。




 「そろそろ着替えない? お腹も空いたろ?」


 は! そーでした。まだ朝ご飯食べてませんがなー!! 



 はいはい、お着替えと思いましたが足裏がザリッとしたのが気になります。俺の体から落ちた土でギルツさんの仕事部屋が汚れました。風で散らしましたが部屋の中。循環は部屋。窓は開けてない。土足での部屋ですから気にしなくても良いとは思いますが…


 「どうしたの?」

 「…なーああ」


 「…そこまで気を回さなくても良いよ? その気遣いを喜びはす、 るだろ う け  ど 」


 言ってる途中で固まったハージェストを見上げます。

 一点を見つめる沈黙の表情が崩れ、にへら〜〜っとなりまして。



 含み笑いを致しました。

 取り澄ましたよーな顔でもないのがオープンで良いですね。隠し事はなしですよ。


 「そうだね〜、気遣いだよね〜〜。君への気遣い〜〜   あはははぁ〜」  


 爽やかさとは掛け離れた何とも言い難い笑顔ですが笑顔でーす。口調があれでも笑顔の裏の感情は透けてるから問題なし!



 「この部屋の掃除といきましょう。お約束通り、はっきりしたのをお見せしましょう」

 「にゃーん!」


 ハージェストのが見られます! 自分で掃除をするんじゃないから、よー考えたらアウトだが気にしてはいけない。いけないのですよ〜  にゃは!


 約束が果たされる、気分が晴れる、嫌な事をさっさと上書きできると思うと良い感じ。落ちた気分を別の形で上げて貰って進みます。色々重なるから、ごちゃごちゃ混ざると危険です。


 急がなーい、急がない。一休み、一休み〜。ひゅ〜う。



 「少し離れてね。そう、そこで。えー、俺は掃除に水を使います。ですので、水を生み出します。使い易い形状は球ですね」


 見られるのはウォーターボールですか!


 「にゃー!」

 「あは。じゃあ、始めるね」



 立った状態で片手を横へと伸ばします。

 手のひらへ向ける顔、仕草、目が注ぐ位置、指が動く。それらを視界に収めつつ、俺は期待を込めて手のひらを見た。


 手のひらの上。

 チカッと光ったナニか。


 光りから生み出されると思って食い入るよーに見てたがナンか違う? 光りから生まれるとゆーより、それに群がってるよーな?  何時かセイルさんがオートでやっちゃってたよ〜うな…


 あ、そっちか!?


 力を集める光りを、んじぃい〜〜と見つめる。



 「力は無駄に流すものじゃない。自分に見合ったやり方を取るのが大事。ごめん、君が期待する程に見えないかも」

 「…なーうぅ」


 それはもうわかってる。 …ごめんな、断言してる上に気を遣わせてよ。風と違ってちゃんと見えてますから大丈夫。スキルの違いですかねえ? 


 これが空気中のキラキラやチカチカを引き寄せるのか?とゆー検証もしたいのですが… それより早く消えそう。この光り、もっと見ていたいんですけど。





 過程が全く見えないままに、まる〜い水が  …ん?   まる〜く水が?   …まぁ、浮かんでた。

 


 「この形状を保つには水だけでは不可能。流動の活用には器が要る。でも、器が固定化され一定の強度を誇るなら掃除としての活用は難しい。ぶつけて濡らすだけなら掃除とは呼ばない。単なる水球と掃除に活用する水球は構造が違う。最初の構築方法から違うんだ。


 水も、包む器も、常に中心に向かって引っ張らないと。それを理解できないとちょっとねー。もう良いよ。どうぞ、こちらへ」


 「にゃん!」


 しゃがんで差し出してくれる水の玉。


 玉の中、真ん中に小さな光りが消えずにありました。風とはやっぱり違うんですね。中の水がくるりんくるりんしています。ちゃっぷんしてるのは内部に空気があるから。


 「なーう、ななななー」

 「掃除用ですから。満杯だと上手くいきません」


 え?  …あ、そうなんですか。


 覗き込む水の玉は不思議。真ん中の光りが水以外の何かで見え隠れする。それに器だろう空気の層がわかります。猫髭センサーにつんつんするんですー!


