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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
106/239

106 思惑に笑みを



 「ん〜っ」



 おはようございます。爽やかな朝の目覚めです。


 …………そーだな、あの笑い死に一歩手前の酸欠状態から倒れるよーに寝たのに、実に爽やかな目覚めだな。


 隣はぐーすかまだ寝てる。



 「む?」


 …………今回は寝坊ではないと思いますが、どーも普通の人よりは遅い起床ですねぇ。お日様、ぺっかりーんとしてますよ。優雅に構えてる気は全くないんですがね〜。


 ほら、外音が碌に聞こえないから安心して寝ていられるし、絶対この時間に起きないと駄目だと思う事もないしぃ。『遅い!』と誰にも怒られる事もない… し?    いやいや、おねーさまは別にしましょう。


 あー、生活リズムどーもってこーか?



 「お?  起きた?」

 「ん………   あ〜〜   おはよう」


 

 ふあ〜と欠伸に伸びをしながら、一名様が起きました。

 ソレに対してのーみそが、『それっ!! 今だ、隙有り!』と叫びましたが止めときました。


 繰り返されるエンドレス。

 昨夜と同じ目に、同じ状況下に引っ繰り返される自分が予測できた為です。 予測精度は悪くないはず。 ふっ… 確実にやり返す方法、あるんかな?




 「あ〜、一緒に寝る様になって寝が足りて。  あ〜〜〜〜〜っ! 体がすんごく楽〜」

 「え、そう?」


 「そう、すっごく楽なんだ! 本当の安眠を実感してる… 忙しいと碌な睡眠が取れなくてさぁ。寝ても寝た気が、まっっったくしないんだ。夢の中でも書類に向かってた時は最悪だったよ。呻いて起きたら夢で安心したけど… その安心した現実には、まーだ書類が山と積まれてあるんだから本気で心が休まらなかった。夢見が悪いって話じゃなくて、夢から覚めても続く悪夢が夢だと思いたかったよ。


 あ〜〜〜〜……  こんな風に起きれるなんてなー、なんか夢のように幸せ。 うあ〜〜! 家を出る時に夢想した眠りと安らぎがココにある!」


 「…ナニをまた大袈裟な」

 「えー、ほんとだって。しんどかったんだってー」


 「あー……  そんなに大変なのか、忙しかったんだな。  体が楽なら毛布様のお蔭だな、きっと」

 「それもあるかもしれないけど、君が居るからだと」

 「ぶわっ!」

 「えー、なにその反応」


 小っ恥ずかしい事を平然とゆーか! すごいな、お前!!  見習い方がわからんっ!


 「ああ、そうだ…  そうだ、出掛けに決めてた初志貫徹の実行を」

 「へ? なに? ナンか言った?」


 「今後の予定でちょっと」

 「? そっか」



 今朝はこんな感じで起きたですよ。

 








 「お待たせしました、朝食の準備ができました」

 「はーい」



 やっぱり、今日の起きはちょーーーっと遅くて、ヘレンさんのご登場までに着替え終わっていませんでした。臨機応変に動かれて… ってゆーか、部屋が一つじゃないのが助かります。


 さぁ、朝ご飯にいきますか。






 「え、今日は忙しい?」


 ナイフでオムレツを切り分けていた手を止めた。


 「ん〜〜〜、報告その他の確認をしておきたい。その後、ソールの顔を見てこようと思ってる。ま、見るだけに留まらないだろうから」


 「へ、 ソールって… 誰?」

 「え?  あ、言ってなかった。俺が騎乗してる竜の名前だよ」


 「おおおっ!」


 思わず、ナイフとフォークを握り締めたよ!





 「あ〜、そっか。 お散歩…  この前からずっと行ってないって事に…  うわああああ…  ごめん」

 「え? 待った!謝る必要ないよ! 一頭でポツンと待ってなんかいないって! 他の竜達と一緒に居る。俺以外に絶対懐かないって話じゃない、他の竜と交代で外に出てる。空きができる分、他の竜も適度に休めるから良いんだよ」

 

 「そーなんだ?」

 「そ、問題なし」


 「それなら良かった〜」


 安心して切ったオムレツをぱくり。

 むぐむぐしたら、ケチャップとマヨネーズを混ぜた色したソースが味を引き立て、めっちゃ美味かった。間違っても、ケチャップとマヨネーズを混ぜた味じゃなかった。しかし何かわからん。


 だから、こんなん食った事ねぇと!!


