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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
101/239

101 易しい故に難しい

  


 寝坊しました。ハージェストも一緒です。

 ですので、今日は人に起こされました。起こされ方が、あはははははー。リリーさんとロイズさんの二人に起こされたんですが、 …あんまり優しい起こし方ではなかったと言っておきます。


 あと全く気付きませんでしたが、ヘレンさんも起こしに来てくれてたよーで。







 昨夜のヘレンは、それなりに大変であった。


 夕食のワゴンは出されるのが大変遅かった。いつもの時間に行けどもワゴンは出ていなかった。最初は「今日はごゆっくりね。味わってるのかしら?」と微笑ましくいた。二度目に行ってもなかった。自分の食事を終え、三度の目の引き取りに行ってもなかった。


 『もしや、食事か何かで不備でもしたあ!?』


 そこに至れば、やきもきした。ワゴンの帰還を心待ちにしている料理長の顔を思い出すにつけ、何があったか確認したくあった。

 

 三度目の引き取り時には、思い切って「失礼します」と部屋に入った。直ぐに回れ右をした。寝室からは、忘れられない領主の声が聞こえたからだ。


 四度目には、廊下でばったり会った領主仕様のセイルジウスに心臓をドキドキさせながら、へこーーーっとした。『立ち聞きなんてしてません!』と心の中で力説してたら、「片付けは明日の朝で良い」と言われて自分に落ち度はないと安堵した。その時、料理長の心待ちも明日に延期だと嫌でも悟った。


 そこから明日の朝は寝坊されるかしらと予想しながら、回避不可能な料理長のがっかり顔も予想したのだった。






 

 ヘレンさんは寝室のドアをノックした。寝てるから返事は無い。


 『俺』が居るんで前回の一件を教訓に、メイド長か執事さんに確認ヘルプを出しに行ったそーだ。行ったら、ステラさんを発見・お話。そこからリリーさんのお出ましとなり、途中合流したロイズさんも引き連れて起こしに来られたと。




 そして、起こされたのですが。

 テーブルに食い散らかして放置した、真夜中の茶会の痕跡を見られた。見られたんだ… 



 「夜中のおやつは美味しくて?」


 今日も素敵なリリーさんは笑顔も素敵ですが、にこやかな笑顔の裏に何か見えるよーで見えない…


 ふははははは。異世界来て〜、夜中の菓子食いをおねーさまに叱られそーです。にゃ〜っはっはっはっはあ〜。あのおやつは要らないですが、アレもおやつだから食えと言われたら泣けそーですよって。


 

 「うん、二人で食って美味かった。あ〜、その後の俺の寝付きがちょっと… ね。だから起きれなくてさぁ。でもする事やってるし、兄さんとも話しといたし。安心感もあったから」



 悪怯れないハージェストは強いな。笑顔だけで、『えへっ、えへへっ』と誤摩化してる俺とは違う。違うから! 俺も動かねば〜。




 「どうぞ」


 すさっと、リリーさんにお菓子を捧げる。もちろん放置状態だが食い掛けではない!



 「以前の物でしたら」

 「これはだいじょーぶ」


 無責任に言い切って、先にロイズさんに食えと一個差し出した。



 「いえ、自分は」


 遠慮するのに、笑顔のポーズを維持してじりじりと近寄り、食えと迫った。食わんと止めん。そうだ、この場で食わせて買収工作!



 「あら…  まぁ、とても美味しいわ」



 ロイズさん(毒味役)に食わせたんで、リリーさんに捧げて終了。やはり甘味は強い。後はセイルさんに捧げねばなるまい。



 「ノイちゃんはともかくハージェスト、あなたは普通に起きなさい」


 

 上品にもぐもぐした後の、おねーさまのお言葉を不条理に思わん事も無い。 だってなぁ…  病人扱いの続行に助かったよーな、一人ズルしたよーな。


 そして、キャスターが回り止まる小さな音が聞こえた。

 ヘレンさんが朝食を持って来てくれたよーですので、菓子は片付けます。


 大急ぎで片付けます!

