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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
125/239

125 流儀に至るに

 ドアを開けて入ってきたのは二人、ハージェストが居るからヘレンさんも安心して入ってきたご様子。


 「彼女と二人で行います」

 「よろしくお願いします」


 はい、新人さんでーすっ!


 …違いますけど。

 ヘレンさんと一緒にきた同僚のメイドさん、見覚えがあります。廊下に並んでたお一人のはず!



 「ああ、二人とも」


 

 ハージェストが掃除についての注意をしました。俺も少し口を挟んで〜〜  素敵な笑顔と一緒に新しいメイドさんのお名前をget。エイミーさんと判明した。


 これで正式に知ったココのメイドさんは〜 メイド長のおばちゃんに、お裁縫のマチルダさんに、ヘレンさんにエイミーさんとなりました! 着実に、ぜ・ん・し・ん。やっほー。



 二人が隣で準備をしてくれてる間に靴を履き替えます。履き替えようと思ってたのに、持ってくの忘れてた。室内履きnewの出番ですよ。靴裏の泥は落としましたが、これは洗わないといけませんなあ。


 

 「履き替えるの?」

 「替えとく。でさ、足疲れない?」


 「ん?」

 「ずっと履いてて、蒸れたり浮腫んだりしない?」


 「あ〜、まぁね」


 外履き・内履き・室内履きなしの区別生活を夢見て一応の提案をしてみる。


 「しまった、生活様式の違いか。 あ〜…  掃除をしても、ここを素足でってのは…  それなら新しい絨毯敷いて、その上をって方向じゃ駄目かな?」


 「それでいーです! …買うって高い? 高くないのあるかな?」

 「金銭は気にしない、手頃なのを見繕うよ。素足でいるなら触りが良いのを選ぼうよ。ん〜〜、毛織りで厚みのある物か〜 それか毛皮、毛皮でもな〜  夏向きを見ないとね?」


 

 一夏の為に高い買い物を…  とも思うが快適さと楽さは追求したい。買っても持って行けんだろうが〜〜 それくらいしてもいーはずだ。よし、だらけるカーペットを購入しようではないか!


 「じゃ、決定。良いの買おう」



 二カッと笑い返した所でノックが聞こえた。



 「お待たせを致しました」


 


 隣へ行きます。 

 並んだご飯は美味しそうですが、ちょっとスルーして〜〜  窓辺へgo!


 「何? 様子見したい?」

 「や、なんとな〜くお世話掛けるなーって」


 inとout。

 人は入れ替わりましたが人数は変わっておりません。あは、呼びにきた二人はその場で見送ってくれた。彼女達は頭を上げたら掃除開始なんですよ。

 ちょいと覗くと、テラスを下りて空の桶を手にしようとするエイミーさんが見えた。ヘレンさんも下りて、顔を寄せて二人でナンか言ってる。マットの事かなあ?


 「食事にしよう」

 「ん」


 そこまで見て、ハージェストの声に振り向いて、そこで笑って。


 席に着いた。

 さぁ、ご飯です。




 「……なぁ」

 「ナニかな?」


 「ナンで出てくるのかな?」

 「そりゃあ、ばったりしてたから」


 「ナンで黒ゼリーじゃなくて、黒薬湯Xが出てくるのかなあああ!?」

 「そっちの方が多様な効き目が出ると思って」


 「多様ってナンですかい!」

 「えー、飲む事に起因する自己回避率の向上とか」


 「ジコカイヒ?  の… 飲まずにすむ為に先を考えろと!? ナニその子供扱い!」

 「効果覿面」


 「この黒薬湯に回避と知恵の向上がプラスだと!?」



 あんまりの一言に、行儀を忘れてテーブルに肘突いて顔を覆った。ショックはショックですが泣いてません。


 「飲むのは後でも先でも良いよ、食事美味しいよ」

 「そりゃ、お前はー!」



 カップを傾けて中味見せた。ゴッゴッゴッと飲んだ。全部飲んだ。喉仏動いた。ハージェスト、自分の黒薬湯X飲み切った。つか、あったんかい!


 「ふ〜」



 口元をナプキンで拭く姿に勝てない。

 

 黙って自分のカップ見て取った。しょーがないんで飲んだ。もうハージェストの思い通りに動かされてる気がしてならないが、こればっかりはどーしよーもなさげ。


 ゴクッ…


 覚悟を決めて飲む、口中に広がる味は安定して変化無し。うげろ〜。中味が最初の頃から全く変わらんのに、いや、Xハイパーよりマシだと思うが! どーして中味変わらん黒薬湯にプラス効果が付くんだろう? 無理だろ、普通。飲む回数に従いプラスが発生したってか? 不思議薬湯、黒薬湯X!


