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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
153/239

153 蹴りを入れて良しとする




 「それはやめろ」 

 「グアアアー」


 セイルさんと代表の竜がぐだぐだと何か話しておられます。お腹確認の儀式はまだまだ続いていますので、その間に一人と一頭の話し合いが行われています。セイルさんの駄目出しに、「そんな殺生なー」な感じの攻防がですねえ…


 猫耳ピクピクで竜の言葉を聞いてますが、わかるよーでわからない。でも、動かない表情なんてない。わかり難いけど〜 動作を含めると〜  なんとな〜く。 そう、なんとなく〜な感じで。


 「グア、グア、グアア〜、ア〜ア〜ア〜〜」



 「えーと…  今のを訳すとだね」


 ハージェストが的確に補助を入れてくれます。そのお蔭もあって、竜の表情情報が蓄積されていってま〜す。なんてね、ほんと〜はよくわからんのです…



 翻訳に、猫目と猫口がうにゃーんになります。


 『先っちょ、先っちょだけで良いから。もうほら、こーんくらいの先っちょだけで良いから 入・れ・さ・せ・てえええ〜〜〜』


 こう言われているそうです。

 ハージェストの訳し方もなんかアレだが、セイルさんにお強請りする仕草が… 多分きっとおそらく大変可愛いと思われ。襲い掛かってるよーにも見えて微妙な可愛さですけど。


 竜が入れたいと言ってるのは爪です。はい、前足の爪です。エイミーさんのお腹の某部分に爪をぷすっと突き立て、ぶすっとでかい穴を開けたい模様。


 

 「飲み込んだ石が体内で癒着する。普通の石なら有り得ない、魔石の場合でも考え難い。魔石を飲む事は…  まぁ、俺もした事あるけどねー。後先考えずにやったんじゃなくて、後の事なんざ考えててどーするとガリッといきました。ええ、あれはとても大事な時でした。


 結果は、勝って負けました。肝心な事で負けたので他で勝った意味なんて。  ふ、ふふふ。チャラなんて言葉じゃ、ちょーーーっと間に合いませんでしたねえ」


 頭の上から響く低い単調な声もあれだな。怒りと笑いを取り混ぜ、別変換したものを何と言うか?



 「にあん」

 「あ、ごめん。そんなつもりでは」


 恨み節があるのでしょうが、そんな事をずーーーーっと言って当たり前な人とは付き合いたくありません。聞いてて気持ち良くないし、俺自身が…     ええ、それこそ穢れを纏ってるみたいな。 はぁ。 前を見ようとしない人と一緒にいても楽しくないですよ。一緒に歩いていこーなんて思いませーん。 …おかしい事なんか言ってない。俺の常識、おかしくない。


 おかしい言うなら蹴り入れたれ! 


 …待てよ、逆効果か? 鬱陶しい状態になるだけか? 相手がおかしい言った時点で離れて傍に寄らない。これが正解か? でも、それしたら好き勝手言いそうだよな〜。『反論しなかった。できなかった、やーい!』に変換して自分の方が正しいみたいに。


 より強く蹴りたいよーな…



 「強過ぎる力は良くない、それは誰だってわかってる。わかってるのにねぇ…  残念です」

 「にゃっ……」


 ナンだかなぁ…  でも、お腹ぶすっはセイルさんのお蔭で回避できそうで…  す? すっすっす?



 「にあ?」


 「取り出すには裂くしかない。体内で石の力が発動してる、腹の中が冷たいんだよ。あの石、人体に取り込んだら無条件で発動する仕組み?」

 「に、にあ〜〜?」


 む、無条件発動って…  なんですかい。そんな怖いもん、俺も知らないよ。つか、人体で発動って… まじ? だって、あそこですよ? あそこの石ですから普通なら祝福系じゃないの!?


