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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
144/239

144 五体、投地で得るものは

  


 タッチ & ゴー!!



 手足にゃん体伸ばして、しなやかにとーんとしました。猫できましたあ〜。



 「おっ」


 ぽっすん!

 

 次の弾みも軽やかに、ちび猫、上手に降り立ちました!



 「なあーん」


 や〜、助かり助かり。受け止めようなんて思わずに、さっと枕で頭カバーするトコが最高! 高所からの衝撃にはヘルメットだよねー、当たらんのが一番だけど。でも、俺もワンクッション置けたから安定して降りれたよ。



 ベッドをぽすぽす歩いて近寄ります。


 「あー、驚いた。ごめんよ? 受け止めたかったけど、さすがに爪出しはちょっとねー。ざくっもぶすっも嫌だしさ。咄嗟の対処が失敗しなくて良かったよ、お帰り」

 「なーん、にゃーん」


 ああっ! そーゆー事を先に言われたら俺の立場がないではないか! あ〜〜 俺こそごめんよ、起きる前に戻ってくる予定がちょっと色々あって〜 遅くなっちゃったんだな。


 にゃがにゃが説明しよーとする俺に、笑って「いいよ」と遮った。 …そんなコトされると俺がしょぼくれるだろーが、ええ? 言い訳の一つもさせろよ。

 それに起きたら、「おはよー」から始めて寝起きの顔を猫手でぺし()ってやるとどーなるかとゆー愉快な実験検証予定が…  あ〜あ、ちぇっ。ま、しゃーない。




 「にゃーあ(おはよー)



 改めて言って気付いたお日様は気にしない。もう夕方なってるのも気にしない。きーにーしーなーい〜〜のですよ。したら負けなんだろー?


 さ、そんな些細な事より話をせねば。なーあああんですよ。



 「クロさんの所だったんだね。起きたら綺麗さっぱりで気配も完全に読めなかったから勝手に焦ったよ。 …うん、心配よりは焦り。ま、寝起きであの光りを直視するのもアレだったと思うけどね? わかり易くはあったな。 …あっはっは、あー」

 「にー、あー、にゃーん」


 「え? 最初は違った? 上?」

 「にゃー、にー」


 「以前と同じ形式かな? で、入り口は開けてたと」

 「なーあ」


 「うーん、開閉の違いが不明過ぎてツラい…  でも、俺が見た時は光りは皆無。そうなると、わざわざ途中で閉めた訳だ。何かあった?」

 「にー、にににゃー  んにゃん、にゃのにゃのにゃがががが」


 「…ごめん、わからない。内緒話じゃないんだよね? なら、戻ってから説明よろしく。もしかして、まだ話の途中だった?」

 「なーん」


 ハージェストと二人で上を見上げると、煌めく飛び込み台が見えてます。


 ほんと平均台だと思ってた。先端部だけが跳ねる仕組みにやられたね。全体をしならせるより、一部分での切り替えの方が作製するのに楽なんだろか? こーゆー時、魔法なナニかって理屈がよーわからん。 …でも、考えてみればあれはあれで楽しかったですね。 


 ビックリドッキリ、にゃははは。

 うん、あれ先端サプライズ? 愉快な遊びに、にゃっはーん。



 「構築と維持の仕方を放り投げたとしても、遮蔽を行う力の隠蔽途絶形式だけは知りたいなあー」


 ベッドから見上げてた視線を隣に移せば、イイ顔してた。 …キラキラを遮蔽壁と言ってんのか? それとも、キラキラは別物と見做して言ってるんだろーか? どっちにしろ、壁とするモノに施された光学か迷彩な感じの事について知りたいと言ってんだと思う。


 スイッチのオンオフはクロさんのお手振りだと知ってるが…  なんだかな? 言ったら夢が壊れそう? 言っても迷彩の方法じゃないしなー。


 ん?   あ〜、魔法な原理を迷彩訳する方がおかしい気もするな。





 「続き話してくる? 居場所がわかれば、それで良いから」

 「にー、なー、ななーん」


 「うん? 俺? ああ、俺は何ともない。寝てすっきりしたって言うか〜  えー、不調は感じられません。あは、目覚めの一発が良過ぎたみたい」

 「なーーあ〜〜〜」


 「うわ、ちが! 嫌みじゃないって!!」



 ちび猫、ひょいと抱き上げられました。


 拗ねても泣いてもいないが、下向いたら手で頭から背中を撫でられます。「猫扱いすなー!」と、怒る気持ちはまぁ起きず。ほーんと猫やってる。なりきれ・やりきればっちり感。いーですね、猫レベル着実に上がってるでしょう。


