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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
126/239

126 それぞれの流儀

        

 「不安であれば俺の所で寝るか?」


 おおおおお… 館内で一番の安全地帯に、ご招待。そーゆーコトかと納得したが、確定してもいない裸族がのーみそから離れない〜。



 「それとな、この部屋で寝るのはどうかと思うぞ?」


 ちょいちょいと指で示されました。

 釣られて床を見まして、首を左右に動かします。見ているのは部屋の動線です。


 テラスから続く足跡、ばっちりです。 …そうですよねー、全員の靴裏泥だらけですよねー。桶の輪染みあるしー、散ってるしー。それでもベッドに被害は及んでないよーですので、まだいーんじゃないかと。




 「あそこで寝れます、大丈夫です」

 「まぁ寝れはするだろうが…  移った方が良くないか? 部屋はあるぞ」


 首を傾げるその優しさに平気だと答え、そうだと三点履きの話をしてみる。



 「そうか、それなら最初は慣れんかったであろう? すまんな、気付いてやれんで」

 「いえいえいえいえ、慣れる内に慣れました! でも、履きっ放しは蒸れると思います。それとハージェストと新しいカーペット買おうって話をしまして。敷いても良いですよねー?」


 「買うと話したか。 …そうか、それは良い事だ」


 大変良い顔でうんうんと頷いて笑ってくれました。



 「それなら下も全部替えるか」

 「へ?」



 下を全部? 


 あっけらかんとしたお顔と床を眺めます。 …すごいな、セイルさんはハージェストと一味違いますよ。


 金の使い方に迷いがねぇ! さすが領主、金持ち! そう思いつつ室内を見回すと〜  視界に入れないよーに努めてたヘレンさんが見えてしまいます。 …ぐったりさんを放置です。見張りが必要な状態でもないですが、俺とセイルさんしか居ません。


 一番上を放置する態度はアウトだろーが、誰も相手にならんって言われるとなー。納得はする、あの煌めきは凶器になれる。



 「術式を組めば早いのだがな」

 「はい?」


 「基本、客室に術式は使わん。使わん理由はなんだ、自意識過剰な奴が有りもしない罠を張ってるとか言い出すからだ。その予防でな。しかし、今回の様に不可抗力もあるだろう? その場合は客の承諾を得てから行う。

 まぁそんな事を全ての宿が気にして行っているとは言わん。館の話であって市井ではそこまで気を回さん。回すとすれば高級と掲げる所か、無力な者達が経営する宿だな。 …手中でなら行う者もいよう。何であれ、ノイの場合は危険の一言に尽きる」


 ドスッとなんか突き刺さりました。

 よーわかりませ…  ではなく、最後の言葉がドスッと。



 これって便利とか不便とか? やっぱそーゆー?



 「ん? …どうした?  手間を掛けさせると思っていてか? 落ち込む必要はないぞ。 お前がお前である事に何を卑下する理由があるか、相手に手間をと悩むなら同等程度に己を愛え。己が愛おしい故にその思考に至るなら、卑下に落とさず格に回せ。できぬとするなら進まぬだけよ。特に何をせぬのも構わぬがな?  …出ぬ答えに悩み過ぎれば禿げるだけだぞ」



 最後の言葉が更にドスッと!

 

 咄嗟に頭、いや髪に両手を突っ込む! 怖い発言をするセイルさんを仰げば某所のにーちゃんが脳裏にピカッと!!  …薄い?薄い?薄いぃい!?  …あのにーちゃん、元気だろか。  違う! 俺のは量を減らしただけえ!


 ハージェストがカットしてくれたんだ! その心は多いからだ、そーだ多くて伸びてたんだ。切った後、頭を振ったら軽くなったと思って笑って。


 だから、俺は大丈夫。そう、だーいじょーぶう〜〜。



 自分自身に力説し、不安を払拭した所で走ってくる足音にノックの連打が聞こえました。









 「申し訳もございません」


 足音の主はメイド長のおばちゃんと、知らないおじさ…  お年寄りの域に見えますので、おじーさんでしょう。どーゆー方かは服装でピンときますとも!!


