109 お土産を披露しよう
「ところでね、シューレに着くまであれらを売ってきたのでしょう?」
「はい」
「まさかとは思うが、全部見せたりしてないよな?」
「は… 」
リュックに手を掛けてた俺は止まった。
三人は椅子に座ってる。俺だけが中途半端に立っている。ほら、リュックを椅子に置いてるんだ。高低差がある方が見え易いと思ったから。
「………… 」
なーんも思い付かないんで、うにゃーんな感じで笑ってみせた。
「……そうか、見せてきたのか」
心臓にグサッと直撃するが負けるな!
「い、いいいっ 一度だけです、一度きりです! それ以外はありませんっ!!」
片手を目に当て天を仰ぐセイルさんに、目の色を変えたハージェスト。リリーさんは驚愕に目を開く。
『オーバーリアクションですって!』
心の中で叫ぶが、その姿に自尊心が疼く。
「本当に全部見せたの!?」
「誰に見せたっ!? 脅されなかった!?」
「見せたのは、最初のやっすい一袋分だけだからああああああぁあぁ ぁ ぁぁぁぁー … 」
椅子の後ろに隠れながら叫んだ。ずるずるしゃがんで視線から逃げる。しかし、否定の声は最後まで勢いを保てなかった。ダメだ…
サイドからの視線が突き刺さる。ガラ空きだから阻めない、前からのため息も遮れない。
「よく、本当によく無事にここまで… ! いえ、無事でなかったわね」
感極まったよーな、間違えてるリリーさんの声がいきなり落ちて怖い。
こそろ〜〜っと椅子の端から覗く。
片眉が跳ね上がって宙を睨む。上品さが全く損なわれていない分、蒼の眼が冷徹に見える分、めっちゃ怖い。怖さが綺麗でビクビクする。美人が怒れば夜叉になるって聞いたけど、そーゆーの見てるんかな〜〜。
いや、違う。訂正を入れよう。
ほんと〜うに ごきょーだいであらせられるのだー。
「ハージェスト、お前が金の管理をしてやる方が良くないか?」
「そう、でしょうか… うう… 後で話し合ってみます」
「だーかーら〜〜!! 最初で俺も馬鹿したって思ってるからー! その後してないからー!!」
立ち上がって反論した自分が自分でもガキ臭くて嫌んなるわ。
もう後には引けない、そんで引く必要もなし。 …ぽち、お前達の擁護はするから。ちゃーんとしてやるからなあ〜〜。
「そうか… 一番最初に着いたのがテーヌローか」
「あ〜 山の麓のどん詰まり。 あんなとこに!」
「そこに村があるのね? ごめんなさい、私そこまで詳しくは」
一人立ってるのが辛いので、リュックをどけて椅子に座りました。そして、ぽ〜ちに揺られて降りて来たあ〜とか言ってみた。
「家畜だと思ってたけど、なんか違ったみたいで。あの、そーゆー魔獣とか居ます? あああの、くくくくっ 駆除対象になったりとかは! 美味しくご飯にされちゃったりとかは!?」
考え込む三人様が… 打てど返らない返事が怖い。
「乗せて貰った… のよねぇ?」
「はい」
「村民に家畜としての覚えはないか…」
「捕獲に行ったなら」
「皆は山狩り行って、見つけたら家畜にすると! すると〜」
地元民無害意識だったよを繰り返してみた。
思案後のお返事は、「もしかしたら心話が可能かもしれない」だった。 …俺、魔力ないからさー。わかんなくてさー、ごめんよ〜 ぽちず。
「食べ難いから喋らない方が良いわ」
リリーさんのお言葉に色々思うが深く頷く。でも、ぽちずは止めて〜。
「誰かの召喚獣の 成れの果て… なのかも、ね」
低いトーンでため息交じり。視線を落とすハージェストの声に、 はぁ、 リアクションの取り方が難しくて。
「そいつらは死んでいたんだな?」
「もう埋めて来たと言われました。でも、数は合わなかったんです」
憂慮するセイルさんのお顔を見てると、もっと早く伝えるべきだったと思う。後悔する。ちょっと身の置き所がないです。自分優先で信頼とか信用とか… この前もこれを迷ったんだよな。進めず、一旦置いたら他優先で忘れたし。
それでも、ナンかすんませんみたいな。 …空気を読める自分がか〜なしーいっ。
「そうよな、日が経っているが確認させるか。ハージェスト」
「大丈夫です、その辺りを含めて行かせてますから。この後で連絡させておきますよ」
「そうしてくれ」
「あのそれでですね!」
「ん?」
「何?」
証拠物品出さねーと!
