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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
116/239

116 ココロの内

  

 あーたらしーい、あーさがくる〜。 じて〜ん しぃてぇ ぐーるぐるぅ〜♪




 ……いえ、別にね? こんなん考えながら起きるタイプではありません。ええ、ほんとに違います。


 単に目が覚めたら隣で寝てる奴が普段より、やあ〜〜〜〜けに近かったんで驚きまして。驚きにカッチンしたのーみそが、お日様の輝きに解凍されて『朝だ』と告げた。んだから、『朝、朝、あーさ〜』と繰り返したらこんなん歌えたー みたいな?


 まだまだすっかーと隣は寝てます。

 すかすか寝てますので、俺も寝直し申請出してもよろしいでしょうか?   ……うーむ、申請先ないな。そんでもって人様のお手を煩わせるのは〜〜 よろしくないでしょー。お出ましは、ねぇ? あっはー。



 

 起こさないよ〜うに首だけ回せば、病人用テーブルが見えた。



 昨日ハージェストが出てった後、寝入り端に音がした。ガリガリしてガッチャして、アーティスご機嫌っぽく入ってきた。ストップ鼻確認無し! 実に良し。



 「アーティ〜〜〜ス」

 「キュ〜〜〜ウ」


 これにも起きずに手を伸ばし、頭を撫でる。アーティスでかいから難なくできる。フンフンの鼻息が顔面に当たる。



 「ブシュッ!」


 あんまり近いんで、くしゃみが出た。そして、ドアが開いているのを見た。アーティスはドアを閉めない。閉めに行くかと思うが布団から出たくなーい。


 「アーティス〜、あのドアをガッチャンしてきて〜〜」


 無駄、と思いつつ言ってみた。



 ガッチャン!



 「え、まじ!? アーティス、賢い!!」

 「ワフッ!」



 俺が指差す方を見て、首を傾げる。ぐるっと反転して、トトトッと行った。体でヘイッとドンをして、ガッチャンした。こっちを見る目は、これで良い?と聞いていた。誉め言葉に軽快な足取りでベッドの脇に帰還する。ドアの構造上の勝利もあるが、ハージェストが育てたアーティスはめっちゃ賢かった… !


 「偉い!」


 グリグリグリグリ頭撫でて誉めた。誉めた、誉めた、誉めた。めっちゃ誉めた、起きんつもりだったけど起きて誉めた。


 それからナチュラルにベッドにゴロン。アーティスは床でゴロン。

 床での望まない動けないごろ寝は、カーペットが敷かれてても寒かったです。アーティスに悪い気もするが、抜け毛の掃除は大変だから床に居てくれ。


 ベッドからちょい腕を伸ばした状態、アーティスの鼻が当たったり離れたりするのを感じてる内に寝たっぽい。





 晩ご飯がきたのです。



 「ひゃああん!」

 「…ほわっ!?」


 うつらうつらではなく、すかーっと寝ていたのでノックに気付かなかった。ので、ヘレンさんの声で飛び起きました。某パターンは踏襲済み。なので慎重にドアを開け、入り口でご挨拶に頭を下げて上げたら目の前にアーティス居て大変驚かれたらしいのですな、これが。


 現状、そう見える。

 目を大きく開いてパクパクの口を引き結ぼうと頑張ってるヘレンさんのお顔が可哀想でも愉快な福笑いに似てる。



 助けねばと思うが、まず手袋!   したんですがあ〜 効果の程がさっぱりなんで申し訳ないが動きません。


 「アーティス!」


 こっちこっちと呼び戻し、ご飯を構えて貰います。



 「ご指示がありましたので!」

 「え?」



 どこかドッキドキされてるヘレンさんが、病人用テーブルを設置して、ベッドの上に晩ご飯をセットしてくれました。近い姿にこっちもドキドキします。


 だってほら! 病人と看護メイドさんパターン!!


 ちょっとだけ楽しい脳内展開してもいーよね〜。職業意識が高いヘレンさんには好感持ってるし、えへ。



 手袋した手は見せびらかさず、さりげなぁ〜く自分の手を重ねる事でガードしてますが〜〜  アーティスが居るんで間違いは起きなさそうです。


 すこーしだけ離れてヘレンさんを監視… じゃない。えー…  監督。そう、監督してる! 犬でも、きっとあれは監督! ワゴンから料理の皿をテーブルへとセットする度にアーティスと目が合うよーで… 瞬間的に動作が固まるか、ぎこちなくなるんですよねー。


