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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
107/239

107 土産の形

 


 ルーヴェルと顔を突き合わせるのは、何日ぶりだろうか。



 「で、ダレンとの話し合いはどんな感じだ? 上手くやっているんだろ」

 「……… 」


 「あ? どうした?」

 「いえ、あまりにも久方ぶりに顔を合わせますので。ご報告は書面で致しておりますが、どの話であるのか即座に合致しないものでして、つい」


 机の前に立ち、緩く握った拳を胸に当て軽く一礼するわざとらしさに心底うざいと思う。



 「……出てこなかった俺に対する嫌みか、お前」

 「いえ、まさかその様な。 はい、一切合切その様な事は考えておりませんが(すとも)


 「思ってるだろが」

 「ハージェスト様、この顔をご覧下さい。 これでも(思われて)疑われるのですか(当然です)


 「……ああ、腹白さからは程遠いな」

 「酷いですよ」


 「含み持ってるツラで言うな」 

 「そうですか? ショックを受けるので程々でお願いします」


 

 椅子に座ったまま頬杖をついて、しれっと言う顔を眺める。ヌルく笑って返す。


 「好きなだけ受けてろ」

 「そんな事を言わずに部下の事は気にして下さい」


 「報告しろ」


 「は、では改めてご報告致します」

 


 カツッ!


 靴の踵を素早く合わせ、立ち位置を戻し、歪んでも弛んでもいない姿勢を正してみせる。


 すらすらと報告を始めた姿に俺は思う。

 怒らず遊びに付き合ってるだけ良いだろうが? 違うかあ?





 


 「我が部隊の第一目的であります、エルト・シューレの逆賊討伐は完了しました。街全体が落ち着くには今少し掛かりましょうが、大半は次期様の決の下り待ちとみます。


 現時点で特務に就かせていない者には街の巡回、並びに警備兵との交流を含めた鍛錬(扱き)等を行わせております。また、ダレン殿の要請から騎竜での巡回数を増やしました。ここ数日で引き締め強化を図りたい模様です。こちらも手を広げて回しておりますが、駐屯期間を考慮してダレン殿や警備兵が奮闘を忘れる事のない程度に動かす所存です。


 ご命令のありましたエッツへは、二組を派遣しました。情報を掴み次第、確認に足を運べと命じてます。他も下命があれば即時対応可能です。


 例の身元調査の進展は変わらず。先に報告させました、新たに発見された分におきましても大した進展はなく。集まった証言が正しければ繋がる者は出るはずですが、既に逃走している可能性も否めません。


 周辺地域を洗いましたが、同様の事件はキルメル以外で発生していない事がほぼ確実です。それとキルメル方面を内偵させていた者は、無事、ナイトレイ様の外部部隊と合流しました。

 …指示のありました窃盗犯共の捕縛。あれの差し止めに動いた事で、キルメルの現状を知り得たのもまた幸運と呼んで良いものなのかどうか。虫の時にはしなかった他領への差し止めですよ? 本当にわからないものです」


 「まぁ、そうだな」


 言葉の区切りに頷きながら、椅子の背に凭れて天井に軽く目をやる。



 「ナイトレイ様が少しお聞きかせ下さいましたが… キルメルの領主は何と?」


 「保身に長けた書き方だった」

 「関与していない、ですか?」



 キルメルの領主から兄に宛てた領主間の手紙。

 俺の補佐であるこいつに内容を隠す必要は無い。俺の前だからしてるのもわかる。わかるが、ルーヴェル。あんまり露骨な身振り(ジェスチャー)は止めとけっての。



 「報告内容と同じで?」

 「概ねな。詳細は食い違うより、素っ飛ばしだ」



 「死に様は変わらぬのでしょうか」

 「苦悶の形相やら飛散した血痕なんぞは同じと判じて構わん」

 「同一犯で決定と。怖いですね」


 「ふん、笑ったツラで言うか」

 「いいえぇ、怖いのが本音ですよ。よく立会いの許可が出たものです」


 「だからこその保身に手紙だ」

 「…キルメルは立つ瀬がないので?」


 

 手紙の文面を思い出すに嗤いが込み上げる。同時に、兄から受けたこめかみの痛みも思い出す。 …ちくしょう、思いっきりやりやがって。


 


