102 優しいのか?
「いえ、ですからね?」
そこから繰り返した会話は、吾輩は猫になれるである。そして繰り返されるのは、人だろう?だ。
「人は動物の定義に入るが、身体の完全なる変貌は不可能だ」
「動物が人になるのは有りだとする逆の定義だけが生きるのは、おかしくないですか」
「それが可能となるのは召喚獣の定義が当て嵌まる故のはずだが」
「なんで特定してんですか」
「俺は門外漢であるが知識としてはだな… 契約を結んだ召喚主との魔力の融合が適応化を計るとか何とかでなかったか? おい、ハージェスト」
「えーとですね… まず喚ばれた個々の力の強さと適性に焦点が当たるのですが… あのさ、人なんだから召喚獣の定義を語っても先に進まないし」
「俺は人ですー。でも、猫になれますー。自己能力である猫は捨てませんー、捨てる定義はありませんー。そしてこそこそ隠す気は、気は、気はあ〜〜〜〜 隠す方が良いですかね?」
真顔で聞いたとゆーに、セイルさんは「異界の人間と言うのは、空想上の獣人であるのか?」と、そう宣われた。
おっかしいよな〜。そーゆーセリフ言って、悶えて喜んだりするのはこっちじゃねーの? …いや、まともに考えるならそこに辿り着くには大いなる過程に時間が必須だから、狼人間バージョンで滅殺されるのがオチなのか。うわ、いーやーあ〜。
「獣人ではありません! 俺のスキルはそんなものではありません! 俺の『ちび猫なれるもん』は、にゃんぐるみを着こなすスキルです!」
「あ?」
「え…? にゃん、ぐる… み?」
「何です? それは」
着ぐるみが存在しない以上、概念がなく、着ぐるみの説明から入りましたよ!!
「だから、あの時だってお願いしたろ!? 俺のにゃんぐるみは一枚しかないんだから、ゴシゴシ強く洗わないでねって。優しく優しくソフトタッチで洗ってねって! 洗ってくれたろー!?」
「あ〜… あれ。 ごめん、何言ってるか本気でわからなかったし。そんな事を言ってたんだ… でも、大丈夫。体を優しく洗うのは必須技能だから大丈夫。何に置いても優しくするよ」
真剣に伝わってなかったよーだ。ああ、そういや何となくって言ってたな。 …ふふふふふ、意志疎通に解読レベルを上げんとならんかー。いや、上げるのは俺じゃない。ハージェスト、お前の課題だ!
そして、セイルさんにレイドリックさんにロイズさんの大人三人組みは… それぞれの思考が読めるよーなヌルいよーなヌルくないよーな、真実ならどーしよーかなってな目で居たわ。
その目に俺も、んじろ〜〜んと見るけどね。
まぁまぁまぁまぁな視線を頂くと、俺としても早まったかと思うわ。けどな、これは言っとくべき事項だ。
でも、その後の説明でもぐるぐるしたよ。
「異界の人間と言うのは、そういった特性を持つのが常なのか?」
「いえ、持ちません。俺も向こうでそんなんした事ありません」
「は? した事がない、のですか?」
「はい、ございません。先に言いました通り、魔力なんぞございませんから。そーゆー事ができるのは、夢物語でおとぎ話で製作で映し出されたあ〜… 絵の中でしかありません」
「待て、それなら何故にお前は可能としている?」
「さあ?」
本気で答えたのに、視線が… 視線がひーどーい〜〜〜っ!
