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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
133/239

133 鳥達の私意

  


 まずは呼び止める。


 「ステラさん」


 こっそりこそこそ話してご意見を伺いたいが、非常に難しい。一番上の領主様と管理体制の上にいる執事さんが居られる中で、どう切り出せば良いのか?  むう… あからさまな内緒話をするのは拙いだろう。『後でお話を』を取り付けるのが正解のはず。


 「はい、どうなされました?」

 「あ、の〜  そう、ロイズさんですが!」


 「まぁ… ご心配をありがとうございます」



 ステラさんの顔が、とても柔らかく微笑む。


 その笑顔に腹の中で『う!』と思う。ホントは半分抜け落ちてた。

 マチルダさんがグイグイ押すもんだから、ロイズさんがズルズル押し出されてた。にゃあーははは! 追加情報が優先順位をわからなくさせるってもんです。


 だからごめん、ステラさん。

 俺は別にその件でタイミングを計ってたんじゃない。


 「頂けた薬湯は昨晩の内に飲ませました。お心遣い、誠に嬉しく存じます」


 その完結にあれ?と思う。一回じゃ良くならんでしょ?


 

 「あの、今朝は?」



 『しまったあ!!』


 言ってから、直結事項に悲鳴を上げた。朝食に出てなかった黒薬湯X。これで忘れてたから飲めとか言われたら!


 そろ〜っとハージェストを振り返る。


 そこにあった輝く笑顔が怖い。







 「朝と晩の二回で五日程、薬湯を頂く事でよろしいでしょうか?」

 「はい、それで良くなれば!」


 確か三日程だと言ってたが、それで治るか不安だ。追加で完璧にしよう。元は黒薬湯仲間を作ろうとしたんだし。


 素敵な笑顔がセイルさんを振り仰ぐ。

 それに頷かれるのはいーんだが〜〜 肯定に場が和み、三人様が和んでしまった…


 「怖い渡りを経験した朝に他人を気遣うなんて…  偉いわぁ」

 「ああ、感心するぞ」

 「君の肯定が一番の薬だって」


 

 それから「体調は良さげだが、必要と感じれば何時でも言え」と言われた。黒薬湯はノーサンキューーーウッと叫ばなくて良い事態に信頼性の芽生えを感じる。妙に嬉しい。


 しかしだ。

 許可が降りた事により、ステラさんはその足で出て行ってしまわれた…    やられた。


 

 「無理はしないのよ」

 「終わり次第、順次行く」


 「はい」


 二人を見送り、ハージェストと一緒に出ようとしてクリッと半転。執事さんの元へとととととっと。料理長さんへのご馳走様伝言をお願いした。意識しないとほんとに忘れる。


 「承知しました。 …失態に寛容であられる事を大変嬉しく思います」


 皺を刻んだ目元にもっと皺がよって目が和む。

 軽く礼を取る姿勢でそっと告げられた声は小さくて、後ろのハージェストには届かない。



 その一言に考えるモノがありました。

 つか、頭の中で『そうなんだ』と『わーあ』と『そりゃそうだ』がミックスされた。しかしそれをココで言いますかい。 …知力upか嫌みと取るかで性格の歪み具合がわかりそーです。 






 

 「それで、ステラに何を聞きたかった訳?」

 「へ?」


 一緒に部屋へと向かっていれば直撃コースが待っていた。


 「いや、ロイズさんの事をですね?」

 「その後の顔にそれだけじゃないと思いましたが?」


 「…違うぞ? 俺は話を切り出すタイミングを計っていただけでえ〜」

 「何故に計る必要が?」


 「……ロイズさんの容体の聞き出し方を。ほら、執事さんは知らないでしょー?」

 「ふーん、確かに原因はね」


  


 ハージェストが立ち止まるんで俺も止まる。廊下で互いをじ〜〜〜〜〜っと見る。にこ〜〜〜と笑う。



 ベシッ。


 「いた」


 黙って差し出した手を、此れ見よがしにわきわきさせたから叩き落した。やめれ、そんな手付き。笑顔も笑顔で怪しいわ、ヘンタイは要らんぞ。

 




 カッチャン。


 一晩ぶりの自室に戻れば〜〜〜  ああ、汚い。明るい中で見るとほんとにダメだ。しっかし、最初の泥汚れは小さなもんだったんだろーに…  広がって広がって ひーろがってぇえ〜〜 いくんですねえ。