 俺の方も起きるのに間に合わなかった。そのお詫びに頭でスリスリ実行します。そんでさっきの金魚説明にイミフな顔をした以上、俺猫語の勉強を省いてはならんとゆーのもよくわかった。


 「行く?」

 「に」


 お互い納得にごめんよも終わったんでいーですね。さ、行ってきましょう。  …って、登れないんですけど。







 「降りて来そうにないね」

 「に〜〜」


 ハージェストの腕に抱かれたまま『降ろして下さ〜い』とお声掛けをしたんだが、飛び込み台から変わらん。ちょーーっと待ってるんだけど変化無し。



 どうしたんだろう? 


 …はうあっ! そーだよ、金色投網だけならまだしもゴールデンボールも作製したじゃねーか! ボール内での金魚再生も含めたら。


 マズい、クロさん疲れちゃったんじゃ?



 ちび猫のーみそ高速回転!

 

 部屋の維持管理、俺の服補助。金魚。金魚は生きてる。生きてる金魚をどうこうするんだから、金魚再生は普段の力と方向性は違うはず。より高度な、いや、繊細さ? そっちが要求されるはず… それに、あれだけの数の金魚… 



 あの数を一気に出せるもん?


 クロさんはマスコット、その力が無限な訳ない。あの人と同じじゃない。じゃあ、どうやって出す? …それこそ余力がある時に、一匹ずつ作製して作り置きしてくれてたんじゃないの?


 自分が出したと胸を張った姿に、「他は?」でしょんぼりした。出せない事にしょんぼりした。


 そうですよ。

 ご飯の要らない金魚は要回復。クロさんも要回復。作り出すのも、きっと要時間。出してくれたのは、構えてくれてたのはどうしてか? そりゃあ普通に俺の為でしょ。


 心を寄せてくれたんでしょ?




 クロさんが力を使い込んだら。

 無闇矢鱈に使い込んで必要な時にお疲れモードにさせちゃったら〜〜  まいるーむの機能停止か、それとも…  それとも。


 クロさんはマスコット。俺の大事な大事なマスコッ…  マスコーーーーッ  うわああああっ!!





 「にぃいっ!」

 「え?」


 大丈夫です! 俺が飛び込み台へ上がればいーだけなのです! それっくらい簡単だから勇姿を見てて下さい!! 





 「わかった、あそこへ放り上げれば良いね」

 「にっ!」


 そう、あそこへ俺をぽーいとしてくれ。


 これはハージェストがいるからできる技ですな。うむ、これも確かな協力型複合スキル! 手頃な踏み台があれば勝手に踏んづけて上がんだけどな。



 「脇を持つよ、良いね? あそこへだから〜」

 「に〜あ」


 ちび猫、生きていますので砲丸投げの投げ方は嫌です。拒否します。投げる側は強くやり過ぎてはいけません、目測を大きく違えてもいけません。優しく優しく丁寧に、ふわっとした感じで放り上げてくれなくては。投げられる側も投げる側を信頼して怖がらずに。目標地点が近づいたら、しっかりと台に掻き付く心構えでいきますよ〜!



 「ん〜、君の重さが〜   ま、感覚でイケるだろ。  あ、一度軽くお試ししとく?」

 「にゃにゃにゃん!」


 「そーだよね、こんなの一発で決めてやろうってものだし」

 「にー!」



 ハージェストとにまっと笑う。

 さぁ、本番! ちび猫、高い高いをして貰うんでーす!



 脇の下の手により、にゃん体ぶらーんだらーんの尻尾ぶら〜ん。ゆるーくゆるく体を揺すって貰いながら〜 せーのっで放り上げです。


 …そーいや、あの時も脇の下持ってせーのだったな。 ……ふ、ふふふふふな紐なしバンジー。  いやいやいやいや何時かの遠い記憶ってあれですねー。行くのは上、紐があったらめっちゃ邪魔。


 んじゃ、せーのでやってくれ!


 「それじゃ」



 ガチャン!



 「……にあん?」

 

 準備okこれからって時に、いきなりノックもせずにドアを開けるのは誰ですか?







 「ワフッ!」

 「ああ、そんな時間だったか」 「にゃあーーーん(アーティス)!」 



 入ってきた黒の体に喜びました。

 ハージェストの手から飛び出ようかと思う程に喜びました。だって、部屋が違うんです。あっちの部屋からこっちへと探してきたんです!!


