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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
110/239

110 お土産の前に



 ぽちから貰ったお宝は〜 誤摩化し、下見に、どうしたかあ〜〜   ふはは、何とも愉快。



 しかし、コレ。

 多分、コレ。 確か、コレ。 コレコレコレと出してみる。



 「まぁ、とても綺麗。けど… 古い物みたいね」

 「わかるんですか?」


 「どんな物にも流行り廃りはあるもの。これとか、お母様が祖母おおば様から頂いたと見せてくれた品に感じが似てるわ」


 リリーさんが手に取ってる品は、丸いブローチ。縁に唐草模様に似た透かしの金飾りがついてます。縁取りの方が実は面積取ってます。その分、目立つってもん。


 「くすみが出てるわね。何かしら、この汚れ。うーん、他も一度洗浄しないと」


 

 リリーさんが見てる分は問題ないっぽい。



 「これはどう見ても新しい」

 「こっちの魔具も古くないですよ。まだ十分使えるし、新品もある。これをど田舎の山中の魔獣から貰った… 」



 それ、魔具だったんか〜。

 あー、ぽちと話せたらなー。話せたらーあ   ……ナンだろう、あの顔がリアルに喋り出したらどーしても怖い気がしてくんよ。



 「それ何の魔具? 俺にも使える?」

 「使える分もあるよ。使い方、知って… ないんだよね?」


 「ん、わかんね」


 「そっか… 良かった。取り扱いがめんどいのもある、色々試して暴発させたら危なかったよ。下手すると腕が飛ぶからさ」



 ……ぽち、優しさが痛いよ。ぽちずも痛いよ。



 「これは簡単。この面を上に持つ、ここ押す。ガチッとへこむまで押す。相手に向かって投げて逃げる」

 「…どーなる?」


 「内部魔力の解放により、小規模爆発」

 「……… 」


 「押し込むのに力が要る。安全弁だから偶然や物が当たった程度じゃ作動しない。押すより抜く方が早いんだけど、ゴミ()が出ちゃうしさー」

 「こいつには誤爆を防ぐ二重設定が組まれている。但し、止めるのに内部の力を使うから、そのままだと止めた後の威力は落ちるぞ」


 「こんなのに二重設定なんて普通は組まない。安物と言えば安物。その点、これは良い品だよ」


 「…良い品? 売ったらお金になった?」

 「十分になる」


 ぽ、ぽち! 売却一手でいけだったんだな!!


 「しかし、これなんぞは元値がわかってないなら買い叩くか、どういう経緯で手に入れたか売り方次第では話をするだろう。話さないなら確実に買い叩くな」


 セイルさんがブツを手にして、俺に言う。真顔で言う。


 ぽちぃ、色々難しいねー。

 そりゃー、向こうでも売りには身分証が必要だったけどさー。メリアナさんに少し教わったのは値切り方だったけどなー。

 

 それにしても、爆発物(上)か。(下)じゃなくて良かったと喜ぶ方がましか? 俺の予想は当たったが、ブツ的にはあんま嬉しくねーなぁ。興奮しそーでしきれねーんだよなぁ…


 でも、ぽち。お前ら立派にぽちだよ!




 そして考えれば考えるだけ、お着替え部屋に隠したブツが気になる。俺の番猫様のあの行動が、そうだと思わせる!




 「あ〜のー、このお守りを失くした際に自分でも探したと言いましたが、その時に騒動がありましてですね」


 「お守りを盗んだガキの事? そっちなら」

 「いや、そっちじゃなくて。あー…  ちび猫、殺されそうになってさ」


 「……はい?」


 ハージェストの声がガチで落ちた。










 「ふぅうううん、街の中で術式展開して悦にイッた馬鹿な屑がいると」

 「え?  あー、まぁそうなるんかな」

 「絞めてやろーか、糞ガキ共が」


 …イイ顔してんな、お前。


 「では、証拠として没収したのか」

 「……そうなんです!」


 セイルさんの言葉に、ちょっとだけあった後ろめたさが飛んだ。正当でイイんだ!


