142 三過、有りしか?
タタタンッ
キラキラを潜り抜けて部屋に入れば、 …なんという事でしょう!
「なーーーっ! クロさぁーーん!」
脱衣カゴの横にクロさんがーーーっ! 猫なってるうー!!
勢いよくダイブした。
後先考えずにダイブして、ガシッとしがみついて猫頭をグリグリグリグリ押し付けた。が、ダイブの勢いがもう少し強かったら色々危なかった気がする。しかし、興奮したんだから仕方ない。そしてしがみついても興奮は冷めやらぬのだよ!
んだから、手を離してぴょんぴょん跳ねる。また、ぴょんと抱きつく・しがみつく。
…ああ、この感じ。
クロさんのこの感じが素敵です。抱きつきに爪をちょっくら出しましたが、ざっくりはしません。そこら辺は甘噛みマスターを舐めるなとゆーのです、同じ事だしさ〜。
「クロさん、出てきてくれて有り難う。この前はごめんです」
ちび猫とは言え、思いっきりやったとゆーのに軽く体を揺らす程度なクロさんはすごい。毛皮に顔を埋めていれば前屈みになられるので『いーやーだ〜』と足の筋肉を総動員し、猫張り付きに足爪を引っ掛け〜 ようとしてやめた。足裏が床に着きましたので、名残惜しくも猫手を離す。
見上げる黄玉は細まってた。
んで、俺の頭を舌でぺろりとしてくれました。
前回と同様のグルーミングに心が痺れます。猫の尻尾がしびびびびん!です。
怒ってないよの優しさに、俺も頭を擦り付けてぺろっと一回しておきました。感激からの愛情表現ですが一回ぽっきり。
だってやっぱりねー、それに猫時とマスコット時の毛並みの違いをどう考えればいーのだろーか? ふはははは。
「そうだ、クロさん。確認ですが外の声は聞こえますよね? お話の途中でも呼ばれたら飛んで行きたいんです。いやー、寝たから黙ってきちゃってですねえ〜 …はれ? そーいや、俺が部屋に入ってる間って外から見たらどーなってんでしょ?」
優しい猫笑顔を読み切れず、首を傾げてたらクロさんが歩き出したんで追っかける。てこてこクロさんと歩くとナンか新鮮でも直ぐソコで終了、残念。今日はだるまさんはありません。
二匹で一緒に入り口に立って下を見ると、滑り台はあったが下の方が見えません。 …宙ぶらりん?
『上にはあっても下にはないよ。 これ、なぁーんだ?』
……ゆーれーの足 じょーた いっ!
ぶんぶんぶん!!
猫頭を恐ろしい勢いで振った。なんで俺はそっちを考えるのか!?
隣を見上げればクロさんが俺を見てた。おみ足を持ち上げてわかり易く振った。そしたらシャイニングカーペットこと、俺の滑り台が消えていく。消えていき、完全に消えた。再びおみ足振ったら架けられた。
消せるし、架けれるし、中間も有りと。
理解と納得に安心したが、これはクロさんの負担増ではなかろうか?
「クロさん、手を振るのは条件ですか?」
「…うおおっ!」
ぺちっ!
おみ足を持ち上げ、その肉球を前に出した瞬間!!
俺は肉球タッチに走りました。
反射でしました。いやだって猫同士のハイタッチなんてなかなかできない芸当でしょー? 飛んだのは俺だけで、その気でやったのも俺だけですが、これは見事なハイタッチです。
あれ?な感じで自分の肉球見つめてるクロさんに、にゃふっと笑っといた。まだまだ自分の肉球を見つめてらっしゃいましたが手を下ろし、俺に顔を寄せてスリッとして下さいます。目が笑うって、ええ、ほんとこーゆーのだと。
そのお顔で視線をカーペットへと飛ばされました。
俺の視界にキラキラが舞う。大量に舞う。
再び架けられたシャイニングカーペットのキラキラが、よりきらきらしく輝いております。一口に「すげえ!」としか。
キラリキラリと室内を舞うのが大変綺麗です。なんのサービスでしょうね? しかし、クロさんの負担になってないよーなので、すんごく安心しました。上からハージェストが寝てるのも再確認しましたが確認がちょっと早過ぎるわぁ〜。
では、クロさんと一緒に戻ります。
「ん?」
部屋に入って、てこてこてこてこ。
クロさんが振り向くので俺も振り返る。そしたら今度は入り口のキラキラレースの重なりが薄くなってた。
薄い重なりの煌めきが風を孕んだかの様に、僅かに翻る。
翻った隙間から向こうの部屋の壁がチラ見えして、『何時でも飛び出しオッケー!』なのがわかった。
「ありがとーです」
猫笑顔と尻尾フリフリで感謝しました。
不安が解消されましたから、さぁ質問タイムですよ!と思ったら〜〜 水音がしたんです。
ぱちゃあん!
