135 大事と囲う
えー、こほん。
では、これから男三人で! 猥談、下ネタ、うにゃにゃにゃにゃっの話をしてみよーではないですか! いってみましょーーーっ!!
「兄さん」
「お、いかん。渡し忘れる」
…何という事でしょう。始まる前に終了してしまいました。
ハージェストが終わらせやがりました。やっぱり朝っぱらからとゆーのはよろしくないよーです。 …ま、俺が人様に話せる事なんて碌にないんですけどね。だけど、せ〜〜っかくの波に乗り損ねた気分。ちょっとどーしよー、どー言い出そうと迷った所為で終わりとか、なんてヒドイ。この盛り上がった気分をどーしてくれると言うのです!
あ〜あ、がっかり感が湧き上がるわ〜。これも決断が遅過ぎた、になるんだろか? ハージェストはそれが嫌だと断言したが… 仕方ない、これも俺だ。俺はハージェストとは違う。
そんでセイルさんが懐から出したのは。
「有り難う、返すぞ」
俺のハンカチ、おかえりー。
受け取ったハンカチを片手に体をグリッと捻ります。掛け布団をバサッと捲ります。布団の下にございますのは二つのタオル包みです。単に二つ折りにしてるだけだが、その一つをバサッとしまして中味open。
「あ? …また、そんな所に」
戻ってきたハンカチに宝飾三点を包み直そうかと思ったが〜〜 このままでもいっか、入れ物は構えて貰うんだし。
もう一つのタオルもバサッとして、お宝open!
…まぁ、輝かない石ですから。視覚的には詰まらない物ですよ。高価な方がどー見ても完全にフェイクってのも笑えますな。騙さなくても勝手に騙されてくれるのは楽しいんじゃない?
宝飾の方を捧げ持ち、にへっと笑顔で差し出します。
「これを皆さんのお土産に」
ハージェストも交えて家へのお土産説明しましたら、セイルさんの腕が回って俺をぎゅうう〜〜〜っとした。次に俺の頬をナンかが掠めた。 …あれ? 掠め?
『 …うおっ!?』
思った瞬間には既に終わり。次の行動に移ってる。どーも俺の反応は遅いよーです、瞬間のフリーズがねぇ? いやだってほらあっち挨拶って慣れてないし。
大きな手が俺の頭をグリグリッと撫で回す。がっつり固定されてたんで酷い揺らぎはなかったが、途中でピタッと静止した。
「しまった、頭に触れて良かったか? 嫌がる者は嫌がるのだが」
「それはへーきです」
「それなら良かった。 はぁ… 物の有無で態度を変える事は望ましくも好ましくもないが、ある事だ。物ゆえに、の態度はさもしいと見る。だが、こうもされて嬉しくない者はいない。己の有り様が露骨に透けてしまいそうで怖い限りだ」
ナチュラル〜なハグはナチュラル〜に終わりました。あっさりです。
出すと話していましたのに、こーも喜んで頂けるとは! 誰が表現しても優しい嬉しいとする顔をされてます。作り笑いじゃないのはわかる。ってか、こーゆー時に必要のない作り笑いする人っているんですかね? どこが怖いのかさっぱりな、ストレートに爽やかな男前な顔されてます。
『物では釣られたくない』
このご意見にうんうんと頷きます。同じ意見でいらして嬉しいです! この目の肥えた、力も強い、絶対のよーな光を纏ってる、実質上何でもできる持ってるセイルさんの喜びとゆーのは〜〜 珍しいのではなかろうか?
