147 抱える
本日の夕ご飯でございます。
おばちゃんと一緒に食堂へ行きます。
てくてく廊下を歩いて行く間に、おばちゃんに聞いてみた。
「マチルダですか? そうでした、今朝は一人で向かわせましたので驚かれましたでしょう?」
「あ。 あ〜、ちょっと驚きました」
連打を思い出すと笑うしか。
「裏表のない娘ではあるので す、が ……もしや、何か粗相を致しましたか?」
疑いを滲ませたおばちゃんの目と、一呼吸おいた『まさかね?』を含む口調が響く。 …精神的に大変危なそうなお顔をしてらっさってえ〜〜 否定を希望してる目の輝きが俺の心臓を貫きます。
「えええ、えーーーと」
立ち止まっておばちゃんと見つめ合い… 蛇に睨まれた蛙はいません。この場合、どちらも蛙であると思います。どちらも身動きが取れない蛙膠着をしている現状が非情に残念でおかしいです。
にへらあ〜っと、にこちゃんスマイルを繰り出しましたら、おばちゃんの首と肩がガックリと下がりました。どうやら正解が正しく伝わってしまったらしく失敗した模様。正しく伝わるだろうとも思っていましたけどね〜〜 なは。
「あの娘も… 何かしたのですね。お優しさから言わずにいようと… ああ、本当にご負担ばかり… どれだけ教えても目先を追う… あの、や 」
下を向き、震える拳。
滲み出る口調の雄々しさよ… いや、口惜しさ? あああ あの、ギリッて歯軋り?
『俺の所為ではありません!』
ビクビクと叫びたくなりましたが、ええ、俺の方には向かってません。そんで、おばちゃんには連絡まだだったんだと思うと心苦しく… マチルダさんが呼びに来たら?の想定に、のーみそ回してたトコに違ったから勤務時間の確認をしようと思っただけでしたのに。
おばちゃんは教育に向いてないんでしょーか?
大変失礼な事を考えましたが、セイルさんやハージェストの笑い顔も浮かびます。教えに対して自己判断で行動した。これはクラスのイジメを放置した教師の話ではありませんから教育に対する向き不向きではないと考え直します。それにおばちゃんは向き合ってます。放置スキルを伸ばそうとしてません。対処スキルを伸ばそうと頑張ってます。
…学校の教室内、黒板の下の一段。その壇上から見ると教室内はよく見えました。ってか、顔が見える様に設計してんでしょ? あれ。んでも、教室に壇なんてなかったゆー奴もいたな。どっちにしろ、イジメの報告あって放置ってドコ見てんでしょーね?
対処スキルが全くない、面倒くさい、忙し過ぎて時間が無い、度重なる過労で自分の方が倒れそう、昔を思い出すので流したい。
こんなトコ? 全くないってのは経験値ゼロになりますので大変嘘っぽく。 ……積み木を積まずにいられる人って〜 どんな人生送れるんだ? 完璧な人間なんていたら怖いけどさー。
イジメへの対処スキルって〜 人は、なーんで伝授しないんだろね? 紙媒体以外に教えてあげられる事って〜 そんなにないもんでしょうか? 俺でも金魚に教えてあげられる事はあったってーのに。
それとも〜 そーゆースキルない人だけが上にいんの?
あ〜、そんなんで確立しちゃうってのはどーなんでしょ? 一度確立したもんは瓦解する前に取り繕うから変わる前に全終了?
…んで、それもこれもどれも人の所為?
問題あげてもそこでstop、解決方法わかんなーい。そこで示唆も終了です。ほーんとアレな話で咨嗟ですね。それよか、おばちゃんの教え方は厳しくない・怖くないとゆー話になりそ〜う。うーん、甘く見られてる? 舐められてる?
…おばちゃんがヤサシイってんじゃ?
