表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚  作者: 黒龍藤
第一章   望む道
11/239

11 検査の終わり

    

 鳥と獣に先手を仕掛けて行動を阻害する。


 動きの鈍った獣を前に己の魔力量を目算する。

 召喚陣につぎ込んだ分、主は陣であるが故にさほど必要ではないが三度の詠唱分、通常であれば魔力は尽き果てている。保っているのは一重に陣の形状を小さくしたことと、魔力の操作力、それと水筒の中に魔力の回復を促す魔素を含んだ玉を入れたことによって、魔力水となった水を飲用したおかげだ。

 棟に向かう前の昼食時、陣を作成した直後、物品補完室での休息に先ほどと都合四回。

 即時全回復するような恐ろしい代物ではないが、これで充分。それに先ほどは残っていた小さくなった玉の欠片を噛み砕いて少し飲んだ。はっきり言って良くないが、こんな時にそんなことをこだわっていられるか!

 


 先ほど使った分を含め、後は二手。何が何でも気合いでも保たせてみせる。

 一度はそちらの言い分を聞く、だが二度はない。

 俺の魔力が保たん。そしてこれ以上の魔力水の飲用は控えねばならん。回復といえば聞こえは良いが、通常より早めるということは別の形で体に負荷を掛けるということでもある。その負荷を軽減するために他の形で補い、多用すれば下手を打つとただの悪循環にしかならない。魔力量さえあれば、その一定の負荷のサイクルを考えずともいけるが俺にはそれがない。


 アズサ一人で戦闘検査を受けさせることは絶対にさせん。




 決意を新たに獣に対峙する。


 気配がした。獣をもう少しで仕留めきるというその時に気配が動いた。

 ざっ、と獣から距離を取り素早く見回す。

 

 鳥がいない。  

 

 馬鹿な! あの状態から一気に回復などできるか!? 

 

 そう思ったが実際アズサに向かっている。今向かえば獣に背を向ける。だめだ、まずはこいつを。

 そう考えても小さく聞こえる悲鳴に気が焦る。焦りが手元を狂わせる。息を吐き、意識を戻し、見えた隙に力任せに突き込んだ。わずかに息は残っているが足も潰した以上こいつは終わりだ。


 後は放置しても問題ないと判断して、鳥に向かえば絶叫が響く! 

 怒りのままに吠え、横合いからの斬撃に魔力をのせて切り飛ばす!



 駆け寄って見たアズサの姿に衝撃を受けた。

  

 棒立ちしそうな己を心中でののしり、倒れた身に寄り添いあまり得手ではない回復を試みる。

 この状況であの検査官どもはなにをやっている! 



 アズサの声に耳を傾ければ、己の愚かさを再認識した。

 アズサの口調にも表情にも怒りや恨みの色はなく、不思議と柔らかい顔であったことが俺をより打ちのめした。再度の言葉とともに初めて見た笑顔に視線が外れない。


 召喚時にみた光が淡く煌めいた後、全身を包み込んでいく。

 咄嗟に抱きとめれば、体が末端から消失していく。

 光を失うまいと手を伸ばせば、空を切り光が散っていく。

 途切れ途切れの声を聞けば、目を開かない。

 名を呼べども答えない。

 抱きかかえた体を揺さぶれば、光が舞い飛ぶ。

 目は閉ざされ開かれぬままに、欠片一つ余たさず光の粒に呑まれて失せ果てた。


 俺の腕には何一つ残らない。






  ゴトッ!   



 鳥の足が落ちた。


 一息遅れて、



            カシャン…




 音源は小さな音を曳きながら、くるくると回り止まった。

 

 俺の足元で止まったソレを目にする。

 黒く濁ったリングに銀の輝きはない。黒の濁りが力の消滅を明示する。


 短時間での出来事を受け止められない。

 検査官と監督役の言い合う声が己の耳朶を素通りしていく。

 

  単純に理解できる内容を理解することを頭が拒否する。










     発見ワンッ





               姿勢よーい        どん

             



           力走とてててててっ 


                           纏繞づっ つつっ!!   