これ以上の後手は拙くて痛い。馬鹿でとろいって思われるのは勘弁してくれ!
「えーと、この辺りに」
アップリケ縫ったって言ったけど、おねえさん本当にすごい。何一つわからん。それでも目を凝らし続ければ、うっすら何かありそうな感じはする。思い込みに気の所為とか言われたらアウト。
リュックをテーブルにどんっと置きまして。
「ここ? 置くだけで良い?」
「ん、それで良い」
『この辺り』の位置にハージェストの手を置いて貰う。その手に俺の手を重ねる。それから、もう一つの位置。俺の認証を済ませてきた位置に、自分の手を置く。
「それから?」
「何もしなくて良いよ、俺がやるから。 んで言葉は〜〜 一言一句違う事無く… じゃなくて〜 そこら辺が合ってれば良いって言ってたからあ〜… 」
「誓約句に該当する言葉をそこら辺で済ますの? 済ませられるの??」
「うーむ… 曖昧で通るのなら設定が幅広いのか、それとも安易を前提に構築しているのか。違わぬ暗唱が怪しいとみたのかな? 既に組んだ構築に絶対の自信を持っているか、素晴らしいな。見習うべき自負の高さよなぁ」
お顔全体で「えー?」を表現してらっしゃるリリアラーゼさんに、実に興味深そうに見守って下さるセイルジウスさんのお言葉は綺麗に流します。
ええ、流しましょう。『暗唱』なんてぇお言葉は、綺麗サッパリなあーーーーんにも聞こえませんでしたよ、はい。暗記できない方じゃないと思ってますけどね? それでもリュックが無反応だったら、自滅じゃすまないと思うんだ。違う?
「第一認証者が第二認証者を定めます。第一位を認識して、第二位を認証して下さい」
ちょっとドキドキ〜ですが緊張はありません。ですが!雰囲気を忘れず、厳かに聞こえるよーうに努力して言ってみました。軽さは要りません。
………はい、特にペッカーン!とリュックサックが光ったりしません。何が起きてるのかわかりません、大変静かです。
「あ… れ?」
「ん? どうかした?」
「指先から… ? 一瞬。 いやでも… ごめん、気の所為かな」
怪訝そうな顔してた。
yes、yes、yes!! 聞いてきた通りなんで、次に進みま〜す。
…現状を変えるのに、少しだけ惜しい様な不安な気もする。 ん〜〜、用心深いって言ったらステキ。でも、ケチってのも合いそう。 や〜だねぇ、自分。
「第一位と第二位は同列位に付き、扱いは第一位と同じものと定めます」
では〜〜 いちにさんし ごろくしちはち く の じゅう〜〜〜〜。 にぃしぃななと。
よし、完了。
「終わったよ」
「え、あ? 終わり?」
「え? 終わりですの?」
「ちょっと待て、今ので何が終わったか不明だぞ?」
ふははは、俺もちょい不安。なので百聞は一見に如かずぅぅう!
「開けてみて」
「…わかった」
種も仕掛けもありません、俺以外には開けれません。既にわかってらっしゃる事を再度実演しといた。
そして確かにさっきまでは俺以外開ける事のできなかったリュックは、ハージェストの手でスルスルと紐が解かれて開いた。成功です。
「どうしてあれで開く? あ?」
「何でだ… 確かにちょっとそんな感覚はあったけど! そんな気がしただけで自分から流してないし!! おかしい、変だ… これのどこにある!? 流れの問題じゃないだろ、これは!!」
「わからない… 視えなくて… 魔力が通ったとしても、流れそのものの感知ができないなんて… どういう事? 感知できない状態? 私が? 嘘よ!」
「「「 ……………… 」」」
恐ろしい難問にぶち当たった顔してた。理解力に把握力の高さから難問である事を認識したらしい。わからない俺には、『わー、すげー便利〜』で終われるのにね。馬鹿じゃないって大変だね〜。
俺、しーらないっと。
んで、セイルさんの手ではどーやっても開きませんでした。認証問題だから無理だろう。セイルさんもそれは理解してるから、どっちかってーと構築方法調べて仮説を立てようとしてるみたいな?