しかしだ、やはりまともな頭で考えれば、おかしいな。「領主様を騙そうとする、詐欺師か!」 なーんて言われると困るです。
「此処に来る途中で恐怖に駆られて逃げたら可能としてました。えー、俺を此処に送ってくれた方々なら、説明可能だと思います。ですが教えられるだけでは、成長の一つも望めないってなお話から教えては頂けませんでした」
今度の答えは合ってた様です。皆さん、理不尽そうでそうでもない顔されました。
「あのな、さっきも言ったがな」
「はい、先ほどお答えしましたが、礼儀であると諭されました。お名前も存じません。俺からは聞けません。好きに名を呼べとも言われた事に、聞き出そうとするのは無謀です。自己防衛は必須です。
…そうですね。もしあの時、名詞を選び・単語を選り出し・造語を作るかして、それらを名前と変えてたら、俺だけが呼ぶあの人の特定の名前として定着したのかもしれません。 いえ、したと思います。きっとあの人は忘れないと思います。そうすれば、そこから今とは違う展開が広がって、全てに説明ができる知識を得られていたのかもしれません。
それは惜しいとするべきなのかもしれません。 それでも。
それでも、俺は今の状態で良いです。それを欲としたものかは不明ですが、えー、まぁ、身の程か身の丈かは理解してるつもりです」
畳み掛けて言おうとする事を、全力でぶっちぎっといた! うん、どーしたもんかって顔されるけどさ〜。
今だって思うよ。
過去の時間軸がどーの、力の概念がどーの。物理学的に説明できるもんもあるでしょう。俺の場合は異世界に来たんだから、時間軸よか次元軸の方が気になるけどね。次元が違うんなら、多重次元もあるんかもね? 自分の望みの為に次元を渡って追求し続けるのも可能かもね? その果てに、成功するのか崩壊するのか知らんけどね。
けどさぁ… その多重次元を単なるカードシャッフルとして手に握ってるとしたら? 次元そのものが手にするカードの一枚でしかないのなら?
あ〜 怖くて考えたくないやね〜。
手持ちのカードに心を寄せる? ありえなーい。特に気にする訳ないってー。気に掛ける必要性がないっての。 …ほーんと。俺に色々してくれた、あの人は優しい。
「まぁ… そうだな、自分達に不可能な事象を容易に起こす。それはナニ様と呼ばれそうなモノだがなぁ」
何か非常にヌルい目で、じーこ〜〜〜〜っと考えておられます。
「お前が此処に居るのが奇跡と呼べるのなら、この場に生きて存在している時点で俺も弟も皆が奇跡の結晶体だ。生きて存在している、それだけでナニかに対する有り難うではあるな」
えー… しみじ〜みと仰られましたが、この世界の何様の定義がよくわかりません。この対応が特異なのかどーなのかも不明ですが、宗教的ナニかに巻き込まれて恐ろしい事態になってないので良いんじゃないかな? これからなるとか全力で嫌。
「あー、その助けてくれた方々と言うのは あ〜〜 なんだ。 この世界に関わる方々ではないんだな?」
「はい、違うと言いました」
家主が居るから降りれない、だから自宅警備員さんは居るんでしょう。
「それは何かしらあっても、手を出さないと言う事だな」
「そうですね、人ん家の事は知らねって事じゃないかと」
真顔でセイルさんを見て返事したら思い出した。
『総てに手を差し伸べる何かを望むなら、他を当たれ』
暗いあの場でそんな事を言ってた。 …………当たり前に優しいなんぞと言ってはいけませんかねぇぇ。いけませんねぇぇ。あっはー。
「なら何故に手を伸べたのか?」
「縁の一言で済むものでしょうか?」
「嘘か真かどちらにせよ、あ〜 」
俺が改めて思い出してたら、セイルさん達の方はなんかブツブツ言ってた。
隣のハージェストとは視線がバチッと合う。特にはなんも言わんが、色々噛み締めてはいるよーで。
どーも巻き込んどいた言葉に気分が上がったら、ずーーーーーーーーーーっと上がってるっぽい。平時走行になかなか戻ってない感じがする。
「とりあえず、異界の者でも… 違うか。お前の異界でも人は獣にならない、そしてお前もならなかった。が、こちらへと来る過程でどうしてか可能となった。魔力の適応化なら、此処に到着してからの様な物だが… わからんから置いとくか。時の経過で変わるかもな」
「何かわかると俺も嬉しいです。絶対探求はしませんけど」
へら〜〜〜っと笑って、次へ進めるみたいです。
空気を読む大人だからか、一つに何時迄も固執しないのか、違う角度から見ようとしてんのか。どっちにしても俺は無害ですから! ちび猫も無害ですから!!
