114 そのココロを
失敗したか。
誤摩化す気もないが、どーも俺の意思を優先させたのが間違いだったらしい。先に出しといたら、こんなにじっっっとりした目で見られなかった… んだろーな。あはは。
だが、俺の所為じゃない! ブツは俺が用意したんじゃない!!
声を大にして言いたいが、最終局面『お前の為』で終われそーでもう考えるのも馬鹿らしい。しかし、会った事も存在すら知らなかった『めーがーみー』に、どう訴える? そんな無駄な事より身の潔白… を、しよう。潔白に似てる回避行動! そーしよう!
「ちょっと待つ」
テーブルに置いたのを取りに戻り、見せる為にベッドの横で包みを解く。行儀は良くないが、立ったままでも良いだろう。気にしない。
橙のリボンはするりと解けた。白のリボンは飾り括りをしている所為で、途中で結びがわからんなった。ナイフで切ろうかと手を泳がせば、「切るな」と言われる。しかし、「お前のだから」と手伝ってくれない… 何気に酷い。
「あ、ここをこうしてたのか」
「まぁ、実際は三つのリボンだけで包んでいたのね」
「また器用だな」
「きっと趣味です」
青いリボンをぐるぐる巻き付け、中味を隠してる。中がわからんのでリボンの端を持って、クルクル逆に解いていく。出てきたのは一つだけ。失くさない為なのか、リボンの中に通してあった。
銀色の輪っか。
「小さい… 指に入らないんじゃ? え、子供用?」
「入りそうにないわねぇ」
「力は感じんぞ」
「 ……ええ、感じません」
見ていい?と聞くから、どうぞと渡した。
アズサが青のリボンを持つ。
俺へのだと言った贈り物を見ている。目線の高さに合わせ持ち、見てる。
石も付いてないんだ、の声に、内側にはなくて? と応じる声を聞く。応じる声に押される風情で足を下げて場所を譲る。譲って下がって、ほんの少しの距離を取る。
どこにも何にもありません、残念がる声が耳に流れ込む。どれ、俺にも見せてくれ、そう捉えた音の羅列に掛ける力の響きを意味なく意識する。
下がった場所から、見る。
小さな輪から、自ら外れて、 そこを見た。
青のリボン。青く細いリボンに通された銀色の輪っか。
それが三人の間を行き来する。
行き来する小さな銀色。リボンの先の銀の振り子。 揺れて動く。
下がった事で見える光景。
切り取られた様で何も残らない様な。時の流れと同じだけ流れているから、結局ナンでもない様な。
この、俺の中で、痺れた感覚さえ生まれなければ何でもないのに。何でもない事のはずなのに。
この視界、生まれた感覚も。
見る事で得る何かを遮断したいと目を閉ざす。
残念だがこれは魔石ではない、断定する声を肯定する。
魔具じゃないんですか? これを魔具と成すには小さ過ぎる。 尋ねる声に答える声。 それはそうだと肯定する。
何か言ってる、それに対して返事をしている。
それが聞き取れないのは、俺が聞いてないからか?
目を開けば銀色が飛び込む、逸らせず思考がソレに埋め尽される。
魔具にしか価値がない、なぁんて思ったらダメよ? 自分が大事な物に一番の価値があって、お金に換算なんてできないのだもの。換算した金額に喜ぶのなら、それだけの価値でしょう。売れる物、売る為の物としての価値と大事な物は等価でなくてよ。うふふ。 柔らかく笑う声、に、同調する。 価値が認められない物が、俺の一番大事な、価値ある物。 俺の価値。 それがその程度と笑われても。
ん? まぁな、そうは言うがという奴だ。その価値とて絶対とは行くまいよ。 苦笑を含む声が、時の流れを暗示する。 する事に目を瞑る。 何かわからないと、わかった意識で、聞いて流す。
銀が、光る。
銀の小さな輪っか、それだけの輪。それだけが、語って くる。
『何て顔をしてるの、私の弟は』
『 …… いっ!』
直撃食らって硬直した、体の中を突き抜けた。びびびびっ!と脳天突き抜けた!!