 俺の呼び掛けでベッド脇に帰還したアーティスは、自発的に離れました。場所空けです。そこから、ずーーーーーーーっとヘレンさんを見てます。俺が言うのもナンですが、犬が放つ眼光としては…  えー 大変素晴らしい威力だと思われます。目付き違います。そんで、あの距離間は一気に飛び掛かるのに良さげな感じが…  致します、はい。


 一挙手一投足を見るとは、あの態度を指すのだと知りました。



 「本日のご夕食は、これで全てとなります」

 「はい、御馳走になります」



 ご飯のセットが終われば、一礼をされて下がられます。引き止めたい気が大変するんですが、可哀想な気もするんで止めときます。


 並んだご飯を見て、ヘレンさんを見送った後ベッド脇に戻ってきたアーティス見て。


 護衛として、「アーティスは最適だ」と言ってたのを理解した。見て、わかりました。これで、そーゆー態度を取ってはいけませんと叱ると混乱するんだろう。犬だから、わからない。それは嘘だ。ま〜… 頭の善し悪しにその他は犬種で違うとゆーが。こうあってくれと教え育てられてる犬に、それはやり過ぎ限度考えろって叱るのは〜〜 


 まぁね、その行動で助けられた人間が考え無しに言う事じゃねぇな。

 




 「アーティス、ありがとな」

 「キュッ」


 あ〜、この鼻声 か・わ・え・え〜〜! ボディーとのギャップにヤられる!


 

 脂の滴る肉はなかったが、パンは食うだろと千切ってやった。ペロッと食った。俺が食い終わるまでお座りしてます。ちょろちょろ目を合わせて、もぐもぐ食べながらすこーしやる。ハージェスト居ないからやる。アーティスのキラキラ目、ほーんと可愛い〜。


 だが、食べ物がなくなったのを見てとるとテラスの方を向いた。グリッと向いた。


 そう、アーティスは自分の晩ご飯を食べていない。中途半端に食べたのが腹を刺激したんだろう。では、ガッチャできるから自分で好きに行くが良い〜としてはならん。無精してはならーん! アーティスとの好感度upの上積みをするのだ!



 ガチャ…


 「ん、遅くなってごめんな。ご飯貰っておいで〜」

 「オンッ!」


 食いっ逸れてない事を祈りつつ、夕暮れを過ぎちゃってる中を駆けてくアーティスを見送る。ドアを閉め、ごちした食器をワゴンに乗せて出す。寝る準備にごそごそした後、寝た。それが昨日の全てでした。


 本当にアーティスは賢い犬です。一緒に散歩に行く日が楽しみです。






 ……俺がここまで回想したとゆーのに、隣は起きません。まだ寝ています。


 見ていれば、ナニかが閃く。


 これは天啓なのでしょうか?



 ゆっくりと起きます。

 手をわきわきさせます。安全を考え、寝る前に外したので手袋はしていません。



 うつ伏せ寝の横顔、どーもまた寝間着の上を着ていない。ふふふ、都合が良い。



 勢いよく布団を剥ぐ! 即座にその背に跨がる! 足で腹を抑える! 両手を脇腹(脇の下)にセットして、思いっきりくすぐ(引き上げ)る!!



 「うりゃ!」



 ペッ 


  バサッ!  ドッ!


 



 「うわあっ!」

 「… 」


 「み、ぎゃっ!」

 「…ぁ?」



 「うえっ げほっ  えっ、えっ」

 「… 」


 「うーえーえー…… 」

 「え… ?」




 下から上を眺めます。俺に乗っかる奴を眺めます。腹、足でがっちり挟まれ逃げれません。俺がしようと思ってたのにぃいい!



 「えーん、えーん。  うええええーん」

 「ええっ!?」



 ………いえね? 上掛け剥いで跨がったトコまではイケました。俺の勝利です。ですが腕立て伏せの要領で、ソッコー起きやがりました。上に乗ってた俺はバランスが崩れ、まんま上半身がハージェストの背中へと倒れました。しかし、ハージェストは残念な事に押し潰れませんでした。…潰す気もありませんでしたが。


 そして、ベッドの上だとゆーのに!


 こいつは片腕を振り上げ片腕を主軸として体を捻り、上下を逆転させる形で俺を転がし俺の上を転がりぃい!! 振り上げた手で俺の腕を引っ掴み引っ張り、俺の上に乗ってぇえ前のめりに体重を掛けるなぁああ!! 


