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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
120/239

120 大先生のお手当て

  


 「え? 何でしょーか?」


 きらりきらりと落ちますが…  カゴの上には落ちてこない。部屋の一角に光が降り注ぐ。


 起きて、カゴの縁に猫手を揃えて見てました。



 床に落ちた光は、光る波紋を生み出します。拡がって、綺麗な輪を描く。描かれる輪は一定の場所で止まって消えない。次から次へと生まれる波紋が形を留めた光の縁に到達する。


 光が寄せて寄せて寄せて、返しません。

 縁に当たる光の厚みがどんどこ増していきます。増したら今度は全体が、ズズズッと上へ盛り上がった。


 光の輪の中で、止まらない波紋がたぷんたぷんと揺れ動く。


 表面張力のお蔭だと思うのですが、光にそれを当て嵌めていーんでしょーか? …きっといーんでしょう、光の輪から溢れ出ないんですから。そして、ゆっくり光度が落ちていきました。そしたら、輪っか状のナニかは薄ぼんやりした感じになりまして、不透明なナンかになりました。



 まいるーむの一角に〜  淡い、あわ〜い光を湛えた輪っか出現しましたよ。



 あれは、一体ナンでしょう?













 「あ…   あああ! ひ、  ぃい!!」



 「ロイズ!?」

 「どうし…  っ!」



 光が煌めいたのに、全員でそちらを注視した。キラリキラリと光が零れるのに、「お出でになられそうだ、良かったな」と言ったのは本音だ。


 それが。



 出迎える時には立て、それまでは体力の保存に座っていろと言い付けた。

 そのロイズが両手で腹を押え、前屈みになって悲鳴を上げる。痛みを隠そうとしない顔と噛み締める口、見開く目、硬直と呼べる姿勢。激痛以外のナンでもない。


 腹を押える手の間から、赤黒いナニかの気配が立ち上る。漂う気配の赤黒さだけで〜〜  言っちゃ悪いが恐怖の対象だなあ。



 「い、一体!?  ハージェスト様!?」


 「…剥がれ、る?  剥ぐ? いや、分離か!?」

 「いかん、ロイズ! 腕を離せ!」


 「ロイズ、塞ぐな! 腹から手を離せ!離すんだ!!」


 「い、 いいい!」



 離せと叫んで手を伸ばす、手首を掴んで無理やり引っ張る。腹が痛いから押えるのは当然でも、腹を押えていればソレは取れんだろーが!



 「大人しくしろ!」

 「おい、お前も手伝え!」


 「は、直ちに!」

 「足を押えろ!」



 理性は残っていたらしく、床へ倒れず肩から寝台に倒れ込む、のを更に押しやる。 腹を抱えて丸くなるが、さっさとその手を離せってんだよ!


 掴んだ手首を引き上げ、頭の上へと持って行こうとするが体を捻って背を向けやがる。向く事で自由を取り戻そうと腕を振って…  この野郎、うつ伏せ寝から逃げようとするなとゆーに! 寝台で匍匐しよーとするな、ボケ!



 「ぎゃっ!」


 …だからな、腹にナニがあるだろーが? 普段通りにしよーと頑張るなよ。



 「に・い・さ・ん!」

 「ロイズ! 手間を掛けさせるな、仰臥せんか! 終わらんぞ!」


 「後、兄さんが押えてくれた…  ら、駄目か!  反発の方向が読めないからなー」

 「お〜、こいつはすごい。 まぁな、さすがにこの状態で俺がやるのは拙かろ」



 「いぃ!」

 「逃げるな、話を聞いてるか!? ああ!?   …ちっ、面倒い」


 「あ、あがっ」

 

 「そうよなあ…  おい」

 「は!」


 ギッ!


 痛みに震え、反射で逃げる暴れる体を握力と腕力を体重で抑え付けるが寝台が軋む。

 俺もあんな気配を放つ腹には触れたくない。体に乗り上げてできないのが手間だ、横から抑えるしかない。体勢が悪くて堪ったもんじゃねぇ。しかし、ロイズが半ば落ちてるのもわかる。普段なら、こうもあっさりできん。


 耳元で呻くのも聞きたくない、煩い。

 こーゆー時にできる奴なら、 …いや違うか? そーゆー事が好きな奴か?  …まぁ、どっちでもできる奴なら自分の口で塞いで黙らせるか、意識をそっちに逸らして気を紛らわせてやる高等に似て失敗もしそうな技を処置として駆使するんだよな。その際に役得と笑う奴も居る。 


 しかし、大丈夫だ。その手の必要性は認識している、わかってる。その上でお前に緊急性は認めん。誰がするか、兄さんにでも望めよ。



 「い、  ぃい!」


 グッ!


