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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
103/239

103 やさしい、選定

   

 シャッ…   ジャッ…   プツツッ



 はい、昼を回っております。

 昼ご飯も、うまうまと食って終わり、庭で椅子に座ってます。午後の良〜い天気の中、ハージェストが散髪をしてくれてます。今の格好は、服の上から首にタオルを掛けた散髪仕様です。後で服とタオルは脱いでバサバサしろですね。


 「え、散髪とかできんの?」

 「できるできる、きっとイケる」


 一抹の不安も芽生えたが、イケる言葉に期待して任せる。だってさー。


 「俺が初めて?」

 「いや、学友の髪を刈った事はあるから」


 この返事が決め手。それに髪型はイジらない、髪の量を減らして短くするだけ。…それだけだが、イジるになるんかな?

 櫛で梳いてくれたら、今度は濡らしたタオルで軽く拭く。水気を帯びて纏まった髪を更に手櫛で整える。で、ナイフで刈ってくれてます。うむ、鋏ではありません。



 ちなみにナイフは俺のです。旅のお供の護身用、一本きりのナイフです。これをウエストポーチから出して見せた時には…



 「え? コレ、一本だけ?」

 「調理用でもある」


 胸を張って答えた。


 瞬きをした後、短いソレを… 違う。 その刃を、じーーーーっと見てた。


 手の内で、それこそイジッてた。

 それから取り扱い指導を受けた事があるのかとか実地はどうなのかとか、普段ではどっちの用途で使う比重が多いのか聞かれた。


 「ない、ない、ない」


 これに三回否定で答えた。包丁はナイフじゃないよね〜で終わっといた。一緒だったら泣ける。しかし、不衛生だから普通はないだろう。…なければ使うが。


 「そっか… それが生活の基本ならあ〜〜〜   そうだね。 担当違ってやる事違えば、普通にできない奴もいる訳だから特に問題ではないね」


 優しい事を言ってくれる。


 「此処に来て、初めて血抜き見て貧血起こしてばったり倒れた」



 追加の自己申告で補足入れたら、ちょっと固まった。目ぇ開いて固まった。 けど、ぽんっと俺の肩を叩く。


 「そんなの、基本は全部慣れだから大丈夫。慣れでも鈍くなり過ぎなければ大丈夫」


 真顔で他にも言ったよ。


 「短くて小さい。それでも、確かに殺せる道具だ。急所の直撃か脈の噴水狙えば殺せる、出血死も有りだよ」


 ハージェストの言葉が本当にリアルにしか聞こえない、真顔で頷いた。内心はビクですが。


 向こうのリアルでも、その手の話をする人はいる。それに製作者の意図とは違う使い方も、応用として編み出される。その編み出される方向性に、使おうとする用途に、その人の人格ってか…  普段からの思考の有り様が反映されるよねー、みたいなあ。



 手が髪を押えて、少し頭を引っ張られる。髪がプツツッと切れてくこの感じ。 軽くなる。


 前髪の時は鋏じゃないから、気持ち怖かった。ナイフは両刃ですし。

 でも、器用だよねー。ブレない手は安定を保って切ったってのか〜、削いだってのか。使い方を知っているから安心、慣れてるから安心。目が大丈夫、言ってる。


 危ないから使わない、コレ真理。んじゃ、使い方を正しく知って使える様になろう。コレも真理じゃねぇ?