それから、ちび猫には何時でも可と伝えたら直ぐにでもって事になったけど。
見世物じゃあないからね?
証明は必要だし、俺も理解に努めるけど見世物じゃないから。んで、幅広〜く世間様に公表するようなもんでもないよね〜。ハージェストは、その事についてめっちゃ嫌がった。「公開拒否!」の連呼をしたから怖くなったよ。やっぱ危険だ。
家の、どこら辺の者達にまで伝えるかのお言葉は追々考えるとして、リリアラーゼさんを外してはなりません。お付きのメイドであるステラさんも外せない。でもって、代理領主を務める男爵様も外せない! 上には押えてて貰わないと。
しかし、増え過ぎると疲れる。男爵様は顔を見たけど話してない。初回ですし、人数制限設けてstopですよ。
ロイズさんがリリーさんとステラさん、男爵様を呼びに行ってる間に話を詰めた。
「変化… と言って良いのか? その時、力を撒き散らす様な事はないのか?」
「俺の気分としては、変化よりは変身の方が… 先に説明した通り、着替えなだけですから」
着替えを強調するもヌルい顔をされる。だが、コスチュームプレイでもなければ、レイヤーと呼ばれるお着替えの人達とも俺は違うのだ!
それでも、安全対策はする事になった。
力の方向性が同じならまだしも、同じ魔力を備えているならまだしも、魔力さっぱり感の俺がするんで変な影響出たら対処わかんなくて怖いんだわ。
なので、執務室の続きの間に一人で入って一人でお着替え。猫で出てきて、皆様に猫ご挨拶。そして猫観賞後に、この執務室で人に戻って終了です。
一度ハージェストの前では戻ってるし、問題ないと思うけどね。用心に納得は要ります。それに、続きの間の扉はきっちり閉めません。少し開けたままにします。閉め切ったら、ちび猫出れないし。何より皆が魔力で確認する邪魔になるから。
この領主館にはセイルさんの結界が張られっぱなしで、セイルさんには筒抜けってさ。壁一枚隔てた所でセイルさんには関係ない。でもセイルさんの力を全面出したら、俺の力が不明だってーの。
壁は物理的な物と俺へのほーんの気持ちの配慮ですネ。お着替えだしぃ。
「入りましてよ!」
バタンッ!
「ノイちゃん! 猫ってほんとなの! 小さいの!?」
軽やかなドレスの揺らめきと共に部屋に入って来て、内部の人間を確認しつつ叫んだおねーさんは、「人なの!?」とは言ってくれなかった…
「姉さん…」
「どんなタイプの猫なのぉ!?」
満面の素敵な笑みですね… おねーさま。しかしステラさんが入って来ない。
「ステラには用事を頼んでるの、直ぐに来てよ。さ、私にも説明してちょうだいな。それと… この宝飾は? どうした分なの? もしやアレなのこれ全部?」
切り替えも早いおねーさまの対応は、ご兄弟でしてください。
俺はそろっと椅子を立って離れます。うーんと背を伸ばしました。行儀とか言われても〜。
「体の方は良くなっていますか?」
「はい、美味しくない薬湯もちゃんと飲んでます」
「はは、薬湯は苦くて不味いのが相場だから」
「「 失礼します 」」
レイドリックさんとお話を始めたら、ロイズさんのご帰還と男爵様のお越しです。男爵様と目が合えば、『あ』な顔をされました。嫌な顔ではありません。
「説明だけは受けております」
男爵様はその場でササッと、セイルさんに視線飛ばした。大様な顎しゃくり付きの視線承認得て、立ってる俺に自己紹介くれました。
「私の友人でもあります。身構えなくても大丈夫ですよ」
