149 覗き込む
聞くこと聞きましたが、グサッとやられもしました。
通常、そんな事は無いとゆー優しい否定の言葉が続くと思うが… そこにめんどい・しんどいって言われたら泣き出す女の子いるんじゃない? 「なんでそんな酷い事言うの!?」って怒ったり、ショックで黙って落ち込んでいくのを想像する。
…あわ〜い恋心、あったら消えるだろーな。付き合ってても「別れましょう」になりそーな気がするな。逆にそこから芽生えたら〜 すごいよ。
真実、本音が返ってきた。
適当に合わせられるよりはいーと思うが、やはりこーなると相手について行けるかどーかが問題なんだろう。俺ならあーゆー返事をしたか?と思うと、俺とこいつの違いがきらきら輝いてる。
こいつの学生生活、本人どーでもいろーんな意味で充実してる。 …自分と比較する俺は阿呆だろか? まぁ、阿呆でもいーわ。
俺の頭に欠陥があるとゆーのは、わかったからな。どこに繋がってんのかわからん完全な抜けを理解した。言葉を覚えられないと恐怖した抜けをとーり越す、完全に抜けた穴を発見したわ。事実に回帰ってーのにも頷く。
地雷を踏み抜いたよーなこの穴はなんだっての。
繋がってない記憶は俺のだ、繋がってないだけで。摺り合わせに「そうか? 違わねーか?」と思って聞いてたが、心配から優しいコトを言ってくれてると〜 も、理解してるが違うだろうか?
さっきのは決定打だった…
『あの時は痛くなかったのにー!』
ぶち切れる寸前に食らった痛みに、俺の中からコレが出てきたからなあああああっ!! キョーレツに実感したわ! し過ぎてぷっつんしたけどな。
「そんな顔はやめましょう」
いえ、そんな事を言われましてもね?
「眠る前に行う反省には注意が必要です」
「はい?」
「反省してスパッと済むのであれば良いのですが、何時まで〜もズルズルと引き摺る人には睡眠前の反省は有効ではありません。夢の中でも引き摺る傾向があるので、夢見に寝覚めは良くないと言われています。はい、今の君ですよ」
正論で諭されました。
しかし悪いが違う、どっちかってーと今は腹立ってる方向。
「俺が君に教えてあげられる… 細やかな事の一つは、気持ちを払拭してから眠ることです。それと、今直ぐ疑問に答えを出さなくて良い現実です。制限時間を掛けられた物事ではないのです。一回ぽっきりで終わる調整の摺り合わせは、ほとんどないですよ? できるのが理想ですが流動する現場では中々。状況の変化に対応できる者が強いのです」
きゅぴーんと閃いた!
ちび猫、進化ーーー!ではなく。ちび猫の真価は何だとも思うが、それじゃなくて! 変化に対応。 『変われる』 『合わせれる』 ですね。ええ、はい、ちゃんと。ちゃんと、ココに。俺の内に。俺の中に。過去の自分が。過去に自分で。他人から見れば不格好でも何でも。
あります。
積み上げて、きています。
少し力が抜けました。
「対応できないのは本当に使えないしー」
…そっち方面の愚痴はまた今度でいーですか? 耳に痛い部分もあるんで。
ハージェストの言い分と俺のは合致してない。最後の一言に、俺ののーみそが「それはこれだー!」と自分のアタリを引っ張り出してきて「そう、これこれこれ!」と喜んでる。それで現状が変わる訳でもないのですが、少し嬉しく。 …いや、がっつり。
積み重ねの中から「これだ」と出した。出せるモノがあった。
成長の実感は、できる・できたであると言いますが今の俺のもそうではないでしょうか? 違う意味のあっちとこっちを同一性から引っ張って繋げた。解けなかった数学の問題を睨んでたら突然閃いてガリガリ書けた。正解に丸貰って喜んだ。そんな昔の ああ、それなら「できた」で良いのかな?
人に出題された覚えもないけど。
出した答えの出所も不明のままだけど。
俺の、中に、ある。
それが真価でしょうか?
