108 お土産を渡そう
ザンッ!
「グゥウウ」
「キューイイッ」
「よしよしよーし!」
「お疲れさん」
力強く道を駆け上ってきた竜達に掛ける声は、親愛に満ちている。
竜達は賢い。門を抜ければ、足並みを常歩に変える。仮住まいである竜舎の前に着く頃には息を整え終わる。そして、号令等なくとも止まって待つ。
その後、騎乗者、もしくはいつもの人間に帰ってきた後の世話を省くなよと、じっと静かに意志を露に見つめるのだ。
「全員、ご苦労だった。情報の交換に取り纏めをしておいてくれ」
「はっ! 連絡は必ず回します」
「例のモノの適合性を再確認しておきます」
部下に頷き、振り仰ぐ。
「ソールも有り難うな」
『否、同』
寄せてくる鼻面を撫でれば、嬉し気に目を細めてくれたが… ああ、見慣れてないと凶悪だな。
ビッチャ、ビッチャ ガラン、ガララッ…
「ガゥウッ!」
「あ! アーティス! …いや、何でもない。ちゃんと休めよ〜」
器に頭を突っ込んで水を飲んでいたが、どこかに走り出ようとする。ちょっと待て!と思ったが、既に休んでいる竜の元へ戯れつきに行っただけだった。
この頃は本当にアーティスも構ってやってない。放任する気もないが、アーティスにもサイクルはできてるからなあ。 うーん… 家の中だし良いかあ。
「これで終わりっと。ソール、もう少し待ってくれ。ちゃんと紹介するからさ」
「グゥアアア〜 ア〜アア」
…思いっきり、そんな不満な声あげなくても。
『遅、遅、遅』
「そんな事言わずにさぁ、体調不良もあるし」
『…弱? 弱、貧。 弱、虚』
「いや、そこまでは。ほら、手が… や、ら、れ てたろ」
『……弱、最』
「いやいや、そっち違うと思うから!」
『然?』
「うん、会えばわかるよ」
『……待。 会、見、楽』
「はは、ありがと。俺も会わせる時を楽しみにしてる」
『承』
頷くソールに手を伸ばし、ポンッと叩いて今日は終わり。
「疲れてないか?」
「クア〜〜」
他の竜にも軽く声を掛けながら、竜舎を出た。
館へと戻りながら、安堵に息を吐く。
は〜〜、ソールの機嫌が変に落ちなくて良かった〜。とりあえず、約束をしたから良しと。
カサッ…
手にした上着の内で鳴った音に、自然と顔が綻ぶ。内側に手を入れて包みを取り出す。 ………皺が寄ってた。
わあ、しまったな。そうならないよーにと上着脱いだのにな。 あはは。ま、仕方ないか。
それでも、リボンに包みを少しだけ引っ張ってみた。
「ただいま」
昼食は早めに摂り終えたと聞いたから安心してた。もしや昼寝してるかな〜とか、運ばせた寝椅子は気に入ったかな〜とか、浮かれた気分で部屋に戻った。
「おかえり」
返ってきた声は淡白で低かった。視線がじっとりなのにビビった。
「ど、どうかした?」
「ここ、ここ座れ」
テーブルを軽くぺしぺし叩く姿に、なんで機嫌が悪いのかわからない。『何があった!?』と聞き返したいが無駄口は叩かない。素早く移動して椅子に座る。
座らなくて、どーする!
「昼飯食った?」
「うん、食べた。え? 食べてるよね!?」
「食ってる、何食った?」
「え? えーと」
帰ってきたら聞いてやろうと待ち構えてた。そしたら聞いた内容に怒る隙がなくて、逆に自分がガキっぽいとへこんだ。
竜に乗って領主館から出た後は、下へ降りたら東へ移動。それから南へ移動した。南へ行った理由は、そこで不審物の魔具が設置されてたからだそーです。ブツは既に撤去済みでも、周辺住民の体調とか不審者割り出しの調査とか、ハージェストは現場へ行ってないから見て来ようとしたんだと〜〜〜。
どこまでも仕事が付いて回ってた。んじゃなくて、仕事に行っただけじゃねーか。ソールとお散歩ってナンか違う!