突き抜け切って火花が散った…
散りゆく火花に従って、俺のナニかがどっかに向かって『ふーら〜あ〜〜〜っ』と出ていきたそーな感じで飛んで消えそーになる。 飛ぶ。消える。飛ぶ。 飛ぶ? 消えて薄れて白さが輝く中に 飛び…… !
と・ん・でぇ! なるかああああああっっ!!
「は、はあっ… はああっ!」
どっかが焼き切れる感じがしたが、焼き切れずに生還したらしい。硬直に震えた心臓がぜぇえ〜〜はっ、ぜぇえ〜〜はっと恐怖と安堵の息を繰り返しているのをはっきり感じる!
「く、 は、ああ… ね、姉さっ…!」
「どうしたの、ハージェ? そりゃあね、何に使う物かわからないから考え込むのもわかるけど、黙り過ぎてはいけなくてよ。 もう!」
は? 姉さん、何を誤摩化そうと? アナタ、今。 自分のおとーとにナニしたとっ!
「ほら、また。そんな顔をしないの、ノイちゃんが心配するでしょう?」
「だぁ 、 え? あ 」
アズサがこっち見てた。ベッドから出たそーでも出ずにいる。迷う感じで上半身に手が、小さく揺れている。 目が合った。 両手が、指が上下する。上がって下りて、上掛けの上で小さく踊る。
うん、わかる。
それ、『ここ、ここ座れ!』の合図だよね。覚えてるよ。
「なぁに、用途が不明なのは謎掛けだろう。考え込む時は馬鹿みたいに考え込む癖がある。たまーに人がいることも忘れやがるからな、ハージェストは」
「あ、そーです! この前、黙って考え込んで動かなくなったです!」
「ほう、何の話をしてたんだ?」
「…エッツって場所での話をですね」
「ああ、こっちに向かっていた時の話か」
有り難い然りげ無い助けは、自分の馬鹿さで補われた。
そんな事ない!と訴えたくとも否定できな… どちくしょう! しかし過去の自分の行いに、今の自分が救われる。そーゆー事をやっていたと救われる! くはあ〜、あれは失態だったが良かったのか。 何がどう転ぶかわからんな、何でもやっとくもんだよな〜。はははは! ふ、もう一つの方でなくて良かった。あっちだったら追い打ち食らった。
「黙って待たずに言ったら良いのよ」
「ごめんよ、考え出したらつい。止まらなくなったみたいで」
「はあまあ、そんな。別に待つってか… 無理に急かすよーな事でも、はい特になく」
流そうとしてくれる姿に「ごめん」と謝りつつ、ベッドの脇へ。君の隣へ、戻る。
「ん、これ」
「あ〜〜のさ、これ本当に俺への物かな?」
躊躇わず差し出してくるのに、受け取れず。
「これがお前へじゃなかったら嘘だ」
迷いなく再度差し出すのを受け取って、適当な笑いをしてみるが変な笑いになってないかな? なっても、疑られなければ良いだけか。
「謎掛け、かぁ… 考えてみるよ」
苦笑と戯けとため息と。
全部を混ぜて目を伏せて、飲み込んでしまえばもう終わり。本心も混ぜて飲んだなら、嘘も真も混ざり合う。全てが混ざる斑模様。
「それはそれで終わって良いな。で、だ。あれらは土産に入らんのだろ?」
「ええ、そう。起きたばかりなのに、ごめんなさい。その話をしておきたいの、重要だから」
「え? …はい、そーですね。 問題の発生ですよね? えーと、ど、う、し、よ〜 う?」
疑問符の先に俺を見る。
少し嬉しい、自然に向いたのは信頼の色だろ? 丸め込むとか必要ない、なくて良い。欲の皮も突っ張りそーうになるけど、そんなもん。誠実にあるだけで付属のおまけでできんだろ?
