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召喚  作者: 黒龍藤
第三章   道行き  友達に会いに行こう
100/239

100 語りて優しく、時を歌わん

祝、100。

そして、十三日の金曜日。五度目で大安〜。

 

 

 

 

   


 ごはん〜、ごはん〜、ごーはーん〜。


 セイルさんのご登場で、大急ぎでワゴンに戻した食べ掛けのご飯様方をテーブルへと並べ直す。完全に冷めてしまったが、それは仕方ない。

 さっきは大丈夫だと言ったが、それが正解だと思ったが… うーむ、やっぱこーゆー時はレンジでチンチン♪したいなぁ。それでも電子機器なんて、もう遠いやね〜。


 遠くて無いのが当たり前〜っと、でも さーびーし〜〜。





 コトン。


 蒸し魚の皿を置いた所で、じ〜〜〜〜〜っと魚の死体を眺めたら、「ふっ」と笑えた。まじ笑えた。


 なんだろね? なんでかな? なにが変わるから、こうなれるんだろね? 自分の感情を言葉にしたら、なんになるんかな? 洒落た言葉か、使い回された陳腐な感じで言ってみる?


 ああ、うん。よくわかんなーい。あっはー。



 見てたら、腹が減ってきた。

 ろーくに食べない内に泣き入れたー。だから食べよーと思うんだ。だが!ハージェストの皿もほとんど減ってない。俺に付き合ってくれたから。


 俺が泣いたのは俺の勝手。ハージェストが付き合ったのは、ハージェストの勝手。 ん〜、べーつに、俺の泣きに付き添ってくれなんて言ってない〜。


 ないんですがぁ、これは待つのが一番でしょ。きっとそーでしょう。


 椅子に座って料理を見つつ〜〜 甘辛タレの小皿に指突っ込んで、ぺろっとした。うむ、ベッドに移動しよう。でないと食いそうだ。




 ぐぅうううう〜〜

 

 「もうちょい、我慢」


 ベッドにぼすっと倒れたら、腹からブーイングが飛んだんで天井見ながら返事した。







 ガチャン。



 「あ、おかえ、 り?」

 「あー… うん」



 帰ってきたハージェストは… HPがドコまでも下がってる感じがした。いや、下がってる! それしか感じられません! 一体どーした!?



 「あ、のさ…  どした? だ い、じょーぶか? 無事か?  ご飯、食べれそう?」

 「え? ああ、ごめん。先に食べてくれてて良かったのに」


 「いや、俺の所為で中断したんだし」

 「気にしなくて良いよ。俺が勝手にしたんだから」


 「え…  いや  あ、温めて貰う?」

 「冷めてても食えるから別に良い。俺の事より、温めなくて大丈夫?」

 「へ? お、俺もへーき」

 「そう?」


 片手を頭に突っ込んで、手で髪を梳き流す。

 普通の時ならカッコつけ〜なんて思うが、今の姿からは疲れてるのを誤摩化す仕草にしか見えねーぞ? 無理した感じで笑うのが… 隠せない疲れを滲ませてる…






 「じゃあ」

 「ん、食べよ」



 食事前の挨拶、『相手を見る』を実行して食事を再開します。相手を見るんで、なんつーかこーふっつう〜にスマイルが出ます。出るよーになりました。


 基本の『頂きます』は、手を合わせて目を瞑ります。よねぇ? 瞑らない場合もありなら、手を合わせないのもありですけど。しかしですねぇ。瞑らないなら料理を見ませんか? 別に人を見なくても良いんですよねー。

 頂きますってぇ、命を頂く事とか食える事とか多方面に向かって感謝〜ですよねぇ? なら、別にスマイルじゃなくてもイケるんですなー、真剣顔でokだもんよ。


 じいさんやケリーさん達も似たような感じだったしさー、形式っぽくはあったけど同じじゃなかった。道中見てれば、しない人もいた。するなら各自で決めてせよ、みたいな。


 ハージェストやセイルさん達と覚えた挨拶は、相手と目を合わす方向なんで仏頂面は避けたい。んだから自然スマイルになります。最初は取り繕う感じから入りましたけど、いちお〜慣れました。そりゃま〜、ほんとの素敵スマイル顔かは不明ですが、俺は郷に従う方を選びます。


 ですけど〜  まぁ、そうですよね。 何事もスマイルですよ、ス・マ・イ・ル。 にゃははんっ。

 

 


 二人して飯を食ってHPを回復するんだ。そう、基本のHP回復しないと他も上がらんわー。


 


 「はー、食べた〜。 ごち」


 ハージェストが食べ終えても俺は終わらない。食う速度が違うから。急がず慌てずマイペースで、もぐもぐ食ってた。満足して食い終えて、改めてハージェストを見たら。



 魂抜けてんよ、こいつ。 抜けてる思うよ…!



 食事でHPは回復したはずだが、気力は戻ってないよーだ。まだ尽きてないよなー?  …うーむ、こーゆー時こそ、黒薬湯Xハイパーの出番だろう。しかし、夕食に恐怖の黒薬湯はない。有り難い事だ。有り難いからそれを頼みたくはない。こいつの分だけ頼んでも、ぜっっったい俺の分も持ってこられそーだしな!! 


 椅子に凭れ切って天井向いてぐったりなハージェスト。

 初めて見る。むぅ… ナニがあったんだ? 仕事って、そんなに大変な内容だったのか?



 まぁ、こーゆー時はアレだ、アレ!


 音を起てない様に、すすすっと移動してリュックを漁る。 …ふはははは、整理してないから中がぐっちゃのまんまぁ〜。しかし、それをごそごそして目的物発見。


 さぁ、見るが良い! 頂いて来たこの菓子袋様を!!