 しかしそーだな、upすんならしてみせよう。知恵を働かせてみよーではないか。

 

 

 「コレ、是非ともロイズさんに出して上げて」

 「良いね、それ」


 「ゼリーより薬湯の方がきっと良いよね〜」

 「うんうん、そーだね。ほんと君は優しいね」


 二人して、和やか〜に笑ってロイズさんに黒薬湯Xを差し入れる事を決めた。俺もハージェストも笑顔は同じ、意味同じ。だから、『優しい』は意味を取り違えたものじゃない。


 更に笑顔で頷き合って同意を深める。

 黒薬湯仲間が増える事が確定した。 ふははははは!! 隙あらば、一人でも多くの道連れを作ってやろーではないか!


 そしてスープで口直し。安定して美味い!

 料理長さんからのメニューメッセージを開く。ふんふんと頷き、ハージェストに回す。


 「俺の好きな豆スープは完璧読めるが、二行目何て書いてんの? 書いてんの、これの事だろ?」

 「ん? ああ、これは」



 会話をしながら楽しく美味しくご飯を頂きます。

 時折、廊下の方で微かに音が聞こえます。多分、水の入った桶を運んでます。行きは聞こえませんでした、方向的にも戻りの足音だと思います。



 本日のデザートも美味しそうです。


 ジャムが添えられてますがペースト状ではありません。果物の原型を保ってます。ペースト状になりますと失敗を誤摩化したのね作品になるそーです。そーなると大抵はソースの方に回るみたいな。どっちにしろ、甘くて美味いです。


 


 「ごちそーになりました」

 「食べれて何よりです。やっぱり、少し多いかな?」


 「も、無理。苦しいって」

 「うん、無理しない程度に食べて。残して良いからさ」


 締めもハージェストの顔見て笑います。

 今は良いんですが、不貞腐れた時の食事は一人の方がいーでしょう。食わない選択肢はありません。



 お腹もその他も色々落ち着いたんで、さぁ聞こう。


 「それで捜索どうだった?」

 「それだけどさ」



 「きゃああああああっ!!」



 「うえっ!?」


 突然の隣からの悲鳴にびびりました!








 「え? 何、どーし!? 今のコケたとかじゃないだろ!?」



 ガタン!


 声の発生源、隣の壁を見ながら慌てて立ち上がり、早く行かねば!とハージェストを振り向いたら動いてなかった。目が少し細まって笑ってるけど、なにその笑い。


 「え? おい?」

 「心配しなくていーよ、虫が涌いただけだよ」


 「へ?」

 「行くけど、飛び出しは無しで」


 おもむろ〜〜〜に立ち上がって注意をしてくるガチな顔に、 『異常事態にナニ悠長にやってんだよ!』 と叫べなかった。笑顔の雰囲気にへこっと頷いた。俺、そーゆーヒト? あれ?



 「約束。じゃあ、行こうか」

 

 部屋を出て、余裕の歩きで行くハージェストの後ろを歩く。隣で距離はない。聞こえてくる声が痛そうで痛そうで。 …呻いてるっぽい、地獄の底から響いてくるよーうな女の人の怖い系の声は怖い。



 スタスタ歩いてドアをガッチャン。開いた瞬間から、はっきり聞こえます。



 「あ、あ、あ! あいぃいいい!!」

 「どうなってるの、しっかりして!」


 メイド服が重なって見える。踞る一人の上に、もう一人が覆い被さってるよーなカッコ。


 被さってる方がこっちを見て、『あ!』な感じになりました。踞ってる方はどっか庇ってる? 完全に前屈みになってるんで、よくわかりません。



 「どうした?」

 「あ、ああっ 申し訳ありません! お荷物に触れて、そしたらこうなって!」


 「ふぅん、触れたのか。何をしていた?」


 「え、え、あの! …さ、最初にお水を零してしまって! 零したのは綺麗なお水です!  テラスをお掃除して汚れたお水は捨てました! お、桶裏の汚れに気付かなくて、運ぶ途中で一度こちらに置いてしまって、泥染みが丸く  その広がって、しまって」



 踞るヘレンさんを気遣っているよーで、横からヘレンさんの肩を抱いて膝立ちで説明するエイミーさんは動揺し捲りで目があっちこっち飛んで言葉が詰まったり。


 それでも頑張って続ける説明聞いてたら、二人してどじっ子スキルを連発したっぽい。マジ? ある意味すげー驚き。二人でいたから連携しちゃったん、これ?


