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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
123/239

123 形式より流儀

 


 さて、やるからには徹底したい。どんなやり方で君に修正を掛けよう?


 理解も不可解も生じた疑問もーー  全て最後は、『怖い』が引き下げさせたのを俺は理解してる。そうなると、一番手っ取り早いのは脅しを込めた忠告になる。


 手当てをしない事に納得したとみたけれど、これは怪しいか? 根底にある常識の違いが見識を危うくさせるなら、予備知識を叩き込んでこっちに染め上げるか。そうでないと先々が不安、俺が不安。


 しかし、常識だからなぁ…


 育った場所での常識。思考の否定は人格の否定に通じる。馬鹿にする気が無くても、裏読みに深読みを重ねればそれは可能だ。上手い事やると感心した時はあったが…  ああ、そーだな。上手くて腹立つな、兄貴の奴が! 俺と話した時には言わんかった事を、わざわざアズサの前では言いやがった! そりゃあ、あの手の言い方をすれば意味が取れんでも肯定するわ! どちくしょう!



 「お〜〜い?」



 あ〜〜 そうじゃなくてシメ方をだな!



 「どどど、どしどし  どした?   うあっ!」



 ハッと気付けば要らん事をし終わってた。悲しいかな、既に終わってた。己の技術が恨めしい。

 アズサが顔の前で手を振ってたよーで、その手を無意識に引っ掴んで押えてた〜〜 押えただけならまだしも、捻りを加えようと〜〜  加えてるな。


 あいったーーーー   どーするよ、これ?




 「「 ……………… 」」


 そろそろと戻し、捻りは無かった事にするが事態は拙い。拙過ぎるんで俺の手で挟み、ナデナデして『痛くない? ごめんね』アピールを無心に繰り返す。


 手を見、顔を見る。

 俺を直視する目が痛い。横を向いて逃げたい。行動停止状態でも、斜め下から見上げる半眼が非常に胡乱うろんで痛い。目がヤバい奴認定して、気持ち肩が下がって体全体が引こうとするうううう!!



 「ごめん! 変に考え込んで思考飛ばした! つい、うっかりの悪意無し!」

 「うえっ!?」



 誤摩化しにそのまま引っ張って、これ幸いとぎゅうぎゅうしっかり抱き締めといた。腕の中に囲って抱き締めてる間は顔を合わさずに済む! 今の内にナンとか誤摩化せ、俺ぇ!! 


 「えー   ごーめーん〜」



 とりあえずの謝罪で間を伸ばす。

 にしても、此処暫く無い程に謝罪を繰り返してる。こんなに謝罪する事があるとは夢にも思わなかった。ああ、この程度…  アズサでなかったら気にしない。一言、どうして外せんで終わらせるのになー。


 むぎゅむぎゅぎゅううう〜〜っと抱き締めてると、頭も落ち着いてくる。落ち着いてくれば思考の高速回転が可能になる。



 「おーい。  もー いーんですが〜〜〜」

 「えー、だって〜〜」


 語尾を下げ、否定形で返しながらも、もう大丈夫・間を伸ばさんでもイケると思えたんで身を離そうと動いた直後!  


 背中をポンポンと。 ポンポンとだなあ!!



 落ち着け返しされた。 …やややや、やっりぃいいいい!  殴らない、暴れない、嫌がらないの三点で、やっぱり優しい気質だと断定する。俺はする!



 アガる気持ちに冷静な思考が、『この許容範囲はドコまでだ』と呟くので即実行。そうだ、こんな嬉しい事を今試さんで何時試す! この瞬間を外すとか、馬鹿じゃねーか!! 


 ベッドに連れ込む迄も無い。なんて素晴らしい!この楽な現実。


 普通は連れ込むのも大変なのにな〜とか、持ち込みの仕方で今後が〜とか何とか考えながら、ぎゅうう〜〜っとシメたままベッドに倒れてみる。安全策に横から倒れる道連れ方式。


 ま、横しか無理だが。



 「わー」

 「へ?  うなぁあ!?」

 


 ボフッ!