 だって、拙いよ。メイドさん達が総勢何人とか知りませんよ! 菓子の残りは多くないんです!! 自分じゃ作れないんです! えこひいき〜っと呼ばれる状態だけは避けねばあ!!



 ヘレンさんがセッティングに入られました。本日の朝食は隣室です。 なーんだ、焦らなくて良かったよ。



 「食事が済みましたら、後ほどセイルジウス様からお話がございます」


 今朝は伝言人メッセンジャーなロイズさんの言葉に頷けば、リリーさんとロイズさんは下がられた。では、今の内に着替えましょうか。


 メダル見せて貰えるんかな、早いな〜。






 「食べれる?」

 「なんか腹が凭れてる感じがする… けど食べるよ」


 「ん、無理せずに」

 「くあ〜、豆スープうま〜」


 「それ好きだね」

 「うん」



 食事の並んだテーブルにメッセージカードを発見して、蒸し魚の感想書いてねーやと… そして、病人扱いの証である黒薬湯Xもまだあった… 


 あー… 味覚を馬鹿にするから、もう要らないのに〜〜〜。


 単純な話、俺が元気になれば出てこないはずだ。そーいや、あれから医者のせんせーに会ってないなあ。 いや、会ってないから出てくんのか!? あ〜〜、色々してはいたから…  せんせーも忙しいのかなぁ? 医者だもんなー。まぁ、薬飲んで安静にって以外、方法がないよーな…  でも、もう安静は終わってるって。


 

 今朝のご飯は入らないかもと思いつつ食ってたら、食い切ってたよ。その代わり、食った分を下から出したくなった。あは。


 俺の味覚に対して無敗を誇る、げろマズい黒薬湯も飲んだ。これも本気で終了したい…



 「で、これなんて読む?」

 「それはだ」



 セイルさんからの呼び出し前に、感想を書いとかねーと。



 




 「では、参りましょうか」


 ロイズさんを先頭に、三人で伯爵様の執務室へご訪問します。これも一つの職場訪問! 仕事体験でも体験学習でもないけどさ〜。


 伯爵様の執務室は二階にありました。

 一階しか歩いてないんで、なんだか階段登るのが非常に新鮮です。いや、テラスの階段は登ってるけど、内と外じゃ雰囲気違うし。 


 てこてこ歩きましたが、辿り着くまで人に会いませんでした。途中で人の気配とゆーか、日常会話らしい切れ切れの声は聞こえるのです。……やはり有り難い事で、残念なよーな。


 矛盾するのが感情です。



 「あ?」

 「どうした?」


 「…後でいいや」


 ちら見えした制服に、聞いてない名前。優先順位があっても残念臭が漂う自分が悲し過ぎ。



 


 「失礼します」


 「失礼しまーす」


 ロイズさんに続いて入りました。

 …こちらも普通に広い部屋でした。書類の詰まった棚が並んでますが、一ヵ所『ごそっと無くなってる』そんな雰囲気もありました。部屋の模様替え中だろうか?


 安っぽさが全く見受けられない部屋と仕事机で書類を読んでるセイルさんの隣に、レイドリックさんが立っています。ご挨拶以来ですが、相変わらず良いがたいしてる。


 そして、ついっと滑らせた視線の先に! ローテーブルの上に、きらきらのきらりーんを見ましたあ!!



 「ああ、来たか」

 「体調は良くなりましたか?」


 「はい」


 笑顔で返事をしつつも、あっちが気になります! ちら見でガン見したいです!! 顔が、顔が無理の無い自然スマイルしてると思いますよぉおおおっ!!





 ローテーブルの席へと皆で移動しました。


 はいはいそっちと奥の席へ行かされ、隣にハージェスト。俺の前にセイルさんが着席。セイルさんの斜め後にレイドリックさんが屹立。ロイズさんは、こっちが見える位置に少し離れて居ます。遮る物もないんで、そのまま立ち位置キープで動かれません。


 …大の男二人に間近で直立不動とかされるとキツいから、良いけどさ。



 「これらに覚えがあるか?」

 「あります!」



 ローテーブルの上には布地が敷かれ、その上に一点ずつ所狭しと綺麗に並べられた宝飾達。脇に置かれた数冊の、きっと帳簿。そして… そして俺のウエストポーチも!!