 「わからないって事は〜  事後でナンだけど、発動を強制終了する事はできる?」

 「にゃにゃん」


 思いっきり猫首振って否定しといた。


 「そっか、うん。路線は間違えてなかったな。で、もう聞いて良い? あの石は何の為の石? ドコか違うと思うのは、その、 強い人が構築したからで正解?」

 「にゃ…  にゃあん」


 「え?」


 それは間違いですと正直に答えたが、あそこの説明を思うとそっちで通しておけば良かったんだろうか? いやもう遅い。それに根本的解決には至らない…


 「……違うの?」

 「…にあ」


 「ええと、じゃあ活用方法とか知らないって事?」

 「…にぃ」


 「…まさかの天然石?」



 天然。

 天然で冷たい…  じゃない、冷たくなる石…   そうか、アイスストーン!  それで正解か!!  んあ?  あれは冷やして使うんじゃなかったっけ? 水ぽちゃだと冷凍にならんが…



 うああああ! 頭がぽんっといくから冷やしたーいっ! 水、水、水、水、みぃずぅううう〜〜。   わお、みみず〜う。 




 …しっかりしろ、俺。水だ。

 

 水はあそこの水だから保ってると思ってた。良い水だから、しっかり汲んでけが。それでも、やけに保つな〜とは思ってたけど…  んでも此処はふつーの世界ではないし。その世界の中でも、あそこは特別だと…


 水が保つ理由が石にあるとは考えもせず…  待て待て、まだ確定では……    水ん中…  洗って干した…  水気に触れてスイッチ・オン? あそこで既にスイッチ・オン? それともあの水から引き上げたらスイッチ・オン? 引き上げた後に水に浸けたら?


 体内… 体液…  血液… 水分…  人体における水分量は体全体の何割を占めるでしょう?


 

 いにゃん、怖い〜。体内で水分がじわじわ凍ってくとか考えたくなーいっ!  ん? それって石化と同じじゃね?



 ……はい! 思考を切り替え先に進みましょー。えー、俺が貰ってきたあの石は保冷効果プラスでいーんだよな? それにもしやで自浄効果もプラスとか?


 『特別な場所にあります特別な石でございます。此処を訪れた(余所の)方だけに振る舞う特別サービス。青の冷却石がある限り、汲んだお水は冷たく新鮮。とっても美味しい仕上がりです。あなたへ贈る美味しいお水、遠慮なくご笑味あれ』



 ピコペコと自分情報を組み立て直し、のーないアナウンスしてみると大変良い感じです。やっぱり青は水系統で正解でしょう。黒か黄色か青のどれにしようか迷った末に選んだ青は当たりだったか! 旅のお供にぴ〜〜ったり!


 それを… それが… そのよーな大層な石を使って人体凍結とか冷凍保存とか…  ひ、人殺しに使うなんてそんな怖い事は考えた事もなくぅううう!! だって日用雑貨でしょーーっ! 


 日用雑貨で恐怖発掘してどーすんのー!? そもそも、あったとしてもだよ? 日用雑貨で犯罪方法の構築とかそれをベラベラ喋るとかあんたそんなん常識回したら普通にりょーしきがだよぉおおおおおおおお!?


 きゃ〜〜 きゃ〜〜 きゃ〜〜〜    ぎゃーーーーーーーーっ!!




 「ど、どう?  あの、あんまり暴れ   …なにこの幸せ」


 胸にがっちりしがみ付き、恐怖の否定に頭をグリグリグリグリ押し付ける。やってもやっても全く恐怖が消えないので、しがみ付いたまま恐る恐る横たわるエイミーさんを見た。


 じ〜〜〜っと見た。


 降り注ぐお日様の恩恵をちゃんと頂いてるよーで、蝋人形のよーに白くて固そうな肌が時間の経過と共に解凍されて生きてる人の肌になってってる。そんで、よーわからん線がはっきりしてきた。


 あの線はほんとに何でしょーか?





 怖いと思いながらも、悠長にしていられたのはそこまでだった。


 行われる全頭検査が  ん?  …何か言い間違えた?  …全竜が行うから全頭検査で正しいはずだが?  ああ、検査する側とされる側が逆転してるから変に聞こえるのか。



 あっはっは、儀式呼びのほーが合ってるか〜  ふ…


 お腹確認の儀式が無事終了し、最後の竜がふんふんふーんとご機嫌な鼻息を出しながら横並びの列に戻って行きました。建物の前は広くてスペースがあるのですが、ここを囲う感じで植わってる庭木さん達が少し可哀想な状況でもあります。


 セイルさんと竜の間で話が決まったらしく、今度は代表竜がズズズイッとエイミーさんに近寄りました。他の竜達は動かないけど、興味津々とゆーか期待で胸一杯な感じで見守ってる。


 え? え? え? まさか?