「一応、携帯食も所持してたけどね」
数名様で連れ立っての巡回に、現場で確認してたら、住民さんが寄って来て話をする内に何時の間にか「昼飯をどうぞご一緒に」になったって…
「ここは兄さんの領だけど、ランスグロリアの竜騎兵を大々的に入れたのは今回が初めてなんだよ。周囲との兼ね合いもあるけど、住民に恐怖だけ与えるのもアレだしさ。親近感はあった方が良いから、適当な所で俺がやっとかないと」
近くの警備兵さんが大急ぎでやってきて散らそうとしたけど、皆で近くの食堂に行ってご飯を食べたよーだ。
『ここら辺だと、この店が美味いんです!』
『きゃあ、私達もご一緒させてください!!』
『大人数でもイケます! 竜もあそこに繋げます、見えますから問題ないですよ!』
『おい、親父!女将さーん! 出て来いよ〜〜っ』
『場所も空いてっだろー! てか、空けろ〜〜っ!』
それ聞くと俺も行きたい。
食事が味気ない、なんてぇ事はぜっっっっっったいにない上に実に美味なのですが! そーゆーのには俺も行きたいと思います! …実際一人で行ったら、それ程でもないよーな気がするけどな。やっぱ人数に雰囲気でしょー。 …コンパじゃないと思うけどコンパか、これ?
「で、そこの一番のお勧めってのを食って来た。 …持ち帰った方が良かった?」
「……んにゃ、いい」
これは接待された方だろーが… した方にも入るんか?
「あ、それでね。これ、お土産」
「へ?」
「開けてみて」
「……… 」
笑顔で差し出すのを受け取った。
シュルリ…
カサッ ガサ…
騙されても誤摩化されてもいないと俺ののーみそは頷いてる。小さな軽い包みを開きながら、最初の思考が完全にブレていくのを理解してる。
「どう? 合ってる?」
「…ん、合ってる」
出てきたのは手袋だった。
夏仕様のレースの手袋。包帯を外して着けたら、ぴたっと密着良い感じ。
「よくこんなに早くできたね… すごいよ」
「ああ、それ。レースは既成の分を使ったんだ。さすがに既成使わないと仕上がらないって、訂正入れたのこの間だよ。
既成の分に指の長さや大きさの調整を掛けて編むんだ。腕が悪いと繋ぎ目が目立つから職人の力量が問われるけど、レースだけじゃ弱いし手を入れ難いだろ? デザインを兼て補強生地を使う。大体それで繋ぎもわからない、時間惜しさにそっちにしたんだ。この分を急げって指示してたから、できてないかな〜って。持って来るの待てなくなってさ。 あ〜、良かった」
「……そ、なんだ。取って来てくれたんだ。 ありがと」
指先カットの真新しい手袋。
総レースではありません、汚れが目立つ白でもありません。単調な編み方でもない。…言ってはならんが、包帯を上から抑えるネットな感じか、お嬢様風を想像してヌルく笑った俺は!! ダメらしい。
手袋をした手を何度もひっくり返して見た、離しても見た。手の甲を撫でもした。
うむ、大丈夫っぽい。
レースで印は〜〜 なんか見えるっちゃー見えるけど隠れましたな。
引き攣って見えた部分は、やっぱり引き攣って見える。これは魔力に依るモノだと、普通ならこんな引き攣りは無いって言った。だから、ここに凝った魔力がなくなれば引き攣りもなくなる… はずなんだ。
『昔はあった、だが今では肉身を焼く烙印は使わんよ』
そう、セイルさんは話してくれた。
無実の罪の考慮もあるが、焼き印からくる肉体の損傷が云々と言った。重犯罪者であるが故に手当を怠り、放置し、膿めば臭って弱るに任せてそれが元で死んだ実例もあるそうだ。その点、魔力印なら死ぬ事はないと鮮やかに笑って言った。
ふはははは。 死なない以外にも含みがあるよね〜〜〜〜〜〜。
「む〜〜う」
「 あ… 」
「ん? どーかした?」
「いや… 同じだなあと」
「は?」
「あの時も 何度も、そうやって手を返して見ていたから」
「……はい?」
ナンだかなぁの笑顔の中に、どっか感傷が入ってる。俺を見ながら俺を通り越した、どっかを見てる。 なんつーんですかね、これ?
手を返して見てた、何が同じって? あ?