 攻守を完全逆転させやがりました。


 胸の上に広げた手をグッ!なんです。一瞬、呼吸が苦しくて… げぼです。肺が潰れるかと。それでもセーブ掛かってたみたいで助かりました。


 ハージェストに乗られて押し潰される。重い。  ……なんて酷い! 普通、泣き真似で終わらないぞ!?  後、それ以上こっちに倒れてくんな。





 「あ、あれ?  お、俺…  寝惚けた?」

 「ひど、げほっ…  起こそうとしただけなのに〜〜」


 「え、あれ…  でも、あれ… 俺そんな?あれ?   いや、そんなのは後か!   ごめんよ、ほんとごめん!」

 「もー イヤだ。お前、一人で寝ろよ。あっち行けー。  早よ、どけえ〜〜」


 「ええっ!? あ、ごめん。  ちょっ…  ちょっと待つ!」




 朝からもうほんとに大変愉快な起き方です。


 「えー、待ったあ。ね、こっち向く〜〜」



 向きません。ごろーんと側転、背を向けました。 …怖かったのではありません。違います、違います。ちが。 …多少、ヤバいマズいしまったとは思いました。この延長線上に『怖い』が存在しているのだろーと思っとります。ちび猫、ぶるぶるで逃げた時の事を不意に思い出しました。


 あー、嫌ですね。



 「俺は  ………(愉快な)目覚ましを しよーと思っただけで」

 「うん、だからごめんよ」



 遊ぼうとして失敗しました。寝ている奴に、してはいけなかった項目を把握してなかった俺のミスです。ミスですが! そーゆーのを把握する過程はどこだ!何時だ!! どーゆー時だ!


 今でしょ? それ以外ないでしょー!?



 うう、不貞腐れにゃんこのよーにゴロンとして居たいんです。ですが、猫ではないので起きますか。朝ご飯です、起きましょう。着替えましょう、そーしましょう。


 起きてそっち向くからしつこく体揺するの、や〜〜〜めれぇえ。



 「おはよ」

 「あ、おはよう」



 笑顔でスマート。スマートスマイル。










 朝のお食事、一二三。


 今朝は問題なくテーブル席で食べます。

 俺が好きだと言った豆のスープがあります。美味しそうです。他のおかずも美味しそうですが、デザートの黒ゼリー様がぷるえておいでです。



 「これ」

 「昨日の夕食にも出そうかと迷ったけどね? 意識のある時にこそ食べさせるべきかと」


 「…妙に酷くない?」

 「そ? あった方が良かった? 食べた?」


 「…ふはは、食べたかどーだか知らないねー」


 もし、味見と称してアーティスにやったら〜   嫌われたかな?




 黒ゼリーから頂きます。

 ゼリーで窒息死は嫌なんで、もごっとすれば味蕾を刺激する…! 神速で食う!  脅威のブツに順番なんてどーでもいーよ! ちゃんと食ったらそれで良い、薬の効能の最大限の発揮とか右左! そこ、笑わない!


 豆スープさん、素敵。はぁ〜。



 「そうだ。ロイズさん、どーなった?」

 「朝一で連絡なし、現状変わってないと思うよ」


 「そ、 れだけ?」

 「今朝は医務官が診る段取りしてる。昼にでも、一度見てやってくれる?」


 「…まぁ、俺が見たからどーにかなるかとゆーとどーにもならんよーなあ〜〜」

 「どーにかなったら儲け物」


 「……わぉ、そだな」

 「よろしく。それより、ほら。これ美味しいよ、食べよ」

 「あ、食べる。そのソースなに?」


 朝の食事をしっかり摂って、する事しましょう。ご馳走様しましたら、料理長さんへの感想文も。

 

 

 






 「じゃあ、手袋を」


 「よし、そこから!」

 「そう、ここから!」



 二人で深く頷き合い、向かい合わせに椅子を置いて座る。ベッドでやろうかと思ったが、朝一ピシッの気分を落としたくないんで椅子でやる。



 目を閉じ、手袋に力を浸透させてくれてます。一回ぽっきりの浸透では完成致しません。しかし、やっぱり視覚的にはわからない。

 

 教えてくれた純化の力。散る現実。


 純化は言葉通り、突き詰めたモノだと思う。組まれる前、変換される前の純粋な力は綺麗だと思う。見てみたいと思うが、それが電気に該当するなら火花か数値じゃないと〜〜 見えなくね? 明かりがついた、TVが見える。それは組まれた中を通電したからだろ。


 でも、俺は魔質に型を思い、型を血と考えた。そっちを考えた。


 ハージェストがしている行為は、自分の命を、命の雫を浸透させているとも言える。大げさかもしれない。 …この例え、正しくても正しくなくても。負担と語る程のモノでなかったとしても。



 金とブツで〜〜 ずうっと〜〜 命を〜〜 売ってぇくれますか〜〜〜ああ〜〜  っと。奴隷買って搾り取る? わぁお、見事なあっくやく〜う。尊厳なんてどーでもいーってヤツだよね。それとも、そう仕向けてみせる? うわぁお。

 


 命の水を分けて貰う行為です。

 口にするのは易しいですが、献血に利害得失はないですよねー。 ……耳にした向こうのゾーキテイキョー海外編とか右左、リアル過去にあったらしい売血ってのも〜〜 右左にしとこう。


 きっと俺の手は、ハージェストの力に染まって下の要らんのを隠す事でしょう。そーでしょう!