 「に、ににに、にあ?」

 「ん? あ〜、裂かないと無理。浮き上がってきたなぁ…  そろそろしないと間に合わない、陽が早めたな。 現状で行うが妥当」


 冷静に、至極冷静に言ってた。

 縄目が何かわかりそーな気もするが、そうじゃなくてだよ!


 「竜はね、食事の一環として力を食う。力を食っていれば生きていけるとは言わないけどねー。天然石か〜 構築じゃないなら暴発もないだろ。条件の適合で発せられたのなら、基本の条件を外せば良い。それにこれだけの数の竜がいて食い負けるとは思えない。逆に食い負けたら恐怖だな…  ま、こっちの方が断然早い」


 わざとなのか本気なのか?

 見上げる顔は緊迫も緊張もない顔で、あまつさえ、柔らか〜〜〜〜〜く笑いやがった…




 腹を裂こうとしてるんです。竜の爪で。

 消毒した手術用のメスでも何でもなく、竜の爪でぶすっとやろうとしてるんです。嘘でしょ? でも、それを良しとしてるんです。皆さんが。


 だぁれも止めようとしない、この現実。



 目の前が暗くなります。

 衛生面もありますが、それよりも。それよりもですねぇ…   ええ、ええ、そんな事より。




 「も、申し上げます! 領主様、幾ら罪人であってもそれは好ましくありません! どうぞ、我らにお任せ頂きたく!」


 せんせーが必死こいて言ってくれた…  言ってくれたよ!! うわああああ! さすが、せんせーーー!! もっと言ってやってええ〜〜。



 「あ? 今は風も吹いとらんぞ。天幕や建物の中が最適だが野戦中だと思えば大した事でもないわ。それにお前達は見た事がないしな。我が家の竜の腕前を知る良い機会だ。取り出しに掛けては素晴らしいぞ。人の手腕など軽く超える、区切る技術は見習うものだ」


 「グルルルッ」

 「何と言っても自分の食い出。その辺は心配しなくて良い」


 セイルさんがこっちをちーらりーんと見て言ってた。あっさり俺の希望をちょっきんです。


 はい、聞きました。聞きましたよ。聞きましたけどね? 爪でやるこた変わらんのでしょ? それをやめんのですね。 へえ、ほんとにやるんだ。やーるーんーだー。


 ふぅううううん。



 竜がいそいそとやろうとするから。

 それを許してるから。


 だから、俺がぶちっ!となるのも道理でしょう。ええ、当然です。



 「え?」


 腕と服の中からするりと抜け出た。猫のしなやかさを活かして体を伸ばして静かにね。そこからルートを見定め高速ダッシュで参ります。 


 シュタタタタッ



 今できる精一杯の、にゃん蹴りを食らえええええええっ!!  



 ドンッ! 「グア?」


 「ふぅううううっ!!」


 実際に蹴り入れるには猫だと微妙でして。ライダーキックにヒーローキックはできません。だから、猫体当たりでいきました〜〜〜。


 横から竜の手首に一撃。

 しても、ちっとも効果がなかったです。なかったですが、動きは止まりました。体当たりから地面に着地。着地から跳躍。跳躍先は人体なので最大限に注意を払って体重を殺す。


 よし、成功。


 腹の上から威嚇した。見上げる竜は、竜は…  めちゃくちゃでかくて怖いです。ちび猫は一口でぱっくんちょされて終わりです。ですが、震えそうになる足に力を入れて立ちます。尻尾もピンと立ちますよ!


 人なら躊躇う事も飲み込む事も猫の俺はしません。致しません。ハージェストが指摘した。教えてくれた。何より、どちらも俺だと。人で言い難ければ猫でも良いから言えと。


 くれた優しい言葉が「蹴っちまえ!」と言ってくれてる。



 だからこそ、ちび猫は我が道を行く。

 肉球に感じるお腹は冷たい。でも、前足(左)の部分はちょっとあったかい!!