壊れないとは思いますが、分解は止めて下さいよ?
……うひぃ! あああの、本気でお願いします! 一瞬、くらっとしそうな濃密なのが流れて弾んだよーな感じの怖いモンが見えたよーな気がしまして!! あんなん直に食らうと「うなあ〜〜」って伸びそうなんです。はは、こわ。
嬉々として、リュックを弄ってるセイルさんの姿に考える。
おねえさんとセイルジウスさん。
どちらが強いのか、比較方法がわからない。此処に来て、本当の力に触れたと、力の強さの実感をしたと思えたのはセイルさんだけだ。哄笑一つで揺らした力、普段から適当に抑えてるってぇ力。今も一瞬だけ感じたモノ。
赤の光に、玉の内に見えた光。
甘く見積もってもランクが違うと実感する。あれらとは、質も量も絶対と呼べるモノが違い過ぎる。
けど、おねえさんの方が上だろうな。どー考えても上だろうな〜〜、なんつっても!!
『暁に立つ、導きの女神様』
これがあの教えに従って、確立されたおねえさん像ですから。最も、ふふふふ。あの時のお勧めの仕方に、自分クエストに至る出題の仕方は忘れてませんよ。忘れてませんとも!! ふはははは!! 涙、出る。
さ、切り替え切り替え〜〜っと。俺は俺のするべき事に向かうのだ。
「これで俺が死んでも、その手で中味を取り出せるから」
「………え?」
俺を振り返ったハージェストは予想通りの顔をした。
よし、ビンゴだ!! 外してたら、ちょおおおっとイタくて大変ハズカシかったです。うむ、口に出さんで良かったな〜。
「何それ? …今の言葉は望ましくない、俺は望まない」
「そう? 必要な説明をした、それだけだよ」
「要らない。俺が居るのに聞きたいとは思わない。今の言、先の分は撤回を求める」
地を這った声が持ち上がり、真剣な顔で片手を伸ばす。伸ばした手で俺の手首を強く握り締める。
ふ、馬鹿め!
「フザけた事、ヌかしてんじゃねぇっての! てめー、自分が言うのは良くても言われるのは嫌だああ? どーゆー神経してやがる!!」
むっぎゅうううううう!!
「いだあああっ!」
いや〜、ほんとはグーパンでゴツッと一発やりたかった。でもまぁ、ご兄弟の前ですからあ? 自粛は要るでしょう。
何時か誰かさんが俺の頬をみにょーんと引っ張ったよーに、俺もハージェストの頬を引っ張った。むぎーっとね、片手だからちょい残念。
「俺が死んでも後へーき〜、とかあ こ、の、口、がぁ! 言わんかったっけぇぇ!? 俺に向かって言わんかったかあ!?
声高に非難するよか自分がした事、思い出せっての! そっくりそのまま返しただけだってんだよ!! 相手が言わなかったら、言えなかったら、した事ぜーんぶなかった事にする気か、お前! 事実あっても、最後は都合良く自分カットで忘れちゃうってかあ? されて自分が痛いってーゆーばっかの事に、どーやっても認識一致するわけねーだろ!! お前、やっちゃってんのに! あーーーーーー!?」
「いだいだいだだだ、痛いから〜 離して離して、はーなーす〜〜。 あー、たたた。 え、 あのさいやそんな気なくてあの時はだ」
「うん、何だって? あの時、俺が怒った意味の理解を今したとかゆーなよ。あそこで理解しとけよ、できてるか?」
「いやでもちょっと待った! 同じに見えてもそれ違うから!!」
「えー、何が違うってぇ!」
「手の状態考えたら優先順位は決まってるだろ!」
「受けたショックの何が違うー!」
「「 同じじゃない(か)!! 」」
「ん? あれ?」
「ぬ?」
同じ言葉に顔を見合わせた。
「…おなじじゃないよ、違うよ」
「…おなじだって、変わんないって」
否定で断定の『同じではない』と、比較肯定の『同じだ』が一緒に飛び出て重なったよーだ。ううむ、不測の事態だ。俺は(か)を言ったけどな。
そーいや、前にもコレしたな。
あん時とは〜〜 ぬーううう。 怒るっつーベクトルは同じです、向かう相手も同じです。相手をやり込める意も同じですが、わかってくれよと思って言ってるのも同じですがあ。
言おうとした感情に気持ちの持ち様は… 同じでしょうか? いいえ、同じじゃないでしょう。同じに見えてどっかが違うと思うんですよ。どうしてか?