 「触れてもへーき?」

 「もちろん」



 恐る恐るとは言いませんが…  ゆっくり、静かに自分の手を重ねる。


 目を閉じる。

 ハージェストの手の温度。それ以外にナンかこう…  あったかいよーうな、ないよーな? 目を開けても不明。ううむ、何時かどの様な形でも見える事を希望します。


 だから、早く纏おう。




 「これで嵌めて」

 「ん。 あ、体へーき?」


 して貰ったのを装着します。変わらずぴったりイイ感じ。

 そんで、手袋した手を取られる。俺の手を両手で包んで、もう一回。

 


 「様子見の少しずつ、負担と呼ぶ割合じゃないよ」

 「そか、ありがと」


 今日は、やり方が一歩前進したよーです。

 医者が患部を見るのと同じ感じでやってくれてますが、医者ではないのでお医者さんごっこでしょーか?   …ぬぅ、言い方失敗。



 少ないと言い切ったのに負担じゃないと笑う。それを心に留めて、さらっと告げる。


 「昨日言いそびれたってゆーかぁあ〜 まだ見せてないブツあったりする」

 「はぁ!?」


 口元が引き上がるハージェストに、えへらっと笑う。だってなー。



 「…まだあるんだ」

 「個人的な使用品で人にやる気本当になし。お前にだけ話せばいーかなって」


 「あ、じゃあ良いよ」

 「へ? ほんとにあっさり言うな。  まぁ、リュックにあるから見ようと思えば」


 「いや、良い。使う時に教えてくれたら」

 「何時使うかわからんのだけど?」


 「見せる事に拒否はしない。なら、その時で」

 「…そっか」


 

 相手に有言実行をみたので、ポーチを同じにする事で、俺も有言実行しておきました。そーゆー行為をしたんで、あっちも聞いて終わらせます。





 「あ〜〜のさ」

 「ん?」


 魔力補充でぺっかりーん、あれ実際どーやんの?ってなお話を。

 

 「ああ、それ。補充は指向性を定めた垂れ流し、魔力保持者なら大抵はできる」



 説明の仕方、セイルさんとどっか被る。さすが兄弟。






 えー、補充とは式で流す事だそうです。術と式は別物との事です。


 おそらくを纏めると〜 式ってのは、指向性あっちと定める事。なので、脳内反芻イメトレ有効。んで、術は何をどうしたいかを具現化する手段。




 どれだけ式を理解しても、術を当て嵌めれないなら構築できない = 公式に数字を嵌め込まないなら、計算にならない


 発現しない = 答えでない




 そーゆー事じゃねーかと理解しましたが…  おにいさんのお話を聞いてきた所為ですかね? そっちに頭が流れるのは。此処はそーゆー感じのよーです、イメトレだけでできる世界が羨まし〜い。 ……パッケージは絵、中に詰まってんのは数字とか計算式とか〜 プログラムですよねー。




 「指向性ないから直ぐに散る。だから、定律に従って」


 復習を兼ねた説明から、他にも言い方を簡略する事を聞いた。


 「厳密には違う。違うけど、現実にできれば式と言おうが術と呼ぼうが名称に拘る必要はない。拘るのは学問として捉える人達が多い。俺は… ほんとブツブツ言いながらやってたから、あは。でも、それでこうやって君に説明ができてる」



 正しく意味から成り立つ言葉。でも、そーゆーの知らなくってもできるってもんです。

 

 

 ニールさん、その手の話はしなかった。

 知らなかったのか、省いただけか? 具体的にできる話をしてくれた。 ……掛け算にふんふん頷いたら足し算の説明せんわなー。でもま、あの人は通ってないと言ってた。 …その辺も現実。



 ハージェストとニールさんの違い。

 最初から友達に求めよーとしてたのは、そーゆー事。役に立つ、立たないを通り越してイイ感じ。




 それでも見えないモノがわかるのは数値化だぁね。 …うん、数字。はぁ。  術式を公式に見立てるなら具現化させる術は演算? 式は指向。



 火を飛ばす。 


 火を あっちに こん位で どーん。



 あっち = 指向 = 式

 こん位 = 分量 = 魔力

 どーん = 着火 = 術


 火 = 発火 = ?



