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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
129/239

129 あけぬならば

     

     


 ぴちょん…    ぴちゃん…     


 

 どこからだろう? 


 水音が聞こえた。



        ぴっちゃー       ん…



 反響するのか、大きい様で小さい様な…   合わせて遠くで聞こえる気もするし、近い気もする。耳を澄まさなくても遮る音が無いから聞こえてくる。



 ぴちゃん、ぱしゃん。



 んん?  雨垂れじゃないのか?   …なんかこの音、聞いた覚えがあるよーな?




 ぱちゃちゃっ…



 どこで聞いたっけ?  ん?   え?     なんだ?



 なんか言ってる?



    ……… おーい?







 目を開けた。

 目を閉じた。


 …まだ暗い。そーか、ナンかの夢を見てたんですな。はふ。









 「 …はれぇ?」


 起きますと、周囲が妙に暗いです。真っ暗闇ではありませんが暗いです。



 「待て、俺はベッドで寝てたはず! ベッド様はドコへ行かれた!!   ベッドか布団だ! 俺は床で寝る気はないのだぁ!」


 叫んで起きて足でドンとした。



 …はて、床がございませんよ?  ……えー、この場合はセーフか?  つか、一緒に寝てた隣はドコ行った? 掛け布団もドコ行った? なんでぼっちになってんの?



 「えーと?」


 装備品、寝間着な俺が一人です。これはどーゆー事でしょう?




 トン、   トトトトトンッ!


 とりあえず、出した片足で周囲を踏んでみた。素足なんで注意した。

 面白い事に床は無いのに踏んでる感覚がある。土を踏んだ感覚でもなし、汚れてもいないが〜〜  うーぬ、空気入れた浮き輪? パンパン感は無いが、ぐにょぐにょ感も無い。



 一歩踏み出せば歩けます。歩いてるよーな感覚あります。


 ぐるっとその場で回ってみる。

 特に変化はないので、三回まわって「にゃん」と言ったらナンか出るだろか?



 「ううむ… 」


 上を見て、下を見て、周囲をもう一度。


 白い光が見えた。



 「あ?   …おかしいな、さっきまでなかったぞ?」


 

 怪しさ全開だが仄白い光に気持ち悪さは感じない…   ちょっと不気味ではある。耳を澄ましても、なーんも聞こえんので行ってみますか。



 「はいはい、行きますよ〜っと」



 近いのか遠いのかわからん白い光に向かって歩きます。


 ほてほて行けば、一人で歩いた暗い道を思い出す。半ば忘れていた暗い道。似たよーな状況なら思い出すってヤツですねぇ。


 しかし、怖くはねーな。あそこに比べりゃまだ明るいし、多少雰囲気違うからですかね?   あの時、光の元にあったのは…  強欲を戒めよ〜〜みたいな感じで優しさの現れであった俺の救いの…



 「 あれ?  そーいやあの時、一本落としたんだっけ?    そーだ、何時の間にか失くして…   もしや、あそこに!!」



 立ち止まって白い光を凝視した。


 同じかどうか? そんな事は見なければわからない。しかし此処に在るよと、ぺっかりーんとしてるのではないか!? 


 普通ならとっくに枯れて終わってる、しかし普通の状況ではない。可能性は大いにある…! アピールであるのなら取りに行かねばああ〜〜〜 だって俺の落とし物〜。


 でも現状は異常ですから。

 うむ、体力の温存を考慮して、少しだけ早歩きで参りましょ〜〜。

 





 「おお! あるある、光の中にナンかみえるー!」



 花に見えます。どーも俺が落として失くしたのとは違うよーで残念です。白い光の中に黒いシルエットとなって浮かぶ形は、蓮の花のよーに見えるのですが。 ががっがっが。


 「なんで茎が二本?  左右から伸びて真ん中支えてるって…  あ、重くてお辞儀してんのか。そーか、重なってんだな」



 二本、二本と浮かれながら近づきまして、ピタッと止まりました。停止線はござません。遠目で見た時は咲いて揺れる蓮の花だと思ってました。それは違いました、大間違いでした。


