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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
132/239

132 鳥声に応じる

   


 起きて着替えて部屋を出て、兄の部屋へ向かう。

 静かな廊下を歩き、物思う。


 あの睡魔に身を委ね、思考を放棄しもう少し寝ていたかった… 絶対に気持ちよく二度寝できたろうに…  惜しい。


 しかし、起きれば頭はやる事で埋め尽くされる。後回しにしたら、どうなるか?なんて考える迄もない。一二の三と多方面に気を使い、自分の為にも気を使い、アズサ自身にも気を回し、俺の人生設計を今一度やり直せる喜びに水をさす現状をとっとと終わらせんと、ある事ある事重ねられんだろが!



 「兄さん、入りますよ」


 ガチャン。



 気持ちだけの軽いノックをしてから、遠慮なく奥の寝台へ向かう。



 「 ……  」


 気持ちよく全裸で寝ている兄さんがいた。

 裸体の上に掛ける物は何も無い。何故なら、掛け布団の上で寝ているからだ。


 寝るという概念に付け足す物を忘れてしまったかと思う行動だが、そのまま転がって寝ただけだと思うと気にならない。だが、疲れているのではと思うと〜〜  少し申し訳ない気もする。ロイズの行動が制限されたのは拙かった、兄さんの手間を増やす事実だ。


 多少の寝食を抜かしても堪えない兄だと知っているが、堪えないからと楽しみを半減させて良いはずも無い。何より腹癒せの繰り返しの揺り返しの暴発は怖い。


 アズサの事、クロさんの事、まだ見てない駱駝にお守りと。ロイズにその他を追加して。 『責があるなら、それは誰に?』と尋ねられれば、それぞれにとでも答えるが。


 全てが俺の責とは思わんでも、俺が負うべきものはある。それが負い切れてないから兄や姉にも回っていく。それが申し訳ないと思っても、一人でできると思わん。


 どうしようもない、一人で行う限界。

 一人ではできないもんだ。


 判断を誤った暁には泣いても終わらんのだから、俺は助かる為に手を求める。その事を知っている。 …しかしだな、アズサがこの寝姿を見たらナンて言うだろな。やっぱ、まじまじ見て自分のとこっそり見比べるのかな? 俺の時はやってたもんなあ。



 「ああ?  なんだ、ハージェスト。兄の眠りの邪魔をするな」

 「あ、起きました?」


 「兄はまだ寝ていたいがな?  ああ、そうか。  ぐ〜〜〜ぅ  はぁああ…    夜中に何を騒いでいた」


 大きく欠伸と伸びをする。

 隠してないナニがナニとして揺れる。うん、きっとアズサは気にする。そして目を逸らす。


 「その夜中の事なんですけどね。夢渡りがありまして、気が付きました?」

 「…はぁん?  渡りだぁ?」


 ゆるりと体を起こし、片足が胡座を掻く。片手が上がって髪を掻き上げる。

 口元が笑い、目が起きた。



 放られたバスローブを取って渡して、俺も笑う。


 「ええ、渡りの夢隠しと判断しました。ですが俺では過程がわかりません」


 「わからん? お前にではない」

 「はい、アズサに渡りが。俺が気付いた時には遅くてですね… 結果として問題にはなりませんでしたが、それは結果論で。気付かなかった自分に腹立たしく」


 「揺らぎも変化もないから、放っといたんだがな」

 「俺が引いた後の戻りに手入れ。完全に修復済みであるのは承知です」


 「俺の界を擦り抜けたと。 衰えたか、俺は?」

 「まさかぁ! 冗談でも納得できません!! あんっな力であんっな細かい構築で!誰が衰えたと!?  …本気で妬みますよ?」



 本気で笑って、本気で言った。

 俺は正気だ。



 「…はは、悪かった。兄が悪かった。な、拗ねるな。 お前はこれからだ、本当にこれからだ。期待してる。  で、笊ではない網を潜り抜けてないのなら、入り口は?か。 面白い、どこからだ?  手っ取り早く燻してやるか?」

 

 内容に目が生き生きとし始める。

 実に楽しそうな兄さんがほんと〜〜〜うに頼もしい。良い、俺も見習わねば。俺も斯く有りたい。


 「いかん。楽しみで走り過ぎたな、状況を説明しろ」

 「はい、内容自体は簡潔です。推測の方は」


 「思い込みになる、後だ」

 「はい、では」


 一つ深呼吸して、アズサが魘されていた場面から話し始めた。








 「ぉ   ござ  す」


 …んぁ〜?  誰かナンか言ってんの?