おばちゃんもハズレ仲間だろか? 損な役回りの人だろか? …口を噤んで眉間に皺を寄せて、グッと我慢している所に全て背負い込む人ではないかとも思えてきます。
そんでも、この体勢は爆発一分前ではないでしょーか? …あ、おばちゃん爆発しないわ。無理やりでもグッと飲み込んで収めよーとしてる。
『早く、案内しろよ。そんな事でちんたら止まってんじゃねーよ』
他人の心情どーでもよくて俺時間を優先するなら、これを実行すれば良いと思います。しかしですねぇ… 空気を〜 読める〜 俺は〜 いったい〜 どーするのが〜 俺らしいんでしょう〜? 俺らしさの〜 発揮とゆーのは〜 たぶん〜 このまま〜 落ち着くまで〜 黙って〜 待つ事でしょう〜。
「申し訳ありません、あの娘は何をしましたのでしょう?」
待つ暇そんなになかった。
無理やりな笑顔は見てて痛い。そんで、マチルダさんへの分岐点が見えております。
ステラさんに聞いていたら。
そうしましたら、今とは違ったルートを辿れたのではないかと熟思います。だから、せめて彼女の為に適切な言い回しを〜 上に喋っちゃってるから、もう終わってるか。
サクッと吐いた。
これでも、お喋りさんではないと思ってる。捏造ではない実像の報告は大事だ。
おばちゃんは言葉を下さり、深々と頭を下げられました。
後から衝撃を受けるよりはましだと思って、「成り行きでセイルさん達にも喋っちゃってる〜」と伝えといた。固まったおばちゃんに、どう声を掛けるのが正解かわからんので俺も固まる。対応スキルなくて蛙なっててすんません。
その後、立ち直ったおばちゃん。
食堂へのご案内が再開されて心底、ホッとしましたよ。
この先にマチルダさんの有り様が見えるんですね。 …もしも俺がマチルダさんの立場だったら、どーするか? …あれこれそれと考えてみても立場も性格も性別も違う以上、どんだけ考えても同じには成らない。大体、しないし。
自分のもしもと他人のもしも。
違い過ぎるモノの想定は無駄ですね?
食堂に入ればセイルさんとリリーさんは既に来てました。二人で話していましたが、こっちを見られます。笑顔の二人に、にへっと返して今朝の椅子へ向かいます。
お待たせに、ちゃかちゃかちゃかっと進んで椅子の背を掴んだ所で俺はカッチコーンとなった。
掴んだ凍結状態で座面を見続け、考える。
結論に手を離し、一歩移動。首を回して室内を再確認すれば、ひつ ちが〜 執事さんは居ない。
しかし、ちゃかって置き去りにしたおばちゃんが追いついた。
「どうぞ」
「有り難うございます」
おばちゃんが椅子を引いてくれたので安心して座りました。それにセイルさんが頷き、リリーさんがパチパチと可愛らしい軽い拍手をくれます。どちらの顔にも嫌みはございません。
「偉いわ〜、自分でちゃんと気が付いたわね」
「ああ、慣れていない上に教えていない。どう行動するかと思ったが… ああ、従来の姿がよくわかった。行動に意識をするなら問題ない、直ぐに修正できる」
はい、ギリギリセーフ! ノーカウント、セーーーフッ!!
「お作法は最初の意識、後は慣れ。大丈夫、積み重ねは無駄ではないわ」
「ああ、自分でどうしたら?と思う点を潰せば早く形に成る。後は端から見た修正だけだ」
にこにこにっこりで言う二人の言葉が、ほんと〜うに簡単そうに聞こえるので小難しく考えないよーにします。はい、きっとできる〜♪
自分で持ち上げ幅を引き上げますよーん。
「弟様ですが」
伝言にセイルさんが頷き、食事の開始を告げらました。おばちゃん、一礼して部屋を出ていきます。
「顔色も良い、落ち着いたな」
「大変だったそうね、ノイちゃん。良かったわあ〜、聞いた時は驚いて直ぐに様子を見に行こうと思ったのだけど、力の関与を疑ったから。そんな時に行ったら、ハージェストが怒りそうだから止めてたのよ。うふ、直ぐに行って上げられなくてごめんなさいね」
「いーえ、ちっとも。ありがとーございます」
優しい笑みが素敵です。
それから、さっきの場合はどうするのが正解かを教えて貰いました。ぼっちで来て誰も居なかったら、普通に自分で引いて座ります。又は、人を呼んで引かせて座ります。体調と時間と場合と効率が手を繋いでる。んで、まずは人の役割を忘れず、引いて貰う事に慣れましょうになった。
はい、stop・冷静・走らないです。
「お待たせを致しました」
ノックにドアの開閉、キュルリのワゴンの音と共に料理長さんのお越しです。 …だけじゃないーーーーっ!