 食い入るよーに見た。 お前達、帰ってきたか!



 「レイドリックの捜索の結果だ。説明を」

 「はっ! お話下さいました宝石店を隈無く捜索し、商品と帳簿を照らし合わせましたが、数が合いませんでした。裏帳簿も探したのですが、なかなか見当たらず。

 尋問した所、徒弟の一人が所持していたこちらの帳面に記した詳細が、ノイ様からの預かり品目であると証言しました」


 静かに移動して来て、一冊の帳面をペラリと捲ってココと見せてくれたが… 渡して頂いても読めませんがな。預かり証の割り符にサインはしたけどさー。


 片膝を付いたまま説明をくれるんで、帳面はナチュラルにハージェストに回す。


 「個別尋問から徒弟二人の言が一致しました。袋に一纏めにして預かった後、許可を得て品を見ていたと。徒弟の、いえ、職人としての道を志す者の盗みには指を落とす・潰すも通例です。出来心を防ぐ為にも二人でいたとの事。

 それでも模写をしたかった。ですが、店の盗作を疑われます。なので、形状の詳細だけをこっそり二人で書き留めたと。書いたが後から不安が高じたので、日時とノイ様の名を入れて良しとしたそうです。

 その際に全品を確認したが、店の刻印がなかったのが酷くもどかしく、それこそ、これは盗品だろうかと考えたとも言いました」


 わお… 拙かったか…  怖いな。


 「持って来られた時のご様子に違うだろうと判断したが、警備兵が踏み込んだ事で見る目がなかったのかと落ち込んでいた様です。ですがこの現状に至って今は鬱としておりますが、まだ演技か否かの見極めの最中であります」

 「は、はは… 」



 貴金属の売却処分、良い物になればなるだけ実は難しいですかねぇ? 売れないとは思わないけど… そっからダークサイド落ちとか、いーやーあ〜〜。悪堕ちせんでも同等扱い、いーやーあ〜〜。


 二人の徒弟君。

 きっと白だよ…  俺を送ってくれた彼と、もう一人だよな? どっちも真面目ってゆーか… その道を目指してる!な感じだったもんなあ。





 「詳細と合致した残りの品は、私共の目から見ても他とは質が違って素晴らしく… 中でも良い品が無いと徒弟が断言しましたので、何があっても取り戻さねばと動きました」


 「ありがとうございます! 皆様、大変お疲れ様でした!」


  

 俺が行こうと思っていたキルメルの街へは、犯罪者通報を一番に飛ばしたそうです。キルメルはシューレの領外なんで、大変だったご様子です。

 そこに至る前に商人の捕縛成功したものの、一部が既に借金の返済として流れてたそうです。しかも払い終わって別れ済み。その特定と取り押さえに、向かった方面への通達その他で本当にあっちこっちへと皆さん忙しかった模様です。後、返済を受けた業者もまたきな臭いらしく、そっちの絞め上げが別に続いてると。


 芋掘りの成果は良さそうです。最初の蔓としては良かったんじゃねーかなあ。売却用として頂いて来た品々ですが、盗まれて他の奴の懐を潤すとか思うとほんと腹立つわー。

 


 「こちらのポーチも運ばれていまして。口が開きませんし形状も合いますが、間違いないですか?」

 「はい!」


 ポーチを手にして口を開き、手を突っ込んで取り出したのは! ちゃらららっらら〜ん。 筋肉痛用塗り薬・メントール系〜。


 間違いない、俺のだ。見ろ、容器のここにある傷を! 俺が地面に落っことして作成した傷だ。

 


 「それは?」

 「塗り薬」


 ぱかっと開いたら、籠もってた匂いが解放された。 …なにその残念に似てる顔?