ま、おまけが貰えるよ〜うに固めるさ。
「売るとした場合の話からしようか?」
ベッドを囲んで話をするが、これ以上この姿勢でいるのは拙い。もしも圧迫を感じたら失敗だ。
ベッドの傍に椅子を置き、姉さんに座って貰う。兄さんはベッドの縁に座って、俺はベッドの上に。アズサの隣で胡座を掻く。行儀も何も、これが最善の位置! 絶対に、絶対に触れさせてなるものか! その為には自衛せねば。そう、自分で守らねば!
「…うんうん、そだね。やっぱ原石よりも加工に研磨済み」
「原石でも高値でイケるのはイケるけど、買い付け価格が売値より上じゃやってらんないって」
「だよねー」
原石を高く売る為に、加工するならどうするか?
依頼する店の信用性の見極めから、そこへの持ち込み方法。単純な一般論だけを語る端から潰していく。
「此処エルト・シューレでは駄目だ。領主の俺が言うのもアレだが駄目だ、その手の技術が追いついとらん」
「でね、我が家の方にはあるのよ」
「へ?」
「いやさ、自領で魔石出るんだ。その手の技術とか取り扱いとか〜 兄さんが話したのは家の事だから」
「……なんと!まさかのばっちり!」
「ん、ばっちり。俺のしてるこの指輪は「お家産か!?」
「…そう。お家産で合ってるよ」
さぁて、こっからと思ったら。
「できるお家のほーに回したら、もしやお金が浮いてお得の得子さん!? お家のほーも見本に職人さんが大喜びで、作成意欲も上がって技術も上がって得夫くん!?」
「その通り!」
「お家だから、情報源のリューシュツに盗みのカノーセーも低っ!?」
「そこはもちろん、お約束!」
普通に先読みしてくれた。不明単語もあったが、ノリを理解してノッといた。
「誓約その他もあるけど、本人達の矜持がめちゃくちゃ高いのよ」
「家の事業である以上、流出でもさせようものならまともでは済まさんしなー。はは」
「え、ちょっと怖い」
「大丈夫だよ、安易に殺したりなんかしないよー。他に示しが付かないって」
「へ? …そーなんだあ」
外堀埋める必要ないっての、すんごく楽。
前提がわかってるなら、切り出し方をどーするかになる。相手に切り出させるのが一番だ。 …ほんと楽過ぎ。
「あれらが出回り、行き着く先に行き着けば、現在の力の均衡が完全に崩れる」
「お願い、ノイちゃん。はっきり言うわ、他所には売らないで。頭を下げたくない家には、ぜっっったい! に! 下げたくないのぉおおおおっ!」
ボフンッ!
「は!? は、は、はあああぁ……」
「姉さん、怖がらさない」
姉さんの両手付きの一撃で、ベッドがかる〜く揺らぐ。
「あああ、あのとりあえず〜 お椅子にすわ、すわられ」
…率直にぶつけた方がアズサには効果的。
うん、まぁ、それは わかっているさ。
ですが姉さん、そんなに顔近づけなくて良いですから。目が生き生きし過ぎて引いてるから。もしも猫の姿なら、飛び逃げて隠れちゃいますよ?