 

 「はい、おしまい」

 「かーんーしゃあ〜」



 首からタオルを除けてくれる。椅子から立って、ちょっと離れて頭を振る。前髪を手でバサバサすれば… 髪がちらほら舞ってるよーな。


 「うー」

 「あはは、頭も洗おうか?」


 タオルの面を引っ繰り返して渡してくれる。顔を拭いたら、駄目だな。タオルに付くわ。


 「あー、そうしよっかなー? ところで切ったの、どうしよ?」

 「掃くよ。風に散らしても良いんだけど、それもどうかと思うしさ」



 笑って、あっちと指差した先には箒と塵取りがあった。


 「え? あそこに普段からあったっけ?」

 「ないよ。先に構えとけって言っといた」


 「え、先にって…   え〜…  廊下で、ちょっと待ってたあの時?」

 「そ」


 ハージェストの段取りの良さに驚く。てゆーかぁ、執務室から帰ってくる時点で散髪の予定組んでたんかよ。散髪しようって言ったのは、部屋に帰ってきてからだったのに。



 俺に予定なんかないから、そーゆー意味では問題ないけどさ。



 ハージェストが箒で掃くから、塵取りを構える。ザッザッと手際良く掃き集めて、塵取りにどーん。

 箒は目が詰まった、隙間から逃がさないタイプです。塵取りは蓋が閉まるタイプではありません、形状はよくあるのに似てますが… ちょっと持ち難いなー。

 

 「後は?」

 「あっち」


 箒を置いたハージェストに、てこてこ付いて行くが指定範囲から出たくない。しかし、ハージェストがいるから大丈夫だと考え直す。



 「ここ」


 片隅と呼べる地面に、あっさい穴が掘られてた。


 塵取りを傾ければ、音も無く落ちてく。風も吹かなかったから、ほとんどが入ったはずです。ちょっと舞いました。

 準備良くと言うか… 掘っただろうシャベルが脇に置かれてたので、それで埋め戻す。俺は見てるだけです。


 浅い穴だから、直ぐに終了。




 最後は俺も、塞いだ上を踏んで地面を均した。


 「こーゆーのが普通?」

 「いや、そうでもない。でも、初めてなんだし」

 「へ?」


 基準に意味がよくわからん。


 「だってさぁ」


 その後に続いた言葉を頭の中で反芻する。均した地面を見る。



 …そうか、此処に埋まったのは俺の分身か。分身の定義に合ってるか不明だけど、俺から離れた、俺の物には違いない。


 此処に来て、此処に埋まった。俺の一部が埋葬された。


 埋葬と考えるのは… 考え過ぎか?  でも、その言葉がぴったり〜。  髪の毛、かあ…   そーだねえ。器ってぇのは分身で、髪ってぇのも分身だ。俺の場合は違いないやぁね、あーははははは。



 やがて微生物に分解されて、間違いなく此処の大地に溶け込んで、還るって事なんだろうねー。


 ああ、そうだ。

 燃やされて灰になっても、水に流されてっても、此処に居るんだから、此処に還るんだ。  …人間何時かは死ぬんなら、墓があるだけましってもんじゃねぇ?  


 あ〜、そういや国の面積小さくて、墓場が足りなくて、骨になった頃に掘り出して、次の人に場所を譲るって土葬が基本のお国ってなかったっけかな〜あ?



 「じゃあ、部屋に戻ろうか」

 「ん」


 埋まった地面から目を離す。笑い返す。 …庭と呼べる地面の片隅なら、すっごく良いんじゃねぇの。



 「はい」

 「え? 持つよ。へーきへーき、こんくらい俺が持つって」

 「そう?」


 シャベルを手にしてんのに、も一つ持たせてどーすんだよ。


 「にしても、普通に箒とかシャベルとか使うんだ?」

 「え? 普通に使うよ?  なんで、なんかおかしい?」


 「貴族って掃除とかするもん? それって他の人の仕事じゃないの?」

 「…ああ、そっち。 まあねー、そういう人も家もあるよ。でも、我が家には竜がいるから。あ、ごめん。自室の掃除とかしてない、触らせない場所はあるけど」


 「……あは、そっか。 んで、竜がいると何が変わる?」

 「竜とは意志の疎通が計れる。竜舎の掃除の一つもできないと、あいつらとの本当の信頼は築き難くてさ」


 「わお!」

 「騎乗だけの人もいるから、どのやり方が一番良いってのはない。効率も考えるけどねー、性格も意志も感情もあるのに効率に当て嵌めたら殺されるっての」


 「ま、殺される前に騎乗が怪しくなる」

 「振り落とされたり?」


 「理不尽な要求には理不尽で応じる所があるから」

 「うわお」


 「力で従えさせるのは悦を呼ぶ、その代わり竜の機嫌に不快度は跳ね上がる。その後、目を付けられる。それを考え無しに続けると、悲鳴を上げる(仲間を呼ぶ)。すると集団で襲ってくる」