 カーペットの足跡に目がヌルくなる。


 その目で壁を見る。

 よーく見ると点々とありますねぇええ…  


 更にヌルい目になり、目を逸らす。

 マチルダさんの言だと、ヘレンさんとエイミーさんの両名は上位メイドさんになるんだが。この壁の残念さに上位メイドさんは掃除が苦手なのか?の疑問が湧き上がる。ふ、現実は奇なりとゆーてもだな。



 明るい方へと足を向ける。

 窓から覗く庭は…  残念感満載。


 見るも無惨に折れて曲がってへたれてるのと、実害に遭わずに済んだ分との違いが見るだけで悲しい。一晩経って地面は… がっつり足跡の形で固まってる場所有り、地面にボコボコ感有り。



 自然に自然に頭が下へと落ちていく。


 何だろう、この現実。

 庭木に水を上げると庭がダメになるこのマジック、不思議さがアウト。


 「は… 」


 ため息吐いたら、隣に寄ってきた気配が背中に軽く衝撃をくれた。



 隣の顔を見て背後を振り返り、質問。


 「なぁ」

 「ん?」


 「メイドさんに上位とか下位とかあるんだ?」

 「は?  …ステラにそれを聞きたかったんだ?」


 「あ〜、まぁ似たよーな事をですね。上位でもこーゆー失態するもんですか?」

 「…人である以上は絶対はない。ないけど、まずしない失態ですね」


 苦笑に苦笑を返して、に〜〜〜っな感じで笑うしか手が無く。それでも器は器でしかないと言い切ってくれたのが悩ましくも、どこかで安堵してる。エイミーさんは考えない。


 「上位と下位については、荷を纏めながら話そうか」

 「あ、そーだった」



 のんびりし過ぎるとセイルさんが来てしまう! それまでに準備を済ませて待機状態になっとかないと〜。まずは外に出してるブツをリュックにしまおう。



 「手伝うよ」

 「自分のは?」


 「結局、出してないから。あれそれ取ったら終わりだよ」

 「じゃあ、よろしく」


 部屋の隅に行ってしゃがみ、俺の野外お休み用の上に置いてた小物を除ける。そして、折って折ってリュックに〜〜〜 詰める。


 「…入れ方に問題ないなら、俺が代わるよ」

 「あ、頼める?」


 「ん、口を開けといて」

 「ほい!」


 リュックの口を開いて待つ。

 …受け取ったが俺の折り方がイマイチだったのか、膝立ちで手早く折り直すとか。器用だね、ハージェストさん。


 ちょっと中を覗きつつ、グッと押し込みます。するりと入っていきました。



 「…へぇ」

 「どした?」


 「それなりに重さがある物。  …うん、構築技術に感心するばかりです」

 「わお、そっちわからん」


 感心顔を横目に水筒をサイドポケットにin! 


 

 「えーと、メイドの階級は雇う家の意向で実質変わる事があります」

 「は?」


 「懐具合、雇う人数で変化します」

 「わぁーお、少ないと上も下もないってか」


 お香セットの中味を今一度確認し、ハージェストにも品をしっかり見て貰ってからリュックにin。サクッと入れた所で気が付いた!


 「あーーっ!」

 「え? 何!?」


 「渡したから火を点ける道具が無い!」

 「…あの、俺の存在は?」


 「…あぇ?」

 「でもまぁ、持っていて困る物でもないから〜〜  一緒に街へ行った時に選ぼうか」


 「おおっ! うんうん、買い物リスト上げとこー」

 「絨毯で時間掛かったら、その時は使いをやるか持って来させよう」


 買い物リストを作ります。

 気分が上がります! 一緒に買い物に行く日が待ち遠しいが、何時になるんかなあ?  …順番だ、順番。




 さて、上機嫌で片付けを続けましょう。

 貰ったタオルに包んでいるのは木製のmy食器です。タオルをぺろっと捲ってコップを手に取り、ちょっと眺めて。


 「…これ、みっともないですか?」

 「え?」


 銀縁のぴっかりーんなお皿に比べると非常に貧相です。


 「メダルを貰う者が持つには外聞良くないですか?」

 「…そっち?  あー、確かに。今朝の食事でそれだけ使えば見劣りするね。これらは移動用ですよね?」


 「移動? …住所不定な時に買いましたので」

 「…失礼を言いました。 えー、あー、それならずっと使う前提で買ったのですか?」


 「…割れない事を前提に買いました。数ある内から選んで買いました。同じ型でも木目が違うから、どれも選んで買いました」

 「気に入ってるんだ?」


 「気に入ったのを買いました」

 「じゃあ、気にせず使えば良いよ。野営時には必須だし。 …まぁ、気に入ってるからと場所をわきまえずに使うと馬鹿にされたりする場合があるので、それは考えものですが」

 

