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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
115/239

115 だから、そのココロを

   

 

 どの道を通り、どこへ行くか。どの様にして、何を名目とするか。

 部屋へと戻りつつ、逃げる算段を組んでいた。もしも、に備えて考えていた。いたら、だ。


 足が止まる。



 「世間的にも逃げるが勝ちだ。   …手に手を取〜って とう、ひ こー。  ……… ふ、ふふふ」


  

 何か違う。

 内容的にもナニか違うが、思い付いた言葉を口にしてみると! 何故か気分があがる。



 あ・が・る! そんなんした事ないしぃいい? 


 ……そりゃあまぁ、ココへ来たのも逃げたと言えるが? それ以外でも確かにあるが? そんなモンで心底浮かれる気分になるか!


 どれだけ似たよーな事でも気分の問題だ。そして気分は大事だ、何より大事だ!! これが… あ・が・ら・い・でかあ!!



 逃げるのは、アズサの為でも。


 押し付けがましく聞こえるから言わない、馬鹿正直にそんな要らん事を言う気はない。第一、『逃げる』と言えば、犯罪者に聞こえてしまう。そうなったら過剰反応されそーで、しそうだよなー。もしも、そうなったらどうなるのか?を、ものすごく気にして聞いてた。ショックで怖がった顔は忘れられない。


 だが、身元をどう説明する?


 物が物だけに、そこら辺での誤摩化しがより難しくなった。話し合わねばならない重大事項だ。これこそ説明が面倒だ。それでも、俺の口から語るのは良くない。アズサ自身の説明が望ましい。

 しかし、誰ぞがシューレに来た場合、親父様達が居ないから遠慮なく聞きそうで嫌だ。止めろと釘を刺しても、その時不在なら事後承諾でずけずけやりそうだ。そんな奴の心遣いが当てになるか、大義名分掲げて心情踏むのを否定できん。


 そーなったら。

 悩みながらも説明を頑張りそうなんだよなー。貝になり切れずに話しそうなんだよなー。そしたらそこから引っ張られそーだからなー、はぁあ。



 始めれば根掘り葉掘りで喋らそうとする、しないはずがない。口籠もれば、宥め賺すより詰問調で上げ下げさせる方向を取るかもしれん。精神メンタルから落とすのは常識、その後を考慮に入れる必要を認める場合にのみ、どこまでどーやるかを考慮する。しかし、『もう少しで落ちる』と判断できれば絶対やる、止めん。

 

 最終、言いたくない事も喋って落ち込みそうな気が大いにする。話さなかったら話さなかったで、疑われてると気持ちが萎縮しそうだ。


 んなコトされて堪るか。俺がまだだってのに、好き勝手されるなんぞ冗談じゃねぇ! 考えるだけで俺がキレる! がっちり親父様に抑えて貰わねーと。



 しかし、アズサと一緒に逃避、行… かぁ。 それも…  イイ、かも…   あ〜、俺が逃避してんなー。 逃避したいなー…   いや違う、休暇だ。そうだ、休暇だ!


 アズサと一緒に長期休暇!

 じゃねぇ、それは希望だがまだ先だ!  …先。先か。 ……そーだな、休暇じゃない方向をか。



 これからはアズサも一緒に行く。置いていく訳ないから一緒に行く。 一緒に。 これから先は、一緒。 ……そうだな、本当にそうだな! 今まで潤いのなかった道行きに、活力が!! そーかああははははは!!


 これからの明るい未来の為!俺自身の為にも、アズサの為にも! 最善を選ぶ!!



 取るに足りねー事で、ぐだぐだされてなるか。居ない方が良い時には居ない方が良い。それが全てに繋がるってもんだ。



 「……てをとって〜  い〜   いっしょ〜に〜  きーみーと〜 」

 


 酒場かどっかで聞いたよーな聞かんよーなのを、適当な節回しで口遊んでみる。 …………顔が勝手に笑い出して気分の上昇が止まらない。


 あ〜〜〜〜! ははははは!!  やってやるぜ。




 ダンッ!


 『あ』と思ったのは、壁を蹴った後だった。

 ま、気にしない。もう気にしない。それより血が沸くなぁあ。










 「あ?」


 耳を澄ます。

 浮かれる気分が一気に冷める。息を潜め、周囲を見回す。何かある方がおかしいこの場所で、ナンだと探る。



 「…… 」


 気の所為と思う事でその確認を怠るか、ボケ。甘いわ、笑わすな。



 近くの扉に向かい、気配を探り、音をさせずに僅か開ける。気配よりも明確な、隠し切れない乱れる呼吸を聞いた。

 聞けば、思考がヌルい何かを弾き出す。人間一人で、「はぁはぁ… 」に対するヌルい何かだ。しかし、ヌルい割に呼吸音が異常過ぎる。



 「誰か!」


 ゴスッ!   「 あ、ぐっ!」



 

 「あ?」


 勢いよく扉を開けてやろうとしたが開かなかった。開かないんで、引いて戻して開閉してみた。



 ドン!バンッ!ゴツッ!