 仄白い光が発されている地面から生えていたのは〜〜   手  でした。



 あんまりなモンに黙って凝視した。

 どんだけ見ても現実は変わりません、あんまり過ぎる所為か現実感もありません。



 特にしたかった訳でもない観察結果から申しますと、女の人の手だと思います。手と腕。肘より上、手首から下。それが地面から生えてる。



 「…………… 」


 なんてゆーの? 脇毛じゃねぇ、臑毛じゃねぇ、腕毛でいーんか?  毛が生えてないし無機質なつんるつるに見える、んだからマネキンの腕みたい。マネキンと違うのは、ランダムに動いてる点ですよ。


 右手と左手、手首のトコで括られてるよーな感じです。だから腕が左右から伸びてる。そんで指が動く。五指を広げて閉じて握り締めて。 …ナンですかね? 蕾ができて膨らんで〜〜 お花が開く指遊び〜〜〜。そんな感じで指が動くんです、動いてるんです。



 藻掻いて足掻いて、天に向かって手を伸ばしてる とか。


 …伸ばしてるっつーより、吊るされ系?  …吊るされてるのを上から見たら、こーゆー感じ?  んでもなぁ、吊るす為の紐も鎖も手首に巻かれてないんですけど。 不思議。 ぐにぐに動いても手首が離れないの不思議。


 ですが、どう見ても楽しそうなナニかに見えません。



 蝋みたく白い女の人の腕と手。

 生臭くないから、まだ見れてるけど。 近寄りたくないです。 藻掻いてるんなら、助けてあげないといけない気はするんですが〜〜  どうやって?


 やっぱ手を掴むんですよね? 他に何にもございませんから。俺があの手を掴んだら、向こうもがっちり掴むでしょう。慎重に手の甲から掴んでも、待ってましたと突然向き変えて俺の手首掴みそう…   まぁその恐怖に目を瞑って頑張って、そこからグイ〜〜〜と引っ張りあげると。


 白い地面のその下に、本体あるんだろか? 人が埋もれてるんだろか? あの手を掴んで引き上げれるんか? むしろ、引き摺り込まれていくんじゃね? うわーって叫んで沈んで最後は俺も同じ状態。地面から手だけ出してヒトがくるのを待っている、このじょーたいになるとかああ〜〜?



 離せなかった目を閉じてナチュラルに横を向く、周囲を再確認。


 他に光は見えません…  何もございません。  これは…   試されてるんでしょーかああああああ? えー、何に? 誰に? 自分にぃ?  うっそだーあ。



 


 仕方ないんでまた見る、動けずに見る、ひたすら見る。しょーがないんで見てるが、どっからも素敵なヘルプがやって来ない。そして思い切りは生まれない…  想像だけが膨らんでいく……


 

 ゲームのモンスターに手だけのヤツとかいたよなあ。 泥に塗れた汚らしい手。 ゲームだからデザイナーさんがそう描いただけでしょーけども。ドロドロの手が飛んできたら怖いわー。腐敗臭付きじゃねーかと思うと嫌だわー。これで引っこ抜いたら『ギャーーーッ!』な方向の植物系だったら最悪だわー。




 ごきゅっ…


 飲み込んだ唾は耳にも直結してんでしょか?   まぁ、耳鼻咽喉科とゆーから。



 悩んだ末に、いや、悩むとゆーより自分の気持ちに正直に。考えて答えが出ないんだから、自分の第六感対物センサーを信じてみる。信じるからこそ自分の気持ちに素直にね♡ それに悩み過ぎるとナニになるってぇ、優しいお言葉貰ったしぃい。


 そろ〜っと一歩後ろへ後退します。

 そっから、こそそそそっと参りましょう。砂利とか無いからへーきでしょう。



 ピカッ!


 「へ?」


 何故だ! なんで足元が光るんじゃーーーーーっ!?