 仕方ないんで身を乗り出す。片手を放し、体重を遠慮なく肩に置いた肘に掛ける。顎を掴むのも面倒で、肘を基点に真っ直ぐ降ろして握った拳を喉に宛てがい横に押す。顎が上を向く。


 「かっ…」


 あー、煩かった。


 「お?」

 「…っが!」


 ロイズの頭が勝手に沈むから、拳が更に喉を潰すよーに沈んだ。視線を上げれば兄さんが、右手でロイズの腕を掴み、左手は広げて目元を覆って顔面から沈めてた。


 つくづく俺の兄だと思う。






 「構わん、放れ」

 「失礼を」



 寝台のどこかか再び、ギィと軋り鳴く。

 


 「ふっ! げ、かっ!」


 一時の足の自由に、まーたネバッてからに。反射が良いのも考えモノだな…   それにしても、ホント楽しくもない。どーせやるなら楽しくやりたい。  ああ、やるならお前じゃなくてだ。



 ……あ?  あのすいません、クロさん? 違います、違いますから勘違いしないで下さい! 今の方向性等色々違いますから!!





 パシッ!


 頭上での良い音が包帯の行く末を教え、意図的に意識を間近で感じる気配へ向ける。



 目をやれば、これはこれでまぁ楽しい。

 これには意図せずとも唇が吊り上がる。揺らめく赤黒い気配は濃密で、わかる力に喉が鳴る。胸元へと伸び、よく見える赤の先端には恐れ入る。


 そう、恐怖もあるが、それ以上にこの力を力で抑え込めたらと思う気持ちが強く膨らむ。膨らむ気持ちに戦意が笑い、高揚が寄ってくる。それに従い、押える手と腕に力が籠もる。


 「い!」




 どうしてだろうな?

 俺にコレをどうこうできるはずが無い。


 だが高揚が落ちん、捩じ伏せてやりたい。 この手で。




 

 そんな力は無いってのに。 







 「は、ひゅっ… 」



 近過ぎる息遣いの乱れが邪魔をする。ため息を殺して思考を終わらせ、力を気持ち弱める。




 ジャッ!


 締めの一裂き。


 纏め上げたロイズの両腕を片手で押え、括っていたのは終わってた。包帯の長さを残すのは良いが、そのままにしてどーするんだと思ったが理解した。


 確かに兄さんはそれでイケる、上手く手間を省くよなあ。



 「ハージェスト、こっちは良い。足を手伝ってやれ」

 「はい」



 「う、げへっ  げ、えっ」


 退けば咳き込む。こっちを向いた咳き込みにやり返しかと思う。



 「兄さん、それ下さい」

 「ひゅっ、ひゅっ…  はっ」


 軽い嘔吐きの後、忙しない息を繰り返すが舌を噛むより良いだろが?



 受け取った包帯の端を軽く片手に巻きながら、足元へ行く。


 大人しくなったと思う端から、触れた途端に足を振り上げ逃れようと頑張る。無駄な事をする。 …意識が半ば飛んでいても習い性でできる以上は有能か。活きが良いでも合ってるな。



 蹴ろうとする足が良い位置で助かる。

 腕と体で挟んで取り押さえ、グッと引き、足首に包帯を巻き付ける。聞こえる呻きは無視するに限る。縛り過ぎて血の流れを止めるとアレだから、安全策に踵まで巻いて締め方も気を付ける。


 

 「怪我は?」

 「掠めた程度、怪我の内にも入りません。それよりも」

 「ああ」

 


 身動ぎにギシギシと寝台が軋む。

 手に巻いていた包帯を解き、もう一方と共に縒り合せて寝台の足に縛り付ける。


 「い、あ、 がああっ!」

 「わかった、わかった」


 右へ左へ体を捻り、痛みを訴え、シーツに皺が寄る。

 しかし、俺は対応しない。兄さんに訴えてろ。残る足を抱えるレフティの体がぶれるから、早くしてやらんと。兄さんの手前、荒いやり方が取れんで頑張ってるからなー。アズサに荒いやり方取ったら俺がど突くけどな。


 

 「そっちも括るぞ」

 「は! 片足となれば楽なものです」


 「よし」

 「新しい包帯は、その右端にございます」


 「ああ、これだな」



 パンッ!