ハッとした水音の先には金魚鉢!
部屋の灯り。
天井からの光りの雫がキラリと落ちたら、そこにあった金魚鉢がぱあああっと!
「金魚鉢! 金魚鉢まだあったーーーーー!! 俺のき・ん・ぎょー!」
大喜びで猫っ飛びしました。
入った時にエアーポンプな音がしなかったから、もう片付けられたもんだとばっかり!
縁に爪を引っ掛けて中を覗き込むと、赤と黒の金魚達が変わらず泳いでいました。
背鰭に尾鰭に胸鰭を動かして、優雅に優雅に泳いでいます。すい〜〜っと泳いでいく姿は気持ち良さそうで、どれも元気そう。そんでキラキラ属性も変わってない。
…ゲームなら持ち物リストに『煌めく金魚』って記載されるんだろか? ……赤 x 何匹 黒 x 何匹って出るんだろなー、あっはっは。
「クロさん、この金魚達に餌はやらないですか?」
この質問にお答えはございませんが、意味不明と首を傾げることも無い。
「餌やらなくてもへーき?」
お答えがありました。正解に目が笑ったんです。
「ご飯の要らない金魚達〜」
水ではない中を泳ぐ金魚に餌は要らない。そーなると、これは生物に該当しませんよね? 魔法な生物で正解か? …この部屋の付属品? そりゃ、猫には魚か鼠です。
「クロさん、これは〜 おにいさんが用意してくれたナニかですか?」
お顔が動いて否定されます。
「え、違うの? なら、これどーやって?」
クロさんが胸を張られました。はい、そーゆーポーズです! お顔が輝いてます!!
「なんと! クロさんが出してくれたですか!? え、すごい! クロさん、他にも色々できるの? ナニ出せるのー!?」
俺の弾んだ声にクロさんは項垂れた。
下を向いた目があからさまにしょんぼりした。
「…ちが、違うから! や! できないどーこーじゃなくて!」
大慌てでクロさんの隣に引っ付き、頭を擦り付け、周りを回ってぐるぐるしたよ。
両手を畳んで隠した猫スフィンクスモードのクロさんの前で、同じカッコをしてます。カッコはカッコなんですが、別に警戒警報は発令されていません。この部屋の中で発令されたら怖いです。
だらけたカッコでもいーんですが、大小が同じカッコで佇んでるほーを選んでみた。向き合う並びのダブルキュート!
「クロさん、聞き方が悪かったですか? そんなつもりはなかったんですが落ち込ませてごめんです。できない事があるのは当然で、できない事を責めてるのではありません。カゴの為のクロさんです。んね? クロさんの存在が一番のサプライズです。感謝です、ありがとです」
しょんぼりさが薄れてくのが嬉しいね。
俺の言葉が届いてる、聞いてくれてるってのが一番心に響きます。どんだけ言っても聞きたい事以外は流す奴ってうざいです。スルースキルは伸びるけど、流すだけのスキルは常に単体。複合スキルに絡められやしないから他は伸びないでしょーにねえ? 単体スキルに特化した後は他が伸び難いのは鉄板でしょー?
あ、そか。
リアル弊害考えないあーたーり〜 のーみそスキルアップでいっぱいで色々終わってんのかあ。あーはーは〜、じゅーんすいに真っ直ぐに〜。
…俺は馬鹿らしくなって相手すんのやめたけどね。やめたらやめたで今度は無視だなんだと煩くて。性格の不一致って言葉で終わらせていーものかと悩みもしたけど、『真面目に悩むだけ、損』そんな気になったら終わりっしょ?