そう考えると、ひっじょ〜〜〜うに!貰って来て、入れてくれてて有り難うございます!な気持ちが素晴らしい早さで突っ走っていく。あって良かったな〜の気持ちが膨らむ。うん、これは自慢だろ。少し前は「こんなに要らねーっての!」と思いましたのに、ほんとーに人とゆーのは自分勝手でございますよって。 あはははは、すいませんねー。
「そろそろせんと時間が来るな。始めるか」
聞こえないチャイムが鳴ったよーです。
掃除の時間となりました、お喋りを終了して取り掛かって下さい。掃除中のお遊びは怪我の元、慎みましょう〜 ですよねー。
掃除と言ってもモップも箒も雑巾もない、手ぶらでの掃除です。ええ、術式での掃除。俗に言いますスキル・クリーニングは本当に『掃除』で正しいんだろうか? しかし、浄化とかお清めとかになったら〜 間違いでないのに違う感じに思ってしまう俺はコダワリ派だろうか? むーん。
「荷物はあそこにあるだけか?」
「あ、それとあそこので」
ととっと歩いて花冠を取りに参ります。
荷物に突っ込んだら可哀想な花冠に更にダメージを与えてしまうではないか!とゆー事で、手に取ったらヘイッと自分の頭に乗せます。 …見よ、これが正しい花冠の使い方だ! 似合う似合わないはカット、近距離を気にすんな。両手塞がりになるから、もうこれでいーのだよ。
「ん?」
花冠を取った後の御祭りでないブツを見つめます。
「んんんんん〜〜〜〜??」
じーとじーとじーとじーとぉおおおおおっと見て、一度目を瞑る。目を開く。見つめる。眺める。観察する。振り向かずに救援要請を出す。
「俺の石が違うっ!」
「えっ?」
「どうした!?」
花冠を取りに行き、頭に乗せ、そこから動こうとしない。
持ち物は全て把握した。用途不明のブツ三品も形状は把握した。信頼を掴んだも同然!!と喜んだ事実に間違いはない、あって堪るか。全部入れたはずだと首を傾げて見ていれば、叫んでグリッと振り返る。
花冠を乗せてこっちを向く姿を想像してた所為か、表情が合致しなくて瞬間ボケた自分が悲しい。
これを見ろ!と差し出された手のひらにあったのは。
「色に形が」
「大きさも違うな」
「これは俺のじゃなーーーーいっ!」
即座に体を翻し、叫びながら窓辺へ行って掴んだ石を上へ翳した。間髪入れずに行動したから、辛うじて頭に乗ってた花冠が滑り落ちた。
…ああ、花びらが。君が大事にしてる花冠が。 可哀想に。
「見ろ! 光に透けない!! これが俺のでない絶対の証拠だああっ!」
「石が透ける!?」
「…それはどういう理屈だ。ナニか蹴っ飛ばしとるな。魔石であろうと磨かずに屈折はせんぞ? 透過率があってもだなぁ。 あー、透明度も無いモノの透過密度なぞ考えた事もないわ」
信じたくても信じ難い内容に開いた口が塞がらない。確かに魔石にしてもどこか違うと思ってたけどさ? …どうして君が持ってる物はこんなにもモノが違うんだろうね?
隣に立つ兄さんと目を交わせば同じ顔をしている。視線だけで互いの言わんとする事を理解する。自然に唇が持ち上がって弧を描くが嗤いに歪んでなければ良い、同意は得た。
手にした石を見つめ続けるアズサの元へと足を運ぶ。
思う、これからの段取りを。
アズサを落ち着かせて、宥めて、事物確認に、それから連絡を回して あ〜 あ、 しくじった。アズサの信頼が地に落ちたらどーしてくれよう。
己の迂闊さが嫌になる。
…いや、迂闊じゃないか。わかっていて跳ねさせていたのは俺だ。 ……要するにナンだ、俺はあれが自分から言い出してくるのを どこかで 待っていたのか。
信じる理由は無い、だから始めから信じてはいない。それでも『待っていた』と思う俺は、心意気を買いたかったんだろ。一つの誓約に至った者の努力を認めたかった。
己に重ねたつもりも無いが あ〜 あ、ヌルい思考だ。笑うな。 汝の有り様を言外に問うは虚しいだけか。 は、こうなると腹立たしい。
己の心に忠実かどうかでも選んだ結果だ、自分大事と動いた末に生まれた軋轢。争いと称するなら絶えはしない。
それに黙って大人しく食い物にされてやる優しさが俺にあるか、屑が。
「はい、落としたままだと踏んでしまうよ」
「え? ああっ!! つい、うっかりと。 うう、一つの事に目がいってしまってだあ〜 ありがとな」
「どう致しまして」
一つの事。
絞め上げられる結果に至った一つの出来事。
己の望みの食い合いだ。
感情が自然に持ち上がらせるモノを歪むとは、言わないよなぁ? ふは。
「元より大きくなって形が変わって色が抜ける、ツルツルだった表面がザラザラになる。どー見てもそこら辺の石になる。そんな事ってありますか?」
「ないでしょう」
「それは掏り替えにもなっとらんが掏り替えたと言うぞ」
落ち着けと言われて、一人椅子に座っております。ある意味、定位置です。
窓の外、庭の緑を目にすると落ち着いてきた気もします。します、多分してます、はい。幸運な事に可哀想になっちゃった花達は見えませんしいいいいっ!! ダメだ、違う!