「話を進めるがな」
「あ、はい。 どうぞ」
話を聞いて、口を挟んだ。
…あははは。いや、俺も話は聞きますけどね? 聞きますけど、口は挟みますよ。当然でしょ? まーさか俺が割り込まないと思ってましたあ? ご冗談を。
兄さんは約束した。安全を約束した。他を考慮しても、それを覆すとは思わない。違えるとも思わない。良いやり方を取ると思います、見習ってるの俺だし。ですが、『領主』の兄さんにやられるとねぇ? 俺が嫌なんで。
「で、良い?」
「ん、良い」
ほら、みろ。この状態を。こーゆー状態で交渉ができるかよ。
「話を詰めてくるから、休んでて」
「あ、いや、ココでも。聞いてるよ?」
「聞く事で固めるのは手だけど、それだけで自分の基準を固めるのなら失敗の元だよ。慣れてないと間違える」
「そ、れなら それこそ聞いてた方が有効じゃ?」
「起きたばかりで? 疲れても一通り終えるまでするよ? それを簡略してもいーけど、その場合はわかってると見做して後からの苦情は受け付けないのが基本。大丈夫?」
「……よ、よろ」
「引き受けた。本人は疲れてますし、今日はこれにて。宜しいですね。 ステラを呼びましょうか」
用心に隣の部屋は止めておく。もしも聞かれたら怖過ぎる、そんな愚は犯せない。だから、別室行きましょう。
イイ感じで笑って、兄と姉に退出を促した。
「ハージェスト」
「はい? 何ですか」
椅子にどっかり座る兄に、シュッと裾を捌き直して座る姉。
「他所に売る予定無し。コレを明確にしたんで良いでしょう?」
「そうね、今は十分とみるべきだわね。あ〜、嫌だ。私もダメね、物で舞い上がっちゃうんだもの… あ〜〜〜もうほんっと、あんなの見たら上がるわあ!」
「全くだ、しかし口約束は拗れる元だぞ。確かなモノと成すが道理。今なら良い形の約ができたかもなあ? だがまぁ、この状態で正式な約なんぞしたら心情は離れたかもなー、ははははは!」
爽やかに腹黒く笑う兄を殴りたい。
「兄さん…… 本人が迷う・悩む以前に、どー考えるべきかも考え切れてない状態をわかってて持ち掛けるのは他でやって下さい。そっちは止めませんから」
「そうは言っても、あれで決めようとせんのはおかしいだろが。大体、兄をナンだと思ってる? そこまで酷い事するか。する訳ないわ、全く… お前の交渉が下手だとは言わんし、言ったら俺の首を絞めるだけだ」
「でも、ハージェが駄目ならお兄様でしょ」
二人して楽しそうな顔でまぁ… へっ。 それでもまぁ、姉さんの目に心配の色が混ざるのはわかる。何せ俺は失敗してる。
「どの道、『当主』に通さないと拙い話になってるし? 幾ら兄さんでも、時間をどこまでも引き延ばせる現状で、事後承諾やったら張り倒されるでしょーに」
「…まぁな」
「じゃあ、最低限で十分ですって」
コツン…
テーブルの上、預かってきた赤に輝く魔石。
力を保有し見せつける、純粋な力を保てる魔石。ため息が出る程に綺麗だ。綺麗でも、これは要らない。こんな兄貴の魔力が詰まったモンを、俺のアズサの傍に置いておけるか!