自分思考に唇がみょ〜うに上がるけど、なんか疲れるな。
「それで、なんで機嫌悪かった訳」
「う」
ぐはあ〜、ガキの言動の取り消しができませんので痛いです。誰か心臓マッサージしてくれません?
じーと見れば、じーと見返される。
「…昼のデザートにゼリーが出た。黒い、いや、多少薄か… ったよ〜うな、黒いゼリーだった」
「それが不味かった?」
「ゲキ不味」
「え、ほんとに不味い!?」
じーとじーとじーと見てボソボソと訴える。
「俺はアレを食ったのに、ハージェストは食ってない」
「……え?」
口を開けて驚いた顔をした。 …ナンだ? ナンに驚く? 驚くなら食ってからだろーが。
「黒いゼリー… そうか、薬湯のゼリーか!」
知ってたんかよ! 笑顔で言うな!!
「それだ!それが不味かった!! 半分、残してやろうと思ったけどな! 全部、ぜ ん ぶ 食ったよ… (涙目で!) 」
「あ〜〜、そっかあ… でも、薬湯飲むよりマシじゃなかった?」
しれっとした笑顔に引き攣るが!! 拳を振り上げたくなるが!!
「あ〜〜、まぁまぁまぁ。 そ〜れ〜は〜 否定しない。 前に食ったゼリーよか固かった。でも口ん中もごもごしたら潰れたから、喉に詰まる事もなかった」
「うんうん、問題なく食べれたんだね。大丈夫と聞いてたけど、あ〜、良かったあ」
待て、問題あるだろ!
「あれね、料理長が試行錯誤して作ってくれたんだよ」
「はいぃ?」
あんなモンで試行錯誤せんで下さいっ! 料理長さん、何考えてるんですかーーーっ!
「あ〜、ほら。例の奴ら。まだはっきりしないのが上手く飲めなくて。飲み零すんだよ、ダラダラと。面倒みてる医者の弟子達も、役目に仕事と言っても何度もされると… どーしても気が滅入ってくる。彼らも飲ませるのに工夫してたけど駄目だったし。そんなんで潰れるなんて冗談ぽいだよ。
彼らの治癒式も考えたけどねー、やるだけ無駄なだだ漏れの感じが強くしてさあ。そんなのでやらせて成果が出なくて、最後は方向性が違っていたと判断できたら良いよ。成長だよ。でも、自信喪失だけになるとほんと冗談じゃないっての。
少しでも楽をさせるのに、薬湯を固形化する事にしたんだ。固形なら少量でも腹に溜まるからね。零して落としても直ぐに潰れない固さ、でも、喉に詰まらない固さを維持するって事で。
だけど薬湯の成分なのかな? 普段ゼリーにするのに使ってる物じゃ、何でか固形化が上手くいかなかったんだと。試しに更に煮詰めたり、薄めたり、他の物を足してみたり減らしたりと、医者と共に四苦八苦してたそうでね。 いやー、夜中に素晴らしい臭いを纏ってたって言うからさ〜」
「へ… 」
俺が口をかぱっと開けた。
あの黒薬湯Xを更に煮詰めるぅう? ナニを足したってぇの? 聞いただけでも震えがくる、恐怖を覚えてぶるぶるするぞ。
『栄養補助食品、作成』
ぶるぶるしたのーみそがピックアップしたので、ぷるぷるしながら頷いた。必要に迫られて作成されたのだとわかれば涙出そう。
「上手くいかない話に姉さんが激励しに行って、ステラも知ってる調理法の説明をしたって。そこから知恵を絞った料理長が最後は一人で完成させた。
この試行錯誤に『とろみ』の感性を完全にモノにしたから、餡掛け料理もどんと来いって喜んだってステラが言ってたよ。試作を重ねたらまた作るだろうから、今度はきっと希望する蒸し魚の餡掛けも食べられるよ」
「え? は… はははは、それほんと?」
「ほんと。あの頑張りには報いるべきだから、兄さんが何か欲しいかって聞いたらさ」
「何?」
「この夏、食材使い放題取り寄せ可」
「つかいほーだい、とりよせか〜〜〜」
「そ、竜騎兵もいるから、普段より使う食材も種類も多くなって大変なはずなのにねぇ? 色んな食材を試しまくって腕を上げたいと願い出たそうだよ。味の探求に余念のない、確かな料理人だった。いや〜、ロベルトも積極的な良い人材を雇ってたもんだ。
俺が言うのもアレだけど、どう言い替えてもシューレは貧乏領だから。兄さんの前の領主はどーでも、今は使い放題なんてロベルトがさせるはずもなし。この地域に根付いてない調理法だから酷だけど、リクエストにピンとこなかったのがキてたかもね」
かる〜く手を振りつつ話す姿は、にこにこ笑顔。俺も自然に笑顔になるが、変な笑いになるのを止められない。 結果、オーライ?