 「…いっ!」


 地面がいきなり光ったんで後ろへ飛び逃げました。もちろん、ソッコーで飛びました。ボケてません! …大した距離じゃないけどねー。



 「んなっ!?  これまた着地と一緒に光ってどーする!?」


 あんまりだと俺がムンクさんの絵のよーになっちゃうでしょー!

 

 ここから走るべきか否か! 

 決断できん… 想像してみろ、暗い中に点々と光る白い光! 間違いなく目立つ。あの時はそれが嬉しかったが〜〜 現状、逆が怖い。そーだ、目印になるのがヤバいと何時かの野宿でもだな!!



 硬直してたら、元の場所の光が薄れていく。釣られるよーに俺の足元も薄れていく。これは動かない方が吉とみた!




 「あ?」


 薄れゆく第一発見現場の光が息を吹き返して明るくなって地面が渦を巻くよーに…   蟻地獄さんのよーに…


 ボコッ!


 白い手(new)が生えた。



 『うひぃいいいいいいいっ!!!』



 迫り来る恐怖に足をズイっと動かせば! 落ちてきた光度が再びペカッとなりまして!



 『いやだああああっ!』


 もっかいぴょんと飛んで自分を急速冷凍。

 嘆きの暴風雪を巻き起こしましょう。決死の気持ちで自分を凍結してみせます、ですが気持ちは治まりません。暴風雪に煽られて吹き荒れます。



 『だあああああ! 勝手に電源入れんじゃねーーーっ!  誰が音ゲーみたいなリクエストしたよ!!』



 白い手を慮って心の中で叫びました。

 ですが悲しい事に、どこからも返答はございませんでした。大変辛いです。






 えー、第一発見現場に新しく生えた手は男性の模様です。

 幸いなコトに生えたのは片手だけでした。あの節くれ立ったと表現するでかい手は女の人ではありません。ううむ… 動く白い手の前衛芸術が増えてしまった、どーすんだ。


 平気平気と自己暗示を掛け続ける。


 前回は助けがあった。今回はどーなんだ? つか、ナニが原因だ? 助けを求める前に探求しろか? どーやって? ハージェスト呼んだら…  それは最低な巻き込みでは?


 俺が居て、あいつは居ない。つまり、これは俺の問題か? それにどーやって呼べと?  いや待て、あの蟻地獄のよーに外部からの助けが無いと無理な場合は?  待て待て、考えずに巻き込んでこんなトコから出られないままっつーのは。 え、出られない? え? まさか。あ、ココあの珠の中とか言わんだろ?  俺の馬鹿、よー考えろ。珠の中っつーのはおかしいって、きっとおかしいって。


 へーき、へーき。ちょい考える。

 考える、考え方、考えて、自分はロダンのせんせーが作り出したちょーぞーのよーにぃいい。



 うお、すげえ。男の手は女の手よりもダイナミックで大変怖いですなぁ…  しかもこちらは行動制限ないよーですしーーーーっ!


 


 ポポポポポッ…



 『へ?』


 第一発見現場から飛んだ第二着地地点。再度光ったが落ちた光度に安心してた。だって、第一現場に新しく生えるのに掛かった時間はとっくに過ぎてたから。


 タイムラグ以上に問題です。どーして仄白い光がスポットライト浴びたよーに! 違う、スポットライトは当てるもん。んじゃ、なんてゆー? 下からの発光とゆーのが訳わからん! いやだからもうどーして勝手に増殖してく! これ、誰がやってんの!?


 つか、今の第三地点も…  光ったり?



 自分の足元を引き攣る笑顔で確認しながら、次々に生み出される白い光に目眩がする。



 藻掻く様に足掻く様に苦労の果てに生まれてくる姿は、手だけでなければ感動的だと思います。そーですよ、これが海亀の赤ちゃんの誕生シーンなら! よく頑張ったねと手放しで誉めるところですのに!