 二人分の重量がベッドを弾ませる。

 この程度でそうそうに軋まない、良品だよな。



 それにしても時折、猫語になるなぁ。

 悲鳴を上げまいとしてるのか、悲鳴の誤摩化しに猫語(奇声)になってるのか。それとも単に猫の時の口癖が継続されてるのか?

 


 「……おーまーえーはぁあ〜〜〜〜」

 「あはは。 あ〜〜、どこからどーゆー説明で話すのが最適であろうかと悩む内につい〜〜  平気だろ?」


 「ああ? 『ロイズさん、大丈夫?』が、どうしてこーゆー事態を呼ぶのかね、君ぃ!」



 目を合わせて、にっこりしたがダメなよーだ。腕を解いて、ばったり仰向けに転がる。隣の熱が転がって、起きた気配がするのが、あーあ。首を向ければ、こっちを見る目がナーンか言ってるけど怒ってはないね。


 「いやもう楽しくって、つい」

 「楽し? おま、遊び優先か! ううむ…    ほんとか? セイルさんとの話で煮詰まってたりしてないのか?」

 

 「そっち? そっちは〜〜  まぁ、平気」

 


 苦笑を一つ返しておく。


 軽く眉を顰めるその顔に、己の思考の短絡性を知る。

 修正掛けて、どーするつもりだったんだ? アズサは俺の部下じゃない、家の者でもない。契約を、交わした訳でもない。


 思考を潰し、強制を掛けたいんじゃない。修正と言うは、こちらの言い分。 …修正と言い替えただけの強要に近い気がしてくる。似ていても違うと思える基礎知識。話す事が大事で違うと切ったら、それで終わり。


 そんな終わりで納得できるか。

 俺ならこいつはこの程度、そう判を付く。負の感情を胸の内に溜めさせると終わりだと、あれだけ授業で習ってナニしてる? 


 諦めに卑下に沈黙と、最低に落ちるのが確定するだけじゃねーか。 


 思い望む形に成りそーにない。成らないから成るよーにと修正掛け続ければ、何時かブレてズレて歪んでいく。





 要は、これだと選んで欲しいんだ。



 『召喚獣でない以上、対処法を変えいでか。お前の筋も考慮はするぞ? その上で同時並行せんと進まんわ。まぁな、思う事にやる事が多々有り過ぎて兄は時間がもっと欲しい。しかしだ、あれだけのモノを提示した相手に選択の権利が無い訳なかろ? 選ぶ権利は半ば向こうに落ちている事を理解しろ。多様な安全を図るのが基本だと何度言わせる』



 良いモノを並べた数ある内から、これだ!と選ばれたい。修正を掛けて思考を狭めれば、その確率はグンと上がる。上がるけどな。



 『え〜〜〜〜  あれはダメです。ここがスカです。これもイマイチ。そっちはよさそーですがちょっと〜 それはナンか微妙でえ〜〜。   え、他にはもうない? この中から選べ?


 ええっ! これだと思うの…  無いんですけど?  そんなああぁあああ…  それならやっぱり最終はこの二択です。 ぐあ〜〜  もうしょーがないですね、他にないんだから。しゃーないからこれにするかああああ〜〜〜〜   あー、理想と違い過ぎて選びたくないのに選ばないといけないなんてー。 悪くはないんだけど、ないんだけど〜〜  はぁあー』




 こんな感じで選ばれるのは、少しを通り越してかなり悲しい。自分の理想を追い求めたい。しかし追い求め過ぎた結果の末路となると…   嫌なよーな、満足のよーな…



 『他の手段を潰し(外堀埋め)て、選ばせた』


 この安楽なやり方を俺は拒否する。俺が拒否する。やっすい思考、誰が要るかよ。そんな程度で誰が満足するものか! 力足らずでも、俺自身が安いつもりは無い。



 自身の矜持に響く選ばせ方に何の意味があり、選択肢の無い選択にどれだけの価値がある。


 そんな手段を取らねば得られない、選ばれない。だからと行うは自信の無さからくる…  ああ、情け無い心を晒してる訳だ。囲い込みの追い落としは戦法だ、必要ならば良しとする。躊躇う必要などない。しかし、心には悪手だ。自身に対するしくじりだ。



 相手の前に立たない自分に、どれだけの価値があると? 


