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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
124/239

124 優先事項

    

 

 「それは本当ですか?」

 「はい、本当です」


 「嘘ではありませんか?」

 「嘘ではないです」


 「ではではでは!」

 「そうそうそう!」


 

 ベッドから起きて腰を掛け、間近で話すアズサの顔。


 見開かれる目が、どことな〜くあの時のビックリ目に似てる。可愛い感じで似てる。全体的に醸し出す驚きの雰囲気が同じに見える。本人である以上、同じでおかしくないがどちらであっても変わらないのはさすがと思えるが思う事がおかしいような?



 「あ、あ、 う、あ〜〜〜〜〜〜〜!」


 腕を上げ、握った拳がぶるぶる震える。俯き加減でも、打ち震える顔がよく見える。更に両腕が上下に振られてぇええ〜〜  



 「やったぜぇええええっ!!」



 ダンッ!


 足を振り上げ手をついて、ベッドから一歩分飛んだ。

 両手を広げ、体全体で感動を表している姿は見てる俺も嬉しい。座っているのもナンだから立ち上がる。



 「いやっほうううっ!」


 振り向き様にドンッときた。両手を広げてガツッとやられた。


 こっちから行こうとしたのに先にやられた。両腕がっちり回されて拘束されたー。 ……うん、ここは素直にやられておくべきだろう。その方が良いよな〜、せっかくのアズサからの抱擁ハグだしー。して貰った分は返してあげないといけないし。



 アズサの勢いに上乗せして自ら下がり、ベッドの上へそーれっと。


 「うわっと!」


 ボフンッ


 

 うむ、我ながら上手く倒れた。

 

 指輪に意識を回し、力を引き出す。薄く薄く僅かに。

 制御は得手だ、細工も得手だ。 …これを得手にできなかったら本当に終わってたな。


 上手くなったと自分を誉めよう。



 「あ〜〜、なんつーかこう…  こう〜〜!」

 「うんうん、嬉しいよね。わかる、わかるよその気持ち」


 俺にしがみ付く形で歓喜に浸る。その歓喜を分けて貰おうと脇腹に手を回す。がっちり押えて、手のひらの力を意識しつつ両足揃えて両膝使って、もう少し俺の上へ〜〜  持ち上げる!


 「うおっ!?」

 「はい、こんなもんで」


 「おいこら、ちょっと待て!」

 「ナンですか?」


 そのしがみ付きでは拘束になり得ませんよ。


 下から押して乗り上げさせた体に両手を回してしっかり押え、手のひらの力を解放する。大丈夫、どんなに微弱であろうとも術式なんぞ展開しない。君への負担は洒落にならない。手、以外は初めてだ。確認は慎重に。


 

 君は警報だと言った。ならば、どの過程でそれは鳴る?

 心構えがある時と無い時と。

 俺の力か違うのか。


 さっきのは不意打ち。

 原因がそこにあるなら気付かれてはならない、見せてはいけない。受けた連絡の力よりも手に重ねた力よりも、もっと慎重に。触れる力に苦痛を覚えさせない為に。身構える前に、より自然な形で速やかに確認を。



 「お、おまっ!  動けねー…     あ っ、 はなせぇえ!」


 一瞬の体の震えに、心臓がドキッと飛び跳ねる!

 嘘だろ! まだ、ほんとに少しで!  …俺の力でも認識してなければ無意識で弾くのか!? 負担になった!?