 「朝ですよ、起きましょう! それともご気分悪くて起きれませんか!?  しっかりしてください!!」

 

 ドドドドドンッ!!


 「うひっ! なになになにがあ!」


 女の人の大声と突然の連打に心臓びっくり、跳ね起きた。


 「あ」

 「おはようございます、そちらに行ってもよろしいですか?」


 片手に服、片手はグー。

 グーの手でドアを叩いていたメイドさんは…  知っている。お久しぶりのマチルダさんではないか! ナンか脱力。




 「起き替えをどうぞ」

 「え、え。  あ、有り難うございます」


 よろしいですかと繰り返すんで、つい、へこっと頷いたら、サクサク入ってこられました。


 渡してくれた服を受け取り、見上げる俺にマチルダさんは非常にイイ顔をくれた。 …いや、会ったのは一度切りだからイイ顔と言ったら悪い気もする。リリーさん達と一緒にいた時は〜 お澄ましさんの顔だったんか〜。あ、断定は失礼か。いやいや、リリーさんの前だからお澄ましは当然だ。その後は〜〜 あっはっは、あのままだったな。


 とりあえず、浮かれてると言い直してみよう。



 「あ。 …お召替えのお手伝いを」

 「いえ、結構です。一人で大丈夫です」


 「あら、要りませんか?」

 「はい、ところでどうしてマチルダさんがですね」


 「…! 申し訳ありません、手順を。  改めまして」


 しまった、間違えた!

 マチルダさんの顔が、そう言ってました。


 ベッドの上に座り、膝の上に着替えを置き、その着替えの中に手を突っ込んだ状態で、俺は素早く動いたマチルダさんからメイドさんご挨拶を頂きました。




 「 …以上です。メイド長と一緒にご挨拶をする予定でしたが急ぎの用事が入られまして、朝のお時間もございますから私一人でも先にと。朝から驚かせて申し訳ないのです」


 「いえ、そーでしたか。前にご挨拶は頂いてますから、そんなに気にしないで下さい。着替えるので、一度外に出てくれますか?」

 「本当にお手伝いしなくても? 私はヘレンと違いまして無力です、どうやっても契約には至りません。そういったご心配でしたら無用です、大丈夫です」



 マチルダさんの笑顔は、そりゃあもう素晴らしく清々しいものでした。晴れ晴れとしていると言っても良いんじゃないかと。


 そんで、メイド長のおばちゃんの采配に納得しました。しかし、着替えの手伝いは却下。無力だからとゆーて用心を怠るとかない。 今はない。

 

 




 「ご案内致しますね」

 「お願いします」


 「あ、少し待ってくださいな」


 スッと手を伸ばして襟元を正してくれました。


 「うふ」

 「え?  あは」


 え?でしたが、ちょっと嬉しいです。ええ、そりゃあね〜。んでも不思議、自分でもしゃっきりしなくてはと注意して着たんで歪みはないはず。


 本当に正す必要あったんか? サービスか?



 

 部屋を出て、これから食堂へ向かいます。

 そうです、領主様とご家族専用の食堂に行くのです。予定内行動ですが、今まではヘレンさんが持ってきてくれた。 …今は容疑者。


 たった一晩で変わってしまったこの現実が〜〜 ちょっとね。俺の時もそうだったけどさ。


 言い触らすなと訓戒を受けているそーですが、人様の口から「あの人、人生終わったね」な口調で聞きますと… 何と言っていーんでしょ?  気持ちの切り替えが追いつかないです。 見た時に、『あれ? ヘレンさんは?』って思ったのは本当。直ぐに思い出したけどさ。