 自分に自信が無い、無くてもありったけを曝け出そうとしない。 悦に入りたいだけの笑う屑は嫌いだ。 そーゆーのをガキと言う。



 『先に得てから』


 紆余曲折に時間を要しそうな修正を後から掛ける? 阿呆臭い。大体、得ればやる気は失せるもんだ。何時しか有耶無耶に自身を誤摩化し、誤摩化したと意識する? 最後、そんな事を考える事が馬鹿だと流す?


 はん、やっす。

 姑息と呼べる手段も不要、正面から向かい合わねばならない時を読み間違える己なら   一体、何を経験と積み上げたのか。



 兄さんがそうと話したら… 迷わず兄さんを選ぶだろうか?   迷う事なく手を上げる奴は確かにいるが…   気にするな、俺。 あーゆーのとアズサは違う!絶対違う!  そうだ、誰が黙って殊勝に下がるか、下がってなるか! 絶対にするかあ!!





 「んでさぁ、何が問題で返事を渋るのですかね?」

 「あ。 …えーとですね。社会について、どの様に説明すれば良いのかと考えてました」


 「はい?」

 「円卓形式の国であった事実を踏まえ、その差異を考え、適切不適切として立ち塞がるだろう壁に対しての憂慮をですね」


 「……うにゃあああーん?」



 うん、大丈夫だ。猫語でも今の言いたい事は表情を足して理解可能だ。しかし、それだと顔が見えない場合は無効か? 抑揚で程度はわかるだろうがぁー  があ〜〜、猫語をどうやって習得すれば良いんだろーなー。 


 難問も契約の形で収まるなら…  俺でなくとも良いのか。  




 「えー、寝転がったこの状態で話しても良いでしょうか?」

 「ん?」


 その顔に、だらしないかと腹筋で起きた。

 



 「ロイズが無事か?との内容でしたら無事でないと判断します」

 「だよな、それが普通だよな!」


 「はい、その上であの放置でまともだと」

 「…まぁ、理由に納得はしてます」


 「理由付けに納得するなら、理由を聞かない限りは納得しませんか?」

 「…理由のない暴力を受けるのは嫌ですので」


 「刑罰を受けるのは、理由があるのが大前提です」

 「それはそうですが」


 「先にも話しましたが、この国にも律はあります。そして領地に依って裁き方が異なるのも話しました。裁くのは領主、領主代理、領主から任命された専門官だけです。そして、下された決に異論を唱えるのはなかなかに厄介です」

 「……厄介。 かなり?」


 「はい、他領での糺す行為は容易ではありません。第三者からの公正な何とかと叫ぶ名目での嘴の突っ込みは、全力でその地の領主に喧嘩を売った事になります。それを行う場合は、証拠・証人・その他を押えて揃えて全力で殴らねば、こちらが不敬に当たります。領地の広さに繁栄の度合い、爵位に依る上下を唱えても、他意無く嘲笑(挑発)したでは済みません。

 そしてやられた方ですが、正しい決でなかった事に反省を覚え良かったと思う者も居るのですが、再確定されれば訂正は必ず面子に掛けても行われますがあ〜  面子を潰されたと短絡的に受け取る者が大勢を占めます。基本、自領の能力の低さを晒す結果になりますので。その後は色々と多方面に向かって愉快な結果が出るものです。