 なのに、俺を見るアーティスの尻尾は止まった上に入り口で固まってしまった。


 どーした、アーティス。





 まんまのカッコでぷーらぷら、ハージェストに運ばれご対面。


 「ほら、アーティス。ア、ア、  あ〜  誰だかわかるか?」



 …名前を言おうとしたんですな。そんで言わなかっただけですな。ええ、現在進行形なんでスルーです。俺自身、フォローし難いんで後でいーわ。


 それよりアーティスだ。

 なんつってもちび猫での初のご対面ですよ。 


 しかし、アーティスは最初のばったんから俺を見分けてたとゆーからあ〜〜  こっちでもわかるでしょ。




 ウキウキのワクワクのドキドキでアーティス見てた。


 わかるかな?わかるよね?な感じで待っているんですが、全く動かないので心配なってきました。



 アーティス動きませんが、ガン見はしてます。

 俺見て、ハージェスト見て、また俺を見る。そんで漸く動き出し、にゃん体に鼻をくっ付けてふんふんふんふん始めました。腹嗅いで、顔嗅いで、ドコ嗅いでるの的なトコもひたすら嗅いでた。


 嗅いだ後の俺を見る目が何とも言えない。


 え? なに、どーぶつの壁ってそんなに高いもん?



 ハージェストの手を叩いて降ろして貰う。


 床にお座りして見上げたアーティスは…   でかかった。巨体でした。ええ、人の時でもでかいと思っていましたが、にゃん体で下から見上げると〜〜  アーティスじゃなかったら恐怖ですがな。

 いや、今でもちょっとでかさに恐怖を感じて腰が引けてます。ジリジリ下がってハージェストの足を盾に隠れたい気がしてきてます。ですが、この体での動物との触れ合いは大変魅力的なので〜〜


 「にゃーーん」


 猫手を上げて飛びついてみました。


 たしっ。



 …待てや、こら。


 無声無音でアーティスが飛び逃げました。その距離に大げさじゃない?と思う。態度にショックを受けます。  えー  アーティス、なんでぇ?



 「…アーティス?」

 「なあーん」


 俺の悲しい声と疑問の声が被さると、アーティス慎重に寄ってきて俺の周りをぐるった。



 落ち着いたのか納得したのか、伏せ体勢になりました。この間、ずっと無言です。口をがちっと閉じて「へっへっへ」も言いませんし、舌も見せません。愛玩とは違う視線をまともに受けます。あの時のヘレンさんの心痛を理解します。


 現在、向き合う形で見合いしてますが…  こっちだと俺の事がわからないんでしょうか?


 

 そうっと猫手を犬手に置きます。ちょんとしますが怒らないので再びちょん。それから気を良くして、たしっと乗せてみましたらば。


 「にあんっ!」

 「あ!」


 ごろろっ!



 払われて、ちび猫横転致しました。


 


 「に、  にあ」


 怪我はしておりませんがショックです。何故に俺は転がされたのでしょう? それとも、アーティスからすれば軽く遊んだだけでしょうか?



 アーティスは尻尾を振ってない。しかし、睨んでる訳でもない。なんかこー… 観察眼のよーな。 まさか、俺だと思うが確証が持てないとか?


 答えがわからんが…  よし、スキンシップを続けよう!



 「にゃーんっ」


 正面はキツいと思うので、斜めからぴょんとしてみた。


 ぱしっ   ごろんっ。



 …アーティス、お前の稼動域結構あんのな。んじゃ、もっかい。


 「にーっ」


 ぺっ  ころろっ。



 「みーっ」




 俺は数回トライした。

 しかし、転がされ続ける。背後に回ろうとすれば唸られてビビった。喉奥の唸りは小さかったが絶対怒った。直ぐに止めたから、ハージェストには聞こえてないと思うけどな。


 「アーティス」



 わお、聞こえてる!


 低音のハージェストに応えて顔を上げ、尻尾を振る。振るが何時もの振りとは速度も角度も違うんで、お愛想なのかも微妙です。


 「に〜〜い」


 呼び掛けにこっちを向くが、うーん。怒ってはいないよーであるが、うーん。鼻のピスピスが引っ切り無しなのにも、うーん。


 ですが、ハージェストの注意が入りましたので大丈夫でしょう。俺だと理解して貰わねばならんが目の前でにゃんぐるみ脱ぐ方が早いんか?