上昇しそうな俺の血圧、落ち着けえ〜 そして、上がれええ… ふぃいい〜〜〜。
セイルさんとハージェストの間では、もう結論が出ていた。
俺もそー思う。思うがそこに、ちょっとだけ本当かと疑う意識がstopを叫んでる。
『疑え、疑え、疑え、自分の為に疑え』
疑う心こそが一番落ち着けと、違う!と叫んでる。なんてぇ笑い話。疑う心を取り巻いて、過去の経験とモノの違いの不明点と自覚が手を取り合ってぐるぐるしてる。
なぁ、お前ら笑ってる?
「結界に使った魔石はひびが入って使い物にならなくなりました」
「うん?」
「色石は魔石ではないと思ってます」
「うむ」
「魔石と違う色石の最終形態がどーなるか不明なのが気になります」
「え? 最終の形態? …生き物でない物の最終形態とは?」
「待て、何故にその発想が生まれる?」
「えーとですね… よーく考えたら、どーんをしたじゃないですか。セイルさんの力をどーん。もしも、あの力が色石にナンかの作用を及ぼしてこーなる事は?」
「はぁ?」
「あ?」
「あの力に当たって反応して、内側からの無駄なだだ漏れの結果の姿とゆーのは考えられないものでしょーか?」
真剣に聞いてみた。
やべえ!と思ったあの光、思い出してもあれは強烈だった。ハージェストの取った仕草と余裕の表情に恐怖と高揚が混ざって俺が「うきゃ〜〜っ」になってしまったのも忘れられない。
ですがあれはぁ〜 俺まで勘違いできそーで〜 まぁ良かったとも思ってる〜。
位置的にも直接当たってはいない。いないが〜 電子レンジ・チーン♪で加熱し過ぎて中味がボンッてイッちゃって掃除が大変だったコト覚えてる〜。
これがボンッの一歩手前で止まった姿と考えるのは変か? 考え過ぎ? 掃除中に盗ってったと考えるのが無難で正解? でもなー、真っ先に疑われる程度の事は普通に考えるはずだしぃー。
いえね? 冤罪とゆーレッテルを貼れる位置に居るとゆー自覚が先ほどから芽生えておりまして。
「熔解と膨張。 あの… 照射を要因とするにしましてもですねぇ」
「あのな、それは考え過ぎだ。あの二人を調べてからでよいわ。わからん故にと考える姿勢は正しいが、考え過ぎると身動き取れんなるぞ? ん? 注意しただろう?」
膝に置いてた花冠を取って、ぽすっと頭にくれました。
頭です。
ええ、頭。 …つるりんは嫌ですよ? 自分。
「しかし、そうだな。ノイがそう考え、不安に思うのであればせねばならんか」
置いてた棚をじっと見つめるセイルさん。
片手の拳を片手で受けてグッとした。 …今の骨? 骨が鳴ったんか? ペキッつかパキッって。骨鳴らしてどーするんでしょー?