あれで親が出てきたら。
まーあ、愉快で詰まんねー話になってたろうな。
『友達は選べ』
どーやっても横並びにならないから、この言葉が良くも悪くもながあ〜く息衝いてんでしょ。
そーですねー、最悪ダチでもない奴にずーるずーる引っ張られてえ〜〜 思ってもねー癖にダチだろーがとか言われてえ? 最後にはモノみたいに
「ん? あ、ごめんです。違います、今でない事です。今はクロさんの事ですのに他を考えてた俺がダメさんです。クロさんが居てくれて嬉しいです」
…最初、心があったら申し訳ないからマスコットで良かったと思ってた。それが次には心はあるんだろか、設定だろかと考えた。心の方を希望した。あると理解して喜んだ。
「心があって、物でなくて良かったと思ってます。俺のクロさんは優しいです」
そこにあるのは当たり前じゃないと思えたら、ちょっと自分が大人な気分。子供と大人の境界線を一つ自分で見つけました。 …うわぁお、ご・ど・もな自分もはっけんん〜。 満足満足、子供満足。あっは。
あ? あやややや〜 おっかしいな〜、あれだけこっここ鳴いたのに。
「金魚、ありがとー」
やっぱり、ここは戯れにいきましょう。黒い毛皮に登らねば! 山があるから登るのだ!! そんで張り付きおんぶ猫になーるのだ〜。 できるかな?
「クロさん、おにいさんの力ってわかりますよね?」
頷きにそーですよねー。
「俺の中にあるのもわかります?」
心配そ〜うな眼差しにならなくて大丈夫ですが。
「いえ、心配されなくてもあるのはちゃんとわかってます、知ってます。意外な形でばーちゃんが教えてくれまして。教えられなくても貰った事実を疑うなんてしませんけど!
ですがそれが何時の間にやら気付かない内に体外に出てたらしくてですね… 連絡可能が判明したのは素敵でも人様に恐怖を与えたよーでして。それは非常に不本意なんです」
何故か意味不明な顔された。
「怖いの嫌ですよね?」
何を間違えてしまったのか? 考え込まれてしまったよ。
これはアレか? クロさんはマスコットだからか?
待て、俺の馬鹿! そんな訳あるか!! 心があってしょんぼりして俺の感情を理解する、ぼっちの時は怒ってた。俺の怖いを理解してる。ちゃーんと喜怒哀楽を顔に出されるのにナンで振り出しに戻るか、この頭は!
そんじゃ、何を考えてんの?
「あの、クロさん?」
起きて、伸びをして、ゆったりと座り直される。目を閉じて、猫エアロビで耳の後ろをカカカカカッ!と掻く。クロさんもそーゆーコトすんですね。
「滅多にそーゆーコトはないと思うんですが、怖がられないよーにコントロールできないものかと。もしくは誤摩化すよーなコトができないかな〜って 思って で・す・ね?」
黄玉の目が俺を見つめ、ゆっくりと逸らす。
そして、おみ足を持ち上げ俺の頭をポンポンした。 …待って下さい、なんのポンですか?
じっと見上げたお顔は。いや、その目は。
………………もしや、逆か? 思考が逆か?
黒い〜 丸い〜 煌めき付きの力の玉は〜〜〜 くれた〜あの人はああ〜〜
強い → 怖い → ビビった → 当たり前 → 不可避 → 確定 → 思考の無駄 → 実践無駄、やるだけ無駄。
頭の中で図式が立ったら、クロさんの目が『無理だから、諦め』と読めた。
諦め、それは絶対だからだ。
記憶の底を浚えばある。あの人に覚えた恐怖、違うのだと震えた。 心が震えた。 過ぎたから薄れてる、けど忘れ切るはずもない。あの絶対と呼べた気配。人では無いと
待て、コントロール? あれを? 俺が? どう考えても無理だろ。 なんでコントロールなんてできそーもない事をしようと思った? どうして思えた? どっから、そんな思考が。
…………恐れ多くも先のなんちゃらしょーぐんがどーのじゃないけど、頂き物に対して「そこに直れ!この不心得者が!!」とか「不信心の恐れ知らずが!」なんてゆー叱責のお声が遠いお空の彼方から聞こえてくるのはどーしてでしょう?
うん、聞こえない。聞こえたら、ナンかの幻聴ですわ。
クロさんは言ってないし、言わないし。
俺に対して可哀想でもどうにもできないからどーしよう、でもどーしよーもないみたいな目でいるだけだしぃ。
「…クロさん、おにいさんは強いですよね。怖いですよね。 すごい上にカッコイーんですよね〜」
へらったら、クロさん嬉しそうにご機嫌上がった。
うん、俺も上がった。
おにいさん、怖いもんは怖いままが一番安全ですよねー。俺がどーこーしてボンッになったらもっと怖いもんねーーーーーーっ! あははははははははははっ!!