 「本当に開くのですね…」


 レイドリックさん、返事に困る事言わんで下さいよ。



 「ソレはアレと同じ構造か?」

 「はい、そうです」


 困らない返事は簡単です。



 「あのさ、これらの宝飾は全部… 自分の持ち物なんだ?」

 「うん。預けた時に用心して、こっちにも小分けにした」


 

 ポーチを探って換金お宝袋を取り出す。袋から、ひとつ〜ふたつ〜と並べたら、良い感じでテーブルに並んでるのと似た品が出た。


 「見せてくれるか?」


 取り出して手に持ってた分を、セイルさんのお手にハイ。


 渡したのは、女性用イヤリング。ゴールドの留め金に、ティアドロップの青金石ラピスラズリ。青金石と留め金を繋ぐ釣り鐘型の留め飾りが可愛い感じを出してる。

 本当に金が綺麗に出てるし、大きさも手頃で良いと思うんだ。重た過ぎると耳が痛いんじゃね? イヤリングした事ないけど、ピアスなら穴が伸びるよなぁ?



 「これだけの品で刻印が無いか。確かにおかしいな」


 うげ!

 真面目な顔が怖いです。


 「これらは自分の物なのだな?」

 「はい、全部生活する為の惜しくない換金物です」


 言い切れば、複雑な顔をした。

 でもなぁ… この場に出した分だけで一生の生活資金には足りんって。 そーだね〜、人一人が一生に使う金額って幾らだろうか? 人が人として文化的な生活を送るのに生活費と遊ぶ金と〜  あ、 あれ・これ・それ違ってもうわかんないや。 にゃっは〜。



 ところで、持って来たセイルさんに捧げる菓子は何時出すべきですか? 今でしょう! だが置き場所がないよ。



 「これらは自分で構えて持って来た?」


 セイルさんの顔が、昨夜のハージェストの根性の提示と俺の推測の当たりを示してると思う。話をせねばなりません、此処に居るのは誰ですかって奴だ。



 隣のハージェストを見れば、帳面を膝に宝飾を見てた。気付いて何だと小首を傾げるから、俺も傾げる。


 「嘘吐かねぇ?」

 「え?  しないよ」


 「吐かなくても、黙って誤摩化さねぇ?」

 「………しないよ」


 「ほんと当てにしていー?」

 「大丈夫、どんとこい。   …俺の守備範囲内で」



 最後の付け足しに笑うが、そこは大事だ。無茶ぶりする気はないが明言の有り無しは大違い。再確認は大事だよ〜。


 では、お待たせしました。



 「セイルジウスさん、安全保障ってどこまでですか? こちらに居るお二人にも適応される… んです よね?」


 俺は俺でいたい。さぁ、どうするだ!



 元の位置に戻ったレイドリックさんと、動かないロイズさん。ちらりちらりと二人に視線を送って大丈夫かと、確認する。




 「二人の信用問題か? ナイトレイ家は我が家を大樹とする家だ。レイドリック本人の裏切りの心配なら無い。ロイズは… そうだなぁ。逃げ帰れる家そのものが無い。そういう意味でならランスグロリアが家になる。心配は要らんよ」



 う、あ…  お一人様が痛かった。


 そろっと顔を伺うが、変わらない笑顔キープ。 どことなく、こわ。

 しかし、俺の脳裏にきゅぴんっと走る! ランスグロリアが家なら、家を生かす為なら主君でも無能は要らねーってパターンなかった? 要するに、独断と偏見でバッサリしちゃうタイプなら怖いんですが!



 ん、じいいいいいいいいいいいいいっ。



 ロイズさんの笑顔と見つめるだけの睨めっこを展開したが並行線を辿った…  負けるとゆーより、判断付かなくて勝てそーにもない。 あえ? こーゆーのは勝ち負けじゃないんだが。



 「ん? 大丈夫だぞ」


 終わりの着けようがわからないコレは、セイルさんの保障圏内で終了した。  ああ… しんどかった。レベルの低い俺には難易度高いです。



 では、サクッと。


 「俺は人ですので、ペットとしての取り扱いは却下します。でも、ちび猫は可愛がって下さい」


 深々とお願いしといた。

 今朝のリリーさんのお言葉… 病人扱いだと思いたい。だって、ペットだからごろ寝可って言われてたら泣けるんだよ。







 「…人か。  異界の」

 「はい、そうです。人の扱いに入れて下さい」


 セイルジウスさんの顔は真剣と言うより…  うーん、複雑で良いんか? レイドリックさんとロイズさんは話自体が『は?』みたな感じではあるんだが…   観察されてるなぁ。



