表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
134/239

134 鳥が集いて

はい、三年目に突入しました。



 



    

 「真珠を一粒」

 「ほい」


 気安い返事の後、取り出された袋が俺の膝に乗せられる。 …袋ごと渡してくるのに信頼の芽生えを感じるが、用途を伝えてないのに渡してくるのがどこかで間違ってる気がする。

 


 「一粒で良いんだ」

 「適当なの自分で取ってくれ」

 

 話して決めて家に送る石を選んだ。

 残りを戻して片付けているが、入れ方が気に入らないのか整理なのかゴソゴソやり直している。



 「じゃあ、遠慮なく」

 「どーぞ〜」

 

 視線を上げてニッと笑って、手元に目を戻す。


 機嫌が非常に良い。

 実際には歌っていないが、鼻歌を歌っている感じがする程に機嫌が良い。これに苦笑を返すのはもったいない。




 袋の口を開ければ、みっちりと詰まっているブツ。


 確かこの小袋だと引っ張り出して正解。そこから真珠を一粒取り出すが、これは〜〜  微妙だな。仕上がりは脳裏に描けてる。だから必要なのは大きさを間違えない事だ。


 「魔力込めるってか、前に言ってた染めするん? 無理しなくていーから」 

 「これは別」


 「あ? 違う?」

 「そ、違う分。上手くできるはずだ。きっといくはず! 楽しみにしてて」


 「おおう、何だろう!  …急ぐ必要ないからな?」

 「ん、さすがに直ぐには無理なんで。時間を下さい」


 

 一粒取って返そうとしたら、見もせずに「予備に二つ取っとけば?」と言ってくれる。本人の言だから、有り難く予備を取っておく。取るが脳裏に描くのは一つ。


 「はい、返すよ」

 「ん〜」


 取った三粒を手に荷物に入れに行く。出したハンカチで包む。


 シューレを出る前には作り上げたい。できればそんなに時間を掛けたくない、始めれば一気に仕上げたい。その時間が取れるかどうかがな〜〜〜あ。


 現在の進捗に展開次第か…  比重ならアズサと一緒にやりたい事に傾くが、供述の如何では俺自身で扱い(絞め)たい。 …でないと、どうなるか。




 カチッ。


 仕舞いつつ心の中で愚痴る。

 立ち上がれば、首に掛かる新しい重さに煌めく鎖。口元が緩む。


 『作ろうか』


 そう言った自分の心境に苦笑めいた笑みが浮かぶ。するりと出て行こうとする言葉に自分で驚いて、驚いたが気持ちが自然に言葉を紡がせた。

 

 戸惑いは一瞬で、その一瞬も流される。流されていい、流れていけ。



 「整理できた?」

 「ん、できた」



 ベッドの脇に置くのに手を差し伸べる。受け取って俺の荷物の隣へと運ぶ。ベッドに座る姿に笑い掛けて、俺も座りに戻る。


 

 「で、どんなのが良い?」

 「へ?」

 

 「作るのに何が良い?」

 「いやいや、ほんとに手が掛かるだろ」


 「まぁね、時間が掛かるから先に図案だけでも作っておこうかと。君の宝石を使って良いならそれも使うよ。 …最も一番の問題は、俺の腕でモノが図案通りに作れるかどうかですがね」

 「…それは何と言っていーのか不明です、はい」


 「「 あははは 」」


 乾いてるよ〜うな声を二人で上げて、ヌルい顔で笑い合う。 でも楽しい。



 『遊び程度にでも、家の魔石で何か作ろう』


 そう思っていたのは本当、その為じゃなくても勉強はした。それを生かして家の一助になれば無駄ではない。そう思っていた、確かに思ってた。


 しかしそんなものは打算。

 打算と心を天秤に掛ける器用さは、俺にはなかったのだと後から知った。


 作る気概は生まれなかった。道具を見ても、やる気も嫌気も怒りも憤りも生じなかった。生じたのは後悔のみ、役に立たないとは正にあの事。

 それでも君に差し出したのだと考えると、まだ楽になれた。打算は打算でも、は。 俺のは痛みを知らないガキが見通しで立てた誤算にも値しない馬鹿さだ。打算として良いモノと良くないモノを安易に間違えた馬鹿さ加減。