分析、分析。ぶーんせきぃ〜〜。
自己分析は得意ですか? よーわからんですよーん。でもまぁ、世間一般の言葉を借りてゆーなら相手を知ったからでないかと。 だからこうなってんじゃないかと。 違うかなぁ?
…………考えずに感じるよーに直感だけでいったほーが正解? 正解はしたけどね? してるけどね、肝心なのを。そう俺、すげー。 んだけど、直感だけじゃあ人は進めんでしょ? それだけで良いなら思考なんて要らんのと違う? 話す時に話さねーと。 基礎がわかんねーと数学ってわかんなくなんね? それと一緒だろ?
ダチとどこまで話せる? どこまで話せるダチが居んの?
これってぇ、意味は同じですか。
ぼっちが怖かったんで考えますけどね、俺は。
「ねー、俺としては怖かったんだよ。この状態で一人にさせるなんて絶対できない話だから! 心配で心配で堪らないし、居場所や居心地の悪さで泣く事になったら冗談じゃない。だけど、渡せるメダルがないしいいいい! だからね」
「わからない事はないし、気持ちは有り難いと思ってる! 思ってるけど、あんな簡単に死ぬとかさあ!」
「だって、死んだ後ってのはキツいんだよぉ! 後から後から思い出すだけでクるんだよぉぉっ!!」
「死ぬってのがキツい事だってのは知ってるよぉぉっ!」
二人でうだうだぐるぐる言い続け、ハッと気が付く。
「…あ」
冷や汗たらりで勢いよくグリンッと振り返る!
既にリュックはテーブルに置かれ、こちらを観察体勢で見てる笑顔のお二人がいた。 …二人して何を話してんだろー? ははは、お茶の一つも出してないのが申し訳ない感じ。
「あら、もういいの? 終わって?」
「ちゃんと言いたい事を言えてたな。ああ、実に良い傾向だ」
「ほんとだわ。始めの頃とは雰囲気も変わってきたけど、どこかで遠慮している節が見えてたもの。溜め続けると良くないと心配してたのよ」
「思案してのやり返しの溜めは気にせんぞ」
「好きなだけ言え、躊躇わず言え、言わねばわからん。お前の意見をちゃんと聞いててやろうなぁ」
片手を下から持ち上げて、『さあ、言うが良い』のポーズをする。
キラキラ笑顔に見せかけたどっか完全に笑っちゃってる笑顔で、そんな事言われてもできる訳ないっしょー! 恥、恥、恥!! ぐはあああっ! ナンか精神値、がすっとケズられたんですけど!!
「…言い方悪かった、ごめん。アレ出してって頼んでも、出せないのはどうかと思うんだ。他の人が取り出せないのは安全だけど、逆にあるのがわかってても取り出せないのは痛いと思う。
後、この中どこまでも入るわけじゃないから。許容量超えたら入らないし、重くて持てなくなる一品だから」
「わかった、有り難う。俺も気が回らなくてごめんよ」
覗き込んでくる顔にうんうんと頷く。後半は、お二人にも向かって言っときました。
「後でウエストポーチもしよう」
「ほんと? ん、了解」
早く前に進みましょう。ターン替えで恥を流して本題で忘れて貰うのだ!! さ、中味中味。
カチャン…
「で、これがその方達の所持品だろう洋灯です」
「なるほど」
「まあ」
カチン! カチャ、ボッ…
「ほうほう」
セイルさんが火を点けました。迷いがありません、手順は全く気にされません。俺とは違う。
「それで貰っとけと言ってくれまして。持ってきて使用してましたが本当に良かったでしょうか」
「そうねぇ、遺品ならご家族に渡すのが一番だけど」
「難しくもあるね、そいつら何してたんだか。外から鍵を掛けたのかぁ… ふうううん。 何にせよ、君が無事で良かった」
ポッ… パァァアアアッ
火が消されて明かりが灯りましたが。
「…みぎゃっ!」
光の攻撃がキツいです! 最大光量にしても、こんなに眩しくなかったよーな!! ちょっ、早く消してぇええ!!