 「今、出せるの?」

 「はい、お着替え部屋にあります」


 「は? お着替え… 部屋?」

 「ん、部屋ん中」


 「…どこの?」





 はい、今からラブリーキャッツになりま〜す。




 「こっちに来ないで下さいね」


 「わかった」

 「椅子から立たなくてよ」

 「おう、見ていよう」



 三人様から離れて部屋の隅に移動。着替えは見えない、わからないはず! でも、ちょい緊張する。しかしこれもお試しだ! 声に出さすに言ってしましょう。はい、そーれ。



 『にゃん、ぐーる みぃ〜〜〜〜』





 


 周囲を確認しつつ尻尾を一振り。


 「にゃあんっ!」



 やはり最初のお着替えでは、室内に留まるのは不可能である事が確定した。直後の入室を試す時!!



 「にゃ?  ぎゃーー! にゃーーー!!  みーーーーーっ!!!」



 俺の体が宙に浮く!!  首!首根っこ掴んだらーーーーーーっ! 首皮がーー!! 神経がーーーっ!   ひぃっ! やっめーーーーーーーいっ!



 「あ、すまん。許せ、そう動くな」



 手のひらに、にゃんケツ着陸。

 うあ〜、首がキツかった…  酷い。酷過ぎる!  文句を言いたいがナンか手のひら感触が違う。この手は違う、あの手ではない。

 

 俺の首を絞めた犯人はセイルジウスさんだった。


 「にゃああ?」


 来るなっつーたのによー、猫の扱いがぞんざいですよーーー!! もっとちび猫には優しくですねぇ!!



 「みぎゃああん!」


 訴えたが取り合ってくれない… 

 だが、胸元に寄せられ猫体をナデナデする。ポンポンする。慰めてはくれてるよーだ。


 俺を抱えて、そこら辺を見続けてる。




 「穴も撓みも歪みもない。俺の結界に揺らぎはない」


 腕の中、見上げた顔に黙ってしまう。そろっと残る二人の方を見る。


 ハージェストは立ち上がってた。リリーさんは宣言通り椅子に座ってるが、腹の前で手を組み、背筋をピッと伸ばして見つめる姿にさっきとの違いがある。二人の顔もまた、この上なく真剣であったのに口を噤んで猫手で顔をそうっと隠す。



 「すまなんだ、今を調べんとわからんと思ったものでな。成り終えているから良かろうと」


 床に降ろされました。

 離れる事を願う前に椅子に戻られる…  そーですか、そちらも即座にお試し確認ですか。






 気を取り直すしかねーよな?



 よし! それでは、お呼び出し!


 俺の番猫様! 番猫のクロさんにお願いを!!



 シンプルに名前はクロに決めました。ネーミングセンスを問わない普遍のお名前であるのだよ! ついつい『様』呼びしてたが俺の番猫なんだから、いー加減にやめるのがベストだろう。

 しかし、俺の命令を聞く為の存在ではない。そして、クロと呼び捨てるには過去の大いなる実績が光り輝く。だから、親愛を込めて『さん』呼びにするんだ。 …玄人のクロじゃない、そっちにしたら変な方にいきそうで怖い。



 「なぁ〜〜〜ん」


 クロさーん、お部屋入れてー。入るー。入りまーす。 開けてくーださ〜〜い。おーぷん・ざ・どあを願いまーす。

 





 空中でキラリと光った。



 小さな光が空中で輝く。

 輝く力が強まり、握り拳大の大きさになる。そこから光の雫が落ち始める。


 落ちる光は途中で左右に割れて留まり持ち上がる。金の光が目映ゆく強く、銀の光は密やかに。再び光りが絡み合い、下へと滑って襞を成し、二筋の流れを生んだ。




 耳を澄ませて意識する。

 滔々と流れる光に小さな音を耳が拾う。


 水のせせらぎに似てそーだが、少し高めで尾を引くよーな?  風鈴っぽい? 音に高低差があるが音の質は同じに聞こえる。一個の風鈴が鳴ってる感じ? あ〜、ほら。長さの違う棒状の〜〜 五、六本で一組になってる風鈴。そんなのが鳴ってるよーな…


 嫌みのない優しい澄んだ音色に心が洗われる風情。 



 …そうか、きっとこれが聖なる音色!