 「なーにゃがにー?」

 「危険性? それは見たら早い」


 床にコロンと転がした。



 ウォーターボールは転がります。床を転がり壁に当たり、跳ね返って軌道を変える。仕事机の下に敷いてるカーペットに乗り上げ、真っ直ぐ進み、机に当たってまた向きを変える。

 

 そんでコロコロ転がってハージェストの手に戻る。


 「ほら、ちゃんと取れてる」


 玉の中、ちゃぷんと揺れる水が汚くなってる。


 「掃除なら俺は断然、水派です。書類等には不適ですが内へと汚れを取り込むやり方は埃を立てないし、設定も容易」

 「にゃー!」


 なんて便利なウェット吸着クリーナー!

 

 「自力で転がし続けるのは面倒いし、同じ場所の往復だけだと無駄だから転がす方向性の流れを決めておく。そうすると放っといても大丈夫。応用を加えて上手くやれば壁や天井もイケるよ。  …これは無理だけど」

 「うにゃー!!」


 全自動掃除機なんて家にはありませんでした! なにこの羨ま、 ウラヤマーー!!  全自動掃除玉、『ニャンダ』と名付けても良いですかーー!?



 「指向実演してみよう」

 「にゃっ?」


 床に置いたら、向かって指を動かした。


 「なー!」


 指の動きに合わせて回ってるー! 動いてるー! 当たり前ではない当たり前が目の前でーー!!



 「これを操ると言う人も居るよ。学術的に言えば指向性を持たせる事の意義を一見の価値で示してるだけ、なんですけどねー。あは」


 えー? 『あっち』の実演は操るなんか? 操る…  道具を上手に操りまーす。道具が凶器か日用雑貨かで違ってくると思いますが、それを誇張に吹聴してれば印象操作も可能でしょーか? 煽って人様やっはーん。  あえ? …人様、煽ってやっだーん?


 


 ついっと指を動かすと、ぽんっと跳ねてった。ぽんぽん跳ねるのがゴムボールみたい。ウエットな吸着が跳ねるのは形状の所為ですよねー? 転がると汚れてく…  なんて仕事師さん。 


 「なー」

 「それは窓際で見ようか」


 カチャン、キィ…


 窓を開けたら風の流れが生まれます。お天気良い所為か、すこーし風が熱いです。窓を閉めてる方が涼しい…   あ、下からの冷気が回ってるんかな?



 ハージェストの抱っことゆー素晴らしい特等席で見守ります。 

 掃除玉がくるくるくるっと高速回転に入りました。回転軌道が少しずつ大きく、勢いが強くなる。 


 「にゃっ!」


 音もなく掃除玉が宙を舞う! 

 目の前をぽーんと通り過ぎ、窓から外へ。ひょーっと地面に落ちていく。地面まであと少しの所で煌めいた。



 ぱしゃんっ   


 割れて汚水が地面に降り注ぎ、黒い染みを作っておしまいです。はい、掃除終了。 ……掃除玉には自走式を組み込むのが当然なのか!!

 

 「引っ張る力の応用で、下と繋いで最後の疾走を可能とします」


 猫は疾走の可能性を探ります。

 引っ張る力、繋ぐ力、離れて飛ぶ。遠心力に向心力。


 お手々を繋いでぐるぐるぐる。ぽーいっとするのは砲丸投げ。飛びます飛びます、飛んでいきます。 ん? 違う? 砲丸投げは本人が回して飛ばす、飛ばす人がいる。それだと下ではない?  壁もイケると言いました。なら、壁も下に位置します。 下との繋ぎ…  下と手を繋ぐ…   下…



 捨てる時は、スイングバイかああああっ!?







 ふ、ふははは。

 ぷしゅーっと猫が放熱したら危険です。興味が出た方を優先しよう。


 「にゃー」

 「え? もう一回?   ええと…」




 作ってー作ってーと猫強請りをし続けた結果、見事勝利しました。さっきのより小振りです。


 「これは飛びません」

 「にゃーあ」


 はいはい、全く問題なく。良いんです、そんなの。わかるでしょ? だって猫ですよ?


 「じゃあ、はい」


 床に置いてくれた水の玉。

 水と床の間には何も無いけど何かある、この不思議状態。空気の器って面白い。生まれたての透明な水、その中の煌めき。この術式の核。


 「…あは、そんなに見る物?」

 「にゃーああ」


 もちろんですよ! この光りが俺を助けてくれる光りです。 …欲を言えば、もっと強い光りが良いですがそれは言ってはいけません。では、始めましょう。


 「にゃん」


 コロロロロッ…    「にゃっしゃあああああっ!!」


 ずささささーーーーーーっ



 「え?」


 きゃ〜〜〜〜〜〜〜。



 ぱしっ!      ……トンッ   トーンッ    「うっみゃああああああっ!!」


 ざざざざざーーーーーっ



 「…あの」


 きゃ〜〜〜〜〜〜う。


 