そうは思っても、貰った品に預かった品を収めた二つの飾り箱の横に置けば… 現実が重い。中味を比較すれば重過ぎる。それに、ステラに持って行かせた洋灯。
「これが最初に土産と出されたら」
「次に何が出ても霞みます」
「そうね。それでドコにあった、どうして持ってる、本当に他にはないかと続くのよね〜」
普通にありそうな展開を想像して、顔を見合わせぬる〜〜〜〜〜〜く笑った。
「これは預かりとして、家に送るぞ」
「あ、確認取るんで間を置いて下さい」
「ああ、親父様達への土産か。 …家への土産は石が良いと指定するか?」
「…どうでしょう? こちらで良いと選ぶ方が外れを引きませんか?」
「ふふ、どちらもどちらねぇ。何かあった時の替えに、持たせる物も構えますわね」
「任せる。二、三日の内に送る」
「お父様達の反応が見られなくて残念」
「…姉さんが持って行けば?」
「遊んでないわよ?」
兄さんと一緒にぬるくぬるくぬるーく笑った。
「では、先に行く」
「それまでに用意しておきます」
「そうしろ」
今、決められる事だけを煮詰めて方針を話し終え、部屋を出る兄さんを見送る。持って行く飾り箱の一つにホッとする。振り返れば、物言いた気な目をする姉さんが座ってる。
こちらも無難に終わらせたい。
向かい合い、少し見合えば隠さず盛大にため息を一つ。
「お兄様は言われなかったけど」
中断させた事を駄目だとは言わないが、やり直しの蒸し返しは心理的にも望ましくないから全面却下。だから、忘れるなと釘を刺された。有り難い事だと神妙に頷いた。
しかし、話は終わらない。
「嫌みで言ってるんじゃないわ。思い掛けず貰ったお土産はとても嬉しい、良い方へと動く事を願ってる。でもね? 何一つ問題ない様に見えても、ノイちゃんにそんなつもりがなくても、責任はあなたに回るのよ。私にできる力添えならしてあげられるけど、煩い人は煩いし、説明に納得なんかしないからね」
「有り難う、姉さん」
「約の形で黙らせる事を排除してはダメよ?」
「あ〜〜〜 その手はちょっと〜。そんなどーでもいー奴にまで気を回してたら本末転倒しそうなんで」
「それは私だって思うわよ! 本当にうんざりよ。だけど、そこまで視野を広げておいた方が無難なの!」
「そ〜れ〜はぁ〜 わかってますけどねぇ?」
わかっていても、言わない兄は優しい。煙たがられるのをわかっていても、心配から言ってくれる姉も優しい。わかってる、わかってる、わかってます! ココが男と女の違いですよね? 今回くどいのも、アズサの存在故だとちゃんとわかっていますって。
「だから、お兄様が間に立ってらっしゃる方が安心なのよ」
「それはメダルが同じ事をしてくれますよ」
「厳密にはメダルで解決できないわよ? 一緒にしたらダメでしょー!」
「でも、それなら俺の意味無いでしょ?」
「それを飲み込むのが男の度胸!じゃない、度量でしょう!」
「そんなもん飲める度量はありません! 全面却下でなくていーです!」
「持ちなさいよ!」
「無理無理無理無理、むぅりぃいいい!」
そんな顔されてもなー。
最善に似てるだけのモンは蹴るに限る。平行線を辿ろうとも俺は蹴る。蹴るからこそ、考える。
「…もう頑張りなさい。頑張れなくても、頑張れとしか言い様がないわ」
「ん、有り難う」
「選んで決める以上は頑張らなきゃね」
「はい」
「努力に努力を重ねて努力して、それでも足りないならできなくても努力しなさい」
「…姉さん、そーゆー顔して言われても。それ、素でやってたから。キツい励ましでも何でもないよ」
「……嫌だ、十分やってる以上に努力を要求されたら疲れるって、剥れると思ってたのに」
「……姉さん、どっち向いて言われてますか。あは、ほんとに笑いますよ? 励ましの優しい感情だけを頂きます」
「…もう、あなたもちゃんと言うのよ?」
「やだなぁ、そこまで心配させませんって」
笑顔で締め括って終わり。
良かった、もう少し長引くかと思ってた。
まぁね、痛いと思うのも突き抜けて悟ればそんなもんだよ。要するに、そこまでイッた痛みがあるかどーかだって。なくても、それに突き当たった時にどーしてどー考えるかで、まー、それまでの自分の価値が表に出るんだろ? 切り替えか、切り落としか。それともナニか。どれだろな?