 しかし、もう一度。

 今度はアプローチを変えてみましょう。




 「ガアアアッ!」

 「ふぎゃああああああ!!」



 アーティスの怒声が耳元で炸裂した。


 鼓膜に響く怒声に恐怖を感じて逃げたいが、間近でやられると硬直して動けない。動けなくても全身の毛穴はドバッと開いた気がした。同時に体と気持ちに力が漲り、やられてなるか!と反射で手が出た。


 ぺちっ!


 「みぎゃあああああ!!」

 「あ、ちょっと待つ! 待つ待つ、まあ〜〜   ぁ」



 近づく口に、赤い舌。見える牙。

 掛かる息が猫鼻にはやけに生臭く、今迄そんなの臭わなかった分だけのーみそプツンときた。大体、俺にそんなんしてはいけませんー!!


 ぺちぺちぺち!


 一度動けば硬直は解けた。自力でその場からダッシュした。


 「うわ…  なんて無体。 むごい」



 ベッドの下に逃げ込んで、ふーふー言ってたらドキドキも治まって落ち着いた。でも、水が飲みたい。 



 気付けば周囲が明るく見える。

 

 はぁ? なんでベッド下が明るい?


 不思議な現象に、そーっとそーっと這い出たら。アーティス、しゃがんで片膝着いたハージェストによしよしして貰ってた。その光景が、こう…  妙に良かったんです。



 「にあ〜〜」


 そこに俺も混ぜて〜と思いまして、てててっと寄ってったらアーティスがビクッとした。ハージェストが俺見て目を閉じた。そんで「ふ〜っ」てため息吐いた。


 何ですか? その顔。



 「あのね、何て言うかなあ?  あ〜  躾に暴力振るったら駄目だって」

 「にあ?」


 

 ハージェストの言う事はわかりますが大変よくわかりませんでした。

 



 「ああ、自覚ないんだ。うわそれ本能?」

 「にゃー?」


 「えー、君ってば猫本能あるの? えー…  そんな人のはず」

 「ぎゃーーっ!」


 どすっ!


 「たっ!」


 にゃん蹴り放った。

 アーティス離れた、どーしよう!






 「まずは鏡を見ようか」


 ショックな俺をスッと抱き上げ、鏡の前へ。


 ハージェストの胸に手を置いた鏡の中のちび猫は、キランとしてました。体全体が淡い感じで光ってます。右向き、左向き、正面、ドコを向いても灰色ちび猫キラキラしてます。


 なんとゆー事でしょう! 何時から発光猫になったんでしょー!?


 

 「真の鏡でもない、普通の鏡です」


 すんばらしーいネタにぐりんっと振り仰いで食いつきましたが、ネタを振ったハージェストにそんな気はなく。


 「まだ毛が逆立ってる。まぁ、これも可愛いけど。これは君自身の発光とは違うもの? こうすると消えてくよ。  …君さぁ、ナニしてたの?」

 「に…  にぁん」


 ど、どぼんかな?



 「君からはわからなかったかもだけど、アーティス我慢してたよ。俺以上に上を注視してたし、覚えてないかなぁ… あの時、あの場所にアーティス居たよ? 力の恐怖を覚えていて元を理解してる。あの時、アーティスは君に吠えた。見える力でなく君に。つまり、根源を解してた。君のこの輝きはあれに似てる」


 必死こいてのーみそ回した。

 あの時と言われると、きっと言ってた時のはず。


 しがみついてたよーうな気もすれば、ギャオンと吠えられビビった気もする。他にもぐるぐるしたよーな… うう… ゲロな記憶が他をだな。

 


 悩む俺を抱えて歩き出す。


 「アーティス、伏せ」


 静かな声に応えて、もっと頭を下げようとする。元から伏せってるからそれ以上無理、わかってるのに重ねて言う。アーティスは吠えない。従順に、それ以上をしようとする。


 身動きしない黒の毛並み。



 「にゃあん!」


 アーティスの背中に灰色ちび猫乗ってます。安定感ば〜っちり、うきゃきゃきゃきゃっと楽しく嬉しくわーいです。毛並みに猫顔埋めてグリグリします。動物臭もばっちりしますが乗ってる事が楽しいです!  ですがあ〜  アーティスほんとーに動きません。