 入ってきたおばちゃんは部屋を一瞥して青褪めた。んで、青さに加速が掛かった。ヘレンさんに目を止め、口がすこ〜し開いたまま停止状態。

 直ぐ様こっちを向いて、絞り出した低音で先ほどの発言をされました。取り乱してないと言ったら嘘でしょう、人生終わったと書いてる蒼白な顔されてます。


 これさぁ、ぐるじゃなかったら〜〜 おばちゃんも被害者では?  でも、監督責任がって言うんですよね? 皆さん、そう言いますもんね? じゃあ、それを回避するにはどーすれば良いんでしょう? 思考も嗜好も指向も事情も様々にある他人を完璧に把握する、それはどーやれば可能で必要なのは何でしょう?


 口頭だけで信頼を述べる相互監視体制でしょうかねぇえ?  完璧に把握なんて〜 人権侵害って言いたくなりません? プライバシーはどーこ〜?



 「どうであった?」

 「はい、部屋住み達の荷改めは終わりました」

 


 おばちゃんの話が始まりました。

 部屋住み、同室、二人部屋? それとも大部屋? 学生寮とか連想します。


 あの二人が確実に居ない時に、こっそりお調べ? …そうだったら、それこそプライバシーが〜 ですよね? でもそっからナンか出てきたら? 疑われる行動をしてた方がとか?


 のーみそぐるぐるしてきません? 


 どこで切ってどこで納得するか? それが個人の考え方次第なら、それを容認できるか多様な考え方に自分のーみそが追随できるか、納得できないなら自分倫理を確立した上で感情論を蹴り飛ばして反論できるかであってぇええ〜〜〜〜〜   うにゃーーーっ! ポンッ!!


 控えてるおじーさんと目が合います。皺を刻んだ目元と口元で気遣うよーうな笑みをくれるので、こっちも遠慮がち〜に見える程度な笑いを返します。


 頭の頂辺から靴の先までキメてます。顔立ちも目の色も髪の色も髪の量も違いますが、どことなく宝石店の誰かを連想します。雰囲気と服装の所為な気がする。でも、商売とは関係ないからか値踏みは感じない  …と思う。誰かさんもあからさまな値踏みはしなかったな、値踏みしてたのは宝石だったしー。



 然りげ無く背中に手を回します。


 手袋してませんので、予防対策と大いなる自己責任です。それにしても皆さん、ナチュラルにヘレンさんを放置で話をするんですが本当に大丈夫ですかね? 



 続いてるおばちゃんのお話では、エイミーさんに男の影がああ〜〜とか何とか。幾つか手紙はあるが物的証拠となるよーな内容ではないっぽい。ないっぽいが〜〜 それほんと(隠語)か?とかなんとか。

 お話の合間にヘレンさんを見、おじーさんをチラ見して目で適当に言ってみる。少し繰り返すと気付いてくれました。手をそっと出されて、控えめなお顔でちょっとお待ちなさいポーズ。終了。


 「どうした?」


 行動により、おじーさんに発言が回りましたので一礼されます。



 うむ、ここまでやったんでもう気にしない。

 しかし、ハージェストが帰ってこない。下ってのは多分、前に言ってた牢屋だと思うがそこまで行ったんかな? …そういや、牢屋の場所は聞いてないな。

 




 「兄さん、こちらは終わりました」


 思えば、テラスから戻ってくる。そして足跡が増えた。汚れたマットも水洗い、新しいのはまだ敷かれてない。泥の足跡、増えて当然。



 そんで話はそこで終わり。


 『え?』ですが、ハージェストが俺が疲れるとの言葉を通したもんで。

 …優しいよなー。まぁ、ちょろちょろとは聞きました。ちょっと疲れてる気がしないでもない。緊急自身速報鳴った後だし、自分かわいーをしとくべきかな〜っとは思う。



 何となく、何となーく思い出す。


 『疑え、疑え、疑え、自分の為に疑え』



 少し前、そう思ってた。本心からそう思ってた。


 いーま考えても、どー考えても必要な事だろう。話を終わらせた事も俺には内緒なのも疑おうと思えば疑えます。でもまぁ、ずっとそうやっていられるかってーと〜  疲れるでしょう。ほんと何時、気が休まるのか不明。俺に話せば今すぐ事件が解決・解明される訳でなし、もーいーわ。