 ああああああああ…   う・ま・い! 朝から至福の極み! 


 シューレに到着するまでに具材が違うオムレツ食った。野宿の時にはメリアナさんが、「簡単なものよ」って謙遜しながらチーズ入りオムレツ焼いた。俺もお相伴に預かり食わせて貰った。あれも美味かった、本気で美味かった…!


 でも、今食ってるのが、う・ま・す・ぎ・る!!



 慣らされていく自分の舌が怖い……  間違いなく、俺は餌付けされてる。料理人の腕の良さに食材の違いがあるかもしれんが、居られて腕を振るうのは領主館に雇われているからだ! んじゃあ、雇っているのは誰だ! 雇いを決めたのが誰かは知らないが、最終の財布はセイルさんだ! ラングリア家だ!


 ハージェストはラングリア家の人間で、セイルさんの弟だ。だから扱き使われ…  いやいや、それは置いといて。 あ〜、その他を含めて離れる必要もないが離れられんよーな…


 オムレツ食って、そんな事を考えるのもアレだな。 あ、いかん。 付け合わせの野菜をぷすっと。ソースもつけて、うま〜〜。 だから、違うとゆーに!食から離れろ!!



 「…んで、昼には帰ってくるのか? それとも一日掛かる?」

 「一日掛ける気はないから、午前中に終わらす予定。でも昼食に間に合うかな?」


 「午後は空く?」

 「大丈夫」


 「セイルさんとリリーさんはどうだろ?」

 「え?」


 「昨日みたく、皆でちょっと話したい事があってさ」

 「皆に、話を… 」


 「そ、でも忙しいかな?」

 「いや、せっかくの申し出なんだから是が非でも受けて貰おう」


 「…いや、そこは予定を聞いてからにしようよ」


 

 言い切る辺りが間違ってるよーで、普通なよーな。押せ押せタイプじゃないと思うんですけどねぇ?



 他にも本日のパン食って、スープ飲んで、果物貰って、ミルクもあるからもーいーわ。ハージェストが食ってる皿の中味をちら見するが、それに一口は望まない。


 「御馳走でした」

 「口に合って何より」


 「さ、メモメモ」

 「何?」


 「美味かった報告書いとく」

 「忘れずに偉い」


 「そうだろー。それで教えてくれ、字がだな」

 「うん」



 無事に書き上げた、全く字は上達してない。当たり前だ、碌に練習してないんだ。

 

 そして予定があるハージェストは、ヘレンさんが来て、片付けて下がられるまで部屋から出ませんでした。もうヘレンさんは大丈夫な人だと思っとりますが、これが用心なのか普通であるのか読み切れない。


 「行ってくるから」

 「うん、いってら〜い」


 「……発音違う」


 …あのな、簡略形だっての。わざとだから流せよ。言い直しを要求すんな、お前。



 






 パタン。

 

 廊下に通じるドアの前で見送りまして、扉の内鍵を眺めまして。 そのままにします。


 部屋に戻って、ここの鍵をどうすっかな〜と考えます。 そのままで良いか〜と思うのですが!不要なアクシデントを排除する為に施錠しましょう。



 「ん?  んん? どこだ、これ」


 カッチン。


 「うむ」


 ガチャン。


 「あれ?」



 施錠の掛かり具合を確かめるのにガッチャンしたら、開いた。


 「待て、何故だ!」


 ドア、バッタン。鍵、カッチン。確認、ガッチャン!  ドア、キィイ…



 「待てや、こらー!! カッチンしてっだろー!?   ガチンと止まれよ!!」




 



 ………よーくドアを注視してガチガチやって確認したら、何なのかな〜? 単なるお飾りだった。 カッチン自体が引っ掛けのお飾り。 なんだってーの!  ふ、ふふふ、注意力散漫? 愉快過ぎて反省。


 ハージェストが居ない時に、部屋の掃除に来るはずないし。鍵はもういーか。




 「よいっ」


 部屋に備え付けの家具の引き出しを引く。今朝、片付けた金の詰まった袋を取り出す。テーブルの上へ持って行って置く。ジャラリと音がする。 


 片手で〜袋の上を〜  片手で〜袋の下を〜   袋の内部に空間あるから〜〜 


 力の限り  振ってみる!!