 「い、た!や  ぐあっ!   おま、ち… をっ」



 どうやら、開くべき扉の近くに物体があるらしい。それに扉が当たって開かない。そして、声に覚えがある。


 扉の引き手に手を掛けたまま、少し考える。

 があ、何故か無意識にも手と体が開かない扉を開こうと、グ〜イ〜〜〜〜ッと押してしまう。

 


 「つううっ!」


 聞こえるナニか無視して扉を押し続け、体を滑り込ませられるだけの空間を作成し、無理やり体を捩じ込んで部屋に入った。その間にも聞こえた何かしらの呻き声は聞き流した。











 「で、どうした? ロイズ」



 待ってくれと頼んでも、全く待たない姿勢にギリギリとクるモノがある。この悶絶の原因はあれだと思うのと平行を辿る方の仕打ちに、八つ当たりに近くてもどこにも当たれない感情がボコボコと発生して一層ギリギリとキている気はする。



 「は、あっ…  は、はっ… 」



 痛みに息が整わない。全く違う痛みもジンジンする。

 身を起こそうにも起こせずに、見上げた蒼い目。多少の差異はあれど、普段から見慣れた方と同じ色をしている。




 「突如、腹に激痛が走って気を失った? お前が?」


 疑わし気に見下げる目に屈辱を感じる。

 問われた内容に、屈辱を感じる。違いない内容に!端的なそれだけを聞けば一層腹が立つ!



 「原因は? 見せてみろ。俺も多少使える、あんまり残ってないけどな」

 

 顎をしゃくられる姿に、寝転がった姿でそろそろとシャツを引き上げる。触れると熱を感じ、痛みが生まれる感覚に歯を食い縛る。


 

 「……何だ、これは」


 こっちが言いたい。だが、続けて問われる言葉に返せない。思っただけの事をどう言えと? 誰の所為だとも言えずに、言えるだけを言った。



 「押された跡…  その手形が元だ?  胸はどうなっている」


 そこまで余裕はない、全くない。わからない。

 これ以上シャツを上げるよりは、広げるかと手を動かせば。


 

 「良いぞ、そのままで居ろ」

 「いっ!」


 待たずに引き上げられた。

 胸にできた爪痕を見らているが、何も言わず指の腹で二度三度と触れられる。爪先でなくて良かった。



 「少し赤い程度だ、傷口の赤さだな」


 「…ぎ!」



 五指を広げた手が無造作に腹に触れる。

 熱を帯びた腹に、置かれた手の温度。その温度差と生じた痛みで体がビクつき、痙攣を伴って跳ね上がる。


 「大人しくしとけっての。下をズラすぞ、腰を上げろ」

 「も、うしわけ  ありま 」



 意志に反してぶるぶる震える足に、無理でも力を込めて姿勢を取る。 

 良いと言われて尻を落とすが、体がキツい。足を伸ばすのを半端に止め、膝を上げた状態で居ればまだ楽な気もした。


 「!」


 息が詰まり体が硬直する。広げた五指が再び腹に触れ、腹の上を動く度に膨れる痛みに、堪え切れず袖を噛む。痛覚を殺し損ねた事実が憎たらしい。



 「どこがどうとも…  わからねーなあ」

 「 〜〜〜〜〜〜 っ !」


 呟きながら下へと向けた指先と手のひらに力が籠もり、グッと押された。反射でビクつき尻が動く。押される反発に腹に力が入り、上へと突き出す。

 


 「熱はある、痼りはない。表皮は滑らか。  浮き上がる事で生じる痛み… 血の流れ、ん〜〜…  」



 手が離れた事にすら気付けない程に、自分の太腿の震えを意識していた。膝が共に震えている。袖を噛み締めているはずの口から、どうしてか忙しない呼吸音がする。

 繰り返す息が落ち着いた頃、見計らった様に腹に新たな痛みが生まれた。痛みにそれと悟れたが、変化があった。新たな変化は更に焼ける熱だった。



 「…い、ぐ ぅっ!」


 「おっと」


 新たな痛みが脳裏を埋め尽くすが、目にした蒼に意識の片隅が醒めたままでいる。意識とは別物の体が堪え切れずに不様にビクビクと跳ね、反射で半端に上がった足を掴まれる。掴まれた足の股関節に痛みが走る、ズラした服の所為で広がらぬのに引く形で押さえ込まれるとキツい!