 はて、具現化する為の火は?

 

 イメトレ無効の術は具現化、その手法。くれた説明は、導火線と威力の適量を計る演算みたく聞こえた。だから、どーんは術で確定。


 火、そのものと演算の二つが揃って具現化じゃね? ん〜〜? 一つの行為に最低二つの術が要るって話?




 「火を使うとしたら、どーやんの?」

 「それは」



 言われて手を伸ばす。


 握手ではありません。互いの手のひらを合わせ、指を合わせる。 …手の大きさに指の長さの違いはどーでもいーです。そこから、相手の指と指の間に自分の指を入れて〜 はい、がっちりとお互いに押さえ込み〜〜。



 「内なる力、その感覚を」



 ……何やら誘導してくれてるよーですが、さっぱりです。



 「「 ………… 」」



 皆無には、理解が追いつかない世界のよーです。



 「ステキにわかりません。でも、それが一番早い方法?」

 「…まぁね」


 「魔具の場合は…」

 「それは作成者が込みでやってる場合と、やってない場合と」


 「じゃあ」

 「うん、言ったろ? 取り扱いが難しいのあるって。危険だから難しいのと、無いから難しいのと」


 「じゃあ…」

 「まぁ、段階を一つ蹴っ飛ばしてるのは値段としても安いよね」


 「ふ、ふふふ」

 「いや、あのね? 俺の魔力を纏って馴染んで、この感覚を掴んで余力さえあれば!  流し()はできると思うから、ね? ね?」


 「あう!」



 ……そーですね! 犬笛に力を込めて遠くからでも呼べる完璧な「ふぅううっ!」ができるよーになるんですよね! 魔具でもない物に力を込めるとは、そーゆー事でしょう!



 つっまんねーとか、しょぼいとか言いません。


 できる事とできない事は…  どこにでもあるんです。ドコでもそれは同じです。おーなーじぃぃいい〜〜〜 ですが、自力では。



 「ほんと要、魔力… 」

 「あ〜〜、だからそれだけじゃないって言ったろ? それに君は元々が違う、今が全てじゃないと思う」


 「うー」


 蒼い目が困ったって言ってもさー。役立たずと言った奴は複数居まし  ……ああ、そーか。 なんだ、ハージェストが歩いた道を追っかけてんのか。


 知ってる。知ってた。

 知ってても実感籠もると違うやね。自虐趣味なくても何度でも落ちれる、気分なんて底なしだろ?






 「そりゃあ…  魔力が皆無である事が良い、そんな事は滅多にない。だけどね、君が持って来た原石。あれの削磨には魔力が無い者が最適で、それ以上の適任はいない」

 「へ?」


 「腕の立つ、できる者は欲が出る。出なくても、うっかりはある。あの石が輝くのは魔力を溜め込んだ時、本当に美しく輝いて見えるのは不純物を内包してないから。不要な物(他人の力)を含まないからこそ、それを見て理解できるからこそ、人は高値を受け入れる。手が届かない事に羨望を見る。まぁね、一見がどーしても只の石だから、売り元がはっきりしないと怪しさ全開。実演がないとね〜、あはは」



 俺を慰める雰囲気は皆無だ。ハージェストの顔にそんなもんはない。



 「あの石の研磨、魔力無しさんがするんだ?」

 「そうなる」


 「ほんとに肩身の狭い人が?」

 「あー…  肩身が狭いとかは…   魔力に関する事ではどうしてもね。職人にはなれる。けど、そこで一番上に立つのは難しい。優先内容に実力が掛かるなら、どこにでもある現実だよ」



 できる人が上に立つ。


 それは当然。できないさんが上だと、どっかが大変でしょう。大変だと気付かないなら、どーにでもなってんのか、既にどーにかなって嵌まってんのかのどっちかじゃないでしょうか。



 魔具を作って稼ぎましょう。

 工程を経て作品ができる。しかし肝心要の工程に仕上げの確認も取れないなら、魔力無しさんは上がれない。でも、そこに至るまではできる。つまり、魔具でないなら普通にイケる。


 グループに属するならどうしても一番上には立てないが、工程の腕が良いならそれなりに。だ、そーですけどねぇ?