続いて入って来られた姿に声が出た。
「ロイズさん! 良くなりました!? …って、ごめんなさい。大声出した」
うっかりさんは驚きにアガってお行儀さんが抜けました。首をキュッと戻して二人に謝ります。幸いな事に厳しい教育指導は入りませんでした。ご飯が並ぶ前なんで、これまたギリセーフ!
「お食事前ですが… 差し支えないでしょうか?」
押してきたワゴンを入り口で止め、その横に立つロイズさんがセイルさんとリリーさんに許可を求めます。それに対して二人が頷かれました。
そしたらロイズさん、その場で深々と一礼されまして。今度は俺に狙いを定めて、じっと見てきます。
『え? 何ですか?』
こう聞きたくても聞き出し難い、真面目な雰囲気。
この雰囲気にどーしたもんかと。顔だけ向けてるのは失礼だから腰を上げよーと〜〜 思うんですが、今朝は『立つな』だったんですよね〜。 こ・れ・が。
料理長さんと秘書以上なロイズさんは同列か?
ここは本拠地ではない。
セイルさんや家にとって重要なのはロイズさんなはず…
しかし、人を見ての差別とゆーのはよろしくない。しかし、ここは身分社会。此処で生きるのだから此処のルールを知って慣れる、そーでないと俺の立ち位置が成立しない。嫌だ、変だ、おかしいと文句を垂れるお子様思考より、ルールを知った上で逆手に取れる大人を目指すのが俺にとっての有意義なのだあ!!
でも、わかんねー。
脳内ぐるってたら、ロイズさん目礼してこっちに歩き出したんですけど!
サクッと視線ヘルプを飛ばしたら、リリーさんが『立っちゃダメ』と視線返事をくれた。しかし、セイルさんがくれる視線返事が読めません!!
…しまった! さっきの間に椅子ごと向き直ったら良かったんか!? え、あれ? そっちかぁ? それしたら椅子を引く音に締まらないだろ?
泣きそ〜うな感じで早速どうしたら?と思う点を見つけましたよ! ルールがどこかわかんないってのは〜 じゃなくて、早よ動け!
「ご心痛をお掛け致しました。この通り、問題なく動けております」
俺の前で手を組んで一礼する。その姿勢を維持したまま腰を落として片膝を着く、ゆっくり顔を上げて笑顔と一緒に答えてくれたロイズさんに窶れは見えない。すごぶる元気ピンピン。
「もう痛くないですか?」
「多少の痛みはございますが、大した痛みではありません。痛むのは… 仕置きの方ですからアレは痛まず、大きさも変わらず、色濃くなる事も無く」
「そ、それは良かったと言ってい いんでしょーか… あの、ほんとに大丈夫で? 昨日の今日で確か基本は放置と え、どんだけ高性能なお体してらっしゃるんで!?」
「特異体質でもございませんので大した体ではありません」
真面目な切り返しに俺の顔が引き攣ります。うっそーん!と叫びたいです。
「昨夜は薬湯を頂きました後、何故か痛みがぶり返し、気付けば就寝したらしく。ですが起きた時には、とても楽になっておりました。癒えた訳ではありませんが本当に痛みが薄れていました。今朝の薬湯の頂戴に感謝して服用しました所、本当に、本当に不思議な程に体が楽になりまして。
余りにも不思議でしたので、何の薬湯なのか尋ねました。強い薬によくある一時の倦怠感等もなかったので、これ程の効果を直ぐに得られる薬湯がある事が不思議で… もしや、魔力水が入っていたのではと疑いました。
ですが、そんな事は無く。聞いた薬草には知らぬ物もありましたが… 逆に薬湯の効果か?との疑いが生じました。
頂けたのは、ノイ様の心遣いであるとステラから聞き及んでおります。故の理解を悟れました。この身に御寛恕を賜り、誠、有り難うございます」
そう言ってロイズさんは姿勢を維持したまま、片手を俺に差し出した。
出された手を眺めてた。
眺める内に弾けた答えに軽い気持ちで手を置こうとして …心持ち身を乗り出す。 ……乗り出しても届かない。ほんっと締まらねえったら!