 「しゃああああっ!!」


 もう喧嘩は売った。いや、売られた。買った後に引いてどーする! 怖いなんて言ってられるか!



 「待て!」

 

 セイルさんが竜の行動を止めてくれた。

 俺をちょいと除けようと伸ばしてくる竜の手は、いや、爪は非常に怖かったですが、もっと伸ばしてきたら猫の竜登りで顔面アタックしてやるつもりでした。


 「グゥルウ」


 ぬ! やるか、ちび猫を舐めんなよー!



 「駄目だ、待て」

 「話すから待てと言ってるだろ!  あのさ、医者とは違うけど興奮は冷めてる。会話が成り立つ通り、竜は理知を持つ。故に最悪と考える程の危険はな「にぎゃーーーー!」


 わかってないんで怒っといた。

 誰もが良しとして守らないのであれば、俺が守ります。俺がこのお腹を守ります。俺が守るんです!!


 エイミーさんのお腹には赤ちゃんがいる!



 とか、そんなんじゃないっての! そんなん知るか、ボケー! 俺はお腹を守りたいのですよ! お腹です、お・な・か! わかりますかー!?  せめて医者だろが!!



 「あのな、怖く見えたのかもしれんがな? 大した時間も掛からんし、少しの間で終わるものでだなあ」

 「ぐにゃーーーー!」


 怒っといた。

 セイルさん、あなたもどーして気付かない!!  あなたも知ってるはずでしょー!!



 あ〜〜〜〜 もう、もう、もう! 腹が立つ!!



 「きしゃああああああっ!!」


 鋭い爪を腹ん中に突っ込まれてぐちゃぐちゃんなって片腕ぶらーんの最終きっらりーんになったってえのは  だ・れ・だっつーの!!  あーーーー!?


 人に気を遣うとゆーておきながら、お前は一体どこに気を遣っとるんじゃああああ!!



 最大級に猫激怒。

 これに黙ってられるかい!



 「は、い?  え?   ……そ、そんなつもりは! そんなつもりも!! ちが、ちが、ちがーーー!  待ったああ!!」



 これだけ言ってもわからんのなら、がっぷり噛んだるわ! 


 俺の腹に傷跡はない、背中にもない。死に至る大怪我を負った痕跡はない。その記憶もない。それでも何でか反発を覚える。ふ・ざ・け・る・な!と思う。黙ってやられたくないと、俺の心のどっかが猛烈に叫んでる。


 聞いた話を頭の中で繋げただけの、単なる思い込みである事を否定しません。何故なら叫ぶ根拠は感情です。どこか理不尽なこの感情。でも、嫌です。嫌なんです!


 腹に爪が突き立つ、皮膚を突き破って爪が肉に食い込んでいく。そこから血が流れる。それを目の前で行う…  許すまじ。



 これを言い換えた所でするのは一緒。

 エイミーさんだからじゃない、誰であっても同じ事を言うよ。



 ナンで、俺の、前で、そんな事をするんですか?  あなたは。  人を馬鹿にすんのも大概にしろよ。







 するっとお腹から滑り降りる。

 うーむ、猫座りに切り替えてたら俺の尻が冷えた。その代わり、冷たいお腹は俺の熱であったまった。


 降りたら猫体をぴったりして離れませんよポーズ。ロイズさんの時と同じ格好です。あの時は大変良い腹ドラムでした。



 お腹に猫手を置いて、可能な限り全方位を猫睨みします。


 「グアー」

 「にゃぎゃーーーー!」


 負けるかと吠え返す! 体格じゃねえ、気合いだ!!  それで負けるならそれまでだ!