 「うん、それでも下に見る奴は多い。驕るに近い感情は改め難い。でも、今回の事で変わるだろう」


 「…ああ、そっか」

 「そうだよ。仮に制御環を使用しても、確実に仕上げるなら魔力を持たない者が採用されるはずだ。俺ならそうする。君が持ってきた原石と裸石は、観点の違いからその必要性を明示した。最大限に活用する為に不要であると。


 魔力を持つ者、持たざる者。特殊な形と言っても、その道を志す者の心を揺さぶる内容だ。


 その心がどう転ぶにしても。そんな想いに突き当たるのは、変化を…  どう対処するかと…  克ち得た自負もその程度と蹴り飛ばせるかと問われていそうな。  あは。 円熟ってのが、どーゆー意味かと知っていてもねぇ? 突き詰めると頭が飛びそうだよ」



 雰囲気にちょっと、あれ?とも思うが…  そうだな、以前も言ってたな。昔の人がって。昔の人は何からそれを提唱したんだろーね?


 しかしまぁ、この一件で魔力無し職人さんの花が開くんだな? 咲き誇るのだな! 日陰の花とて綺麗に咲く!! スポットライトがぴっかあ〜ん!  うーむ、人生変わるかな? いや、然程大きくは変わらんよーな?



 「君が持ってきた物は人の欲を孕みもする。けど、それ以上に…  試す物や試された結果に出た物だね」

 「びみょ〜うな発言…」


 「あはは。気付かない、考えない。それで上手に渡っていく者もいる。労を経ない上手さは、ガキからすれば妬みにもならないけどね」

 「え?   あれ? 待て、試された結果?」



 「ああ、あの玉だよ。あの魔具も溜め込むってゆーか、詰め込むってゆーか。複数魔力をぶち込んだ結果にできた、どーしよーも無さげなブツ。あんなど汚い玉がよくできたもんだと」


 「……あの汚いの!?」

 「そう、迷惑極まりない後片付けを考えない馬鹿が作った穢れた代物」


 「複数混ざるとあーなる!? うわ、まじですか!」

 「ど下手の見本ってヤツ」


 「うあー、さいてぇぇ…  ごめんよ、変な物持ち込んで」

 「いや、ほんと有り難う。保管してくれて助かった。あれの用途聞いてる?」


 「ごめん、そういったのは全く。あの時話した事でほとんど。余りの不条理に、にゃんこスピリットを発揮しただけで…  そっちの情報はございません」


 「わかった、こっちで全て引き受ける」

 「よろしく。それと…   もしかしたらあ〜〜 その男の人、ロイズさんと同じになってるかも」

 

 「え? ほんとに!?」

 「あいや〜、その場は見てないからわかんねーけど〜〜  ぼっち演劇と悲鳴が」


 「は?」

 



 …なぁんであの時それを言わないって言われても〜。お前が不機嫌なって怒ってくれたろーが? それで十分だっての、後半戦端折っても問題じゃない。肝心なのはブツだし。ほら、その顔って俺は思うんだけど?




 「そーだった… 君、そーゆートコあるよね。リオの時も…  俺の注意力が散漫と」

 「はい?」


 「それにしても、さすがクロさん。赤の目印、良い仕事されてます」



 目が細まって、にーやーあ〜〜っ。


 それ、どーみても悪役。

 ですが大変似合ってます。友達、そっち方向で似合ってる場合はどーしたら?



 




 





 頼む事を忘れず頼んで部屋を出る。

 廊下を歩けば口角が上がる。自然に吊り上がる。出掛けの言葉も上がる要因。



 「見つけたら、どうしてやろうかと思ってたけどなあ…  そーかよ、俺のアズサにそーゆー事を言いやがったか。身の程知らずが。てめぇの言葉を俺が実行してやろうじゃねーか? ああ?


 ははははは! 


 あ、でもなぁ… その後の移動を考えるとなー。やるのは良いが俺じゃ拙いか?  …兄さんにガチでシめて貰う方が効率が良いか?  アズサに対してやろうとした事実、この領に対して行おうとした事実。どちらが上とは言わさないが、シューレの主は兄さんだからな。ま、そいつの態度次第。  ……姉さんには黙っとくと。


 にしても、どんな状態で居るのやら。ロイズですら呻き続けた。痛覚を殺すのに失敗したのは力の流れを阻害したと取れる。 …ふ、ん。 痛みは思考を鈍らせる。間断なく痛みに襲われ、止まずに悶える。 ……手が無くば最後は発狂に向かうってトコだな。

 思った時点で発動するなら、必ず一度は恨みに誹る。必ず赤が咲いたはず。  ははは!  現状を憂う以上は時間との勝負。何て事になっていてもなー、嗤うだけだ」



 是非を明らかにする為には無事を祈るべき、でもなー。はははは! 俺がする為に無事で居ろ、とは祈るけどなー。あははは!