 「動くなと言ってる」


 脇腹に膝が当たり、グッとめり込む。同時に上から腹を押す圧力が増す。その手を払い除けたいのを戒めるだけで、神経が焼き切れそうになる。


 途切れない痛みと熱の中、腹を押さえて逃さない手の形を強く意識した。




 直後、急速に治まった。

 自分でも目を見張る、劇的な変化だった。



 「ん?   …どうした?」

 「い、 いた みが うすれ、   え?」


 「……まだ何もやってない、これからだぞ?」



 …そんな目で見られましても。


 







 


 「こっちの手で触れた後か…  ん〜〜」


 少し経てば、この身を苛む熱も痛みも綺麗さっぱり消え失せた。

 自力で起き、壁に凭れる見苦しい姿勢でも座れた。嘘の様でも嘘じゃない、気怠さに体力は回復してない。腹に広がる赤の爪痕は消えていない。



 「仮説だ」


 この手が名残の光に触れた故かもしれぬと、癒しを念頭に置いたからかと。

 告げられた内容に、そうかと繋がるモノにどこかで納得して。その心を推し量る。その後、続く言葉に精神的苦痛を覚えた。

 


 「で、この件は俺から話すか? 自分で報告するか?  …それとも話さん方が良いか?」

 「…ご指示に従います」


 「そうか、従うのか」



 俺を見た顔と引き上がる声に、しくじったと理解した。



 笑んだ。

 腕が伸び、手が顎を掴む。


 正面から見る笑みはセイルジウス様と変わらない。力足らずで俺より弱い、劣る。それでも同じ顔をする。ナニかを語る顔。



 笑う顔。

 警鐘が鳴る。 掴む手の熱。



 「試しか、図りのどっちを言ってる。どっちでも良いけどよ、お前は兄上の手足だからな? 何を置いても最終は兄上に従え、あちらこちらと首を振るな。振って情報を得るのは構わんが、身動きできなくなる馬鹿は止めろ。

 それとな、俺のアズサに手出しは無用。せねばならぬと考えても、する必要はない。そうだなー… しやがったら潰すより、お前はナかせてやろう。兄上のモノだからな。ああ、ちゃんと兄上には断りを入れるさ、望むなら二人でシてやるよ」



 顎に掛かる手が下がり、広げる五指が喉を掴む。目を離せないが喉は鳴る。喉全体を絞めるかと思えた手は動き、押える場所をひたと押えた。



 「喉を潰すなんざ面倒いだけだ、お前も落とし方はわかってるだろ?  何度でも、なぁ」


 単純な力で当たり前に人は落とせる。

 言葉通り、要領良く何度でも繰り返し躊躇わない。命の危険を伴う長く味わう苦痛の予想と現実。立場上、逃れられない事実を理解しているだけ、息が上がりそうになる。指が間違いない場所を軽く押す。


 そろそろと手を伸ばし腕に触れ、恭順を示す事で免れた。








 「もう身が保たない…     自身への、裏打ちされた   自負を持ち得る、か」


 吐いた息は安堵に似ているだろうが考えずに吐き流す。

 出て行った扉を横目で眺め、もう一度息を吐く。休みたい感覚が一気に押し寄せるのを振り払おうと口を開く。勝手に言葉が口をつく。

   

 


 「青臭い(ガキ)


 どこかへ向けてもどこにも向かない、吐露したかもしれない程度の言葉に自嘲する。一々、自分の心の中を計り続ける。そんな馬鹿はやってられない。















 「クロさんの手形かあ〜 他にもやってるのか? いたら今頃どーなってんだ? まー、悪夢の愉快さだろーな。真面目に治らないか、聞かないと」


 

 部屋に戻って静かに扉を開ける。


 「帰ったよ、寝てる?」

 

 ベッドに向かって小さく声を掛けたら。



 「う…  うぇぇ」

 「え? ちょっ、なんでー!?」



 なんで床に転がってんだーーーー!


 ベッドに戻ろうと格闘したらしい、シーツを引っ張った痕跡。その際に一個だけ落ちたのか、クッションを腹に抱えてる。ベッドで捲れ上がってる上掛けは全くの無意味、ナンの役にも立ってない。寒さから遠い季節とは言え、日が落ちるに従い気温は下がる。してや、床だ。


 行く前、確かに良くなってた血色が再び青くなってた。



 なってたーーーーーーーーーーーーっ!!! 震えてるーーーーーー!!  嘘だろーーーーーーーーーっ!!!