どーこーしよーとしても、どーにもならん方に今日のおやつの残り全部。
馬鹿になるとダメです。
貰った印は目印で、大事な大事な灯火です。ココに居ますのサーチライトが弱々しかったら発見遅れて終わりだっての。 …「せーのっ」て、あの人はぁあ〜〜!
でも、そーですね。そーゆー事が原因で人に引かれるってのは嫌ですね。でも、自分能力ではないし。 ……どーしよーもないのなら、そこでどーしよーもないと放り投げるか?
ふはははは。
俺はまた、選択の岐路に立っている。
この先、自分がどうありたいかの岐路です。ぜーんぶポイしてどうありたいかじゃないから、難易度そんなに低くないでしょう。始まるもんはとっくに始まってる。最初が大事だと、ずーーっとハージェストは言ってる。
猫に足すコトの大事な印は〜〜。
重荷ではありませんね。
はい、ご破算に願いませんのでえ〜〜〜〜 担いでいきますよ。誰だって大なり小なりなーんか担ぐもんでしょう、きっと。
自分を誉めてやる気を出して進みましょう、へいっ!
…………でもなー、時の流れにどっぱーーーんの手法も捨て難いよなー。待てば甘露の日和ありってもんだし〜♪ じゃあ、心構えと決めるもんをだな。対策と方針の前に現状で発生するだろうパターンを掴んで〜 最善の確保は予測精度を上げる事と見たり! なーんつって。
『こんな事もあろうかと!』
これで楽々クリアしていけたらいーなぁ。
「あれ、どしたの? クロさん?」
クロさんが笑ってた。
一番笑顔らしい笑顔に見えた。良い笑顔なんだけど、チェシャな感じに見えん事もないよーな… う〜 にゃー 猫笑顔は難しいですね〜。
するりと動いて金魚鉢を覗く姿に尻尾が揺らめいて、縁をぺちんとした。
ぱちゃちゃちゃちゃっ!!
「うおっ!?」
突然の水音に水飛沫!! 一斉に金魚達が泳ぎ出したよーです! これは見なくては!
「ていっ!」
大急ぎで金魚鉢の縁に跳び乗り、特等席へ。
黒金魚も赤金魚もぱちゃぱちゃと泳いでいます。右往左往な感じから一ヵ所を定めて集まろうとしてる姿はさっきの優雅さとは、非常に掛け離れた頑張り様です。何より頑張ってるとゆーか…
「な、なんだと!」
金魚隊列が完成しました。
黒金魚も赤金魚も並んで泳いでいます。水中ではなく浮上してきてるから、鰭や頭が浸かったり出たりを繰り返しながら光りの水を切り進む。
横列が途中から緩やかに崩れてくなーと思ったら、見事な一列縦隊に変化しました。金魚鉢の中をいっぱい使って金魚隊列は旋回を始め、金魚輪っかができました。
「うそっしょー! すげー!!」
だって、金魚ですよ!? 誰がどーやって金魚に教え込むんですかい! し・か・も、輪っかの完成度が高い! 輪の形、全体を理解して維持する金魚って… いるのか…
いや、目の前にいるけど。 あ、魚群形態の上位版でいーのか!? ほんとかあ?
黒と赤でできた金魚輪っかがぐーるぐる。
途中で黒金魚がコースを内側に取ったんでズレたと思ったら、今度は金魚渦巻きが発生しました。内に向かってぐるぐるしていくのが圧巻。ですが前後左右の間隔が狭まって、直ぐに終了しそうです。
金魚渦巻きの中央にほぼ到達した黒金魚は、ぶつかる前にちゃぷんと潜水していきました。
ちゃぷん! ぽちゃん!