俺の手を軽く握り締めて頭を垂れる。そして握り締めた手を垂れた頭よりも上にあげた。
『…あいたぁ?』
感じる他人の体温に、『間違えた?』と『問題ない』が同時に浮かぶ。浮かぶが、あっれえ〜?な気分が逃避を呼ぶ。
逃避から見えた旋毛に魅入ってた。だって間違いなく「ご覧下さい!」な位置ですから。薄くなくて良い事です、はい。
しかしマズった、この後はどーしたら?
浮かんだ疑問に考えず、さっさと聞く事にして二人を見たですよ。そん時に料理長さんが大変厳粛そーうなお顔でいらっさってるのに気が付いてビビりました。
突然の現実感に、小心者がぶーるぶるになったですよ!!
「では、食事にしようか」
「ノイちゃんの好きなスープよ」
「はい!」
和やか〜にご飯が始まりました。
ロイズさんが一人でお給仕をしてくれますが、一人遅れるから取り分けではありません。ちょっと寂しくも楽ですな、あは。料理長さんは献立を説明後、厨房へ戻られました。
料理長さんは立会人だそうで… いやもう上も下もそんなにふかあ〜く考えないほーが俺には良いのかもしれません。今、黒薬湯を作ってるのは料理長さんとせんせーのお弟子さん。そこから料理長さんが選ばれたとゆー話でしたが… 立会人って… うーん、負担があった様にも見えんかったが〜〜 気安く引き受けるもんでもないよなあ?
カチッ 「ふー」
スープはちょっとだけ冷めかけてた。料理長さんの中では冷製スープはまだらしい。しかし、無音で食うのは無理です。
「ん? 味が違う? …ナンか違う」
「お、この違いがわかるか」
「まぁ、ノイちゃん味覚が良いわあ〜」
「え? …えへっ♪」
ひゃっほー、誉められました! 旨味の違いを理解する、この繊細な舌が物を言いましたよ!! やっぱ俺は人に飯テロするよか、テロな飯を食う方で居たいでえええっす!
ですが、そろそろ和食っぽいのも食べたいです… 料理長さんに頼んだら… 今だと、こちらでの薬膳料理が出てくるでしょうか? ぬーう。
「ご馳走様です」
「もう良いのか?」
「十分食べて?」
「はい、お肉が柔らかくて美味しかったです! 感激です!」
本当に美味しいステーキでした。ステーキなんて最後に食ったの… 何時だった? 食事前の「腹痛は?」なんて杞憂ですよ!
「こちらをどうぞ」
スッと差し出されたのはお茶でした。 ………安定の黒色でした。淹れてくれたロイズさんを見ましたら、笑顔が返ってきます。
やっさしーい顔のロイズさんに首を振って振ってそそそっと押し返す、心配顔で困られてもノーサンキュー。しかし、そこで「申し訳ありません」から始まって「ご無礼に」と続く通常モードな対処から始まる譲るに見せ掛けた押せ押せもノーサンキューウッ! 必死の「アナタの所為では!」攻防を展開して三分の一要求を押し続ける。「ですが、もう淹れましたから」の押しを受け止めて、「まだ飲んでないから大丈夫!」で流れ返しぃ〜〜!
「ロイズさんが飲んでくれたらすっごく嬉しい!」
「自分は別に頂けるのですが…」
にこちゃんスマイルで輝いてみせる。
立場を考慮しても頷くだけのできないさんなんてやってられっかーー! 誰がするかー!