 

 








 「はー………  」


 自分の体からナニか出てる気がする。

 こんな事なら、ロイズなんかで遊んでるんじゃなかった…  倒れてよーが呻いてよーが見なかったと放置して、帰ってアズサの様子を確認してから戻れば良かった。無理を押した気もないが、わざわざあそこで押すんじゃなかった。うああ、ごめんよー。



 

 「もっと水飲む? もう寒くない?」

 「ありがとー…  へーき〜〜〜」


 「それが一番怪しい」



 キュッ…


 瓶の蓋を取って、魔力水を一気飲みした。飲まないとやってられない。そして絶対に、飲み残しはしない。


 「…れ?  それ」

 「ちょっと補給に」


 「無理… させて、たり?」






 非常に悪かったと思う。

 冷えた体を毛布様でぎゅうぎゅうに包んでくれた。そこへ上掛けを軽くパサ。ぬくぬくの効果的がすごいんです! 自分蓑虫時より素晴らしいガードです! んで、今は楽。


 ベッドから、気持ちぐったりなハージェスト見てたら思う。


 俺は碌に進歩してない。前と同じ事してんよ、はは…



 「本当に平気? 熱は?」

 「あ、ないない〜  きっとない〜」


 信用してないよーで、もっかい手が伸びてきた。


 蓑虫は逃げれません。

 それでもちょっと体をズラしたら、お守りの紐が当たる。紐の先の鮮やかなグリーンが見える。


 このお守りよか、手の方が落ち着くって思ったんだよなー。その手が色々してくれる、ほーんとしてくれる。必需品… じゃない、品じゃない。計るこの手は必須なんかな〜? 今は確実に要るな、うん。



 「えーとさあ、話し合いの内容は?」

 「急がない、後にしよ」

 「えー」


 「それよりさ、何でまた着替えようと?」

 「え? いやまー…  ストレス解消?」


 「は?」



 

 再度確認した内容に優先順位を確定する。当てられた事実もそうだが! じょーだん抜かせぇ!!こればっかりは駄目だ! 先に自衛せねばぁ!!





 一度片付けた椅子をまたベッド脇へ持って来て、そこでマジックグローブの製作に取り掛かりました。今する必要あるんかと思うが… 始めちゃったよ。


 「着替えようとして再び、だった訳だろ? つまり、まだ影響下にあるって事だ。これを放置したが最後、俺のじゃなくて兄さんのに染まるかと思えば怖い!」

 「はえ?」


 そー言われたら、そんな気もする。ごすっと浴びたの二度目だし?


 「あれは組んだ式じゃない、言ったろ? 基本は散るんだ。滲んだ、溢れた、そんなモノは散るだけ。でも、そーゆーのも耐性に… 多少慣れに繋がるかも?とは思う。君に対しても… おそらくは無害だ。だってさ、この場に存在すると言えるモノだから。そんなモノに隔離は無意味。だからこそ、術式はゆっくりって。猫の時、気持ち良さそうにいてくれたけど有効か不明。君のお着替え(防護服)が完璧で、受け付けないってのも有り得そーだし。


 それでもだ! 似ていても、兄貴のごついのに晒された結果に全てが台無しになるかと思えば… ! 挙げ句、無意味な術式の光を撒き散らしてからに!!  どちくしょう!俺がそんなにできないと思い腐ってぇぇええ!  だぁれが、あんな光に当てさせるかよぉおおおおおおお!! ふざけてんじゃねーぞ、おらあっ!」


 

 ……むーん、ナンか最後に違うもん突っ込んでねーか? ふーん、そーか。手を伸ばさんで良かったんか。でもそーだな、慣れを第一にするならセイルさんの方が早そーだな〜。回数重ねたら、どーなんだろな。ちょいキツいが〜〜 そっちの方が一過性で意外に早く終わったりすんじゃねーの?



 安易な事を考える、以前話した事を思い直す。

 ちょおっっと考えれば、目的が掏り替れそーなのも理解する。手袋も包帯もしてない手を意識して、ハージェストを見た。


 最後にドアに向かって怒鳴ったのが良かったっぽい、ザクッと切り替えて集中してる。


 

 目を閉じて、両手で手袋そっと握り締めて。

 じぃい〜〜〜〜っとしてる。ナニしてるか、わかんねー。セイルさん時みたく妙に感じるモノはない、悪いが一切感じない。



 空になった魔力水の瓶。



 みーのーむーし〜  うううりゃあっ!