 「キュッ、ヒュン!」

 「みゃぎゃーーーー!」



 ……あ、間違えた。アーティス、間が悪いなー。




 とりあえずの威嚇が済んだら静かになった。


 お腹に張り付き直して考える。怒る事でドキドキを掏り替えたんで、ちょっと落ち着いた。うーん、これからどーすりゃいーのか… 


 ハージェストの言い分である言い訳を聞いてる最中に、どーしてそんな間怠っこしい話し方をしてんだと思った瞬間、「やべえ!」と気が付いた。


 く、ハージェストの気遣いが身に沁みる…  怒ってる理由を人様にご披露するなんて、冗談でも嫌。ワイドショーは要らん。


 

 猫が我が道を行くには、まだまだ早かったよーだ…   はふ〜。




 心を静めます。


 もう怒っても意味ない。それに、『見たくないなら、そこに居るなよ』な話でもある。んでもさー、そーゆーのに気を遣ってなんぼじゃないのー? 俺は要求し過ぎなんでしょうか? 現物が俺のモンだから俺も見とくべき。現実を知るのにも、ちょ〜どい〜よね〜な話に変換されててもねー。もうさぁ…



 目の前の滑らかな腹。裂かないと取り出せない、早い方が良いのはわかる。皮膚に刃を入れないと出せない。  …俺の腹じゃないけどね。



 ぺっちぺっちぺっちぺっちぺっちーん。



 ぺったりしたままエイミーさんの腹ドラムの打ち始めにして打ち納めをしました。打ちながら、無事に取り出せます様にと猫祈願しときました。 …祈願するなら腹ドラムは木魚だろうか?  



 名残惜しく、最後に腹を撫でました。


 腹と言っても脇腹で、付属にどーしても視界に入ってしまう毛があれですが死ぬなよってほーが…   興奮かあ〜  最初ちょっとしたけどね〜。それは否定しないけど、現在も過去も理知的などーぶつは紳士を気取るのでーす。


 つか、空気読め。




 縄目ってのが段々はっきりしてきてて、手術時間を告げている。縦横無尽に体を取り巻く縄目に何でか黄色のkeep outを思い出した。立ち入り禁止テープ。そう思って見ると、縄目がお触り禁止テープに見えてくるよ。


 これ以上は俺の我が儘でエイミーさんにとって良くないだけ。服の中に帰還して、終わるまで猫は読経でもあげてよーかな? のーないで猫袈裟着てみよっかな〜。





 背を向けたら強烈な冷気にゾクッした。


 パッと振り向くが特に何もお変わりなく。お日様さんさん照ってます。しかし、ドライアイスが流れ出て、猫足にこんにちはしてるよーうな冷気を感じるのです。白く流れるもくもくは見当たらない。

 

 「何だ?」

 「力が急速に!?」


 「下がり、場を開けろ!」

 「駄目だ! 出るな!!」



 ギャアもグアも全部無視って、その場で猫睨み。


 じーーーーっと見てるがよーわからん。しかし、冷気はエイミーさんから。まさか! まさか死の最終段階!? うそん!  


 見ても見ても、そこに視認できる固体はない。あるとしたら気体。


 突然、お腹の真上できらきらきらーん。お日様の光りを浴びて更に元気にきらきらきららん? え?  あれ、発光源?  あ? うひょーーっ! きららーんのぺかぴかーん!


 光に透けて何かあるぅう!!




 「にゃー! にゃんががががー(サングラス欲しー)!!」


 希望を出したが叶えられず、無念の内に目を閉じた。



 「うにゃ?」


 そろ〜〜っと猫手で目を庇いつつチラ見する。光りが収まってたから顔を上げる。空中に輪郭ができてた。あっとゆー間に形に成って色が付いて落下です。



 ぽてんっ


 エイミーさんのお腹の上に落ちた。


 風のひゅるりにお日様さんさん、冷気は綺麗さっぱりさよーなら。すすすすすっと猫は即座に逆戻り。 …………間違いない、これは俺の青の石! 確定!!



 「にゃーーーーあ!」

 「ちょっと待てえーーーー!!」 「はああ!?」



 勝利の雄叫びを上げといた。


 必勝、猫祈願!! にゃーはははは! 