その後、ふっつーうのお茶も貰った。
ハージェストがまだだからシェアできなくてツラい。でも、対処スキルは上がったはず。上がってなくてもけーけんち〜 は〜 貯まってる〜 はず。
セイルさんとリリーさんも食事を終えてお茶に入った。ハージェストが居ないけど、クロさんのお返事説明をする事にした。
「…犯人もわかっているのか」
「問題は『あそこ』?」
「そうです、犯人はあそこに居てあそこでやった。原因はあそこ。そして犯人はあそこに居る。これがクロさんの答えの全てです」
黙って顔を見合わせ、遠い目をした。
「あそこって… 難問ね?」
「場所か地名は… あ〜 しかし特定にあそこから始まって経過がなく、あそこで終わる。単純で無駄を省き切った素晴らしい説明の簡略だが話す気があるのか?」
「導きが悪くてすいませーん」
スルーな気分で返事をしたが、後ろめたい気持ちが膨れてきます。これを心に仕舞うのはダメだと思うからゲロる。
「あのですね… 本当は『あそこ』から犯人をココへ引っ張って来れる?って聞いたら、クロさん一つ返事でしてくれそうな気は… すごく、するんです」
「まぁ、ほんと? いえ、そうね」
「…確かに。 術の構築が可能ならできると思えるな」
互いの目を見て慎重に頷く二人に、「それでもクロさんはマスコットだ」と俺は俺の理を通す。下がりません、無い弁舌を用いて「これ以上はしない」と宣言する。マスコットは無限ではないのです!
「…それはそうだが」
「俺のにゃんぐるみは着替えです。そう、お話しました」
「…ええ、そう聞いたわ」
省略も入れるが恥を忍んで過程を説明する。
「きっと俺はもうダメです。ダメなんです! クロさんとゆー安全がある事に慣れてしまいました。安心しきってるんです! もう慣れちゃったのに今更なんて無理! 無理無理無理!! 大体、クロさんがいなくなったら俺の遊びが破綻する! 真っ裸の戻りは絶対に拒否します!」
どこまでも利己を貫いてみせる!
その為なら、さめざめと嘘泣きだってしてみせる。聞いてやって貰えよと言ってる顔に負けません!!
「いや、あのな? クロさんの力、あ〜〜 余力を計らんのか?」
「聞いてできたら便利ですよね? でも、クロさんそんな為に貰ったんじゃありません。クロさんに心がある以上、貰った理由から外れる事はしたくないです」
「外れたら、どうなるの?」
「さぁ?」
「わからんのなら調べればよかろう?」
「調べる方が外れる行為じゃないですか?」
「でも、把握は必要じゃなくて?」
「俺の持ち物ですが持ち物の規定を外れています。余力があって、できそうだからって何でも頼むのは間違えてると思います。その結果、必要な時にして貰えなくなるのは本末転倒です!」
「正しい」
「正当ね」
次の反論に身構えてたけど空振りだった。揃って納得に頷かれました。晴れやかな惜しみない良いお顔を頂きました。
「約の範囲外でも『序で』と行う者はいるわ。持ちつ持たれつだったり、自分ができる証明だったり。でもね、後から要求する者もいるの。馬鹿みたいな言い分だと聞くに堪えないわ」
「自分で守らねばとした姿勢は易々と揺るがすものではない。良い傾向だ」
二人に誉められております。
誉められております! ナンかめっちゃ嬉しいです!
問題があっても良い方に良い方にと回してくれてるよーうな気もしますが、それで良いと誉められると自分でもすくすく伸びていけそうな気分です。日光浴にうーんと気持ち良く伸びをしてる自分。 …水を与えるのを忘れると某枯山水呪文を口遊むのかもしれませんが〜 命の水 貰ってるし。
「部屋に戻らんか?」
「待つならココでもいーかなと」
「そう? 誰かを控えさせた方が ああ、でもそうね」
「何かあったら、あれ押します」
まだ来ないハージェストを食堂で待ちます。二人とも用事があって待てないから俺が待つんでーす。
「はい、大丈夫です。はい、おやすみなさい」
パタン…
キュルッ…
最後にロイズさんが軽い笑顔の中にも心配を覗かせる素敵なお顔でドアを閉め、ワゴンを押して行かれました。聞こえる音が小さくなって、聞こえなくなったら静けさが満ちる。
「ほ〜」
一人になると楽。
緊張はしてないし、俺も向こうも打ち解けてると思ってるけど… ワンクッションないとダメなんて情けなくて嫌だなぁ。
「ふー」
テーブルに突っ伏してだら〜ん。
暇。
静けさに暇。
勉強道具もなけりゃ、横にもなれない。部屋で待つ方が良かったでしょうか? でもなー、誰も居ない食堂に来るのもそこで一人食べるのも寂しいっしょ。
…考えなきゃいけない事はある。さっきもまた一つ積み上がった。時間がある内に考えた方が良いのはわかっている。けど、頭が追いつかないから考えたくない。違う、一人でぐるぐるしそうだから考えたくない。きっとそれが正解。
考えなくていー愉快なコトを考えたーい。
「か、 れ。 たーちがぁ あ〜、かーれて ん〜〜 ヌーケーて〜 その後に灰色。そうそう、色塗ったら大抵灰色塗り」
思い出したから「そーだ、アレンジをしてみよう!」と思い付きました。ふははは、俺が歌ったのは、いや歌っては、いやいや仮の話でだ!