 でも、猫耳ピクピクしますんで小音で嬉しいです。これも優しさと気遣いの現れだと思います。





 二筋の光の流れは纏まって道を作る。

 俺の手前で止まったが、止まっても大元から流れる光の雫は止まってない。なのに、俺の前から溢れ出ない。


 不思議です。光がこれ以上溢れないのも不思議なら、流れの幅が広がらないのも不思議。なんで決壊しないんだ? 当たり前と考えたらいけないよーな気もどっかですんですが… 進まんから良いんでしょう。ええ、はい、きっと。それよか位置の高さがナンですね。まぁ、それもいっか〜。



 「にゃっあああ〜〜ん」


 光の道です。

 金と銀の光が敷いた、レッドカーペットならぬシャイニングカーペットです!! にゃっはー!



 タンッ!


 パシャン!  ピッ チャーンッ…



 着地した肉球に押されて光が飛ぶ。あの時と同じよーに光の波紋が広がってく。


 「にゃ! にゃにゃにゃん、にゃ〜〜あ」


 気分、あ・が・る♪

 金と銀で光り輝くカーテンを抜けて、ご機嫌よくお着替え部屋に入った。















 「な、何…  何なの、あれ?  お兄様!?ハージェ! あれは一体、何の警告なの!!」



 灰色の小さな猫が鳴いたら、光が出現する。何それ?

 

 注視してた。視線を逸らしたりしない。

 わかったのは、姿が消えた時と猫になって出てきた時の時間差だ。次の瞬間じゃない、一瞬じゃない。唐突な気配の途絶に驚いて、居た場所を食い入る様に見つめて、わからない事に周囲へ目を走らせたら灰色がひょこっと出現した。



 気配の途絶にはどうしても心臓が跳ね上がる。このいきなり感だけは頂けない、思い出して呻く。

 出てきた事に落ち着けど、見えた経過の不明瞭さに思考が引き攣る。自分の上がり下がりが激しくてキツい。心臓が保たないよ… まぁ、保たすけどさ。


 この時間差が着替えてる時間じゃないのか?と脳が呟けば、そーかと変に納得する。しかし前回、人へと戻った時との比較に悩む点があるが…  居たから流して良いわ。人の着替えの時間を計るなんて失礼極まりないって話だな。

 

  


 小さな灰色の後ろ姿。

 尻尾をピンッと立てて、元気よく光の中を跳ねていった。金と銀の光が飛び散る。灰色が光の中で浮き上がる。光が姿を縁取り、切り取った感じがした。


 白と黒。

 二色が混ざって生まれる色。光の中で跳ねる君の姿が純粋に綺麗だと、大きさにとても可愛いと。





 そう思うんだけどさー、アズサ。


 姉さんが悲鳴を押し殺して、その分を凄みに変えようとしてるんだよ。兄さんも唸ってんだよ。二人が共に身構えてんだ。いや、兄さんはそれ程でもないか。


 あ〜、姉さんが得物に手を掛けようとしてる〜〜。頼むから無意識でもやめてくれ。姉さん、上がらなくて良いから下げてくれってー。


 その光ってさぁ… ちょっと凶悪系入ってない? 入れてるよね。




 「ハージェスト!」

 「姉さん、少し落ち着こう?」


 「落ち着いてるわよ! この状態を知ってるの!?」

 「いえ、知りません」

 「リリー、落ち着け。手出しせねば大丈夫だろう」

 


 光の道はアズサの通過後に薄れていった。道は失せたが輝きは宙に留まってる。光の真下に行き、思いっきり垂直跳びすれば何とか掴めそうな微妙な位置に在る。煌めきを放つ光の波は揺れこそしないが、そこに在る。 …なかったら俺が大泣きする。

 

 「部屋に取りに行くと言っただけです。待ちましょう、ね?」

  

 









 クロさん、クロさん。クーロ〜さあ〜〜ん。



 「にゃーーーーん(ただいまです)!」



 さっき入ったはずだが言ってみる。

 部屋の真ん中には脱衣カゴがある。そしてカゴの隣には! 番猫のクロさんが!! モードが移行してるーー!!


 「にゃーん、なななーあ」


 頭からダ〜イブ! 