 「…ぅ   ぅあ」


 説明の合間にもヘレンさんの呻き声が聞こえる。


 先に手当てを〜と言いたいが、釈明は後でいーだろーとも言いたいが…  ハージェストの表情と視線と立ち姿に黙る俺がいます。優先順位が違う事に喚き立てるだけでは子供です。この現状の在り方がこの世界、この国の在り方、延いては人々の在り方を引っ括めた物事の縮図であるのなら、考えないと非常に馬鹿でいられるんだと思ってみたり自分の身がかわいーんで眺めとこ〜と思ったりする逃げに似てる自分姿勢があああ〜〜〜     えーとね、俺がするコトできるコトはゆーと。



 絨毯には水の跡、泥が跳ねてるトコはある。点々と見えます。壁にイッてなくて良かったねー って、アレもしかしてそう?  …まぁねー、そっから荷物を心配して移動させよーってのも、確認ってのも理解。理屈は通ってる。うん、泥って落ちがねえ。しまったね、隅へ起き直しておけばって思うのはもう遅いから。


 テラスへ行って外を覗く。

 外は夕暮れも夕暮れ、でもまだ少しだけ明るい。これから一気に暗くなります。部屋の灯りのお蔭で庭は見える。


 洗い流して掃除した階段は綺麗になってて、下はちょーっと水溜りできてる箇所有り。




 「綺麗に掃除してくれてる」


 こっちを向くハージェストに告げれば頷くが、笑みがあのまんま…



 「起こして手を出させろ」

 

 「あ、ああうっ! ひぃっ! 触らないでぇえええ!!」

 「ヘレン、動かないの!」


 エイミーさんに引っ張られて差し出されたヘレンさんの両手は…  赤黒くなってた。ついさっき似たよーな感じの赤黒さを見たんですが?



 「荷を移動させる。それだけでこの結果は出ない、魂胆は何か?」

 「わ、私は何ともなっていません!!」


  ヘレンさんを放り出すよーにパッと立ち上がり、両手を突き出したエイミーさんの手は綺麗でした。そーでしょう、痛いと呻いているのはヘレンさんだけです。


 ハージェストが施した防犯対策がいきなり実を結んだよーです。



 『 えー 』 です。


 だって、ヘレンさんですよ? 鼻の頭を赤くしても泣かなかったんですよ? 泣いて可哀想でしょアピールして逃げちゃわなかった人ですよ? 背筋をしゃんと伸ばして謝罪と頑張る表明をくれた素敵メイドさんですよ?? 


 …あれは偶発事故じゃなかったと?



 「し、失礼ですが! ヘレンは盗みを企てる者ではありません! 何かが間違って行われたのではないでしょうか? お荷物に術が施されているのでしたら! 術が… その、おかしいのではないでしょうか!?」


 「術式がおかしい?」

 

 「そうです!」

 「俺が組み間違えたと?」


 「…え? あの、いえ。  でも! あの、そのもしもと言う事も!」

 「お前は魔力量が力量の全てであると言っているのか? 量が劣れば術式の構築を誤ると。ない故に至れぬ。そうよな、そう見受ければ構築等できようはずもなし。できる術式も劣って当然と思っていてか? 補う程度のモノでは才は追いつかぬと言うか」


 「……差し出口を申しました、どうかお許しください」



 ハージェストに向かい合ったエイミーさんは、口籠もって目を伏せた。



 うーん、今の言い方は〜 どっちも微妙じゃね?

 反論を封じ込める言い方を 『上』 がしました。 『上』 が、そー言いましたので黙りました。謝罪しました〜な感じします。大変します。



 これ、わかってて言ったんか?


 何となく素な気がする。本音〜で言っただけな気がする。ですが、エイミーさんも言われました。しどろもどろでしたが〜〜 ちゃんと言いました。その態度が男前と言ったら失礼かもしれませんが、俺より格好良くて心臓に直撃。ぐっさり。




 「アーティスがメイドを一人泣かせたと、兄上が教えて下された。アーティスの機嫌を損ねる愚かな行動を取った様だと、それは誰であったか」


 

 俺の脳内で映像が直結する。

 ヘレンさんが準備している間中、じーっと見ていたアーティスの素晴らしい目付きと態度。ヘレンさんのビクビク加減。


 まさかでヘレンさんは本当に? え、本当に!?  あの時も俺、悩みましたけど!?  え? ほんとにどーして? 俺、なんもした覚えないよ? 動機ナニさ?