 「ぶっ!」


 「いや〜、色んなパターンあるんだけどさー。なんでか必ず集団で行くんだよねー。その場に居合わせた事があるんだけど、下手な手出しなんかできないし。抑えようするなら逆効果だよ。何言っても、人の思考じゃないんだ。似てるけど違う。似てるから勘違いしそうになるけど、違う所は違う」


 「そうなんだ… すごいねー。よく乗れてるねー」

 「信頼と把握が大事」


 そんな話した。変な感じで笑いもした。笑う内に元の場所に帰還した。




 「あー、やっぱりダメだ。 ほら、顔に付いてる」


 そう言って、俺の顔を手で拭った手のひらには、俺の分身がくっ付いてた。


 「こっちの片付けはしておくから、浴びてきなよ」

 「ん〜、悪い任せたー。軽く浴びてくるー」


 あんまり頭を振らない様に気を付けて、トットと洗面所に行った。





 

 ザッ…  ザアアアッ…



 よし、良い感じ。

 真っ裸になって頭から湯を頂きま〜す。



 ガッシュ、ガッシュ…



 早風呂ならぬ早シャワー。午後から良い身分です。


 「ふう… 」


 短くなったから、洗うのも楽なら振るのも楽。まぁ、すっきり感半端ない。視界も良好。


 床に短い分身を発見したんで流す。流す。ながーす。 ……………分身は排水口へと流れていった。流れた様を見て思う。過去を振り返る。髪が分身なら、俺の体から擦り落とされた垢も分身だろう。そーなると、もうとっくに俺はこの世界に溶けて流れてんのか。 ははははは!



 何事もなく湯を浴びる。



 キュッ。


 湯を止める。

 ふと、思い付いてやってみる。


 額に手をやって、髪を掻き上げる。似たよーなポーズをするが… 前髪切ったから上がらん。  


 「ふはははは」


 セイルさんの真似っこしてみたけど、イマイチだあね!! 鏡、見なくて良かったな〜 自滅笑いしちゃいそう。あはははは!    あ〜う。



 

 はい、浴室から出て着替えます。


 タオルで体を拭いて〜〜  首にしてるネックレスも拭いて〜〜  拭きつつ思い出せば、俺は自分を誉める。皆さんのあの言葉に、過去の自分を褒め称える! 無理でも何でも!おにいさんに泣いて縋って良かったあああ!


 あれが一つの分岐点で間違いなかった!!







 「えええっ! なんでノイちゃん、服を着てるの!?」


 リリーさんのあの一言はイタかった。最も、俺自身も見えた物の意味に気が付いたら、『えええっ!』で痛かった。他の皆さんの「えええっ!」も意味が色々違ってた。



 いやー、着替えだって言ってたしぃ? 隔てるのは、プライバシーの尊重だと思ってました。それで正解だけど、服を脱いでの「へ〜んしん!」だと思ってたらしい。もしくは、変身したら服がぱっさり。


 数名様は意見を述べないので不明ですが、リリーさんは聞いてそう思ってたんだと。ナチュラルにそう思ったと。


 そこへ服を着て出てきたもんだから、「えええっ!」になった。 …同じ事したのにハージェストは驚かなかったな。いや、ど汚さに驚いてたか。 ……人の驚きより、洗い上げ達成後のど汚さのやり直しに衝撃受けてたか…   あ、ははは。