 ジャラン、ジャガ ガシャガチャン、シャリン  チン、ジャリ ジャッ… リィィィイイーン! 



 はい、お金様方が奏でる大変イイ音でした。


 「ふははははは」


 いやー、重量あるんで腕が疲れんなー。



 ジャラ…


 「ふーーーう」


 椅子に座って置いた袋を眺める。






 一人一膳の一人前。

 今朝のご飯はいつも通りで、取り分けはしておりません。

 取り分けるやり方を面倒いと考えるか、正式の方が面倒いとするか。面倒いの基準を人はどこら辺に置くんでしょーね?


 『慣れ』を基準に置きますかね?


 一人前の方が相手に気を使わず、手を掛けずにいられて気楽で良いんですが〜〜  皆で楽しく取り分けるってのは、やっぱ良いもんでした。マナーに注意はしましたが、意識し続ける必要なかったのが楽しく居られた要因だと思います。失敗の許されない静かな雰囲気で、カッチンコッチンの食事とは無縁でした。


 輪の中に入れて貰えたからなのか、迎えて貰えたからなのか。


 その辺りの感情も、なんて言いますか。 こう… じーわ〜〜〜っと上がってきてるんですよねー。目の前の袋を見てる所為もあるんじゃねーかと。昨日話を聞いた時よりも、今の方がず〜〜っとき始めてる。



 取り分ける事は手間で面倒、なーんて考える内はガキですかね? 

 セイルさんが取り分ける姿は堂に入ってました。単に年上な人ではなく、大人な人だと…  事実、やってる内容は半端なく大人だ。



 一匹狼で一人もへーき、できるから問題なし。


 できる人はへーきだろうけど、本当に平気かぁ? 俺は別に一匹狼ではありません。道中でぼっち〜な事実に直面したのも、自分で思ってたより響いてたんじゃないですかね。


 気遣いが慣れで面倒でなくなるのなら、寂しいってのも慣れで麻痺ってなくなっていくんでしょーか?


 どうしようもないなら、人は慣れていくんでしょうね。大人になったら、そういう自分への誤摩化しも上手になるんでしょう。それが当然の成り行きって奴で自覚もくるでしょ。



 …なーんつっても!

 俺も、そーゆーのある程度自覚してたよ? してたけどね?


 よー考えたらあそこに放り込まれた時、疑問と自己奮起と考えないでへこたれずにいたけどさ、最後ブチ切れたけどさ。放っとかれた事にマイナス思考の螺旋描いて(鬱へ)落ちてってた気も大いにすんだよなぁあああ。 あーはははははっ!!


 気付かなかったなー♪ 一匹狼とか関係ないよねー、なる時は誰でもなるんじゃない? ならねーって思ってる奴こそが、嵌まった時に一番最悪に堪えて抜けが遅いんじゃねぇ?

 落ち着いた後から『なってた』って、わかんだぁねー。でも、一度なったから次に鬱る時は感覚掴めると思うわー♪  これが経験値だろ? ひゃっはー。



 「にしてもだ。痛みの比重を計らない、で、本末転倒はしないかぁ…  自分の感情を掏り替えて楽はしない、誤摩化さない、ってな事を言ってんだよな?  痛いもんを痛いままで忘れずに抱えるってのは、茨道だと思うけどな…  俺とは違うなぁ…    強い(タフ)って、現れ(証拠)だな。 


  はうっ! もももももっ、 もしやでマゾとか!?     え、  いやいやいやいや、ないだろー! そんなタイプに見えないってー!   いやでもまさかまさかまさかでぇぇええええっ!?」



 ベッチ、ベッチ、ベッチ、ベッチ!


  ガチッ!


 「いだーっ!」


 思考にあたふたしつつも顔が笑いに引き攣って、誤摩化しに宙を見てた。愉快さ加減に手はテーブルべちべち叩いてた。指先が袋を直撃した。突き指したかと思った。


 …ふははは、馬鹿やってます。天罰ではないでしょう。








 「ん?  …何だ?  話し声?」


 

 不審に思って、テラスの方へ行って庭を覗いてみた。



 人がいる。

 庭に人がーーっ! 竜騎兵の制服着てるが、人が来るなんて聞いてないぞーーーーっっ!!