俺は見て、向かって歌った。
どーあっても出々しは「か〜れ〜」が正しい。
枯山水は石と砂の造形美。詰まるところ、枯れるに引っ掛けた『石化』を歌ったのだと気が付きました。そこで石化といーますと、蛇尻尾を持つ巨大鶏さんの睨みかブレスを思い出します。そんで石化したら白でも黒でもなくて灰色です。
はい、こっこここーのこけこっこー。
鶏さんは蛇をツツいて苛めます。蛇さんは蛙をパックン丸呑みです。蛙さんは〜 逃げるだけ? うわ、なにそれ本気で可哀想。トライアングルなりません。そこへ猫さん跳んで出て、鶏さん蛇さん蹴散らして、蛙さんまでやっちゃった。
猫さん、真ん中いっちばーんっ! 然して、灰色猫の正体は!? ふっふふっふ ふ〜〜ん。
そーです、必要なのは楽しく愉快な思考です。
石化でアレンジ。アレンジ遊び。 ん? 待て、俺のはオリジナル。オリジナルに手を加える… 手を加えるのがアレンジ… アレンジィ〜?
あ、そーか。俺のは編曲っつーより新構築だ! 他人の手に依る改編のアレンジではないアレンジだからアレンジで合ってる!!
………しかし、あれだけで歌と言えるのか? ………三節か四節のフレーズ。 フレーズ? フレーズとゆーなら歌だろ! あれはフレーズになるだろ、なれるだろ!
いやでもほんと短いしな〜。うむ、続きだな。あれで完成でなかったとゆーだけだ。そーだ、枯山水に別訳を見出だした今! あれは未完であったとゆーだけだ。オリジナルでも完成ではなかったとゆーだけだ!
では、遊びましょー。
「よし、自分クエストは〜 五番目! 『歌詞として完成させてみよー!』でいってみよー! しかし、ほんとにできんのか? 長ったらしいの俺にできると思えんし、枯山水で石化アレンジな話だし…
待てよ? そうか… あれか。 あれでいーのか! スキル詠唱と同じか!! 詠唱破棄前の… あれかあああああ!! そーなるとダラダラの長過ぎるのは要らん!! 魔力を高める間だけの短文、ストレートにわかり易い言葉にして一定のリズム! 厳かにか、それとも軽くか… う〜〜 ナンかほんとにアガッてきたあ!
自己満足で報酬もなーんも うあ、そーだっ! もしも使えるんならハージェストに歌って貰えばいーではないか! あいつ、歌えるし。 ものになるかもしれないし! 歌わない俺は恥ずかしくないし〜〜〜! にゃーはははは!!
一緒に歌おうになったら終わりか。そーなったら作った手前、逃げられないな。 ふは」
誰も居ないんで「よっしゃー!」と叫んだ後の静けさと、ナニかにちょっとお口チャック。でも、楽しい事を見つけました。
「いーろがぬーけてかたくなる〜。 灰・灰・灰・灰・灰のいろ〜 いーろに押されてまざ はい?」
誰か呼んだ?と誰も居ない部屋を見回し、ドアを見つめて耳を澄ましたが勘違いだったよーです。ナンだかな〜、はぁ。
「ここーーっ!?」
「うひぃいいっ!!」
いきなりの雄叫び!