 三体目の手は、女の人だと思います。

 同じ方向に出てる両手は括られてないですね、鉄棒を握り絞める感じと言ったらわかるでしょうか? 親指だけがまだ見えません。別の場所で男の両手が上がってきました、年配なのか妙に骨張ってる感じがする。次から次へと地面でもないのが崩れて指がもぞもぞと這い出てきます。ほんとに手だけで嫌ですね。


 どれもこれも白くて無機質で。その癖、命を持って懸命に藻掻いてるんです。これはプログラムされたナニかでしょうか? 人造の人工の、ナニかの放置地点? 放置が寂しくて気配にズルズル出てきたとかあ〜? ないわ、ないない。

 動作プログラムならすごいよなー。爪を立てて出てこようとしてるあの手、その動作で指は下向いてんのに小指だけはピンとしてんの。あんなのすんの、基本女の人じゃない?


 

 女の手、男の手、年寄りか若いか。遠くで這い出ようとしてるあの手はやけに小さく見えますが、子供でしょうか? 遠いから小さく見えるだけでしょうか? やっぱり小さく見えるんですが。



 不思議。

 這い出た時はどっちでも、手首まで出たら俺の方を向こうとすんですよ。そして方向転換を頑張った手が俺の方を向いてるんです、俺は動いてないのにね。

 

 時折、自分の足元を確認する。

 今はこっちを向いてるだけですが、こっちへ這ってきたらドコへ行けばいーでしょう? どうするのが正解でしょう? ナンかの光センサー付き蟻地獄モドキから這い出てくる手は途切れてないんですよねぇええ…


 あああ…  ホラーに心臓が痛い。





 間を抜けて走って逃げる。掴まえられたら蹴って逃げる。足は止めない。そうやってドコまで逃げる? 逃げられる? その選択肢の果てに何がある?


 他に手がないなら実行します。目の前の手と同じ、足掻かないなんて嘘でしょう。自分が可哀想なんて陶酔しながら悲観死になんて嫌ですよ。死んだその果てが平穏である事を望みますが、望んだからとゆーて誰がそれを約束してくれんですかい。


 閻魔様がお待ちでしたら、お裁きが待ってるでしょー? 可哀想の一言で減刑してくれる方でしょーか?


 異世界転生…  あー、ほーんとそんなんできんのかな? 俺は転生してないですが、前世思い出すよーな魂が異世界行けんの? 異世界で生きた自分の人生を異世界で生きる自分が思い出す。  うーむ、変な夢見たで終わりそう。延々続いたら自分で頭疑いそう。自我の薄い子供の内だけが有効そうにも思えるが問題が無いとは思えない。大体、現在知識が足りない内にアレコレ思い出してアレはナンだったてな知識出た時点で過去の記憶に自分喰われたとも言えんじゃね? 真っ白未来がツブれたってゆー残念感は出ないんか? それともそれこそ時短なん?


 黒歴史とゆーモノを大抵のヤツは持っていると思うが〜  これから先の自分のまっさらを前世とゆーだけの過去が影響を及ぼすんなら、それこそ最悪の黒歴史じゃね? 

 思い出した過去に教訓と知識を得て、うんうん頷く時点で転生失敗してんじゃね? 失敗からの成功とかゆー前に失敗は失敗だろ? 教訓だろーがナンだろーが今の自分が今のモノでない記憶で変わってく。それも前世とゆー自分であるとしてナチュラルに。


 未来()過去()に喰われて斑になった事にも気付かない、それナンの罠? そーゆーのが黒歴史違う?  スリコミで騙せそう。 


 てゆーかさぁ、そんな固執する魂がよく異世界イケるよな? 異世界の方は蹴らんのかな? 