 感服から懐く場合もありますが、やり方を間違えると他家から下ったと見做されたり見下されたりします。懐かれた方には利益となる場合もありますが〜〜  荷物となる公算も非常に大きく。懐いた所でそこから先に進まない限り、対外的には堂々と手を突っ込めない状態であるのは変わらないので。裏からのやり方も無い訳ではないのですが〜〜   まず、そちらではこの様な心配りは必要でしたでしょうか?」


 「……えー、えーー、 そのですね? 関わった事も関われた事もございません。必要は ないと思い ます」



 表情と返事にうんうんと頷いた。

 大本からちょっとずつズレるんだよな。



 「そうでしょう、円卓での形式は一応の横並びですし。それでももしかしたら、此処での円卓形式とそちらでの形式には違いがあるかもしれません。


 はっきりしているのは、円卓ではないこの国では明確に違う事です。


 一つの下った決に対しての容易なる反論は致しません。それを行うだけの根性と度量と弁舌と理屈と時間と金を有しているかにも繋がります。最も第三者でなく、当事者の身内等になると話は違うので、そこは排除して貰って構いません。貴族同士であればまた違いますが、非常に悪辣になれます」

 「は、い…」


 「可哀想の一言で優しさを示せますが、変な形で回り回れば敵を作れます。皆、見て見ぬ振りでも事勿れでもないつもりですが、だからこそ、煩わしく頭を悩ませる事の無い情状酌量を蹴り飛ばした律のみを押し通す領があるのです。力の弱い領は、それで力を示せます。容赦が無いので人心の反発も考慮する所ですが〜〜  何を言っても一律です。律の元に皆平等とも言うのです。それで犯罪率が下がりもします」

 


 一旦、口を噤んで隣に腰掛けるアズサをまじまじ見た。何となく、なんでそんな話になるんだろう?みたいな顔してた。



 「どこの領主も犯罪率の低下は大きな課題です。繁栄と犯罪率の増加は双子の様なものです。わざと泳がす場合もありますが〜〜 見慣れない者でそうは見えないのに金の羽振りが妙に良い、力を有して変な感じに態度がでかい、馬鹿なのかわざとなのか天然なのか結果として力をひけらかす、そういうわかり易い者にはマークも付け易くて実に助かります。我が家では特定の組合には通告義務を課しており、怠った結果の憂慮の話もさせています。大体はそれで取り零さないのですが絶対でもないんですね、残念な事に」


 「え、あのロイズさんにどー… 」


 「萎縮しろではありません。こちらでは行為の結果に下されたと判じれる物事には、何時迄も関心を向けません。薄情とは違うと思ってますが…  身内と言えども… 対応は違う時があります。


 今回のクロさんの仕置き、あれは体にかなりキたはずです。意地で歩いたのは誉めますが、扉を閉めた後は〜〜 そんなに保ってないでしょう、へたってますよ。それでもあれは後遺症がでない。治るのに時間を要しても傷跡が残る事はないと判断しました。ロイズは力を有してますし。その見極めが終わってるので…   ごめん、本気で気にしてない。俺は君の態度でクロさんのご機嫌がどうなってるかの方が心配」