 「そんな強い心はございません!」

 「あはは、そんな否定しなくても」


 旅の必需品である俺の木製食器。

 まだまだ新品ですが比較するとやっぱり見劣りするんです。見窄らしいとは言いません、味がありますんで。


 「服と同じで処分したら?って言われるかと思った」

 「……………やだなぁ。何でも処分しろなんて言わないってー、あはは。 心外ですよ?」


 「そ?」

 「そ」



 ちょっと笑って、包み直してリュックにポイ。



 「…あれ、変な音が」

 「そーだね、結びが甘くて中で散けたんじゃない? 次から袋に入れようか」


 「…はい、そーですね」


 リストに布袋も追加、大きさに注意と。  ん? あのタオル縫ったらいいんでないか?




 

 次に箪笥に移ります。


 カコン。


 引き出しに〜 仕舞ってた〜 数無いふーくにパンツを取り出し 布製バッグにつーめつめ。 貰った寝間着もつーめます〜  って、これ洗濯から返ってたんだ。 あ、晒し布くんどーしたっけ? ステラさんが洗いに出してくれた後は〜〜  おお、奥にちゃんと仕舞われてるわ。


 …誰が仕舞ってくれたんしょう?



 「メイドさんはナンだな、人数足りないと一人で何でもできますオールラウンダーなメイドさんができるとゆー事だな。  んあ?」


 自分で言って首を傾げる。

 隣で自分の服を取り出し、片付けてるハージェストを見る。


 「なぁ。俺、おかしなコト言わなかった?」


 メイドさんとゆーのは、家事手伝いの全般をする職業婦人の事でなかったか? 向こうにあった、店舗でお帰りをお待ちしていらっしゃるメイドさんずとは話が違うはずだろう? いってらっしゃいませで金銭の授受が発生するあちら様とは内容が全く違うでしょー?



 「そうですねぇ… 独り立ちとは難しい言葉ですねぇ、あはは」

 「あはは、俺は独りで立ってなーい」



 パッタン。

 一つ終了。はい、次は菓子袋とお金様達を仕舞います。


 「ほいっ、飴玉さんから〜」

 「机の上の教書の類いはそのまま持っていく?」


 「ん〜 そうする。手で持ってく」

 「わかった。 メイドは家に上げるから、本人の資質もあるけど育ちも関わる」

 

 「は?」

 「そっちは円卓だしなあ…  雇い入れる条件に人柄はあっても家柄は〜  みないかな?」


 「家柄。  ……ああ、そーか。うん、わかる。はい、普通にわかります」

 「あ、納得してくれるんだ」


 「ごめ。 あ〜〜〜  俺がいた国ってえ、国の歴史は大変なが〜〜いのですよ。えー、しょしょしょ…  諸侯が乱立してたんで統一に大変時間が掛かったんですが、島国であった事と位置の関係から他国の侵略とゆーものはそんなに無く。んだから〜〜 あはは、国の歴史の長さからゆーと円卓の国としては日が浅いんだよねー。いや、ほんとにぃ。

 実は昔は完全な身分社会の国でした。昔々の高貴なお姫様に仕えてたのは、下級のお姫様だったとも習ってる。それを思い出すと、仕える女官もがっつり上下が名称で決まってたって習ったはず〜 昔過ぎて自分の生活に関係なさ過ぎてうろ覚えでしかないけど、貰える部屋(女房)で大別されてたはずでしたあ〜」


 「え! そーなんだ!」


 ハージェストの顔が驚きから一変、輝く笑顔になった。


 

 「でも、ごめん。俺の生活ではってゆーか、俺が生まれた時には既に円卓になってたから。昔そうでも実感ないし、言われても直ぐに頷けない時もあるかと」

 「うんうん、わかった。注意する、話してくれて有り難う。歴史が長いなら生活に関与がなくても、そういった事に触れる機会はあったんじゃない?」


 「…それはあります。各地にこう、こう〜〜〜 おっきい建物だ!」

 「…城?」


 「そう、城が残ってますんで! 中は見学できるから生活臭はないけどね」

 「へえ、そういう風になっていったんだ」


 「円卓へと変わっていく時代は動乱の時代だと、俺でも思いました」


 