 

 「うーん…  まぁな。 世界は複雑に絡んで見える単純な一本の糸とも言われるけどな。俺は召喚に興味はないが、世界の成り立ちからは、  あ〜、解明もされてはいないが…  天意としか受け取れぬ事象もあってな。まぁ自然の道理も天意と呼ぶが。 『異界』との呼び名は総称としてあるけどなぁ」



 深々と背凭れに凭れ掛かって長い足を組む。肘掛けに片肘乗せて、片手で前髪を掻き上げる〜。物憂気か、思慮深いと呼ぶかの顔は… どう見てもイケてるおにーさんですな。にしても、男兄弟って仕草が似るもんか? 離れて暮らしてたんだろーに。


 「聞くが、以前弟が召喚した際に来たのは君か?」

 「きっとそうです」


 「きっと?  …不確定?」

 「いえ、自覚無し」


 「 ……弟が強制強要強迫強奪をしたからではないと言い切れない?」

 「うわ、ナンか怖いですが!」

 「してません、人聞きの悪い! 俺は全精力を注ぎ込んで誠心誠意祈って願って乞うただけです!!」

 

 「だから俺の弟は、他から連れ込みをし(詐欺を働い)たのではないかと兄は心配しとるんだ!」


 「ちょっと待てぇ! 弟の努力の結晶に難癖つけんな!!」

 「その前の判断要素が薄くてわからんと言っとるんだ!!」



 即座の切り返しはどちらも素晴らしかったです。

 セイルジウスさんは、どこまでも大人な人のご様子です。その目には俺とハージェスト、両方への心配が混ざってたと見えました。



 「あの〜 記憶にないんで… 契約に至った過程は自分でも不明ですが、無理やりはないかと」


 「……言い切れる理由は?」

 「此処を強く勧められたからです」



 向こうのリアルに、一般ピープルな事とか此処へ送って貰った話とかします。

 嘘を吐かない事と、黙って誤摩化さない。それをハージェストに聞いた。だから、俺も一つだけ流して他は話します。ん、待てよ? 二つ? あれ、三つ?   うにゃあ〜〜?


 


 「…以上です。召喚に応じた事でできた縁。それが無ければ動く理由もないと言われまして。だから、覚えてませんが応じたのは俺で間違いないです。他にも行ける世界があったんですが、此処を選んでやって来ました。縁が有る事で強くお勧め頂きまして」



 真っ正面のセイルさんのお顔が何とも言えません…



 「自分の世界を出た理由は?」

 「……個人事情で」

 


 思い切りの悪い言葉です。話したくない一つです。

 思い出すと、未だにあれは理不尽だと内から声が噴出します。どーしよーもないのに、どす黒いのが出てきます。だから流せとゆーのに、俺自身を形成するナニかがギリギリと歯軋りするんです。

 かる〜く意味なく殺されたからだと返すのもねぇ? 聞いて楽しくもないっての。 あー、切り替え切り替えきーりーかーえ〜〜〜〜っ。  けっ。



 「危険を伴う故に、どこにでも都合良く降りる事は無理だと言うのは理解する。しかしだな、その場で初めて会ったのだろ? 軍資金としてこの様に貰えるものか?」

 「特別枠で貰ったんです!」


 そんな理不尽っぽい顔されても。



 「俺が此処に居るのは応じた結果です。記憶に無くても応じたからです。 でも、したのは、こっちです! 俺だけに言われても〜〜〜」



 最後の締めに、隣で黙って聞いてる奴を巻き込んどきました。もちろんです。それからロイズさんもご試食済みの、頂き物のお菓子を小袋ごとヘイッと差し出しました。



 「魔力もな… その身に力が無いとは思わない。無ければ逆に異常過ぎる。 ああ、美味いなコレは」


 もぐもぐされるセイルさんは、レイドリックさんにも上げてました。優しい人です。そして、食いながら考える姿はイケてます。何やってもイケてるできそうな人です。



 「弟の召喚に応じた召喚獣は正体不明。全てに置いて始末は着けた、特に浮上するモノもなかろうが…  記憶が無いか…  本人すら定めぬ是々非々を、他人が賢し気に語るは読めぬ馬鹿とも言えるしな。異界の、と言われても一見どこが違うかわからんなぁ… 」