 クロさんの体に頭をグリグリする、クンクンする。あったかい、しかし体臭はしない。それでもこの体温にクロさんは生きてると思ってしまうが… こればっかりは、わからないでいいや。くれた時の言葉を思い出すから。



 「にゃー…   じゃない。うむ、こっちだ。えー、クロさん。お名前をクロさんに決めました。今後はクロさんと呼びます」



 返事はないが目が細まる。笑ってる目に見える。顔を寄せて、スリッをしてくれた。

 

 okでたね。

 …嫌がられなくて、嬉しい。



 「えー、それでですね。お預けしたブツを出して欲しいのです。会おうとしてた友達に、 ハージェストに会えました。ハージェストのにーちゃん、ねーちゃんにも会いました。色々混ざってるけど、友達の家にご厄介になりたいと思えたんで決めました。手持ちをぜーんぶ見せて惜しくないのに、心配からやめとけって言われて。すごいよねー、人間できてるんだよ。


 で、あのブツ。俺の手には負えないけど、何とかしてくれそ〜うな皆だし。このまま何時迄も置いとくのはどーかと思います。アレは丸っと投げよーかと」



 理由説明、要らない気はする。

 けど、クロさんは番猫だ。目が生きてる番猫だ。言葉を理解してると思うのに、省略したらその程度って思われそーで嫌。


 クロさんは俺をじーーっと見た。

 カゴに猫手を伸ばし、ちょいと捲って小袋を爪に引っ掛けて取り出した。



 その猫背に思う。

 おにいさん… クロさんて付喪さん系統入ってたりすんの? うーん。



 「有り難う、クロさん。持って行くね」


 むぎゅん。


 「 !  ………に 」


 俺の前に小袋を置いてくれたから、お礼を言って咥えようとした。クロさんの肉球おみ足(右)が、咥えようと下げた俺の頭を抑え付けた。 …酷いですよ、クロさん。何の罠デスか?















 カチャ…  コトン。



 「一通り確認したから、これで良し。後は〜 そうね、お茶は何が良いかしら? シューレの茶葉も悪くないけど、リリー様のお好みとは少し違うのよねぇ… 暑くなれば冷たいお茶も良いけど…  そろそろあっちの水を作ろうかしら? あれなら料理長も困りはしないし」



 小部屋にある戸棚の内部、全ての確認を終えたステラが居た。


 戸棚から取り出した茶葉の缶(小)を開け、香りを嗅ぐ。スプーンで一匙掬って葉の色を見る。

 

 「葉色もそこまで落ちてない、良いでしょう。ロベルト様が引き締めてるから、注意しないと少し古くなっても使ってるのよねぇ。ま、言ってはいけない事だわ。ほんと料理長のお願いが通って良かった。あの手伝いは、ちょーーーっと後悔したけど…  お釣りが出たわね。んふふ」



 克ち得た成果に満足する輝かしい笑顔があった。


 

 「お茶請けをどうしたものかしら? 控えているべきだけど………  あの調子なら簡単には終わらないはず。なら、ちょっと厨房に行って貰ってきましょう」


 茶器は揃え、湯は沸かし終えた。


 構えた一式に頷いて、菓子を取りに厨房へ向かう事にする。

 部屋を出る時には、気持ち聞き耳を立てて室内の様子を気にした。しかし、するだけ無駄だと見切ってスカートを翻す。扉へ向かい、誰も居ない入り口で綺麗に一礼をして廊下へ出た。


 背筋を伸ばして、見られる事を前提に廊下を歩く。歩けば待ち構えていた人間に当たる。



 「ステラさん! もう終わられました? お手伝いする事はありますか?」

 「ヘレンさん、大事なお話のご様子ですから私は席を外しました。厨房へ茶請けを取りに行くだけです。お気遣いなく」


 「そうですか…  はい、わかりました。姫様のお部屋の掃除に数人が行ってますが、またステラさんとお話したいと皆が希望してます! お時間できたら、ランスグロリアのお話を聞かせてください」

 「ええ、私の方もシューレの話をもっと聞きたいわ」


 聞きたい事は、流行りの服に化粧の仕方。

 一人は純粋にトレンドを知りたいだけだが、今一人の思惑はもう少し掘り下げられる。市場調査マーケットリサーチかは不明だが、既に速やかに調査サーチ能力は発動されている。



 ステラを見送るヘレンの目は、自分とは違うメイド服に熱く注がれていた。

 