 話せば向こうを思い出す。

 ああ、懐かしいなー。 …ネット依存者が異世界イったら嫌でも依存症治りそうだぁねー、どんな世界にイくか知らんけど。ないトコでそっちが欲しいと追求したら異世界醍醐味なくなりそー。そんで突き進める人だと知らない内に確実に環境破壊に突き進むんだ、絶対そーだ。そーに決まってる。


 だって、注意してる俺でさえ『あれえ?』な話になったし。



 「…思い出させた?」

 「あいや、気にする程の事ではない」


 ちょっとボケてたら心配させてた。 ごめ、手もお留守になってんよ。


 「例外が無いとは言わない。だけど、努力無しに上がる事(エスカレーター)はない。家柄は適度な推薦枠であって約束ではないから。態度がなってないなら降格もあります。できる様になったから上位なんです」


 その言葉に、試験の合否がちらつきました。

 ゲームのレベルアップは経験値で試験はなかったが〜〜  ふっはー、経験値の成果で試験結果が決まるもんだよねー。






 「よっ」


 ジャリン、チャリン。

 袋詰めのお金様達の主張でハッ!とする。セイルさんは初めましての手紙を書くよーにと言われたが!



 「お前へのネックレスとお家へのお土産だ! どれを贈ろう!? お土産の先渡しは問題ないだろ!?」

 「え?  あ〜、先渡しは問題なく」


 「よっしゃー! んじゃ、伯爵様とおかーさんとおじーさんと…  リオネルくんは向こうにいないと。他に渡す人いる?」

 「真珠の件もあるし、後からで良いよ」


 「何をゆーか! あ、お嫁に行ったおねーさんはどーしよー!」

 「え? ええと… 嫁に出「出たんだから家に送ってもダメか!」


 「あ〜、そっちも後日にでも」

 「まずはお家用だな」


 「…程度の物で」

 「ていどぉぉおお?」


 曖昧な返事にじと〜と見つつ、ジャリリン・チャリリンなお金様袋をリュックに片付け、内ポケット開けてお宝袋を取り出し、シーツを剥いだベッドに向かい掛け布団を広げてそこへ置く。


 さあ、安全と好感度アゲに! 良いモノを贈ろう! 初対面前からアゲアゲだあ!!






 「こんなとこ?」

 「十分だよ」


 「セイルさんから聞いてて正解」

 「男物はどっちをどっちに?」


 「どっちがどっちって必要? 会ってないから似合うかわからんのが〜〜」

 「子供の喧嘩はなくても、無記名に横槍が入ったら面倒。一応、どっちか決めて」


 「…じゃあ、こっちを伯爵様にしよう」

 「わかった。俺も一筆添えるから心配はしない」


 「助かる。後、包みがございませんが」

 「姉さんに構えて貰うから大丈夫」


 「んじゃ、手数料」

 「一つを二つにさせてるよ」


 「え? でも、あれはお買い上げで」

 「気にしない」



 ホッと一息。

 プレゼントに剥き出しはないですよねー、ダメな売り子さんです。早々に決まったんで、本命のハージェストのを決めよう!

 


 「こーゆーのは?」

 「選んでくれるのなら、俺はどれでも……   いや、ええとですね」

 





 「うん、やっぱこの内のどれかだな」


 ネックレスを三本選び出す。

 

 金が二本で朱金が一本。

 こいつには銀系より金でしょう。


 デザインでは右の金と真ん中の朱金が良い。左のはスタンダードだが重みが違う。分類するなら、どんな場でも着用可だと思うのと不可っぽいのだ。


 …うむ、何か選び出し間違いしてるよーな気も。



 「この朱金は良い色だね」

 「あ、それが良い?」


 「ん〜〜 色出しが好ましくて。そうだ、比較にお金を出してくれる?」

 「ああ! 朱金のつやぴか〜」


 片付けたお金様袋を取り出し、そっから煌めく朱金の硬貨を一枚取り出した。



 「ほらね」

 「おお…」


 硬貨と比較すれば、赤みがまた違う。艶も違う。


 「俗な聞き方するけどさ、これ高いよね?」

 「…普通に言えば高いです。嫌みも癖も強すぎないから高価です。たーだ〜〜 売却する場合は考えないといけない」


 「何を?」

 「金貨も銀貨も含有量がモノを言う。それと同じ、朱金は金と別の鉱物を合わせて作られる。そうなると溶かした場合は?」


 「…金とその他の分離?」

 