「はい、私めは爵位持ちではありますが、務める事で生計を立てている者ですから。主家を失う気はないのです」
俺を安心させる為か、少し戯ける様に言ったロベルトさんは… 中肉中背だが文官とは裏腹な中タンクな人にも見えた。
記憶を引っ張れば、領民人気の理由を思い出す。デスクワークオンリーの人ではないからか〜。
しかし、人説明に猫仕様の話では唸られた。
そして何故かステラさんがまだだとゆーのに、続きの間へ入れられた。皆でこそこそ何か密談でもするんだろーか? 少し不安になる。
が! 入った続きの間っちゅーのが、それこそ密談仕様!! 窓が無い上に狭い。スペースはあるんだが、広い部屋ばっかり見てると感覚鈍る。
しかしよく見りゃこの部屋、俺が馴染めそうなスペースなよーな? それでもセイルさんが明かりを点けてくれなかったら、怖い部屋ですよって。はぁ。
「お待たせしました」
「あれ? ステラ。それは」
「私が頼んだの」
「はい、急いだのですが少々手間取りました」
「えー… ちょっと、姉さん」
隠しても無い声は筒抜けです。
「こちらは良いぞ、できるか?」
「え、兄さん ちょいっ!」
「はい、できます! 今からしま〜す」
さぁ、ちび猫の出番です! 久々の〜 にゃんぐるみぃっ とぉ!!
目を開けます。手を見ます。体を見ます。尻尾を見て〜〜 yes! にゃんこ史上最高のふわふわが継続されてる気がすんよぉ!!
ふふふ。そうだ、俺はラブリーキャッツ。この姿なら幾らでも愛想を振り撒ける! ちょっと… ちょっとアレな気もしたセイルジウスさんにだってバッチリだ!!
ラブリースマイルでハートをキャッチであっちもこっちも安心キャッチ! 何より俺は人だから、人の心を掴む猫ラブリーポーズもお手の物!!
「にゃあ〜〜ん」
変身終了合図を送ります。
「終わったのか? ああ? 気配が途絶した感だけはしたが… 揺れはないぞ。 どう動かした?」
「自分はわかりませんでした…」
「界の揺らぎは… 認められず。ですが確かに気配が離れたと… 離れたはず… いえ、明確にはわからず」
「ノイちゃん、本当に変わってて!?」
扉の向こうで否定の声が上がってた。 ですが良いです。
さぁ! ちび猫のデビューですよ!!
「にゃあん」
意図的に可愛らしい声を出す。扉から小首を傾げてちょっと覗かして、ぴょんぴょん跳ねる様に皆の元に可愛らしく行く。ハートキャッチの第一歩! 待てよ、お澄ましの方が良いか?
扉から出た俺は、トトッと進んで皆を見た。見た。見た。見た。 見たよ。
「まああ… 灰色の猫なのね」
「尾長です。本当に… まだ子猫ですね。リリアラーゼ様」
「完全に猫だな」
「魔力感知はどうだ?」
「不可です」 「自分も同様ですが…」
俺に対する言葉はどーでも良い!
見た瞬間、俺の体を衝撃が襲った。ベタブラックにフラッシュ、ぴっしゃ〜〜〜ん!だ。頭の天辺から尻尾の先まで突き抜けた。しぴぴぴぴんっ!ってな感じで走り抜けた。見えたモノに硬直し、ボケた様に口が開く。
知らず知らずに声が漏れた。
「ふ、ふぅぅ… ふぅううううううううううううううっっ!!!」
「あら? ノイちゃん?」
「リリアラーゼ様、お待ちを」
視線を外さず一点集中。牙を剥き出して唸る。唸る。唸る。唸る!! 唸り身構え尻尾を立てて、ジリジリと近寄る!
ハージェスト… ハージェスト、ハージェスト! てんめぇぇええええええっ!!