 「は…  いやいやいやいやいや!俺もクロさんについてはね? ちゃんとそっちには俺の大事な大事なクロさんだと! アマアマもしてですねぇ… 」


 目が泳ぎ手が泳ぎ、体が揺れる。

 わかり易く動揺が手に取れるんで、もう一押ししておこう。



 「クロさんのアレが実体化したのは驚きで、ぶっ叩いたのも真実。それでもアレは拷問と呼ぶに値しないから」

 「はい?」

 「拷問と呼ぶのは、その後だから」

 「…あんなに真っ赤になってましたけどぉ!?」


 うんうん、そうだろうなと頷いとく。

 ここら辺にも落差がある。これは根ではなく末端だから修正でいーんだろーかと考える。 …ま、どっちでもいい。



 「えー、獄吏に鞭打たれました。床に倒れてます。その後はどうしますか?」

 「えー…  手当て」


 「ではない方向の続きで」

 「えー、えー…  水、バッシャンして起こす」


 「はい、それはよくある手法です。起こすのと手を抜くの意味合いで、ん〜〜 その後は設備問題も入るには入るのでしょうがぁ〜〜」

 「はあ… ?」



 様子見の顔を真っ向から見て目を外さない。



 「打った後の拷問に水はない。鞭打たれて真っ赤になってるのは火傷の状態。炎症を起こしてる。そこに水を掛けるのは冷やす行為で治療な訳ですよ。流血の場合は洗い流しです。 ……あんまり大きな声で言う事でもないのですがね? 拷問と呼ぶのは、そこから湯に浸けるんだよ。熱湯じゃなくて、適温の湯。殺す気はないから。


 炎症起こしてる状態で血の巡りが良くなれば、ま〜〜〜 打たれてできた腫れが第二の心臓と呼べる程度には痛むね。どんな奴でも悲鳴を上げて泣き喚く、悶絶する。痛みで気絶もできやしない。じくじくじくじく熱を生んで孕んで何時迄も痛みは引かない、冷やさない限りは。


 然して手を掛けずに(手抜き)、と言って良いよ。中に浸けた状態から床に転がす過程で許しを乞うのが大体。それでも堪える者も居る。それには衝撃を与え(靴で蹴っ)て、もう一度浸けるかソレも面倒と湯を掛ければ大抵落ちるものだけど」


 言い過ぎたかと思うが事実を述べただけだ。



 「あの…  自力回復できるとかの ばあ、い… は?」

 「制御環嵌めてる時は難しい。けど、わざと緩める時もあれば嵌めない時もある。見極めに依る。状況を読めずに魔力での回復をしてもねぇ? 回復より守りか攻撃に転じるものだけど、頭の悪い単なる独り消耗戦の自滅行き。行使のし過ぎは死に至る。わかってる事だから、その場合は自死を選んだにしかならないね」


 「は…」


 「湯を運ばせる事で、これから行う過程を想像させる。心痛から責めるやり方も有効だけど時間に労力がね。力を有しないと正規の獄吏には選出されない」


 

 気持ちが引いたのがわかる。

 見間違えない、それでもココで逃してなるものか! 俺は先へ進むんだ、都合の良い顔だけ見せて楽しく先へ進めるものか!


 俺は、一緒に、行きたいんだ。 行くんだ!!



 ガシッと肩を捕まえる。

 ビクッとしたのに顔を近づける。本当はもっと無難に柔らかく話すつもりでいたのに、欲が出る。欲が出た。いや、これは欲じゃないだろ? 当たり前だろ!?

 

 俺は自分を恥じる生き方はしていない。『俺』で引かれたくない。俺は俺だ。俺が俺だ。二面性なんぞと言われたくもない!!


 素の俺は、優しくもなければ時間も掛けない。それが俺なんだよ。 俺が…  俺が力足らずでも! 見て欲しいんだよ、こっちを!



 「怖がらせたなら、ごめん。でも、現実の一端。貴族の流儀を通すなら、済まないモノはもっと済まない。済まさせない。この点で間違えると危険と隣り合わせ」



 目蓋が降りる。

 繰り返す意図した呼吸に『あ』と掴む力を緩める。


 肩が下がって力が抜けて、目を上げると同時に背を伸ばした。


 「続きを お願いします」



 その顔に向かい合うとは言えど、ベッドに腰掛けての会話が間違えてる。でもまあ、最初から肩肘張ったら疲れるから、切り替えできるならドコだって良いだろ。



 「有り難う、聞いてくれて。形式からすれば、この国の成り立ちや神話、他国との関係等から始めるべきかとは思う。でも、それは後でどーにでもなるから。最初に知るべきなのは、何が安全で違いはどこから発生するのか?に尽きる! そこを踏まえないと、どこが逃げるべき安全地帯であるのかの区別もできない!