 自分の服を見下ろし、くるっとその場でワンターン。スカートの裾広がりが自分の理想と違うらしく、眉根が下がって少し俯く。


 グッと力強く顔を上げて手を握り締め、決意を露に仕事に向かう。遅過ぎると仲間からどやされる。






 厨房は変わらず戦場だった。野菜を洗い続ける者、皮を剥く者に刻む者。そして脂の乗った実に美味そうな肉を捌く者が居る。

 そして戦場に立つ全員がやけにhighである。あげあげである。多少あがりについていけずに、クラッとしかけている者もいるが基本はあがっている。



 「今、構いません?」


 「はいー、食事なら。 ああっ! ステラさん、今日は!!」

 「「「  おおおっ!!  」」」


 厨房の男達から大人気なステラである。





 少しばかり待つ事になったが、待つ間にと出された茶と菓子を摘んでいた。


 口にすれば菓子の甘さが広がる。茶を飲めば、ほっとする。

 飲んだ茶に職業病が出そうになるが流し切る。淹れられた茶がどこか美味いのは、人が淹れたからか。


 休憩時間が不規則なら、隙を見つけ次第、栄養補給を取らねば無駄に痩せるのみ。体力がなければ現場に付いてはいけない。


 ステラは茶を堪能した。 

 その堪能する姿をちら見している野郎共は多い。





 「ステラさん、お待たせした。焼き上がった分だ」

 「いえ、待ってなど。美味しく頂いておりました。 あぁ、こちらも美味しそう… あら嫌だ、私ったら。これはどこかに予定があった分では?」


 「竜騎兵さん方にと作っていた分だが他もある。その程度は気にせんでくれ。それよりどうだった? 体の方は良くなっていたか?」

 「私の目から見ても、お元気になられていますわ」


 「そうか、そいつは良かった。覚えているのは後にも先にも、血の気が失せてぐったりした顔でなぁ… 」

 「大丈夫です、時間は経っています」

 「そうだな。返事もあるし食べる量も増えてるんだが、元気な顔を見ていないってのがどうもなぁ」



 書いた食事の感想やリクエスト、それらは全て料理長のお宝箱に入っている。

 






 一頻り話に花を咲かせた後、焼きたての菓子を手に部屋に戻る。手にはこれまた自分用にと貰った分もある。あがる気分で廊下を歩けば、また人に当たる。



 「ステラ」

 「あら、ロイズ。どうしたの?」


 「次期様が居られないが、どちらに行かれたか」

 「…そうだった、出ていたわね。 おかえり、首尾はどう?」


 「ああ、有り難う。そっちは悪くない」



 










 クーロさぁ〜ん?

 

 じこじこと頭を上げれば手は外れた。

 見上げれば、顔が下りてくる。俺をスルーして小袋を咥えた。


 …へ? クロさんが持って行くんですか? もしや、ご一緒ですか! 



 あがる気分でクロさんの後を付いて行こうとした、らあ。


 「ぶっ!」


 クロさんの肉球おみ足(左)に顔面stopさせられた。   …だから酷いですって。



 しかし、クロさんは入り口へと進む。俺も後を追う。クロさんは止まる。顔面stop食らう気ないんで俺も止まる。クロさんは一歩進む、俺も一歩出る。進む、振り返る、止まる。進む、止まる、振り返る。進む、振り返って止まる! 振り返るクロさんのスピードがアップする!! 進む、振り返る、止まるぅ! ジッと見られるうぅう!!


 しかしなんだこの 『だるまさんがころんだ』 状態。



 はい、またすす…  んでないっ!   クロさん、進んでないってズルいですよ。

 


 「はにゃっ!?」


 小袋を置いたクロさんは素早く俺を咥えた。俺、ぶらーん。 …待って下さい。俺は確かにちび猫ですが、そこまでされるちびでは!


 首の後ろをやられると体が縮こまる。だが!セイルさんの時とは違う。ううむ、この安心感不思議。



 「ひゅおっ!」


 ジャンプされると体が揺れるぅ!! 自重でちょっと絞まるんですが!  あーーっ!入り口遠のいたーーーっ!!



 

 ぽすっ…

 

 俺はカゴの上に降ろされた。もちろん、覆い布は掛けてある。だから正確には布の上だ。

 クロさんは布をぽふぽふ叩く。目を合わす、立つ。ぽふっと叩く。座る。スリッと顔を寄せられた。そのままで居た。


 カゴから出たクロさんは、スタスタ歩いて行って小袋を咥える。俺、立つ。咥えたクロさんは、こっちを見て動かない。俺、座る。クロさん、入り口に向かう。


 これは、どー考えてもココに居ろってんですね?