        忍耐キャウゥン       


                       支持ぐっ ぐぐいっ




                キュウゥッ  



 

          突進したたたたたっ    

 


                          一撃あたーっく  

                           



                                    成功キャワワン





 


 後ろから足に当たりがきたことで、込み上げてくる何かから意識が反れる。反射的に身構える姿勢で足元に目をやれば子犬がいた。

 黒い目で俺を見上げてくる。黒い毛並み。白い手足。口の回りも薄く白い。桃色の舌を出している。はちきれんばかりの生命力に溢れている体躯。尻尾が左右に忙しなく揺れている。


 はっきり目が合えば甘えるような一声を上げて、足元にじゃれついてきた。




 「どこにもいない…ようです、が…    ああ、黒のリング。 終わりでしたか」


 その声を聞いて心が冷えた。


 立ち上がり振り返って相手を見る。なんの感慨もないように、こちらを見てくる顔に殺意が湧く。


 「それは… 犬、としたものでしょうか?  …今回の結果としては終わりですが、不明の事態が発生しましたか。  …どのような者であれ自分の身は可愛い。手の内をさらけ出したくないと隠そうとしても、生死に関わる状態になれば必ず力を現すもの。その上で考えるなら、やはり検査方法に間違いはないですね。次に為すべき事はこの事態を判断しなくてはいけませんから… とりあえず、わかるところから調べましょう。では、それをこちらに寄越して下さい」



 独り言のように話しながら手を差し伸べてくる検査官を、ただ見た。イーリアを、監督役を、書記を、補佐を。こいつらを、忘れはしないと口を開くことなく見た。





 俺がミルド検査官と結界を解け、いや、まだ終わっていないと一悶着し、二度目に怒鳴り、解くことを合意させた時にラングリアの召喚獣に変化が起きた。淡く美しいと感じる光を発したと思えば、それこそあっという間に消えた。

 光をみた瞬間にまずいとも、もしやとも思ったが残ったのは鳥の足に音をたてて落ちたリング


 ……あー、拙いが正解だったようだ。

 証を受け取り契約をしている。それが跡形も残さず消えて証だけが残った。幾ら、召喚獣っつっても通常なら骸は残る。何にもないとこで召喚獣は出入り自由とかいったら、実際なくても疑いの目が蔓延するし犯罪の温床でしかないわ、勘弁してくれ。

 消えたことに疑問は残るがどちらにしろ契約は終了だ。終了した以上どうしようもない。おそらくあの召喚獣は終わっている。この状況を話せば誰もが十中八九終わったというだろう。そして、ほんの少しの可能性にかけて、そんなことはないと気休めをいうんだ。

 


 それで、彼は得た召喚獣を数時間足らずで失ったわけだ。

 


 …うーん、うーん、彼の心のケアは学舎の教師やご家族に願うとしてだ。後々発生するだろう、その他の諸々の事項を考えるにしてもだ。

 まず俺が行わにゃならんのは、この恐ろしく面倒く拙いこんなことなら仕事とはいえ、立会い監督役なんざ言わねば良かったなーと逃避したいこの状態を、どう動かして俺の最適に持っていくかだな。


 やはり、彼が茫然自失としている内になんとか宥めすかしていくか。召喚獣に思い入れがない奴ならあっさりしたもんだが… この状態なら難しそうだなぁ。短時間であったことがむしろ救いか? 

 悪いな、悼む心も悔いる気持ちも失っちゃあいないつもりだが、一つの終わりに拘ってりゃあ他の仲間が助けられなくなっちまうんだわ。いま言ったら最低だろうから言わんが、うまくやれれば忘れることや薄れることは確かに救いの手なんだよ。




 ぐは、間違いなく敵認識された。いやもう、それ以外考えられん。しかも俺、検査方法の決定に一役買っとるわけだし?

 …しかし、この検査官なに考えてんだ? 俺にも分からん。馬鹿なのか? 突き抜けてんのか? それともほんとになんか思うところあっての行動なのか? 恨みを買うその意味を考えてんのか?