摺り合わせ。
腑に落ちるって、こんな感じ? こっちなら摺り合わせてるって気になれる。
自分と同じ速度に気遣いは覚えない。
嘘でしょう。居るはずの隣が居なかったら「どこ行った?」と周囲確認するでしょう。大体、調整計る奴が周囲を見てないなんて嘘っしょ。他はどーでもこいつは嘘でしょ。それこそ気遣いですかね? それよか自分と同じLevelの頭のほーがですねえ… 発想の転換も何も自分と同じなら大きな飛躍も成長もないでしょう。同じぬるま湯に浸かっていれば根拠のない安心感は持てる。それと同じで大した刺激を受けない頭は回らないとした実感が〜 出ますなあ。これもショック療法か?
同じなら答えを見つけ出せずにぐーるぐる。流せず煮詰まった時に、「そんな事より」と聞けば飛びつきそうだぁね。
その時の結論に流していーわとした自分が悪いともおかしいとも思いませんが、現状から鑑みると頭の回し方がなってねー!と思う程度に回ってます。 …今だからでしょうかねー? ……でしょうねぇ、情報入ったから。
笑えてきます。
自分で自分を実感する、一時。
自分を気付かせてくれる相手。それ以上に、『わかろうとしてくれる行為』。うざいと嫌われたり、仲違いもありそ〜うな行為。
そう、世界は違いに依って導かれる …どっかに。
「……気分あがってる? 良い顔になってる」
俺を覗き込む顔が、『どうした?』とも言ってた。
「そう? まぁ、そうかも。お隣さんがいる実感ですかね?」
笑い返せる自分が単純。単純な方が簡単なのをわかってても考える。それが捻くれてるって言われたらどーしようもないが、この頭でも玩具が魔具だと思い至れる。
俺に使い方を覚えさせるブツはそれしかない。危険だから「触るな」を前面に出してたが安くもないだろ。
それを玩具。
カネに主体を置く奴なら、それこそ「金銭感覚が違う!」と怒るだろ。「これだから金持ちは!」も付属させるだろ。自分の気持ちと考えを第一にすれば相手の意図を見抜けない。
カネの話はした。
価値を見出すから始めて死に金に、地金まで。それに吝嗇から家の豊かさ。カネをカネだと理解した上で玩具と言い切る主体性の違い、俺とは違うね。
時間と余裕、それらが恵まれた環境下であったとしても。そう思う道を選んで歩いてきたから、その心意気が育つんでしょう。
だから我慢を覚えない子供はチートを夢と欲しがるのですよ。俺は猫で十分ですがね。 …なは、なは、なははははは! いにゃっふー!
大人発言、
「してやったぜええええ!! あーはははははは!!」
「ど! どうしました!?」
「ごめ。ちょーっと思い付きに心が躍りましてえ〜〜」
「……ものすごく良い顔になりましたね」
「はい、ものすごく良い実感を得ました」
「実感ですか?」
「持ちあげて貰ってる実感出ました〜」
「…あげれてますか?」
「はい」
「………えーと、どの点で」
「一部を除く全体で」
「一部とは?」
「さあ? 完璧な人間はいませんから」
にまにま顔から真顔を作って答えたら、下向いた。肩が震えた。低いヘンな声がした。 …悪魔系な笑いが聞こえた気がするのは気の所為だ。そうだ、俺の陽気の所為だろう!
テーブル行って、戻ってくる。
足取りが軽くて早い。
「じゃあ、こっちも。もう一度あげてやってくれる?」
渡されたのは犬笛。
「…え? 遅くない?」
「寝てなかったら来る。寝てても起きて来ますって」
手をひらひらっとさせて、テラスのドアを開けに行く。
「あ、俺も!」
「そこからでも」
「へーき、行けます」
笑いのお蔭で活力漲ってるから起きれます。
開けてくれたテラスの前で、息を吸って〜〜 吹く!
「ぷはっ」
緊急時でないのに全力はマズいと途中で止めた。怒ってるコールに聞こえても可哀想。
暗い夜空に無音が響き渡ったコトでしょう。
タタッ
「おっ」
黒い風が一足飛びにドンッとね!
「早かったな〜」
「起きてたか!」
「ワフワフワフッ!」
後ろ足立ちでガバッときた。また頑張ったが無理だった。転ける格好で座ったらベロベロされた。尻尾がブンブンしてた。全然違うとこれまた実感。悪かったな〜と思ってたら、ハージェストに「ほらほら、閉めるよ」と部屋へ押し遣られた。
「ちび猫でも遊ぼうな」
「うん、慣らしてやって。何かと上向いてたから。クロさん… 嫉妬しないよね?」
「へ!?」
思ってもいなかった心配事が増えるのでしょうか?