 「まさか、この様な形で判明するとはな。真、用心とは重ねるべきものだ」



 声の淡白さに嘘だろーと思うのと、どっかがズコッと抜ける感じ。急転直下型で落っこちていきます。  あ〜〜、ナニこの展開。どー動けばいーんですかい。


 …感情で動く何時かの二の舞は嫌ですよ? したらそれこそ学習能力ないってんでしょ?



 

 「ちがっ!ちがあ!  いっ!   …わた し、ではぁ!!」


 「扉の開け方を知っていた、公然の秘密であると。まぁな、どこの館でも抜け道の一つや二つはあるものだ。街の者に聞けば、領主館には女を引き入れる扉があると笑って答えた。時の領主のお蔭でなんぞと言い出されては公然過ぎて笑うしかないわ。しかしだ、開閉の仕方を知る者が外部にいてはならん。当時とて、その程度の頭はもって動いていたはず。虫唾が走る事態を許す領主などおらん。捕らえた女も館に勤める者も、めぼしい者から順次素性に素行を改めさせた」

 


 エイミーさんは顔を斜め下に、両手を胸元に当てて聞いてた。伏せてた目を開いた顔は、キリッとしてるでいいんかな?



 「誓約したと言った事実を手腕としてやろう。しかし、誓約には当たり前に幅が有る。機転が回れば抜け道は作れる、言い様は有る。上手くやったと笑うなら、笑い返して貴族の流儀を教えてやろう」



 顔を上げたヘレンさんは、すげー顔してた。


 涙と痛さでぐちゃぐちゃの顔、可愛さとか雰囲気とか皆無。ナイナイ。手と腕が震えてる。肘から上が震えてる。でも、痛くてどーにもできんらしい。庇おうと触れる手自体が痛いもんね? 動かすだけで激痛走ってるっぽい、痙攣してね?


 見開いた目と合う。 

 ナンか以前、似たような目で見られた記憶ある。


 その時、対処したのは誰でしたっけ。

 捕らえた女って誰でしたっけ、お顔を忘れてはいませんよ? 思い出そうとしないだけで。直ぐに思い出せるのは、スリットの入ったドレスに素敵なお胸様。



 エイミーさん、ヘレンさんに視線を落としたまま動かない。どうしようかと葛藤してる? 俺はどーしていーんかわかんねー。


 あ、足が動いた。

 …距離を取ろうとしてるんかな?  ……まぁ、巻き添えはごめんだよね。 俺も嫌。

 


 「俺は元から露払いだ、裏を固めるのも役目よ。虫の涌く環境は要らん。まして今、飼う気もない。一度だけ許す、虫と共に潰されたくなくば下がれ」

 


 声音、雰囲気。しゃくる顎。見える横顔。嘲ると呼べる笑い方。見下す口調。


 こいつのもう一つの顔を見てる。




 『ああ、こーゆー奴でもあるんだ。さっきまで人扱いしてたのに虫と呼ぶんだ、ひっでえー』


 そー思うが特にショックを受けてない自分が不思議。


 …前から駆除駆除言ってたし、あーゆー笑い方たま〜にしてたし。何より今の口調と雰囲気が、一番最初に見送ったあの顔に合致し過ぎてナチュラルにしか見えん。


 公私混同しないとゆーより、これが素か? 貴族だし?  …見送ったあれは絶対に素、取り繕う必要も必要性のある相手も居ないっての。だから絶対に素。でも、俺と居る時も素だろ? 日がな一日取り繕ってられるかい。だから、あの手の笑いもぽろっと出てたんだろう。思ってるコト顔に出て丸わかりだったし、さっきも丸出ししてたしな。


 つまり、俺の前で常に自然体でいた訳だ。こいつは。







 「ぃ や、ああ!」


 半分ボケてたってか、逃避してた俺の前でヘレンさんが走った。突然のスタート&ダッシュ。



 「ひぃっ!」


 低姿勢で無理やり走った。メイドさんご着用のエプロンドレス踏んづけた。手が痛いからスカート持ち上げれんよね。だから、つんのめってゴロゴロッて転がって壁にドン!