 「ココで待ってます」

 

 入り口で振り返ったクロさん、目を細めて出て行った。






 よっこらせーっと、座り方を変える。

 何時でも飛び出せる様にスフィンクス座りに変更。考える。尻尾をうにっとする。どーしてクロさんは、一緒に出ようとしなかったのか? なんで俺を止めるのか?

 

 

 クロさんがカゴから離れる事が可能なのは証明された。出てった。俺が居るから出ていけた? クロさんが番をするのはカゴに中味に …この場所。


 見上げる光の輝きに、場所を守る必要はねーかと思い直す。いやでも居てくれないと。


 場所を除外すると〜〜 やっぱり中味、俺の服。その為だしな。 ん、待てよ? 出るのに代わりのモンが居ないと出れないっつー怖い話もあったな。 ……いやいや、その思考はペイッと。

  


 ……そうか! 小袋の中味だ!! 

 

 あれが怖いからだ!! 俺の安全の為に一人、じゃない一匹で、  あれ? マスコットだから一個?  まぁいい。 でぇ…  あの時、気持ちは確実に引いた。それを見越して持って行ってくれたんじゃないのか!?




 

 きらりーん!ぺかりーん!


 部屋を照らしてる金と銀の光がきらぺか目の前に降ってきた。 


 条件反射で手を出す!光を捕まえる!! 捕まえんでどーするぅう!!



 ペシィッ!!

       シャン、シャン、シャン!   

 


 俺の猫手に弾かれた光は床に落ちた。跳ねて滑って落ちた。

 

 …うむ。アレとは違うな、アレとは。

 今のはあれだ。小石を水面に投げる水切り遊びだ。光は三回跳ねたら、床にちゃっぽんしていった。うむ、イイ感じで面白い。そしてあっちこっちが光って綺麗だ。

 

 降ってきたタイミングの良さに、思考の当たりを予感する。

 


 見上げれば、光がまた降ってくる。

 今度は二つじゃない、複数がぺかぴかきらりん降ってくる。


 ふふふ、この俺をにゃめるなよ。全面撃ち落としてクリアしてやるわぁああああ!! にゃははははっ!! 



 俺様サーブ、レシーブ、トス、アターーーック!!



 脱衣カゴの上でぽんぽん飛び跳ね、降ってくる光をオハジキして遊んでた。遊ぶが条件付けはする。脱衣カゴからは出ない、カゴから落ちても俺の負け。

 



 『クロさんだけで大丈夫だろうか?』


 掠めた思考(不安)は… 光をぺっちんするのに夢中になって忘れた。









 「くあああっ」

 

 欠伸が出る、遊び疲れた〜。眠気が訪れる。とろりとろりと目蓋が落ちそうになるが、クロさんのお迎えを忘れてはならない。スフィンクス座りをし直す。


 目を閉じれば何がヒットするのか気が付いた。


 俺は人の言葉を話したつもりだが、クロさんにはどう聞こえてたのか? ってか、ちび猫の俺が人語を喋る…  それって自分で怖がったホラーを自分でやった事になんねーの? 


 想像が妙に… アウトな気が。 うあ、あ〜〜〜〜 眠い。


 「ふ。ふぁ、  ふにゃぁあああああ」


 大欠伸出た。ちょっと寝よう。





 「ぐう」


 体の内から優しく『眠れ』と言われてるよーで、安心感と共に揃えた手の上に顔が落ちた。ナチュラルにごめん寝を体得できそう。

 

 




 






 光が煌めいて、そこから影が出てきた。


 「え?」


 まず、大きさが違う。色が違う。なんでだ?  …俺の灰色。アズサはどこだ?




 「あ、 あ… 」


 掠れる姉の声がする。

 同調から視るのが得意だから少し心配だ。



 光の道は生まれなかった。

 それでも黒い猫には道があるのか、宙に踏み出し…  平然と何も無い空間を渡ってくる。咥える袋も気になるが黄玉から目が外せない。


 外せば、何か色々終わる気もした。




 宙を一歩、また一歩と踏み締めてくる姿が…   俺の目がおかしくなったのかな?