 これ以上の悪化は望ましくない。

 歪みそうになる顔を取り繕いながら、なおも寄越せといいかける検査官に話を振る。


 「ミルド検査官、あなたの召喚獣が呼び出した魔獣の死骸が見当たらないが、それはあなたの仕業か?」

 「なにか、ヘイゼル監督役。私はそのような指示は出していませんし、イーリアも何もしてはいません」

 「魔鳥の死骸はある、魔獣の死骸はない。そして彼の足元に魔獣ではない子犬と判断される生き物がいる。このことをどう考えておられる?」

 「ええ、不明の事態ですわ。それを解明するにもあの生き物を調べるのが現在において一番の近道です」


 唇を少し上げ、微笑む顔で答える検査官をみて思う。 こいつ突き抜けてんのか? 



 「調べる、ですか。どの様に調べられると?」

 「ここではある程度判明しても正確さは不明です。ですから連れ帰って検査機関で検査確認致しますわ」


 検査官のお言葉に口元がずれそうになる。 おいおい、こいつどっちが狙いだ?



 ラングリアの視線が氷度を増すが、口を開く前に俺が話を続けて封じておく。 頼むからしゃべんな。 


 「連れ帰るとは御大層な話になりますね」 

 「いえ、大げさではありませんわ。必要なことですから」


 互いがにこやかに言う。 いやもう、こっちも笑わんとやっとられんわ。検査官の笑顔も実に悪くないんだが、こうなると不用意に敵をつくっても良いと思えるほど魅力的でもないぞ。



 「ミルド検査官にあの、 ああもう、子犬でいいでしょう。 あの子犬を連れ帰る権限はありませんよ。連れ帰ることもこれ以上の検査も越権行為ですよ」

 「は? おかしなことを言わないで下さい。私は検査官です。この場には召喚獣における検査を目的として参っています。その検査によって生じる事は全て検査対象です。この場で検査が果たせない以上、果たせるように連れ帰ることが越権行為と判断されるのは心外ですわ」


 まぁ、それもそうなんだけどよ。

 

 「召喚獣イーリアが呼び出したのは魔鳥と魔獣ですが、あの子犬に関しては何もしていないのでしょう? 私達もラングリア君も関与していないとすれば、その子犬はラングリア君の死ん…… いえ、いなくなった召喚獣が何かしらしたのだと判断します。ならば、その子犬はラングリア君に正当な権利がある」

 「子犬は魔獣がいたはずの場所から出てきたと判断されます。今回魔獣を呼んだのはイーリアです。魔獣がなんらかの力によって子犬に変貌を遂げたのであれば、より検査するのが当然ですわ」


 「…なんらかの力とは、ラングリア君の召喚獣によるものだと検査官も考えるのですね? そうであれば子犬の所有権は、やはりラングリア君にある。それとラングリア君の召喚獣がいなくなったことを検査官、あなたはどう思っているのです? 戦闘による検査方法を決定した際、生死の考慮はしているとの事でしたよね?」

 「あれは不幸な事故ですわ。検査中にあのような事故が起きるなど、まず考えられないですが戦闘による検査なのです。戦闘検査を受けることを決めた時点で彼らも事故が起きるかもしれない、という事を含め了承したということです。そういったことは言わなくても自己判断ができて当然です。それとも一から十まで言ってやらねば何一つできないという事かしら? そもそも適性検査に戦闘検査が含まれるのは、始めから分かっている事です。彼もその説明については学舎の教師から先に受けていますでしょう? 召喚開始前に再度の注意事項の確認も取っているはずですわ」


 検査官は首を傾げて変わらず、にこやかに話す。



 「事故ですか。では、私が召喚獣が倒れた時に結界を解くよう言ったのを、拒んだことについてはどうなのです?」

 「あれは、始めから言っていたことではありませんか。魔獣が二体倒れて終了です。結界もそのように組んでおりましたし、あの時点で獣は尽きていなかった。魔獣であるあれらも生きています。あれらの命を使って検査をしているのですから、使い捨てのように扱うのではなく尽き果てる最後まで執り行う事が筋というものではありませんか? そちらもご承知でしょうから敢えて言うのは失礼ですが、魔獣は基本駆逐対象です。検査後に回復させて野に放つなどありませんわ」