 「何、どこが!?」



 即座に中断し、残滓も勢いよく散らした。

 恐らくはならない、そう読んだ自分の甘さが失敗だった。


 腹筋で跳ね起きて、回し掴んでた両肩を引き剥ぐ形で顔面を覗き込んだ。


 「うあーっ! 体温高くて、あっつ!  あーつ〜〜 」



 ………そっかぁ、そっちかぁ。あっはっはっはー それなら、はいはい。やり直し〜。このまま後ろに倒れていーな。あー、良かった。


 「うおっ! 待ちやがれ!」

 「あー、驚いたー」



 ボスッ…



 笑顔を忘れずヌルい感じで安心したから、もっかいぎゅ〜〜〜うっとしといてだ。 …そーだな、足も使って拘束すっかな。


 「こーら〜、離せっての〜」

 「……えー、俺より低いから涼しくて気持ちいーのに〜〜」


 「あつ、うざ! あつ、つら! 早よ、離せ! うぎゃーーー!」

 「えええええ〜」


 「俺はお前の体温ちょーせつじゃないから〜〜   それだから寝る時は上半身裸なんか?」

 「いやまぁはぁ…」


 「着てた方がちょーせつできるって、ナンかで言ってたと思うぞ〜。   …まさかでホントは寝る時、裸族か?」

 「は?  それはない。下は穿く、でないと不利」


 「はあ?」

 「何かあった場合、対応に手間取る。…真っ裸で寝ていられるのは兄さんぐらいだと」


 「…なんですと?」



 もう、どーしよーもないんで手を離す。ほんっと気持ちしかできてないが、まぁなんだな。



 「あ〜、良かった。あ〜、失敗した。 あっつ〜う」


 うーん、俺も失敗。


 横転がしで解放したアズサの体が完全に離れる。

 寝転がったまま、その姿を仰ぎ見る。肩から薄く散りゆく力の残映に目を凝らす。


 目視だけでも完璧に。



 「ん? どしたん?    あ… 」



 不思議な顔で左右を見た。

 散りゆく力の一端を捉えたのか、一点を見つめた後、視線を宙にさ迷わせる。もう消えた後だけど、確かにその辺りでも消えてったな。



 「あれ? あれぇ?   …ああ、そっか。そっちからの光か。や〜、前にほら。セイルさんが見せてくれた感じのが一瞬だけ見たよーな気がしちゃってさ! …ナンにもないのに目ぇ悪くなってんのか?」



 …ちょっと泣きたい。今のは心臓にグサッとキましたよ? 


 うあ〜、俺がしてましたと言い出せない、言いたくない。力の無さの指摘が痛い。ナンか自己主張と弁明をすればする程、悲しく虚しい気がしてくる。 …いや、わかってるコトだけどな〜〜  比較の目に晒されるのは慣れた。人の目は多少也とも煩わしいが、虫如きはどーでも良い。でも、君の目は非常に気になります。



 …今ので警報は鳴ってないよーだから、予告なくても俺の力は問題ないで良いだろう。なら、第三者の魔力(異質)に対する警告が鳴ったと捉えて良いか? 警告は君の本能か? それとも…  そのお守りか? 


 ほんと、それを組んだヒトってのは怖いなぁ。実際に組み込む式を考えるだけで頭が痛い、幾つ組み込んでるのか興味深い。形式に流れを掴めれば「すげえ!」では済まさない、己のモノにしてこその価値。




 「ほんとに魔力に慣れてきてるんだなー。実感沸くとすんげえ嬉しい!」


 そうだね、俺を選ぶ理由。…これが選ばれる最大の強みだと理解してる。 ……最初からアズサに選択肢はない。純粋に選ばれたいと願うのは、 なんだ、 俺の我が儘なだけか。どうしようもないな、感情を先に立たせてよ。兄貴に叱られるのも当たり前だな。



 「慣れと言える。それでも、やけに早い気がする」


 「…やっぱり? そー思う?  …手袋してなかったしさあ」

 「思うし、警報ってのがさ」 











 「えー、でもなぁ」

 「連絡寄越す用事な訳だろ? 行かないと」


 「俺が居ないと進まないとかないし」

 「用事があるから呼ぶんじゃねーの?」


 「そりゃあね、そーだけどね」

 「あの汚いの持ってた人の捜索の件だろー? 俺も知りたい」


 「…じゃあ、ちょっと行ってくる。ちゃんと休んでなよ?」

 「へ、休む必要あるんか?」


 「用心しないと倒れた後じゃ拙いって」

 「…別におかしなトコないけど?」


 「警告を掘り下げるとさ」






 

 パッタン。


 はい、お見送り終了。頑張ってこーい。

 今回はストレートに言う事言ったら、一発で終了して早かったな〜。


 それにしてもまぁ、考える事が山のよーにできたな。



 「ペケペケペン、ペケペケペン、ペケペケペケペケペンペンペーーン♪」


 適当に口遊んで部屋に戻る。

 部屋の中をぐるりと見回す。どこにもナンにもございません、いつも通りの部屋ですよ。



 「ふ〜〜〜う」


 ハージェストが言った事を考えると、「あいた!」と思う。

 いやもう、俺はハージェストの魔力が接近してきた魔力ってか術に対して警報を鳴らしたんだとばっかり。



 『接近、接近! 正体不明の飛翔力(術式)の急速接近! 警戒せよ!!』


 これが正解だと思ってました。

 さっそくして貰ったガードが大活躍!と喜んだんですけどねぇ? だって、他の魔力を阻止ってったしぃ。


 「この印の上に、ちびハージェストの映像でも出たら笑うのに。 …武器は、やっぱあの剣? それともガードなら盾か? …それともべったり張り付いてガード? 常に匍匐ポーズ?  あっは」