 笑顔で肩を竦めてみせる姿に取り出せるのか?と思う。できてもできなくても面倒なんだろう。



 「それを念頭に置くと、これの魅力は半減する?」

 「え? あ〜  換算価値が低いと言われたら〜」


 「でも、これでないとこの色目は出せない。これだけが醸し出せる風合いを、お金に換算する事は心の豊かさ(芸術性)を奪うとも言います。それが君の聞いた査定方法の一つです」

 「うにゃああああーーーん」



 ボスッとベッドに突っ伏したら更に続く。


 「色々見ないと鑑定は養えない、だから見る事は大事。だけど見るだけで養った鑑定は〜 抜けがありますよ」

 「だあああああーーー」


 ベッドで右左していたが、聞こえた呟きにピタッと停止。むっくり起きた。




 「え? どゆコト? ご自分でお作りになれたりすんの?」

 「いやまぁその… 修めていますが、技術は然程でも」


 「えええ!? 宝飾スキルをお持ちでえっ!?」

 「え? あ〜〜  まぁ、何と言うか。ほら、俺は召喚を志していたから」


 「は?」

 「召喚の証たる円環は自身で作るのが基本でして」



 そこから話してくれたんですが。

 ええ、よくある『契約の指輪って、どーやってできるんですか?』ですよ。そりゃ、誰かが作製しないとできませんよねー。こいつ、終わったのをずっと持ってた訳ですし。魔力だけじゃないなら残らねーとおかしい。 …黒いとリサイクルできるんか?



 んで、ツーパターンあるそーな。

 一つは、自分で最初から作り上げるパターン。宝飾スキルを覚えて指輪や腕輪や足輪や首輪… いやいや、首飾り。お飾りを作りましょうですよ! その作製過程で自分の魔力を流して溶かして練り込んで作り上げると。


 魔力だけか?って気はするが、まぁそれが一つ。


 二つ目は手抜き、途中から作り上げるパターン。

 ざっくり言えば、ブツに自分の魔力が籠もってりゃ良いと。んじゃあ、魔力無し職人さんが作ったブツが使えるじゃねーかっての。 …普通に需要と供給があんだね。いや、普通はそっちだろ? そっちの方が売れるんじゃねーのかと聞いたら、それはそれで短絡思考だと。基礎ベースがある物とない物の違いとか言われるとねぇ… 



 「言ったろ? 段階を一つ飛ばしたのは安いって。誰しも楽はしたいもの。 学舎はどちらも推奨するけどね」



 使用目的にも依るんでしょーが、理屈じゃないモノを把握できない俺には何とも言えません。


 そんでハージェストにとっては二つ目のやり方はアウト。理由は簡単、魔力量。浸透させるんなら、時間を掛ければイケるだろ?と思う。

 事実、ハージェストもそう思ってやったそーだ。だが、上手くできんかったと。


 「恐らくは浸透圧と時間が関係しているのだと…  」

 「はぁ…」


 多分、ザルとか気化とかそーゆー事でないかと思います…  散る散るゆーてるし。



 「あの時程、基礎(純化)と制御の必要性を痛感した事はなかったですよ。俺はまだヌルかったのかと、ふ」

 「… 」


 「普通ならイケるんですけどねえ。  そっちで」



 ちょーーーっと遠い目が暗くなって自嘲系に口が歪みますんで〜〜  ナチュラルに頬に手を伸ばして掴んで、むにゅっとしといた。


 こっちを見る目に、うにゅーんとした顔で見返しましたよ。だから笑える方の顔をしろって。

 


 んで、最初から作る場合もやり方は二通り。

 学舎が手配した業者が用意した物を指示に従って作り上げる。決まった型が幾つかあって、どれにするか選ぶとか。

 溶かしたのを型に流すんかな? 聞くだけだと簡単に聞こえる。ナンかこ〜 授業の一環でやってみたよの木工教室を思い出す。そんな感じに聞こえるのは口調が軽い所為ですかね?