「ふぎゃああああああああああん!!!」
てめぇ、そこどきやがれ!! ハージェストの膝上はなぁ、俺のモ ンだああああああああああっっ!!!
「ふぎゃー!!」
「なー!」
「みぎゃー!」
「ぐなー!」
「ぎにゃあああああんっ!」
ていっ!ていっ!ていっ! そこをどけ! そこの領有権は俺に有る!! 俺がちびだと侮るなあああ! フザケンな、ちびがどーした!! 譲る訳ねーだろが! 体格で劣るからって逃げる訳ねーだろが! そ・ん・な・ん・一々気にしてられっかあ! 一度渡してしまったら、二度と俺の主権は戻ってこねーだろーがあああああっ! 延々延々踏ん反り返って俺に見せつけるよーに膝の上に居座り続ける気だろーがあああっ!
だぁれが 許すかあああっ!!
「かーーーーーーーーーーーーーっ!」
「なー!」
下からなんざ間怠っこしい!! 俺を舐めんな! とーーーーーーうっ!
「ちょっ 待っ あいたっ!」
「なっ!」
どすっ!
よっっしゃああああああ! 追い出し成功、やったぜ! あ…! ダメだ!そこもダメだ!! リリーさんも俺の主権だ!
「みぎゃー!」
「なーご!!」
ぐるんぐるんたたたっ、ばったん!
てぇいっ! くそ、負けねぇ!! おりゃっあ。
ローテーブルの足の下だって擦り抜ける! 小ささを有利に!!
にゃふ。 にゃーはっはっは!
リリーさんの靴に手を置いて、猫勝利にキリリな自慢顔して笑ったら。
「なーあ!」
ん? あーーーーーーっ! セイルさんもダメーーーーーーっ! そこも俺のーーーーーーーーっ!!
「うにゃー!」
「なーごお!!」
「しゃあああああああ!」
ばしんっ! べしっ! ごろん、ばったん!
「にゃう!」
「んみゃ!」
尻尾攻撃に体当たりで縺れてやり返されたが、俺は侵犯猫を追い払った。熾烈を極めるにゃんこ闘争に俺は勝ったあーーーーー!
セイルさんの靴にも手を置いて、鼻息荒く意気揚々と主権を主張しておく。
ら、あーーーーーーーーーーーーーっ! 奴め、移動して立ってるハージェストんとこに戻ろうとしてやがるううううううううううっ!!
「うなあああああんっ!!」
突撃した。
そしたら、ロベルトさんとこに走ってった。
うむ、そこは主権外なんで良い。放置しよう。しかし虎視眈々と狙ってるなら許さんぞ、渡さんぞ。全ての膝は俺の為にあるのだ。
暫く睨んだが問題ない様なので臨戦態勢を解除して徐に振り向き、ハージェストを見る。見る。首を傾げ視線を外さず斜め下から見上げつつ近づく。
「うにゃあん?」
なぁ、ハージェスト。お前、俺と言うラブリーキャッツがありながら、知らん奴を膝上に乗せるとは一体全体どーゆー了見だ? ああん?
「ちがっ… 違うから! あれは姉さんが! 本物とどう違うか比較をしてみようと突然思いついたらしくて!! それで!」
ああ?