 「にーぃ?」

 「わかるよね? 緊張しきってる、可哀想な位」


 ひょいと持ち上げられ、引き離される。


 『あー!』


 思ったのは、それだけ。

 文句を言おうと腕の中で見上げたハージェストの顔にショック。


 「アーティスの緊張を解すのに、ちょっと時間くれる? ね?」


 俺の顔を撫でていきなり投げた。ぽいってやった。反論の余地もへったくれもない。え?え?え?な状態で俺は宙を飛んでた。



 とっ。


 片手で投げても狙いは正確で、距離が足りずに掻き付く必要もなく飛び込み台の中央部分に着地した。見下ろすとアーティスと目が合った。


 「に〜ぃ」


 無反応。


 固まってるのを見ると心臓ズッキン、あの目がショックで俺が固まりそう。そんでも此処に居たら駄目なんだと泣きそうな気持ちを誤摩化して、下を見い見い部屋に入った。







 「クロさ…  俺、今 なんか 間違え     じゃない、無事ですか!?」


 下を向いてる暇はない!!


 「うひっ!?」


 目の前にいらっしゃった。 …ビックリドッキリ突進しなくて良かったです。



 「クロさん、ご無理は!?」


 くるくる回りましたが、どこも問題なさそうです。無事を確かめたらホッとした。その場でぺたんと猫座りしたら、なんでかよしよししてくれた。それにほけっとしたら首根っこ咥えられて運ばれてぴょーんと飛ばれてカゴの中。


 

 隣で丸くなったクロさん。


 凭れるのに最適状態。同じ黒でも毛並みは違う。違うけど毛並みは毛並みで大変魅力的ですので、そこへそろ〜っと灰色ちび猫凭れてみました。そしたら、ほうっとなりました。


 アーティスも同じよーに脱力してるでしょうか?



 アーティスの態度もキましたが、ハージェストの態度と言葉はもっとキました。言われた事を反芻すると俺そんなコトは。だって金魚にも気を付けて、声無きモノへの虐待はと思って注意して、なのにアーティスにしたって嘘でしょう? でも、アーティスかっちんしてました。


 なんかどっか痛いです。

 痛いって思うんですから、どっかが傷ついてるんじゃないでしょうか?




 酷くないですか? 

 ちび猫、鼻水出たらどこで拭けばいーんでしょ?


 

 上半身起こしてたら、クロさんのお手が動いて俺をぺったりしてくれました。鼻水ももう一つも付着させたくないんで、ぜーんぶstopさせて放棄して、べたっとしました。


 



 

 暫くしたら落ち着いたのか、のーみそが活動を始めます。



 「クロさん、赤を有り難う。泡消え見ずにすんで嬉しい… 金魚、作り出すの大変だったんじゃないですか? 作るのにタイミングも必要だったのではと思い至れました。俺の不注意で泡消えさせなくて良かったです。余計な苦労させて…  いえ、有り難うです」


 細めた目が笑ってました。

 飽きてポイ捨て、次ちょーだいな子供ではありません。ずーーーっと大事にしますから。


 んに〜と笑い返します。泣いてません。




 「それで夢の方ですが、わかるコトありますでしょうか? 結界を抜ける抜けないも問題ですが手の狙いも…  俺、恨まれる覚えなんか… 」


 言えば気分がヘンに落ちる。やっと上がったのに落ちてしまう。あれだけの数に恨まれてたら怖い。思考が俺の頭を押し下げる、あっちもこっちも理不尽過ぎて泣きたくなる。俺がなんかした?


 猫頭でも頭なのでそれなりに重いのです。

 重いから引っ張る力に従うと黒の毛皮の中に埋もれてしまうです。  …ああ、落ち着く。





 何時迄もこーしてはいられないので顔を上げます。するとクロさん、むっくり起きました。俺も起きます。そしてカゴから出るので俺も出ました。



 カゴから出たクロさんと向き合います。


 俺もきちんと猫座りしてお返事を聞きましたが、やはり喋れないのは一つの壁です。説明が貰えない分、俺が頭を回してあーではないかこーではないかと聞かない限り、yes・noだけのお顔返事では進展が見えないのです!! でも、回し方がわからん。



 夢の中の出来事。

 夢隠しと言われる現象がどうやって行われたか、わかりますか? yes。

 誰が行ったか、わかりますか? yes。

 目的が何か、わかりますか?  …yes。



 目的の返事には少し瞑目した。


 だから返事が遅れたが、クロさんには推察ができてる。そう、他人の思考の推察ができてる。心の機微の推察を交えてると思うと俺の心のどっかがあったかい。



 今でも思い出せる。


 『これをやろう』


 出して、付けてくれたのはモノだった。モノ以上の何でもなかった。あの時、こんな今があるなんて考えもしなかった。疑似的なナニかとも思ってない。


 


 いかん、現実に戻ろう。

 そんで、この現実の打破をだな…



 水音、聞き間違いじゃない? yes。

 最初の水音と夢隠しの犯人は同じ? no。


 犯人わかる? yes。

 居場所わかる? yes。

 

 どこでしょう? yes。




 これをどーしろと?