 俺自身は、本気の羞恥に変態扱いで死ねると思ってたからな。


 本当に、本当にありがとう! おにいさん!! 人認定の大きな助けになりましたあ!!   あ、そだ。番猫様。名前… うん、なんて名前つけよっかな。






 「だから、スキル見せだって! お話通りませんでしたかー!?」


 こう、切り返す事で自身が受けた衝撃を逃がした。



 「確かに聞き及びましたが… 失礼しても?」


 そう言って寄ってきたのは、レイドリックさんだった。手を伸ばして身体確認要求するんで頷いた。




 両手を俺の頬に添えて挟み込み、グイッと上に持ち上げる。正面から顔を見ました。目が真剣です。ですので、少々首が痛いが俺も真剣に見返しました。


 手が滑って喉を伝い、肩を押え、両腕から手首に指先へと降りていきます。


 次に脇に手が入り、脇から降りて脇腹へ。腰骨から太腿へ、そっから足首へとレイドリックさんの手のひらが、体を押えて降りてった。もちろん、レイドリックさんもだんだんと中腰になって、最後は片膝着いての確認になった。足元だからと止めなかった。中途半端に止めなかった。


 両手はソロッと体に触れている、んじゃなくて〜 がっちり俺の体を押えてやったんで。その手で俺の型取りされたよーな、手で両サイドからスキャンされたよーな…  


 レイドリックさんがしてる間にロイズさんも寄ってきて、こっちもまた真っ剣な表情で、その様子をご覧になっていらっしゃいましたよ。


 終わってから言われるにはですねぇ…



 「以前お話した通り、竜騎兵の隊長を務めていますが治癒も嗜んでおりまして」


 

 一口に隊長と言うが、小隊・中隊・大隊・連隊・旅団に師団。 どこらへん?とか思う。だってなぁ、セイルさんの傍に居るのに隊長っても下っ端な訳ないだろー。


 だから、レイドリックさんは、できる(チート)系の人だろうと思いはしてた。 らぁ…



 「…骨格等を自分が可能な範囲で確認しましたが、人であると判断します。過去、召喚獣を確認した事は一度だけですが、その時は瞳孔に違いがありました。知識としましては、些細な違いがある物だとされております。人形を可能としても物馴れぬモノであらば、二足歩行に感覚が追いつかずふらつき転けるとも大変嫌がるとも聞いています。視点の変化も原因と聞き及びますが… それを力で補えば、その分回す力が足りずに弱く有るとも聞きました。故に召喚獣と言えど、どの様な事にも鍛錬は必要とされるそうです。が、言い方にやり方を間違えると、召喚獣が素の自分が気に入らんのかと激怒するとも聞きました」



 俺にわかり易いよーにと、言葉を選んで教えてくれる。


 此処だと召喚はメジャーから外れるんか? …そう言われりゃ、召喚獣も大変だあな。人形の自分に美醜を求めてないなら、人形要求は鬱陶しゅうて堪らんだろーな〜。相手が喜ぶったって、本来の姿よか人形が良いとか言われたらなあ〜 そりゃ〜考えるわな〜。くどかったら思考が読めんでうるさくなって性格の不一致で別れそーだな。いや、見目が肝心とかゆーたら蹴飛ばして破棄が先か。


 しかし、それなら俺の場合は? 最初からの人形チートだろ? 


 そう思ったら、『魔力無し』が脳内ドッカン落ちてきた。 …そーですよねー。規格外って、わかり易いのとわかり難いのに別れるもんですよねー?