「そうだ、クロさんと言えばですね」
「はい?」
「ワフッ!」
「ぶっ! はい、ごめん! 呼んだの俺です!」
呼んで無視はいけません。
ですが部屋の中で遊び回れない、況してや夜ですし〜。考えまして、雑巾で引き綱遊びをする事にした。二度三度、軽く引っ張り合いをしたらアーティス遊びを理解した。
「うおおおっ!」
「わお」
アーティス大喜び。座ってやったら、四つ足踏ん張り首の振り、顎の力に勢いで負けた。ズズズッと弾みで引き摺られた。だって、手を離さなかったから〜。
「ああああ… 」
「アーティスの勝ち〜。あはは、アーティスすごいな〜」
「オンッ!」
尻尾振り振りの一匹と一人の微笑ましさをズベッたまま見た。そして思い出す。
「おま」
「はい?」
「俺が離せとゆーたら離せよ」
「え?」
「俺を引き摺るなよ」
「え、そんな事しませんよ?」
「その言葉、忘れんなよー!」
「忘れませんが、どうされましたか?」
「人を引き摺り回した張本人がー!」
「な。 なな、一体ナンの事でしょう!? 覚えがありません!」
「自覚無しかあああっ!」
「え、ナンの自覚かわからず!」
「おのれえええっ!」
「ええっ、ちょっとーー!?」
思い出した恨みに立ち上がり、実力行使の攻防を繰り広げたらアーティスが吠えた。
「ギャオン!」
ドカッ! ドンッ!
「だあっ!」
「っと!」
俺とハージェストに体当たりしてから部屋の隅へ逃げた。俺は蹌踉けて膝ガックン。
逃げっぷりに思い出す。『俺のセラピードッグが!』と悲鳴をあげた過去に、繰り返す現実。 …いや、体当たりが入ったから違う。 …違います、ダメ頭。動物飼うのは大変です、可愛いだけではいけません。飼育書の一つも読んで自分Levelをあげないと。 …飼育書あるんかな?
……いや、俺には生きた辞書兼飼育書が 目の前に。
にゃは、持ってる事は内緒です〜。誰にも内緒。内緒の内緒の秘密の魔法の本なのでーす。 なんつって。
漸く落ち着いて床に寝そべったアーティスを二人して撫でる。
「だからだ、した事自体は悪いことではないと思われる。 が! 俺は引き回しの刑にあってたのですよ!」
「……は、あはは。 一度の掛かりで。 掛かりが良いって怖いね〜。 いやいやいやいやすごいね〜。俺の心臓がドキドキしてきたよ。連続使用での危険性は把握してるから、そこは考慮するのですが想定外でした。今後、君にはもっと注意をするので許して下さい」
「はい、そこんとこお願いしますね!」
鼻息荒くも極力声は荒げない。
要求を通してから、忘れそうになる犯人説明をしといた。
「あそこ… 」
遠い目に達観を見た。
「クロさん、事態への足掛かり。確定を有り難うございます!」
…直ぐにできる力強い切り返しが羨ましい。だが、違いで世界は生きるとも言えるのだから〜〜〜 羨ましいの反対に違うのを乗せて自分の釣り合いを取ればいーんですっと。ひーがみこんじょーいりません〜♪
「綺麗にして貰ったばかりで… 汚れた?」
アーティスの足裏は乾いてるが拭かなかったからなー。
「そう? 今後は俺が綺麗にするよ」
「もしや!」
「はい、術式を展開してご覧に入れましょう」
「わお! あ」
「大丈夫、わかるよーうにします」
「やったー!」
お楽しみが確約されました! 方向性も危険がなくて良い感じ。惜しまれるべき時も、気楽な時も、どっちも普通に持ってたいです。
「そろそろ風呂に行ってきたら?」
「夜中に遊び過ぎましたか。ん、ざっと流して寝ます。あ〜、明日の朝は寝坊しそう」
「あ、夜明けの見送りに起こすから」
「へ?」
「お土産その他を持って領に向かう一隊の見送り、君も出てね」
「…はい?」