 こーゆーのも引き摺りたくないんですが、これを『ちょっきん!』するのは何か違うと思っとります。思う自分がおかしいはずない。


 それに容疑者であって確定ではない。ないが容疑者になった時点で確定だろうか? 冤罪…  いや、幇助…  俺の時は…   はぁ。



 朝っぱらから重たいモノが頭に乗ってるよーです。それが普通に重いんで、頭が下に落ちるんでしょう。うん、重なると重いわ。ま、下を向いても歩きますけどねー。


 「あ、そうだ。 えっ と…  ハージェストは?」

 「弟様でしたら、竜の様子を見に行かれていると聞きました」



 ……しまったああああああ! 俺も一緒に行きたかったのに!!  起こしてくれていーのにぃいい!!



 心の中で叫んだ。どっかに向かって叫んだ。

 この衝撃のガッカリが、乗っかってた重さをバリッと引き剥がしてぶん投げた。




 「あの…  申し訳ない話なのですが」

 「はい?」


 衝撃のまま廊下を七歩ほど進んだ所でマチルダさんが立ち止まり、それこそ申し訳なさそ〜うな顔でこっちを見ます。にしても、マチルダさんも俺よか背が高いんですな。ココのメイドさんには身長の規定でもあるんですかね?


 そして話されるには。

 曰く、「私は違うのでございます」ですが。


 それこそ、「はあ?」なんですが。



 「あ、言い方が… すいません! 私は通いですが、ちゃんとこの領主館に雇って頂いてお勤めしているメイドです!  お針子としての腕も確かにございます!」

 「はい」


 訴える意気込みに気持ちは引きます。動きませんけど。


 

 「ただ… その…  私はヘレンとは違いまして、メイドとしては下位に当たります。お客様達に対応して良い上位メイドではないのです… 今回は以前に顔を合わせている事と、私が無力である事からの特別の抜擢なのでして!」

 「へ?」


 「まっ  引かないでください!! 私、しっかり頑張ります!努力します!! 至らないところがあったら言ってください! ちゃんと直しますんで! こんな機会まず無いんです! 下位でも実績があればまた違うんです、お願いです! どうか、私にお世話をさせてください。住み込みも厭いません! むしろ、させてください! どうか、どうぞ、私にこの機会をください。 私に、くださいっ!!」



 すんばらしー表情と意気込みで一気に喋り終え、勢いよく二度目のメイドさんご挨拶をなさられました。



 …え〜〜、俺は人様から仕事くれって言われた事ないです。バイトしてた口ですし。 えー、どなたか… 違うわ。一般ピープル限定、十九か二十歳の人限定。もしくはその年だった頃に限定。こーゆー懇願って受けた事あります? 金、貸しては除外してさ。 あー、学生でも起業して成功したって人なら〜〜 あるんかな?


 んだけど俺、この人の雇い主じゃないですよ。どーしたもんですかねぇ、これ?

 


 痺れを切らしたよーで、そろっと顔と目を上げられます。はい、メイドさんの上目遣いでございますよ。可愛くないとは口が裂けても言いません、言いませんが!


 じ〜〜っと見てくるマチルダさんにお返事ができませんので、俺もじ〜〜っと観察してみる。どー考えても俺に人事権はない。 …ん〜〜 希望は言えば〜〜 通るだろーとは思ってる。

 マチルダさんに裏表があるとは言わん。そこまで知らん、礼儀の顔は普通でしょ。それに裏表があるならこんな事をはっきり言わんとも思う。その点では正直だと思うんだが〜〜  あ。 



 「あ… 突然申し訳ないです、見捨てないでくださいませ。ご案内を遅れさせて、すみません」 


 笑顔でニコッ、健気な感じでニコッ。

 前向いて歩き出してくれました。ラッキー。この勝負、俺の粘り勝ち〜。  …で、良いんですかね?