 苦笑されたよ。


 「異界の人、ノイ・アズサか。 これからも、ノイで良いのか?」  

 「はい、これからは全面的にノイでいきますので」


 「だから却下!」


 …一人がうるさい。


 「却下、却下、全面的に却下!!」


 目を合わせば、譲らないツラがあった。 ほんと、この野郎は。



 「あ〜、名前か。そうだな、メダルの件もある。 とりあえず、名前について問題あるなら二人ともちゃんと話し合え。それまで俺はノイと呼ぶが、それで良いな」

 「…はい」

 「えーと、はい」



 「弟の召喚に応じたのが人であるノイならば、是非の二面が生じるが… 記憶の無い事実と応じた事でできた縁と。この二つの相殺で過去に生じたかも知れない罪は、不問で良かろうか?」


 「本当に覚えてないんで。正直、実感も何もないんです。過去より今の安全保障が欲しいです」



 包帯の手をぷらぷらして返しましたが、セイルさんの表情に何を見たんだろうね? 俺は。


 人を喚べない召喚陣で人を喚んだ。

 見方によっても驚天動地の事実より、異界の事実より、セイルさんが優先しているのは別の感情のようです。見え隠れする本心は、どっちだろう? どっちもだろうか?


 優先感情。単純に考えると易しい問題な気がします。セイルジウスさんは本当に嫌み無く優しい人だと思います。




 「異界の、ノイが居た所の話を聞かせてくれるか?」

 「はい、どんな事でしょう?」


 一名放っといて、笑顔でセイルさんを見た。



 そして気軽に返事をした事で地獄を見た。

 セイルジウス・ラングリアさんは、おにーさんは、いえ、おにーさまは違え様の無い領主様だった…












 いやさぁ… 此処は領主様の所有地。ハージェストも王都に居たって話てくれてるし、俺が居る此処は王国で間違いない。身分制度もございます。


 だからさー、もしも民主主義のお話とかになったら大丈夫かな?とは思った訳よ。相反するって奴だろ? それに文化の急激な発展は危険って言うし? んだけど、あっちの知識を持ち込んで『おお、すげーーーっ!』ってあったよなあとも思ってえ。


 けど、よろしくお願いしますって来たのは俺だから、極力そういう事はしないと考えてた。大した知識も無いし、端末で調べたら出てくるから記憶に残ってないってのもあるし。




 んでね、お話は「ノイの国では軍備はどうなってる?」から入ったんですよ。 これが。


 

 魔獣と魔力の有無の説明から入りました。



 「ふんふん、魔力が存在しない故に魔獣も存在しない。では、人だけで争うか」

 「失礼。では、戦闘の方法は、こちらの魔力を伴わない一般的な物と同じとした感じでしょうか?」


 「ええと、魔力が無いから武器の工夫と言いますか… ええと…  飛び道具の類いで操作を簡単にして、人を殺せる道具ができまして…  俺の国では警察の、あー、兵の人しか持てんのですが他国では子供も許可制で持てまして、そこから事故とか故意とか問題も上がりまして。他にも怖いのがありまして、色々問題が上がってるんですが止まらない状態と言いますか… 色々で、あんまり良くない物が」



 要領を一応得てはいるはずだが、イマイチな説明に眉を顰められたのは当然だろう。



 「個人の魔力は無いから、武具への付与に数で押すか? 持つ物の勝負戦で耐久戦か? 財力と伝手か製造勝負か。その辺は変わらんのか。  あ〜 一国を不毛地帯と化す焦土戦か何かか?」