 繰り返されるこれをどーしろと!? あそことゆー返事ではわかりません! 最終の返事が『あそこ』に変換されるんです!!


 答えがそこにあるのに聞き出せない、どう聞けば良いかわからない。宝箱を前にして蓋を開けられない俺の無能さ加減(技術不足)…  ツラい。


 しかし、ここで当たり前っぽくてもよく考えると難題だろう質問はしたくない。yesな返事が頂けそーうな気はするが! 


 するからこそ、したくない。

 クロさんの有限な力を使わせて俺の理解が追いつかない場合も怖い。


 して貰うにしても今は却下、既に大技繰り出してます! 有言実行されると有限な力が目減りします!! 番猫以外のコトで力を使うのはよろしくないと思うです!



 「みぃぎゃ〜あ〜あ〜〜あ〜〜〜」


 手詰まり感いっぱいで知恵熱に頭抱えて悶絶したら、よしよししてくれました。嬉しくも悲しい。無条件に差し出される手が嬉しい。そして見上げたクロさんは優しい顔だった。その顔に『もう大丈夫』って言ってくれてる気がした。


 優しい慰め。

 もっと自分が賢ければと、追求能力があればと思うが俺の為に存在するクロさんに「もっと要領良く頼みます」と願うのも言うのも間違ってる。



 クロさんが喋らない、このもどかしさ。


 あの人らしさをものすごく感じる… あの人もきっと笑って何も言わない。もし言うなら、それはきっと  きっと笑顔で…  『所見を述べろ』 から始まるんじゃね? んで次に



 「あ、なに?」


 クロさんに促され、向かうは金魚鉢。そーです、金魚も心配でした! 気絶赤!!


 「それっ!」


 縁にお座りして覗き込んだ金魚達は… 金魚達が…  


 「え? ど、どーしたんですか、これ!?」








 「落ち着いたか? アーティス」

 「キュッ」


 小さな鼻声に微かな震え、アーティスの恐怖が忍ばれる。


 「あー、ほんと怖かったな。もう震えなくて良い、怯えなくて良い。あれはアズサだ。お前を打ち据える為に振るったんじゃない、ああ、よしよし。守りはしても危害を加えるなんて有り得ないのにな、酷いよなぁ」


 ゆっくりと毛並みを撫でてやる。

 でかくなろうと撫でられる事は好きだ。こうやって甘えてくるのも安心している証拠。人はわかり難くもあるが獣が心を許す姿はわかり易く、可愛らしい。

 同一言語を話せなくとも理解する頭を持っている。触れ合い努めればもっと変わる。理解する頭があるのだから、手を伸ばさなくては。


 そう、「取って」では俺が掴んだことにならない。 名を  未だに呼べない自分が不様だ。しかし話してないから当然だ。


 要は、聞くべき時(タイミング)なんだ。


 焦ってはならない、逸ってはいけない。その時でなければ、きっと栄光の扉は開かない。その時でないと進めない。そうとわかるこのもどかしさ。程度の話と割り切ってない以上、探るしかないが…  一体、何時なんだあああ!




 

 「アーティス、大丈夫。大事だよ。あの姿だと視点が低くなり過ぎて見えなかったんだよ」


 話し掛け、宥め、撫で続ける。 …ああ、俺も落ち着く。


 小さく尻尾を振り始めたのに笑みを返すが、上を気にする目に仕方ないと思う。入って行ったアズサを気にしてるのか、力を恐れているのか見分けが難しいがどっちもだろう。


 「アズサもお前が好きだって、そんなに怖がるな。戻ってきたら撫でてくれるさ」



 繰り返し慰める。

 こんな時に言葉は惜しまない。惜しむなら頭が惜しい。しかし、アズサにはもう少し説教しよう。いや、しなくては。アズサの為に躊躇わず唸った、大事に育ててきた俺に唸った…  あの時のショックを理解してくれないと俺が可哀想過ぎるだろ。





 


 

 「なななな、なんで金魚に柄ができてるですかー!?」


 この短時間での謎に理解不能です。猫探偵は頭が追いつきません! 赤金魚と黒金魚に白い斑模様が、斑点が。白く染め抜いたよーうに赤白・黒白金魚になっちゃってるぅううう!!