 勢いよくご自身の体で壁ドンした。肩からイッた。庇おうにも庇えなかった手がだらんとしてる、ピクピク痙攣もしてる。こっちに向けた顔は酷い状態。逃走って言葉がものすごく合ってない。 


 頭打ってないと良いね。

 んで、エイミーさんは後ろに飛ばれたんですね。






 「え? うわっ!」



 ズドン!と落ちた。


 天井から床へ、予告無しにズドン。

 光の壁が一気に落ちた。まるで断頭台に仕掛けられた刃。


 濃度が厚みに匹敵するなら、すげえ怖い光。あれに挟まれたら死ぬ、死んでる。死んでるぅうう!!


 心臓が非常にドキドキする。それにこんな間近で衝撃波って! 床にズドンした光が宙を飛ぶ。空気中の波に乗ってんでしょう、こっちに飛んでくるのがすげー綺麗。 んあ? これを言うなら、じゅーりょくは?  あ〜、セイルさんのアレみたいで綺麗。


 綺麗、綺麗、綺麗。


 綺麗な結界ですな。

 そー思う、思うが心臓が跳ねる。見れば見るほどドキン!とする。


 凹の形で落ちた光の壁の向こうに居るヘレンさん、顔が恐怖に歪んでる。その顔に、俺の心臓も早くなる。早くなってドキドキドキドキして硬直する。あの中は誰も手出しできない安全地帯だと思うが、ガードじゃなくて檻に見える。いや、檻にしか見えない。


 閉じ込められて「きゃーーーーーーっ!」だと、俺のどっかが悲鳴を上げてしんぞーに負担掛けてる。痛い。痛い痛い痛い、怖い! 怖いいぃいいいっっ!!


 でも、ドッキドキが止まったら人生終わりだし。あ〜、どっかに閉じ込められて死ぬの嫌。それ、却下。絶対、却下。きゃっきゃっきゃっのきゃっかでぇええ〜。


 心臓痛くて泣きそうで足がぶるぷるしそう。






 

 「嘘よ、そんな力」

 「は、お前の力で何を視た?」



 硬直してたけど、俺が死にそーだけど、エイミーさんが口元に手を当てて更に後退ってナンか言ってんの見た。見開いた目がおっきいね。 んで、こっち見る。そんなお顔で来んで下さい。 それでも来るんでスペース的に空いてる部屋の入り口に逃げる。黙って逃げる。一目散に逃げる! こんな時に無駄口叩きません!!



 なんか光が飛んだっぽい、反射っつーのか目の前の壁が照らされて明るく〜。


 電線がショートしてるよーな音も聞こえるんですが、これ全部ハージェストがしてる?  エイミーさん?  どっちもしてるんだろーけど! でもナンでしょう? なんかおかしくない? 変じゃない、あれ。



 ガチャン! 

 バチッ!


 甲高い硬質のおーとーはーーーっ  やぁめぇてぇええ!!



 隅っこで振り返ればテラスへのドアが開いてる、ナンかが光に当たって空中放電。バチバチバチッて。こえー! そんでエイミーさんの顔もこええ!! 恐怖で引き攣ってるんか何が見えてんのか硬直してる。


 馬鹿じゃね? 逃げるんなら早よ逃げればいーのに。立ち止まるからいかんのだよ? ほんとーにぃ〜。





 「使える事は誰しも強み。 同質であった、それが兄上から見捨てられなかった所以」

 


 バンッ!

 バチバチバチッ!  バチッ、パァンッ!



 ダンッ!!



 「ご無事で!?」


 音が幾つも重なる中、ドアを壊しそうな勢いで飛び込んできたの制服さん。


 俺と目が合う。

 五指を開いて、大きく振って、庇う仕草で。



 「そのままで! ハージェスト様!」

 「落ちた、見て来い」


 「はっ! 回しております、直ちに!」



 制服さん、真っ直ぐテラスへ走って出た。飛び出て、一拍後に体が宙に飛んで視界から消えた。消えたら急に明るく。外が明るい。しかも別方向からも、似たよーな光が射してるっぽい。