次々と潜水していくので渦巻きは綺麗に消失していきますが、金魚隊列は終わっていませんでした。先頭の黒金魚は水中で渦巻きとは逆方向に舵を取り、新たなステージを生み出そうとしてた。
「おおっ!」
水面の渦巻きはもう直ぐ終わる。しかし、水中の新しい金魚列は緩やかにカーブを描きつつ俺の方へやってくる。先頭の黒金魚が前を通り過ぎるのと同時に、最後の赤金魚が『せーのっ!』な感じで水中にぼちゃっと沈んでった。
水面に光波を広げて、金魚渦巻きは終了しました。
シンクロナイズド-スイミング金魚!と叫びたくなりましたが、音楽ないんでシンクロナイズですかね? でも、どっちかってーと言えば竜ですよ。前回の所為もあると思うが祭りの蛇腹踊りといーますか、水中を旋回してた姿にそっちの雰囲気みてました。
先頭の黒金魚の顔がアップになった映像と一緒にズンズンズンズンな恐怖テーマが流れたら〜〜 金魚だから迫力なくてコメディか、にゃははん。
お、セカンドステージ始まりそう。
今度は一列水中旋回金魚輪っかに入るのかと思ったら、鰭をぐんぐん動かして水面へと急上昇!
ばしゃん!
じゃぶっ!!
「金魚跳び、キターー!!」
俺の目の前を横切る形で金魚が一定の速度でばっちゃん、ぱっちゃん、飛び跳ねる。跳ねる跳ねる次々と跳ねていくーー!! くあーー!!輪っかの玩具があったらいーのに! そしたらイルカじゃない金魚の輪潜りできるのにーー! だーーーー、惜しいいぃいっ!
あ、猫手じゃ輪っか持てないや。
じゃぶんっ!
「うひょー! 重そーな体でイケるねー!」
金魚は大小あっても、どれも鰭がひらひらな丸い体型。ぽっこりお腹の可愛い金魚が飛び跳ねる。あの鰭でよくこんなに跳べるもんだ、すごい。 …普通の金魚じゃないって証拠かな? ……普通のもこの程度は跳べたりする?
ぽちゃん!
跳ねるの見てると首も釣られて動きますが、それより俺の猫手が疼きます。どーしてでしょね? 手がムズムズウズウズするですよ!
それをグッと押し込め、縁に猫手を置いて見てました。猫爪が出ちゃうのはご愛嬌で。
最後の赤金魚がぴょーっと跳んで、ぱちゃーっと着水から潜水していきました。跳び終えた金魚達は水中で適当に散らばってます。
纏まろうとしないし、これで終わりかな? 終わりみたい。
いやー、イイもん見ましたね! 感動もんでしょう!目の前で金魚の華麗な空中ショーを見てる内に俺の猫魂がドキドキ ん?
「クロさん?」
クロさんが猫鼻でツンとする。 まだ降りるなと? え? あ、金魚を誉めてやってかな? そーでした! 誉めて上げなくては、あれ?
クロさんの視線を追うと、静かな光波が生まれてた。広がってく。
そしたら金魚達がその場で… なんての? 身震い? 何かこう… 小刻みにブルッてる??
やっぱり、あれはブルッてるよーに見える。
「クロさん」
注意が入りましたので、黙って視線を戻します。何が始まるんですかね? まさかショーの前の武者震い? 金魚がぁ?
その内、俺の真向かいにいたでかい赤金魚が水中でぐるぐると回り始めた。だから、ナンだろうとちょっと前屈みで覗き込んでました。
それは突然だったんです。
思い掛けない、ええ、予想外の出来事だったんです!
ばしゃっ!
「 ちょーーーーーーーっ!」
バシッ!
じゃぼっ!!
俺の顔面目掛けて跳んできたんです!!
余りの至近距離に避けもできず、咄嗟に手を出しました。はい、赤金魚の顔面に猫手をやってしまい… 赤金魚は… 赤金魚はぶくぶくと金魚鉢の底へ撃沈していったのでございます。
じゃない!
「赤金魚ーーー! 無事かぁああああっ!?」
真下に沈んだ赤金魚を助けるべく、急いで猫手を突っ込んでジャバジャバした。したが、猫手は届かない。沈んだ赤金魚は腹を見せて浮かんでこない。頭でも打っただろうか?
「うあ〜〜〜!」
どぼん!
救出すべく金魚プールに飛び込みました。
頭から飛び込むと危険なので普通に足からポンといきました。そしたら何故か! ちび猫があっぷあっぷな状態にーー!! うにゃーーーーーん、浅くないーーーっ!
ばちゃばちゃ じゃぼんっ!