 ですので、この国の貴族社会についての肝心な話を」


 「はい」



 「この国はだね… 」


 語りながら頭の中で整理をするが、ナンだか昔の復習を思い出す。学舎での教えではなく、行く前に親父様から叩き込まれたこの知識。質問形式で正しく答えられるかできる迄、叩き込まれたのは良い思い出だ。あの時程、親父様とべったり引っ付いて過ごした覚えはないな。


 学舎に通ってる間に、教えとの違いを自ら学び取って来いとも言われて送り出された。年に一度の報告レポートも我ながらよくやったもんだ。


 貴族の中でも爵位の上下に煩い者もいるが、実質領地の有無が切り分ける。次にくるのは繁栄と呼ぶ威勢。



 「…じゃあ、縦社会で王様一番上で良いですよね?」

 「それ、違うから。武では公爵が名目上の一番上。王は祈りの王であり、武を有してはならない。何故なら、祈りが穢れるとされる。祈りは王個人のモノでなく、全ての者の祈りを指す。王の祈りで祈りが届く。血染めの祈りは生臭い。正しく神の元へと届けられる祈りでも、そうなれば届かないと言われてる。 …神の応えがなくとも唯一の橋渡し、行わぬのも問題だと」


 「はぃい!? 王様が別枠なのは良いんですが!  ほ、ほんとーに、ほんとーに届くモノなんですか!? まじでえ!?」

 「あは、祈りの届け上げは見えるものなんだ。 …本当に何とも言えないモノだけどね」


 「はあ? なにその顔……  えー、えー、えー…   では、この国は公爵の指揮の元で?  って、まさかの一人!?」

 「それこそまさかで複数居ます。派閥も一枚岩でなし、絶対でもない。馴れ合いが過ぎると家が腐る」


 「は?」

 「わかり易く言い替えると… 個性が大事? あ、矜持もね」


 「はああ?」

 「上下も横も勢力図もある、人の思惑なんて玉石混淆よりヒドい。そんな中でも団結はある。個人の貴族、又はその家を侮辱する事は可、貴族社会を貶す事は不可。この国を支えてきた自負があるからこそ、社会に対する貶めには一致団結して許さない。どんなに末端であろうとも、貴族の意匠を掲げ持つならそこは不可侵。他国の… そーだね、円卓の国辺りが何言っても実際遠吠えだし。遠吠えについては置いとくけど、君は円卓形式の国の出だ。この国の在り方に納得ができない事があるかも知れない」


 「皆無であるとは…  はぁ、言えませんがその〜   一致団結の具体性とは?」


 「もちろん、狩り出し。庇う者も基本同罪。話が正規の定型文で回ってきた場合、貴族家には出る義務がある。その時、居合わせたなら俺は出る」

 「…は」


 「この手も許し難いのに、ごめん。治せずに。この印の所為で嫌になってもココに留まるしかないとは思い込まなくて良い。 …………どうしてもこの国の在り方に馴染めない時には言って欲しい。他国で住める様に出来るだけは手を打つ」

 「は? へ?   え?   …何をゆーとるんじゃ、お前は」



 半眼でじと〜〜〜っと見てくる。おかしいな?



 「円卓は身分に対して文句を言う。担う役割に理解を示しても、納得しないのが多くて話が通じない。裏では羨望してるのかと疑った事もある」

 「は…   あ?」


 「……その感じだと円卓でもナニか違うのかな? 寛容に柔軟性があるとすごく嬉しい」

 「え、ええ? えーと」


 「俺も話し合いは常々大事だと思ってる、円卓形式を馬鹿にしない。それは以前も言ってる。でもさ、即断即決が最重要な時に延々延々纏まらずに時間ばかり取るやり方を耳目にするとどーしてもさー。


 最低の円卓より、最善を選ぶ一人。

 

 この方が対処はものすごく早いんだよねー。その一人(独裁)から絶対腐っていくに決まってるって意見の元に開かれた円卓だと言うけどねー、あははははははー。円卓に着く者が全て裏では腐ってるとかなるとさー、あはははは!」



 ちょっと本気で笑ったのは拙かったか?