 「異常無し!」

 『異常有り! アナタが居るでしょーが!!』


 心の中でツッコミ入れたら、ぐるっと動いてこっち向いた。目が合う。

 


 「あ」


 キリッ顔の目が細まって、優しそ〜うな顔になった。 スマイル、スマイル。 慣れてますか?




 そーでしたか、あなたでしたか。大丈夫です、名前はちゃんと聞きました。あの時の礼を兼ねて、行くべきか行かざるべきか。


 テラスの階段降りなかったらイケるか?


 周囲をきょろきょろり。

 そっちに行こうと姿を確認しながら移動したら、片手を広げて突き出して横に一線。『来るな』をされました。表情がガラッと変化した。


 その場でフリーズ。後、すすすっとテラスのドアから横へ俺スライドバックしたら頷かれた。



 そーですか、後で困る行動は慎めですか。あ〜、できた大人ですねぇ。普通怒鳴って制止するだろーに、怒鳴られなかったですよ。



 それから再び声が聞こえまして。



 「良いか!?」

 「おう! 構わん」


 「行くぞ」

 「はいっ!」


 竜騎兵と警備兵のお二方が、よっよっよっよっと…  寝椅子を運んで来てくれました。俺のお昼寝健康促進計画を担う備品様のご登場です。


 ハージェストが運ぶ場所指定してたのか、置き場所に迷いもせずお二方が一直線に運んで降ろした。しかし既にあるテーブルと椅子の位置との距離に納得しなかったのか、もう一度置き直し。


 「これでどうだ?」

 「良いのではないでしょうか」


 「頭上に影ができる方が良いからな」



 こっち向いて、ジェスチャーでココで良いのか聞いてくるんで、ジェスチャーでok出した。


 終わったら、三人さんが並んでこっち見る。


 二人は初めて見る人でしたが、竜騎兵さんは目が合えば唇が持ち上がって笑った。警備兵さんはカッチンな感じを維持してた。けど、しっかり見られたんでしっかり見返す。


 その後、背筋を伸ばしてガッ!と音が聞こえそうな足合わせをした。 

 敬礼時にやるよーなヤツです。敬礼自体はされませんでしたが、どーゆーのが敬礼か知らんし。敬礼される立場じゃないし。



 「有り難うございまーす!」


 言っといた。

 聞こえるはずだが、もしもの為にわかる様に口を大きく開けて言っといた。スマイル付きで手もぶんぶん振っといた。



 三人は、いえ、二人と一人の組のまま別々の方向へ向かわれました。その姿を見送りました。 …巡回のよーです、きっとそうでしょう。レイドリックさんから、自分の部隊が館の警備を担ってるっての聞きましたんで。


 そして俺の指定範囲の庭から人は居なくなり、代わりに物が増えました。


 「は〜」


 



 

 ガッチャン。


 てててててっ。


 

 テラスのドアから外へと出、庭へ降り、届いたばかりの寝椅子へgo! go・go・go!



 「ほ〜」


 実に良いですな、サイズが大きいんでゆったりですよ。しかし、ちょおっっっと柔らかさが足りんから〜  そうだ、毛布様敷いて丸まりゃ良いんか。クッションも一つあれば良いな。



 あ〜、なんてリッチ生活〜。


 寝椅子の横に小さなサイドテーブル置いて、飲み物完備してたらもっとステキ〜。 …駄目だ、直ぐ近くにテーブルあるってのに何言ってんだか。大体、昼しか使わん上に風が強かったら使わんだろがあああ。雨、降ったら使えんだろがあああ。



 「ふ〜」



 寝椅子から眺めるのも良いですね、この感動も何時かは薄れますかね?



 「ぬ… なはははは」


 

 やる気はないが、ちび猫なってこの寝椅子で爪研ぎやったら怒られるかなああ〜? ちび猫で丸まって寝るのも良い感じ〜。





 「さて、部屋に戻りますか」


 午後からはアーティスと一緒に昼寝…  じゃねぇ。 時間帯合えば昼寝だな。







 「よいせっと」



 えー、お金様の総額が幾らかは後回し。

 それよりも午後からお渡しするお土産について考えねば。



 金の袋を開けずに横にどける。そしてリュックを取って来て膝に乗せて中を漁る。 あ? 俺、この水筒あの後… 一度も洗ってないんじゃねっ!? うわ、やべえ!中がカビてたらあっ!