 根性で毛布内空間を広げ横向きに転がるんだが、上掛けがちょっと邪魔。…邪魔と思えるこの変わり様、さっきまですんごく恋しかったのに。なんてぇぜーたく。




 横向きで、ハージェストがしてる事を見てた。


 静かな中で静かに見てた。





 見てたがわからんので、『俺の心眼よ、今こそ開け!』と目を瞑ってみる。





 …うぬぅ、さっぱり。このままだと寝落ちするだけだ。


 所でさ、ハージェスト。深い深いふかあ〜い意味はないんだけど。さっきの話、噛み砕いたらあ〜〜  俺、キョーレツな透かしっ屁クラッて倒れたってな話になんねぇ? 



 ……思った事は思った以上にダメっぽかった。自主的に、お口チャックしときましょ〜か。


 





 「これで良いか」

 「あ、終わり?」


 「今日はこれで。俺の力でも、もしもの悪化は怖いから」

 「うわあああ」


 起きもせず、手を出して手袋を受け取ります。蓑虫はそろそろ分解します。……リアルな虫は大きさと近さが問題です。


 キュッと嵌めました。


 そう、今日が魔力を纏う第一歩。記念すべき始まりの日です! やらねばならぬぅ〜〜! なーんて思っても、そーゆー感じでやる事なし。


 「どう?」

 「ん〜、よくわかんねー」


 「様子を見ながら」

 「ん、変な感じしたら外す」


 「ん、予定通りに」


 はい、手袋作ろうで決めた通りにいきます。余所見はしません。…はい、しません。






 「あのさ、お願いがあるんだ」

 

 ナンだろうと聞いた話は原石も送らせて欲しいだった。手袋の話は終わったよーです。


 腕の良い職人さんに任せても、石が割れる可能性有り。……そーですね、素材持ち込み依頼したが失敗した。皆無な訳ないね。やり直しができれば良いが、できんかったら賠償請求が発生しておかしくないね。そーゆーのは先に決めないと、後でめっちゃ揉めると大変面倒でしょう。こっちの説明不足とか、言い方が悪いとか色々ですよねー。店側が言わなかったのが悪い、自分で注意しないのが悪い。


 …カワイソーで介入しないってのは、どーこに基準がありますか? 難癖ツケてなんぼの人もいますけどぉおおおお。多少は頭回して自衛しなきゃ〜〜〜っての。






 「あのさ、話があるんだ」



 返事の代わりに聞いた話は半分やるだった。


 「元々、半分やろうとね。宝石出す出さないを進めなかったのは、分けよう思ってたからだし」


 …それは有り難いで終わって良いものか? 有り難いを通り越して驚く。アズサでなかったら、その裏を真っ先に思案する。いや、アズサであっても考える!


 「石、ごろごろ出てきたの予定外」


 だから、遠慮なくやるって…  おかしいな、説明したぞ? 三人で説明したぞ! ナンであっさり半分やると言えるんだ!?



 「いや、あの、それは良くないんじゃ?」

 「ん、分け合わない方が良くない」


 「いや、そーではなく〜〜。あ〜〜のさ… それは君へのだろ?」

 「ん〜〜〜  そのはずだが、どー考えても扱い面倒い状態だって。宝石はイケても石は拙いって。リスク回避に人を雇ってガード組んでも即席紙ガードは意味なくね? 雇いの交渉自体、失敗しそーな気がしてくるんだわ」


 「ちょと待つ。雇うって何? 領主館に一般は入れないよ?」

 「あ、やっぱり? 警備問題出る?」


 「兵に役立たずの烙印押すって話になるけど?」

 「うわあ、そんなん思ってません!」


 「大体、何で安全に人を雇うになる訳?」

 「えー、貰うメダルは保護。もちろん、その為に頂きます。だけど、それで竜騎兵さんや警備さんを私的活用するのはアウト。それ間違い、普通に拙い、考えるだけペケ。メダルが人を顎で使って良いよにはなんねーし、できねー。だからメダルの威光を借りて人を雇うかと。威光付きだからハズレ引かんだろと」


 「…俺、居るよ?」

 「忙しい時、無理を押すのはどうかと」


 アズサの笑顔が優しくて、優しいと思って強制を掛けて落とす事にした。



 「上からの命令は仕事だから」

 「それはそーだが… ナンか線引き違くない?」


 「え? ナンの線引き?」

 「え? 公私混同?」


 「仕事だって」

 「えー、あー、うー… 」



 「はい、誰かを雇う話は終了。石の話に戻して良い?」

 「え、終わりぃ!? あ〜〜う… まぁ、話ズレてたな。ん、戻す。で、石半分やるから」

 

 「あー… 」



 なんつーかの平行に顔を合わすが、ハージェストにこちゃんで良くね?