 たしっ!   すたたたたっ!   …オーライ、オーライ、オーラ〜 イ〜〜   今だ!    「みゃーーーーあっ!」


 いえー、ナイス自分キャッチーーーー!!   あ、落ちた〜。  ちぇーっ、失敗。この爪が使えたらねー。




 猫はボールで遊びます。

 右へ左へ転がして、自分で、止めてまた転がす。飽きるまで延々と一人で遊べます。猫遊び、猫遊び、ねこのあそびぃい〜〜。 

  


 そーれっ♪   いやっほーーーーう!

 

 ぱしっ   きゃ〜〜〜。   ぺしっ   ひょ〜〜う。   にゃんぺっちにゃんぺっちぺちぺちぺちぺちぃいいい!!



 「あ… 床   綺麗に  した、けど。整え     意味が… 」



 高速ずささささーーーーーーっ!!  からの、ちゃちゃちゃちゃちゃーーーーーーっ!! 




 「……違うな、そんな事こそ些末な事だ。あんなものをこんなに喜んでくれる。気晴らしになってる。すごく良い事だ。 ……どんな物であれ、君の為に作った物をあんなものと言う日が来ようとは。  ふ」



 

 右へ左へ猫は全力投球しました。 

 スライディングに飛び込みまでして夢中になって遊んでました。遊び過ぎて疲れましたが、実に良い汗を流しましたよ! さ、今度はお腹が訴える前に朝ご飯にしなくては。


 「そろそろ終わりますか?」

 「にゃー」


 水の玉も汚れた。もう一回して正解でした。 …俺の体もこれでコロコロしたら綺麗になるかな?

 


 「こっちにお願い、捨てるよ」

 「にー」


 ラストのお誘いに笑ってやりました。えいっ!と、力を入れたのは確かです。にゃーんぱ〜んち!とか思ったのも確かです。



 


 ぱしゃんっ  


 「にゃ、にゃああああっ!」



 水の玉が水に変化あああああっ!!


 な、なんで割れるんですかーー!? え、どーして!? いきなり割れて水がばしゃっと! 汚い水が床に広がって…  カ、カーペットに向かってくーーーー!  うそん、止まってえええっ! 


 つ、つくつくつくつく 水がつくーーー!   ぎゃーーーーーーーっ!!  カーペット様に染み込んでくーーーーー!! 


 ゆ ゆ ゆ、 許してくださああああっ!








 「え?  …ナニしたの、君?」


 破砕音が響き、砕けるのを見た。

 硬質な音と共に、俺の構築が跡形もなく砕け散った。砕けた勢いが溢れる水に指向性を持たせて流れていく。

 

 床に広がる、汚水。


 「にゃん! みにゃん!」



 飛び跳ねる慌て振り、どうしようと見つめる目。動かないといけないのに見てしまった現実に突っ立ってしまう。


 どうして俺の構築が砕ける? 感知する力もなければ、ぶつかり合いもない。一方的な…  そう、とても一方的な…  あれは力で砕いたと言うんだ。兄さんもそれはやる、やるから知ってる。


 なのに、ナニをどうしたのか。さっぱりわからない。





 気付けば握り締めた手のひら。

 見たのは恐怖。そして覚えるは、この上ない興奮。これに引いてどーする。


 爪が皮膚に食い込む痛みに手を広げる。自嘲はしても自虐はしない。俺はしない。自虐で満足できるよーなちっちぇー現実なんぞ要るか。


 向上心なくして望める物などない!!



 「なーああ!」

 「あ、ごめん」


 「みぃ〜  み、みにゃ… みにゃあ… 」

 「ああ、気にしない。君の足が汚れるだけだよ。床が濡れたなら拭けば良い。 …全部術式でやってたら掃除道具の需要をどうするのさ? できない人だっているんだよ? ねえ、人には時として諦めと呼ばれるとてもとても強大無比で無慈悲な〜〜 あー  あ〜ははは、要するに覆水はふくすいですよー。汚したくないなら日用に使うなって話で、日用で使う物を汚すなと怒るのは頭がおかしいのです。 ほら、こっち来て」


 そっと抱き上げる。




 爪で引っ掛けたんだろうか?と言われると、遠くを見てしまう。

 腹の上でも気を付けてた。無意識に立てようとするのを意志で堪えた。今も噛み付きもせずに頑張った。肉球だけで遊んでたー!と力説されても…


 ええまぁ、確かに実際(物理)問題でもあるんですが…  君のその小さな爪で破砕が可能なら、その前に君の髭が巻き込まれてるはずなんですが?