自分の価値を、どう決めるってか。
もう一つの飾り箱を抱えた姉さんを見送るが、決して忘れてはならない苦情を言っておく。俺も真顔で言わせて貰う! アレで心痛を詫びる気持ちは綺麗さっぱり消え失せた。
「姉さん、今度からアレは止めて下さいよ」
「え、アレ? …あら、私の弟は頑丈でできる弟だから大丈夫でしょう?」
「そこら辺の奴らと同じにされるのは嫌ですけどね?」
「じゃあ、平気よ」
「そうは言っても、姉さんがしたのは頑丈とか関係ないから」
「いや〜だ、かっる〜く少しじゃない」
かっる〜く笑っても逃がさない。逃がしてなるか! 歩き出そうとするのを体で遮り、笑顔で圧を掛ける。壁に追いつめなくても掛けてみせる!
「弟を殺さんで下さいって」
「嫌ね、そんな事するお姉様じゃなくてよ。ノイちゃんにも恨まれそうじゃない?」
「首を狙う雷撃は死ねますから!」
「だから軽くよ!」
「もっと下げろよ!!」
「おほほほ!」
どーしよーもない笑顔で逃げた姉を、どーしてやろーかと思案しつつ笑顔で見送る。自分でも良い顔してると思う。
「は」
ガチャッと扉を閉め、室内に戻る。
誰も居なくなった部屋で、どかっと椅子に座って考える。
「は… 」
魔石の数々。
あんなモン、目の前にあれば自分のモノにしたくて当たり前。価値をわかってないなら、半々、七三なんぞない。完全に底値で浚って有り難う。それより簡単なのは、おトモダチ。おトモダチにべったり引っ付いて、ずーーーーーーーーーっと美味い食いモンだ。
だからこそ、放置はしない。
しないが仕事になったら、それはそれ・これはこれだ。アズサの物である以上、けじめは要る。絶対に要る。なぁなぁなんぞ以ての外! しかし、仕事はガチでやる。でないと仕事にならねーし。その混同をしない為だと言われても、兄貴に任せるのは嫌過ぎる。
即座に明確にすべきだとわかってる。仕事でやった方が徹底してやれるし、早い。けどな? んなコトしたら嫌われるに決まってっだろーーーーが!! 嫌われんでも、一歩引かれるに決まってるだろが!!
やっと… やっと気持ちが無理無く嫌み無く近づいて、一緒にやろうねってな雰囲気に持ってこれた所で…! なんであんな放置できそうにないモンがごすっと… ごすっと山のよーに!!
な・ん・で! あんなモンがあっ……!
たかが魔石、されど魔石。やがては力を失う魔石とは、一線を画す石。 希少、高額、入手困難、ほぼ入手不可。そりゃあ、価値ある・金になる。
で、それがナンだっての。それだけで喜べるガキじゃねぇんだよ。後始末も何も考えず、目の前にあるモンだけ見て喜べるガキがガキすぎて羨ましいわ!! あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜! 俺の気持ちをどーしてくれる!? そ・ん・な・もんより、金だってかあ!? ちっ… く、しょううう! まだ名前の問題だって片付いてないのに!! 注意してやっと… やっとできてきた良い雰囲気を… あんな石っころの為にぶち壊せってかぁあああああ!!
「か〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
ゲシッ!
ゴッ! ギ ィイ…
「んげ!しまった、やったか!? やっちまったか!? だ、だいじょーぶ… だな、よし!」
気分に従い、テーブル蹴ったらやばかった。現実が痛くなりそーだった。
詰めた話も頭が痛い。
「原石も一つは送らねーとな… 後から出す方が絶対に煩い。それに二人が知ってる以上、報告の義務を怠ったと言われる。アズサの物であってもなあ… 見本として出してはくれるだろうが〜〜〜 その後がなー… は、詮無い事か」
裸石だけなら、希少価値!で終われるのに。面倒な事にならずに済んだのに。
商品として店に並ぶ品を扱うのは容易い。だが、それが原石となると技術が要る。
石は産出地に依って、硬度が違えば特性も違う。そこら辺がすっぽり抜ければ加工途中で石が割れる、崩れる、小さくなる。価値も下がる。
力を有する魔石であるが故に、石が持つ本来の特性が失われる事は無い。だからこそ、石に合わせた適切な削磨を用いらねはならん。その為に調べるのは必須、加えて産出地がわかれば一番確か。
あの原石、言い替えれば魔力を食らえる石だ。普段から扱う、力を外へと供給する魔石とは違う。違う物を同じ手順で同じ様に扱うのは正しいか? 正しく物が仕上がるか?