 君が出した宝飾に感嘆と計算は生じても、作製意欲は生じなかった。


 君が来て、再契約を願っても、新しく作ろうとは本気で考えなかった。終わった証が甦るとしか考えなかった自分の思考が終わってる気もするが、君との証はあれだけだと叫ぶ思考が正しいとも思ってる。


 大体だな、大切な証が二つも三つも四つも要るかよ。胡散臭い。 単なる多情にしか思えんわ。 挙げ句にあんなモンを下さるしよー。あー ったく、惑わされる。作るとしたらアレを話してからか。



 …心が、浮かれる。 


 この実感が俺を変えていく。

 でもま、こんな話を君にする気は無い。聞いても態度に困るだけだ。




 「どっちかとゆーと宝飾よりも、この手袋に安全をですねえ〜」

 「はい、もちろんです! それもしておこうと!」


 兄さんが来る前にやっておこうと思ってた! 


 「手を」

 「外さなくて良い?」


 「多くはしないから、嵌めた状態でやってみよう」

 「ん」


 手袋をした手を両手で包み込む。

 ゆっくりと慎重に、慎重に。力で行う回復と同じ、注意してゆっくりと。逆転の負担は泣ける、治癒と銘打っただけの力の奔流は暴力でしかない。君には丁寧に丁寧に、てーいーねーいーにぃいいい!  いかん、浮かれる。




 「どう?」


 スッと手を離す。


 まじまじとしげしげとじーーーっくりと見てる姿に何時かを思い出す。そのまた前も思い出す。 …これから毎日やってれば思い出す事の方が消えていくな。 …ああ、なくなっていーわ。これも流れろ。


 「うーぬ… よーわからんが問題はない。大丈夫だろー」

 「ん、良かった」


 「トコロでだな、俺はお前の魔力からなる光とゆーものをはっきりと見た覚えがないのですよ。何時かは見せて頂けるのだろーか?」

 「は?   …俺?」


 「そう!」

 「………えー、今日は色々予定ありますので無理です。期日の明言はできませんが、一連さえ終われば」


 「よっしゃー! 言質取ったあああっ!」

 「うえっ!?」


 「いやー、見たい見たいと思ってたんだよねー。だけど言い出せずにズルズルと」

 「あ、はは」



 曇りの無い輝く笑顔と期待の眼差しに、ちょっと冷や汗が。


 俺の力を見たいと言ってくれるのは嬉しいが、魔光石での増幅はダメだろう。真実を見せるとゆーのなら増幅に意味は無い。そして地力を見せずには進めない、わかってる。召喚なら契約で繋がるから、わざわざ見せなくても感覚の把握の論より証拠で掴めるがあ〜。



 …兄貴の奴が派手な事をしくさったから、俺が苦しくなってんだろがあああ!


 兄貴を後ろから殴りたい、蹴りたい、叫びたい。無駄でもしたい、叶うなら!! それに仕事から外れます宣言を出したいが! それがどーやっても自分の首を絞めるからできんのが悲しい。