「眩しっ!」
「よっと」
「お、すまん」
「形状のラインに特徴がありますわね」
「耐久性ありますね。兄さん、刻印は?」
「外にはない、内か。分解すればわかるか」
あ〜、目がしぱしぱするよ。
「これ、証拠物品として預かって良い?」
「ほぇ? あ、どーぞ。返さなくて良いです」
「助かる」
にへっと笑って、ありそーでなかったよーな所有権、さよーなら。さよならが無難じゃないですか。そして、ぽちのここ掘れ玉も出す方が無難じゃないでしょーか。無難でしょう、そうしましょう。
「あの〜、その時にですねぇ」
「どうした?」
「何かしら?」
リュックの内ポケットを〜 ごーそごそと探りまして〜〜 どこ行った? 出て来い。 お、これか! 玉、見ぃ〜けっ。
「これを」
「何これ」
ポイッとハージェストに渡す。
「それ、別件だと思うんだ」
「ふ〜ん、示した場所にあった」
「そう、俺が見た時はなかった。ぽちが首突っ込んだらあった」
「ぽち?」
「あいや、つい名前を。 あ〜、『此処!』と当たり見つけて掘り出す犬の童話から取ってみたり」
「面白そうな話だね」
「掘り出すの? 埋まってる宝石を見つけるの?」
「そうです、埋まってるお宝を探り当てる犬です。 …そういや、嫌な人には嫌なもん掘り出してました」
「嫌み返しするんだ、竜と一緒だね」
「どこも変わらんな」
「「「 はははははは 」」」
「ほんとだわね〜、ほほほほ」
皆で和気藹々ってイイネ。
「あった!」
更にごそごそして、あの読めなかった手紙を発見。 …くっしゃになってる。破れてないから良いはずだ、きっと。
「これがソレと一緒にあってですね」
「どれ」
差し出すセイルさんの手に、はいどーぞ。
「ほう、古文体か?」
「紙はまだ新しそうね」
「誰かの内緒話の路線かな」
そして、目で読み進めるセイルさんの表情が。
だんだん、だんだん… 目が細まって、唇が持ち上がって。
最後本気で笑ってた。
完璧な笑顔で笑ったが、大声出した笑いじゃない。腹の底からにんまりするってぇか、込み上げるのが止まらないってか。
清廉潔白とは真逆な方向性の笑みに見えた。それ以外に見えなかった。でも、どーしよう? その笑い顔がイケてると思うんですよ! ビビると同時にドキドキするんですな、これが。
これは… これはやっぱりアレですな。敵対してる相手じゃないから。何時かこんな風に笑ってみたいよーな、似合わんからやめとけって思うよーうな!! しかし理性と弾けが手に手を取って、ひゃっほーな感じがああ!!
実にイイ感じのときめきじゃないかと。
「速記体を交えているがな。リリー、読んでみろ」
「あら、良くて?」
「お願いします」
俺への問いに、へらっと笑う。
「なら、声に出して読みましょう」
三人が推測を交えて話すには。
どーも、手紙と玉の持ち主さんは、流れ流れてあの山奥で隠遁生活か逃亡生活をしてたよーだ。ここ数年の話じゃないのは確かだから、どっちか不明。恨み節が籠もったお手紙でした。
「廃村だったのでしょう?」
「はい、アントン爺さんが『か〜あそー』で終わりって」
「そこで死んだか置いて立ち去ったか、わかれば重畳」
「山越え路線はありですね、若い奴なら行くでしょう。これも調べさせます、帰還予定は伸びますが構わないでしょう?」
「予定は構わんわ、金が要るなら使え。現地の者も動かして良い、頼んだ」
そして玉は。
セイルさんが握って開けば、あら不思議。綺麗になったよ…
「あれって普通にできるもん?」
「いや、俺には無理。無理無理無理。再稼動させるのは他の奴でも可能だけど、あんな短時間無理。耐圧だけできれーに封を弾いてるしさー、解除じゃないんだよねー。ほんと器用」
達観した顔と、涼しい顔と。
金の髪、蒼の眼、似てる顔立ち。年の差からくるモノは仕方ないにしても違うモンだね。 違うんだね、変わらないのに。
セイルさんの手で輝きを取り戻した玉は。
お空からふわふわ降りて来た女の子の胸でキラキラ光ってたお宝のよーに、一方向に向かって光をぺっかーーーーんと!!