「嘘じゃないって! 姉さんが自分で抱えてたら良いのに、俺にも見とけって渡して来て!! 膝に乗せてたのは俺の意志じゃないから! ほんと! 画策なんかしてない、俺は無実だってぇ!!」
うだうだ言うハージェストを下から睨んでた。
「ほんと、ほんとに一番可愛いのはアズサだから。俺の一番はアズサだから! 嘘じゃない、ほんとだってー。 ねー」
俺の前に片膝を着いたハージェストが、さっと手の差し伸べてくる。引き攣るよ〜うな笑顔をじーっと見てたら、下から手を入れられて腕に抱き上げられた。両手で囲って俺を抱く。その胸元に猫手を着いて、じこ〜〜〜〜っと顔を見上げ続けた。
まぁな、俺を抱いてうだうだ言いつつぐるぐる動くハージェストは傍から見れば笑えただろう。しかしだ。
俺はノイだぞ。
「ええー… そんなアズサ〜。 あー、あ〜ごめん。 えー、それはあ〜 あー… ね、機嫌直して。 俺は君が一番可愛い、一番大事。一番好き。君が居るのに他のに目が行くわけないってぇ、そんなの本気で対象外だよ。見たとしても比較なだけ。でも比較にもならないよ、君が居るのに。本気で他のが可愛いなんて思う訳ないんだって。
可愛いのは君だもの、君だけだって。俺の一番はずっと君だけ。ああ、でもアーティスは例外で良いよね? 君が俺にくれたアーティスは大事だし、大事に可愛がってきたんだし。ねぇ?
ほんとにあの猫を膝に乗せてたのは、姉さんが渡して来たからなんだよ。兄さんだったら即座に押し返してるって、ほんとだよ? 嘘なんか吐かないよ、こんなんで嫌われるなんてやってられない。
ね、俺は君に嘘なんか吐かない。さっきも約束したろ? 約束したばっかりで嘘吐く最低野郎になる気はないし、俺の矜持にガンガン響くよ。こんな比較にもならない事で嫌われるなんて、俺だけが馬鹿を見るって奴じゃない? そうだろ、違う? 俺はそんなの嫌だよ。 得か損かの天秤に掛けなくても偏り落ちてるってのにさぁ。
大事な大事な君に、見てもやってもない事で 心の底から嫌われる。
そうなったら泣く前に痛くて叫ぶよ。聞き苦しくても言い続けるよ? 当たり前だろ? 君に言わないと届かないんなら、声に出して言わないと。前にも言ったよ? 拾ってくれと待つだけの奴を俺は嗤うと。 俺にとっては君が一番可愛い、ほんと。君しか見ないと言うより他を見る暇なんか無い。君が居るのにどこを見ろっての。 ね? ご機嫌、直して」
ナチュラルマシンガントーク咬まして俺を抱く手でボディタッチをしてくる。俺の猫体を撫で回す。あやす様に腕を動かし、猫顔に顔を寄せて次いで口元も寄せてくる。
それはせんで良いんで、ナチュラル肉球タッチでシャットアウト。 …したのに全く気にせんな、お前。
「うにゃああーん?」
「あー、ほんとごめんよ。俺以外へのお披露目ってか… 大事な初見えになのに、気を取られるモノがいるなんてね? 繊細な問題だった。無遠慮に居させてごめん、俺が強く反対して部屋から出しとけば良かったんだ。でも皆の前で何度もするのもどうかと思ってさぁ。対応も人それぞれにあるだろー? だったら早めの納得の方が良くない? それに他との比較をして納得させるのは手なんだよねー。
…なんて事を考えちゃったから、ごめんね。君を蔑ろにする気なんてないよ、これっぽっちもない。本当だって、ねぇ信じてよ。俺が見てるのは君だけだから」
だからナチュラルに俺の猫頭に唇を寄せんで良いとゆーに。 …まぁ〜 反省はしてるからな、良いだろう。必要と認められる緊急時以外、他の奴を膝に乗せんなよ?
にゃんこ尻尾をゆーらゆーらゆーらゆーらさせながら、俺は腕の中で鷹揚と頷いて胸を叩いて許してやる。
食らえ、許しの鉄拳制裁。鉄拳制裁。鉄拳制裁。鉄拳制裁。鉄拳制裁。鉄拳制裁。鉄拳制裁。
爪を出さない〜〜 肉・球・衝・撃!