 椅子から動きたくない、やる気が出ない。ああ、腹が減ってるからか。頭が回らねえなぁ…  掃除させるのに呼ぶか。なら、どっちにする? …リアム、あれはまだ駄目だ。




 「ギルツ、居るか」


 待機しているはずの扉に向かって呼んだ。







 ギルツさんのご登場に猫は逃げたいです。汚してごめんなさいから逃げ出したいのではなく! そう、猫仕様がだな…  狼狽えるな! 堂々としたもん勝ちとも言うし!! 


 「入ります」


 うわ、冷血で冷徹な蛇様のお目がああああ  猫を 猫を ねーこーを〜〜  ロック・オンしてる…  怖い。


 いや、恐れるな。頑張れ、ちび猫。負けるな、ちび猫! 蛇は猫の玩具だぞ? 玩具に負けてどーするよ! にゃんぱんちで攻撃だ! 違う、正面攻撃は危険だから背後に回って飛び掛かり、頭をがぶっ!で振り回そう!!


 巻き付かれないよーに首をブンブン振って蛇を振ってえ!  あ、首が 首が痛いです…




 「すまん、撒いてな」

 「…床を濡らした程度、お気遣いなく。でしたら、少々失礼しまして」


 「頼む」


 ドアを全開にせずに外の人に頼んでます。ドアの前から動かず、その場で上着を脱ぎ、シャツの袖を捲る。 …おおお、鍛えてんなー。


 それから、返事に顔を覗かせ、上着を渡し、ブツを受け取って閉めた。



 手にはモップと桶。



  


 ジャッ…  


 ジャボ ジャバッ     ポタ、ピチャ…



 ああ、なんとゆー事でしょう… 


 かっこ好い冷血漢様に床掃除をさせております。モップが吸い取った水を手で絞ってます。申し訳なさに猫はハージェストの腕の中で小さくなるしかなく… 元から小さいですが…


 しかし、ギルツさんは手際が良い。慣れてる感じでテキパキです。終了前にノックがしたから中断して開けに行く。


 「何か?」

 「これを」


 「…助かる、感謝する」


 受け取り、ドアを閉め、ドアノブに引っ掛ける。


 隅に置いた桶へと行きまして、またモップをジャーッと絞ります。お疲れ様です、有り難うございます。最後にモップを壁に立て掛け、引っ掛けたタオルで手を拭く。拭き終われば、また拭く。はい、タオルの半分は濡れてます。半分は乾いてます。


 その心は?ですよ。

 タオルを差し入れた人は声で判明、リアムさんです。なんて素敵な連携でしょうか。 つか、皆さんやけに慣れてない? 段取りが良いですよねえ。


 

 その間、椅子に座って、ずーーーーーーーーっと俺の首を撫でてくれてるハージェスト。ええまぁ、上下とは何かを思い知るナニかです。ですが、首のマッサージは大変気持ち良いので続けて下さい。もうちょっと、もうちょっとで猫ゴロゴロ言いそう…



 「片付けるのは待て」


 廊下に出そうとしたギルツさんを止めました。





 これからギルツさんがウォーターボールを作ってくれます。作れと言われて、何故とも返さないで作られます。 …これ、当たり前で良いんですよね?


 「では」


 はい、できました。ポーズを取ったらできてます。 …ナンでしょう、このワクワク感の無さ。ハージェストもリリーさんもそうだったが誰も呪文を唱えません。スキル名も唱えません。するとしたら、初心者オンリーでしょうか? 初心者? いや待てよ〜? どっかで    今、気にする事じゃないか。


 しかしだ、できる人は全員こんな感じか? 詰まらんのだけど。



 それにしても直ぐでした。 …構築を理解して、俺にはわからん技術も同じだとしたら〜〜 ほんとーに魔力量だけの問題なんか? 