 気分が歪めど、催促する目が話を急かす。 当たっても仕方ないな。



 「シューレに向かって固定した魔具が出た」

 「…固定化物が出たのですかぁ?  は! それはそれは。 こちらを的にしていたと。 は〜、 はははは! その状況下に、我らが竜騎兵が連絡を携えて行ったと」


 薄く嗤うツラに全くだと笑う。

 相手の心臓に一撃を入れるには絶妙な頃合いだが、窃盗犯共の共犯と思えんのが面倒い。どう考えても質が違う。


 「固定化物なら上空に仕掛けた奴らの仲間でしょう。連中に死体と面通しさせましたが、あれは違います。目付き、態度、抑揚、どれを取ってもまぁ詰まらん小物ばかりで。図太いツラをしても、あの死体の前では青褪めて震えましたよ。その後は口が軽いのなんの」


 「それはそうだろ、さすがにしてない罪は被りたくないってな。 くっ」

 「その魔具、引っ張れませんかね?」

 「その引き渡しがなぁ」



 「キルメルは現状をどう捉えているでしょうね? 報復とみますかね?」


 「盗みに対して力でやり返した、故に、こうなったのだと見ている様ではある」

 「…よくまぁ、我が領内でやりやがったと激昂しなかったものです」



 「使いの態度を改めさせよとはあったな」



 笑いついでに、トンッと指で机を叩いた。








 『この忌まわしい惨状を生み出したのは、そちらではないのか? ええ?』

 『…それこそ、お待ちを? 自分達がキルメルに来た目的は惨状を調査する為ではありませんが? エルト・シューレ伯爵領内に置いて、窃盗、誘拐、その他諸々の罪を行いし犯罪者集団の捕縛を執り行っている旨の通知、逃げ込みを見込んでの捕縛援護要請(手出し無用)です』


 『それは聞いた、その要請は了承する。こちらとてそれは拒否しない』

 『それは良かった、拒否された場合にはどう受け取れば良いのか思案に悩む所でした』


 『……侮辱しているか?』

 『いいえ、まさか。調べも済んでいない現状の非を一方的に押し付ける真似等、恐ろしくて自分にはできませんもので』


 『お前、口が過ぎようが!』


 『は、過ぎる? この口が?  さぁて、どの様にです? そちらこそ、会話の最中に差し出口を挟むのは程々に願いますよ。貴殿の行いが主家に響くと気付くべきでは?』

 『何だと? こ、の 『良い、お前は黙っていろ』



 『お聞かせ頂きましたキルメル領内での不穏なる惨殺、ご心配はご尤も。ですが、それはこちらとて不穏に心を苛まされて危惧する内容。シューレに対して含みを持つ者の死を惨殺と言われるが、キルメルは調べもそこそこに非を被せ、都合良く話を動かそうとされておいでか』


 『…こちらを詰るか? これらはキルメルを陥れるシューレの思惑ではないのか、え?』


 『思惑とは? こちらは虫の駆除をしているだけですよ、虫の生まれは存じませんがね。現状の把握は共通認識でしょう』

 『是非とも現場への案内を願う。こちらとて子供の使いではない、この話を聞いた上で確認は怠れない。主に無能の烙印を押されるのは誰しも避ける所』



 『物は言い様。力の成果の確認を取りたいのだろう?』

 『ほう、そちらはその意を穿たれると』


 『他に何かあるとでも? 他所者に現場を荒らされるのは断る、拒否させて貰おう』

 『荒らす? キルメルはちらつかせた上で我らが主を侮辱すると言うか』


 『主を侮辱? それこそ、まさかだ。不用意にお心を煩わせる気は我らも持たんよ』

 『そちらも仕える身ならば、我らが下がれぬ理由は理解できると思いましたが違いますか。 ほ〜う、キルメルは腹を探られる事をお望みか』

 