 「驚かせた、上手に立ち回ってくれて助かる」

 「た、立ち回れなかったら捕まってた?」


 「あ〜、多分ね」

 「捕まってたら、どーなった?」


 「…体格差を利用して、こう首をぐ〜〜〜〜っとしてから〜〜」

 「それ、ヤバくね?」


 「まぁねー」

 「あのですねー」


 「大丈夫、君を危険に晒す気はない。 …振り切って自分から突っ込んでいかれると難しい。けど、黙って見てる事はしない。素晴らしい判断行動でした」


 

 にっこり笑顔をくれました。手を差し伸べてきます。


 断言する自信に満ちた顔。 …それはどーでも今更に腰が抜けそうですよ。足がガクガクしそーなのを誤摩化す為にも座り込み希望。



 「あああっ!!」


 開きっぱなしのテラスのドアの向こうから悲鳴が聞こえて、ビクッ!となる。他にもヤバ気な音が複数するです。


 

 「座る? 休もうか?」

 「あっち見たいんですけど」



 指差す俺に苦笑する。

 だってさー、野次馬根性ってゆーより気にならんほーが不思議。自分意見が通って見に行くが部屋からは出ません。


 差し出された手を取れば、よいしょっと引っ張られる。その勢いで一歩踏み出す。チラッと結界のほーを見れば、ヘレンさんぐったりしてる。

 しかし、ハージェストは見向きもしない。俺はこっちと引く手に従って歩く、先を行く後を歩く。足がよー動いてると誉めたい。


 近過ぎるとワクワク感なんぞ出んわ、恐怖しかないわ! 巻き込まれてなるかいっ!!







 窓から覗けば二つの光球に照らされて、よく見えた。


 エイミーさん、立ってなかった。倒れてた。花壇の端っこの植え込みの中でばったりイッてる。距離を開けてそれを見ている二人の制服さん。警備さん、走ってくるの見えた。



 数人の警備さんがエイミーさんを… えー、捕獲した。違う、逮捕だ。意識なさげ。


 引き起こされたエイミーさんの髪の毛ぐっちゃ、メイド服もぐっちゃ。背中絶対湿ってる。そんでもって下敷きになった花達が潰れてんの見えた。枯れないよーに〜〜〜って水あげたのに潰されてんよ。


 警備さん達の足で、もっと踏み潰される。どうしようもないけどね。





 …花、気にしませんか?   しないですか、命の重さが違うから。


 枯れたら引っこ抜いてとか思ってない俺ですがぁ〜  死なないで〜と思って水あげたの俺ですよ。温暖化には緑化対策とか言ってたしー、緑化運動に努めねばとー。


 ………逃避してんのかな?


 エイミーさん生きてます。もし死んでたら、死んでるとわかった上で花を気にする俺って異常?  …人より花を見てちゃおかしい? だってさあー。 


 ああ、言い訳になる? したら駄目っぽい? 意見要らね?  でも、駄目か。 あっはー、人の存在スルーすんのは虫扱いより態度悪そ〜う。


 優しさなんて欠片も無いね。


 



 制服さん、どっちも剣は抜いてない。飾りじゃない剣、抜いてもいない。それって力の差? でも、油断したら危ないよ。




 「おー、終わったか」


 「へ?」



 振り向いたら、セイルジウスさん。

 開け放たれたドアから悠々とお越しです。まっっったく急いでも焦ってもない、それらしい素振りってのもない、ふっつーうのお顔です。口調も『花火終わったか』な感じー。




 「兄さん」

 「景気良く引いたな、お前は」

 「えー、そこまでやってませんって。ちょっとわかる程度に派手にしてみただけですよ」

 「それでどうした? 予定より早いが虫でも涌いたか」


 …兄弟揃って言う事、おーんなじ。



 「涌きました、平穏に済ませたかったのですけどね? 一応は。今少し跳ねさせておくにも、虫の態度が悪くて見苦しくて忌々しくなりまして。手を出したのも俺のじゃなくて。こんな虫を跳ねさせないと始末の一つも着けられんのかと思うと腹立たしくなって。あ〜、逃がす気は皆無でしたが拙かったですか?」


 「…お前にしては忍耐が切れるのが早かったな。で、何に手を出した?  …ああ、なる程。言わんでもわかるわ。構わん。徹底するモノはせねばならんが、お前が己を殺す程の事ではない。誇りだけで飯は食えんが、それも不要と手放す者が貴族を称する等と笑止たるもの。 良かれ。 蔓延り続けるだけなら一掃するまでよ」