負けません! 猫立ち泳ぎで水蹴りしてます。これで赤金魚に救いの猫手を差し伸べる! あ〜〜〜〜 赤金魚、俺が起こす水流に乗らずに底に沈んだまま動きません。水流届いてねーんだろか…
「反応しろよ!」
叫んでも意識ないんで意味ないです。
時間が経てば赤金魚の生存が危うい! ので、甘噛みマスターは水中捕獲を試みます。はい、猫素潜りいっきまあーす!
「…ぶへっ! ぶしゅっ!」
…マスターですが、初心者マスターな上に水中での実践はした事がございません。 失敗しました。 口呼吸と鼻呼吸と人と猫の時の違いに慣れが原因か? どっちにしろ、甘噛みにも水中マスターランクが別枠であったよーでツラいです!
「この! こらっ! …よしっ!」
何とか足蹴り水流に乗って浮上を始めた赤金魚を金魚掬いしてみせます!
「だから、逃げてどーする!」
くはーーーっ!! 金魚掬いで頑張ってますが、水中金魚掬いは難易度が違う! 猫手に余る、どーしよう! 仕方ない… こーなったら金魚掬いの上級、両手使った金魚お手玉で勝負!!
「うりゃっ!」
ざばあっ!
縁と体と手と足を最大限に活用して放り上げてやりました。空中を舞う赤金魚とキラキラが大変良い感じです。
ひゅーーーーーー ぼちゃっ!
「あ」
……救出にならなかったデス。しかもこれだとお手玉にもなってない。
ぴ、ちゃっ
「おおっ、復活した! ショック療法になったー!」
ぷかっと浮かんだ体がへろってた。
それでも鰭を動かして泳ぎ出したんで一安心。
へにゃ〜んとなりますが、油断してるとちび猫があっぷっぷになってしまいます。周囲確認したら他の金魚達が端っこに逃げてるのに、ちょっとがっかり。俺の周囲に金魚を侍らして戯れるのは難しいのか。
とりあえず、出ますか。
縁に手を掛け〜 か、 かかか かけえ〜 いにゃん、猫手が金魚鉢の縁に届かなーい。ツルツル面は登れませーん。
「にゃーーーーーーーーーっ!」
クロさんと目が合った、見ておられたわ。にゃっはー、助けてー。出ま〜す。
金魚鉢の縁… いや、金魚鉢全体がズズズッと下がって縁が俺の目の前に。すちゃっと手を掛け足を掛け、光りの水が溢れる前に金魚プールから脱出!
トンッ!
一っ飛びで着地です! その場で猫ブルブルして付いた光りを弾きます。冷たくないからしなくても良いが、これは気分。そう、ちび猫キラキラ! なははははは!ナンかのエフェクト纏ってるみてー。
「クロさん! あ、散った? ごめ。 金魚鉢の中に足場が欲しいです。途中で休める子供仕様プール足場を希望します!」
よしよしされました。作って貰えそうで嬉しい。それにしても金魚鉢があんなに深かったとは… 視覚とズレがあるなんて。
ちょっと考え込んだら、顔を覗かれたんで大急ぎで元気アピール。そしたらまた促されたんで、再び縁に移ります。今度は隣にクロさんいます。
金魚鉢の中、端に逃げた金魚達はまだ端に逃げてて悲しく。
クロさん、尻尾をゆらっとさせて水面を軽く打ちました。
ばしゃっ!
「こうかっ!?」
金魚がですね、一匹ずつ俺に向かって跳んでくるんです。金魚が跳び始めたら、クロさん縁移動して離れていかれた。
今のは四匹目の金魚です。横っ腹を諸に叩いてしまいましたが、意識を失わずに片鰭で何とかふら〜〜っと泳いでいったんで手加減はまずまず? 三匹目は体勢が斜めになったんで横と下腹を叩いてしまった。
どーも俺に向かって突進とゆーか跳ばないと終わらないよーです。クロさんニコニコ見てるだけ、これは何の訓練になるんだろーか?