 『もー、いーわ』


 気分は投げ遣りとは違う。


 『考えても答えが出んし、わからんし』


 前にそー思ってぇ〜 同じ結論に達したけどな。結論が同じでも、あの時と気分は違います。切り捨てた、とは違う気分だと思います。 …こーゆーのが相手を知ったになるんでしょう、きっとそうでしょう。


 …へっ、人を見る目が無い俺には時間が要るわ〜。


 経験値の高い大人に聞きたいね、どこで人を見分けてる?ってね。罠に引っ掛から(騙され)ない『自分は大丈夫』発言できるお人の根拠を聞きたーい。会話のどこら辺で、この人おかしい〜って思うか知りたーい。俺わかんなかったからさー、おかしいって思った理由は第六感以外の根拠でお願いしまーす。


 俺の第六感はちゃーんと働いてるが、対人じゃなくて対物に反応してるよーだからな。  ふっふーん。  


 


 次にご紹介を頂きましたのは、執事さんです。

 やはり、執事さんでした! お名前はセバスチャンさんではありません、違います。ちょっと残念? あは。


 「彼と話して選んだんだ」

 「え! そーだったんですか!」


 「一番わかり易く、使い勝手も良い物をお選びしたと思っております」

 「有り難うございます!」


 辞書を選んでくれてました。

 会ってもいませんでしたが、この人の中で俺は確かに存在していて空気ではありませんでした。やっほー!



 ご挨拶終了後は、ヘレンさんをどーするかです。


 「医室に運ぶのは如何かと」

 「他の者との接触は望ましくありません」


 別棟の一室に運ぶ事になりました。



 「では、失礼を致します」



 執事さんのお言葉と行動に、ちょいとちょいとちょいと〜ってな感じでハージェストに後ろに引っ張られました。はい、前見たまま後ろへ歩きます。


 「用心に」

 「へ?」


 俺の後ろに立つ。後ろから体に手を回す。回した両手で俺の手を挟む。もちろん、あっちの手。手を挟む事に意味があると思うが間違いなく拘束状態だな、おい。しかも微妙。


 

 

 「 …っと」


 何という驚愕の事実!!

 ご年配であるのにヘレンさんを担ぎました。軽々と担がれました! 勢いの方が良かったんで声が出たよーです。  …お姫様抱っこではありません、荷担ぎです。


 …ヘレンさん、げろっぱしない? ……口塞がれてるから出ないか、うげろ〜で喉が詰まったら終わりそう。



 おばちゃんがドアを開けましたが、居なかったら自分でドアを開けるのが想像できる。両手が塞がる状態が嫌なんかな? ムキムキマッチョじゃないのに、すげえわー。服の下のガタイ見てみたい。


 でもま、意識の無い人間はひっじょ〜〜〜うに重いとゆーから。抱っこ中にお姫様の体がぐらつくか手が痺れて落としたら、顔面か後頭部強打事件が発生すんだな。でもよくほんとに一人で担いだな、きょーがくするぅ。



 「はい、終わり」


 出て行ったら解放です。


 俺の手を取って問題のトコを見て一つ頷く。頷いてから気持ち口がへの字になった、このへの字はあっち感情だろう。

 そんでもって、この行動から魔力を使って持ち上げたの図式をのーみそが弾く。それと同時にナンかあったらあの状態でココから強制離脱するんだと弾き出す。


 全ては俺の用心のたぁめぇえええ〜〜  なのですな。



 そんで〜  少し迷った結果、おばちゃんが出て行くのにstop言えずに見送ってしまった。エイミーさんを下へれんこーした話に目を閉じた顔が〜〜  痛そうで。



 『……しまった、早よ言えば良かった!』


 「恐れ入ります、確認ですが」


 心中でガーンとしてた所に。

 やったあ、おばちゃんリターン! 躊躇うな、俺!








 「んじゃ、隣で話してくる」

 「俺も行こうか?」


 「いや、要らね」

 「えー」

 「構わんぞ、こっちはこっちで話があるからな」


 「はーい、ごゆっくり〜」

 「えー!」

 「愚図るな」


 「えーー!」


 晩ご飯の食器を片付けに戻ってきたおばちゃんに、お話を!