 包帯を軽く引き流し、一度両手で強く張り合う。実に良い音がしてやる気が出る。


 さて、縛ってやろう。

 






 ギ、チッ!


 固く結び終え、ロイズを括り付けてスッキリした。


 両足は開いて固定、両腕は上げた状態で一括り。腕を括った包帯の先端は兄さんが力を以て踏む以上、暴れた程度で、外れる・滑る・抜け落ちるなんてコトは皆無だから安心。


 なんだ。静かになったと思ったら、シーツを噛ませて貰ったのか。良かったな。




 「うーむ、つくづく見応えのある気配だ。 は〜〜〜 この手の気配を間近で目にする日が来ようとは…  思い掛けない事とはあるものよな」

 「そうですねー、こんなの何度も目にしたらやってられませんけどねー」


 「どうか、お待ちを」


 タオルを引っ掴み、触れない様に最大限の注意を払って体を拭う。職務に誠実であろうとする姿勢はぶれていない。うん、こいつで良いとした俺の判断は間違ってない。 


 拭く姿と共に観察。

 固定した体は、荒い鼻息で胸が膨らみ上下する。赤黒い気配は律動を刻む。それに合わせて腹に太腿、体全体がビクビク震える。


 脹ら脛に太腿をザッと拭き、胸元から脇の下、首の回り、最後に顔を拭って後ろに下がる。

 

 「お待たせ致しました」

 「ああ、助かる」


 しっかし、待っているのを否めない。絶対、こちらを見ている気がする。はぁ…   それでも見上げた光輝に対して締まらない顔はしないけどよ。



 「準備が整いました。お手数ですが取り除いてやって頂けませんか?  えー…  クロさん?」












 トテトテ トテテテ〜〜 とね!



 光の輪っかの縁へと行きまして〜 手を掛けて〜  伸〜〜〜〜びをしまして中をきょろり。


 ゆうらゆらしてます。

 淡く光ってますが…  はい、水に見えます。



 「ん〜〜?」


 トトトンッ!


 思い付いて猫足で床を連打。はい、ちっちゃいちっちゃい波紋が出ました。すぐ消えました。


 縁に手を掛けた状態で振り向いても、モードが変わったクロさんは居ません。ですが、よーくよーく考えても〜〜  俺に対する危険が潜むはずが無い!! 何故なら、ココはまいるーむ!





 チャポン…



 猫手を入れてみる。


 水と同じよーですが手が濡れません。いえ、濡れたよーにも見えますが零れて落ちるのは光なんです。にゃんぐるみの毛がべっちょりしないのが不思議。



 「うーむ、これを飲んでも無害だと思うが  うーん…  」


 上げた猫手を降ろして縁を掴み、もっかい覗くとそこには灰色がゆうらりと。はい、俺の猫顔が歪みながらも映ってますがあああああっ!? 


 なんか浮上してきたあ!!




 赤と黒がポツンポツンと現れまして、それがゆらゆらしてんです。  な!  こ、これはああああっ!!



 キンギョーーーーーー!? 












 「な… そうくるかあ!?」

 「う、わ!」


 「だ、大丈夫なのでしょうか!?」




 身を捩り、シーツを噛み締めるロイズの腹の気配が凝り、集約されて痣と呼べるモノに溶け込むのを見た。


 ミリッともミチッともつかない音が耳に響く。

 ロイズの体、胸の方に伸びた赤の先端が持ち上がる。持ち上がるに連れ、形が姿と移り行き、質を持つ。赤黒さはそのままに肉厚な蔦に成る、変貌する。


 蔦の先端には意志があるのか、右へ左へと揺れ動く…



 開いた口が塞がらんわ!!

 ナニかを探す感じで動いている! どー見ても周囲確認してっだろ!?  全力で引くわ!!   引かんけどよ!



 成り終えた後は傷跡も無いまともな皮膚だが…  だが、成ってない部分は影同様に皮膚にある。体から蔦が生えていると言って過言では無い! 事実、そうなってココにある!  すげーもんを見ている実感はある。




 「ロ、ロイズ…  気を保て! 一部が実体化したが… (おそらく)離れようとしている、(きっと)もう少しの辛抱だ!」


 「あ… そ、そうです! 気をしっかり持って下さい!(失った方が… いや、わからない!) 終われば楽になると思えます!!」

 

 「形として掴めるなら引けるか? しかし、途中で切れん保証はないと。 うーーーーむ…  俺が手を出すと大事にしかならんような」












 赤と黒のキンギョーーーーーー!!