 もう一つは本格派。

 全過程を自分でします。ドコまでやるのかと言えばソコまでやるのだそーです。材料の種類の選定も配分量も決めるとゆーから本当に本格だと…



 「鉱物の配分量は慎重になります。それなりの(化学)知識が必要で、知らなければ危険です。付け焼き刃の知識でやるのは無謀で、許可が降りません。俺がやるのは手作業で鋳造ではありませんし。

 動機を知る者からは、齧る程度のヤツが来るな!みたいな事も言われました。こっちは真剣だったから非常に腹が立ちまして、言葉には言葉を返して黙らせときました。 …遠回りだと思っても他に道はなかったし、得て損の無い知識。領地で産出される魔石で遊ぶのも手だと自分を慰めたのも事実です。



 実践できる様になっても力の関係上、毎日はできません。 そして物ができても証はできませんでした…

 

 でき上がらないから気だけが逸って空回りもして。

 あんまり学舎でやり過ぎると財力的な事を疑われるかと心配になって、他所でやってたのも拙かったです。苛ついてやればやる程失敗するわ、力は回らんわ、焦るわで一時確実に自滅への道を走ってました。ほんっと自制の効かないガキでした」



 また微妙な感じの顔をする。

 しかし、手は出さない。出せない、出しません。



 「それでも作り出す行為そのものは好きだった。楽しかったかと言われると〜 微妙。楽しくもあるけどキてもいた。失敗作を見るのはしんどかったし、材料も要るんで最終は溶かしました。それでやり直して。

 何時しか色々合わせる事は止めて、同じ鉱石だけを使用して注ぎ足す形を取って。それもあって成功したのかもしれないし、違うかもしれない。一度成功しても後が続かない、理由が正確に掴めないのは堪えます。詰まる所は量でしょうけど。  本当に幸運だったと思ってる」


 「ぐは…  全部溶かしたのか… 」

 「戒めに数点残してる」


 「う、わ」



 対応の取り難い返事をするよ、こいつは!

 にしても、自制の効かないガキって遠回りしないと思う。


 しかし使用した鉱石って… 幾ら突っ込んだ?と思う俺はおかしくない。えーまー、お金で挫折しなかったのは良かったんじゃないかと思います。



 「あれから一度もしてない。 けど、今なら…  何のしがらみもなく 作れるのか。   そうか。   そうだ、君に 何か作ろうか」

 「え? いやいや」


 「今は道具も時間もないし、単純で単調な飾り気も無い指輪しか作った事がないからアレだけど」

 「わお、そーゆー言い方をしない〜〜」


 「意匠における技術は全く磨いてないからなぁ〜 そんなの二の次三の次だったからなー、あはは。 君の売り物も参考にして良い?」

 「え、本気?」


 「もちろん」



 …作ると言い出す事にも驚くが、召喚が複合スキルな事にも驚く。初めて知ったわー。 つか、こいつだけ? 宝飾スキルを獲得しないと前に進めないとかないわー。こいつの召喚に賭けた熱意とゆーか、意地とゆーか、仕上げてみせるとした心意気、いや根性…  目的の為ならどんな回り道だろーと歩んでみせるとしたこの、この…  えー、情熱? 情熱でいいんか?



 いやもう、すごいね。

 やってきたから、そう言えんだね。強いね、本当に強みだね。自分の望みの為に突っ走って…  何気に手に職もってんね。それが呆れる程にすげーわ、お前。



 こいつが召喚をしたのは自分の為。

 至る為の努力を賞賛する。



 「お前すごいよ、その姿に一緒にやってた… 同級生とか刺激になったんじゃね?」

 「あー、どうだろう? 俺は敗者だから」


 

 あっさりした顔であっさり返し、胸元に手をやって、「ああ」と下ろした。

 








 『こいつは一体、ナンに負けた?』



 思う。

 俺はナンでこいつの召喚に応えたんだろう? 何をおもーて手を伸ばしたのか? 直ぐに試験があってそれも直ぐに終わったんなら、こいつのそんな努力を聞く暇ないだろ? 知らんだろ?


 今の話もこの件がなかったら自分から言わんかったのと違う? 前の説明になかったし。どーしてこいつはそーゆーアピールしないんですかね? 性格ですかね? それともこの努力は話す程の事ではない?



 俺は、どうして、契約をしたのか?