 「まぁまぁ、直ぐに片付けます」

 「俺もお手伝いを」


 「いいえ、大丈夫ですわ。そんなに疲れた様に見えまして?」


 撥ね付けるでもないおばちゃんの態度と口調が、より手伝わねばな感じを醸し出してるよーにも感じまして。  …ですがね、金銭的雇用関係だけなら優しさ微量で十分でしょ? 違う?


 上っ面とは違うと思えるから手伝おうと思うのですよ。  …人を育てるってのは〜〜 部下を教育するってえのは〜〜  どこで終了?  歪んで終わりは直ぐのよーですが。




 「お待たせしました、こちらにお座りくださいませ」

 「あ、はーい」


 きちんとした話し合いに立ち話は却下しましょう! 


 「どうぞ、そちらに座って下さい」

 「いいえ、このままで十分でございます。どの様なお話でしょう?」


 「え? いえあの是非座って下さい、立たせてなんてそんな」



 おばちゃんと「座って」「いいえ」のやり取りが続きました。




 「俺は雇い主でもありませんし」

 「この領主館に勤める者にとっては、お客様でいらっしゃいます」


 「…それは確かにご厄介になってます、はい。ですがあの〜」

 「家の大事な人であると言われております。それなのに、この様な仕儀に至り何と申し上げて良いのか」


 「いえあのそっちではー!」


 話が進みませんがな。





 「…少々、足が疲れた様でございます。失礼ですが、こちらに座らせて頂いてもよろしいでしょうか?」

 「はい、もちろんです!」


 

 おばちゃんが漸く折れてくれました。それでも真正面から向かい合うのを避けて、少し体位をズラしてる。どーしたもんでしょう? …お作法?


 ですが! 俺は! 自分の! 意志を! 通して!  自分の思い通りにもっていったぜー、ひゃっほーう!  ……どーでもいー程度の事?  どーでもいー程度の事を自分の思い通りに持ち込めない?  できないとしたら、そこんトコどうなんよ? だいたいさぁ〜、結果オーライ。でも、過程はアウト。子供の癇癪と同じやり方での成功なんて年考えたら笑う対象。 ちーがーう〜?


 へへっへっへっへ〜い!





 「失礼ながら、手の事は不幸な事故であると聞いております。誠にお労しく。皆様方がこの度の事に大変ご立腹でございまして、ノイ様は貴族のお生まれではないのですか?」

 「違います、一般ピープルのお生まれです。間違いございません」


 「まぁ…  そうでしたか。ですがこれからは皆様とご一緒にいらっしゃるのでしょう?」

 「はい、そーなります。メダルに名前入れたの貰う約束してます、メダルも選び済みです」


 「まぁあ…  シューレのメダルをですか?」

 「はい」


 「そうなのですか…  ではノイ様は、ランスグロリア伯爵家の権勢をご存知で?」



 何故かおばちゃんに主導権が移行してます。どーしてだ? おばちゃんマジックか、俺が遅いだけか? …しかしこれは客観的に知る機会! んじゃあ、お話は聞いときましょう。


 

 「田舎者で知りません」

 「そうなのですか」


 「怪しさ全開ではありません!」

 「あらまぁ!こちらこそ、その様な!  疑っているのではございません。  …何と言いましょう、過分な事やもしれません。此処、エルト・シューレも田舎です。西に行けば、かの山脈に突き当たりますし、王領であった頃から何もない有益とは遠い領でして。名前負けをしている領なのです」



 名前負け? …おばちゃんの話は長くなるでしょうか? 一番最初はそーだったな〜。



 「この先、ご一緒に行かれるのでしたら何かと尋ねられるでしょう。事実、一部の竜騎兵の方々に尋ねられております。弟様の手元に居るのはどの様な?と」


 ストレートでした。

 おばちゃん、表情もストレート。


 

 「竜騎兵の中にも貴族の子弟はおられるはずです。お仕えしている以上、特に兵であるなら貴族の身分より実力と現時点での序列が物を言います。それでも履き違える者は偶におります。そんな者に捕まると大変面倒です」