 「うりゃあ!」


 猫手を光の水に突っ込んで、ばっしゃーーーーん!  



  ひゅーーーう 


           ぽちゃっ


 



 「にゃ…  にゃはははは!  赤金魚、一匹ゲットー!」



 ちび猫の本能、金魚掬いを甘く見て貰っては困ります! にゃ〜はっはっは〜い!!



 …掬った金魚の行く末はわかりません。水を張った器なんか持ってません。さっきgetした赤金魚は空中を華麗に泳いで床ぽちゃしたんです。


 床ぽちゃした後は下へ潜ったのか、見えなくなった。どこへ行ったんでしょーね?



 ……赤と黒の姿が、ちび猫を誘っています。光水面下でひらりひらりと優雅に広がる背鰭、尾鰭、その他の魅惑に抗えない。しかも赤と黒、どっちもキラキラしてんです。キラキラの属性付きです! 



 何てぇ、誘 惑テンプテーション



 にゃーん! 全部、掬ってみせるぅうう!!












 「…え? うあ、ちょっ!  クロさん、あのほんとに取って頂けるのでしょうか!?」



 見上げる光は衰えない。

 しかし、姿は現れない。しかもアズサも帰ってこないーーっ!



 一部実体化した蔦がシュルリと伸びて、ロイズの首に巻き付いた。絞め上げる。



 「…!  は、あっ   げ、が!」




 体は固定して動けない。喉が上へと引かれるから顎が出る。そっから、げほごほ言う。締め上げる蔦は腹に繋がる。もしも実体化してる部分を断ち切ったとしても〜〜   残った根元から新しく生え、急速に伸びそうな気がする。大いにする。その時はこっちにも被害が及ぶとしか思えん!!  寄生か? 寄生で済むのか、これはあ!?



 「に! にいさっ……   落ち着いてますね」

 「ん〜〜〜〜〜   いや、これの方向性がなあ」

 「は?」


 「も、申し上げます! このままでは気道が! いけませんっ、死にます!せめて!」


 「あ、待て!」



 まともに手を出した、驚いた。

 いや、出そうとしたのはロイズの体にだが。  …本当に良い性格だ。だから、俺も良いとしてだ。しかし、待たんかい。



 「くっ!  こ、の!」

 「あああ!」



 ズッ… 

       ドタッ!


 「…つ!」



 あ〜…   頑張りは認めるがそこじゃあな。 尻、打ったな。  


 兄さんが居るのは頭の方。俺は寝台の右。左に居るお前を掴んで止める事はできん。止まらないなら、そーなる。危険を察しても行動するお前は本当に良いんだが…


 近づき手を出そうとした事で、ロイズの腹からもう一本実体化して伸びた。左手首に巻き付いた。外そうと咄嗟に右手で蔦を握り締めたが最後、交差状態になった手にあっさり巻き付き纏めて一括り。行動をあっさり阻害してみせた。


 あんまりの事に、こいつは馬鹿だったかと思った。



 「くっ!」

 「……っ!」


 立ち上がろうとしたその行動に、蔦は伸びなかった。衝撃は全部ロイズに回った。


 「動くな!」

 「ロイズの腹が裂ける!」


 「は…  はっ!」



 あー、心臓がやられる。

 効率の良さに感心する、これは見習うべきだ。しかし、第二号にならんよーで良かった。



 「邪魔だと判断されなければ大丈夫だ。  …きっとな」

 「は… い」



 適当な慰めを口にする内にも、実体化したロイズを絞め上げる蔦は根元で分裂した。いや、分裂ではなく芽を出したなのか? 急速に形を整え、二本になる。最初からそうあった様にも見える…




 ベシッ!  ベシッ!  ベシッ!



 それがロイズをシバいた。


 振り上がる蔦に距離を〜 一歩二歩三歩。蔦が伸びれば当たる、下がっても無駄とは思うが撓る良い音に足が下がる。俺とは違って兄さんは下がらない。いや、軸足移動で一歩後退か?