 いやさぁ、なんての? 頼むんなら手数料出すよ。金はきっちりするべきだと思うからこそ、出すんだが〜あ。 …それやると俺がお前に求めてるのと方向性違う感じしてくんだよ。なんかがね、うん。なんでしょねーのなんだろねー?


 それと、だ。おねえさんの導きのお心を読むとだな、俺には『ハージェストに渡して♡』としか読めんのだ。もう… 何を言ってもしょーがないが。


 だが、やるのは半分だ。売却等が難しくても半分は俺んだ! …やった方の石が割れて小さくなっても、やった分だから問題ない。やってる内に職人さんの腕も上がるはず。ならば俺の時の失敗は低くなる!!


 見よ、この素晴らしいmy計画を! 


 そう、売れない以上あれは貯金。貯金に回すんだ。ほら、経済観念ある。老後に向けて少しは貯めとかないとー。銀行預けじゃないから金利は付かない箪笥貯金だけど〜〜  箪笥貯金です。

 クロさん貯金は箪笥貯金でいーんだよ!! 間違えてない! にゃ〜はっはっはっは、なんだよーん。クロさん通帳はないが、あったらやっぱりシンボルマークは肉球スタンプかクロさんの顔で決まり! マスコットパターンとリアルパターンのどっちが良いか…!


 灰色ちび猫、クロさん通帳眺めてうにゃにゃにゃにゃっと笑うのです。  ……ちょっと馬鹿?




 「嬉しいけど… 嬉しいけど、それはどーかと思うよ!?」

 「嬉しかったら素直に受け取れよ。あ、お家へじゃないぞ。お前にだぞ。それでさー、どれ贈るのがいーと思う? 後、お前の選んでないしー」



 ハージェストの顔に悟れる。

 こいつ、善良君だよ。撒き餌に喰い付かねーんだもん。


 俺は三つの選択肢の中から此処を選んだ。しかし、忘れはしない。選択肢を選べる状態になれたのがあ〜〜  だろ? 三人様のご意見に、お前の話。俺の言い分。


 ちゃんと話した。

 だから、お前のお陰とは言わないよ。


 お前と俺でぎゃあぎゃあやったそれらを踏まえて、この答えが導き出され確定した。そりゃあ、短時間と言えるけどさ。馬鹿も笑いも怒鳴りもやってる、見たし引っ張ったし。

 今回も予想通り、お前はバクッッと喰い付かなかった。俺はハズレを引いてない。 ……どっちも運はハズレてそーだが、そーでもアタリだ! そのはずだ! …あ、あははは!!


 だからさ、俺のシェア天使が突っ張りそーうになる欲の皮を踏んでる内に早く頷けよ。おら。



 うむ、それでイイんだよ。

 無事、シェアが確定した。もったいないですかね? 欲の皮をもったいないと持ち続ける方が人生もったいないでしょう。きっとそーでしょう。でも、聖なるお人には程遠いんで、必要な欲の皮はちゃんと所持してございます。


 そんで、どれが良いと聞いたのに話がまた飛んだ。









 「へ? クロさんの手形?  …え、え? テガタ。  あ〜、 れ?」


 クロさんのお顔を浮かべました。そして、さっき想像したばっかの通帳と手形が連結しました。そっから連想いっちゃうでしょー? クロさん&肉球スタンプ!

 向こうのリアル、バイト先で一度だけ店長さんがやってたのを見た事がある。お金に関わるから普段は見る事もなかった。初めて見る現物に興味津々で聞いたら、教えてくれた。


 そう、それは約束手形。

 

 クロさんのお顔が写ってる〜、クロさんの肉球が押されてる〜。両方一緒に入ってる〜。クロさんが発行する、クロさん手形! クロさんの発行、それは支払手形になりまーす。受け取った方は、それを受取手形として受理するんでーす。ちなみに受け取った方は支払手形として他の人に回せま〜す。小切手も同じよーなもんですが、小切手と手形は違う。注意点有り。


 でもまぁ、リアルと同じで銀行経由な訳ないし、発行するならギフト券か! …ギフト券で貰ったら可愛くない? 可愛いよね?可愛いよね?可愛いよね〜〜。 


 にゃんこ券。


 灰色ちび猫も一緒に写ったら、もっとカワイーにゃんこ発行ギフト券になると思うんだー。にゃん権と一緒に、にゃん券持つのもいーよね〜。にゃふふふふ。




 「どうかした?」

 「あ、いやいや。で、クロさんがどした?」


 「あー、ロイズの事で」



 

 聞いた話は腹に手形。


 それは突然、ナンの前触れもなく赤く浮かび上がる。



 何時の〜 間にか〜 赤くーなぁり〜。何時の〜 間にか〜 広がっていくー。赤く〜なぁる手形〜。赤くなぁる〜 赤い〜  あかじ〜。 あかく〜なった〜 それは〜   ふりょうー  さいけんん〜〜。


 …他は不渡りか? 倒産が近いんだな?  あれ、違う。あれぇ?