 「はい」


 何やら聞き逃してはならん傾向になってるんで真剣に答えます。


 「椅子を勧めてくださいましたが、その事に安易に頷く者は駄目です」

 「は?」


 「上である者が向かい合う相手に、同列で居て良いとする事は間々ある事です。その事に、『上が望んだから』と直ぐに承諾する程度の者は教養が足りません。失格です。その程度の頭では居るだけ邪魔、足を引っ張り兼ねません」

 「は… はぁ?   えー、上からのお願いを断る方がマズくないですか?」


 「確かに、名目だけの命令である場合もございます。ですが、唯々諾々としただけの無能はどこまでも無能です。人格の問題ではございません、回転(切れ)の問題です。本当にお傍に寄せない方が賢明です。


 『上が言ったから』 『断るべき所であるが、上に言われたから受けた』


 無能であれば、この様な言い回しで同僚達に答えるでしょう。 …望まれた自分自慢をしたい気持ちもわかるのですが、そのままを伝える馬鹿正直は美徳とも言えますが、これを逃げ道の確保とする者は最悪です。裏を返さば思慮分別を持たず(我が儘で)強制を平然と行う者( 無教養 )だと言い触らしているのと同じです。それは貶めにございます」


 

 おばちゃんの目が怖い。

 ナンかトラウマでもあんだろか? えー、同席ご希望しただけっしょ? 



 「えー…  双方共に合意の場合は良いんじゃ? 表情でわかるかと」


 「辞令とは別の出世の糸口である時にこそ、下が上への配慮に気遣いを示さねばならぬのです! 断ったが押し切られて承諾した形である事が無能なのです。嬉しければ仕える上への評価を落とす様な不様な真似をするなと…!! その様な時こそ、機転を利かせて命令を受けたのではない形に持っていかねばならないのです!」


 

 …おばちゃん、興奮してる? 叫ばない語尾に掛かる力の入れ具合が怖いです。声から滲み出る重さがこーわ〜。 ……落ち込みなさげ? 



 だが、言わんとする事は理解した。おばちゃんの手本で理解する!



 『疲れたので座るお許しを下さい』

 『いーよ、座って〜』



 端から聞いても『上』は優しい人になる。『上』の機嫌を損ねず、希望通りに同席でき同僚への下手な言い訳も不要。問題なし、素晴らしい!  


 ……面倒くね? 二人だけの場合、意味なくね? 内緒にしときゃ良いんじゃね?  大体、性格なんて付き合えば〜〜   付き合わんでも人伝に聞けば〜〜   …伝言ゲームは歪んで楽しいだったっけ?  あ〜、身分ってぇえ〜〜  お友達できないんじゃね? だーから付け込まれてナンタラとかあ?  …寂しいぼっちは取り込み易いからあ。


 



 「あのー、最終的には同席を拒否しろではないんですよね?」

 「もちろんです、折角の機会を活かせないのも機転が利きません。同席で今後の立ち位置が変わる事もございますれば…  本当にその気が無いのでしたら、すっぱり拒否するのが正しいです。ですがその様な事はまず… 」


 おばちゃんの説明は続きました。


 『ふんふん』と『?』が入り乱れます。俺の頭が悪いんでしょうか?  しかしまぁ〜〜 初対面の印象かぁー、何処でもそーゆーのは変わらんね。


 あ〜… リオネルくーん、元気ぃ?   まーね、どー見ても貴族じゃないからお作法は流してくれたんだよね〜〜  効力を発揮するモン先に出して良かったんか、あれ以上悪くなれたんか。どー考えてもわからんわ〜 ふぃ〜。










 カッ!  カ、カ、カッカッカ!  ガツ!


 

 「ノイちゃん! 何処!?  お部屋に入るわよ!!」


 

 バタン!!