「薬湯減らして食事に重点を置く事に切り替えたけど、料理長が心配してくれたみたいだね」
りょーりちょーさん が しんぱい〜〜。
覗き込むハージェストに、もう俺だけに食わせやがってとは言い出せない… 言ったら負けだ、俺の負けだ。ぽきっと折れる。
「俺が食べてないから怒ってたんだよね?」
うおおおっ!
『そう、そのとーり!』
こう叫べたら、どんだけ気持ち良く楽になるか! しかし、言えませんがな。だから、代わりに曖昧な視線を飛ばしながら頷いた。正直に頷く事だけはした。
「有り難う、心配してくれて」
ん?
ちろりーと見たら、嬉しそうな笑顔のまんまだった。
「以前も俺の体調を心配して、一緒に飲もうって言ってくれたよね。気を使ってくれて嬉しい、優しいね。後で俺もゼリー貰うよ」
ほぁあ?
ボケかける顔を無理やり引き締める。 がぁ… そーいや、あの時シェアすんのにそーゆー事言ったな。 …間違いなく言ったな、道連れにすんのに。
えへらっと笑う。
こいつは勘違いをしたんじゃない。過去の実績を引っ張り出して、それが継続されていると理解しただけなんだ。そして俺は、えー… えー、俺はそれを肯定した したんだよな?
だから、俺は騙していない。そして、こいつは騙されてない。そんなつもりは一切ない!! ここに思い込みも履き違えもないだろう! うむ。
そうと知るには俺のココロの中をだなぁ…
ちろっと見た。
俺を見るハージェストの目。嬉しいと言って笑う、あの目。
あの目は本当に気付いてないんだろうか? 気付いてんじゃないのか? 心配で怒ってたんじゃないってのを理解した上で、あっちに話を持ってったんじゃねーの? だって、ハージェスト馬鹿じゃねーだろ?
俺を見る、あの目が読み切れない。
見られてる、んで読み切られてる。 そんな事を意識する。
したがしてもナンも変わらん。
あの笑顔の影に腹黒さは見えねーっての。
ので、にへら〜〜〜っと笑って流しておこう。ハージェストも黒ゼリーを食う。俺の希望通りの展開に、何のケチをつけようか。つけるモノなど何もなーいっ!
「ん、後で良いから食べといて」
「そうする」
二人して、笑ってイイ感じで黒ゼリー(初回)を終了しましょう。
黒薬湯X 滋養強壮、体力回復。元気になったら終わって良いです。栄養ドリンクとは一線を画します。食は命、食事を取るのをお忘れなく。
セイルさんとリリーさんが来るまで、魔力を籠めて魔力手袋の作成をしようと言ったので大賛成。しかし、隣にいたら精神集中の邪魔でないか?
「そんな事ないよ、むしろ隣に居て」
「へーき?」
「もちろん。籠める時に感覚を掴めるかも知れない」
「そーか!」
慣れ、慣れ、慣れ。慣れですね!
ハージェストの魔力に慣れて纏って使う感覚!! よっしゃー、やるぞ!
椅子でも良いけど、まぁちょっと。二人してベッドに行く。ベッドにどすっと座って胡座を掻いて、正面向いて互いに頷く。
「じゃあ」
「おう!」
コンコンコン!
「お越しでございます、よろしいでしょうか?」
「「 あ 」」
揃ってドアを見た。がっかり感で首かっくん。
セイルさんとリリーさんが来たよーですので残念終了、また後で〜。
「とりあえず」
「ん」
手袋を嵌めます。
決めポーズはありません。ちょっとしてみたい気もします。こっそり見られてない所でしてみよーかな?
包帯外したんで手袋します。
何より貰ったよってのは着けて見せとかないと。 …いえまぁ、これからずっと見せる事になりますけど。こう〜 貰った物は時間を置かずに身に着けて見せるのが礼儀じゃないかと。 思ってみたりぃ? そーゆーのが相手に対する気遣いではないかとぉおお?