 力は碌に無いと伝えていても、わかっていても期待外れな顔をされるのは辛い。脳裏に浮かぶがっかり感が半端無い。



 「別に多大な期待はしてないぞ」

 「う、わ」


 俺の心臓にぐっさり直撃。


 「期待するなら飾りにするって、お前の根性の証の腕前なんだから。時間を惜しまなかったお前が作り出して下手なままで納得するとは思えんしさー、あはは」

 「うわあ」


 性格の指摘と把握に気分が上がった。


 素晴らしい落とし上げだ。

 長じる嬉しさが、先に覚えた同じ感情を更に高み上へと押し上げ掻き回す。


 「作ろうか」と言えた。感嘆と賞賛を紡いだ顔。

 俺の背を何気に押してくれる君。


 心が今と過去を並べて何度も反芻する。違いを見つけだそうとする。



 俺の気持ちがアガッてる。

 見つからない事実に更にアガり続ける。


 この想いを他人に「履き違えか、自己陶酔だ」と言われても  しらねぇなぁ。 経験してない奴の僻なんか聞く必要あるかよ。  あーははははは! 気持ちを抱いて上へと上がる、上がれる。  最高だ。




 真珠への細工。

 ふふふ、良い感じで仕上げてみせる!

 

 安全を追求するなら、度量を持てか。ちくしょう、一つするのに試されるのかよ! 度量か度量か度量かあ!!  俺の気持ちよりアズサの安全が第一ではあるが!



 「…おーい、戻ってこーい。怖いから手は振らんぞ〜」



 あ、しまった。またやった。

 そうだ、それと夢の中での手の確認を



 「入るぞ」

 

 しようと思えば、兄さんがきたから聞きそびれる。メイドの階級を知り得た切っ掛けも聞いてない。


 誰が何の目的で教えたか。

 限られた人数からの割り出しは簡単だが、その後ろに誰ぞ居ないだろうな。調査したってのに、まーだ足りないってか? 








 ガチャン。


 「時間の経過にどれだけ残っているものか。しかし、俺の内であるから多少は残っていて当然。囲いとは維持である」



 道理の一つを呟いて、花籠へ入った。



 後ろ手に扉を閉め、その場で室内を見回す。

 見える範囲でおかしな所等無い室内は無音、その中で己が張った界は容易に感じ取れる。



 寝台へと赴き、毛布に目を留める。

 寝台近辺を重点的に眺めるが特段変わった点もない。


 調べる為でも、俺の力を撒けばハージェストが渋面を作っていじけるからどこ迄するか。強くし過ぎて、また別の部屋へ移動となればノイが精神的に参るかと思うとそれも面倒。

 館内の移動だから構わんだろと思うが精神的に落ち着けてない現実に、居場所を要求しても他の部屋を見に行こうともしなかった事実。あちこち動かさん方が身の為か… 


 ま、多少は堪えて貰わんとなぁ。はっはっは、慣れも大事だ。大事でも慣れの種類だけは気にしておこう。でないと後々   …俺が一々言わんでもハージェストがやるか、我が家の道から外れそうになったら力づくでも引っ張るだろ。




 「どれ」


 見るべき視点を切り替え、見えぬ力の雫を一滴落とす。


 俺を基点に一滴が、空間へ干渉を成して波を生じてじわりと広がる。じわりじわりと押し広げ、染め上げ切れぬ内に壁と界に到達する。


 一端は界へと吸収されるが、一端は反動から更に微細な力となって空間を渡り返る。



 「…… 」


 反応の無さに首を傾げる。

 本当に渡りがあったのかと疑う程に無い。自身の衰えかと首を捻るが、捻っても本気で衰えを疑う気は毛頭ない。



 「ん?」


 不意をつく、とは言えぬ速度で生じた力に視線を飛ばす。

 見えたモノをまじまじと見て、毛布を手に取り、広げた所で確かな力を感知した。



 「だあっ!」


 近距離に思わず仰け反った。



 「…有り難いのだが、突然飛ばすのは止めてくれまいか?」


 咄嗟に片手持ちに切り替えた毛布に訴えてみるが、俺の声は届くのか?