 突然の音は強襲のよーな音でした。素晴らしい速度で廊下を行く靴音が鳴り響いたかと思えば、あっという間に通り過ぎて、ドアをバッタン! おばちゃんと顔を見合わせました。


 「ひ、姫様ですか!?」

 「リリーさぁん!?  こっちでーす!」



 ちなみにこの間ですが、おばちゃんの行動は大変素早かったです。


 俺と顔を見合わせた一呼吸で椅子から立ってました。「ひ」を言われる前に俺に下げた頭を上げまして、「ですか!?」を言い終えた時には体はドアに向かって動いてました。


 バタバタとした足音はしません。スカートの裾を片手で持ち上げて滑る様に移動されました。



 少し前に聞こえたあの足音は…  きっと、ものすごく動転してたんでしょう。そうだとしか思えません。


 そんで、おばちゃんが大急ぎで開けたドアの前を早足で行っちゃったステラさんが〜〜〜 間髪入れずに「あっ!?」とリターン。 わお、かっこいー。





 「こっちだったの!」


 おねーさまが、ぎゅう〜として下さるご褒美を何故か頂きました。


 ちび猫ではないので、「わお!」と「うわ!」と「きゃ〜〜あ」が混じります。特に皆さん見てるんで余計に思う。役得のはずですが意味のわからんご褒美は、ちょっと微妙で大変素敵で。

 


 「今日は朝から外へ出ていたのよ」

 「帰ってきた折りに行き当たりまして、何事かと」


 リリーさんとステラさんは乗馬服姿です。…いや、乗竜服? どっち乗ったんだろ? 竜騎兵の制服をベースにアレンジが加わって華やかさが演出されてる。やっぱ、女性服は違う。


 無事を理解しても心配で駆けつけてくれる、なんて優しい。 …俺の姉ちゃんは元気でしょうか?



 

 「姫様、お召替えをしてからでもよろしかったのでは」

 「あら、優先するべき物事を優先しなくてどうするの。その程度どうとでもなってよ。ね、ノイちゃん」


 「え?  その服、カッコイーです!」

 「ま、ありがと」


 満面の笑みを互いに贈りますが、おばちゃんは細かく拘る方なんかな?  …そんな気もするな。 それを真面目と取るか、煩いと取るか、おばちゃんだからと取るか? ……そこで人間性が透けてくるのですな?



 



 「では、すぐに食事の用意を」

 「ええ、もう空腹よ。でも食事の前にお風呂に行きたいわ。お兄様、ご報告をしておきます」


 「向こうで聞こう。ノイ、安心して休むと良い。本当に移らんでも良いのか?」

 「そうでした! 花籠の間でしたら何時でも使える様、整えてございます」


 「話して決めるよ」

 「ああ、そうしろ。好きな方を使え」


 「また明日ね」

 「はい、お休みなさいです。 そうだ、ステラさん! ロイズさんにですね」



 無事、黒薬湯の差し入れを頼めた。いやー、良かった良かった。



 「薬湯が必要な容体でしたか?」


 軽く眉を寄せたステラさんの心配顔に申し訳ないと思うが〜〜  頼めたから良し。


 


 



 廊下の前で皆さんをお見送り〜。

 明日の朝は、体調不良でなかったら食堂で朝ご飯です。家族専用の食事ルーム、他の人とご一緒はない。ちょっと違う食堂デビュー!



 「疲れてない?」

 「へーき」


 カチャン。



 「キュウウウウー!」

 「え? アーティス!」

 「あ」


 「うおっ!」

 「だあっ!」



 何時、入ってきてたのか? 

 

 ドアの前ではなく開いた横。そこでお座りしてたアーティスが大きく伸びをして〜〜〜  俺に甘えた。わんこスタンプ(泥)を力強く押してくれた。イイ顔してるアーティスかわええー。


 アーティスは悪くない、マット敷いてない人間が悪いんだ。いつも通りなんだよねー、アーティスは。ハージェスト、助かる。もう少し押えててくれないと俺が倒れる。


 「ワフッ!」

 「うひゃっ」


 「だっ!」


 ダンッ!     


 「アーティス、下がる!」

 「…ヒュゥゥウウン!」


 さーすがあ〜、怒り方が堂に入ってる。

 






 「なぁアーティス、エイミーさんナニしてた? ヘレンさんの監視は〜〜 ナンでかな?」


 お座りさせたアーティスの肉球を雑巾で拭いながら聞いたが返事は無い。あるはずない、あって堪るかそんなん怖い。


 

 「アーティスの理屈で用心してたんだろう、賢いから。視た事に不信を覚えていたのかも」

 「それは育て方が良いからです」

 

 「いえいえ、そんな」

 「いえいえ、ほんとに」


 「キューン」


 「あは」

 「はいはい」


 拭き終われば、俺とハージェストの回りをぐるぐる回る。嬉しそうで楽しそうで、全く落ち着かない。リリーさん達と一緒に行ってたよーだから興奮する事あったんかな? 