 「だから、獣が尽きるまで待っていたと? その結果、彼の召喚獣が尽き果てる事態になったではありませんか」

 「ですから、それこそが不幸な事故ですわ。私とて有益な召喚獣を失う事を望んでなどおりません。イーリアは回復を得手としておりますから、どのような激痛を伴っても回復はできます。その回復率は召喚獣ならではの高いものです。そして事故発生に際して準備されている薬品もございます。私も生死に対してちゃんと考慮しております」


 あー、はいはい、回復の手はあるからいっくらでも怪我して良いとしてるわけだ。分からんではないが、好かれん方法の考慮だよな。

 だいたい回復するのに激痛が伴うのか? 伴ったら軽く逝くんじゃねーのか? それほんとに得手なんか?



 俺は腕を組んで、今までの話の内容を頭の中で反芻する。


 召喚獣が本当に死ぬ事態はないと判断していたから、結界を魔獣が倒れるまでと設定したのか?

 安易に考えて配慮を欠いた結果死なせてしまった? 

 呼び寄せたあの魔獣たちは魔獣のクラスとしては対峙するのに容認される程度のものだったか?

 こちらの考えよりも単に召喚獣が弱すぎただけか? 

 それとも、始めから助ける気はなかったとみるべきか?





 「一つの検査により多岐に渡って知識が広がるのです。検査は必要で重要なのです」

 


 ミリシア・ミルド検査官は、この思わぬ事態に少し興奮でもしたのか薄く頬を上気させていた。けれどもその視線は揺れ動くことなく、はっきりとした口調で言い切り凛然とした姿で立っていた。



 その姿を見つつ、俺は一方で放射状に広がりつつあるラングリアの殺気の射程圏内に完璧入ってんなーと認識する。もう一方で面前の検査官の指向性に首を捻っていた。



 真顔で言っとるが、こいつの本心はどこだろうな。

 

 本当にこいつは知識欲の権化で、その為になら何でもするって話か? それとも存外、功名心か? 良さげなもんが出てきたら誰にもやらねぇってやつか? 犬連れ帰るっつってるが、名目ラングリアのって事で話を進めるなら犬に無茶させられんだろ、なら時間かけるっつーことになるわなぁ… それ最終、てめぇで飼うにならねぇか?



 あー、誰だよ。こんなの検査官合格させたのはー? 

 まぁなぁ、手柄になるかもしれん物が目の前にあるなら取っときたいのが人情だがよー。これ、本気かぁ?



 「検査を優先することが、何物にも勝るとお考えでしたら辞任なさっては如何です? 向いてないですよ」

 「…どのようなお言葉でしょう」

 

 なんの事だと睨んでくる。

 睨んでくるが何かに気がついたように、一つ頷いてラングリアに向かいあった。



 「ああ、そうでした。遅くなりましたが、ラングリア君。あなたの召喚獣は消失しました。消失に疑念が残りますが、もはや手の打ちようはありません。先ほどヘイゼル監督役にも言った通りイーリアは回復を得手としていますから大抵のものは回復可能です。あなたの召喚獣がその治療を受ける間もなく、消失してしまったことは大変残念に思います。しかしながら、あの召喚獣の戦闘状態やその間の対応、消失に至るまでの時間を鑑みるとランクとしては、あなたには大変言い難いことですが非常に低いものであると判断されます。ですが、今回は不明の事態も発生しました。その原因はあの召喚獣にあると推定されますが、その推定を確定として捉えてはおりません。推定を確定としてヘイゼル監督役はあなたに所有権があると言われましたが、私はそう受け取ってはおりません。このような事態は簡単に判断を下せるものではありません。その子犬と思しき生き物はイーリアが喚び出した魔獣体であることを前提に、同種や他の様々な種との比較検討等の検査を実施します。確認せず、放置することなどもってのほかです。ありえません。何よりその子犬はあなたの喚んだ召喚獣ではありません。召喚獣でなく存在経緯が不明である以上、その子犬を野放しの状況にすることは出来ません。様々な確認を含め、その子犬は検査機関にて引き取らせて頂きます。この国の知識を増やす為の大事な事ですし、あなたもその年でしたら何が優先されるべきか分かるでしょう。今回の事はあなたにとって残念な結果となりましたが、一度召喚に成功したのです。次に向けてもう一度頑張ってみてください。あなたが次に良い結果を出せることを私は心より願っています」