 姿勢を見習い、それ以上は動かず静観する。



 実体化しなかった残りは体を這っていた。真実、皮膚を這う。腰や足へ赤が伸びていく。太く伸びて細く縮む。脈動と律動とーー   ああ、鼓動でなし、表皮下でなし。脈動とは意味が違うかと考え流すが〜〜 肉を巻き込めば表皮下か? 同一化はしてないよーだが…



 胸を這う赤が首を通り、ロイズの喉を震わせる。向きを変えたのが心臓狙いだと思う。実体化した分も最初から心臓を狙う位置に先端を向けていたが、今度は首を這っただけに危ない。



 汗が吹き出す体は強張りが見て取れる。

 収縮を繰り返して突き進む様に目眩がするが、目を逸らしてはならんはずだと見続ける。んだが、まぁ意図が読み切れないのはキツい。




 ベシッ! ベシッ! ベシッ!


 何より現状はまだシバいてる。シバく捌きに乱れがない。その上、三度に一度は後ろに飛ぶ。体の上下を満遍なく…  ああ、鞭打ってんなぁ。



 打たれた場所は普通に赤くなった。あの赤さが表面だけである事を願うが無理な気がする。流血までイってないのが手心なんだろうか? これも上手だと見習うべきか…



 ベシッ!!



 一際強くやったのを最後に、体を這っていた赤が止まった。それが今度は腹へと這い戻っていく。一度進んだ跡をなぞり戻る。ズリズリ退く様が何とも言えん…


 絞め上げていた蔦が離れれば、喉に赤い輪が見えた。シバいてた蔦と寄り合わさって一本になり細く捩れて縮んでいく。もう一本もあっさり投げ捨てる様に拘束を解いて縮んで、これまた腹へと沈んでいく。沈んで腹へと戻っていく。


 …ちょっと待てぇ! 戻ってどーする!? 枯れないのか!?   …そりゃまあ、植物じゃないけどな。



 凝視する内に、赤黒さは急速に薄れていった。そうなると今度はシバかれた方の赤さが目立つ。無傷な腹回りだけが妙に浮いて綺麗だ。


 


 「あの…  クロさん。薄れましたし、小さくなりましたが…  完全には消えておりません。 これはどう」



 煌めきに目を転じれば、光度が落ちてた。すっかり落ちてた。



 「まさか、これで終わったのか?」

 「終わった… みたいな」



 顔を見合せ、腹を見る。


 「色としては薄い、形も小さい」

 「はい、確かに。でも、残って…  ます、よねぇ?」



 弱く細い呼吸をし、力尽きて弛緩したロイズの口から咥えるシーツを引いてやる。 …やろうとしたが噛み締めて抜けん。仕方ないから顎に手を掛け、引き抜く。


 「…っ は」



 ぐったりしたのに成りもすると思う。


 この手の痛みを快楽に切り替える奴も居るが… そんな程度、簡単に潰せるっての。快楽に思えるのは、ある種の条件が整ってるからだろ?  己の命と体を粗末に取り扱ってくれて有り難う、なんぞと本気で思う奴が居るかよ。自殺願望籠もってんのか?


 痛みの快楽は逃げの手段、生きている確証に感覚、そこからの興奮に   …ああ、  まぁな。 快楽にも快感にもならんでも抉り続けるってのはあるな。忘れない、掏り替え(身喰い)はあるな。




 「兄さん、静観の真意は?」

 「ん? あ〜、まぁ殺しはないと踏んでな。懲罰であるなら受けねば終わらん。腹であって、心臓でない事が配慮だろ。あれなら始めから心臓に陣取るのが早い。にも拘らず、せなんだからな」



 平常と変わらないその境地に俺は辿り着けるのかと不安になるが…  ならなくてもいーよーな。一部については、俺も平常で居られるし。 しかし、懲罰か…  思考での懲罰は勘弁して欲しい。されたら、俺は何回シバかれるんだ? 自分の愚考を思い返すと考えたくない。


 ああ、うん。そうだ。

 独り善がりの考えは駄目だ。君が怒るかも、なんて予想が立ってる方法を推し進めてどーするよ。そんな馬鹿丸出しのやり方なんてガキのガキの糞ガキだろ。


 もっとよく頭を回せと、でない終わって当然だと、そう通告されたんだよな?  は、あははははー。



 力に行動が伴うのは怖い。

 君が怒らなくても、クロさんは怒るんだろうか? うはー、やられんな。 これは一体、ナンの罠なんだ? 俺の心を上げて落としてるだろ? あの銀環、どー使えと言ってんだ?