 『前世(mama)が恋しい子供は、お帰り』


 なーんてコト言われて選別されませんかね? 誰だって異物の受け入れは拒否でしょ、普通。ゴミ箱じゃないし。漂着ブツならそれこそゴミでしょ、そん中からお宝なんて〜〜〜   あっても洗わないと汚いでしょー? 他は〜〜  都合の良い事考えてるナマッチョロイのは使い道がないから叩き上げんとやってられねーとか?  …異世界ブツじゃなくても、お遊びに使われるとかありそ〜う。



 俺の場合は死の先に、延命に似たモノがあったけどさぁ。誰しも行き着く先なら特に急がなくて良いと思いますよ。 …痛みと恐怖との長期戦は遠慮したいです。もうやりましたんでほんと嫌です。




 は〜 ああああっと。

 逃避してても進みませんな。


 なんでこんなトコいるのか不明ですが、手に会話を求めるのもナンですね。雰囲気的にもできそーにないんで〜〜  相手の事は考えず、自分大事で逃走を選びます。この選択が正しいのかも不明ですが、正解があるかどーかもわからんモノに正しさ求める方がどうかしてる。後からわかる正しさは後があっての話です。 白い手さん方、優しい誰かにイって下さい! 姉ちゃん、俺は走ってみせるよ!



 「んじゃ、いきますか」


 気軽に気軽に気負わずに、はい、いってみましょー。








 「はっはっはっ   はっ…   」



 振り返りたくもないが、一度振り返ってみた。最悪。自分の足跡光って手が生える。なんですか、それ。走れば走るだけしんどくなる。息が上がって足が重くて、歩みが亀さんのよーになっていく〜〜。


 光っても生えない場所もある。

 それはわかったが〜〜〜  生えた手、瞬間移動でもしてねーか?



 「だあっ!」


 限界まで伸ばそうと頑張る手に触れられそうになった。気付くの遅れた。確実に逃がさないと意思表示してる手に捕獲されたくないですが、どんどんどんどん疲れが溜まり息が切れ、倒れそう。疲れる加速度早過ぎて変。


 選択、間違えた? しかし、どーみても〜〜。




 「はぁっ…  は、   なんで夢なら醒めんのだああっ!?」



 足が重くて膝からガックン、ゴロンして上を向く。息も上がれば、心拍数も上がってます。もう下がペカアッ〜〜とすんのが、いーやーーー。



 飛べないかと走り幅跳びしてみたが飛べんかった。心の中で翼を描いて飛んでる自分を思い浮かべたができんかった。なら走るしかない。



 「あー、たあすけてぇえ〜」


 

 頑張ったんで泣きついた。固有名称呼ぶのは迷うんで、助け手は特定しません。 あ〜〜、動く近くの気配が嫌です。心底嫌なんで、自分ガードに目を閉じて丸くなろうと頑張りました。







 「ん? 触られてない?   どーゆーこった?」


 腕を除けて前を見たら近過ぎてよーわからんかったのですが壁がございまして、下からの発光が何であるか教えてくれました。 …特に見るもんでもない、指紋もわからん。


 べったり張り付いてますが空気の層があるよーで、俺には触れられないよーです。有り難いですがなんじゃこら?


 気持ちにゆとりができましたが、体が楽になった訳ではないので辛いです。でも起きましょう、意地で起きます。無機物に見えるとは言え、触れてないとは言え、白い手が動けない俺の上に折り重なるとか這ってるとか嫌がらせのレベルが違う! 夏の風物詩にあったよーなもんは考えたくもねえ!!  …ちくしょう、ほんとに手だけかよ!



 「ううううう」


 起きようと思うが起きれない。手足をばたつかせたが、ある意味こいつらと同じで微妙。違う、俺は水泳の練習を! だーかーら〜。 え?


 




 聞こえた風の音。


 強い風の音がした。

 動いて隙間ができる白壁の向こうから音がする。


 この空間にはなかった音。





 「おおっ!?」


 いきなり壁が剥がれましたよ! 