スイッチ入ったらしくて、壁にナンか映し出してた。
「見取り図だわね。 …どこの家かしらぁ? うふふ」
「何枚出るのかな?」
「この持ち主は、どっちを向いていただろうなぁあ」
みーんな声がうきうきです。笑顔にんまり、にやにやです。
リリーさんは映し出すとわかったら、いそいそと部屋のカーテンを閉めにご自分で動かれました。フットワーク軽いです。
カッシャコン、カッシャコンと音はしませんが、セイルさんの操作で次々と映し出されてます。
データ内蔵可能型プロジェクター。
映写機さん、かっこいー。ぺかぺか映し出すが俺は字が読めません。わからんままの羅列記号の暗記なんて無理です。展開に付いて行けないんで詰まらんです、はっはっは。
早く文字の勉強しろってこった。
セイルさんの手元を観察してみるが不明。ハージェストがしてくれた時と同じ感覚はしないかと、目を凝らし気を付けても不明。セイルジウスさんの場合は、さっきみたく力がドバッとじゃないと〜〜 あれが漏れで瞬間な訳だろ〜? はぁ… 力使うのも上手なんだろな。
諦めて前を向いた。
「あ! あれ、紋章だよな!?」
「そうだよ、よくわかったね」
一番最後に映し出されたのは紋章だった。教えて貰った追加情報が脳内ぺこぴこ点滅します。
「あ〜れ〜は〜 公爵家だ!」
「そう」
「当たりよ〜」
「覚えてたな」
誉められました。
現在映し出されてる紋に二重円は見えません、ありません。縁はぐるっと丸してる、一重です。それもちょっとズレてますよ。
鹿っぽい動物の顔です。角が二本、生えてます。正面、斜め四十五度の角度とみました。お澄まししてるよーな、小馬鹿にしてるよーなどっちにも取れる顔が映ってます。
では、問題。
『子爵を示す一重円、しかしこれは公爵紋。なーんでだ?』
ふ、嫌みか誤摩化しだ。俺はこの歪んだ縁取りに重きをみない。正式な場所や物なら絶対にこれはない、あったら間違いなく色んな方面がアウトでしょう。
エルト・シューレの紋は図柄もすっきり。円も普通に二重線。王家由来はシンプル紋。でも、この円線自体を蔦にするとか、アレンジ加えまくったお家もあるって。 ……図柄が好みじゃなかったら、縁取りに力を入れるのもアリかもね。
では、答え。
鹿の角が公爵を示す斜め上、左右の切れ込み線に該当するんでーす。今回のは、円はどーでも角でわかれ!で〜す。こんなのに引っ掛かりませーん、初級ですよ。 にゃは。
「うふふ、嫌だ。楽しいわ〜」
「あそこか〜、ふははは。何時のだ、これは」
「貧乏放置なシューレでも一応は王領でしたけどねぇ? ああ、違うか。王領だからか」
やっぱ付いて行けません。しかし思う事があるので聞いてみましょう。
「あのさ」
「あ、何?」
「それ、イイもん?」
三人が実に良い笑顔になりました。
「もちろんだ、こんな愉快なイイものはないぞ!」
「ほんとよ。他人の家の噂話も不祥事もある程度は面白いわ。でも、こーんな証拠を押えたモノになると愉快過ぎよ! ほほほほほ!」
「確証出しをどうするかは別だけど、この手のモノはね〜。その時の始末の付け方と現状で、『今』をひっくり返す事もできる。その見極めをしないと使えるかわからない。けど、 だ〜け〜ど〜ね〜〜 あはは!」
三人の煌めく爽やかな黒い笑顔に想いを深めた。
「つまりさ、これ金になる?」
「ん? あ〜、なるね」
「そうだ、いかん。これはノイの物だからな」
「あら、いけない。でももう知っちゃったわ」
「いえ、そうではなく。その話ではなく」
「え?」
「何だ?」
つまりだ。
俺が奴隷印を押される事なく、ハージェストにこのシューレで会う事も無く、一般ピープルとしてえっちらおっちらランスグロリアに向かってる途中か、もうええわと自分生活始めた時にこれを人に見せたらどーなった?