 女神も何も、あ〜〜!  全てで、こっちを指差して笑ってんじゃねーのかあ!? ああっ!?




 あー あー あー あ〜〜〜あ、怖いモンがさー  ヨッテ タカッテ、   あ?   毛布、 に  君のお守り、は……    あ〜も〜〜  煮詰まるっての!!



 アーズーサ〜  たーすけてえ?













 


 ぱしゃん、ぴしゃん。   ちゃぽん!


 びしゃっ!    ばちゃ!


 ばしゃっ!




 「うにゃーん! これでどうだ!」



 小さな光の輪の縁をしゅたたっと走って反対に回り、サッと顔を覗かせ手を突っ込んで、そーれいっ!



 じゃぼっ!

   びしゃっ!!



 突っ込み煌めきが飛び散る… んだが、最後の黒金魚は難敵だった…  うにゃあ!


 

 最後の一匹がどーしても掬えません! この中はそんなに深くないでしょう。だから、この中に飛び込んでも問題はない。猫泳ぎもできる!  しかし、それは違う。金魚をぱっくんちょするのではなく、金魚掬いをするのだああああ!!

 


 俺は絶対に、ぜ・ん・ぶ!   すくってみせるぅううううう!!





 跳び乗った光の縁に腰掛けて、光の水の中を眺める。



 つつつい〜〜〜〜っ


 黒金魚が泳いでいきます。

 恨めしげ〜に見ていたら、映る自分の顔にも気が付いた。

 


 ………何という事でしょう!


 このラブリーキャッツが! ラブリーとは遠い顔をしているのではありませんか!? 精悍さならまだしもナニこの、か・おーーーーー!



 ぶるるるっっ



 大きく顔を振って体も振る。


 「うひぃ!」


 片足、ずべっと転けかけた。

 慌てて両手で縁に掻き付き、尻尾バランス取って体勢を戻す。よいよいとバランスを更に取りつつ、落ちない様に気を付けながら縁で向きを整えます。 ……どーするんでしょう、自分。背を向けてしまいましたよ。


 ですが縁から降りないのが、ちび猫の高い高いプライドなのです! にゃはん。




 「ん?」


 尻尾の先がつんつくつん?


 振り向けば、光の中に沈んだ尻尾に黒金魚がーーーーーーー!   濡れた感触ないから、わかんなかったよーーーーーーー!!





 「てぇいっ!」


 尻尾に全神経と力を注いで振り上げる(金魚釣り)!!



 ひゅーーーーーう   


            ぽちゃっ!



 黒金魚が宙を舞った。床ぽちゃした。

 覗いた光の水の中に影は見えない。赤も黒も見えない。



 「あ、う。 う、う、うにゃっほ〜〜〜い!  金魚掬い、かん、りょうーーーー!」



 喜びの余り、縁から両手を広げて華麗なにゃん飛びした。



 「にゃーんくるっと、にゃーんくるっと。にゃんにゃんにゃんにゃん!」



 着地して、その場で猫ぐるぐるの猫踊りを初披露した。らぁ、ぱああっと輪っか全体が光ったんでビックリしました。



 ぷしゃーーーーっっ



 真ん中が盛り上がったと思ったら、噴水です! 光り輝く噴水の出現です!!



 キラキラ… 

  キラキラ キララ…



 俺の上にも煌めきが降ってくる。セイルさんの時には触れられなかったよーうなキラキラです。綺麗です。紙吹雪よりスターダストより、生はきれいでーーーーすっ!


 小さな小さな光の音も聞こえます。

 まるで俺の金魚掬い&一本釣りの達成を祝ってくれているかのよーです!



 んでも、直ぐに勢いは弱まりました。しゅるしゅると高さはなくなり、今は可愛らしいちっちゃい子供向けな噴水となってます。ちび猫モードではそれでも立派なのですけど。 


 「ん?  あれ」



 達成祝いに酔いしれる視界に影を感じた、ら。


   

 ぱしゃん!



 背後からこれまた突然の強襲音!! 負けません、素早く猫伏せです!



 ぱちゃん、ぱちゃん! じゃぼっ!!



 「ううう、なーーーーーー!!」


 赤と黒のキラキラ金魚が床から跳ねて、登り竜ーーーーーー!!  あ、竜に成るのは鯉か。あれでも金魚って、鯉の親戚みたいなもんじゃね?