「向こうで貰ってきた服を指定」
「え、ちょっ」
「全体整列して兄さんの言葉に返事。それで終わるから」
「まっ、 俺も!?」
「そ、隊列の前に一緒に立って皆の顔を見てれば良いだけだから。へーきへーき〜〜」
「なにそれ、へーきじゃないって! な、何人くらい!? あ、竜も!?」
「いや、人だけ」
「なんだ… 」
「ま、気にせずに」
「いや待て! アナタは気楽に言いますけどね!?」
「兄さんが来る前に顔合わせ希望」
「ほわ!?」
「早めに行くから早く起こすよ」
「えええええっ! いま、なんじですかーーーっ!?」
「まだ余裕、ちゃんと寝れますって」
「それちょっと、ちがーーーーっ!」
「ヒュン!」
二度目の叫びにアーティスが再び飛び起きた。ヒュンヒュン鳴いて回るのに失敗した。
「あ、ごめ。よしよし」
お前じゃないと撫でつつ謝る。体は大きくてもアーティスは繊細です。じと〜〜っと隣を睨めば知らん顔してやがった。
「出ないとゆー選択肢は…」
「却下、帰還後に彼らも問われる。土産じゃなくて、君の事。一度も会ってない者の報告は誰もできない。見掛けを人の口から始めましょう、ですよ」
心構えがなくても拒否権はないと知った。
引き籠もりではないが… 久しぶりの外が夜明け前とか。それがアリでも寝不足な顔を晒せと? 警備さんの上をいく本物の軍人の皆様が並ぶ隊列の前ってナンのごーもん?
「ほら、入ってきなよ」
「はは… は〜い」
「服、出しとこうか?」
「是非とも、お願いします!」
とりあえず、風呂いってきます。明日の朝 違う、今日の明け方を思うと心臓がドキドキしてきますが寝れるでしょうか?
もうちょっと。
そんな大事な事は、もうちょっと早く言ってくれてもいーのに〜〜と思います。それ聞いてたら、あんなぐるぐる蹴っ飛ばしてえええええ〜〜 あ〜。
ドアのトコで振り返る。
「なぁ、惜しまれるべきだと思う時間。確かにそうだと思った時間を別の意味で惜しいと思うコトは間違っているでしょうか?」
「は?」
俺を見返す顔が少しずつ変化して、に〜〜〜っと笑った。意地の悪い顔とは言わないが人の悪い顔だと思う。
そこから笑えば綺麗に払拭されて微塵も残らない。
「全部引っ括めてわかった上で言えたなら強くなったんじゃないの? 進んだってコトで良いのでは? 無駄ではなく積んで整理し終えたから、そう言えるんでしょう。横に置いても顔に出すのが君だしさ。俺としても、思考に回した時間に感情が無駄なんて他人に言われたくないからね」
ぺこーんとボールが飛んできたんで、ぱこーんと打ち返す。
「思い悩んだ時間が損だった、そーゆー考えしたくない。少し前にそう思ってた」
お座りしたアーティスを撫でる手を止める。
「良いね、同じだね」
「だぁね、同じ」
今度は俺が手をひらっとさせます。
『自分とおーなじ、一緒です〜』な鼻歌をてきとーに歌いつつ、風呂へ。巻き戻せない過去はどうでも、今後に繋がる良い感じの発見に気分があがります。
過去・現在・未来。
どこに比重を置くかで誰しも行動が変わるでしょう。
抜けのリスクに震えて恐怖して、結果的にはグリグリした。そしたら傷口に触るなと叱られた。へい、と流しても〜 そこにもっと酷いのがある。
痛みを覚えたこれを、どうやったら歪みにせずに綺麗に解決できるのか?
今と同じ行動じゃ無理だろな。
解決にあたって現状を考えます。今までに得てきた情報を引っ繰り返して考えます。ハージェスト、セイルジウスさん、リリアラーゼさん、クロさんにロイズさん。執事さんにおばちゃんに〜 他の皆々様が俺に何をしてくれたか?
人様の有り様が心を傾けて選んだ姿勢であるのなら。
自分自身に、何を幸いと選びましょか?