「遅くなった、すまんな」
「待たせて? あら、良かった。ハージェ、帰ってきてたのね」
笑顔のセイルさんとリリーさんのお出ましでーす。やっぱ並び立つと華やかってかあ〜、ゴールドゴージャスな。リリーさんの長い髪が緩くうねってるのもあるんだけど。
………うわ、しまったやまったどうしよう。
リリーさんを前にすると、あの桃色真珠小粒過ぎて淡くて霞みそーな気がする。すごくする、間違えたかも。 ……あっちの金と黒のゴージャスのが合ってねーか? あ〜… あっちが絶対合ってるわ。
「いえ、朝から無理なお願いをしました。忙しいのに時間を取っていた、いた、 …い た だ き、ありがとうございます」
なんで舌カミカミしちゃうかな〜、俺はぁ。やっだなー。
「さて、何を話してくれるのかな?」
「お話してくれるのは嬉しいわ」
俺の読み通り、二人はまず手袋を見て「できたか、良かったな」と「ぴったり? 似合っててよ」と言ってくれました。嬉しいってもんです。
ぺこ〜っと頭を下げる。
そして、コレは何度考えても拙かろうと思うのでお願いする。
「今回は見て、いた だきたい物があります。申し訳ありませんが、ステラさんはご、ご、ご遠慮願います。必要があればリリーさんの方からお話して下さい」
コレでどうだ!!
無事、無難にステラさんがお部屋から出て下さいました。
困った顔をされるかと思ったけど、あっさりさっくりメイドさんスマイルを維持して出て行かれました。…嫌われてないよね? ね?
「慎重だな、何かな?」
楽しそうな顔が変なプレッシャー与えてくんなぁ、はは…
では、お土産を出しましょう。
隅に置いたリュックを取ってきて、座ってた自分の椅子に置きます。昼飯食った後はゼリーで撃沈して嫌んなって、全部片付けました。出し直しになるけど、そっちの方が都合良いし。
「はい、お土産があります」
「え? お土産?」
「ん、お土産。 えー、先日お話しましたとーり、特別枠で頂きました。預けてるあれらは一部で、どっちかってーと換金用の惜しくないブツです。なので、こちらの良い方の物を全部見て頂こうと思いまして」
「……待て!」
「ひえっ!?」
椅子に座るセイルさんと、リリーさんを交互に見ながら話してた。セイルさんの重く鋭い制止に心臓がビビりました!
「…鑑定預かりしているあれらは、持ち物の中でランクが下だと言うのだな?」
「は、 はい。そうです」
「で、良い物を別に持つと」
「はい」
「それらを全部見せる?」
「そーです」
俺の返事にセイルさんは、テーブルに肩肘ついて手のひらで額と目元を覆った。リリーさんは「あらまぁ、どう… 」とか言われつつ口元にそっと指先を当てた。その目が何だか…
グリッと隣のハージェストを見た。
かるーく気持ちがボケてるのか、ちょろっと口が開いてる。 …皆さん、一体何のポーズで?
「それはだな、危険行為だ」
わしわしと頭を掻く、どっか脱力した感じのセイルさんがいた。
「そうよ、それはあんまりお勧めできないやり方だわ」
「いや!信用して言ってくれてるんだよね!? うん、それは嬉しい、ものすっごく嬉しい! けど、それは危ないってわかってる? ほんとにわかってるー!?」
三者三様の… トータルすれば全く同じ体で止められました。 えー、果たして俺は、このリアクションをどう受け止めるのが正解でしょう?