実は二匹目は叩いたら可哀想だし、でもぶつかられても嫌だからスルーしてみた。問題なく床ぽちゃしました。そしたら、クロさんが尻尾ぺしんをしたんです。直後にソッコーで床ぱちゃして金魚鉢にダイブして、その後は順番待ちに入った感じ。
…あの金魚にしてみると俺のスルーは大問題ではなかろうか? 『思い切って一生懸命跳んだのに! ヒドい!』みたいな。金魚の表情は読めないけど、こっちを見い見い泳いでいくのにすごく悪い事をした気分。
なので今、金魚のドコを叩けば無難だろうかと頑張っとりますがぁ〜〜〜 やっぱ尻じゃね? 頭と胸と腹を除くと狙うは尻でしょう。鰭は論外。
にゃん尻振って〜 待ち構え〜 金尻振らせて金尻叩いてケツケツケツケツ きーんぎょ〜のケーツ〜〜 金ケツ金ケツ キーンケツ〜〜〜♪
あははは、無一文みてー。
ん〜、キンケツ、キンケツ、キーンケツ。金無し、急所に、金の抗。坑で鉱脈違います〜。金持ち、金主で、金蔓さーん。 そーなの俺って小金持ちぃ〜。
にゃーははは〜の 俺、キーンケツ〜♪
愉快に愉快な鼻歌歌っとります。
そんで金魚の尾鰭の下、正に肛門の辺り目掛けて猫手を繰り出ししております。足場が足場なんで少々難易度高いんですがそれも良いです。楽しいです!
ぺちんっ!
じゃぼっ!
五匹目は上手くできました。
ぺっちをしますと金魚鉢には無理です。より安全を求めるなら床へ飛ばすのが正解。床ぽちゃが可能だからこそ遠慮なくやってますが、そーでなければ床に叩き付けられてご臨終でしょうか? 金魚虐待、声無きモノへの無体はよろしくないですね。
ぺっちーーーんっ!
ぽちゃんっ!
「おー! こーなるとお手玉じゃないな。だが、バッティングと言いたくはない。 金魚、金魚、 ん〜 金魚ボール… 捩って金魚玉でいっかな〜? む、魚がなければゴールデンボール!! あ、次くるう〜」
そして、ぴょーっと跳んでくる黒金魚の軌道とケツの位置を読んで狙いを定め、猫手を下から上へ〜〜 ジャストミーーーーートッ!
ぱっしーん!
俺に叩かれて飛んでいく黒金魚砲弾は、普通に頭から床へ突っ込んでいきました。床も破砕されないから安心。残る金魚も飛ばしましょう。
「そうだ、クロさん。聞いて下さい、この前怖い夢を見たんです」
金魚ぺっちをしながらぽつぽつと話してみましたが、別のリアクション取りながら話はするもんじゃないですね。行儀より思考が途切れますがな… しかし同時に二つの事ができるなら絶対にボケないだろう!! のーみそ回ってるしょーこ〜。
「ラストーー!」
べちっ!
金ケツ叩くの上手になりました。
猫爪も出さず、引っ掛けずにやり遂げました。やっほー、きっとナンか上がった〜。
金魚鉢に残ったのは頭を叩いて撃沈させた一匹だけです。こいつは仲間の所まで戻れず、ポツンと揺れてたんで区別がついて… 今でもちょっと心配。
一匹だけになると寂しいね。
「あ、それでですね。おにいさんがくれた毛布様の駱駝さんが蹴散らしてくれました。駱駝さんの事は知ってました?」
お口が利けないのは、やっぱり不便。文字も書けませんし。 …あいた、不便ってのは物に対する言葉じゃね? あ〜 モノもの物のモノ扱い。今のは失言、はいダメ頭。
「駱駝さんとクロさんは同じではないのですか? お友達?」
特にトモダチでもないよーです。
ギリギリでお知り合いな感じでしょーかね? これは。
「ええと、それで怖い夢は払われたんですが夢の始めに聞こえた水音が こう〜 金魚達が跳ねるよーな音で。セイルさんの結界は生きてるゆーし、ハージェストは絶対だと信頼してるしさー。
夢渡りの夢隠しって言ってました。クロさん、何かわかる事あります?」
クロさんが半眼になられました。
目が語る前に目が合いませんので待ちの姿勢に入ります。
床に座り直しますが、この床も不思議です。
床ぽちゃも水切りもできる、どぼんもできたが普通に床。俺には床。
…あれ? そーいや金魚は?
あちこち見ますが、どこにも金魚の姿が見えません。
俺の金魚はどこいった?
本日の国語辞典。
三過… 仏教用語。三つの過ち。 三業。
三業… 身業・口業・意業。行為・言語・心から成り立つ種々の行い。
三業=三過
三業は行い全般で、三過は過ちを指す。 微妙な違いが混同を呼ぶ。
副題の為に辞典書きするのも如何なものかと思いはしますが、不要であるとも思い切れず。