 幾つか宙を舞って視界が開けた。鳴り渡る風の中に割れたのか砕けたのか、硬質な音が混じってた気がする。耳を驚かす強い風の音が大きくなるのに目を瞑って身構えた。



 音がしなくて衝撃もナンもこない。


 そろ〜と薄目開けたら離れたトコに取り巻く手がいっぱい。腹這いのまま首を曲げて背中を見たら綺麗さっぱりいませんでした。


 …やったね! しかし、居なくなられたのではない。ふ。 だが今のうち!



 動こうとしたら目の前に影ができ、視線を上げるとそこにはナンかの首が  ヌッ! てな感じで!!




 「うひょう!」


 ゴロンと横に急回転!

 立て直しを計ったら、なんでかお座り(正座)になりました。



 再度見上げると、そこには一頭の駱駝。 …どちらからおいでになられたんでしょう? 背中に瘤のあるそのお姿は、どーみても駱駝ですよね?



 長い首が寄ってきます。

 気持ち背中が反り返りますが背筋で頑張ります。見つめてくる黒目にバシバシの長い睫毛。息が掛かる程近いのに鼻息が掛かりません。表情が読めるかと言われると自信ありませんが、目が語るモノはあります。


 「あの…  助けて頂きまし、て?」


 更に首が動いて顔を寄せてくれました。



 「え? わお!」


 何と素晴らしい!

 動物スリスリです。これは立たねばなりません!!


 そろ〜と脅かさない様に立ち上がり、手を伸ばして駱駝さんと戯れてみます。怒られないので、もう少し大胆に撫でさせて頂きます。



 「有り難うございます」


 撫でればわかる毛の感触。けれど膨らまない鼻は呼吸をしているのか怪しくて、獣特有の臭いもしない。それでも温もりがあって動いてる。



 「ええと、あのですね」


 話そうする俺を遮って首を動かした。その動作で取り巻く手を思い出した。手が作る輪は縮まってたが、手の数が減ってる。歯抜けになって空間できて輪の形が崩れてる。下から生えた手は、下へと潜ってカエッタんでしょうか?


 願望に期待するが下も見る。土竜叩きは忘れない、叩けなくても忘れない!  あ〜、俺も高速土竜叩きできたらいいのにー。 …あれは土竜じゃないけどさ、光る場所をピコピコ叩けたらいいのにー。


 背中に乗せて貰えないかと淡い期待を込めて見上げたら。 ららっらっらー。 駱駝さんの視線は手に釘付け。片方の前足がごすごす地面… じゃなくて下を掻いてる。走り出す準備でしょうか?


 上げて下ろして、視線はぶれない。


 走る準備に見えました。どーも乗せてはくれないよーです。置いて行かれたくないですが…   なんか目が据わるっつーかギラつくってのか、上唇が捲れ上がって剝き出しの歯がすげえってか。怒りなのか笑いなのか表情読めんけど豹変してます。優しさモードがぶっ飛んだご様子です…





 此処で待っていなさい。


 黒目に、そう言われたと思いました。黙ってしゃがみます。地震から倒壊の恐れがある物もないんですが、両手で頭を庇ってみました。



 俺を見て、正面向いて前足を下に叩き付けた。



 ドンッ!!




 地震です。


 地震が起きました!

 足元が揺れます、ぐらぐら揺れて尻餅ぺったん。



 俺がわたわたしてる内に駱駝さんは走り出されてました。恐ろしい勢いで手を蹴散らして行きます。空中にドカッと跳ね飛ばされた手が、放物線を描きつつ空中で消滅していきます。お星様になって『きっらりーん!』ではなかったのが何とも言えず。的確にツブしていく姿にも何とも言えず。一回二回の三回と徹底して駆ける姿が何ともカッコイイ。


 自分とは比較しません。



 駱駝さんはあれよあれよ言う間に蹴り飛ばし、踏み潰し、平らにして、行く手にあったとゆーか取り囲んでた手を排除されました。視界がスッキリです。


 なんだか新しい道が開けた感じがします。



 

 俺の元へと帰ってきた駱駝さんは興奮してるのか、首を振って「フンッ!」な仕草を繰り返してました。でも、やっぱり鼻息しないんですよ。



 「素晴らしい駆けっぷりでございました!」



 賞賛に嬉しそうな顔されたと思います!