 「他は精神の鍛錬の問題でしょうか? 魔力行使する際に持つ様な自意識が薄いのでしょうか?」


 「初めてできた子供と同じ思考なら、怖いとするか弱いとするか。 ああ、自分の内なる力の行使ではないからか」


 さらりと返されました。


 「異界とて人の集まりだな。王はどうしてる?」

 「 …俺の国では王様はいません。神と等しいとされる人はいますが、えー、実権とは無縁で、国の為にと一般人以上に大変過密な日程で日々をお過ごしであると聞いております」


 「実権がなくてそれか… そうか…  では実権は誰が握る?」

 「えー、一般から立候補して皆の投票から選ばれた各地の人間が、その中からまた代表を選んで」


 「ああ、円卓形式の国か」


 民主主義の説明は要りませんでした。


 「あれもなあ… その時の言動で選出が通っても、その後一貫する言動を取らなかったりする奴がいるんだよなあ」

 「そうですね、通った後は宗旨替えをしても通っているのだからと平気で居たりすると聞いてます」

 「確か… 随分昔に、それで国の約束を違えようとしたとか習いましたが」


 「ま、どこの国でもありそうな話ではあるな」

 「ええ、引き摺り落されて止めさせられたとも聞きましたけど」



 俺、ノーリアクションで良いですか?

 


 「ノイの国はどういう国なんだ? 何で成り立っている?」


 ええと? 


 「地形は?」

 「あ、海に囲まれた島国になります」


 「ああ、海洋国家か」

 「じゃあ、漁業関係が伸びているのでしょうか?」


 …ええと世界に誇れる経済大国のはずだが。


 「資源が乏しいので技術力で他国と頑張ってる国、の  はずです」


 ナニゆーても資源がないんだよなー。

 原材料を輸入しないと碌にできないんだよなー。原材料は原材料だから、それを加工するなり、何なりして初めて利益がでるんだよなー。原材料=利益なんつった奴いなかったかな〜。



 「確定でない言い方に笑うぞ?」

 「えへ」


 俺が笑っといた。


 「ですが海洋国家なら、攻められ難い位置でしょうか?  いや、海岸線が長いと大変ですか」

 「地政見地()か。 他国との関係は良好だったのか?」


 「…あ、んまり良くは?」


 これまた微妙な話を振られました。

 そこから再び軍備の話になりました… なので、日常を取り締まる警察はあるが、正確には軍は存在しない事と憲法の第ナン条に絡ませて在り方のお話をする事になりました。



 セイルジウスさんもレイドリックさんも、ハージェストもすんごく… 限りなく遠い目をしました。



 「あ〜、まぁな。複数に跨がる国家の大戦、実感は出んが意味はわかるぞ。理解もするぞ? しかしだな… あー、軍の代わりとなる代替で似たようなモノがあるか。だがそれだけで自国は守れんのだろ? 規模が他国に比べて小さいのだろ? だから友好国から軍が出張って来てる。その時の共同戦でなく駐屯だろ? 俺からすれば微妙だが、ん〜、わからんでもないが。やり方の一つではあるんだろうがなぁああ… 」


 「自国の兵力で自国を守れない、それだけでもう詰んでる。その状態での放棄…?  従属でもなく… ううう… 本当に安全なのか… ? 」 

 

 絞り出すハージェストの声に、返事ができません。



 「あのな、国の歴史の重ねから国として国家の戦争をしないと定めたのは… 強い事実だと思う。俺には想像しかできん…  いや、想像すら当たっているのかも悩むが、そうとあるのは強い意志だと賞賛する。するが…  実際起きたらどうするんだ? 起きない確証はないのだろ? そんな確証を誰が出す?  いやその情勢そのものを知らんのだがなぁ… 何かあった時、誰が吊るし上げを食らうんだ? やっぱりその時に選出された奴だけが全責任を負うんだろ?」


 「律でそれを縛ってる。なら起こった時にどうするか、突き詰めて話す事はしてる? 話す事すら問題とするなら、何時考えるのかな?」

 「そうならない為に、行動は取っているのかもしれませんよ。今、伺った話だけではどうかと… 」


 「俺が一番早くて確実と考えるのは、相手を力で叩くか・金で叩くかだが…  どっちもできんでどう動かすのか… 情だけで動くとはなぁ…  」



 ロイズさんは参加されませんが、あの目はナンか言ってます。


 