 『虫の巣は何処か調べているのですがねえ? 貴殿、何を解してこの話を我らに振られた? 思い出されるがよろしかろ』

 『我らが主は優しいお方。しかし、纏う紋がシューレでない事をお忘れ召さるなよ』





 『……ふん、紋を見せびらかすのが上策とでも?』

 『は! やっかみとは。隠しても隠し切れないのが人情ですねぇ』


 『にんじょうぅう〜〜?  はははは! 人情の言葉だけで動く者はいませんね』

 『動いたのは目に色に、貴殿の顔の筋肉でしょう』




 『『 …………  』』








 キルメルの兵と、エルト・シューレから来たランスグロリアが竜騎兵。


 兵を率いる立場(エリート)と、精鋭と選らばれた立場(エリート)。叩き上げか、実力上がり。どちらであっても周りは見る。周りが見る。互いに引くべき時は弁えているものの、領を冠して下がらない。


 領が違えば意識も違う、振るう力の差も然り。自領に己を誇るなら、直ぐに契合はしないのだ。しかし、現実を見切るのが(使)える大人の所作であり処世術である。













 「窃盗の上前ハネて懐を潤したか、の辺りでごり押ししましたかね?」

 「はん、した所でキルメルの調査で足取りに名義確証の一つも掴めていない、癒着の暗示と取り上げて当然だ」


 「実際、奴らはキルメルへ向かっていた」

 「潰した虫が卸していた先も大半があそこで、そこから経由して行く」

 「実に叩き甲斐があります。内偵を帰還させずに正解です、向こうの隊員とネタの共有で上手い事捗らせたようですし!」


 「ああ、上手く合流できて良かった。さすがに長期単独はキツかったろう、帰還後は休ませてやれ」

 「は、その様に手配しますが…  お心に添えず申し訳なく」

 


 言葉に目を閉じ、頭を下げる姿に本音が漏れた。



 「…何だ? 人数の問題だから仕方ない話だぞ。   殊勝過ぎて気味が悪いな」

 「………ですからぁ酷いですよ、それは」


 返す口からも本音が零れる。こんなもんだな、はは。




 「悪かったな。ま、キルメルの言い分もある。事実はこちらも掴んでいない、それを兄がどうするか。あの殺しを家の力と思わせるのか、話し合っておかんと襤褸が出る」

 「キルメルから来ますかね?」


 「それは来るだろ。こちらとしても行かねばならんが、『来い』と呼び付けられる筋はない。対応次第では、こちらに非を被せて全面的に被害者ヅラしやがりそうだ」

 「熱弁を振るってきますか?」


 

 唇を歪める笑いを二人で交わした。




 「それにしても本当に……  あの嵐は何だったのでしょうか。あの日、部下と共に対抗したのは人為の力。そして自分達で対応が可能でした。それをあの嵐は児戯と笑ってみせた。天で閃くあの力に魅入らなかった者はいません。広がる力の網が容易く引き裂かれるのに、興奮しなかったと言うなら嘘か不感症です。絶対です、鈍いのは要りません。


 人知を超える、そんな言葉は安易過ぎて好きじゃないんですがね。 はぁ…  それでも、あの嵐が全てを切り別けたと思えるのです。


 報告は上げましたが…  自分も現場に飛びました。

 自分が着いた時には捕縛は完了済みでしたが、捕縛した馬鹿共は泥濘んだ道に酷く往生した様子でした。泥濘みが乾き始めた場所には、何度もその場を踏み締めた馬の蹄鉄跡が見受けられました。道の其処彼処に嵐の余波は確かに出ていましたが、通行を妨げる大きな倒木や何かが潜む気配が満ちている事もなかった。馬は進む事を嫌がる素振りを繰り返していたと言います。そして、キルメルに背を向ければ落ち着きを取り戻し、大人しくなったそうです。


 奴ら自身、捕縛時には抵抗するも碌な事ができず。それでも最後まで、逃走を図り足掻く姿は根性と滑稽に尽きたと部下は報告しました。

 第一任務である虫もまた…  あの夜を境に奇妙な程に大人しく、従順に。今暫くは燻るだろうと見ていた気概が完全に潰えている。


 『天運が… 』等と嘆いておりましたが、それについては本気で馬鹿かと言います。 



 これら一連の事態は過ぎ去ったあの嵐の置き土産なのかと… つい、埒外な事を考えます。知らぬ者からすれば馬鹿だと扱き下ろされそうで非常に嫌なのですが、無意に発生したモノとは考えられません。それでも…   はぁ  理解が及びません。