 面前に浮遊するは残余の欠片。


 維持の仕方に驚くが、それよりも『コレを見よ(これだ)!』と言わんばかりに突き付けられたこの力。突き出した相手の気持ちが伺える行動だが、動くモノも会話をする相手も居ない。


 ふ…  物でありながら、物でないモノの取り扱い程厄介なものはないなぁ。




 「…見つけ出せないから見つけてくれたのだろうか? それとも、そちらが始めから保持されていたのかな?」


 手にした毛布に問い掛けても返事は無い。



 「せめて姿を取っては貰えぬだろうか?」


 静かに床へ置き、距離を取って待つが無反応。 それでも待つ。



 無反応、無反応、無反応。

 駄目か、参るな。



 「仕方ない」


 パンッ!


 見切りをつけて拾い上げ、振るい伸ばして埃を払い、丁寧に畳んでベッドに置く。


 

 「そうだ、遅くなったが俺の弟を助けてくれて有り難う。序でのおまけであったとしても有り難い。妹にも、部下達にも手を下さずにいてくれた事も合わせて感謝する。 …色々と謝罪をせねばならぬ事案が発生するやもしれんが、本当にこちらに発生を許そうと思う気持ちが無い事だけは重々理解して頂きたい」


 言い分をきっちり言っておく。

 不可抗力とする物事はある。只、それを許すか許さぬかは別物。しかし、断りだけは入れておくとも。


 「まぁ、斟酌に汲む度合いも薄い者の言では説得に欠けるか。 はは。 優しさに反する苛烈を極めてみたいと思う故に俺は優しくない。その点では俺の弟は買い物だ。今を放ってノイだけに集中すれば良いものをせんからな。あれもこれも捨てぬ姿は欲深いとも言える、愚かとも言える。だが、足掻く姿は悪くなかろ? ま、俺の教えが良いからでもあるな」



 返事はないがそれは良い。言うか言わぬかだ。


 目を移し、浮遊する力の欠片を観察しながら話を続ける。



 「落ち着けば、この館の外へも出る。弟と一緒に買い物に行く約束を嬉しそうに話してな。騒動は起きんと思うが、あればこちらでも対処する。行くな等とは決して言わん。言わんが可能な限り被害を最小限に留めてくれる事を希望する。こちらからは以上だ」



 欠片を己の力でゆるりと取り巻き、閉じ込め、手中に収める。反応は無いが了承を得たと判断して笑む。


 「少し窓を開けておく。然程も無いが、それでも早く散るだろう」



 カタン。


 窓から周囲を確認し、界の強度も確認する。

 


 「では、またな」


 返らぬ事とは知りながらも、一声掛けて部屋を出た。


 





 部屋に入れば、二人して何を話していたのやら。

 

 ノイが非常に良い顔をしている。

 機嫌の良い顔にどこかで安堵を覚えて気が弛み、和む。釣られて俺にも自然な笑みが浮かんでくる。力に引けを取るとは思わんが、取り巻く力の全てに暴走されると〜  なあ? 俺は無事でも周辺の被害が甚大になると面倒くてやっとられん。



 …二人の顔が良い。何かしらの相乗効果が見込めそうだから、今日は一緒に過ごさせてやりたい。  気分だけなら。


 ああ、気分だけだ。

 気分は重大だが、気分一つで物事をころころ変えれば自分の首を絞める。


 そんな馬鹿はせんぞ。それに日がな一日一緒に居れば飽きもしよう、終わって戻る楽しみを奪う非道は行わん。うむ、兄は優しかろう。喜べ、弟。


 しかし、足元が汚過ぎる。やはり、この部屋は掃除してやらんと。



 「どうでしたか? あ、椅子へ」

 「気にするな、そちらへ行こう」  


 片手で制し、二人の元へと歩めばノイがスススッと場所を開け、手でどうぞと示すからそこへ座る。 …ハージェスト、分け入ったのではないぞ。



 「所見を述べよう。あの毛布は俺の手に余りそうだ、どうにかする場合は物理的な話になるな」


 「「 は? 」」



 持ってきた力の欠片を取り出すが、さて、どう扱うか。




 


 セイルさんは確認ができなかったと言った。


 「綺麗過ぎて渡りがあったと思えん」

 「えー」

 「相手の腕が良いから油断するな、ですか」


 …ハージェストの中でセイルさんが揺らぐ事はなさそーだ。絶対の基準があるのは強みでも、ナンだかなあ? 依存じゃないよな?