 背中に頑張るぞの気負いが見られるマチルダさんの案内の元、歩みを再開します。次いで、自分のしてる手袋を横目で見てしまう。 


 今のマチルダさんの行動は。

 印がなかったらどーしてたかパターンの一つ、俺がご主人様パターンに直結すんですよね。だって、『私をカッてよ』てなアピールですから。 …思い出す二人は真っ暗の痛い系で気が滅入る。


 しかし、ハージェストは言った。

 奴隷が主人を食い潰すとゆー「はあ?」な話、現地人に依って既に打ち立てられている輝かしい実績。それと〜〜 錯覚の話も。


 錯覚に食い潰すの始まりは、どんな風に始まるもんだと思ったら浮かぶもんがありました。

 

 

 『軒を貸して母屋を取られる』


 


 うーたーがーいーぶーかーい〜 じーぶーんーが〜 いーまーす〜〜。    これ、疑いですかねえ? 要領な気もします。でも、泥沼に嵌まるから取られるんだろ?







 思考に傾ぐと首が落ちる。

 これ以上、落としてどーすると先を行くマチルダさんの靴を見て歩いた。


 顔を上げて背中見て。

 繰り返すだけの無駄思考は捨てよう、実行ボタンをポチッとね。 グッバイ、俺の選択肢の一つ。未練がましい俺もさよーなら〜〜っと。




 人のふり見て我がふり直せではない、人のふり見て我が位置思え!だ。


 人生狂いそうで怖いですな。

 世界が違い、時代が違う。生きる時代に自分を変えられそうですが、時代が人を作るともいーません?


 他人の意見でふらつかない、変えられない自分になりたいと思いますし、譲らん物は譲りませんが…  それを上手にするのは難しい気がすごくしています。

 変えられないとゆーのは、それなりに自分ができてないとキツいのではないかと思う。できてないから螺旋落ちもするんだし。んですが、変えられないとゆーのは枠に嵌まるとも言いますよねえ? そんでもって、枠や型に嵌まらない、囚われない人を大募集!とか〜〜  なかったっけ? 


 年寄りになったら頑固になって変わらんのじゃね? …遊びで馬鹿はやれても、人生か生活が掛かってます感を出される方に軽いノリで返事なんてするもんじゃねーと思う。



 ……なんで朝からグルグルしてんの、俺?   はっ! 今ので知恵の経験値upしてない!? するだろ!?  ……自分で言ってたら意味なさげ?






 「失礼します、ノイ様のお越しです」


 俺の時とは違うノック音と声で我に返った。 





 開けて貰って部屋に入る。

 明るい白い部屋、グリーン系統の絨毯。正面の立派なシャンデリア。一見でも上品。長方形のテーブルと丸い背のチェア。並びは背中見せでなく、入ってきた人が見える   縦置きって言えば良いのかな?


 セイルさんとリリーさんが座っていて、ハージェストも居る。俺がびりっこです。


 「遅くなって、すいません!」


 慌ててハージェストの隣の空いてる席に向かいます。早足で行きます。



 「起きたか、気にするな」

 「話は聞いてよ、よく眠れて?」


 「迎えに行こうと思ったけど、既にメイドを向かわせたと聞いたから」


 笑顔の三人に笑顔を返して、てってってと。

 忘れそうになる朝の挨拶もします、返事を頂きます。自分で椅子を引こうとしたら、それよりも早く執事さんが引いてくれました。


 

 「お早うございます、ノイ様」

 「お早うございます!」


 こちらにもキリッと返します。

 椅子を引いて貰う事はナチュラルにむず痒いですが、注意しつつタイミングを合わせて座りました。ほんと高級レストランです。


 白いテーブルクロスに、白いお皿。横にはナイフとフォーク、お皿は銀の縁取り。そして、お皿の真ん中には〜〜 はい、これはエルト・シューレの紋章です。縁取りと同じく銀で描かれて大変立派。ですが、どれも空の皿です。そして別に食器がありまして、準備stopな感じ。



 「お待たせ致しました」


 キュリキュルとワゴンの音が聞こえたら、間を置かずにドアが開く。ワゴンと一緒に入ってた人は…!  料理長さんでは!? うおっ、渋めのおっさ…  失礼、おじさんでしたか。



 「お食事前ですが」


 執事さんの一言、続くセイルさんからのご紹介。慌てて立とうとしたら止められた。体を向けますが、座ったままですいません。


 近くに来られてご挨拶を頂いて、感極まった風情の料理長さんからのお言葉は。



 「良く…  良くお元気になられまして… !」


  