 「先に洗ってこねーとぉ!」



 バタン!  だだだっ!   バタタン!



 キュキュッ。


 ジャー…  バッシャバッシャ!   ゴッゴッゴッン!ガン!


 「あえ!?  あ!」



 バシャアッ…  ガラッ  ガラン、ゴッ!



 「ああっ! また同じ馬鹿をっっっ!!」


 水筒洗う長柄のブラシがないんで水入れて振りたくった結果だ。 …石が水に濡れて綺麗ですね。 うん、綺麗だからカビてないみたい。


 「ははは   はあ〜〜〜〜 」


 馬鹿のショックでシンク前でへなへなと項垂れた。   が… 大丈夫だろう、きっと。うん、わからんって。



 二三度、水洗いして中を見て終了。

 

 紛失するはずないが、無くなってからでは遅いので部屋で干す。特に水回りは気付けば、ざかざかさっさと掃除してってくれるので置いては駄目なのだ。

 執務室から帰ってくれば、ベッドメーキングは完璧終わってた。部屋中が綺麗な感じになってた。それこそ隙有り!な感じで掃除していかれたんだと思う… はっはっは。



 ガチャ…


 「鍵しなくていーな、ほんとに」



 持って来たタオルをひらつかせた。



 「なんか疲れた、はぁ」


 どっかり椅子に座り直す。

 テーブルの上の金の袋。タオルの上に引っ繰り返した水筒に石。テーブルの下に置いたリュック。


 「よーいせっ  あ〜〜」


 リュックを膝上に乗せる自分の掛け声に苦笑する。

 乗せた重みにちょ〜〜おっと考える。土産を出すと決めました。決めましたが、どこまで見せたもんでしょう。


 金の袋をちろっと見れば思います。

 俺の命の代価は、まんま想いの代価です。それがそっくり俺にきてます。普通、人の心や想いは金では買えません。買えた時点でナニか違うモノと取っ替えてませんかね?


 ですが俺の場合は、想いの証が金と言う物質を形代に成り立ってんですよ。 ふ、目に見えて大変よくわかり易いです。保険金に似てますが、掛け金ないんで違いましたな。



 ですが… ん〜。 手持ちを全て見せるのは馬鹿じゃないでしょうか?

 取り返してくれた貴金属は、換金するならどの程度になるのか、また売れないかと預けてる。リリーさんもどう見ても良い物だと言った。それなら、あの貴金属をお土産として出すのが手じゃないですか?



 『そーだよ、それで十分だよ』

 『いや待て、それは誠意か!? 違わねーか!? 貴金属だって、自分じゃ適正価格わかんねーから預けて聞いてるんだろー!?』


 『んだけどさー。お土産は一部、残りは俺の財産。混同すんな』

 『それこそ混同すんな! 有り難うの気持ちをケチるな、ボケー!』


 『なんだとー! 自分のだから、自分で決めようをしてるだけだろーがあああ!!』

 『んじゃあ、終わった後で他にもあるからってブツ出して価格帯教えて〜 なんて言うのか!? それこそ、こいつこの程度って見られるだろーがあああ!!』


 『だから、有り難うの気持ちにお礼をノせてハズむつもりで考えてるんだろーが!!』

 『そんなもん、貰った優しさの定義にハズレてっだろーがあ!』



 俺の右でも左でもない同一の心が自己主張で頑張りあってた。意見の纏まりは見受けられないので、選ぶしかない。


 まぁね、セイルさんも言ってました。後から後から継ぎ足す事を前提にやるのは馬鹿だと。一度で終わらすのが一番でしょ。てかさー、後から何度も似た事やったら、最初にした分はナンだったの?って言われねぇ? 時間を掛けて決めるのは大事、でもそれが手間ばっかりとか言われるのはイーヤ〜っ。


 