 駱駝さんが出してくれたとゆー欠片が、俺の目の前に浮かんでおります。


 セイルさんがペッとしたら、この状態です。ハージェストが文句言わんので大した術式でもないんでしょう。それともぎゅ〜うでの安全を始めたからか? まぁ、どっちにしろハージェストが文句言わねーならいーわ。


 浮かぶ欠片はガラスケースの中で回ってる感じ。しかし、固さは無いからガラスとゆーのは間違いか。んじゃ、何て表現するか? 透明ビニールでできた〜〜  風船? ナンか変だな。視覚でゆーならよくあるアレでも、言葉にしようとすると難しいな。


 そーいや、俺が作った結界も端から見たらこーゆー感じになるんだよな?



 そんで欠片については光度の違いと明滅の早さ、色合いの違いしか俺にはわかりません。この欠片の力強さがどの程度か?ナンて事は欠片比較した事ないんでさーーーっぱり。


 触れても危険はないそーですが、ちょんちょんちょんと触った後は触れません。いや、ほんとは遊びたい。感触がこ〜〜 指でツンッとトスしたら、ぽよよよ〜〜〜んと飛んでいきそうで楽しそー。引っ張るじゃないけど、これなら引っ張るってのもわかるよーな。


 しかしできる君子は危うきに近寄らぬのだよ! あーはっはっは!  はいはい、回避回避ですよ〜ん。


 

 「あの駱駝が既に掃除した後ではないかとな」

 「…あ〜、ありそうだなー。それができるなら欠片なんか残さない」



 この中になければ力は散り消える。閉じ込めたが正解でも、セイルさんの力が適度な重さで圧迫し続けているから散らずにある。なら押す力で回してんのか、回してるから散らないのか? 表面張力? うーぬ…   しかし、ずっとこのまま維持はできんと言うし。 あー、もー、現地で使ってる人達がマホウの一言で終わらさんから!



 「それで出してくれたのかとな。しかし他も考えられる、経路が特定できんものを模索の一つで済ませられん」

 「…真実は不特定で謎は解けないと。あー、思惑がある以上は文句を言うのは筋違いですねぇ」


 「応。己の下でない以上、言ってはならん。他家の思惑ならどこ迄でも言え」

 「はい、見切ってから」



 二人の会話を黙って聞いてます。欠片を見ながら考えてます。



 「ノイ、原因を掴めん事は憂慮すべきだ。毛布のお蔭で事無きを得たが、それを当てに動かぬのでは落ち着かん」

 「はい、後でちゃんとクロさんに聞きます。何かわかったらお伝えします」


 「そうしてくれ。話されない姿であるが頼む事は有効とみる」


 その言葉に同意するんで深く頷いた。

 それから夢渡りについて、セイルさんはざっくり言われました。



 「俺から言えば渡りはな、魂の殺人だ。できるできぬ、気付く気付かぬを入れてもなあ…  恋しい愛しい可愛らしい心から生じたものであってもな、侵入には違いなかろ? 

 いやな、俺にも子供の頃にそうではないかと思う経験があってだな…  ああ、煩くて蹴り飛ばしたら『ギャー!』とか言って消えていったわ。そしたら目が覚めた、覚めたから夢でも見ていたかと思った。その後は特に気にせずに寝た。翌朝、煩い夢を見た程度には覚えていたが、ほとんど記憶には残っていなかった。


 それから数日後に領内で変死者が出てな。表情があんまりだと言っておったんで、どんな奴だと興味本位で見に行ったら、これが妙に見た様な無い様な顔でなあ…  それで思い出した訳だ。しかしだな、死者に『夢で殺したか?』なんぞと問うのも阿呆臭い。大体、それが正解なら正当防衛だ。恐怖で俺が死んだらどうしてくれる。 なぁ?」


 「兄さん… それ、初めて聞きました」

 「あの、それって狙われてたんじゃ!?」


 至極あっさり言われるセイルさんに驚愕で聞いたよ!