 この人の中でどれだけ俺は弱っちいのかと思った。しかも目頭押えるし、顔がへにょってなるし。心配して貰って本当に嬉しいのですが、ナンかちょっと待って〜な感じです。


 「何時も美味しいご飯を有り難うございます」

 「有り難うございます、お口に合いまして本当に何よりです。頂いたご意見を元に作っておりますが、遠慮なく仰られて下さい。可能な限り努力してみせます! 色々使って試しますから!!」


 男気溢れる優しい気遣いに、その力瘤がすごい。大層な料理を知らない自分が残念。



 「では、食事にしようか」

 「はい、直ぐに」


 料理長さんが押してきたワゴンに乗ってる鍋の蓋を取れば、ほわっと湯気が立つ。出番待ちだった食器を執事さんがお盆に乗せて運ぶ。器を受け取った料理長さんがトロトロしたスープを装ってくれまして、それを執事さんが皿の上に配達セット。

 その間にステラさんはドアを開けて廊下へ出るが姿は見える。話し声が聞こえたらワゴンを押してのご入室。そこから果物が盛られた二つの深皿をテーブルへ。


 他に、三つのピッチャーが乗ってます。伏せたグラスを返して注ぐ準備。


 「お茶(ティー)と、果汁ジュースと、解毒水デトックスウォーターがございます。どれがよろしいですか?」

 「ノイちゃん、解毒水は見ての通りお野菜と果実からできるの。今日のは甘い果実を多めにお願いしておいたのよ」


 「解毒デトックス?   …じゃあ、それを下さい」

 「はい」


 透明なピッチャーの中で野菜と果物が泳いで… うむ、かなりの密着泳ぎ。しかし、見てるだけでも良い絵ですな。ポストカードとかで売ってそう。


 「私は夏場の朝に飲むの。ステラに用意を頼んだら、もう料理長と話して幾つか作ってくれていてね。ノイちゃんは好きかしら?」

 「こーゆーの飲んだ事ないです」


 うすーく色付いた解毒水。普段から解毒水って飲むもんなんですねえ。



 ステラさんと料理長を見ると、どっちもニコニコ。


 「本日使いましたお野菜と果実は」


 ササッと料理長さんが、ピッチャーを片手に野菜と果物の名前を手で示して教えてくれた。その場で俺も復唱する。


 「本日のジュースはこちらを使用しています」


 ぐるりとピッチャーを回すと入ってた。それで、やけに赤みが強いのを理解した。着色料使ってんの?と思う位の色だったんで頼むのをちょっと躊躇ったんだが…  本当にそんな色してた。 

 


 準備は整っていきますが、ご飯が足りません。



 「失礼します」


 キュルリと次のワゴンがやってきました。

 押してきたのはマチルダさんです、お澄ましさんで静々と。 ですが、そこ迄。 ステラさんにバトンタッチ、周囲確認してから一礼してさよーなら〜。これが上位と下位ですか?


 焼き上がったパンが入ってる籠は二つ。丸パン、長パン、クロワッサン。 …クロワッサン系! 五種類あるが、あのクロワッサン系は食いたい!

 大きめの皿に盛られた生サラダに、添えられた丸い陶器に入ってる卵料理。ええ、ここっこっこのココット料理ですね! それとやけに目を引く白いソーセージ。置かれた三つの瓶はサラダのソース。


 執事さんとステラさんが動いている間、料理長さんは俺に一礼した後、セイルさんとリリーさんにナンかのお伺いを立ててた。


 準備が終わったので、皆様のお顔拝見。ニコちゃんスマーイル。


 「今朝はこの形式を取ってみた。差し迫る必要もないが覚えるに越した事は無い、いざとなった時に形式に気負わずにいられるのは慣れだ。慣れと対処の心得で美味く食える、気負う事はない。ゆるりと取り組んでみような」

 「はい。 …美味しく頂く事を第一に覚えます!」


 「素敵よ、ノイちゃん」

 「はは、それが良い。 では、頂こう」

 