 テラスへ向かって、そっから部屋を見ても変わらない。魔力の残滓とか言われても、ぜーんぜん見えません。今、見える方がおかしいが。


 警報の実態が、「魔力許容量の限界に近づいた警告だったら?」かぁ。そりゃまたぶっ倒れそう、ハージェストが心配する訳だ。


 少しずつ慣らせてくれてる現状で、慣れん力に接触して一気にレッドゾーン突入とか最悪。



 「警報の原因と究明と対策…  俺より俺の事を本当に……    一歩前進って浸ってたらダメなんか? 浸るタイミングもあるのにな」


 考えてくれてるとは思うが、んじゃあなんであーゆー事を言うんだか? この現状で他の国に行くとか有り得んだろ? これっぽっちもそんなん考えてねーっての。身分制度は重要だと思うが自分のコトでいっぱいですよ。大体、ホームが安全だってのにそーんな名分で出国しませんよ。



 「社会の在り方ってのもだけど〜〜   もっと話さないとなあ」


 

 やる事なら他にもある。

 

 ちらりと振り返り、庭を見る。天気を見る。 …雨は降りそうにない。ハージェストと一緒に撒かないと。枯れ木に花は咲きません、咲かせられません。そして木よりもHP低い方を早よせんと見殺しになるわ! 全滅すんよ!!  命、大事に!


 桶の準備… は、風呂場に取りに行くんだから〜〜 いっか。



 どこから撒くかと眺めていれば疑問が浮かぶ。


 

 そーいや、あいつの魔力切れってどんな感じだ?  てか〜〜 今、どんだけ残ってんだろ? 元から少ないっつって嘆いてたのが原因なのに普通に使ってねーか? 魔力水は飲んでたが、一回しか見てねーし。


 「あ、そか。 指輪」


 うっわ、まだ代わりの選んでねー!


 「…長さはこれと同じでいーわけだから〜〜   もう俺が選んでしまおう、そーしよう、でないと何時まで経っても決まらん」



 お宝袋を取り出しに、隅に置いてるリュックへ向かう。


 リュックの内ポケットをゴソゴソして取り出し、立ち上がったら世界が回った。くら〜っとした。その場で暫し踏ん張った。踏ん張り続けた。


 落ち着いた。


 「ナニ今の。 立ち眩み?」


 お宝袋抱えて、そろそろ移動。ん、へーきだな。


 テーブルに向かう途中で目にするのは、棚の上の可哀想になっちゃった花冠と花冠の中に置いた石。洗ったんで綺麗でも、これも石です。手にしたお宝袋。


 『だからね、わたくしは面倒になるのは嫌なのよ』

 『祈りの届け上げは見えるものなんだ』



 「 ………  」



 俺は知っている。

 知らんが、存在は確かなモノだと知っている。




 『 神 』


 ハージェストのお蔭で快調なのーみそがミスしていなければ〜〜 あの時の単語は 神 のはず。幾らなんでも、あのシチュエーションで誤訳はねーだろ。

 祈りの王が頂点である割に、全く信じて無さげ〜なハージェストのあの顔。シューレに到着する迄の人々のご様子にその他。くっ付いて回った所為もあるだろが、教会に立ち寄った覚えはねー。行けと言われた覚えもねー。どー考えても宗教国家と思えん、その方が落ち着けるけど。



 この世界に居られる住人さんコト、俺命名の家主さんはどーゆー方でしょう?  …自宅警備員さん呼びは許されるだろーか?




 石を手にして窓辺に向ければ、ちょおっっと薄いがこの通り。魔石にしては、どーも違うと言われた石。



 魔力。

 この世界の水が合わない!と勘違いしかけたのは覚えてるが…


 

 コトン…


 花冠の中に石を戻し、お宝袋を横に置く。ジャランと鳴る。

 花冠と石に向かって一礼。


 「おねえさんのご忠告に従いました。皆様に送って貰いました。ですので、あそこで目が覚めました。おにいさん・おじいさんのご意見は元より、一般常識としてご挨拶申し上げました。ちゃんと致しました!