 ミルド検査官は「残念に思います」と言った時、確かに哀悼の意の表すように目礼はした。そして最後に、にっこり笑ってラングリアにもう一度しろと言いきった。






 う、う、う、うああああああ。

 もう、俺やだー。中間管理職ってやーだー。

 いや、俺もちゃんと努力するけどー。居心地いいとこ、居たいぃぃー。 問答無用でひたすら叩き上げに叩き上げてもいいですかー? 

 ねー。だぁれぇかぁー。俺キレてもいー? つかさー、検査機関の奴らもでてこいやー。 お前ら一体どんな仕込みしてやがらぁぁぁ!!

 



 だめだ。帰さねば。

 とりあえず、先に子犬を連れて家に帰らそう。


 そうだ。

 いまこそ、俺の大人配慮を発揮する時だ!

 


 ラングリアに望むままミルドを殴らせてやりたい気がせんでもないが、それをしちまったらこいつは召喚獣を不慮の事故で失った不運な可哀想な奴から、検査中の事故で失ったことにより辺り構わず当たり散らした自分勝手な阿呆にされちまう。

 しかも立場的には一学生と検査官だからなー。普通は沈黙して外へは漏れんはずだが、変な所で話が出て歪んだらどんな悪評になるかわかりゃしねぇ。

 いま、ミルドが言った通り一回召喚に成功したってことは、次また喚べばいいと考える奴らは確かにいる。特に弱い召喚獣は使い捨てだと思っている奴らからしたら、なーんてことねぇ話だしなぁ。

 それに、殴らせたら俺にもなんで止めなかったって問題が来るしよー。 


 あー、そういや俺もこいつからしたら殴りてぇ奴の一人か。ははははは。 ……はぁ。それとも俺も検査官に便乗して召喚獣消失っつー最悪の結果になっちまったが、対策は講じていたんだから不幸な事故で誠に残念です、な態度だけで終わらせちまった方が早いか? 実際そうなんだしよ。


 しかし、きっと後から家人が来るだろうし、説明に…… 俺、監督役だからなー…  この検査官、この調子で話しやがったら家人と揉めんじゃねぇのかー? 今何時だよ? もうとっくに夕方回ってるだろうがよー、あー、下手したら今日休めんのかもなぁ… もしかして徹夜とか? それとも学舎に泊まり込み? まぁな、完徹なんて慣れてるよ… あーあー、慣れてるよ。いつものことだよ。しかし、ここにいる全員が同じでないとどつくぞ。



 ミルド検査官を無視してラングリアに近づく。冷めきった無表情で見てくる目が完全に敵視しているが、当然と言えば当然か。 あー、コレ敵に回したくないタイプだぁな…




 足元の子犬もこちらを見て姿勢を低く取って唸りだした。


 それ以上近寄らず、一旦、子犬を連れて帰宅することを提案する。 納得することのない心情も理解するが、もはやここにいても何も動かん。お前のその手にある黒のリングが全てだ。事態に不審があっても黒のリングが誰の目にも明らかな終わりを告げて、それ以上の何をも生み出しはしない。