 顔色を伺うが侮辱を受けた顔はしてない、怒るよりも反芻に比較を感じる。思考を纏めていそうだから待とうと思ったが、見えた手の甲に俺の思考が引っ張られる。


 静かに手を伸ばして、その手を取った。



 「んあ? どーし…  ど?」


 どーみても全く薄まらないのが腹立たしい。取り調べた奴らに抜きん出た才はなかった。特化した理論も構築の技術もない。それを考えると、どーしても納得ができん! できんが…  これが異なる事実の証明なのか…    あ〜、要らん証明だな。 そうか、この事についても言っておくか… しかし傷口を抉るよーな事になるな。あ〜あ〜あああああ〜〜〜。



 せめてもの慰めに…  擦っとこうか(マッサージ)



 「ええとね、この現状も。あ、手の状態ではなく。  俺は君に謝罪する、この手の現状を謝罪する。連絡を貰い、近くに居たのにと謝罪する。兄も領内の騒動であるから謝罪している、だろ?」

 「…はい、頂きましたよ。んだからメダルの件が」


 「うああ、そーでした。  ……あれも、ちょおっっっとまだ置いといて。 他領で似た事件に巻き込まれた場合、被害者でしかなかったのだと判明しても、その地の領主からの謝罪の確率は大変低いです。滅多にないと思って下さい。そこには自身の危機意識の低さが問題だとしている事が多いのです。被害者が同じ貴族で地位的な事が絡むと違いもしますが」


 「はい、ちょっと待った! 俺の場合は無理でしょー! ちゃんと危機意識ありました! あれでどーやって回避しろと!!」


 「それについては、人を見る目が無いと運が無いで終わるでしょう」

 「はうううううう!!」


 

 …片手は俺が両手で優しくサスサスしてるからできんが、もう片方を握り拳にして上下に振る。横への動きが前への突き出しになるのは遠慮したい。


 指先を軽く引っ張って伸ばす。指の長さに手のひらの大きさを再確認するが、本当に固くない手だ。この手が重労働と無縁である事だけは明白。



 「ごめん、これが君でなかったら俺も運が無いで終わらせると思う。兄さんも…  何らかの言葉は掛けても謝罪はしないはず」

 「…そーゆーもん?」


 「社会的にはそうなります」

 「じゃあ、ほんとに俺が駄目なのか…」


 「君の場合は違うよ。君は世界が違い、基礎が違う。国に依って違う事情も世界が同じなら情報として多少は入ってくる。意図した全体の閉鎖か、自分で閉じてなければ聞こえるはず。目的地に向かって行けば見えるもんだし。でも、君にソレはない。あった?」


 「来る前、ココは魔力有りとの情報と周囲に溶け込む為に服をですね… 」

 「…ああ、それ。判断がわかれもするけど良い判断だと思います。俺は話した通り召喚を志してました。だから、その知識に基づいて意見を述べます。喚んだモノを放り出す者は不適格です。俺はそう思います。喚んだモノが力強く理解力に高く従順であったとしても、この世界における安全を説明しないのは愚かの極みです」


 「はあ」


 「召喚獣でないけど、君の状況は同じだ。たま〜に居るんだよ、自分の力に酔いしれる馬鹿が。使い捨てにする感じもチラチラするのが、すごくムカつく。使えそうで、できそうだからと試す態度に腹が立つ!

 自身の安全を自分で図らないのは馬鹿だとか、危機意識が欠如しているのではできそーに見えても使えないからだとか、人が聞いて『それもそうだ』と答えそーな自分に都合の良い御託を本当にそれらしく並べるんだよ。ベラベラと…!


 喚んでるのはこっちなのに、なんだその頭の悪さはと思う。この阿呆と叫びたい! おまけに成功した後は個人能力の見極めとか、双方にとっての成長の為の過程だとかで放置入れやがるし! 見るに見兼ねて注意をすれば、成功しない僻に横取りでもしたいのかと下らん難癖付けやがってからに!」



 ギュッ!