「お前はそこへ回れ」
「はっ!」
「兄さん、良いです」
「おう、やるぞ」
はい、掃除です。
素晴らしいタイミングで警備に庭へ回って来たのを取っ捕まえて… じゃない、呼び止めまして。部屋の掃除のお手伝いをして貰ってます。
スキル・クリーニングは、結界をどーんとするのと主旨性が違うそーです。まぁ、そうでしょう。意図して力を広げるので、そこはもう確実に染まれになるんですな。
もしも大事な色石が室内のちょっとした隙間に突っ込まれて隠されてたら〜〜 愉快犯的、盲点的な思惑でやられてたら〜〜 色石はセイルさんの大変強い力に染まると予想されます。最もならないかもしれません。どーなるかわからないのが実情です。セイルさんでさえ見た事も感じた事も無いブツだとゆーのです。そりゃまそーですよね〜、何と言ってもあそこのブツですし。
んで、実際にボンッとなったら恐怖です。だから室内を確認してからとなりまして。
スキル・クリーニングの前にマンパワーで掃除みたいな事やってます。 …もうこのまんまカーペット剥いだらいーんでない?って思ってます。忙しい二人にさせるよか、俺も含めて他の皆でやった方が楽なんじゃないかとも思ってる。
「モノがモノだから大勢の目に晒したくない」
「上がおらんと何もせん馬鹿は要らんのでな」
はは、領地の問題よりこっちを優先してくれてます。もーし訳ないをとーり越してます、どーしようですよ。
掃除の手伝いをしてくれてるのは、お庭番… じゃない。警備三人衆の一人、クライヴさんです。取っ捕まえた後、クライヴさんはオーリンさんを呼び出しました。
呼び出されたオーリンさんは、セイルさんの指示を受けて牢屋と別棟と えー、他に捜索現場? 数カ所に連絡に行かれました。指示の復唱をする姿は決まってた、あれも一つの制服マジック?
ハージェストも上着を着れば同じだけどな。 …うん、かっこいーよ? 嘘じゃないよ? やだなぁ、取って付けて言ってないですよ〜〜 なーははははは!
「気を落とされません様に」
オーリンさんは部屋を出て行く前に、この前と同じ様に一声くれた。気配りを忘れない皆さんは大人ですね、それとも忘れないから大人なんでしょーか?
「お世話を掛けます」
「この身が役に立てれば幸いです」
クライヴさんもまた、あの時と変わらない落ち着いた笑顔の大人な人です。そして大人の笑顔を維持して人を縛るんですよねー。あれを思い出すと怖いお人ですよ、この人は。
「よっ!」 「…っ!」
三人が息を合わせてベッドを持ち上げました。
もうほんとに領主であるセイルさんにマンパワー掃除させてる事が間違ってるんで、俺もさっさと動かねば!
「はい、イケます! 十分です!」
斜めに持ち上がったベッドの下に潜って確認中です。超特急でやります! ベッドはでかい分重い訳ですし、俺も潰れるの怖いし! 真ん中を重点的に見ながらザカザカザカッと這い進みます! なりたくないが気分は黒いG生物。あの勢いで突き進め!だ。
あ、自分で言ったが嫌だ。Gなら遠慮なく叩き潰されて終わりだから思考却下! はい、ザカザカ逃げ逃げぽーいぽい。
一本道を突き抜けて終了。
「出ましたあ! どーぞ下ろして下さい!」
「よし」
「離れててよ!」
ゴトン!
良い音がして、片足立ちしてたベッドが元の姿勢に戻ります。
「ございませんでした。あったのは埃だけです」
手とスボンの膝がちょっと汚れたかな? ベッドの下にモップを突っ込んでゴスゴス確認しても良かったんですが、一番確かな目視を選びました。
壁掛けの鏡の裏、飾り棚と壁の隙間、使ってなかった引き出しにその他も全部ゴソゴソ調べまして。出なかったのでベッドの下を見たんです。残るは押し入れです。人がごろ〜んと横になれるソファーが仕舞われてた押し入れです。
ここの押し入れは入れる物が違うよな…
カッタン。
夜中に見ると怖いんで仕舞った姿見さん、お早うございます。出番のない大きな花瓶さん、ごめんなさい。あれ? 壺さんとお呼びしたほーがいいですか?
「広いですねー」
「そう? 客の荷物を置く場所でもあるから。ああ、あそこにあったか」
え? はっ、あれか! ウォーキングクローゼットか! 押し入れよりそっちで言えか! …クローゼットって戸棚でなかったか? 違うか? ……もういーや。
ハージェストの視線を追っかけると、備え付けの棚の最上段にシーツだろう布が見えた。なんで替えを上に置く? 普通下でしょ? …ぬ? 手ぇ伸ばして届か、な、いっ!? うっわ、身長馬鹿にされたよーでムカつくう!