見てくれの出来栄えが同じであろうとも、仕上がった時点で扱った奴の手垢がつく。そんな物は見ればわかる、特質と言えど値は落ちる。見本扱いしてもなー、売らんけど。
嘗て確立されていたはずの工程を、今尚知る者が居るかと言えばわからん。たった百年前であったとしても、継承する者が居なければ、それはもう失われた技術だ。そして、これが百年で足りるか!
原石に、完成された裸石。
この二つが揃っているのが、有り難くもこの上なく面倒な事態を呼ぶ。
「職人は聞き出したい。しかし、『現物に取り掛かれ』で終われるだろ。問題は職人じゃない、身元調査を絶対に言い出す奴だ。白黒ぐだぐだうるせぇだろうな… 親父様に頼むしかないが… 問題を天秤に掛ければ黙らせるだろうが… まさか、親父様が率先… するはずない、よな………
家に送ってからの返事待ち… 確認に家から送るか、誰ぞが家へ呼ばれるか。その往復に確認時間に〜〜 まさか、此処に来ねえだろうな? 親父様達が来る… はずないな、来れん。 もし誰か来るとしたら…… うっぜえなああ。
手を打っても、返答次第では逃げたがましか?
馬鹿やられるとやってられねぇ。悠長な待ちの姿勢を取るのが馬鹿だな。戦略でも戦術でもどっちでもいーわ、逃げる事が有効なら力の限り逃げてみせようじゃねーか。
その間に兄貴が沈静させれば良いんだ、それはするだろ。よし、逃げる算段も構えとくか。正面切って失敗する馬鹿は一度で十分!」
天井に向かって気炎を吐けば、脳裏で銀がちらつく。ちらつくから意識から除外するが叶わない。片隅に延々と居座りやがる。
黙って服の内からリボンを取り出す。先に繋がる銀色。
眺めるだけ眺めて懐に戻す。
「はっ、馬鹿らしい。アズサのトコに戻ろ。 あ〜、説明に手筈にやる事なら山だな。休む暇無し、全員扱き使ってするか」
急速に冷める意識で何かを見下し、部屋を出た。
「あー、やっぱ疲れたな… 」
誰も居なくなった室内。ベッドでごろーんと寝た状態で天井を見てたら、どっと疲れを感じる。はぁ〜〜〜っと息を吐けば、体の弛緩に『だーめだ〜』と思う。
うりゃっと横に転がればテーブルが見える。並べて放置の石・石・石が見えまーす。あの石達はお金様であるのですよ!ひゃっほーーーう! 働かなくても大金持ち〜〜〜い。 にゃははははは〜〜〜〜 けへっ。
もっかい転がって、天井を見る。静かな室内、誰も居ないから小さく呟く。
「おねえさん、特製なのは三点セットだけじゃなかったんですか? 俺、聞いてませんよ?」
少し待った所で返事があるはずない。
そんな便利な物は貰ってない、どこにでも繋がれるモノなんか貰ってない。
目を瞑れば、さっきの会話を思い出す。
命の代替品だと考えたけど、それだけでもないだろーな。
天井から窓を見て、そっから見える空へと聞いてみる。
「おねえさん、ハージェストをお勧めしましたよね? ぼっちは寂しいよ?って、お勧めしましたよね? 世界観も価値観も、そっからぐたぐたくる路上セーカツとか〜〜〜 べらっとお話したでしょー? 一緒に。
いえね? 表面が石で不明なのは良いんです、宝飾ってヒントくれてたし。あの裸石の分だけだったら、また違ったと思うんです。あの数なら色々ちょ〜うど良いんじゃないかと思うんです。なのに、何であんなに原石ごーろごろあるんですかね?