 ハージェスト様。 これらは一体…  何の  誰に対する 土産(恩恵)なのか、貴方はご存知で?」




 目を閉じ、その時に思いを馳せる顔をした。

 ポツリと呟けば話し始めて止まらない。熱弁ではない、しかし淡々としてもいない。感情を織り交ぜた口調は最後は上がって笑みを生み、俺に疑問を呈した。


 演技めいて見えるだけの本心。確かに興奮してやがる。


 

 俺の目を覗き込み、情報を探ろうとするルーヴェルの目を黙って見返す。


 口を開いて、告げる。




 「ぶっ倒れてた俺に言ってもわかるか。やっぱり、嫌みの連呼か」

 「えー、そんな事ないですってー。その後ですってー」

 

 「知らん」













 「は〜〜〜〜〜〜〜〜っっ あ」



 一人になった室内で長々と息を吐いた。


 報告を再度、頭の中で整理する。

 ルーヴェルが第一任務が完了したと断じた事が、どうしても引っ掛かる。燻る火種を消すのに徹底的に踏み躙るのは良いが終息が早過ぎる。俺は早過ぎると思う。だが、仕事に向き合う姿勢に性格に実績を考えると読み違えとは思えん…


 「気概の潰え… か」


 地下牢で見た、呆けた面。知る者が話す元来の性格。そういった事を平気で行う奴ら。生い立ちを忍ばん事もない。が、それがどうした。

 培って来たのだと言うのなら非常に迷惑で要らん上に、悪事を働いた所で深く深く深く自ら後悔に反省をする事も薄そうな奴らの気概()潰え(折れ)る?  短期間で?  


 ナンだ、それは?



 「君の守りを盗んだ、だから守り石が成したのだと思ってる。 でも、他は何だろうな? 他も君が、 君に関わるからなのかな…   虫の関わり方がわからないなあ〜  かーーーっ」




 君の顔を思い浮かべると… 


 早く休みを取りたい。早くこれに目処をつけて兄貴にぶん回して! 一緒にいるんだ!! そして、俺の夢(複数)をこの手に!!  この手で!!


 今度こそぉおお!!!






 ガタン。



 「兄さんと姉さんへの連絡はした。食事の注意もした。他に忘れている事は〜〜  ないな。 よし、ソールの機嫌伺いとストレス解消にかっ飛ばしてくるか」







 会いに行けば、普段通りのソールが居た。アーティスも居た。


 「久しぶり過ぎて悪い」

 『是』


 …にべもない是が地味に痛い。


 「体調に変わりはないか?」

 『否』


 「え!?」



 ココがと言うのに納得した。

 上着を脱ぎ、腕捲くりし、必ず置いてある長柄のブラシを探して取る。



 「ココか?」

 『是・是・是!!』



 ドドドドドンッ!!



 地面にべったり寝そべった背中をブラシで掻いてやる。特に目立ちはしないが、一緒に鱗の汚れをコシコシ擦る。水に浸けてないから、あんまり落ちない。気持ち良いのは嬉しいが、頼むからあんまり尻尾をどんどん打ち付けないで欲しい。上下運動は良いが左右には振らんでくれ。



 「ふ〜う」

 『〜〜〜〜っ』


 一息吐いた息と満足した鼻息が、同時に吐き出された。


 この触れ合いで機嫌を良くして流してくれる、ぐちぐち言わないソールは優しい。拗ねないから、ほんと助かる。



 「外回りから足を運んで、帰りに街中を行こう」

 『了』


 「アーティスも行こうな」

 「オンッ!」


 尻尾を振って、まだかまだかと視線で喜ぶアーティスが可愛い。ほんと可愛い。ソールの背に鞍を乗せ、帯留めする。そして荷物入れをっと。



 「ハージェスト様、お供しますよ」

 「引き蘢ってましたね〜」


 「違うわ」


 イイ顔で探りを入れてくる部下達に、内心迷う。どう説明するのが最適か考えないと拙いが、イマイチ良い案が浮かばない。

 

 とりあえず、ブラシを片付け服を直して上着を着込む。




 さぁて、行くか。 帰りに寄らないとな。









 

 

…………………ざっと、六千です。残り七千程度の確認ができそうにありません。分割する事にしました。

107と108の二話で本来出そうとした一話分となります。

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