 こちらの水に慣れる様に努力をし、また助けて貰ってます。魔力無しですが、この世界で生まれた者でもございませんが、どうか一つまともによろしくお願い申し上げます」



 柏手打っても良いもんかわからんので、とりあえず手だけ合わせてお祈り(アピール)しといた。作法知らんし、王様知らんし。そっち経由じゃなくていーから家主さんに届けと祈る。


 …メール(祈り)サーバー()を通さないと届きませんなら〜〜  終わったな、ふっ。



 ジャラッ。



 「 ……これはお供えではありません! 横に置いただけです! ご縁が有るブツなら直通でイケるかとしてみただけで、ご神体だと思ってはおりません!!  御祭りしてた訳ではございません〜〜〜   にゃはーん」



 花冠の中の石に笑顔を贈って、はい移動。ハージェストにはどれが似合うかな〜。


 「あれ?」


 テーブルの上に袋を置いたら、なんかふらっとする。


 さっきの立ち眩みが戻ってきた?

 …そんな馬鹿な。

 


 テーブルに手を着いて遣り過ごしたが…  この感覚はヤバい気がする。マズい気がする。


 日光浴中の毛布様と、ベッドと床。

 ベッドを選択、床は拒否。床は拒否。断固として拒否! うあ、回る。ヤバい、冷や汗出たらどーしよう!



 ゆぅら〜〜〜〜っとした波間を揺れて漂う感覚の中、一点集中綱渡り落ちたら死ぬよ感覚でトトトトトッと歩いてベッドにボフッとダイブ成功。


 何とか靴を脱ぎ捨てるが身体中が虚脱感に襲われてる、何故かぐったりしてくる。


 ゴロッと横向きになれば首筋に二つが重なり当たる。服の中にしまってるお守りを押えるが、押えるカッコを維持できない。


 「ふ、ふふふ… 天罰とか言ったら泣く。 天罰が早過ぎる〜〜   ふ、ぅ」



 ないないと思いながら目を閉じた。












 部屋に戻る足取りは自然に軽くなる。

 手にした物に喜んでくれるかと思えば、もっと軽くなる。重い足取りで自室に戻るとか考えたくもない。大体、そんな時は仕事が上がってない。



 カチャン。


 「ただいま、少し予定より…   寝てる?」



 脱ぎ散らかした靴が見えた。

 ベッドに近寄り、顔色を伺い、額に手を当てる。


 「少し熱いか?」


 手首を取って脈を測る、呼吸を注意する。


 

 「ん〜〜〜〜 そうでもないか。でもなぁ… こんな風にしないのに。倒れた後に落ち着いた?   用心に頭を冷やすか」








 ひんやりした感覚、小さな音、体の上にある何か。この手触り。


 目を開ければ毛布様、感触大当たり。


 カリカリ聞こえる音に目を向ければ、少し離れた所でハージェストが椅子に座ってる。こっちに体を向けてるけど俯いてる。組んだ足の上にバインダー乗せてナンか書いてる。



 「あ、起きた?」


 カタン。


 「気分はどう? もう少し冷やそうか?」


 傍にきて伸びた手が掴んだのは濡れタオルのよーです。俺、病人してる?


 ジャッ… 

     ポタタッ


 見えんがベッド脇に桶があるっぽい。タオル浸けて絞って、額にペタ。 …何という事でしょう! 何時の間にか病人に格上げされてますよ!



 「俺、熱出してた?」

 「いや、熱いのかなあ?ってくらいで。気持ち悪くない?」


 「……非常に楽。へーき。 冷やさなくても うおおおっ! 花にみずう!!」

 


 ヤバい!と跳ね起きた。濡れタオル落ちた。

 …本気で平気。だからハージェスト、横にさせようとしなくていーから。





 ごくごく水を飲む。

 水差しから注いでくれた水が美味い。ごぞーろっぷに沁み渡るぅ〜。だから早くこのよーに水を!