 それで他は知らんと言いたいが良くないっぽい。でも、理由なんて知らないですよ。それこそ、まほーでいーですわ〜〜。



 えいっと伸びをして、ちょいちょいちょいっと猫手でお腹の上の青石を引き寄せます。猫手で挟んでキャッチです。 …うむ、非常に無理がある。無理な体勢に猫腕がぶるう〜〜。


 あ、落ちた。



 こん、ころりーんと石が地面を転がった。斜面でもないし、勢いも穴もないから「待ってー」と叫ぶ前に転がり終了。にゃんにゃんと猫手で抑えにいく。


 はい、タッチ。俺のでーす。




 「…確かに光りに透けるとは聞いてたけどさぁ」

 「だからと言って人体を透過するとは、どういう理屈だ? あ?」

 

 二重低音の先に並ぶ顔。セイルさんは笑っているが目が怖い、隣のハージェストは脱力か呆れを全面に出してる。でも口元、ヘンに笑ってる。


 セイルさんが髪に手を突っ込んで頭を掻けば、ハージェストは片手で目を覆う。どっちもどっちだがセイルさんのセットされた髪があー。領主様仕様がワイルドにー。かっこいーけど〜。



 「光りに当たった事が要因か? 直射はしとらんが最後は直射に依って形状を成したとみる」

 「熱反応? 一定の保温なら体内にあった時にあるはず。熱源が起因?」


 「冷気が流れてから光りが発生した。つまり、それが透過を可能とした。力の放出」

 「冷気、水、光り、熱、   蒸気?」


 「形状変化、流動体である事が大前提か?」

 「そりゃ、固定は安定ですが」



 やってられるか。


 そんな顔になったセイルさんとハージェストは、何時かと同様に二人して意見をぽんぽこ出し合って同じ早さで進んでく。偶に混じる唸り声が怖い。


 「そっちか? ならば、発動した条件は?」

 「発動する総量が満ちたか、外部からの刺激では?」


 「総量か…  量を問うが無意味に思える。やはり、あれか? あれが刺激か?」

 「……猫の腹叩き。心和む可愛いさに勝てません」



 「……ああ、可愛い事は兄も否定せんぞ。せんがな」


 しかし、二人が動かないから他の人も動かない。 …皆々様の面白顔は貴重だろか?



 それにしても、この石どーやって持とう? 口に咥えて傷ができたらヤだなあ…  こっちをガン見してる二人に「持って」と頼むのも微妙。




 「…にゃ!」


 後ろから(竜達)の攻撃はどうなってる!   ……ジリジリと距離が縮まってるではないか!!



 「ふぎゃーーーーー!」


 寄ってくんなー! だるまさんはしてないーー!!



 アウトを叫んだら、停止した。


 逃げ道確保にキョロッたらアーティスが少し離れた所でこっち見てた。目が合ったら、尻尾がゆる〜くゆる〜く地面を掃き掃除する。目がキラキラしてる。


 よし、避難場所はあそこだ! いや、こっちへ呼ぶか!!



 「う…   ん」


 竜達との間の障害物。

 エイミーさんが気付いたらしく、コロンと首が傾いでこっちを向いた。ぼんやりした目で俺を見る。



 適当にザクザク切られた髪の毛。

 切れ残った長い髪が一筋、頬にはらりと掛かる。



 その姿に、どうしてか可哀想な気分になる。


 …どうして可哀想なんて思うんでしょう? もう試練は要らんよ? 許してあげるのが理想かもしれませんができません。『それ、後に続け〜』が出てきたら困ります。


 規律違反を感情で許す悪しき前例を俺が作るなんてじょーだんじゃないですよ。


 まともなら、そんな前例を自分が作ったとショックを受けますでしょ?  …受けないなら、無神経なのか他に思う事があるんじゃない?



 事の重大さが全く違います。


 全体に波及してるのに個人の問題で収まる訳ないですよ。収まらせてどーすんの? 間違いなくお裁きを受けて貰わないと他の方々に示しが付きません。可哀想となぁなぁで世間を渡っていけるなら俺は恨みが募りそうです。そして、それをしたくない。ええ、そうなるなんて 心外。



 後ろを振り返ると、二人は黙ってこっちを見てた。


 …悪しき前例なんて生み出しそーにないですね。寧ろ、前例を知ってそう。そして不備は潰してなんぼだと言いそうな頼もしさ。



 でも、可哀想と思ったのも本当だから。心って複雑。


 んでも、これって女の人だから? 男だったら「生きてますかー!?」とは思っても可哀想とは〜  思わないだろーしなぁああ…  リリーさんには到底敵わないけど、エイミーさんも綺麗系。今はお顔に縄目があるから〜   いや、あっても結構良い感じ? 顔にあるのにマイナスになってないよーな…