「封がされているのはわかる、外せる者もいればできん者もいる」
「そうねぇ… 幾つか考えられるけど… 手出しを控えて引き取りを願われるか、警備兵に連絡が行くか。下に落ちるか、商人に回るか。商人がどれだけ力を有していて、鈍いか聡いか。出身地に個人心情もあるわねぇ」
「兵の方なら領の繋がりが前提になる。個人になれば性格もだよ、そっから恩と利潤に保身を弾く」
サラッと返ってくる。
「これ、出しドコロに依っては危険?」
「そうね」
「そうだ」
「うん、良かった。そんな事にならなくて」
間髪入れない三人の真顔に思う。強く思う。
ぽち、こんな怖いお宝要らないから。これ、お宝じゃないよ。お前達と話せない時点で俺が魔力無しってわかったろー? 魔力使えない人間に、要、魔力なお宝くれても危険なだけだろ? 巡り巡って危険が回ってくるだけだから、こんな怖いの出さないでくれる? アイテムget〜とか浮かれた俺、馬鹿じゃね?
しかもこーんなに怨みの詰まったモンを日の目に出して良かったんか? ほんとに良かったんか? …ああっ!俺、のろ、のろ、のろ! ノロウイルスじゃねぇ!! 呪われてないよなっ!? お日様にっこりこんにちは、したんだからあ! 普通は有り難うだよな!? あのまま時の中に埋もれて眠っていたかったとか、そんな事ないよなあああああ!?
「ど、どうした!? 気分悪い?」
「なんか上がり下がりしてるみたいだけど… 大丈夫? 横になる?」
「水でも飲むか?」
色々言われるが聞いてみる。聞くのが先だ。先決だ!
鹿さん家とは犬猿の仲でもなく。可もなく不可もないそうですが、グループ別けすると嫌いな部類に入るそうです。
「家として対立をした事はない。表立ってはないがなあ」
……トキメキを覚えた素敵な笑顔ですが、煮詰まり過ぎると危険ですねー。ほーんと危険。
馬鹿ではないのーみそが様々な分岐を弾き出します。
どっかで売って、玉に手紙が巡り巡って鹿さん家に収まって一安心。じゃなく、最初に持ってたの誰だで俺が引っ張られる。文字が読めない、教養に常識なしで無罪放免お咎め無しなら良い。
だが、そこでハージェストの名前出してたら。
お迎え来ただろか? ほんと来てくれただろーか? 来てくれたら今度は身代金請求とかあるだろか? 俺の命と引き替えに忘れろとか? これは作意かと家の問題発展にならんだろか? それともそれとも〜 やっぱ死人に口無し。デッドエンド?
考えて作り出せる分岐点ならどこまでも!! つか、この前聞いた内容ほとんど踏襲してんじゃねーか!!
「あ〜〜 それがないとは言えないな〜」
俺の問いに目を閉じたハージェストは、軽い言い方でもデッドエンドを完全否定しなかった…
「何、そんな心配するな。それは仮定だ、現実じゃない。今、此処に居る。そしてメダルもやる、大丈夫だ」
「そうだよ、生み出されない仮定に怖がる必要ないよ」
「そうよ、そんな事態に向かってないわ。運は良くも悪くも巡るものよ、ね?」
慰めてくれる言葉に、頷きつつ頷きつつ思う。
巡る運は良いんだろか? デッドエンドを躱せても… 逆にそっちでも奴隷エンドが発生しそーな気がするが良いんだろか? どの道、奴隷ルートは必ず発生したんじゃねーのか? あああああああっ!?
…ぽちから貰ったお宝は、お土産ではない。
ないが見せる方がましか? …ましだろう。くれたのが、ぽちである以上。そして犯罪臭が漂うアレも、あそこから引っ張り出すべきだろう。時を外すと終わりだな。
披露するのが一番ですヨ。
後から後から、すんません。するなら纏めて出せって言われてましたが、まだ時間的にはオッケーですよね? とろくないですよね?
丸投げするんでお願いしまーす。あざーっっっっっす!!