 「どうだろうなあ? 見たは夢よ、真相があれば闇の懐よ。 事の始めはどうであろうとも、応用が効く様になれば人は駄目になる証拠でもあるな。柔らかな心も欲に染まると落ちるもの、もはや確立されたものを無かった事にもできん。まぁ、できるできんはあるけどな。 ふ、愛しさから恨みに転じても想う強さに方向は同じだからなー。 怖いものよなぁ、ははは」



 爽やかに笑うセイルさんの話すベクトルに、どっかが「うんうん」と同意するが! それよか女の人が藁人形に五寸釘握り締めて、ギロッと睨んでる着物姿が脳裏に浮かぶんですけどぉおおおおおっ!! 突然、般若に早変わりする映像が出てくんですけどぉおおおおっ!!

 

 

 ぶるぶるするのーみそが恐怖を弾く。


 あの複数の手に捕まえられてたら… どーなって?   魂に、手形押し…  手形。 血のよーに赤いテガタ。 夏か冬。荒れた庭。人気の無い古びた屋敷。誰もいない部屋の中で、ボーンと鳴る古時計。そこに残るテガタ。夜になるとテガタが這い回る。触れたが最後。 それはメッセージ。 それは目印。それは呪い、魂の穢れ、成仏できず、ずっとずっと続くナニか(生け贄)の〜〜〜 


 いにゃん、怖い。要らね!

 ああっ! クロさんのにゃんぺっち先に貰ってたら他のは全部無効になるとか!?


 

 思考がぐるぐる回われば背があったかい。 …添えられたのはセイルさんの手だった。



 「どうした? 仮定の話に怖がり過ぎるなよ? 悪意のある渡りに無抵抗の者は少ない。自分大事でやり返して当然よ。悪意が心を弱らせ鬱とさせるなら、確かに魂に対する攻撃で殺人を狙っている。


 そうよなあ… 相手を傷つけ貶める為に言葉を選び、意図して発し続ける事も魂の殺人と言うな。そうそう、『魂の殺人者』なんぞの語句に愉悦を見出す阿呆も偶におるな。 はは、あれは笑えて腹が痛い。 


 言葉の裏に死を秘して導くなら、明らかな殺人であると言うにな。


 死なせた後で『そんなつもりはなかった』と言うならば、検証でもしていたかと聞いてやってもいい。正しく知り得るには二面性が生じる事も確か故に。だが、検証とは仮説を想定していての話。自己が思い描く仮説だけを確定させよう等と思い上がりも甚だしい。それは悪意を持ちて作為を成したと言うのだ。


 抵抗とは己が為にある言葉よ、もしもの事態には己の為に叫び吠えて声を上げろ。死したる者の残せし声を後から知る事ほど虚しいものはない。そんな事態に直面したら黙ってくれるなよ? 思惑があっての事なら構わない。それは試せ、自身の為に。只な、行き詰まった時の沈黙はまず好転しない。それと悲観の陶酔は端で見とると飽く故に放置対象だ」



 真剣な顔で注意されました。


 最後がナンかでナンでしたが、人のご意見は聞きます。とゆーより、この世界… じゃなくてだ。この国の人達の傾向でしたらよーく聞いとかないと。

 不特定多数の同一意見が多数を占めるのが常識で、ミンシューな主義のはずですし。異分子が異分子足り得るのは異分子であるからだが、異分子として存在し続けるのが可能であるかどーかとゆーのは確立できる状況下の中にあって忍び寄る外部要因を如何に弾き飛ばすかであってええ〜〜  それを維持し続ける必要は何時までだ? 魔力に染まろうをクリアしたら終わりか? 