 誉めたもんじゃないが子犬を引き合いに出せば、ようやく動いてくれた。


 「終わっていない」という呟きと視線が心情を物語るが、どうしようなく終わっているけどな。



 その間にミルドが声をかけて制止しようと動いてきたのを、力を込めて抑止した。


 ラングリアに「行きなさい」と頷き返せば、子犬を抱き上げ静かに歩いて出ていく。

 対応に全く動けなかった補佐と何やら書き込みしている書記に、彼の付き添いと学長への報告を頼んで一つ嵐が去った。




 さて、次か…


 ミルド検査官と召喚獣イーリア、そして俺。

 三人になったところで、ミルド検査官に俺は説明を求めた。



 「でなぁ、わかりきってる話だがな。召喚獣の契約は誰がするんだ? どうやって契約するんだ? お前が契約するのか? 先ほど消えた召喚獣は、お前の手に寄ってこの地に降りたのか? 答えろ。あの召喚獣は誰からなんの誓約を受け契約を成し、この地に居ることになった? お前は検査を第一にしてるがな。お前の検査の為に召喚獣喚んでる奴なんざいねぇんだよ。 ああ? 最初の検査値が重要? んなもなぁ、生きててなんぼだろが。 間際こそが能力を発揮する? みてるだけなら馬鹿でもできるわ! …検査官? はっ! お前以外に検査官がいないとでも言いてぇのか? 他の奴で事足りらぁ。 不幸な事故だぁ? 鼻で笑うわ。そんな事故を予測もできねぇようなもん要るかいっ! 想定外だぁ? なーに抜かしてやがる、このボケェ。てめぇも言ってたじゃねーか。一から十まで言ってやらにゃわからんのかってなぁ! 大体だな、最初にあの召喚獣みて魔力がない、ないっつって馬鹿にしてたのおめぇじゃねーのかぁ? 有益な召喚獣を失うのが損失みてぇに言ってたがよー。おめぇの目からみて有益じゃなかったら要らねってことか? あの召喚獣、はなからくたばっても惜しくねぇって嗤ってたんじゃねーのかよ? そこんとこきっちり説明してみせろや。あー? 俺もよ、最終的には戦闘検査を容認した一人だしよ。俺にも責任の一端は間違いなくあらぁな。 しかしまんま、召喚獣死なせて終わりましたー、じゃ後味悪すぎらぁ。最初だしよ、手並みをみるかとか検査官の顔もちっとは立ててやらんといかんか?とか、柄にもなく要らん気なんざ回すんもんじゃないわ! ああ、あの時殴ってでも止めさせときゃぁ良かったと思っとるわ! もう、どーにもならんがなぁ!!」


 その後は言う言葉を一つ一つ潰して話した。一つに付き二つは返して黙らせた。どうにもならなくても、多少は俺がすっきりした。いうこたぁ確かにおかしくもねぇけどよ、極論すぎんじゃこの阿呆。規定に添ってりゃいいってもんじゃねぇだろうがよ! もちっと視野広げて他人の心情つかめや。その年でガキの神経逆撫でしてなにがしたいんじゃ。


 てめぇだけの善がりなんざ、い・ら・ね・ぇ・よ!




 「んでよ、じょーちゃんよ。肝心な話がまだだがな。とりあえず、学長んとこ行くか。ああ? 後から行くだあ? 阿呆抜かせ。この場はこのまま維持する。イーリア、お前も魔力行動は一切取るな。行くぞ。 …それからな、しないとは思うがよ? 念のために言っとくぞ、ミルド検査官。いまこの時から下手なことすんなよ。しやがったら、黒翼の名でお前を指定するぞ」



 何かしないか、把握するためにも先に二人を行かせて指定棟を出る。

 歩むその背を確認しながら、まず思った。






 あー、俺もー さぁいあくー。




 

 ヘイゼルが予定よりズレていったが気にしない。

 

 楽しかったのはわんこごー。 纏繞←てんじょう。もつれる、絡む。

 短い足で走ったら転けかけたですよ。ちなみに犬の声は出ていない。あれは魔獣ベース故、目標物(獲物)に向かっていくのに声は出しません。犬成長すれば変わるかもしれません。

 ほんとは 大回転(でんぐり返し) か 回転くるりん を入れるかと考えてましたが、勢いつけても犬に前転させるのはどうかと止めました。どちらにしても一回転止めなんで大回転と書いても意味は変わらんのですがね〜


 09において『白と黒のまだらの獣』この一文を目にした最初の時点で『ぱんだ!』と言ったあなたは素敵。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