風呂に行くのに合わせて立ちがり、明日の服を選びに荷袋に向かう。アーティスもついてくる。荷を前に腰を落として探れば、隣に座る。べったり引っ付く姿に子犬の頃を思い出す。本当に付いて回って。 …あの頃と今の心境は大きく違うだろうが。
「今日は部屋で寝るか? ん?」
ゴロッと寝転がるのによくわかってる。
「これだな」
服を選びながら現状を呟く。
「自分の速度が一番でも遅い歩みだと体力はつかない。歩む速度に気持ちの緩急つけて早歩き「ごめーーん! 寝間着、忘れたあーーー!」
叫びに心臓が跳ねた!
持ってる服を握り締めたまま、顔面から床へ突っ込みそーになる!!
「も… 持っていくよー!」
「助かるー!」
何とか爪先で堪えて、入り口を振り返る。
部屋に居なくても聞こえてるのかと思うと怖かった。ドキドキする。
お早うございます。
朝になりました。まだ暗いですけど時間です。
「ふぁ…」
「起きてる?」
「起きてます」
「寝れましたか?」
「寝たか寝れたか、よくわかりません」
「…そんなに心配しなくても。長くは掛からないよ」
「妙なドキドキで「はい、着替えましょうか」
切りやがった… うう… 自分でも、どうしてだ?と思う程に緊張してます… 興奮じゃないです。
「あれ? アーティスは?」
「あそこ」
「あ、そっちに移動」
寝る前とは違うトコに居た。起きてるらしく耳がピクつくが起きない。 …いーな、アーティスは。
身嗜みを整えて、完成! トイレも行った、完璧!
上着の自己縫いだけがアウトですが、そこはもう気にしない。俺がしないのにブツブツゆーなと。
「はい?」
「はい、動かない。これで、こう」
「おおっ!」
…貸してくれたスカーフで隠す事に成功しました!
「よし、行こうか」
「ん、灯りは?」
「消さなくて良いよ」
帯刀した。ごついブーツに制服。それに竜騎兵のロングコート。普段と違って髪もキメて立つと雰囲気が違う。 …こーゆー人達の前に出るのかと思うと、やっぱちょっとねーーーーっ!!
「こっちから」
カチッ。
テラスのドアが開くのを待ってたアーティスが軽快に降りてった。
夜明け前の外の空気は冷たい。
見上げる空はまだ暗く、星の瞬きが綺麗。今日の予定は色々あると言うが俺の昼寝の時間は取れるんだろーか?
びちゃ… びちゃちゃっ じょぼぼぼぼっ
「あえ?」
部屋からの灯りで、アーティスが花壇に水ではない水を与えていたのを見た。見なかった事にしたいが難しい。音は勢いよく続く。 …アレが末期の水なら俺は嫌。 ……あそこは手前だから踏まれないかも〜〜? あはは。
アーティス、気持ち良さそ〜にまだヤッてる〜。
「階段や柱にはするなって教えてる」
このお言葉で叱れません、良く躾けられてます。自然に還れです。
「大便はこっちが注意するしかないけどね。ま、竜のに比べたら〜 かわいーね」
「前に言ってた世話にそっちも入るのか」
「彼らは基本、寝床にはしない。別に決めた排泄場所にする」
そんな話をしてた。
終わって行こうとしたら、足音聞こえて人影が現れた。
「お早うございます、お迎えに上がりました」
敬礼付き挨拶をくれたのは、お庭番のリアムさんでした。 だーー! つい、お庭番が… こちらも同じ制服姿ですが今日はピシッと感が半端ない。まさかのお迎えに、うわあ〜ですよ。
「自分も見送りに立ちます。後ろに控えておりますが、何かあれば必ずお声掛けを」
「本日も有り難うございます!」
確実に三人様に同じ事を言われ続けております。こーなると「忘れ物はないか?」の声掛けと一緒だ。
リアムさんを案内役に出発です。
自分指定の庭から〜 出ます。はい、出ました。柵もなーんもない自分で範囲を決めただけの庭を出ても衝撃はありません。勝手に決めたありもしないラインを跨ぐ時、こっそりぴょんとしてみたり。蛙はあっさり飛び越えました。
そこから一歩進む毎に俺の庭が広がるんですね〜。すってき〜い。
俺がのーない遊びを勘考してる間、ハージェストとリアムさんは会話してた。俺は自分で埋め切ってて人の話をきーてない。だが、歩いてる実感はある。
逃走ルート、嘘じゃない。
歩いて行くに従い、人の声が聞こえ始める。
出た所で見た。
ほんの少し白み始めた空の下、 み、皆々様のお姿が… 襟元まできっちりと止めたロングコートを纏って整列に集まる姿はかっこ良くも… 大変、物々しく見え。
場違いを、ひしひしと感じる。
「あ」
立ち止まった所為で二人に置いてかれた〜。
行かねばと思うが… 皆様方の視線がハージェストに集中したのがわかるから行きたくねえ! そんでもって視線は俺も捕捉してる、見られてる〜。しまったあ〜〜。
「キュッ」
「う? アーティス!?」
何時の間に俺の後ろに!? ハージェストの隣を歩いてたろ?