 許可が出たので返事をして頂きます、まずはスープから音を立てずに普通に飲みます。喉越し滑らか、ごっくんすると幸せが訪れる。


 「美味しいです!  はっ、順番有り?」

 「順番有りは順番順に出てくるから、好きなのからどうぞ。あ、その瓶取って」

 「これ?」


 「そう、お願い」


 …やばかった。 つい、スプーンを持ったまま取ろうとしたよ! 箸持ったままソースの瓶を取る要領だ。さすがにしないが、スプーン口に咥えて取るヤツいるんじゃね?   ふ、時短ともいーますがコレが素の自分ですよ。ふはははは! ダメじゃん。



 「どうぞ」

 「ありがと」


 ハージェストがサラダに白い粉を振った。 …サラサラの白いこなぁああああっ!


 「粉チーズにする?」

 「 ……ん、する」


 ナニを考えてるかな〜、あはは。


 「このソーセージですが」

 「はい?」


 「冷たそーですけど?」

 「ああ、それは塗るん(ミンチペースト)だよ」


 「へ?」


 ハージェストは白いソーセージにナイフを入れて、皮をぱっくりした。バターじゃないけどバターナイフで中味を掬って、こっちに差し出して見せてくれた。


 「切ったナイフの腹で掬っても良いけど脂がね」

 「これは新鮮な内でないと食べれないわ。時間が経ったものは駄目よ」

 「一味違う美味さだぞ」


 「…試しに少し付けて頂きたく」

 

 丸パンを千切って半分出した。




 「んまっ!」


 口の中で広がる肉のハーモニー!

 しかし、食い過ぎると胸焼けしそうな気がするよーなしないよーな。 いや、そんな事より肉らしい肉を食ってないのに肉食った気になってる!!

 

 実に美味しく頂きました。

 時折、飲む解毒水は…  良いのかどーかよくわからず。でもまぁ飲めます。だけどこれならミックスジュースでも良いのではないか?と思うのですが〜〜  は! そっちなら果糖の摂り過ぎか!? おねえさまにはそっちが重要なのか!?  そうだな、解毒にはならねーな。 うーむ、なら野菜ジュース…   青汁とか聞いたな、飲んだ事ないけど。


 ピッチャーの中で涼し気に見える野菜と果物の立ち泳ぎに、ここの農薬ってナンだろうとも思った。よく洗わないと危ないのは怖いですね、でもあの赤いのチェリー系だから皮なんて剥けない。


 野菜の立ち泳ぎに、前に食べたピクルス思い出したよ。




 俺がマイペースでもぐもぐしてる内に料理長さんの姿は消えていた。


 理由は簡単、三人様のおかわりの用意に行かれたのですな。新たなワゴンがキュルリと到着なさられたんで理解した。しかし皆の腹に消えてく量に感心する、ほんとーにする。おねえさまもダイエットとは無縁の人だ。そして、ダイエットが必要な体型でもない。


 ですが和食の朝は、ご飯に味噌汁、漬物、海苔、あったら果物で終わってた俺にその量はキツいのですよ。


 んで、俺はデザートの果物も終わりました。

 果物は見たことないのにトライしました。これまた赤黒い殻の様な皮を爪で剥いたら、瑞々しい果肉がプリッとしたのが出てきました。一瞬、プリッな白い果肉に変な感じを覚え、ガブッと食ったら食感にも覚えかけましたが! 果実特有の甘味が広がって美味しかったです、はい。



 食事を終えて、皿が片付けられました。

 食後の一杯に移るのかと思いましたが、それはなかったです。なかったのですがピッチャーがございますから、こちらがその役割を果たしています。



 「ノイちゃんはもう少し食べる方が良いと思うけど、ちゃんと食べてるものね」

 「体を動かしてないから腹も減らんか。いや、その前にちゃんと良くなってるか?  …精神的には落ち着いてない、よなあ?  昨日もあったからな、はは。 すまん」


 ご馳走様で会話に突入。

 セイルさんの言葉に遠い目になる。皆さんと俺がなる。よーくよーく考えると一日中まったりしていた記憶が無い、この不思議。



 「昨日のメイドさん事件は謝罪を頂いてますから、それ以上は…   えー、他に夢渡りとゆー」

 「そう、それを聞いたぞ」


 サラリと見解を述べられまして、確認を求められました。寝る前に考えてた事なんで悩まず答えられた。序でに金魚の話もしてみた。


 「クロさんの経路…  そちらを確認するのは厳しいな…  その前に誰が経路を繋げれらるのか?  しかし、そこからの変化であるのなら仮定が… あ〜〜 そうよなあ〜」


 