ぺちぺち叩いてよし、終了。
満足して腕と胸に凭れ直して振り向けば、皆がこっちを見ていたよ。 ………まぁね、他に見るもんねーし。はっはっは。
「まぁまぁまぁ…! ああもう、ノイちゃんったら… あのね、もう頑張って背伸びをしなくて良いのよ? 本当に此処は安全なの。ずっと… ずっと気を張っていたのね… 本当にもう大丈夫だから」
はぁ?
不思議なお言葉に、リリアラーゼさんを凝視すれば笑顔だが、目元にそっと手をやってナンか涙ぐんでるよ? え? なんで、どーして、どーされました?
「ハージェスト、これからはこんな状態にしては駄目よ。人だと虚勢を張って自己防衛に走るだなんて… 二度とこんな酷い状態にしてはいけないわ。 ええ、ええ、安心してね。 私も大事に可愛がってあげるから。 この先、酷い目に合わせる者は全部排除してあげますからね!」
くすんと鼻を鳴らして俺を見る。泣き笑い…とは言わないが、憤りとドコか微笑ましい物を見る目が綯い交ぜな大変優しいお顔で、リリーさんはサラッと恐ろしい事を言った。
てかあ! ちょっとロイズさん! アナタ、リリーさんに何て言ってお連れしたんですかいっ!?
クリッとそっちを見たら、瞬きを繰り返すロイズさんがいた。が、それ以外変化無し。…動いてくれそうにありません。誤解を解けと言うに!
「にゃあーんっ!」
ハージェストの腕から飛び降りる! しゅたたっと駆け寄り訴える!
俺は人ですから! 今はスキル見せの時間なだけですってぇ!! ロイズさん、そう言いませんでしたあー!?
「にゃあっ!」
「ハージェストを嫌わないでやってね? お願いよ」
ちょっ… 話はそっちじゃないですってーー!!
しかし、ドレスの裾を捌いて身を屈め、俺へと手を伸ばすリリーさんに大人しくする。猫頭に指が触れ、撫でられた。それからリリーさんの両手抱っこにより、俺の身は宙に浮かんだ。
「まぁ… ふふ。 ほんとに可愛い」
………………………俺の猫手は、ドレス越しにリリーさんの素晴らしいお胸様の上部にぺたっと着陸した。今日のドレスも素敵に高価そうです。 ふ、ふふふ。にゃふふふふ。 猫手を外さなければと思うが外せそーにないです。下手に動いて爪が引っ掛かったら怖いですもんね?
押したら、ぽよんって弾力が。弾力がぁ! ん?
「おい、ハージェスト。会話してたが、本当に意志の疎通ができてるのか?」
「いえ、できてません」
はあっ!?
勢いよく、グリンッと振り向いた。
ぼよんと増す弾力を押した。咄嗟に二度押しした。 ダメだ、ナマの感触に意識が引っ張られるう… !
「ですが、様子に大まかな所は普通に察知できますし」
「…………勘が主体か、お前」
「えー、まさかあ。外してないですよ? 外してないんで勘とは違うと主張しますよ」
「にゃっ…」
勘かよ、お前!と言いたいが、まぁ外してはいない… しな。しかし、この凹凸感が! ハージェストの無い胸とは全く違う、このにゃんこボディに当たる半端ない感覚が俺の意識を鈍らせる!!
素敵な谷間に猫頭を埋めても、きっと誰にも怒られない。だって今の俺はラブリーキャッツ。優しく抱き上げて貰ってるしぃいいいい? い? う? ん、んん〜〜〜〜〜??
着陸後は移動させてない猫手を見つめて、考える猫をする。この感触に考える。脳内演算が走り出す。
ぼよんとぷよん…
ぷよん… はうあっ!!
口を開けて猫硬直。
要らん事を思い出した… 一度だけ、あそこで得た似た感覚。 ぷよん。
ぷよんは… あやめ姉ちゃんだ…
あやめ姉ちゃんの方が柔らか感がありました!! あああああ! リリアラーゼさんは胸筋をお鍛えでしょうか? うわっちゃあああああ! ししししっ 失礼な事を…!