 「自分共も技術として、身体能力を一時的に引き上げる事は可能です。それは筋肉を酷使するとも、力で酷使するとも言いますが…   身体全ての変貌は、骨格のみならず感覚器官をも変態させる事です。それは何らかの影響を自身に与えると思われるのです。普通に考えれば無い方がおかしい。魔力は便利で恩恵と呼べますが、絶対の何かではありません。


 あなたがしている事は、自分の見立てから言えば異常です。異常の一言に尽きます」



 …ビビった。

 だってさー、できるつった時も隠した方が良い?って聞いた時も、そんな顔しなかった。ヌルい顔でいたでしょーが。


 しかし周りを見ると、ナンか皆さんの顔が… それぞれに思案する顔が…



 セイルさんは特に問題だとした顔はしてない、と思う。事実に衝撃を受け、驚きに満ちた顔とは無縁だ。けど、ちょっと考えてる。それが何だか怖い。

 レイドリックさんのすっぱり切ったあの目が。あの目に心臓が、ちょおおおおっと…   医者のせんせーになったら、どーゆー目で俺を見るんだろう?


 よくあるよくあるよくある向こうのリアルの漫画でも、マイナス方向でよ〜くありそ〜うなのが心臓にずくずく負担を負わせそうなんです。ほんとに。







 「怖がらすな、このボケが」


 重くなり始め、沈み始めた静か〜な空気をぶち壊したのはハージェストだった。不機嫌を全く隠さない顔でいた。目の蒼さが一層の蒼味を帯びて、凶悪になってた。



 「アズサが使う技術が俺達とは違うモノで、段階が違うってだけだろうが? あ?  逆から言えば、アズサの技術の方が上で、お前が下だと言うだけだ。異なる使い方が不明だからと、自分に当て嵌めて考えるな。嵌めて止めたら、そこで終わりだろうが。 ええ、違うか?


 その所為で… ! その所為で、俺は全てをふいにしたんだぞ!?  融通の利かない馬鹿の所為でなあ!!」


 最後、ガアッて吼えた。

 顔はギリッギリしてた。キレるより、キレる為の溜めに入った感じした。



 「異なる以上、わからないのは当たり前だ。異界と言っただろうが! その耳は何を聞いて、その頭は何を理解した!? 単純にアズサの技術が上位になるだけの事に、一々無駄に、過剰に、囀な! 


 それ以外に何がある? ああ? 違うなら、何が違うか言ってみろ。  閉めても開く。 掛けた上で役に立たない。 確認に把握はしただろうが? え?  それだけで上位に値するのを理解できないと、俺を笑わせる気か? 重苦しく言えば、自分の理解不足を補えるナニかになると思ってないだろうなぁあ?


 用心も要る。だから、常識もこれから覚えていこう。 ね?」


 皆にも、俺にも言った。





 「その辺りが妥当だろうな」


 セイルさんの頷きと視線に皆さんが応えてる中、耳元でこっそり囁いた。


 「ふいにされた。アレは思い返すだに口惜しく、忌々しい。でも、それで良かったとも思えてる。今だから思えてる。  色々、思うんだよ」



 モードが変わった顔は、苦さに近くて違う顔。





 『掛けた上での役立たず』の意味が何を指してんのかわからんが…   俺が俺としてあろうとするのなら。 色々、思うですよ…






 タオルできゅっきゅと拭いた体を見て思う。


 うん、俺のはお着替え。骨がボキボキのバキバキでの変身ではありませ〜ん。嫌ですよって。魔力が満ちる世界でも、そこに住んでる人のじょーしきが俺が思ってたのとちょっとアレですが… それを逸脱してのチートで「すげえ!」は、それこそすごいけど本当に怖そうです。

 でも理屈を理解して把握したら、取り込んで自分のモノにしそうにも思える。元々、世界の魔力に馴染んで力を普段使いしてる原住民の方が、ガンガンいけると思いませんか?



 ん〜〜 ナンでしょね〜。 チートってぇ、器が?  それとも、構築する理論が?   能力の一言では済みそうにないですよ?