共にドアが叫んだ強襲音が俺をビクウッ!とさせた。
気を抜いた所への不意打ちに、何故か巨大鶏の眼光か石化の息を感じて怖かったです。想像力の豊かさって仇になれる。
「ごめんよ、そんなに驚くなんて思ってなかったんだ」
「いやまぁ… あはは」
「灯り落とすよ」
「ん」
ハージェストがスイッチをoffにしたので光度が一段下がります。ここからゆーっくりと落ちていくので、完全消灯を見届ける根性はありません。部屋を出ます。
ハージェストがドアを閉めるのを待ってから、行きまーす。
「今度から部屋に戻ってくれてて良いから、冷えてない? あ、違う。待っててくれて有り難う」
「え? 俺が待とうと思ってやった事だし」
「伝言頼んで安心してた」
「料理長さんの方には?」
「そっちにも回したけどね」
「じゃあ、問題ない。隊の人達と食べたんだろ? それはそれで良いと思う。忙し… ん?」
近づいた顔に俺の鼻がふんふんと反応した。
「あ、ごめん。臭う? 飲んでる。 に、二杯だけなんだけど」
「わぉ、犯人は酒飲みさんでしたか」
鼻が敏感になってるよーです。
そんなこんなと話しながら部屋に戻りました。
「あっちの部屋に戻ろう。ちゃんと準備はしてるし、経過時間もばっちりだし!」
部屋に戻れば、そう言い出した。ベッドをちろっと見てから頷いた。大きい方で寝るのが正解だから荷物持って戻る事にします。本当は責っ付くのは良くないと知ってますが… まぁ、一応。
「石、出てきそう?」
「その件で執事を引っ張った」
「ほあ!?」
開いた口が塞がりません! 何があったとゆーのですか!!
「向こうで話すよ、行こう」
「お、 おー」
戻ったら続きを聞いて、俺の話も聞いて貰おう。今日は直ぐに寝れそうにない。つか、寝ない。アルコールが入って良い気分で寝たくても絶対に聞いて貰う。今回は寝落ちしても叩き起こしたいと思います! …あ、利己過ぎてダメっぽい。世界は俺を中心に回ってない。回ってたら恐ろしい。俺は世界の中心で叫ぶ事はない。
……世界の中心は正しく星の中心だと思う。それってマントルの先じゃない? そーんなトコにどーやって行くんだ、無理だっての。比喩に縮図に比況でも〜〜 はっ! ……今更でも、この世界も丸い星でしょう。きっとそうでしょう〜〜。
さ、荷物荷物。
中身出してないからかーんたん。はい、花冠を〜〜 手に持つか。あ〜あ、落としたばっかりに花びらが… ごめんよ。
「どうかした?」
「いや、眠い?」
「別に眠くないよ」
「風呂どうする? 酒、飲んだろ?」
「二杯程度で酔わないけど? あ、ごめ。あ、ちが。 うん、浴びるに留めるから先に入って。 …はっ! 介添えで一緒に入ってくれる!?」
「にゃあ〜お にゃががんにっにゃーん」
「…その返事は難解です。猫語の勉強は初級の単語からでお願いします」
「こーこけけこここ〜」
「えー、ちょっと待ってよ。そっちは俺のほーでしょう?」
「げ。 げーこげこげこ げ、げ、げ〜」
「……え? 今のなに?」
「へ? 蛙ですが」
「………ああ、小さい方の蛙」
「小さい? 大きいと違う? はうっ、蛇は!?」
「蛇の鳴き声!? あ、威嚇音か」
「はい、そっちで」
「それなら」
色々抱えて、笑いながら部屋を出る。
花籠の部屋。
花籠に俺は可愛らしさを連想した。小さな可愛らしい花籠。埋め尽くす様に花を生けても、持つのが苦にならない大きさの花の籠。 …そんなモノなら抱える気分も違うのにね。
部屋が籠なら生ける花は人になる。部屋の主は花の人。 …高級感はありますが裏に檻と監禁って付属があったら嫌ですね。
俺にも多少はあるかもしれない華やかさは〜 隣のゴールドフラワーとは比べ物にならず。
「あれ? 閉めなくて良かった?」
「構わない、出るのだから」
「…そか、ベッドメーキング」
……ふは、俺には籠より花冠の方が合ってんね。
花籠が抱くは花。家が抱くは人。
抱えるは、蕾が花。
咲くも咲かぬも育てるも、己が心が糧の花。自身を示す花こそ 標。
本日の遊びは問題。
抱くと、抱える。
この違いを述べられよ。
尚、「読み方が違う」の解答は解答であると認めるが加点解答とは認められず。