おねえさん、友達って言ったでしょ? 俺もぉ、金で買えるダチは要らねーんですよ。金で変わるダチも要らねーんです。んだけど、この状態ってぇのはぁ〜 俺が嫌だ嫌だと思って却下したあ〜 あげるからおトモダチしよーね状態になってませんかね? 違いますかね? 餌ちらつかせてるでしょー?
おねえさん、どっちを向いてるんですか? どっち向いて考えてたんですか? ハージェストの方を向いてたにしても、ナンかおかしくない? 俺に、くれたんでしょ? 俺へのでしょ? リボンの分は良いですよ、頭回しますからあ。
なぁんで相手を疑うっつーか、命の心配する必要がありそーなもん突っ込んでるんですか!! ナニ考えてんだよ!!」
だんだん口調が尖ってった。最後、怒鳴ってみた。
でも、静か。な〜んもない。まぁね、おねえさんは「みーてーるーだーけ〜〜」のお人宣言してましたもんねー。今も見てるんかなぁ…
「ふぅううううう〜〜〜 」
頭いてー。
ポーチはまだでも、するって言った。リュックは既に共用にした。共用を決めたのは俺だけど、おねえさんの心を推察もできた。つか、俺が『ああ、ちっと重い…』と背負ってたリュックをハージェストは軽々持った。余裕でへーきな顔をした。
上手い事やればハージェストの分もリュックに入るんじゃねーかと、そしたら重いもんは全部ハージェストに投げて俺はポーチだけの軽装でいられるじゃねーかと!
これこそ、おねえさんの心遣いだと!
そう思いました。一緒に動くよーになったら、それでイケる!って思いました。内心、すっごく喜んだんです! ハージェストの分が入らなきゃ終わりな話だけどさー。
「あ〜〜… あれか、タダより高いものはないってぇ… 素晴らしい価値を持つあれか。お返しは不要でも、それ以上に労力掛かるってなコトですか?」
空を眺めながら、ぬるーく考える。ぬるーい自分ののーみそ回してみる。お友達の時点でフラグが立ってただろうか? いや、お友達話は必須話、ないと進まないからフラグじゃない。貰った後の物でもフラグは立つのか? フラグはフラグか? もー、どーでもいー話。
「最終ぐだぐだなったら… クロさんトコ持ってくか。 はあ… 」
あ〜、こんなん考えんの嫌だね。それ、起きろ!足、動け!
「うりゃ! にゃーん、ぐーる、みぃ〜〜〜〜〜!」
…………………………わからないMPが足りないのか、体が疲れているのか。今回もお着替え不可でした。猫レベルが変わらんのか、変わっててもこれは変わらんのか。どれがどーでもできんのは、やっぱできんのが確定と。
ちょっと猫暴れして、ちょっと猫ごーろごろして、ベッドの上で猫くたあ〜〜〜っな感じで何時の間にか爆睡を希望しただけなのに。
「う、 うえぇ!?」
治まってた目眩、再び!
世界がぐんるぐるし始めて、のーみそくるくる始まりました。当てられるって、どーゆー意味? 意味より実地の方が早い? うわ、これナンの罠?
「う、 うえぇ…… 」
ぼすっ…
ベッドに撃沈、おやすみなさい。 って、横なってんのに回ってるーう。気持ちわる〜〜。これ以上倒れようがないから良いものの… 吐き気がきたら… 桶、桶はどこだ?
「あ、 あれ?」
え、どこ? ないとか?
「う、あああ… あ?」
ズルッ
あーーーーーーーーーっ!!
どちらとするか迷った、本日のもう一つの副題。 価値を決める。
そして、ほんとーにどーでも良い話。
女の子への壁ドンと初代の壁ドン、知ればその大いなる違いに… もう吹くとしか。