 それから四名様を立たせて、四人でローテーブルを囲った時に治まりかけてた俺の『ズッキン!』が、再び襲ってきた。


 ロベルトさんの腕に抱かれてる某猫とちび猫は、ローテーブルの下を走り回ったが、ローテーブルの上も走った。ハージェストの膝上奪還の使命に燃えてジャンプして追い出した。しかし、行きつ戻りつもした。遠慮なく追い掛け、某猫も反撃した。


 だから当然の結果、並べられてた宝飾の一部は、ガッチャン!と床に落ちた。


 

 今思うと、「あ!」とか「あー!」とか上がってた気がする。それは、落としたり踏んづけたりした事に対するモノであった気がする。


 猫に小判ではありませんが…  ええ、あの時、本当に大事だったのは宝飾ではありません。断言できます。ほんと〜に目もくれませんでした。



 「ふ、ふふ、 はあああ〜〜」



 レイドリックさんの仰る通り、何らかの影響が出てるんでしょうかね? 自分で変だと思う所はないのですが、猫するなら遣り切れ・成り切れ・突き抜けちまえとも思ってるのですがあああ。 傷が付いたら商品価値下がるのにぃいいい… 大事な大事な換金物をどーでもよく蹴るなんてなー… どうかしてるわ。


 そーゆー所が本性は猫だと考える要因と言われると…   反論できずに泣けるのですよ。 嘘泣きぐっすんは見破られそーですよ。 はぁ。







 「出た?」

 「あ、出たよ〜」



 此処だと行儀悪いかな〜? 二人だから良いだろ。


 タオルを頭に乗せて乾かしながら洗面所を出た。



 「お待たせ」

 「そうだ、今までは髪乾かすのどうしてた?」

 「ん? どうって?」



 話しながら部屋に戻る。



 「はい、ここ座って」



 椅子をテラス面に向けて座る。庭が見えます。


 「大丈夫だと思うけど、軽いものからね」

 「わかった」



 ハージェストが髪を乾かしてくれるそーです。猫の時にした『ふわん』です。いや〜、あれはマッサージ付きで極楽だった。


 後ろに立っているんで、どうやるのか不明です。とりあえず、座って床を見てました。




 「あ」

 「変?」


 「違う違う、へーき」

 「気分悪くなったら言って」


 「ん」



 ……………… なんつーか。きっら〜んとかぴっか〜んとか光りません。代わりに渦は見えた気がしました。直ぐに温風が当たったんで、やっぱアレはそうだと思います。 埃が舞ったから見えたのではありません! …きっと。


 渦を巻くんだから、円形が基本だと思う。教えて貰った結界もそうだったし。 …ん〜。



 「なぁ、また猫洗いしてくれる?」

 「いいよ。 …聞きたいけど、あれは術式だよね? 着替える式なんだよね?」

 

 「そう、『ちび猫なれるもん』だ。 …ちなみに俺の命名じゃないから」

 「…はは、可愛らしい命名だよね。気になるのは洗う必要性なんだけど」


 「うん、それ未だ不明。あの泥仕様で着替えたら、あの姿で出てきそうな気もする」

 「……………確認する?」


 「前回、俺も思ったんだけどさあ。今回、にゃんこ史上最高のふわふわが継続されてた気がするんだよ」

 「……………着替えは一着だっけ?」

 「うむ、一着だ」

 「確認要らないかな」

 「泥着替えするのもねー、ヤなんだよねー。それに普段より時間必要かも」



 必要な、でもよく聞けば重大でもないどーでも良さそーな話をする。その間も柔らかい暖かな風が俺を取り巻く。ハージェストの手が、タオルと一緒に俺の頭をわしゃわしゃする。

 

 ん〜〜〜  人にして貰うのって、やっぱ気持ち良い〜。短くなったから、早く終わるのが残念なよーな。



 「こんなものかな」

 「あー、気持ち良かった」


 「それは良かった」

 「ありがと」

 

 今後も髪は乾かしてくれるそうだ、時間さえ合えば。それと髪を乾かすのに、専用の速乾作用を保持するのがあるから、それ使え言われた。生乾きで風邪引くと注意された。


 髪を切るのに、そーゆー意味も込めてたそーだが…  お前は寝間着着ろっての。

 