 


 それから間を置かずに、ダンッ!と追撃を入れられました。今度は地震じゃなくて亀裂が走ります。ピキキキッと走る亀裂は何もかもを飲み込んでいく黒の線となりまして、遠くになると飲み込んでるのかどーなのかもよくわからず。


 広がる亀裂が恐怖を呼ぶ、大急ぎで駱駝さんにボディタッチ! したらば下の上にいる自分。呆気に取られて下を見た。



 「うおっ!?」


 手がスカる! 


 …駱駝さん、既に歩み始めてた。ボディタッチしてなくても宙にいるので、ちょっと安心。しかし離れるのは不安。



 「待って、置い   うひょっ!?」


 足を運べば宙を飛んだ。

 驚いた、宙を飛んでるではないか!  あ、置いてかないでってー。


 追い掛ければ宙を飛ぶ、ポーンと飛ぶ。 試しに上にも跳ねてみる。 …楽しい、非常に楽しい。高くは飛べないがトランポリンして進む感覚が楽しい!


 振り返る駱駝さんは歩みを止めない。置いてかれたくないから俺も追う、そしたら勢いがつく。体の軽さに興奮と、高揚する気分が俺に力をくれる。


 思いっきり下を蹴った。







 見た。

 小さな手。


 黒の亀裂が広がる中、仄白く光る下と一緒に呑まれてく小さな白い手。俺へと向けて伸ばされた五指。



 黒の中に消えゆく小さな手が俺を振り向かせた。



 下との距離にも気が付いた、俺は更に高みにいてた。

 振り向く事で弾みが止まるはずもなく、止まろうともせずにいた。けど、視線を外せず後ろを見てた。


 勢いが落ちてく。

 追い掛ける次のジャンプの姿勢に移れてないと気付いて、イケナイと思って前を向く。向けば今度はどっかがズキッとした。



 罪悪感みたいなナニか? ソレを見ていたいだけのナニか?



 気持ちが後ろを振り向かせ、立ち止まらせる。

 目が下を追う。







 「いっ!」


 いきなり後ろからペカアッ!っと!! 

 煌めきを放つ燦然たる光が、そりゃもう勢いよくパアアアアアッと!  今度はナンですかっ!?



 『 …… ! 』



 勢いよく振り返った。 

 煌めきが眩しくて見てらんねー…   片頬がじんわり熱を持ってる気がするのは、どーしてだ?


 








 「しっかりする!」

 「うぁっ!?」



 心臓が跳ねるって!



 …部屋に灯りが点いてまして、上から覗き込む誰かさんの髪が大変キラキラと。キラキラと。それがさっきと重なるんで手を伸ばそうとしたら手が動きません。持ち上がりません。体勢もおかしいです。


 「んん?」


 

 毛布様に包まれて、がっつりと蓑虫してました。蓑虫になった俺をハージェストが、がっちりと捕獲してました。うむ、単語を間違えてるよーだ。



 「起きてるね?」

 「しっかりと」


 「はぁああ〜〜」


 深い深い安堵の果てに、横抱きにしてる蓑虫の俺を更にぎゅ〜〜うっと抱き締めて、近づく蒼が見えなくなったら額が額とごっつんこしました。 …地味に痛いですよ。








 「声が聞こえて目が覚めて、君が魘されてるのに気が付いた。呻く声に起こそうと揺すっても起きなくて、おかしいと跳ね起きた」


 蓑虫を分解中です。


 「体が冷え始めてた、夢見が悪いにしてもね。医者を呼ぶかと思ったけど妙な感覚あってさぁ。現状を考えると起きる事もおかしいが現実を否定しても意味ないし。状況から君を毛布に包んで抱いてた、俺の時とは違うかもとは思ったけどね。一緒に寝てて良かった、君を一人にしなくて良かった。朝まであの状態なんて堪ったもんじゃない、気付かず寝てたなんて腹が立つ」


 分解後の蓑虫は、華麗な蝶に変身しません。



 「は〜〜〜 う」

 「痛くない?」



 聞いてくる顔は心配半分、安堵半分。夜中に大変な思いをさせたよーです。そして手にする毛布様、間違いございません。あの手触りに安心を覚えたのは、どっかで理解してたからでしょーか? 直結しなかった自分残念。駱駝さんに体温あったのは〜〜  自分体温? それともハージェストの? どっちもか?