 


 「ほんとに平気?」

 「平気です」


 二人してテラスから庭へトントントンと。…手ぶらです。水の入った桶はハージェストが持ってます。


 「撒き終えたら風呂場を往復するから」

 「俺も行きます」


 「ナニ言ってんだか」

 「だけど、それ風呂場のと違うだろ? 別なのあるだろ?」


 「…あるけどね」


 話しながら桶から手で掬ってパシャパシャ撒いた。 …非常に非効率、せめて如雨露が欲しい。ホースも欲しい。水道の蛇口欲しい。


 ここのシャワーはシャワーヘッドを固定した埋め込み式。付属のホースはありません。水の供給設備様式も知りません。 ……まぁね? 向こうで正しく知ってたかといーますと〜〜 あんまり言えないですねぇ。水瓶こと、ダムがあります。渇水時には大活躍、それがなかったら怖いですね。水道局ってか、施設で浄化されて各世帯へ供給されます。はい、水道局さんが管理してるから、どこの浄水場通って自宅に回されてるのかなんて知りません〜〜。そんなコト知ってる人いるんですかあ?

 後は電気のお蔭。電気様々。電力の供給が夏場に落ちたらドコもカシコも潰れそー。全面ストップでみーんな暑くて倒れそー。そしたら復旧復旧電力回復急いでね〜、現場の人ってほんと大変。 復旧させんのドコでしょー。 災害時における自然エネルギーの活用は、どんだけ有効なんでしょね。  もう、遠くて関係ないけどさ。


 あっは、蛇口だけ要求して通るってのは魔法ですな。


 ……蛇口は水の象徴ですねぇ。でも、あっちの世界でだって〜 水道設備が整ってない国も地域もあったでしょ? 当たり前にあったじゃん。つか、整ってても老朽化して修繕できんかったら終わりっしょ? 


 この世界に来て慣れても〜〜 無い物ねだりの贅沢さんはダメダメさんでしょ? そりゃ便利な方が良いけどさ、ヒトの利便性の為に自然環境ぶち壊し貢献おめでとー!って言われるのはちょっとねー。 …発展と犯罪が双子って言ってたけど、そこに破壊を入れたら三つ子じゃね?



 あ〜、シャワーヘッドあるからゾウさん如雨露はあっていーと思います。…ゾウさんいるのか?




 パシャアアアア…


 桶を倒して一回終わり。うーむ、水の浸透が早い! 乾いてんねぇ…  ごめんよ。



 「汲みに行こう!」

 「………そうしようか」



 桶に水を汲んで運ぶ。アズサが手で撒く、飽きるか疲れるかで桶を倒す。この面積で桶が二つか。 ……まぁなんだ、回数重ねればどのみち終わる。



 術式組んで散水すれば早い。


 水量調整で直ぐに終わらんでも〜〜  組んでしまえば労力も時間も少なくて済む。しかし、ここで効率・非効率を問うのは馬鹿だ。大馬鹿だ! アズサがしたいのなら、そこに意義が有るのなら! 最後まで付き合うとも。  気持ち()、大事に。



 アズサの体調に問題ない時なら大歓迎なんだけどなあ…  




 パシャ…


 そろ〜っとそろ〜っと流れてけー。

 桶を倒して〜〜   だーーーー  あ〜、上手く広がらんかった〜。


 

 ピッチャ… ン…

 

 五回目終了。

 汲みに行って帰って撒いて話して。二人だと往復も苦痛にならんね。


 居た所での夏の水撒きを話した。柄杓が無くて残念とか、風呂の残り湯で水撒きして気温下げてみよーとかの話をした。そーゆーイベント時に、女の子が普段着ない服(浴衣)着て可愛く見えて驚いたとかも話した。


 「ああ、それあるある。着飾って変わる人は劇的に変わるよね。お洒落に気分も変わって楽しいだろうし、気取ってる子より物馴れない感じの子の方に手を差し伸べたくなるなぁ。どっちも楽しくはあったなー。 …それでも見目で中味が変わるなんて夢物語はない」


 「うっわ、ひでぇ! 夢が潰れるよーなコトを!」


 笑いながらまた汲みに行く。

 そろそろ疲れた気もするが、 もう少し、あと少し、きっと少し! ゴール前で気を抜くと室内で水零しそう。



 バッシャ、パッシャ…



 「あのさ、考えてたけどさ。あの警報、緊急自身速報だと思うわー」

 「え?」


 「ベッドにばったりイッたのは揺り返しってか〜 あれがシュシンだったのか…   限界に対する警報だったんじゃないかなーって」

 「…今は?」


 「ほんと平気、すっきりしてる。 …なぁ、限界が都合良くわかるってこーゆーコトだろか?」

 「……わかるって言う、それ? 鳴った時点で限界値なら間に合ってない」


 「…ですよねー」


 顔を見合わせ曖昧に笑いながら一緒に桶バッシャンした。

 