 ゲームならLevelが上がらないと修得は無理だが、こいつは勉強してるから理解してる。実技ができないだけで。それだけで、こいつはレッテル貼られる。


 できる頭で、できない。


 いや、できない以上はダメで当然だ。できないんだから。


 んだけどナンか、頭でわかってても確かにナンかものすごくですねえ…  指定された、同じ内容の、同じ術式を、僅かな時間差で、しっかりと、見ましたが。 ナンつーのか、こう…  お。




 ハージェストが立つので、マッサージに顎台は終了です。猫は両脇持って貰って空中移動。はい、ダウンして〜 膝上に猫足タッチ〜。


 「その上に手を。そう、それで良い。  お待たせ、さっきと同じ様にやってみて」

 「うにゃ?」


 桶の上、腕捲くりしたギルツさんの手。手に水の玉。これをにゃんぺっち。



 ぺちぺちぺち。

 ぷよぷよぷよんっ。  …なにこれ、楽しい。


 ぺちちちちっ。

 ぷ、よよよよよんっ。  ……いやあああああっ!! 猫殺しぃいいい!!




 「にゃーーーーーああっ!」


 高速ぺっちで猫大興奮!!  猫手に猫腕が止まらない、止められないぃいいっ!





 「あの… ハージェスト様」

 

 楽しくぺちってたらギルツさんが困惑された。しまったね。はい、すっはー。落ち着きます。




 爪を一本、にょきっとしまして。これでぶすっと致します。自分で言っといてアレだが爪で割れたってのは、かなり無理がある。  


 「お試しは確認です」


 ハージェストが猫手を取って、よいよいよい。猫手遊びに仰ぎ見ればにこっとするから、俺も釣られてにこっとね。


 


 パリンッ!   ばしゃん。


 「にゃ?」

 「な!」


 仰いだ顔を下げると割れてた。ギルツさんの手が濡れてます。  …えー、あなたはナーニをしてるんですかあ?








 破砕音は暫く聞きたくないと思える程に、よく聞いた。次から次へと実に良い音で破砕してくれる。繰り返しにギルツが無表情になっていった。


 幾つか作り出せと命じて、出てきたのは強度と厚みを増していた。それらを悉くカシャン、ガシャンと苦もなく壊していく。硬化に軟化、打つ手の全てを砕いて力の証明をしてみせた。


 その証明に力を感じないのが怖過ぎて、正直困る。



 「なーあああああ?」

 「え? あ〜〜  そっちは止めよう。うん、牙での確認は止めておこう。こうなると影響が出るとは考え難いけど…  口に含むのは注意しないとね」


 「にゃん?」

 「俺? もう少し回復に時間が… 」


 「にあっ!?」

 「それは違います! さっき地下で使ってまして」


 「…にゃーあ」


 早く言えと、ぽふぽふ叩かれる。あー、可愛い。凶悪さが可愛さに負けてる。






 ギルツさんの前で着替えるのに、ちょっと吃驚、躊躇います。しかしそれより「人が来て〜 猫が出て行き 数が合う〜」と歌われる方が大問題。


 それに大前提を確認する最良の機会です。さ、ちょっと離れてお着替えしましょー。




 「今日は早いね」

 「そうですか? こんなもんですよ〜?」


 しれっと返したが自分でも最短記録だと思う。ドキドキしながら、ギルツさんを見た。



 「今日は光りが見えなかったけど?」

 「へ? あ、部屋?  あー、元々は出ないものでございまして」


 「そうなんだ」

 「いやほら、こっそりが基本だから」

 

 普通な感じで話すがギルツさんの目が…  笑って〜   ないな。





 ぐう〜〜。


 お腹が空いて鳴りました。自分の腹によく空気を読んだ!と誉めてやりたいです。



 「こんなに朝食が遅くなるとは思わなかった」

 「あははは、ほんとー」


 ですが、このままでは行けません。思い切って行動するのです! てかさぁ、自己主張しとかないと。


 「ギルツさん、俺は人です。でも、さっきの灰色猫も俺です。正確にはにゃんぐるみを着こなす事ができる人でございます!」

 「にゃん ぐる、み?  ですか?」


 あ、しまた。また説明がめんどい。



 「今のお姿と先ほどの姿。 ……この二つの気配が異なるのも力の内ですか?」


 ……成功しております!! いやっほい! 


 だが口調が静かな分、怖い。そう思うのは偶々でしょうか?



 蛇さんを前に固まってたら、ハージェストがリアムさんを呼んでた。




 「お一人にしてしまい、申し訳なく。思った以上に時間が掛かり不安にさせました」

 「あ、あう。  えー、いぃえ。 あの、おかしい対応だったとは思って…  おりませんので、はい」


 「考えが甘く、人数の言い訳は心苦しく。今後の課題として対応方法の検討をさせて頂きます」

 「あ…  有り難うございます」


 リアムさんは大変前向きな人で…  前向きって表現で良いんか、コレ? 