 俺の〜 のーみそ〜 どっか〜 飛んでる〜? だって〜 ホラーは〜   嫌なんだって、病気系も嫌だな。



 聞いた内容、逃避しちゃってもいー?


 









 ハージェストが部屋を出てった後は静か。


 晩ご飯まで休むよーにと散々言って、セイルさん所へ行った。

 ロイズさんが大変だと真っ先に言えとゆーのに。ロイズさん、ほんとに大丈夫なのか? 誤解から酷い目に合ってるよ… 俺、嫌われたんじゃない? 


 あの人、意外と運はハズレの外れ仲間だろーか?




 「ふぅうう〜〜」


 ベッドの中で考えれば頷ける。

 クロさんは部屋を出てった。怖くてカゴでぶるってた。カゴから飛び出ても入り口には近寄らなかった。



 「ぼっち演劇と悲鳴」


 何かのタイトルっぽく呟いてみるが…  あの時もそーだった。


 間違いない、確定だろ。

 クロさんが外に出る時、それは俺の留守番が必須だ。部屋を空っぽにしない為のクロさんだ! そして必要な時には何が何でも俺が、自力で、部屋に逃げ込ま(助けを求め)ねばならんのだな! 


 うむ、猫ルールだな。 …おにいさんらしい。その代わり、後は任せろでイケるんだろう。…なんて易しいルール。



 「…ありがとーございます。では、晩ご飯まで寝ます」



 アーティス…  今日はもう来ないかな?















 番猫クロさん、五ヶ条のご使命。


 第二条、特例項目。


 番猫の、宣誓(プレッジ

 『如何なる状況下であれ、最も尊重すべきは御使いとして贈り賜うた御方の意志である』



















 「はぁ、疲れた」


 声に出せば実感する。洗った体を滑る湯が気持ち良い。



 パシャ…


 浸かる浴槽の湯を軽く叩けば本音が零れた。


 「ロイズの腹を二度見するより、アズサと一緒に風呂に入りたい!」


 バシャン!!


 「今日一日の収穫が大き過ぎて頭が痛い!」


 バシャン!!


 「その他が増えた上に待たんのが鬱陶しい!」


 バシャン!!


 「どーにかしろよ!!」


 バッシャン!!



 浴室内に反響した声と音の大きさに正気に戻る。聞こえないはずだが、もう寝てるアズサを起こしたらと思うと少し焦った。




 「それにしても、人を雇うか… 」


 意外過ぎる発言に驚いた。

 印が消えた訳でもないのに、そんな発言をした事に本当に驚いた。


 渡した手袋が嬉しそうだった。きっとあれで前向きな発言が出たんだろう。『まだ、大丈夫かもわからないのに』と思うが、前に進むのは俺も歓迎。嬉しそうな顔も歓迎。



 「頼ってくれないのは寂しい。本音で寂しい…  でも、普通にしてた。そうだね、寂しいけど俺は好きだよ。その在り方」


 全面的に頼らない、使えるモノを利用しないのは馬鹿とも言える。しかし、けじめの付け方は姿勢の現れ。その受け止めは人それぞれ。


 俺と… 少し似てると言っても良いはずだ。そして、君のそれを変えていくのが俺で有りたい。 ふふん。  


 

 ピチャ…

 

 はぁ〜〜、そろそろ出るか。


 

 ギィ、ガチ。

        カタタン…



 脱衣所で着替えながら、台に置いた青いリボンに銀を眺める。



 





 「一緒に摂れなくてごめんよ」


 寝顔に声を掛ける。

 安眠してるのを確認して、隣の部屋に行く。

 

 


 テーブルの上に酒とグラス。青いリボンと外した銀色。銀の隣へ黒色を並べ置く。



 トポポポッ…


 酒を注いでグラスを取り、含み飲む。

 黒を手にして静かに見れば感慨が湧く。色々湧く。



 


 黒を置いて、銀を取る。

 見つめる銀に、昼間の会話を思い出す。



 『魔具と成すには小さ過ぎる』


 容量で左右されるのは確かだから、無難な回答を有り難うございます。常識ではしない事だけど、兄にだけは作成中の物を見せた事があるんだ。

 

 

 「召喚の、契約の証。証は魔具でも特殊な部類に入る。一部に制御環に似てる所があると話す奴は居る。けどね、本当にそんな物であれば信頼を寄せるはずもなし。至らずに終わりだっての」

 


 ゴクッ…


 喉を滑る酒精は弱くて酔えない。しかし、酒臭い息でアズサの隣に寝にイケるか!!