 わからないが、わからないままに  いや、わからなくてもだ。 ハージェストの冷めた声と事実。 それにどっかか上がって下がってまた上がる。


 上がり始めてる。



 こいつは俺の為にしたんじゃない。俺を望んでやってた訳じゃない。

 こいつは自分の望みを叶えるモノを望んでた。


 その為の努力を一切惜しまなかった。



 その果てに来たのが俺と。


 俺がしたとする事実には現実問題でのーみそ休止してる。


 

 俺を喚ぶ為ではないけれど。

 そこには『俺』である絶対の必要はないけれど。



 それでも、悪くない。

 悪くないねぇ。



 結果が俺なら、俺を喚ぶ為にその努力をし続けた。


 そう考えると上がるね。

 なーんにもできる気がしない俺が来てすいません、てな思考より。その努力に報いれなくても   …違うか、報いるじゃないな。   なんての?   単純に俺も応えられんじゃねーかと思えてくるわ。 自分の中に根拠がなくても、やったらどーにかなるんじゃねえ?な感じが上へ上へアガッて押し上げてくる。



 一時の悩み、素晴らしい才能、偶然の事故、ちょっとしたミス、国の事情、急遽行い都合良く成功した。



 そんなモンとこいつは違う。


 違う。

 ああ、違う。


 掛けたのは間違いなく個人の、自分の人生と呼べる時間と金を費やして望んだ。 多数からなる協力ではなく個人努力、想いの深さは年単位。


 半端な事はしてねぇよな。



 望みに応えられるかどうかは別にしても、人生賭けて他人に望まれる事は重いですか?  重いですね。 でも、アガりません? 気分良くね?  一対一で望まれるってのは〜 悪くない。


 実際にあればぁ〜  そりゃー、そんなお前の事情に俺を巻き込むな。知るか、俺の人生どーしてくれる!?と怒鳴ったかもしれませんが〜〜 


 一人の人間が本当に時間を費やして望んだ。俺を望んだ。



 向こうに居たとして、そんなコトありますかね? 願う相手は居ますかね? 年月掛けて願われるコトありますかね? 重い軽いゆー前に普通ないでしょ、そんなコト。 


 一生の内で、自分が「あなたです(これだ)!」と選ばれる確率はどれだけですか? 選ばれるのが名誉かどーか、望むかどーかは別でいい。




 俺は、今、気分が良い。

 アガッてる。


 終わった後も持ってた敗者の証に実感を覚えてアガッてる。こいつが広げた翼が巻き起こす風にノッてアガッて気持ちいい。 


 きっとこれをキエツと言う。





 こいつも自分が大事。自分優先。

 ああ、悪くない。こいつが語った全てに偽りがない。魔法じゃない、魔術じゃない、そんなもんじゃない。こいつが積み上げたモノに意味があり、価値を知り、重きを見る。


 俺に。

 これは 俺に 差し出される 為の モノ。


 

 



 人はどーでも、俺は悪くない。

 そう思える。


 これはボッチじゃないって感覚か?  あは、ヘン。 でも人を知るってのは共感じゃねぇだろ。







 起きて、三本眺め直して、スタンダード捨てて、金と朱金の二本をハージェストに宛てがって、 壁掛けの鏡の前に引っ張って、 どっちが良いかな?似合うかな? 


 はい、スタイリストさんごっこ〜。


 「こっち?」

 「え? 違う?」


 「えーと」


 どうだどうかと話して試して選んだ一つを手に取って、ちょいと屈ませて、首に回して留め金をカチンと止めました。




 それから宝石付きのブツをですね。

 今してるのに勝らなくていーんだ、邪魔しない程度のヤツでハージェストの助けになれるのは〜〜 どーれっかな〜?だよ。 あ? 違う? えーーと。





 んじゃあ、石にいきましょか。


 「原石の大中小と裸石の大中小。裸石は少ないから」

 「いや、ちょっと待つ待つ待つ!」

 

 「あ? 石は俺とお前で二分割予定だったが、お家のを入れて三分割。お家の分は少なめでどうだ?」

 「いやいや、俺にくれる分から出すのが基本で!」


 「よー考えたら、それだとお前のが全部お家に入ってかね?」



 お宝袋はリュックにボスッと入れました。

 服を詰めたバッグをハージェストの荷物の隣に持っていく。


 あーだこーだと話してだ、セイルさんが来る前に終わらせる。一度執務室へ行ってから、花籠へ痕跡確認に行く。それからこっちへ来る予定。んだから〜  ごゆっくりでお願いします。



 こればっかりは俺とこいつで決めますんで、どなた様であろうとも、ご意見は不要です。 じゃーますーんなー、あーははははは!


 




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