 「ん、一度全部出そう。出して見て貰おう、それが正解だ。そうだ、アレもある! 適正価格もわかって、ナニもわかってスッキリの良い事だけだ。

 それに、おにーさんとおねーさんとおとーとくんには会ってるが、もう一人いるっちゅー嫁に行ったおねーさんはともかく、肝心なおとーさんとおかーさんと… えーと、おじーさんには会ってねーし! おにーさんから承諾得ても、やっぱ当主のおとーさん! 居候承諾絶対要るし!! そうだ、セイルさん達に見て貰う時に気に入りそーなの選んで貰って、それをお土産に出したら好印象! 俺が居た所でぐらつくとも思えん家だが、ハージェストも言った承諾の有無は必須!!」



 グッと握り締めた自分の片手を見る。包帯は忘れてない。

 この件があってもなくても、金なんて直ぐになくなるもんだし。ユスリタカリにカツアゲに、小金をセビリに来る奴見たしさあ。あーいうのはダチって言わん。


 大金あっさり寄越すし、貴金属に目の色が変わる事も無い。今までの奥様方とは違います。そんな人達がタカリするとは思えん。


 …けど、俺ってこんなに決断遅かったっけ? うだうだ考えもするが、すっぱり切りもしてたのに。体験からの成長 してますかね?  …ぐるぐるなだけか?




 「まぁいい! よし、そうと決めたら今の内に一回出す! 選んだ上で自分予想を立てとくと!」


 リュックの紐を外しまして〜。覆いを後ろにぺろんして〜。中をごそごそ、内ポケットを開いて探りまして〜〜 まずはこの袋!


 「そっ とね」


 海のお宝詰め合わせセットを出しまして〜。




 コンコンコン!!   『うひいっっ!!』

 


 「いらっしゃいますか?」


 「あ、  は、はーーいっ!」



 ヘレンさん、あなたタイミング良過ぎーーーっ!! どっかで見てないぃ!?  あ、返事しなきゃ良かった!? いや、返事しなかったら心配させるだろが!!  かかかっ隠せ!!




 カチャン。


 「このままで失礼致します」



 リュックを椅子と背中の間に突っ込み、両手は後ろ。お宝袋握り締めてドッキドキ。

 隠すのに背中を伸ばすが気持ちビクビクする俺を尻目に、ヘレンさんはドアの入り口で一礼して入って来なかった。



 「御領主様と姫様からのご伝言です。お昼を回って少しした頃にこちらへ伺われます。急ぎ終わらせるとのお言葉ですが、昼食はご一緒できないとの事です」


 「は、はい。 わかりました」


 「弟様からも必要であれば先にお食事をお出しする様仰せつかっておりますが、如何致しましょう? 本日は早めにお昼の食事を摂られますか?」



 え…  迷う。

 ハージェストはよしとして〜 セイルさんとリリーさん、昼飯食ってくるのか? でも一緒にできないってのは食ってくる、もしくは各自で食っとけだと。働いている人を差し置いて俺だけ飯食ってたら、どーなんだ? いや、話してる最中にぐうぐう腹を鳴らすのも。来られた時に飯食ってんのも…  連絡判断ができねー奴になるのは…












 「あの…  」

 「はい、早めのご飯でお願いします!」



 「では、これから隣室にて準備に掛からせて頂きます。お待ちくださいませ」


 にっこり笑顔に向かって頭を傾げれば、静かにパタンとドアを閉じられた。




 「は、はああああああ〜〜〜」



 やっぱぐるぐるなだけじゃねぇ、これ?    は。



 しかしだな、がっちりお宝確認できないんですがね? どーしたもんかな。


 手にしたお宝袋をにーぎにぎしながら、そーゆー事を思案するのも贅沢だぁね。これで邪魔されてるとか考えると、心が狭いんだろーなと。ぬーん。





 リュックから自分のタオルを取り出す。一枚広げて一枚は横に。リュックをテーブルに置いて少しでも壁にする。そして袋の口を広げて眺め、良さげなもんを一つ二つとタオルの上に置く。