 その後も数匹が跳ねて噴水の中へ、ちゃっぽん!しました。







 「えー、赤が一匹〜。 黒が一匹〜」


 縁に跳び乗り、尻尾を揺らしながら数えます。 ……多分、掬った数だけ全部いると思います。


 ちび猫の大きさに合わせたと思える、小さな… えー、池? 噴水付き。その中を泳ぐ赤と黒のキラキラ金魚達。


 …違う、池じゃない! これはエアーポンプ付き金魚鉢! ちび猫専用、鑑賞魚!!   …楽しく遊びましたが観賞用でしょう。




 キラキラ金魚ズを見ていると嬉しくなります。命の煌めきのよーに見えます。

 ……そうですねぇ、他の生き物に比べたら、この金魚達は小さくて重さで言えば軽いでしょう。でも綺麗な命の煌めきは生きているから重いでしょう。


 これは俺の為に作成してくれたんでしょーか? 最初から構えてくれていたのでしょーか?  どっちでも出してくれたのはクロさんですね。





 トン。トッテトッテトッテッテ〜。


 カゴへ、ぽんっ!


 

 「クロさん、有り難う。クロさんがそのままなのは俺が危険な状態ではないからですか?」


 返事は無い。

 でも、無くても良い。


 マスコット・クロさんに寄り添って優しい気持ちと感傷に浸る。



 「ん?」


 あれ? あの時、直ぐにコロリされたのに、何で今はコロリされないんだ?



 居住まいを正して、マスコット・クロさんと向き合う。

 あの時と今を脳内比較で見当してみる。


 屋外と室内と。知らない場所と安全な家の中と。


 にゃんと閃いた!

 怒れるリリーさんのパチパチモードに、セイルさんは結界がどーと! 現在進行形のはずだ!  隔絶された安全が保証されてるからでは!?



 自画自賛した。あったま、回ってる〜う。





 「クロさん、今日はこれで着替えて出ます。 …金魚は一匹ずつしか掬えませんでした。二匹纏めて掬おうとしても、この手には余るんです。この猫手に二匹はどーやってもスカって無理です。素早い所為もあるだろーけど。


 でも、これって同じよーな事だよね。


 クロさんにも言い分はあるだろうし。だから、してくれたんだろうし。俺の為って言うのは簡単だけど、それじゃあ馬鹿でしょ。 モードが移行しない理由。  怒ってるなら、ヤだよね。  ん、ロイズさんの方は考えてみる」




 カゴからぴょん!


 心を静めて、意識を切り替える。

 できるんですから。


 はい、着替えましょう!




 全てに置いて晴れやかではありません。解決しなかった、自分で選択した事への不安はあります。俺は良しとしても、ロイズさんにとっては良いはずありません。 ……遊んでたし。でも、クロさん大事でクロさんに心があるって思えた事はすっごい収穫です。 きっと、そーです。設定だと思いたくないです!


 便利道具ではありません!ロボットではありません! 抱き締めたらすっごく落ち着く俺のマスコット・クロさんです!! 



 金魚は…   よしよしをしてくれた、んだよね〜  ね? クロさん。








 「ごめん、お待たせ」



 …………は?   あああああ、あの! ロイズさんが怖い状態になってんのはどーしてでしょうか!? なんでベッドに縛られてんの?  え? なにそのお体。   


 こっこっこっこっ…  こけこっこ! じゃない!



 怖過ぎです!!
















 本日のちび猫遊び。


 『高い高い』

 上に高く放り投げて遊ぼう。


 周囲認識、角度調整、目測、捕捉、跳躍、遊び心のレベルアップに繋がります。




 『金魚掬い』

 金魚を上手に掬って遊ぼう。


 予測、瞬発力、本能、真剣、野生化、到達の境地、遊び心のレベルアップに繋がります。


 

 

 『ダンスダンスダンス』

 踊って遊ぼう。自分の尻尾を追い掛けても楽しいよ。


 体力、跳躍、平衡感覚、柔軟、可愛らしさ、遊び心のレベルアップに繋がります。





 本日、番猫の存在により心の幅を広げる事に成功。


 精神安定力アップ。追求力ダウン。他、トータルアップ。

 new!甘え方。 甘噛みカミカミを完璧に体得。






 

…うーん、総数量は25.5。今回は三分割で良しと!

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