 「あ」

 「あ〜」


 ……じょぶ、じょぶ、だいじょぶ。水に薙ぎ倒されてない。回数重ねると大雑把になるなー、あっはっは。



 「その警報、自分が鳴らしたって感じは?」

 「あー、それわかんねー。感覚も何も聞いたとしか。  …気持ち悪いもなかったし」


 その事について話しながら、また水を汲みに行く。






 「残るは!」

 「ん、あそこの一角」


 

 さぁ、これでラストです! 二人で頑張りました!!


 「そーれっと!」



 ザアアアッ…



 水が流れて乾いた地面を黒く染めてった。見届けて満足した。良かった〜。


 「お疲れ、頑張った」

 「ありがとな」

 「どう致しまして、一緒にやって話せたし。違う感じが楽しいよ」

 「そー言って貰うと助かり」



 笑ってテラスの階段見て〜〜     ………あ〜。


 「なぁ、ここも洗い流すほーが良くね?」

 「泥なんか気にしない。これ以上は疲れるよ、誰かにさせよう。桶もそこに置いて」


 カッコイー言葉で締め括ったハージェストが頼もしい。俺には逆立ちしたって言えん言葉だ。



 アーティスの為に敷いたマットは、もう台無し。しかし、正しく大活躍! 更によーく靴裏擦って終了します。


 二人して洗面所に行く。手を洗い、うがいをした。


 「このまま汗を流せば? 湯を張ろうか?」

 「え?  あ、シャワーでいいよ。そーだ、この温度調節がだ!」

 「はい?」



 


 「そう、それでいい」

 「よっしゃー、わかった! 先に一回上げ切れか! 上げ落としの調節方式か!」


 「最初に上げないと回りも遅くて稼動域に達しないから、時間が掛かって水も出る」

 「半端だったからかー」


 「全体を一つで統括してる場合は、また違うけどさ」

 「ふーん」



 ハージェストの手の動きに釣られて上を見る。


 「固定角度は変更無し?」

 「そっちは良い」


 「…一人で大丈夫? 一緒に入ろうか?」

 「一人で平気です」


 「……即答するね」

 「いえ、そんなコトは」


 「風呂なら既に一緒に入った仲なのに!」

 「個室と大浴場はなんか違うから!」


 「…ふーん」

 「…おーい?」


 「ま、倒れないよーに」

 「湯に浸かるんじゃないからへーきって」


 「服を構えておくから」

 「ありがと〜う」




 頭から適温の湯を頂いて、ざばざばざばっとね! ………良い湯なんだが、鞭でビシバシの話を思い出してしまった。風呂に入るとゆーのは実に気持ちの良い事で、汗でベタつく体をさっぱりさせてくれる爽快感に清潔感。


 なのに凶器、これが凶器。

 浸かるだけで倍増する痛みの水! 煮沸消毒済みの凶器!  


 その名は、『 お湯(ホットウオーター) 』!



 あ〜、なんだかな〜〜。  ん? あれ?  ……うにゃあああああん?