 足取りが軽い、実に愉快。











 カチャン。


 部屋の入り口でハージェストを見送ったんで閉める。見送りに「いってら〜」って言ったら、まーたやり直しを要求しやがった。まったくよー、時間食う。



 パッタン。


 「ふは〜」


 椅子にリターンです。



 昨晩の内にロベルトさんへ話を通し、ちび猫走行した場所の絞り込みから該当しそうな地区の特定を進め、地区担当の警備さんに招集を掛け、割り出しして準備万端で今朝一番から方々へ捜査が入ってるそーです。二度寝しなくて本当に良かったと思います。



 ま〜、見てもないけど〜〜  赤い赤いあか〜い目印あったらぁ〜 人違いしないでしょー。 …どんな感じになってんだろなあ。






 しかし、そんなんを悠長に考える暇は無い。ハージェストからの出題に取り掛からねばならない!!


 そう、『お手紙を添えよう』が発生したのだ!




 ハージェストのおとーさん。伯爵様へのお手紙。


 身分を除外しても、そんな年齢層の方に手紙を出した事はありません。どーにもならない字の下手くそさは流しても、文面は頑張らねばならない!! どーしよう!? コピペもカンペもその他もねーよ! 初めての手紙を子供同然の一言文で済ます?  まじで冗談キツわ! 自分の年齢考えたら自分でダメ出しするわ!!


 手紙だけ送るか、お土産も送るか。それで文面変わるからどーすっかぁああ!! まだどれが良いか決めてないしー!




 視線がさ迷い、お宝袋に固定される。それが色々思い出させて自分クエストも思い出す。



 「ふ、自分クエスト1は…  ハ、ズレじゃない! 正解から見ればハズレでも! 俺は自分で出した自分クエストを達成している!! それがどんな形でもだ!  達成こそがクエストの真髄!!」


 ドンッ!


 テーブルを叩き、力強く言い切ればすっきりした。

 お手紙を添えようと1の訂正パターンが被るだけにすっきりした。



 自分クエストが発生しなかったかもしれない現実。至らなかったかもしれない道。 …たら、れば、もしも。はい、反省に項垂れても後悔は流します。流します、さよーなら。グッドラックー。



 ん? あれ、待てよ? 自分クエスト2終わってないか?


 えー、皆さんの前でお着替えしまして〜〜〜     なんだ、終わってんじゃねーか。ハージェスト、受け入れてくれてるし。俺の希望話してる。リリーさんも考えよう言った。もう俺の本体あっち、なーんて引っ張るはずないし。



 はっはっは、なーんだ。終わってんじゃん。あーとーは〜   ないか?



 「あ、セイルさん!  『セイルさんにお願い』を3だとすればあ〜〜……  お土産渡したからな。よし、あれでチャラだ! クエスト認定をしたのは今! とっくに終了したクエストに報酬は発生しない! 俺の気分だけの問題!  あははは、自分ナーイス」



 さ、クエスト整理がすっきりした所で…  自分クエスト4の文面どーしよう? 



 「初めましてからで… 自己紹介で…  どこで知り合ったと!?  うお、どー書けば!? いや待て、名前! いや、ノイだけでも詐称には当たらない!  それよかやっぱ友達経過だ! そーだ、そこを詰めねーと! でないとちび猫認定がどーなると!? 


 あああああ! 下書きしよーにも字がぁああああ!!  あー、あー、あ〜〜  あっちの字はなー  書きたくねーなー    あ〜〜、行ったばっかり〜〜    俺の生きたじしょー!! 早く帰ってきーて〜え〜〜  」







































 さて、ここで決して物言わぬお守りの心境を述べてみよう。




 『大丈夫だったああ!?』



 胸元に帰還した後は、せっせこせっせこ働いていた。

 ピッコンピッコンリサーチして、その身に溜まり過ぎた魔力を取り込み軽減する。開始すれば疲れを意識した体が安眠を求めて弛緩する。


 『キツかったんだね… 離れたばっかりにぃい! 離れたくもなかったけどぉおお!!』


 更に、ごすごす働いていた。


 そして気付いたのは手にある力。『なにこれぇ?』である。

 お守りの二つの役目、それはどちらも負担軽減を第一としたものだ。現在軽減に取り組んでいる力は、水や空気と同じ自然の産物から成り立つ。


 しかし、手にあるモノは違う。構築された術式である。お守りはその区別を解するが、何を目的とした物かは理解できなかった。それを理解する為の構築はなされていない。何よりも年を経た男は、この世界の住人ではない。同じ事ができるとしても体系の全てが同じはずはない。