 暫し思考に没頭されたがクロさんにも聞いてみる事で一旦、終了。

 そして今日の予定説明が入り、俺にはお手紙を書こうの課題に取り組む事が割り振られた…  そうだった、やってねぇ。


 

 「それとな、部屋の改装は中止して俺が掃除する。荷物を全部移動させてくれ」

 「へ? セイルさんが掃除!?」


 「ああ、渡りの痕跡確認もしたい。術式でやるから安全を考慮して、今日は花籠の方に居る様に」

 「あ、びっくりした。はい」



 話が終わって椅子から立つ、リリーさんが寄ってくる。


 「本当に色々あって…  何かあれば遠慮はしないで、ちゃんと言ってね。この部屋ではアレを押せば良いから、誰か呼ぶのよ」

 「はい」


 一人だった時の用心。

 指差した方を見て、ブツの確認をしたらば体が引き寄せられて両腕でぎゅうううううっっと! おねえさまの胸があたあたあたる、当たってるーーーーー! 朝からのナンのご褒美のよーなハグですか!?


 「全くだ。全快しているとも思えんのが辛い所だ」


 その声と共に肩に手が掛かり、俺がぐるりんと回転します。そして今度は違う両腕がぎゅうううっと! 違う胸があたるあたるあたるあたあっ!  …男女差に依る凹凸の違いに柔らかさも足されますが、胸囲の厚みという意味でなら〜 どちらもすごいものがあると思います。間違いなく有ります。


 

 「まだ早いと思っていたが渡りなんぞがあったからな。本当に少しだが今の抱擁に魔力を滲ませた。ハージェストのする手袋の様な効果はない、継続もない。気質に慣れる僅かな手伝いだ」

 「本当に少しよ、気持ち悪くなくて?」


 二人の心配顔にハージェストを見たが、魔力が滲んだ事なんかさっぱりわからんかった…



 「いえ… 全く。 気持ち悪さも何もありませんが、ほんとに魔力を?」

 「もちろんだ、本当に微量だ」

 「ええ、そうよ。これで倒れたら最悪だものね。二、三日に一回でも良いわ。様子を見ながらやってみましょう。何かあった時に私達にもわかる様に」


 「微量過ぎて本当に残らんし、今程度の力では追跡もできん程度だが何もしないより余程良い」

 「俺が居ない場合の慣れも含めて、もう始めておいた方が良いと思ってお願いした。予定ではもっともっと後だったけど… 混ざるかもと思うのは嫌なんだけど! 手袋の方を始めたし、段階に時間は必要だから。その時間経過で間に合わなかったとかは最悪だから」


 ハージェストの声に、苦悩か恨み節の感じが入ってる。


 「決断が遅過ぎたと言うのは嫌いだ」

 「ええ、本当にそうだわ」

 「今回の渡りは警鐘と捉え直した」



 「「「 用心に対策が大事(取られてなるか)!  」」」

   



 三人の力強い意気込みに圧されます、きゃ〜〜〜です。

 この前向きの強さ。


 見習うべき…  なんだろうな。


 変えられないモノを歪まない形で変える時は注意が必要だと思うが、注意すべき点が〜〜  わかってるなら悩まないね。取っ替えじゃ意味違うし。


 


 ト・コ・ロ・で、人に相談するコトは前提でしょ? マチルダさんもそれっくらい考えてるでしょ。じゃあ、誰に相談するのが最適なんかな? 


 人選チョイスで結果は変わるだろうか?


 




 

 

本日の英和辞典。


解毒の単語は detoxification 。




本日の副題。


鳥声ちょうせいで願います。 


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