 「あのさ、兄がごめんね」

 「へ?」



 俺の横に立つ顔を見上げれば、申し訳なさそうな、どう言おうか迷いあぐねる顔をしてた。



 「ほんとは怒りたかったんじゃない?」

 「何を?」


 「その… 午前中の話でさ。軍備のって言うか〜 有り様って言うのか… アレについては、多様性を認めれど理解に納得は難しい。聞いた話だけでは納得に肯定はできない。論議するなら年表に過程を埋めた上で、それがどう繋がったのかの説明が欲しい。

 ん〜、議に上がってるその時だけを切り取った感じでなら、こっちにはよりわからない。大きな事を成すなら下準備無しには進まないから、外堀埋める感じで時間費やしてやってるもんだよ。その事実に気付くか気付かないかは別にしてもね。意識にも登らないなら、流してるってものだろうけど。  

 

 あ、違う。そうじゃなくて〜  あ〜 俺が言いたいのは、あの時、もっと言いたそうにしてなかった?って事なんだけど」


 「ほえ?」

 「だからさ、兄が遠慮なく笑った時に… 言いたい事を… 続けて話そうとした事を飲み込まなかった?」



 瞬きして顔を見たら、あっちは瞬きもしなかった。



 「多分なんだけどね? あの続きをもっと披露してくれたとして、理解に努め… ようとしても…  多分、努め切れずに俺は流すよ。それこそ本当に自分には関わりの無い話として聞き流してしまう。  ごめん。 円卓形式の話はさ、多数決で決まるものだよね。物事の是非じゃなくても通りもするんだよねー。それが悪い訳じゃないけどね? 見方の違いなんだからさ。


 その意見は聞き入れられない、でも、意見としては認める。それが有り様の根幹とも言われてるらしいんだけど〜 結局、笑顔の裏でガタガタってのも聞くし。


 だからと言って、どこもが真っ当ってのも言わない。


 だけど、理解され難くても話そうとする芽を摘むこと自体は望ましくないよね? それで、理解されないだろうからと自分で止めるのも… まぁ、気持ちとしては嬉しくはないし。それは相手に対する諦めってヤツになる。合わないのは合わないから、見切りも要るけど。


 兄は、斟酌しない人ではないんだ。弟の俺が言うのもナンだけど、できる人だよ。 …人使い荒いけど、本気で荒いんだけど。俺はできなくて、下でじたばた藻掻いてた口。兄はそんな事とは無縁の上から見てる人。でも、そこで苦労が全く無かったとは思わない。 …思いたくもない。


 あ〜…  それで、できるからこそ、無駄な遠慮に配慮が薄い時があるんだよねー。包み隠さず言い切って笑ったアレは、嫌みでなく本音。間違いない本音。

 そうだ… ねぇ、  ん〜〜  ある種の嘘は吐かないってヤツだよ。自分に自信を持ってるから言えるとも言うし、隠す必要性を感じてないってのもあると思う。


 馬鹿みたい強大で膨大な魔力を保持しているのも現実だけど、それだけを頼った自信とはまた違う。違うと俺はみる。  でもまぁ、何を言っても行き着く所は、その魔力に起因するとされたら否定はできないんだけどね」




 途中、思案を挟みながら言ってくる。

 その最中、何気なしに俺の髪に触れる。ナチュラルにタオルを引っ掴んで拭いた。


 真剣な話してる時に、それはどーかと思うんだ。他の事されたら意識がそっちに飛ぶしさー、片手間な扱いになるだろー?



 そう思うんだが、顔を見るとね。表情がね。


 ハージェストの方にも思う事はあるんだよな、だからそーゆー表情すんだろーし。   言ってみたけど間が持たんかったとかあるしぃ?  今のは何かに対する弁明ですかね? だとしたら、ナンに対してですかい?