「自分が手伝います、どうぞ場所を」
「はい、これを持って行ってね。後、兄さんの方を手伝ってくれる?」
シーツを受け取ってクライヴさんと交代し、場所空けに出ます。壺の中を覗いて確認しただけで終わるとか、役に立ってねー。
「疲れてはいないか?」
「大丈夫です」
汚れはそのままに、完全に元の位置に全てが戻されていた… やる事がない。
「物探しならロイズが上手い事やるんだがな、肝心な時に使えんものだ」
「あああ… すぃ す、すは すすすですす払い〜。 ふぅ。 大変不幸な事故でした」
すいませんを言いそーになりました。
あ〜、やばかった。反射で謝罪の言葉が出そーになるのは習慣ですかね? とりあえず謝っとけの精神ですかね? いけませんねぇええ。クロさ〜ん、違うからね〜。
「ああ、こっちに」
手にしたシーツを干そうかどうしようかと悩んだ所で呼ばれたんで、一旦ベッドに置いてホイホイと傍に行きます。椅子に座りました。ちょっと休憩しろとゆー事でしょうか?
「気落ちはしとらんか?」
「…へーきです」
押し入れの方で物を動かす音がするんで、そっちの方が気になります。 …まぁショックはショックです。あの石は大事な第一記念の一品だったんで。記念ってのはその時を思い出す手掛かりだろ? ボケた時に役に立つブツでしょー? 俺の思い出って基本あっちですもん。人様からのーみそ疑われて妄想呼ばわりされて自分も不安になって〜〜 なんてのは回避したいと思ってます。自分が不安にならない為であり、この世界で始める思い出第一号… でしたのにね〜。
精神不安は怖いです。
自律神経がどーのとかゆー前に、 溶けて流れ… はい、終了。
……そう、気になると言えば「スキルでの掃除はどうやるんだ?」ってのもございますんで〜 知識を詰め込んで考える隙間を埋めて煮詰まるかもしれない思考を回避しよう。そーだ、ちょうど良いから聞いとこう。
しかしセイルさんを立たせて俺が座ってるってのはどうよ? 間違ってねえ?
「ん? 掃除の在り方?」
「術式でやるってのがよくわからず。汚れが無かった事になるんですか?」
「ああ、そういう意味か。それは違うな。どの様な事であれ、起きた事をなかった事にはできんよ」
さらりと答えてくれました。
「汚れを取り除き、綺麗になっても汚れた事実はある。目に見える事ではないが、それらが積み重なってできる来歴。無くばおかしい。人に依ってやり方は違うのでな、一概には言えんが俺は重さを得手とする。故に本体と付着物を分離させるでわかるか?」
「……わかりますが、それってものすごく難しくないですか? 泥が沁み込んでるんですよ?」
「まぁな、水と土。流動である物と微細な物との複合体だな」
やっぱりさらりと言うんです。
「行使する術式で綺麗になっても、そこには力が加わった事実がある。それを傷みと称しもする。それらの積み重ねが在りしモノの全ての姿だ」
迷いがない、知っている答えを口にする姿に。
ナニが俺の記憶を刺激するのか、のーみそ内のどっかが点滅を始めたよーな気がする。ナンかが引っ掛かるがナンだろね?