 「しかし、ケツ。どの子も基本はケツ…  大体がケツ。まさかクロさん、この白いの俺のぺっち跡?」


 また向こう側に行かれたクロさんの口角上がって素敵なチェシャモード!


 「うええええっ! それならもっと綺麗なテガタ押ししとけばああああ!!   ダメだな、金体に俺の完全なテガタを押すと面積からぷちに…  アウト!」


 即決否定した。


 「あ! 気絶赤!」


 一匹だけ頭と顔が白いのがいました。こいこい言ったらやってきました。


 見れば見るほど気絶赤です。体格からしてそうです。



 「…無事に元気に泳いでて嬉しい。わかってるか? お前、泡消えしかけてたんだぞ。あのままだったら、どーなってたコトか! 金魚に戻れて良かったなあ。それに可愛い姿になったって、頭白いのはお前だけだ。 …赤金魚で良かったな、黒金魚だったら頭つんつるぴかりんみたいだけど、お前は赤だからプリティーだ」


 真顔で言った。口をパクパクさせる赤金魚の声は聞こえない。思念なんてのも聞こえない。小さくも波立たせる姿に感動以上のナンか感じるが、感じられても魚の表情は読めませーん。



 そして俺は不思議を見た。

 クロさんが尻尾で水面を打てば、金魚達から白さが消えて元通り。打てばまた白くなる…  浮かぶのか、抜けるのか? テガタが現れる。

 


 ふっと部屋の光度が落ちた。


 「お?」


 暗い中、金魚鉢だけが明るい。光りの水の光度も下がったのか、泳ぐ姿がやけにくっきり浮かんでる。白のテガタを宿した赤と黒の金魚が泳ぐのに魅入ってた。






 ぱちゃんっ!


 突然、一匹が宙に向かって金魚の滝登り。

 鰭を懸命に動かしてる様は正しく必死だが…  もしかして、これ釣られてる?



 「あ」


 見えない糸が切れたらしく、大きく身を捩って跳ねる。


 頭を下に、落ちていく。

 聞こえない水音を耳にすれば、身を翻して浮上を始め  宙を泳ぎ出した。



 泳ぎ始めのバランスはイマイチだったが直ぐに上手に風を切る。上手に泳げる事が嬉しいのか、俺の周囲をくるくる回った。


 放つ光り、その航跡。

 暗い中に瞬いては消えるそれが俺の目を奪う。プラネタリウムに似てる空間に、生きている証が瞬いて消える。綺麗。



 そして黒白金魚は俺の顔の前で止まり、鰭を止め、ゆっくりと沈む。ゆらりゆらりと風の波間を沈んでいく。金魚鉢の中、光りの水の上、鰭を広げて止まる金魚。



 何だか足元で、お辞儀されてるみたいだね。 




 そうっと猫手を差し入れて、甲に乗せた。

 持ち上げる速度が早かったのか、途中で金魚がふわんと浮かんだ。


 ふわわんと浮かんだ金魚はついた弾みに鰭を動かし、泳ぎ出す。さっきと違ってどこか楽しそうに見えるのは思い込み?


 クロさんの方へ泳いでいって、ゆう〜らり。クロさん静かに見つめた後に、手を上げて金魚を軽くツンとした。勢いに逆らわない金魚はふんわり飛ばされやってくる。


 …ふんわりボールのキャッチボール、これぞ金魚お手玉! なーんて思った俺はダメ? あ、紙風船? うわ、直ぐ破きそう。




 暗さの中で際立つ煌めく金魚。俺の前で留まり小さな煌めきを放つ。


 

 提灯な金魚。 

 ホログラフィーでも画像処理でもない生きてる金魚。意志を持つ命。俺がついさっき思った事が、こんな風に。



 ぱしゃん。


 …他の子が、次が釣れてた。



 釣られて切れて、大きく跳ねて泳ぎ出す。次々に釣られていくが、最初にバランスを上手く取れないのは皆一緒っぽい。



 そして繰り返す。

 空間は光りで溢れ、煌めく金魚は重さから解き放たれて宙を泳ぐ。 


 …ああ、ええと、うん。幻想的。綺麗。心の何処かが震えてる。泣きそうに震えてる。単純に喜べは良いだけの事に、なんでか泣きそうになる。


 感激や興奮から遠い心の震えは、何になるんだろうか?