 …本人も言ってたけど〜〜  ()見て育ってんだなー。



 「ノイ、怪我は無いか?」

 「俺? ありません」

 「上手に回避したよねー」

 「…あれ、回避?」


 「上手くできたなら素晴らしい」


 誉めて頂きました。 …回避もちゃんと上がってるっぽい、すごいなー。黒薬湯Xのお蔭じゃないと思ってるけどねー。



 「で、あれは?」

 

 セイルさんの顎しゃくりで見たヘレンさんは、もうピクリとも動いてない。 …やばそうです。


 「上手い事に虫が移した様で」

 「虫が移したか。 …そうだな、お前がしたにしては色が悪過ぎる」


 「でしょう? 虫の手に痕跡が残ってるんですよ。消える訳が無い、一目瞭然だと言うに下手な芝居を打つから嗤うしかなくて」

 「書類が第一で人選もアレだった様だからな。馬鹿が見せつける力なんぞ高が知れとる。外に出ぬ者が秤の違いに気付ける由もなし、どれ」



 セイルさんの一言と視線で光の結界が消えた。


 こう〜〜 ぱああっと光が散って消えてったんじゃなくてぇ〜〜 ブラインドが巻き上るよーにザーーーーッと天井に上がって消えました。

 なんつーかこ〜〜 超常的なモノを見てるはずなのに、なんかこー…  でも、今のでより「あれぇ?」な感じがします。





 「二人の間で約がなかったとは言えません。その点は不明です」

 「一旦、下へ入れるか」


 「あの〜 手当ては?」


 一向に話題に上らないので言ってみた。二人が揃って俺を見た。一呼吸のズレの後、「手当てをさせよう」とのお言葉が発せられました。 …俺が〜できる〜事は〜以上で〜〜 よろしいでしょうか? 他にナンかございますかね? 無いですよね?



 エイミーさんみたく庇ってあげたい気はしてる。


 うん、さっきのが〜〜  やらせだとしても、ね。あの顔と今までの仕事ぶりから、そーしてあげたい気は山々ですが、ヘレンさんのご家庭の事情とかこれっぽっちも知りません。 聞いてませんから。


 妙に疲れてきますな。 ……ですがまぁ、なんですね。奴隷なって鎖に繋がれたら、こんな思考と感情では終わらないんでしょう。




 カタン…


 「お待たせ致しました」

 「庭に控えさせております」


 出てった制服さんのご帰還です、もう一人の制服さんもご一緒です。素早く敬礼されました、カッコイー。



 「その者は如何致しましょう?」

 

 セイルさんの指示の元、動かれます。気を失い、両手が大変な事になってますのに容赦なく押えて手首を括りました。痛みで飛び起きたヘレンさんは声も上げれずに再びぐったりなりました。 …どっちの為でしょう? 猿轡も噛まされました。ですが手当てがまだですよ?



 冤罪か、有罪か?

 しかし、推定無罪が大変薄い傾向の対策が見受けられて怖いです。 …ん? 厳密にはまだその段階にいってないから〜〜 これが普通か?



 そんでエイミーさんは、『下』とやらに降ろされるそうです。制服さんのお一人が警備さん達と連行してくよーですが、その前にと。俺への紹介が入りました。



 「はい、ナイトレイ様の指揮下にあります」

 「自分達ともう一人が担当しています。何かあればお呼び下さい、直ぐに叫んで下さい。必ず誰かが駆けつけます」


 「はい、有り難うございます」

 

 

 三人で組まれてるそうで、もう一人は以前お助けしてくれた制服さん。名前は入手済み。現在はお休み時間だとか。でもきっと起きて、館内の対処に当たってるはずだそーです。後でゆっくり休んで欲しいです。


 見覚えがあった制服さん。三人の名前を完全にget!



 「では、これにて」

 「心痛は覚えませぬ様、お休み下さい」


 

 テラスへ出て行く制服さんと一緒にハージェストも行きます。

 注意事項の説明だそーですが俺には内緒のよーです。聞いた所でどーしよーもございませんが聞かない方が良いんでしょうか? はぁ。


 そしてドアから出て行く制服さん、こちらもまた説明と呼び出しに行かれるのです。みーんな休む暇無しですねー。




 「ところでな、ノイ」

 「はい」


 「今宵は何処で寝たい?」

 「はい?」



 いまいちセイルさんの質問の意味が掴めません。ご兄弟の阿吽の呼吸とは遠いです。しかし、セイルさんの顔を見てると〜〜 裸族派なのかと、そっちのほーが気になる俺がいる。






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