 俺のままで変わってみせたい、この想い。  …できるかどーか冷や汗もんだな。やるしかねーけどよ。





 「あのさ」


 セイルさんの言に、ハージェストから補足が入りました。即座にフォローを入れるこいつって、ほんっと優しーね〜〜。

 そして二人から、「自分達が居ない時には、誰に話す?」の質問が飛び出ました。



 「えー…  メイド長のおばちゃんか、執事さん」



 答えは盛大なアウト!でした…


 おばちゃんか執事さんには、領主代行の男爵様を呼びに行かせろでした。もしくは警備してる竜騎兵の三人さん経由でレイドリックさんに言え!です。そーでした、お一人様が必ず声を上げろと言ってくれて。


 しかし、下過ぎる悩みを上に言って良いもんか? おばちゃん辺りで終わらせるのが適当じゃね? でないとおばちゃんの価値とゆーものがぁあああ…   なくなっちゃわね?

 


 「あの二人は誓約を見直したから良いけど、様子見に留める事はする。彼らは聞き入れる立場(中間管理職)でもあるから。その結果、傷を広げる確率が生まれる」

 「様子見は怠慢とは違う。こんな時機で悪いな」



 とりあえず、わざわざ俺の前に移動してきて話す一人に肯定に頷き、動かない一人には否定に首を振った。


 そして目の前の一人の眼力に負け、勝つ気も勝とうとも思わず、否定も出ず。実行しようと思ったステラさんとの会話に絶対を見出してもいなかったので〜〜  ぺらっとマチルダさんの件を喋った。


 はははは、ステラさんには別件を聞き合わせよう。


 …一言で聞くなら、これって上に『チクった』になるんですか?で、いーんかな〜〜? はっはっは、チクったとされる場合は男の間でもアレだが、女同士なら陰険・陰湿のバトルなイジメが確実に発生しますかねえ? 手始めは無視からでしょーかあ?





 「「 ………  」」


 セイルさんが、長いおみ足を組み替えつつ苦笑された。


 「あ〜〜 そいつは伸びんな」

 「上位に上がれる訳が無い」


 ハージェストの目は、くだらない話を聞いたと言っていた。

 やはり人選を誤った気がしてくる。俺がこれから伸びるかもな芽を摘んだ気がしてならない…



 「正直ではある、率直でもある、己に忠実であるが故に裏表なく働きもするだろう、が。 忠実である心と感情の赴くままに行動して判断を誤り職を失うか。最終、その失態のツケを払うのは誰だろうな?」


 笑顔のセイルさんの質問に、向こうで聞いた失敗談を脳内検索するが『既に答えは出てるだろ』と片隅でピコピコ点滅してる。



 おばちゃんも言ってた。


 きゃくじんに〜 そーんなこーとを言っちゃってぇ  あ〜なた、いったいどーすんの? ってなもんですね。


 ホテルの従業員さんが、お客さんにそんなお願いするはずありませんよねー。俺の常識が非常識だ言ってるが、ここはホテルじゃない。そこが最大の焦点だと思うが〜〜 そうでもないよーな気もしてくる。

 普段から皆で協力してやってるはずで、メイドさんの仕事もルーチン化してるだろう。おばちゃんは厳しそうですが、そこら辺で終われそうって言えば終われるのかも。



 そこへ投じられた一石()