 「律を作った者の心情も過程も知らないけど…  律と言うのは、守れる現状であるから守れる訳で。守れない状況下で守ろうとするのは大変だろうなー」

 「もし、その律を破ってでも国を守った場合、律を破った者は守らなかったと裁かれるのか? まさかな? 現場で命を張った者が、守られて命を張らなかった者に律を破ったと責められる。そうと考えると笑えるな。それこそ傲慢を通り越して腹筋が痛くて堪えるわ」 


 「現場に立つ者が居るのですから! なら、平穏な日常の営みを守る為に、最善を選ぶ為の話し合いは持たれると思います! 何も律を守れと叫ぶだけの事はしないでしょう!? 後ろから蹴る様な真似をされるとは思いたくないのですが… やられたら自分はやってられません」


 「ふん… 律にして放棄するなら、厳密に言えば軍に似ているモノもあってはならない。それがあるのなら、何と言っても必要性を認めていると言う事だ。どういう過程で必要となり、それができたのかねぇ? 何にせよ、その有り様では次代が大変そうよなあ」




 何と返事をしたら良いのか、さっぱりになりました。少し答えただけの言葉から、ズルズルズルッとご自分達に照らし合わせて答えをこの様に出していかれました。聞いてて否定も肯定も返事もできずにボケてました。


 そして、話をした事で、俺は異界の子認定を受けました。



 「実はな、異界から来たとの言は半信半疑であったのだよ。異界ではなく、この地上のどこかでなかろうかと。だが、会話とは偉大だな。今の話で異界を信じよう。そんな中途半端で、自国の安全の大本がどの様な状況から成り立ち、どの様な状態で、どこに依存しているのかわかっているのかいないのかわからん特性で考えずにいられる事自体が信じられん。と言うか、他国の者からでも聞いた事が無い。皆無だ。いや〜、あるもんだなぁ」



 清々しい笑顔でこんな事言われましたが、どう返事したら良いんですかい。笑えませんよ? 村で不審者扱いが終了した理由もアレでしたが、こーゆーのもどーかと思うんです。



 だってー  馬鹿(異界)の子って聞こえたー。  えええー、どうしようー。 やっほー、わ〜あ。




 「兄さん、そういう言い方は… それに争いとは無縁でその道に入ってもいないなら、実感は出難いでしょう。憂慮に至って考えるにしても少数ですよ。それに、考えずにいられる程に安全でもあったのでしょうから、そこは特筆すべき点だと思います。そこに至るには、やはり誰かがどこかで何かをしなければ」



 ハージェストが俺を庇ってくれる。


 『勉強したろ?』


 自意識が変換したモノが俺の心の片隅のちっちゃいナンかの上に落っこちて来た。 …地味にイタい。





 「お姉さんがいるんだよね。そっちで幸せになってると良い」

 「……… あ。  うん、ありがとう。 ハージェスト」



 驚いたけど、にへら〜って笑えた。


 ハージェストも目を瞬かせたら、笑った。  あ〜… 存在もしないねーちゃんの心配をしてくれる、そんな奴が此処にいるなんて思わなかったよ。



 

 「おお、そうだ。さっきのちび猫がどうのと言うのは何だ? 猫が好きなのか?」

 「あ。 俺、ちび猫になりますんで」


 「…ああ?」

 「…猫に、なる?  人ですよね?」



 「はい、俺は人です。でも灰色のちび猫しますんで、よろしくです」



 精神的に疲れたし、『人』認定貰ったんで終わりたかったけど、まだ終わってない。領主様に腹を割って話すとなると、こーなるんかあ〜。突っ込みドコロが村とは違うから本当に疲れ方も違うよ。


 



 

今回は内容の一部が半端である、とも思っています。



そこに至るにどうこうしてボーエーヒを浮かせてインフラに突っ込んで高度経済成長の基礎を固めて云々。それより以前とかその関連等は近代史を  ぬーう。

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