 「体は… えー、大丈夫です」

 「無理してない?」


 「してない」

 「そっか…  じゃ、風呂に行こう」


 「へ?」

 「洗い流してさっぱりしよう」



 あれ?と思えばベッドから降り、あれ?と首を傾げれば背中を押され、あれ?と立ち止まればあれあれと手を引かれて風呂場へ連行されました。


 普通、飲み物ごっくんでまったりしないか?   …そーいや、寝汗で湿ってんな。



 




 ザアアアアアアッ…


 頭から湯を頂いております。


 「はい、これ」

 「あ、ありがと」

 

 「目を閉じて」

 「え?  あー、はい」


 貰ったあわあわなタオルで自分の体を洗います。頭をハージェストが洗ってくれてます。首が多少揺れますがへーき、自分を洗い続けます。


 ちなみにどっちも真っ裸です。この過程を俺は説明せんぞ、誰がするかい。ふはははは!



 「流すよ」

 「ん〜 ぬ」


 目を閉じたまま適当に頷く。



 ザババババッ…


 再び頭から湯を頂き、そのまんまシャワーも頂き、その間に溜めてた湯船にダッパーンと浸かります。それからハージェストも自分を洗い始めました。


 「洗ってて痛いと思った所は? 背中は綺麗だった」

 「どこも痛くないし、見える範囲で変なトコなし」


 「よし」


 洗う手を止めて、握って開いて。

 手をにぎにぎしてる姿に、俺も湯船の中で同じ事をしてみる。


 「逆上せてない?」

 「ん〜 へーきだと思うが…  上がろかな」


 「そうした方が良い、流したら俺も出るから」

 「お〜」



 先に出ます。

 体を拭いて新しい寝間着を取ります。寝汗で湿気ったのよりはワンピースを選ぶ、所詮は寝間着。備品に文句は言わね。



 カタン。


 「あ、出た」

 「は、さっぱり」


 「ほい」

 「ん、ありがと」


 使ってないタオルを渡して、俺は髪を乾かします。ほんっと短くして正解。




 

 ハージェストも出たんで戻ります。

 あっちの部屋に風呂場はございません、なので自室に戻ってました。ナニゆーても近いし、勝手知ったる風呂ですし。 …あの大浴場へ行くなら違うけどな〜。



 

 夜の廊下を歩くのは、どこか新鮮。淡い光が点々と廊下を照らします。 …なんだ!? 部屋の入り口でゴソゴソ動く謎の影があ!



 「お戻りになられましたか」


 メイドさんの必需品、ワゴンの前でゴソゴソしてたのはメイド長のおばちゃんでした。すいませーん、心臓ドッキリしました。



 「お加減は如何です?」

 「あ、はい! 大丈夫です」


 おばちゃんは寝間着に上を羽織った姿でした。 …夜中に起こしてすいません。



 「果汁入りのお水をご用意しております」



 笑顔をくれるおばちゃんが、ドアをあけてくれました。





    

問題です。


下記の和歌にある三ヵ所の空白欄を漢字一文字で埋めましょう。

また、歌人は誰で何時の時代の人でしょう。



しろがねも くがねも たまも ( )せむに、まされるたから ( )に( )かめやも




しろかねとされる方もおられますが、がねに統一しときました。


この有名な歌は番猫と駱駝のシンジョウにぴったりでございまして、某ホーホケキョの歌も捨てがたいのですがこちらを選択しました。

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