「そのままで」
うっわ、出端を挫かれた〜。
だが、有り難い大義名分に待つ。お座りしたアーティスが頭を擦り付けてくるから俺も撫でる。俺、落ち着く。アーティス、ご機嫌。共にあって共に良い事だ。
撫でながら皆さんを見る。顔を売れ、に下を向くのは阿呆だ。しかし、小心者の心臓がドキドキしますよ。してますよ!
「お待たせ」
人を二人連れて戻ってきた。三人と皆様の間にリアムさんが立つ。
朝の分を含めた挨拶には、にこちゃんスマーイルでお返事。下げそうになる頭は下げぬううう! それでもアーティスの頭から手が離れなーい。
二対の目が俺を覗き込む。
自己紹介から個人情報をget。自己紹介を返そうとしたらハージェストがした。ノイとしか言わんかった… が、他に紹介内容が… ないな…
部隊を預かる隊長さんとハージェストの隊の人でした。それでレイドリックさんの部隊にハージェストの隊の人が三人入った混成部隊なのだと知った。
「その心配は無用です。道中、展開している他の部隊から合流予定がございます」
「そうでしたか」
「はい、足が鈍らない人数で参ります」
確かにお届けしますと言われた。
何処まで知ってるか不明だが十分です。その言葉を言えるだけで信用に足ります。
「お会いできる事を楽しみにしていたのですが… 一足先に帰還と相成りました。自分は向こうでお帰りをお待ちしています」
「は… はい!」
焦げ茶色の目のテッドさんの一言が、ランスグロリアに対する意識を変心させます。
知り合ったばっかで居なくなるのは寂しいですが、テッドさんが待ってるホームとも言えます。隊長さんも数えて良いでしょう。
ホーム意識はあっても人から言われるとまた違いますな。初めての場所に来たぞー!着いたぞー!と叫べば、お帰り〜が返ってくる約束です。
「では、そろそろ自分達も並びます」
「ああ、頼む」
「道中、気を付けて下さい」
「有り難うございます。お帰りになられたらご案内も致しましょう」
「お願いします!」
カッと踵を合わせて姿勢を決め、二人は颯爽と戻られました。
シンッとした静けさの中、ハージェストの先導で進みます。進めばアーティスも一緒です。それにしても自分に足音がかなり気になります…
横の並びが三、縦の並びも三。合計人数、三掛け三。
もっと居たと思ったのですが、この数に一気に緊張感は薄れました。しかし必ず誰かと目が合う… 自然な笑顔のつもりでも馬鹿な顔に見えてたら、どーしよう。
それでも此処に並ぶのはジャガイモでもカボチャでもなく家に仕える人達だ! 俺、頑張れ〜〜。やってればきっと自然に見えてくる〜。
「お出でである!」
ビクッ!から、自分史上最高水準の気を付け姿勢を取りました!!