 「ヒュン、キュウ!」


 忙しなく動き回るのに「落ち着け」と毛並みを撫でれば手が汚れた感じ  ではなく、汚れた。 …活動している証です。




 「あれ? 行く?」

 「キューッ クゥーッ」


 「庭から出るんじゃないぞ、いいな」

 「オンッ!」


 俺とは違う返事をして、また外へ出る。


 拭いたばっかりだから、もう少し居たらいーのに。落ち着きの無い子供を見てるよーだと思ったが、しまった!!  晩ご飯だったか!? 帰ってきたよ報告だったのか!?   …きっとそう、反省。



 反省に下げた視線の先の絨毯。わんこスタンプも追加されてる。動線の最たる場所は、もうどれがどれやらよーわからん。








 花籠の間のベッドでごろりしてます。

 うむ、うむ、ううぅむ… このベッドも〜〜 悪くはないのです。  贅沢な話です。



 「あちゃー! ベッドの真ん中にわんこスタンプ」

 「…跳躍、一回分か。仕方ない、前に上げてたし子供の頃も思い出したんだろーなぁ」



 被害に遭ったシーツを剥ぎ取って風呂場に持ち込み、手を洗い、桶に湯を入れて被害部分を漬け込み放置してから、こちらに来ました。最低限の漬け込みはしたんで許して欲しい。


 別のシーツがあるはずだが、もうあっちに行こうと引っ張られたんで頷いた。



 向こうに居た頃に比べれば早い就寝時間です。ですが睡眠は大事です。睡眠も良い睡眠が大事です。寝が足りないと、最後はっきょーするそーですので睡眠の邪魔は拷問でしょう。 …お湯よりマシ? 洗面所から戻ってきたら聞いてみよ。



 「あれ?  寝た?」

 「いんにゃ、あのさ。お湯と睡眠妨害どっちが凶器?」


 「は?」

 「だから」

 

 寝間着の下を履いて出てきたのに聞いてみた。



 「どっちもどっち。湯は短期、睡眠は長期。内容に掛ける想定時間が違うから一概には言えない」


 

 即答で返ってくる。眉間に皺もできません。

 簡単な質問だったよーです。


 「で、なんでそんな質問が?」

 「いや、なんかさっきの事とかでのーみそ変に回ってるみたい」


 「眠りの邪魔なんかさせないよ」

 「ありがとー、俺にはお湯の方が凶器だな」


 「そちらも例え話であって、そんな事もさせやしないって」

 「いや、既に終わってるし」


 「え?」

 「よー考えたら、ちび猫 『湯船でバシャバシャ、くるくる、バッシャン、ぶくぶく、ゆ〜うらり』 達成クリア済み」


 「 …そ・れ・は、達成じゃないから!!」




 怒られて反省。びびって反省。ごろ寝から飛び起きて反省。 もーいいデスか?



 「今後は一人にしない。 でも、絶対に湯船では遊ばない!」



 …ぼっちゃあああんの遊びを今になって怒られてます。タイミング違わない?


 すいません、聞いてます!

 聞いてます、聞いてます、聞いてるってぇえええ!!  だから、そーゆー顔しない! 手を持ってこないーーーーっ!!





         

はい、なくても良いクエスチョン。

この後、その1は手を伸ばしてどーしたでしょう?


一、その2の頬を引っ張った。

二、その2の肩を押え付け、小一時間の説教モードに入った。

三、その2の脇に手を入れ、絞め技もしくは寝技に持ち込んだ。(当然、手加減有り)

四、押え付けると見せて腕を組み、笑顔で見続けた。

五、風呂場に連行した。

 



蓋然で、どうぞ。



蓋然がいぜんの対義語は必然。偶然の対義語も必然。しかし、蓋然と偶然は同意義語ではない。

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