 お守りはソレをじーこ〜〜〜っと見守ったが、特にナニをするでもない驚異となる力も感じない。



 『なにこれ、もしかして此処の流行りの飾り(タトゥー)とか? えー、嘘っぽくね?』



 疑問を抱きつつも体に大した負担がない以上、個人趣味と判断して維持する事にした。どうしてあるのか不明だが、勝手に消すのはよろしくない。それは越権行為でしかない。


 しかし、身体負担を軽減する内容には心的負担の軽減も含まれる。


 『心身共に健やかであれ』


 これがお守りに刻まれた銘だ。

 最も、対人関係等での心的負担は対象外で稼動しない。魔力の関知無しには動かない。


 素晴らしいお守り(専用アイテム)として、過小評価されない為にも組み込まれた能力を存分に稼動させて常に本分を全うしようとするお守りは、お守りがお守りたる所以を力強く示す。


 故に、身に及べば話は別だ。及んだ力に嘆き抗った場合も話は別だ。全てを取り込み、発動させた相手に逆転写する。逆転写する場合に掛ける力は、返す刀の三乗が最低だ。

 この世界の魔素の循環に手を突っ込んでいるお守りに、どうあっても力負けはない。そして、取り込んで解した式をガッチガチに固めての転写なので、受けたが最後これまた解けない。


 これが解けるのは、真実その道の熟達者エキスパートか完全に上回る力技のみ。



 

 ちなみに引き離されて儚くなれば、『どんっ!』といく。内部魔力の霧散化に安全装置が解除されて『どんっ!』だ。溜めの『ちゅっど〜ん!』はない、突然の『どんっ!』である。


 この世界に漂う魔素に全てを注ぐ。守るものがないので容赦はしない。


 供給源が断たれないので『どんっ!』で始まったが最後、『どどどんっ!』と全てに連鎖、引火する。延々と続く終わらない粉塵爆撃に等しい。通常と違う点は爆発に必要な密度に到達していなくても強引に引火させ続ける点と、強引さに依る発生場所を特定させない不規則性にある。


 しかし、必ず介入がくる。必ず強制遮蔽が行われるので永続は不可能。それでも本当に恐ろしい事態(短時間焦土大決戦)だけが、口を広げて待っている。



 年を経た男は、実にイイ仕事をしている。






 今回、お守りは見守りに安堵した。

 魔力が浸透した手袋をした時には、『あっれ〜? もしかしてぇ〜?』と首を傾げたが、静かに見守っていた。



 手袋をした上で、慎重に僅かな魔力で包んでいくのを受け入れる姿に、『下の要らんの、ポイしとこか?』と思ったが見守った。


 魔力が浸透して質の表面がちょっぴり変化するが、基本が力の上積みをするだけなので構築は消えない。消す方向にない。


 ならば考え着く先は。


 『やっぱ、飾り(タトゥー)だったんだ! でもって、それを書いたヤツが嫌だったんだね! 良かったあぁ〜〜〜 要らんコトせんでぇぇ! ほんと下の消しとこか? でないと綺麗に〜 重ね塗りじゃあ〜〜    あー、でも知ってるよ。一緒にするのが大事なんだよね。その過程の有無で今後が変わっていくって知ってる〜   うん、仲良しするの邪魔せんよぉお!!』



 尽きる事のない供給を回して薄れさせない。

 それはお友達が丁寧に直してくれる、飾り(ペインティング)なのだ。『仲良しの証、友情の印を薄れさせてなるかああ!』 本気でそう思っている。



 何時までも完全に消え去る事無く維持される。

 結果、全てに対する危険度は何時何時までも解除されない。知る者がいない事が幸いなのか、否か。

 



 しかし本当に憂慮すべきは、もしもの発動後にある。

 発動で、お守りは構築を理解する。何故なら負担が発生するからである。そこに至れば、お友達であろうとナンだろうと逆転写。

 そして発動者と同質の魔力保持者を感知すれば、今後の不安解消の為に解した術式を自ら構築して飛ばすかもしれない。又は何も考慮せず、一帯の使えそうな移動可能生物に向けて飛ばすかもしれない。


 飛ばす際には、お守りとしての本分から大事な大事な内部魔力でちょ〜〜っぴり色付けし、増幅させ、力で成り立つ終決(隷属)を図るのだ。





 お守りが発生させた事象が問題となれば自助努力が求められる。

 自助努力は作成依頼者の意向に添うもので問題ではない。

 




 心の内など、知らぬが  花。




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