 「みぎゃっ!」

 「あ、ごめん!」


 手のひらのちょっぴり強く押し揉んでしまったよーだ。反対の手に代えたもんだから、ついうっかり!  …うっかりを繰り返してるなあ〜  あっはっは。



 「あ〜 それでね〜  喚んだ側が、危機意識の欠如とか言い出して嗤って本気でどーすんだっての。そーゆーの聞くと、こいつは自分が可愛いだけ、自分が上だと踏ん反り返って好き放題したいだけの屑だとわかる。大体、召喚獣じゃなくてもだよ? 相手にそーゆー事を言うってのは、何かあった時、自分が責任を取りたくないんだよ。自分の責任じゃないって、先に逃げ道を確保しようとしてるだけのどーしよーもない滓だよ。


 こーゆー奴が実力のある見識者だって言ったら腹の底から大笑いするね! 実力で、『この地位に登り詰めたのだ!』とか言ったら、周囲がよっぽどの屑しか居なかったのかと叫ぶね! 力を持って生まれて他より強かった程度でしかない糞ガキがっ!て怒鳴るよ、俺は。


 その手のコトにだけは頭が回るとゆーか、小賢しさと底の浅さが目に付いてうんざり。俺自身、大した器でもないけどさ、器でない者が上なら腐るしかない。本当に貴族間の辺りの「み、ぎゃあああああああっ!!」  だーーーっ!」



 腕が動いた。

 手を振った、しかし振り払えなかった。それで頬を抓られたー。でも、手は離さなかったー。俺を見る目が何とも言えない半泣きー、ご〜〜〜め〜〜〜〜ん〜〜〜。

 


 「お前は俺の手をナンだと思ってるぅううう!」

 「ごめん、力加減は把握したから!」


 「ほんとか?ほんとか?ほんとかああああああっ!  テキトーなコト言ってねーかああああっ!」

 「ほんとほんと! 嘘じゃないない、だいじょーーーぶって!」


 に、にこ〜〜っと笑って手を離さない。


 「ん?」





 不意に掠めた。


 連絡が飛ぶ。

 先触れから始まる小さな音階。目を落とせば指輪が内で呼応している。


 …寄越さんで良いと言ったのに何を聞いてる、あの阿呆! アズサに魔力を当てたくないとゆーのに!! 俺が言った意味を技術問題に変換しやがったか、それとも嫌みか! あ・ん・の!!



 「うえええええっ! 何、何、何!?  ナニ、この緊急ジシン速報!! どこ、どこどこどこっ!? テロップ、テロップはーー!?  ああっ、映像どーこー! ドコで鳴ってえええ!     …って、あれ?  あれ?  あれぇえええ?」



 アズサが叫んだ。

 叫ぶ内容が非常に不明だった。でも、手は離さないー。









 「えー、何と言いますか…  一瞬でしたが、ペケペケペンッ!ペケペケペンッ!と向こうでの災害時に鳴る緊急警報が聞こえました。二度の警告音の後、一気に音量が下がりまして…   こ〜 小さくても繰り返す感じがこう〜〜〜」

 

 「……警報アラートが?」


 


 俺に向かって飛んだ連絡、重ね始めた力、繋いでた手、外した手袋、指輪の呼応。



 俺の中で、開花宣言が出た。




 素直に嬉しい。

 俺には単なる連絡でも、アズサに聞こえたのは警報音。この差異を探らねばと思う。意味の追求を怠ってはならないと思う。


 でも、その前に浸りたい。

 そうだ、今を浸ろう。馬鹿も許そう、半分は。



 やったぜぇええええ!!




 「へ?  どわっ!」

 「う、あああああーっ!」


 ボフッ



 「お、おもっ… !  おま、また!  おーしーつーぶーすー なぁあああああ!」




 

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