「いいか、人という者はだな。金に集るモノだ。本当に少額なら奢り奢られ返す良好を保てもしようがなぁ… その辺は痛くない程度なら構わない。が、積もり積もっての場合を忘れるな。
本当に金があるのなら、タカるよりムシるぞ。
それもだな、金があるならこの程度痛くないから良いんだと、多少減った所でわからんと、アレは俺の財布だと、自己満足の身勝手な考えで礼の一つも言わずに使って当然と盗み同然に持っていくぞ。親兄弟でもやる奴はやるからな、仲間や友達と言ってた奴が殺しをするのもある事だ。
レイドリックも言ったろう? 中でも良い物がなくなっていると聞かされたから、絶対に取り返そうと思ったと。そこに義憤もあれば、目の届く所でやりやがったの矜持もある。
だが、一番強く出たのは家の物であるとした考えのはずだ。あの時点では、ノイ、お前の立場を明確には告げていない。しかし態度で考えよう。考えねば俺も唸るが、ラングリア家の財に繋がると即断したからだ。ラングリア家の財は下を潤す財源でもある。お前とて、自分の金が不当に盗まれた。盗んだ奴が目の前にいる。なら、殴りにいくだろ? そういう事だ。
それもこれも、持っている事を知らねば起こらん。自分の安全を考慮するなら、人に易々と見せる事は止めておけ、な?」
「そうよ、あのね… お金持ちは〜〜 うーん、う〜 ん〜〜〜 吝嗇家が多いのよ?」
「は?」
「あー、そうだね… 金持ちでも種類があってさ? 長く続く家は吝嗇が多かったりするんだ。 まぁね、うちも長く続いてるけどね? あ〜〜 のね、先祖代々受け継ぐ財や土地を手放す事なく次代に引き渡す。できれば増やして。それが楽勝で可能なら問題なし。けど、そういう才がない場合は〜〜 基本、締めるしかないじゃないか。興きたばかりの家や、次代より自分優先なら締める必要ないけどさ」
「見方に考え方だと言うがな、取り立ての強化だけではキツくなるだけだ。下を持つ上の家なら締める所は、ぎっちりと締めるもんだ。むしろ、できん方が家として成り立たん」
「は、 あ」
全員に全部出す事を止められました。
「あのでも、あんな大金をですねぇ」
「あれは君のだから。俺の名義にあっても、あれは君のだ。それを兄さんも理解してる。君のモノを君に渡す。そこに横領の思惑がない限り、発生しない話だからそれは別」
「そうだ、それこそあれは特別枠だから一緒にするな」
えーと… あれ? 俺、そーいう話をしよーとしてたっけぇ?
「今、我が家はお金に困ってはいないわ。それを家族みんなで知ってるわ。一番下のリオも今年から実 地を始めたの、だからちゃんと把握しててよ。 …そうね。 理解できてなかったら、どうしようかしらぁあ?
あ、それは別にして〜 お金はあればあるだけ良いけれど、何かあった時、ノイちゃんの物を当てにしてしまうかもしれないわ。少しなら構わなくても、ずっと、そして全部と言われれば… どう? 嫌にならない? 返す目処も立たないままに捲き上げられていく、そう思わなくて? そういうのは嫌でしょう? 家に生まれた子であれば、仕方なしと受け止めもできましょう。それでも気分は落ちていくと思うの。
正直に言えば知りたいと思うわ。だけど、全部は… 知っていなくても良いのではないかと思うのよ。だからね、全部じゃなくて少しを見せて貰いたいわぁ」
笑顔のリリーさんのお言葉に、セイルさんもハージェストもうんうんと頷いた。
「こちらとて、家の財の全てを話した訳でもない。少しを見せてくれ」
笑顔が素敵なお顔ですよネ。
えー、今聞いたお話に、おかしな点はございましたでしょうか? なかったよ〜〜〜うな気がします。やんわりと拒否られたよーです。
…おかしいですね。
どれが良いかお土産を見せて選んで貰って渡そうとしただけなのに、どうしてこーゆーstop入るんでしょーか? お金に対する勉強の… 考え方の違いでしょうか? そーいや、金についての勉強ってどんな事をしましたっけぇぇ?
成り立ち、仕組み、そぉれからあ? 授業は他にありましたっけ? 必要な事がなーんか足りなくないですか? 当たり前過ぎてそんなん要りません? はてさて、さあああっっぱりぃいいい?? あーははは。
まぁねー、土産が要らんと拒否られたんじゃないから。 ………はっきり言って、すんごく優しい良いお家なんじゃないでしょうか?
うーん、そうなると価格帯の把握が遠のくな。いや、一部の中に混ぜ込んでそれを元に考えて〜〜 売る時々に相談がましか。そういう相談ならハージェストだって拒否る訳ねーし。
どっちにしろ〜〜 ハージェストには一撃入れてイジメておかねーと。やり返しがないなんて思うなよ、ばーか! …ふは。
…九、超えてた。
一話分でこの総数は間違えてる、失敗してる。そしてこれなら107書き足したい気分になるのが残念。