 美人、美女、美少女。


 美が付くか付かないかで大きな差が生まれる常理はじょーしきと呼ばれる常理ですかね?  うーむ、うーむ、う〜〜〜む。美醜差別で不当判決が言い渡されたら、間違いなく被害者側の怨恨がプラスですな。


 「ぁ… 」


 

 ちょっくら顔を覗きに近寄りました。






 それが甘かった。


 「んみゃううううっ!」


 目が正気を取り戻した瞬間、飛び起きたエイミーさんは俺を引っ掴み握り締めた。ぎゅううっとしてから投げた。力の限りに投げた。エイミーさん、ノーコン。しかし、上へぽーいと放り投げたんじゃない。


 ちび猫、受け身も取れずに地面と勝負。ずしゃああああっと横滑りしました。



 猫、起きれません。もうやだ。







 「アーティス、咬むな!!」

 「きゃああっ!」


 ドンッ




 『この小さいの、どーするの? どーしたら?』


 こそっと竜達が話してくるのに説明してた。その間にも様子見に寄って行くのに止めた方がと思ったが、したいようにと見守った。


 それが… それを…  あの糞虫!絞め殺そうとしやがった!!



 悲鳴にアーティスが牙を剥いた。一足飛びに喉を狙うから止めるしかない。





 「しっかりぃいい!」   「いやああああっ!」


 ボッ! 

 ボッボッボッ!!


 「アーティス、良し! それまで!    終われと言っとる!!」



 兄さんの怒声にギャー!と響く竜の咆哮。警備兵の「うわあっ!」に竜騎兵の制止が加わって、怒号が飛び交う。


 「あつ!」「消せ!!」


 背後で煽る火が周囲を舐めて熱気を振り撒くのがわかるがそんな事より!!



 咆哮の一撃を食らって飛び起きたが足を絡ませ、つんのめって顔面から再度いった…  起きない。起きないー!



 「大丈夫!? こっちには来ないから!」


 即座に両膝を着いて拾い上げるが、だらーんとして四肢に全く力が入らない猫。怖い。


 「うわ、うわ! ちょっ!」


 心臓の辺りに指を置き、鼓動を感じてホッとしたが伸び切った手足のぶらーん加減が怖い… 命に別状はないとしても、精神に異常を来している。命に別状はないと言うは他を簡略しただけだ!

 

 「ハージェスト様…」

 「大事に抱いてろ」


 時を同じくしてアズサの元へ走ったリアムが隣で片膝を着き、神妙な面持ちで手を伸ばすのに、そっと渡す。


 ドンッ 


 「だっ! …ぶねえ!」


 振り向く前に衝撃がきた。渡して良かった、助かった。


 「ハッハッハ…」

 「アーティス」


 俺の体に頭を擦り付けるアーティスの目が不平不満に色々言ってる。そのアーティスの頭を抱え込んで撫で回す。


 「我慢ばかりさせる。すまん、アーティス」

 「キュウゥウ〜」


 小さく鼻を鳴らすのに、また撫でた。文句を垂れる目が変わっていくのに撫で続けた。それからリアムが抱くアズサへと誘導するが  …する前にさっさと覗き込む。


 それでも安堵した。

 アーティスは正気で以前と同じにはならなかった。アーティスが認識している以上、どちらの姿でも理屈は通る。

 

 「アーティスから隠すな」

 「はい」


 「しかし、こちらは見せずにいろ」

 「は、必要とあらば背を   いえ、アーティスに前に居て貰いましょう」



 良しと頷き立ち上がり、周囲を確認する。


 警備兵と医者達は仕方なしとしても、竜騎兵である皆が裏で悪態を吐いているのはどうしたものか。そして、そこら辺の植木から何からに被害が出ていた。


 全てを視界に収め、気に病むに値せずと兄さんの元へ行く。


 「おう、どうだ? 落ち着いたか?」

 「いえ、伸びたままです」


 「そうか」

 「…ぅう。  ぃ!」

 