 「ふ、ふはははは!」



 湯を浴びながら、ヌルーくヌルーく壁を見る。どーでもよくなった。はいはい、お湯は凶器ですよって。


 心の中でロイズさんに合掌。

 してから違うと気付いたが、それももーいーわ。



 浴室出たら、バスタオルと着替えの服。

 パンツもございまして、お貴族様のハージェストに申し訳ない気がする。髪を乾かす専用タオル被って出る。


 「上がったよー。 はぅ!」


 ハージェストの隣にヘレンさんが! 風呂上がりのしまった〜な格好してますがな。 ……今更か。



 「本日のご夕食は隣室にご用意致します。お食事をされている間に私と同僚とで、こちらのお掃除をさせてくださいませ。少々騒がしいかもしれませんが、ご容赦願います」

 「え! いえ、お手数掛けます! 明日でも良いんですが!」


 「時間の経ってない方が手早く終われます。今後もご遠慮なく仰られてください」

 「あ。  …はい」


 「では、料理長に伝えて参ります」

 「頼む」



 ヘレンさんは俺とハージェストに一礼し、更にドアの入り口で一礼して部屋を出て行った。



 「髪を乾かそうか」

 「あ、ほら。専用のやつだから」


 「はい、ここに座って」


 ……結局、何て事無い。乾かして貰いました。ふわんはしなかったので自分でやるのと変わらんのだが、やってくれました。髪、切って良かったと思います。



 「入ってくれば?」

 「ん〜、確かに汚れてるな。入ってくるよ」


 「待った! 着替えの服は!?」


 拭いて湿ったタオル持って洗面所に行くハージェストを止めた。


 「バスローブでいるのは、まだ早いしな。隣の部屋の いや、自分で取るよ」

 「えー」


 「次からそのチェストの下段に入れるから。俺の荷物は触っちゃ駄目だよ、整理した後なら良いけど」


 

 弄くった結果の暴発の危険を再度言われると引く。無意識でも魔力の判別ができ始めてる、知らない内にどっかをポチッとしたらどーなると? ブツをブツだと認識できない子供の火遊びは厄介ですねぇ、怖いですねぇ。ほんとに火傷で終わるんでしょうかねぇええ?  無理でしょーねぇええ…



 その場で見送り、ほうっと一息。

 テーブルの上のお宝袋に選んでないと思い出すが〜〜 これからお掃除なんで広げられません。


 「ん? なんだ、あれ」


 バインダー片付けたよーで見当たらないが、テーブルの上にナンか増えてる。



 パラ、ペラ、パララララッ…



 「こ、これは! 国語辞典、ゲットー! いえーい、getだぜぇ」



 ハージェストのお土産のよーです。なんて有り難い!

 ペラリパラリと捲れば、あああああ…  伯爵のおとーさんになんて書こー、取り組む課題がキッツイわ〜。


 眺めていれば文字が大きい、きっと子供用。逆を言えば、子供用さえマスターすれば日常の文字はクリアできる! やらねば!





 「はぁ、さっぱりした」

 「あ、早かった…  え?」


 「え? ああ、それ君に。大きさと内容選ってたら遅くなった、ごめんよ」

 「いやいやいやいや、ありがとー。本気で助かる、これで頑張る。 んで〜 髪、洗わんかったんか?」


 「洗ったよ?」

 「なんで乾いてんだ?」


 「乾かしたから」 

 「…………俺の出番を取るなああああ!」


 「……っ! しまった、惜しい事を!! 濡らしてくる!」

 「やめれ」


 「「 ………………  」」


 

 妙な残念感が漂ったけどな、こんなんのやり直しはねーっての。





 ジャラリ。


 お宝袋突っついて話したら、掃除が入るからやっぱ後。一度リュックに戻す、都合が良いんで中の説明に入る。


 「…隠しの開け方? 隠しもあるんだ。有り難う、話してくれて」

 「共同品にしたんだから良いって。んで、ココが」

 

 「ふんふん」



 説明して試し確認。お宝袋入れて、リュックを締める。覆い布ぺろりして、括り紐を解いて開けて隠しも開けて中から取り出す。


 「隠し方も色々あるけど、この手のやり方はなー」

 「刺繍も上手で縫った跡さえわからない」


 「はー…  すごいな、ここだろ? 縫い目所か糸さえ無い、痕跡すらない。普通なら詐欺を疑う」

 

 「あっは、開けられないけど盗ってかれたら終わり」

 「そうだった、上手くいくかな? 防犯対策してみよう」


 「できんの!?」

 「基本は触れさせない事。だけど、君の言う通り『取って』 『持ってきて』もできないってのは拙い。掃除の際に寄せる程度はするだろうし」


 「それ、されてた」



 そっから、ブツブツ言ってた。設定する条件を呟くのは良い、専門用語っぽい不明単語は不明だがなんとな〜くわかる気もする。


 リュックを弄り、括り紐を解いて引いて括って戻しての繰り返し。



 「終わり」

 「はあ?  ……俺の期待返せ」


 「はい?」

 「だから、俺の盛り上がったワクワク感を返せ!」

 

 「えええっ!」


 応用力リテラシーがどうのとか言ってても、ナンか理不尽極まりない!






 コンコン。


 「よろしいでしょうか?」

 「あ、はーい」


 美味しい美味しい晩ご飯のお時間がきたよーです。お腹空きました。



 「だからね?」

 「もーいーわ、ご飯にしよ」


 「…そうだね」





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