 「金魚がいたら、クロさんも寂しくないですよね?」


 軽く首を傾げ、黄玉が笑う。

 その身がしなやかに近寄り、入り口を見る。また、俺を見る。


 無言の問いに、震える心が何かを呟き、呟きが生み出す思いに押されて立ち上がる。尻尾がピンとなる。



 着替えて、戻って、それから。















 本日のちび猫遊び。


 『挨拶』

 相手と手を合わせて遊ぼう。特定動物には効果覿面。


 一点集中、跳躍、愛情表現、遊び心のレベルアップに繋がります。



 『白い微笑み』

 遊びの中で大事なことを見つけよう。


 無邪気、親切、優しさ、思い遣り、説得、笑顔、遊び心のレベルアップに繋がります。今回の遊び心から、遊び故の白々しさが派生しました。


 

 『ちび猫大名金魚行列』

 お供を連れて回って遊ぼう。


 鼻高々、意気揚々、歓喜、悪戯、無邪気、遊び心のレベルアップに繋がります。



 『飛び込み台』

 飛び込んで遊ぼう。


 度胸、平衡感覚、爽快感、輝く笑顔、遊び心がレベルアップします。飛び込み台は下の安全が確認された場合にのみ登場するレア遊具です。出現時は迷わず飛びましょう。










 今日のクロさんと一緒。


 『にゃんぺっち / spanking・魂』

 手で叩いて遊んでみよう。 / テガタでもって教えよう。


 一点集中、予測、動体視力、無邪気、興奮、輝く笑顔(チェシャを含む)、遊び心がレベルアップします。 / 一挙両得、上下確守、奉上精神、幸福の教導を行いました。



 『金魚でお手玉/ spanking・魂 2』

 相手に飛ばして遊ぼう。 / テガタを意識させよう。


 力加減、情操、多感、甘え、遊び心のレベルアップに繋がります。 / 忍耐、流転、道化、彼我の悟り、滅私奉公の教導を行いました。 また、お子様との戯れに深い充足感を得られます。



 本日の保存液効果によりスタイリングがキープされます。キューティクルとトップコートが長持ちします。番猫の存在により心に余裕と安心、更なる配慮が備わりました。


 精神安定力アップ。決断力アップ。追求力ダウン。

 new!白い微笑みの体得に、猫遊び(上級スキル)『ちび猫、百面相』への道が開かれました。











 出て行く姿を見送って、外での声に耳を澄ます。同時に、光度を上げていく。外の声に目を細めつつ、部屋を見回す。


 金魚は全て鉢の中。

 一つ頷き、部屋を光りの紗幕で覆い直して位相を変えた。



 預かる部屋の中、中央に座す番猫は入り口の紗幕を僅かに薄くし、光りを流して顕示する。そして、無声を以て謳い上げる。



 『こちらに御座おわすは、お子様である。当方の大事な大事なお子様である。この身を御使いとして贈り賜うた御方のお子である!!』



 

 再び紗幕で部屋は覆い直され、隠された。

 急速に光度を落とす部屋の中を番猫は悠々と自分の場所へと戻っていく。


 薄明かりとなった部屋は静寂で満たされた。





 制限を是とし、配慮故に持ち込みはない。ならば現地調達するまでだが、無駄も過分も行う気は無い。目に余るは是の意に反する。金魚は利に叶ったストレス解消で理に叶う当て付けだ。


 行いしは、番猫の宣告デクラレーションである。



 




今回は猫がよく遊びました。ほんとうによく…




本日の国語辞典。


五体投地… 仏教徒の方々がなさられる最高の敬礼法。 

猫・犬・金魚は五体に非ず。しかし体全体の意では通るでしょう。  たは。



一応。

奉上であって奉仕ではない。



某有名所の『たまし*のルフラン』

仏語ですね。 …仏語ふつご仏語ぶつごにルビ無くてもイケますよね? って、書いたな。






はい、次に本日の英和辞典。


spanking


名詞  平手打ち・尻叩き

形容詞 活発な・威勢の良い 強い

副詞  とても立派な  



真っ先に出るのは名詞でしょう。ええ、そうでしょう。ルフランのよーにかっこ良く言えたらと思いましても、スパンキング。 あっはー。




declaration


その他、 announcement sentence pronouncement proclamation 等々ございまして。アナウンスメントがわかり易いかと思いましたが…  発音を文字に置き直すと違うと思えたり… はぁ…


『宣言する』のdeclare(ディクレア)の方が語感的に良いのかと悩んだり…





あ、序でに質問。


金魚はアナタ。歌い手はクロさん。

この状態でアナタはルフラン(繰り返し)をしたいですか?   …特典はナンかの耐性でしょうか?



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