 「つきましては、検討が固まりましたら検証実地にお付き合い願いたく」

 「はい?」


 「最終段階でなければ許可は出さん」

 「諾」



 俺の返事の前に決まってったよ…

 

 でも、傍に居てくれたら猫にはならんかった。なるはずない。そしたら、今とは違う未来があったはず。エイミーさんにしても違う未来になったはず。違う未来がマイナスであるとは限らない、はず。人の俺の行動から生まれたであろう違う未来。 


 …難しいやね、無い過去を惜しむのは。




 「…先ほどの子猫はノイ様の魔成獣ですか?」


 小さく囁かれた事にピンと来なかった。一つの単語に引っ掛かり、ぐるぐるし出すと他の単語と構成が文字分解引き起こして集団逃走を始めます。そしてリアムさんの視線がお守りにあるのにも、頭がごちゃごちゃしてくるです。


 最短記録の着替えは上手くない、それは理解。



 「失礼、今のは流して下さい。物事の順序を偶に間違えてしまうです。偶々です、何時もではありません。 …本当ですよ?」


 正直、ホッとした。力説っぷりと戯ける仕草に笑います、気遣いが見えますから。  …答えなくて良い事でホッする。する時点で猫道が険しくて遠い証明。嫌だなぁ、ほんとにもう。






 リアムが謝罪をしている間。

 ギルツに虫への対処を話す裏で、口外を禁ずる。


 『語るを許すは、あの三人。同一である事を知らぬ代わりに、お前が知らぬ事実を知る』


 何時も通りの了承に頷き返す。


 「それで調整を図れ」

 「は」


 まだ少し固い表情に笑む。


 『叩かれた事実を直視しろ、戦闘が全てでは無い』


 「向き不向きもあろうが見極めも大事だからな」

 「はい、見極めを誤らぬよう努めます」


 表向きは警備兵達への指導要領で終え掛け…  追加する。


 「レオンも鍛え直せ」

 「…心構えの一環を説いておきます」


 「できぬなら双方の人選を変更しよう」


 急速に己を取り戻し、唇で承諾を告げるギルツに笑い返す。



 『偶々、当たった。それで知り得た。そう思うと楽だろが?』

 『……大当たり ですか? 引き当てる幸運は使い切ったと思っておりました』


 『…あるから使い切ってないんだろーが』


 苦笑を含むのに、消えぬ過去はそれでも過去だと笑ってやった。






 「お待たせ、行こう。お腹空いたね」

 「ん、空きました」



 笑って部屋を出、廊下を行き、兵へ労いを掛けて外へ出た。陽が十分に高い…  そして、それなりの日常に戻る為に剪定の必要がある。


 この手配、やはり俺の役割か。元を辿ればアズサに行き着く。なら、責任を取るのは俺だ。それが責任の所在だ。



 「もう怖くない?」

 「へ?  ……気分的には、へーきです。積み重なると押し流されてしまったよーでして」


 「その方法は適切で不適切な気もしますが〜〜」

 「はは。でも、ほんと今へーきだから」


 「それなら良いけど」


 後ろを歩くリアムにも笑顔を見せる。気遣いを忘れない君は素敵です。

 





 振り返りますと、ギルツさんとレオンさんに警備兵さんのお一人がお見送りしてくれてました。


 ちょいと頭を下げておく。

 反省に似た気分です。自分で掃除を言い出しておきながらハージェストにさせ、自分はタマで遊び、そしてギルツさんにさせ…  再びのタマ遊びで、またギルツさんに掃除させたのは…  タマタマなのです。ええ、最後までタマ遊びをさせて頂いたのは〜 ほんっとーにタマッタマでございます〜。わざとではありません〜。





 「あ、ツバ   メ?   違うか」



 上空を飛ぶ小さな黒点。


 見間違えた鳥の姿に、街道。男の人が叫んでた。似たような言葉で、どっちだと叫んでた。








本日の国語辞典。

 

向心力=求心力。


世間的、皆様的には求心力の方でしょうか? 最初に2が口にしたのは求心力でした。そして、某うにゃらららも含め『遠心力と求心力』でと思ってました。


それを、時の流れを遠く見つめて1での言葉遊びにした次第。





Swing-by。


探査機等を宇宙にぽーいと送り出す、速度や方向を変える技術で重力アシストとも言われます。バイバーイってな感じを行ってら〜に変換するととっても良い感じ。




今回の辞典は皆様に向けたものとするより、本来の2の言葉を曲げた自分への〜 反省で自戒。 小さなコダワリでございます。



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