見送りには、セイルジウスさんだけでなくリリアラーゼさんも来られた。
二人の服装に『え?』です。
領主服と華やかドレス姿の予想を裏切り、二人とも皆と同じコート。はい、制服とゆー名の軍服。
リリーさんのは以前も見た華やか改造コートで、下は白いドレス。ドレスの方が長いからスカートの白さとハイヒールに目がいくが… 服装からすれば俺だけ完全一般ピープル…
セイルさんはオールバック、リリーさんはポニーテール。どちらもしっくり似合ってる。これも何時もの格好に見える。皆と同じとするより、家を前面に押し出してる感じ。セイルさんがシューレの正式領主じゃなかったら併呑状態ですよ。
…これから正式に染まるだけでしょーけど。
「皆、実に良くやってくれた」
出立する皆さんを前にセイルさんが征服について語られます。 ちが!征服じゃなくて、せいあつぅうう! 持ち家! 持ち家でも〜〜 出兵ではあるんだな、ランスグロリアの竜騎兵だから。
労いの言葉に、おとーさんの伯爵様への感謝の言葉を述べて簡潔に終わった。それにリリーさんが言葉を添える。
「皆、ご苦労でした。最後まで気を抜かずに領へ帰還して下さい」
「「「 諾! 」」」
凛とした声の中に優しい甘さを感じたが、即座の迫力にビビる。でも、これで終わりと思うとホッとした。 ら、呼ばれた。
「ノイ」
へ?と見たら、手招きされて再度呼ばれた。ええええ!になってたら隣が俺の手を取り、いってらっしゃいと背を押した。聞いてませんが!!
押されて踏み出した足をそろそろと動かし歩めば、隣を黒い毛皮が歩いてた。あっさり追い抜いて振り向く。 …ふははは、遅いってさぁ!
「ラングリア家の庇護下に置く。もしもランスグロリア伯爵の承諾が下りずとも、我と此処に居る二人の承諾がある事を理解せよ。正式な名称は定まりし後となる。今はノイで覚える様に」
隣に立ったセイルさんが俺の肩を抱いて、ぽんと叩いた。
清涼な空気の中、お日様の素晴らしい魅了の力が遺憾無く発揮され始め、見送りの兵の方々が実は結構いらっさるのを知った。影に潜む影とか止めて欲しい。そして肩叩きは一言言えであると理解した。
九名様どころではない視線を直射日光の如く浴びて真っ白になりながら、何とかお早うございますで間を取り、名前で繋ぎ、気を付けて帰って下さいに持ち込んで最後によろしく言って纏めたら、「あれ?」だった。締めがおかしくて失敗した… よろしくを言ってから、もう一言加えて最後に気を付けてにすれば良かったーーー!!
失敗に気付いた心臓がバクバクで「きゃ〜〜っ」と悲鳴をあげて悶えてる。
咄嗟の誤摩化しにガバッと頭を下げて顔を隠した。
「「「 諾! 」」」
響いた声に驚いた。
リリーさん時より大きく、強く、此処に居合わせてる皆さん全員の声だと気付けば恥ずかしくも嬉しくもこう… うにゃーんな。
上げた頭を、もう一度下げといた。
「良し」
セイルさんの呟きに見上げれば、唇で笑みを作って今度は背中をぽんとした。
今度こそ終わった解放の合図に足取りも軽く、ハージェストの隣へ帰る。アーティスも一緒。失敗に恥ずかしくて逃げ帰る破目にならなくて良かった… 喉元過ぎればナンとやら〜♪
そんな俺を余所にセイルさんは出立の下知を下され、隊長さんがそれを受けて返事をした。一斉にザッと音を起てて踵を合わせ、敬礼の後、キビキビと行かれるのを見送りました。 …俺は敬礼しません。
見送りの皆さんも、終われば礼をされてから一人二人と散って行かれます。
「上手に言えてたわ。練習してて?」
「ほんとですか!? 練習も何もそんなん一言も、こいつはあ〜!」
「はは、途中で詰まったが聞き取れぬ声でなかっただけで良し」
はい、マイクはございません。そこんとこは頑張りました!
「拡声が必要なら俺が手助けしますから」
マイク代わりがいましたよ…
話してる間も、まだまだ留まってる人がいるので用事があるのかと聞きましたら俺への紹介待ちがあったそーで大変恐縮です。
「ええ、ちょうど良いから此処で」
「待たせた事案だ」
後ろに控えるのはロイズさんとロベルトさんと知らない方とおばちゃんで〜〜 知らない方は警備さんの制服だった。ご紹介を頂きました。
シューレの警備兵を束ねるサンタナ家のダレンさんは、片膝着きでガッツリ頭を下げられました。そのお姿はロイズさんと似てますが、心境はどうなんでしょう?
大の男の、履歴書でゆーたら俺とは比べ物にならんだろうお人の姿に思うコトはあります。ですが清々しい朝に外でさせられる事ではないと思う。
外でやる以上、晒し者です。残ってる人、全員こっち見てますよーー!!