 ぽっちゃーんと落ちたら、波紋が広がる。


 あかの他人であるのは明白で、某裁判の成り行きを知っていれば〜〜   誰かが言った、目の前にあるのに拾わないなんて嘘だわよって。   


 あは、俺もそー思う。


 んで、我が位置思えと。 …これは慣れか? 執事さんにも言われたな。  ふ、この先の為の自覚か? 自覚か自覚か自覚かあ? あーーー。






 「心安らかに居させられず、申し訳ない」

 「へ?」


 目の前が謝罪した。


 「本当に、些末な事で心悩まさせる現状を詫びる」


 隣からも謝罪がきた。


 はて? この場合はどう受け止めるのが正解だ? なんて言おう?  もう『えーと』にしとくかあ? 対処取れない君な自分は嫌ですんで、はい返事返事。






 「そりゃあね、誓約で済ますのも手だけどね。だけどね〜〜 誓約に種類もあるけど〜〜  元来誓約とは行うに値するのであるから約に至るのであって、基準に達してない者に行う気はないよ。遠ざけるのが無難だよ。誓約の乱発なんて家の価値を落とすよーなモノでもあるし、普通しないよ」

 

 

 ザクッと切られて終わりです。

 マチルダさんにもご事情があるのでしょーが、メイドさん階級の認定規定に試験免除合格通知はないそうです。受験資格剥奪はまだ言われてないので、それを救いと頑張って欲しいです。


 「うーん…  他にも居るから外すか?」


 あや? マチルダさん、どんぶらこっこと流れちゃうか?



 「いや、ちょっ  今朝で終わりとかそれはそれで、か」


 可哀想と言い掛けて〜  お口stop。

 

 もし。

 俺がマチルダさんにok出しちゃったら、ヘレンさんはどーなると?


 素晴らしい勢いで押せ押せのマチルダさん、ok出たら絶対譲らんね。

 容疑者になったヘレンさん。しかし無罪の確定・冤罪であった場合、首にはならんだろ? 職場復帰するでしょ? その時、自分の居場所がないってのはどーですか? ご挨拶にきても、はい、席は埋まってるんでもうあなたは要りません〜とゆーのはだ。


 …待て、精神的にキてないか? その状態で休ませずに仕事させたらブラックじゃ? 俺でもへたるのにヘレンさんがへたらないとでも?  うっわ、俺の思考が一番真っ黒!  即、働かせよーなんてまぁああっくろ!  …きっとお休みに入るでしょう。ええ、そーでしょう。


 しかし、そーなると。



 「えー   えー   え〜〜〜」

 「…ごめん、また悩ませた?」


 とりあえず、目の前に頷いてみたが。 

 …俺が独り立ちすれば良いだけじゃねえ? 病人で臥せって唸ってるんじゃないし、もう食堂にも行けるし。


 




 セイルさんが軽く笑った。

 ハージェストも、「そうだね」と言った。それでも俺が全快したとは思えないから、どーするかと言われるとだ。


 

 「そうさな、兵の誰かを添えるか?」


 …メイドさんでいーと思う。

 だからとゆーて、マチルダさんがいーかとゆーと。裏表が無くとも性格の不一致とゆー高い壁がありそーな感じが〜〜 しないでもないのだな、マチルダさんは。




 即答できない俺に、セイルさんがニヤッと笑った。


 「伸し上がろうとする奴は楽しくもあるぞ? そういう者が後を濁す事も多いが」

 「必死になったら形振り構わずって話ですか? それは良くも悪くも、あ〜〜  俺としては心情が〜〜 あは」


 笑う二人が同じに見える。違うには違うが同じだろ。

 どっからどー見ても兄弟だ。



 続くセイルさんのニヤニヤに、零した一言。その手付き。


 俺は察知した。

 ピンときた。セイルさん、それはもしやの猥談では! その系統では!!



 うわああああああ! これを理解せんでどーする!? 俺は鈍い天然系じゃない!! ココでのそっち系の話に突入するのか、してしまうのか!? どーなんだ!



 え? なにその待ちの姿勢…


 ど、どーしよう…  これは振るべきなのか?  朝っぱらから俺にその手の話を振らせようとしてるのか!?  うにゃあっはひゅーーーーうっ!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