 「ど〜れ〜が〜〜 似合いそうかな?」


 手に取って吟味する。




 少しすれば扉が開く音した。

 ワゴンのキャスターが回る小さな音。キャスターがロックされる音に、人が動いている気配。



 「ん〜 石はしてる、真珠はしてない。持ってないか、好みの違い? 石の方が好きかなあ?」


 淡い桃色、照り返す黄色、白真珠に黒真珠。



 耳を澄まして、意識を研いで。


 お土産は個別に差し上げるつもりですので、個人資産になるでしょう。なら、良いのを上げたいよね。


 選別しながら、別室で動く気配を捉える事にも意識を回す。自分の一部、どこかでそれらを掴む事ができないかと気を張ってみる。

 

 「ふ…  ぅ」


 息を吐いて、手を止めて、目を閉じる。気配を探って。

 集中しながら開いた視界に変わる物はない。猫との違いに苦笑する。



 袋に目を落として選んで取り出す。   静か、それだけを意識した。





 桃色真珠ピンクパールのネックレス。

 長さを違えて連なる四連、珠数があるから清楚系でもリッチに見える。リリーさんにきっと似合う。



 コンコン!


 「お支度ができました」




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!   うひゃあああ!さっぱりわかりませんでした!! 心臓びっくり飛びました!!



 バサッ!


 「はーーーいっ」



 内股膝上、袋を押えて、もう一枚のタオルを勢いよく被せて隠した。









 はい、久しぶりに一人で食ってます。

 テラスのドアの施錠は確認してきました。俺がドアに近づけば、待ってたヘレンさんは先導に歩かれます。ドアは自分で閉めます。隣室のドアを開けて待ち、ドアの後ろに二歩は下がる。そこをささっと入る。ヘレンさんは、またドアからこちらへは入って来ない。


 お声を掛けて頂きますが。



 「一人で大丈夫です、今は隣の部屋に入らないで下さい」

 「わかりました。では、後ほど下げに参ります」


 「お願いします」



 俺にとって必要で適切な対応を心掛けてるヘレンさん、好感度上がります。近寄って来ない所が心苦しくも、本当に助かります。あーゆー事から決心を固められたメイド道ですが、ヘレンさんに合ってる事を祈ります。



 廊下側のドアが直ぐに閉まった音を聞いた。それから約一分後、確認に歩いた俺はダメだろうか? まだまだ、おかしな行動ではないと思いたい。






 「あ〜、昼飯もうま〜」


 心なしか味が濃くなったよーな? 料理人さんからのメッセージカードを開くが…  ふぅう。書いてるはずのメニューを読み切りたい!!




 「お昼のデザートはゼリーですか」


 デザート用のガラスの器の中で冷えて固まるのは、黒色だった。 …ナニかは入ってないはずだ。珈琲ゼリーを連想するが色の濃さが違うよーに思う。


 くんっと嗅いだが匂いはしない。 …普通もしないよな。それに黒色の上には透明があった。行儀が悪いが誰も居ないから、ぺろっと舐めてみる。

 

 「…あま い」


 透明は糖分です。つまりは手間を掛けた二重構造のゼリーです。

 スプーンを入れたら、ちょっと固め。ぷっるる〜んではなかったが、掬えば二重構造がよくわかる。


 「全部手作りなんだよなあ」


 固めるだけなら、簡単にも思える。それでも最初の分が固まってからでないと混ざる。手間暇掛けて作られてます。



 口を開けて、もぐっと。


 食った。

 舌の上でゼリーが崩れる。




 「!!」



 「う!」



 吐き出そうとして吐き出せずに唸った。唸って無理やり、ごっくんした。



 「は、は、はははは!! なんて事してんですかーーーーーっ!!   うげぇぇええっ」



 

 水をごくごく飲んでガラスの器を恐怖で見た。

 黒薬湯Xが糖衣をマントにゼリーに変身してた。



 …そうでした、今朝は黒薬湯出ませんでしたね。うっかりしてましたよ。でも朝だけじゃなかったっけ?

 

 料理人さん、あなたチャレンジャーですね? そうですね? 忘れもしない味に一発で理解できました。冷たくなっても味に変化はないんですが、ちゃんと味見をされたんでしょうか?



 …………ハージェスト、まさか知ってて逃げたんじゃねーだろーなぁ  ええ?




 「ふ、ふはははは」



 残りのゼリーを見てたら、しぜん〜に唇が持ち上がって笑顔になれたんだ。





 

料理長(親父)、現在ウハウハ。

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