頭を下げたままの姿…
この人が適切にしていれば、こんな目に遭う事は!が浮かびます。ですが事実しやがったのは、この人ではありません。そして、この人もこの現状を望んではいなかったでしょう。
優しく頭を回せば事実を考慮するべきで。その考慮から、謝罪一つで易しく丸め込めると思われるのも癪で。実際に責任と取るべき上だとしてもですねぇ…
この場合、上を挿げ替えたら下は変わりますかね? 頭が希望を出せば体質コロッと変わりますかね? 良くなってよーの一言で病気が治りますか?
しても意味がない。しかし、せねばのさばる。こうくると、さーいてぇ〜〜。
お顔を上げて貰いまして、目を覗き込む。
なんつーか… 睨むではない静かに見える目に押されて押されて嫌ですね。言いたい事を飲み込む人の目って怖いんですよねー、力で抑え込むから滲んでる。おばちゃんもそうだったし、力が滲む人の目は「助けて」なんて言わない。
でも、今が俺の順番。言いたい事を言って良いのは今。言わないと〜〜 損? あっは、損じゃなくて後悔だろ。俺が惨めになるでしょう。
「個人責任は流しても、ダレンさんの手腕は問われるものだと思います。一言、良いよ許すよ気にしないでと言える現状でもないので〜〜 それは言えません〜。 ええ、それだけは言いません〜〜。 え〜〜 ですから〜〜 え〜〜〜 え〜〜〜〜と〜〜〜〜〜 あなたの今後に〜〜 え〜〜 一層の〜 期待としょーじんを はぃ」
最後、尻窄みになって終了。 …こんなもんです。しかしココで連帯責任と言えば監視社会になるんでしょか? 監視と常識の境がよくわかんな〜い。
「切る首も繋がるか」
「へ?」
「ノイちゃんは本当に優しいのね」
見上げます。
「俺、責任取れませんよ?」
グタグタ言っても、どーにもならんもんはならんのです。ええ、どーしようもないとわかっています。その事についてなら、それはそれはもうしつこくぐるぐると。ですが、感情のぶっ込み一つでこの人の存在とやってこられた事のですねえ… 全てを否定したい訳じゃないんです。
あっちもこっちも見えるよーになると気が付きます。気付いたもんを考えたら怒り難い。でも腹立つ。だからとゆーて気付いた事に『怒れなくなるだろーが!』と無理やり蓋をしたら〜 気付く頭は要らんとゆー残念なコトに。
ぐ〜〜うっと抑え続けるってのはしんどくて嫌なんですけど〜〜 う。 気付ける程度に大人頭になってんだから。
ここらで一つ、ガキではない証明でもしてみようかと。
「え? 何の責任?」
「…人材の喪失 責任だと。育成とゆーのは一朝一夕では無理だし」
「あのさ、無理やり丸めようとはしないでね? 丸ければ良いって話じゃないんだからね」
「う?」
軽く眉根を寄せるハージェストを見てれば、セイルさんから言葉が飛ぶ。
「結局、堪えさせとるか。どうするか」
「ちがっ! 殴って良いのはこの人ではないとゆーだけで!」
「ん?」
「やった奴は殴りたいです!」
「…脅されていたのだとしても?」
「小さな子供であったとしても?」
セイルさんとリリーさんに向かって宣言する。
「可哀想の正当性で事実は覆りません。『お前がやった』である以上、そこを追求します。根本的解決には遠くても、それで良しとします。難しい犯罪組織は任せます」
はい、ミクロはしますがマクロはよろしくです。集団には集団でやらないと大変で当たり前といえば当たり前ですが〜〜 ほら、こうやってより大きな責任を人に押し付けてる。
責任に対してじょーずに立ち回ってるつもり。
シューレにとって必要なのは俺じゃない。シューレの未来に寄与するのは人、シューレの為に働く人。それは断じて俺じゃない。そんな俺が寄与する人を感情で処罰する? は、そこから生まれる可能性を追究してみろよ。
チートで担える重責なんて〜〜 持ってるチートは精神力の高さじゃないね。そんなもんじゃあ無理だぁね。あああっは、持ってんのはそれこそてめえの頭をか
「ゥォオオオオ〜〜〜〜ンンン!!」
「うは!」
どーした、アーティス!