 「直撃せずに、と言うよりアーティスが外した。火が飛び散るのはどうでも、皆が石を目掛けて殺到しようとだなぁ…  俺が泣くぞ」

 「お疲れ様です」


 「く、ぅ  つっ!」

 

 「それで、この石だがな」

 「いぃいいっ!」


 会話を邪魔する煩さに、地面を跳ねる虫を見た。


 自縄が皮膚を圧迫している。

 食い込み具合に薄く笑う。ギルツが目で応じてくるのに良しとする。


 舌縄も弱まり、声が出始めた。原因が取り除かれ流れが生き始めた以上、痛みに喚こうとこの程度では死なん。オトそうとしてないから長引く程度。

 


 「良くも悪くも跳ねるものだ」

 

 兄さんの言葉に頷く。

 毒突きたい気分に靴音をさせて近づき、うつ伏せで呻く前に立つ。


 「実際の縄目がない分、辛かろう? 行動を制限する物があれば気持ちも違うだろうがな。『これさえ外れれば』 そんな希望を誰がやるかよ」



 上げた顔、地面を掻く手。爪先には土塊。足を伸ばして踏んだ。


 「ひっ!」


 手首よりも指先だろと、踵に力を入れて踏み締めて躙る。


 手が使い物にならなくなれば不便だろうが知った事ではない。紳士を気取る気もない。見合う事を見合うままに行い返した。遣り逃げされると腹が立つ、許さぬとするが常理。



 「い、いたいぃいい!」


 逃れようと体を揺らすが、その程度で誰がぐらつくか。



 半端だったのが更に捲れて尻が見えた。


 桶の中で塗れたはずの尻に付着物はない。兄さんの前に引き出すのだから小綺麗にするのは当たり前。しかし、そうでなくとも彼らは清めただろう。役目以外のナニかを心に有して為しただろう。


 意識を失う前と今と。

 違いに気付けぬ程に己が大事なら、他者など要らんだろうに。





 痛みに呻き、身を捩る。

 泣いたとて喧嘩を売った事を忘れるなよと思うから、大人に成り切れない俺は皮肉ってやろうと笑う。



 「ふん、汚い尻だ。吹き出物ができて潰れて黒ずみ、見苦しい。それが尻に幾つもあれば幻滅だ、肌の手入れもしないとは。それとも内なる力に頼って手入れを怠ったか? は、そういう浅はかさが衰えで如実に現れる。出来物を治す薬の一つも買えぬ給金は出してない。


 お前、本当に好かれていたのか?


 男でも女でも汚い尻なぞ見たくもないわ。 …ああ、俺のアズサは清潔好きだからな。お前の汚い尻と比べるのも馬鹿馬鹿しい程、綺麗な尻をしているぞ。


 はは、その場凌ぎの心根だから捨てられたのであろうよ」



 思い出すアズサの尻に実感を込めて嫌みったらしく言ってやった。虫を女扱いするのも馬鹿らしいが、虫が持つ女心をエグッてやれたのならそれで良し。


 気持ち良く笑えると本当に落ち着くな。

 


 踏み躙る(返した)だけで蹴らず殴らず、配慮を残し、自縄を引き絞りもせずに自制した己の気概を誉めなくては割に合わん。








あちらこちらと気を遣い、時短にその他を考慮してオープン形式で行った結果、「気遣いがない!」とその2にその1が怒られる件。



1が可哀想なので問題を。


問題、一。

1と2の違いが何処にあるから、こうなったのか?


原因を特定して下さい。





類似問題。

仕事と私、どっちが大事?



類似問題に対する私見。

色よい返事を求めるのなら質問形式を間違えてる。そうでないなら問題なし。



私見を元に類似問題から出題。


問題、二。

色よい返事を引き出したいあなたは引き出す為に、どの様な質問をされますか?   






はい、素敵な質問にして下さいませ。 にゃーははーん。





今回は某悪魔が歌う「蝋*形の館」を思い出しました。夏のホラーにぴったりな悪魔歌なので推奨はしません。


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