「治療もそうですか?」
「癒しは一助だ。甦りも皆無ではない、が、時の終わりが近しい老体には厳しく難しいな」
「うあ… 腕とか切り落とされた場合も?」
「あ〜、それは損傷部分と時間と繋げるモノの有無とだな… あのな、言った通り無かった事にはならん。この腕が落とされたら生えはしない。そしてどれだけ力を注ごうと、癒えはしても、無かった事にはならない。
それを可能とするは理に能わぬ。爪の様に新しく生えるものでないのなら、切り離した以前に戻るとするは時の覆し。それは癒しと呼ばぬ。一つの体で分かたれた部分を繋ぎ直して生きた一つのモノとする。繋ぐモノも生きている場合と死んでしまった場合があるが、どちらであってもだ。
それは一つの内の一部の話では済まない。
事実あった時を無かった事にするならば、あった時はどこへやる? 時があった故に腕を落とされたに。時軸を意のままに操れるのあれば切られる前だ。一つが一つで全てであった時、損傷を受ける前に戻すが早い。そうなれば癒す必要もない。
だがな? そこに落とし穴はあろうよ。喪失に再生。再生とする創造を容易とするならば心を置き去りにするだろう。して当然とする意識が芽生えるだろう、ならぬが不思議。そうして命の重さを重さと受け取らぬ、受け取らずに済む事実は在りし姿を軽視に繋げる道となる。
はは、安易な道は気楽に歩める。俺も楽はしたい口だ、気楽さを否定はせん。何より早い。してしまうが早いモノは躊躇わずに行うに限る、俺は迷わん。
それでも理に適わぬ事を成すならば、それは歪むだろう。緩急はわからねど行き着く先は破綻だ。多少歪められるものはある、それでも歪められぬ理は人の手では歪まん。もしも歪むなら、知らなかった・見ずに済んでいた理が顔を出して愚かと笑うのだろうよ」
軽く、セイルさんが、肩を、叩いた。
肩に、腕の、感覚がない。
腹が、冷たい。
『時を戻して』と言った、あの人の顔が遠い。
背中は痛くない、多分。
冷たいのは。
『損なうかよ』
聞こえた、自信に満ちた声を、頼りに、 頼って、 あ? 頼る?
これは、俺の、過去の、記憶。
ハージェストが、躊躇いながら、俺に。
『肩から腕が 引 切れ けて。 鳥のあ が、腹に き まれた。 それが君の、 命傷と』
『即死ではないと思われ』
記憶が、重なる 重なる、言葉を、引っ張って。
こっちと
顔を、出す。
「癒しが万能なら誰も死にはしない。余り考え過ぎてくれるなよ? それであの色石だがな、あれは持ってき… どうした? ノイ?」
俺の中 あったはずの 記憶は どこへ?
どこへ?
どこへやった? あるんだろ? だから今が。
「終わりだ。 どこにもない」
……おま 今、ナンつった? 俺が必死で。 決死な気分で。 セイルさんの言葉が 俺に 警鐘を鳴らすから だから。
「隅々まで探しましたが、残念ながらありませんでした」
いっかい ペッとしたよーな 気がするモンが どっかに 残ってあったよーで こんな大事な コトを 流してどーすると ガンガンガンガン頭の中で オープンザドアしやがれと 蹴ってるから。
だから 冷たさが。
体と のーみそが ぶるぶるしても、だ。
それを、おま。
お前が ひて、 否定 しやがるってかぁあああっ!?
ギリギリと、顔を向けてハージェストを見た。
整理整頓は行き届いていた。全ての物を動かしても片隅に転がされてないかの確認だけで済んだ。最もこうでなくてはならない、客室内の不手際は問題だ。
「本当に魔石ではないので?」
「その一種ではあるだろうが何かしら違うもの感じた。兄さんが言った通り、見つけた場合は力を持って触れるな。何かが起きてからでは遅い」
「は、心得て」
『…彼の黒い力についてですが』
『あれか。あれもまだ聞けていないが… 状況を考慮し行動を反芻しても、感情から生まれたとみて良いだろう』
『……式の極みですか!? あのモノは極め人ですか!? 極めれば放出が凝ってあそこまで意図がありそ〜うな脅威の物体ができ上がると言うのですかっ!?』
『くぉら! 俺のアズサを異常現象体のよーに言うな、ボケ! …ったくよー。言い得て妙ではあるがなぁ? 懊悩故の先走りなんてモノは慎めよ? 嫌悪の情を持たれて嫌われた日には俺が泣く、一人泣くのは寂しいからな? お前も一緒にナかせてやるよ。俺にナかされたいか、家にナかされたいか。どっちが良いか希望を出しとけ、それ位なら叶えてやる』
『ご安心下さい、この身は過ぎたる望みを持ちません。お仕えする御方の御手を煩わせる様な大それた仕儀に立ち至る事は致しません。 …まして、あれは見た者にしかわからないモノです。 どうか三人の内で留める事はお許し願いたく』
『そーか、お前が賢明で助かる。賢明でなくば心ゆくまで遊び尽くしてやろうと思ったけどな。 …ま、沈黙は辛い時もある。幸か不幸か、話せる道連れがいて良かったと思う。内輪に留めよ。 二人にも伝える様にな』
『は、畏まりて。 …恐怖の対象故に機嫌を取らねばとする思考は確かにございます。ですが、その一心だけで遂行し続ける事を良しとは思いません。自分であれば望みません。控えます故、どうかハージェスト様がご心痛に至られませぬ様。我らは常に一助なれば。 過分を申しました』
「ああ、その手が助かる。助けてくれ」
話したそうな素振りがなくとも思ってはいるはず。吐き出し口がなければ鬱憤は溜まる。不安に該当するなら不信に繋がる。この件ばかりは俺が心境を汲み、明確に言わねばと思っていた。こうして潜めた話ができたのは時間的にも都合が良かった。
今の返事を、『家に仕え、誓約に至ったが故のモノ』と思う事が逆に浅ましく、相手を見下す行為であると思える自分に自然に笑みが零れる。それなりに目を光らせる事は必要でも、下を信じられずにいる上は厳しい。
一つ、良かった。
色石が見つからない事は残念だが、機嫌良く終われた事に気が緩んだ。
なのに。
なんでこの短時間でアズサの顔色が悪くなってんだ? ああ?