 「ふはっ」


 酒精を吐き、握り締めた手を開く。

 銀を眺める。酒を飲む、背凭れに凭れる。多少酒臭い息をまた吐く。



 「どれだけ似せようと同じ物はできない。証は個人が作成する物であり、その過程で必ず変容する。変容は作成する者の意図()であり、意図(設計)ではない。どうやろうとも同じにはならない。相手に対して、只一つの物である事に価値がある。似せた物とて確かに、只一つの物となる。


 なのに、どうして、これは、俺の作成した召喚の証と瓜二つなのか? 」



 手にある銀の輪っか。

 人の指には入らない、小さな凝縮された銀色。


 特有の色がない、なのに力に満ち溢れている。作り手が不在の、力ある銀環。わかる、これに後一つを重ねれば証として力が完成する。そして重ねた力が内部に浸透して広がり、染まる。


 わからない作成の過程に力を見る。

 力の形に裸石を連想する。それでも、人知を超えた物とは思わない。痕跡が一切読めないこの銀環にこそ、力を知る。


 単語として話す『女神』に訝しさを拭えずとも、どこかが納得に頷く。


 力ある、存在。






 「俺の召喚の証ができる」



 口にすれば、妙に 口元が  あがるなぁ。



 「一度でも作成し、過去に実績があるそれに対する疑いは低い。ふ、他人が作った証で召喚が成功するのも不思議だけどな」




 黒の横に、銀を置く。

 終わりと始まりと。終わったモノと始められるモノと。二つの大きさの違いが、それを顕示する。



 生まれる想いに唇が歪む。




 召喚。失敗した。この上ない俺の召喚獣。

   灰の色は小さな猫。


 数々の宝石に珠。見せつける石は喰らう。

   俺に優しい、らしい女神。




  魔力を喰らえる石。心を喰らう石。



 よくあるよくあるよくあるおとぎ話は示唆と教唆を含んで笑う。その程度、知っているとも。






 「アズサの望みだから、猫に成る事を止めはしない。それでも困ってはいたんですよ、悩んでも良い案がどうにも浮かばなくて。兄も姉もどうした物かと。


 あの原石。


 これを見なかったと、口を閉ざす事はできない。俺とて閉ざせない、閉ざしたくない。貴族家の、ラングリア家の者として、目の前に開けた道を閉ざす気はない。 

 アズサの紹介に悩む点が増えたのですが、あの袋に一緒に入れてたのは共に使えと仰っておいでなのでしょう? お優しい導きの女神様は。



 俺の召喚獣が生きて帰ってきたと。主を慕って土産を持って帰ってきたと。


 ああ、土産じゃおかしいな。 …魔石を作り出す能力を持っていた、それで俺を助けてくれるはずだった。が、その力は今回で失われた。そんな感じかな? 小さな姿である事が能力の尽きた証とでもするか。

 

 あの量と比較すれば納得するでしょう。しなくてもさせますよ。これで上手く収まりますか。不快とするは、アズサ一人。それでも、身の安全と話せば渋々でも最終は頷くでしょう。手の事もある。  読み違えてますかね?」




 喉が渇くから酒を飲む。

 酒で渇きは収まらん。まぁ、飲む。



 「暁を好まれる導きの女神様、今は見ておいでか? これは俺への試練ですかね? それとも有り難しと活用すれば良いだけでしょうか? 後から支払いを要求されても払えないと、お断りしておきます」




 背凭れに凭れて、窓から見える外を見る。 

 暗い黒い夜空を半眼で眺めて呟く。



 「その心を教えて欲しいとは言いません。聞いた所で納得するかは別物です。ですが、『どう扱うか』お楽しみに賭けてませんか?」



 あまり口調が良くないが、子供と同じに怒鳴りはしない、誹りもしない。そうしたい気分はあるが、それは後だ。アズサが寝てる。


 我慢して飲み込まずに吐き捨てるさ。飲み込むしかないなら、そーだなー。腹でも下すか。




 コツッ…


 自嘲を混ぜて飲み干したグラスをテーブルに置いて。


 銀と俺の黒。

 並べた二つ。選ぶは、一つ。



 至りし、この現実に。 己が心を、質さんとする。




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