 「う、あ」


 遠近感にくらりとする。

 無意識に、いや、理性的に足が後ろに一歩二歩三歩四歩と下がった。俺が下がるから兄も姉も下がったよーだ。


 黒い猫だったモノが咥える袋が本当に小さく見える。咥える牙で袋に穴が開かないのかと思う。


 しなやかで滑らかそうな黒の毛並みが音も無く床に到達する。床を踏み締める足はでかい。はっきり言ってでかい。アーティスよりでかいと思う。


 シュッと長い尾が振られた。


 猫科特有の動きだが、あの尾で勢いよく打たれると棍棒で殴られるのと同じ衝撃があるとみた。



 「「 ハージェスト… 」」


 ユニゾンで言わないで下さいって。言いたい事はわかってますから。


 それでも自分の喉がごくりと鳴るのと、片頬が引き攣るのは止められなかった。













 「そうではないかと思っていたが、やはりあちらに居られるか」

 「ええ、大事な話だから下がっていてと言うの」


 「大事か…  どんな話やら」

 「リリー様のご判断でお話して構いませんですって」


 「隠してはいないのか。今日の様子はどうだ?」

 「特に変わりはないみたい。そうね、確かに慣れてきた頃合いかしら」



 廊下を歩く男女の姿。

 普通に話していた声は潜められ、吐息で囁くものになる。



 「慣れか。慣れてくれば次第に本性が現れるものだが…  あの姿が本性と思わないか?」

 「あの姿…   思わない、と言えば嘘ね」

 

 「召喚獣である方がどれだけ理解できるか」

 「ちょっと! 自分で見た物を否定する気? するなら馬鹿よ」


 「ブツを見たから、嘘だと言いたくなってるんだよ」

 

 潜めた声には投げやりな気配も漂う。目を交わす二人はその場で立ち止まる。互いをやり込める気もないが、誰かを擁護する気もない。結果、どちらともなく重いため息を吐いた。



 「まぁね、考えはするわよ。 …今だって料理長と話をしてきたの。普通に心配してるわ、元気な姿を見てないんだって。魔力水の一切を禁じた事で思う事もあるはずよ、あの年で考えないって言ったら馬鹿だわよ。 でも、違うモノと考える事はないでしょうね。考えないだけ、知った時がね」

 「あの姿を受け入れられないのではない、受け入れる事は簡単だ。人である前提さえなければ」  


 「本当にどう説明されるのか… 心配だわ」

 「説明しない方が良くないか?」


 

 周囲に目をくれ、留まり過ぎだと歩み出す。


 「心配、か」

 「ほんと色々よ。まさかアレを忘れたなんて言わないでしょう?」


 「馬鹿抜かせ、忘れるはずがない。だからこそ慎重になるだけだ」



 何をどれだけ言っても現実は変わらない。決定するのも自分ではない。やきもきした所で何も変わらないのであれば、成すべき事で判断材料を揃えるだけだと二人は割り切る。


 順調に歩いて部屋に辿り着き、二人は一礼を持って入室した。


 「ひっ!」

 「な!」


 直後、気配に目を剥き硬直し  動いた。

 




 








 「えー、視線もナニも全く違うので聞くだけ馬鹿な気もしますが…  俺の灰色…  アズサではありませんよね?」



 座る姿勢を取ってくれたら、まだ何か違うんだが…   黄玉の目が…   どー見ても値踏みしてるな。 あ〜〜、この値踏みが終わらんと進めそうにないな。しっかし、どの方向性で向き合えば正解か悩むな。

 




 


 「ご無礼!」 

 「ご無事ですか!」



 不意打ちだった。


 バタン!と音を起てて開いた扉に黄玉が反応した。俺も反応した。兄も姉も一緒だ。



 真実、影だった。

 制止の声を掛ける事すらできない速さ。


 それこそ気付けば動いていた。そんな速さに人は追いつけない。

 部屋に飛び込んで来たロイズに向かって、黒の毛並みは溜めも要せずに一足飛びに跳んでいた。



 「ぐ、  !」


 「ロイズ!」

 「ステラ! さがりなさい、早く!!」

 「うちの者です、やめて下さい!」



 懐に飛び込んだ影。

 避けようもない体を黒の巨体が弾き飛ばす。勢いで転がり、意図的に逃れようとしたロイズの外套の裾を踏み付け、素早く抑え付けて胸を踏んだ。


 「がはっ!」



 見るだけでもわかる力強さ。


 鋭い爪が飛び出ていた。

 胸元、腹。 押える爪が食い込んで   いかんでくれって!!


 「こ、のっ!!」



 「止めよ!」

 「兄さん! 兄さん、待って下さい!!」


 「ステラ!手出しは駄目! 絶対駄目、外に出て扉を閉めなさい!!」

 「できません! 行きません!」


 

 バタン!!