「兄さん… 一体、何を話したらこーなるんですか!」
「ちょっと待て! 兄は話をしただけだ、おかしな話もしておらん!」
駆け寄れば、一層顔が青白く見える。
さっきまで普通にいたのにどーしてだっ!? 油断も隙も作ってないぞ!! え? なんでそんな目で見るの? いや、それは後だ!
「寒い? 気持ち悪い? どうしてこうなったか、わかる?」
正面に回って顔を覗き込み、つんのめりそうな両肩に手を置いて支える。 小刻みに震えるのがわかるのがあああっ!!
肩が熱を持つ。右と左。
どちらも同じ熱なのに、同じではない熱がある。熱に差がある。肩の冷たさが緩和されて、ゆるゆると弛緩していく。解放されると思うと楽になる。
どうしてだ? 前もそーだったよな?
「うああっ! ちょっ しっかり! しっかりぃいいっ!!」
え? そう? 気分だけ? 俺の勘違い? …ピークに達して鈍かったり?
「さ、寒いのですか!? 直ぐに窓を閉めます!」
「湯… 薬湯も要るな。それと」
え? セイルさん、ちょっと待って下さ… !
「毛布! だああっ、向こうに! 兄さん、先にそこの広げてから行ってー!」
バタン・カチャンと窓とテラスのドアが閉まる中、両脇に腕を突っ込まれ正面からグッと持ち上げられてベッドに連れてかれた。しっかり掴まってと言われても〜〜 へたる。
綺麗に広がってる掛け布団の上に転がる。
ごろんっ
更に横向きに転がされた。
掛け布団を右からぐるっと巻かれて体の下に突っ込まれ、体が下ろされる。仰向けの姿勢に戻る。そして左からも掛けられ、さっきと反対にちょいと上げられて体の下へ。
あっと言う間に蓑虫が完成した。
しかし、ハージェスト。
蓑虫にしてくれるのは大事だからだろーが… 蓑虫は拘束に近くてね? ずっと寝返りできないのは辛いんですー! 逆に痛くなると思うんだー!!
…………これ、もしやのごーもんスキルだったり? この蓑虫作製スキルは人を簀巻きにするスキルだよな? だって紐で縛ったら完成だろ?
お前、俺に会う前からこのスキル持ってたんか? それとも俺でスキル覚えて更にスキルアップしたんか? どっちだ?
蓑虫は自分の手で腹を押えるが…
「ん? どうし… もしや、腹!? うわ、しまった!」
あ、楽。 じんわり〜。
もうこのまま寝て… いかん、ダメだ寝落ちすな! 一々一々落ちてんじゃねえ。ここの掃除にオープンザドアが〜〜〜 あ。
本日の副題より三つお遊びいきましょー。
問題、1。
下記の違いを述べましょう。
・大事と囲う ・大事と囲う
問題、2。
1の回答を用いて例文を二通り作成してみましょう。
続きまして、質問。
副題を見た時、あなたはどっち読みをしましたか?
はい、おそらくきっとあなたの読みはあっちでしょう。普通に読めばそっちです。