比較する猫、すいません!!
「それにしても、ハージェスト。普通に喋れるじゃないか、なんであの時それで話さんかった?」
「は? 兄さん、何の話?」
「だから、あの調子で話しておけばだな」
「はああ?」
恥ずかしさの余り、ぴょんとしたが… 解決してねーじゃねーか!
問題解決の為にパッと顔を上げ、ステラさんの元に移動。
「にゃーん」
ステラさんはまじまじと俺を見た。 …見つめるだけで動かれない。見つめる感が半端ない。
「にゃあー!」
仕方ないんでステラさんを見限り、ロイズさんへと走り抗議する。 ちゃんと人だって言ってくれましたあー!?
だが、こっちもさっきと同じで見つめるだけだ。 ちっ。
「にゃーあ」
ロベルトさんは俺とバトった奴を抱いていた。ロベルトさんを見上げれば奴とも目が合うが、それはスルー。 人説明に唸ったけど理解してくれてますよね!?
しかし、ロベルトさんは腕に抱いた奴と俺とをひっきりなしに見比べていた。
「にーーーっ!」
さっきも話したし、まだ大丈夫じゃねーかと思うレイドリックさんへと移動する。そのお顔を真剣に見つめた。 やだなぁ、解決しそうにねーなぁ…
「それにしても、そうか… リリーは自己防衛の虚勢と見るかぁ。 はあーん」
ちょおっ! セイルさん、何ふんふん頷いて言ってんですか!! あんだけ清々しく人の説明に笑っといて! ちゃんと人認定したでしょーーーっ! 裏の付属つけてぇ!
「にゃーーーんっ!」
リリーさんの誤解を解いてよー! 人認定説明してよー!
隣のセイルさんの足元に飛んでって訴えた。
「いや〜、そんな思考には辿り着けなんだなぁ。ははははは! レイドリック、あれは虚勢の為の作り話と思うか?」
「は… いえまぁその… 向こうでできずにいたと言うのが… 何とも言い難く」
ちょっと、レイドリックさん!
「ああまぁなぁ… うーむ、しかし虚勢ならもっと心を砕いてやらんといかんしなぁ。 うーん?」
足元の俺を見つつも考え直し始めた二人の姿。吟味に入った姿勢が脳内ぐるぐるする。
身を屈めて俺と目を合わすセイルジウスさんは、面白そうな目をする。面白そうでも楽しそうでも嫌み無く優しいっぽいのが、ぐるぐるに拍車を掛ける。
ぐるぐる脳内が閃くモノを弾くから、一抹の不安が訪れる。訪れがハージェストを探させる。
俺を見ていたハージェストの目に疑惑困惑当惑の光は無かったが、ナチュラルすぎて本気かどーだかわかんねー。
「みにゃ〜ああ」
俺の到着待ちを、身を屈めて手を伸ばして待ってる。
八方塞がりな今の状況でも間違いない俺の味方、のはずだから。俺の救いの元へ半泣きでぴょんと向かった。
「ああ、あんなに本気で懐いてくれて… 契約無しで姿を見せてくれる程に… なんて嬉しい! 良かったこと… !」
噛み締めるおねーさまのお言葉が、俺をぐっさり貫き通す。片手突き出す猫硬直を繰り返す。
ふ、ふふふふ。 にゃふふふふふ。
待っている手を素通りして部屋の隅へ駆けて行く。
「あら?」
「え、どうしたの?」
うぜえ! 自分で言うわ!! にゃんぐるみ、ペイッッッッッッ!!
「俺は人で、今はスキル見せでしょー!!」
遠慮なんかしない。
他にとってはどーでも、俺にとって間違えてる優しさなんかノーサンキューウ! 皆で 「「「 えええ!? 」」」 とかなんとか言っても知らんわあ!! ちゃんと人だと言ってんの聞いて下さいよ!
らぶらぶらぶらぶ えぶりでぇ〜 違うか。