 閉めた扉の前から動かないステラは思考から切り捨てる!  出なければ巻き込まれないだろ! 



 ガチ!


 ロイズから音がした。

 外套の内に忍ばせている何かに、爪が当たっているらしい。


 ガチ、ガチン!


 繰り返す音に横顔。見える黄玉は一つ。


 その目が兄を捉えていた。式の展開こそしてないが、力を込めて威圧と制圧を行う兄を見ている。あの目が拙い、眇められ上唇が捲れて牙の太さに白さが際立つ。しかし、兄貴の方もマズいわ!!


 ビッ! 


 裂ける。


 咄嗟に兄の手を押え、体で遮る。兄の手足の一つであるロイズを失う事は痛い、拙い。兄の怒りも行動もまともな話だ。


 だけどな? 見交わした目に一々引いてたら終わりだっての!! 睨み負けで引けるかってんだよ!!



 ジャッ  ビリリリッ!


 「だから! どうしてお前もいきなり襲ってる!」



 生地が切り裂かれる音に怒鳴れば、ガチンと返る音がする。

 弾かれたモノがあった。

 


 「「「  あ!   」」」



 ガッ… 

      ゴッ   ガ、タン!


 

 「ぐええっ!」


 ガリンッ!

   パチッ! バチバチッ!  ポッ…  ボッ!



 

 爪に砕かれ魔力の放出に、一瞬の火花が散った。


 



 破壊された制御環。見下げる黄玉。


 完全なる力の沈黙に満足したらしい。

 こちらを見ながら悠々と黒の巨体が場所を空けたが、視線に機嫌の悪さを感じる…



 バシンッ!

      ヒュッ……


 力強く振った尾が砕けた一部を弾いて放物線を描く。


 パシッ




 「ロイズ! 大丈夫!?」

 「骨は!? 内蔵イってないっ!?」


 あ〜… 制御環が反対に転がったんだよな。体を跨がず、ドスッと踏んでいったから心配だ。しかしそれよりもだ。

 


 狂い無く兄の手元へと落ちた環の欠片。それを受け止めた手。


 兄の様子に息がつける。



 「…制御環を活かした事が失敗だと」

 「……そうだな、ロイズはできるからな。普通なら何も問題なかった話だな」


 「はい、手にしてなかっただけ良かったのやも」

 「………あー、手首を喰い千切られたか? いや、あの爪でざっくりか」

 「始めから、ざっくりやってないのが温情では?」


 「 ふ。  環を爪の一撃で砕くかよ」



 呆れと苦笑が交じる口調に、本当に波が過ぎた事を知る。

 横目で確認すれば、姉とステラに挟まれたロイズが身を起こそうと床に手を着いていた。



 「大丈夫です…  圧迫が きつかっただけで、す…  く、  はっ あ」




 ステラの手を借り、座って呻くが命の危険性はないだろう。襲った原因もわかった。

 兄が短気でなくて本当に良かったと胸を撫で下ろす。全力で体を張っても勝てないモノは勝てない。俺は兄に  勝てない。



 ロイズか、あの黒いのか。


 庇う必要があるのかわからんが、俺が庇うのはアズサに繋がるあの黒いのだ。あ〜、ロイズの俺に対する心証落ちそーだな〜〜   は。



 二つの内の一つ。選べるのは一つ。


 なら、迷いはしない。しないが先々色々キそうでキツ。



 「魔力を感知しての行動であると判断がつきます。こちらとしても予定外で拘束の意図はなく、あれも我らを心配しての行動なれば。気分を害したのなら謝罪します、申し訳ない。仕切り直しを頼みたい」



 冷静でも機嫌の悪そうな黄玉に、頭を下げる以外どうしろって?
























 本日のちび猫遊び。

 


 『だるまさんがころんだ』

 相手の行動を良く見て遊ぼう。


 察知、忍び足、阿吽の呼吸、知らんぷり、遊び心のレベルアップに繋がります。

 


 『ちび猫シューティング』

 入っているカゴから出たり、落ちたりせずに、降ってくる光を自分で弾いて遊ぼう。


 跳躍力、反射、目測、蹴り、打撃、持久力、遊び心のレベルアップに繋がります。




 本日、自制心アップ。他、トータルアップ。

 new!寝相。 ごめん寝が増えた。

 



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