 終わって流した話を穿り返してってのは、うざいですよ。いーめいわく〜とも思います。 なら、そう思うのはどうしてですかね?  どっかで引っ掛かってるからじゃないですかね? どっかで流したのにって思うのなら、やっぱ引っ掛かってんでしょ。


 わだかまりを残さずにと思うなら。  相手にそうと求めるのなら、話す方が良いんでしょうね。   それで合わなきゃ話済みでポイでいーんだっしょっ。




 「えー、それはセイルさん庇い?」

 「兄はどーでも良いよ、庇おうと庇うまいと変わらないよ。俺が気にしてるのは君だから」


 打てば響く返事でした。


 「言い方はどうでも、レイドリックが言った事が常識で間違いない。そして、俺が上位だと言っても。他が何と言おうともと思っても、他は… 手でもそうだったけど、あんな対応になる。


 だから気にはなる。止めといた方がとも思うけど、君が君である事を止めたいとは思わない。あの姿は可愛かったしさあ。俺はあの姿、すごく好きだよ。腕に抱いてたら、幸せ抱いてるって嬉しくなる。


 でも、こういった対処については、俺よりも兄の方が頼りになると思う。言った通り、兄は上位に位置する。対処に慣れてる。下から見上げる俺では気付かず役に立てないかもしれない、色々ごめん。そう有りたいけど、当てになれないかもしれない」



 素で言った。

 姿が可愛いと言ったのには、顔が笑った。しかし最後は口がへの字になった。



 …どっかで不安に思っても、どーでれば良いのか出たとこ勝負で待ち体勢取ってた。そんな俺の先を普通に考えて、対策を練ってたんか。


 ……そーだな、当てにして良いか聞いたのは俺だ。しかし、カバーする当ての範囲が広くない? できて当然なんか? 俺、考える必要無し?ってか、直ぐに頭が回らんのが駄目?


 いや、おんぶに抱っこも頼みますが…  一人で、そんな顔せんで欲しいんだけど?




 「あのさ、此処に決めた時も来た時も、どっちの時も、俺はよろしくお願いしますって言ったんだ」



 見下ろす顔を見上げて返事する。ちょい笑って続きを話す。


 あれ以上詳しく求められても碌な返事ができん事も言う。一つ擁護するなら、それでもそーゆー所がありまして、生きてましたよって事くらい〜?



 「常識の方、よろしく」

 「もちろん、覚える事なら山積みだよ」


 「あ、う… 」


 ちょい、その目ナニ? スパルタ式教育法は遠慮したいんだけど?




 「でさ、名前だけど」


 足並み揃えて進もうとしてますが、名前でどーにも足踏みしそうです。これこそ歩み寄りが足りないと駄目でしょう。



 「…とりあえず、茶でも飲もう。気を入れ直そう」

 「お茶にする?」


 「コンロの正しい使い方から教えてー」

 「あ、そうか」


 「茶、淹れるのに正式な手順とかある? 道中では沸かしたのに、茶っ葉ぶちこんで一晩放置して冷や茶にした」

 「なるほど、覚える?」


 「…必要がないなら、本当に暇な時にでも。どっちかってーと淹れてくれたのを飲みたいです」

 「了解。行こうか」



 ええ、ほんとにとりあえず。

 茶を淹れる共同作業から入りますので、一緒に隣へ移動します。





 一歩、先を行く姿に思う。追う背に思う。

 優しさに定義はあるけれど、俺にとっての優しいは『どれ』としたもん? 肝心な、俺にとっての優しいをどこにみたよ?


 感情を込めずに見落とさなければ、きっと易しい。







 「もうそろそろ、アーティスくるかな?」

 「ああ、そんな時間だね」


 「じゃあ、どこで飲もう?」

 「好きな所で良いよ? 風が強くないなら外で、じゃない。乾かしたばっかりだから部屋にしよう」


 「わぁお」


 断言した顔に、似合わないけど肩を竦めてみた。



 シュン、シュシュ…



 あ、もう直ぐ湯が沸く。






  

チート …  非常に便利な言葉。だが、プログラム不正改造とも言う。 そんなものはやらん、却下。


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