 なーんてな。


 その中から飴玉さん袋を取り出す。おねえさんのお菓子を他人にやる気はないが、ハージェストにならやろう。…いーかげん食わねーとマズい気が。


 だが、砂糖の塊である飴玉さんが腐る事などなぁ〜い! はーはっはっはっはっは!! …ないよな? 黴びてもないよね、変な臭いとかしないよね?



 こしこし、ざらざら。 ふんふん、すんすん。


 見た目に臭いも嗅いでみて、よし大丈夫! 時間が経ち過ぎると糖分が表面に回ってキちゃう事もあるけど、きっと無責任にだいじょーぶ!



 

 袋を手にして振り返ったら… ハージェストは身動きしてなかった。


 ふ、危な過ぎる…


 それでも静かに行動する。ちび猫スキル、忍足を発動!できたら、もっと楽なんだけどな〜。気分で言っているだけのモンは、わかんないやね〜。



 上を向いてるハージェストの口にころんと入れたら、窒息させそーで怖い。「うげぇ! げぼっ!!」とか言わせたら怖い。

 腕を引いて正面向かせる。ちょっと寝ボケが入ってる感じの顔に何とも言えねー。


 「回復にどうぞ」

 「あ?」



 唇に飴玉さんを押し付けたら、目が合う。にへっと笑う。半開きになった所に、もっと押し込む。ちろっと見えた舌先が飴玉さんを取り込んで、もごっと口が動いた。

 


 「あ…  あま。 どうしたの、これ?」

 「リュックに入れてたお菓子。まだあるよ」


 飴玉袋を開いて中味を見せて、テーブルに置く。


 飴玉は色付きだ。色取り取りにあるが、どぎついピンクなんかの如何にも着色しましたの色は無い。着色料が違うんでしょう。代わりに見た目の色と味が、たま〜に合致しない。天然果汁かなんかの味もするが香料は入ってないね。


 「甘いね」

 「よね」


 俺も、一つ口にした。

 


 二人して飴玉を舐める。どっちも喋らないから静かだ。

 BGMのTVもラジオもその他もない。慣れはしたが、こんな時にはアレらが恋しいとも思う。間が持たんとは言わんけどさ。 …あったらあったで代わりに話はしないだろーな。いや、どうだろな。 話すとしたら番組内容? 自分の事じゃあ〜 ないだろーなぁ。


 一人の時間は欲しいし、本当に一人で考える事なら問題点を紙に書き出したい。書き出す事で明確を探りたい。でも、こんな風に居るのも悪くない。 …れ、感傷っぽいの入ってる?



 「あ」


 ちろっと様子を窺えば、飴舐めてるのに全体的にあっちに落ちそうでヤバかった。ハージェスト、本気で疲れてんよ!



 軽く腕を揺すってみる。



 「起きてる? おーい、起きてる〜?  もう寝る?  寝る前に、シャワーにでも入ってきたら?」

 「…ああ、先に入って。 片付けてから入るよ」


 「……へ? 俺がやっとくから、そこら辺は俺がやっとくから。先に入ってきなって」



 「あ〜、じゃあ。 ごめん、先に入らして貰う」



 ガリッ


 ギリでふらついてないが、半分目が死んでる状態で飴を噛み砕いて洗面所に向かった。果たしてあれは無意識だろーか?


 



 「出たよ、どうぞ」

 「ん、俺もシャワー浴びてくる」



 風呂から上がって寝間着を履き、上は引っ掛けて出て来た。

 良かった、着てきたよ。パンツ一枚でも良いけどさー、ちゃんと履いててくれねーと。







 「よし。  おっと!」


 バシャシャ!


 やべぇ、まーた水を浴びるとこだった。この温度調節がみょーうに上手くいかなく… おおおっ!?


 「なんてこった! ハージェストが先に入ったから、ベストな温度になってんよ!!」


 

 なんてぇ良い感じ! 

 風呂にも入りたいが、今日はシャワーで終わっとこう。



 頭から浴びれば、湯が体を滑って流れてく。


 今日は色々あった。あれもあった、これもあった。トドメの自分泣きもした。それらをぜーんぶ流す。湯と一緒に流す。全部纏めて流れてまえ。


 浴びながら、目を開ければ浴室内は湯気が籠もってた。

 


 ほーんと。

 飯食って、湯を浴びて、流せるこの状況。寝間着に贅沢なベッド。


 この現状を良かったと、強く思う。

 



 「はぁ」


 頭も体も洗って、俺もスッキリ。

 そして浴室を出る時は、あの飾りボタンをペチッとな!


 カコン、キィィ…


 これに気付かなかったばっかりに…! ちくしょう、俺の馬鹿!





 頭を乾かすのに時間が掛かった。タオルで拭き続けたが生乾きだ。こうなると猫の時にしてくれた、ふわんが恋しい。あれは気持ち良かった。ほんと〜に良かった。何もせずに任せ切って楽だった。全身マッサージ付きだったのも素晴らしい。


 してくれないかな〜と思いつつ部屋に戻ったら、ハージェストはベッドに沈んでた。



 「起きて… ないな」



 ……………今までは俺が先に寝てた。ぐっすり寝てた。だから、ハージェストが何時帰ってきたのかも知らんかった。


 今回初めて、やろーが寝ているベッドに自分から入りに行かねばならんとですよ!! 何と言う難易度の高さぁああ!!



 なーんつってもな〜。遊ぶのは終わっとこ。広いから気にしない、詰める必要もなし。


 何度でも言う、俺は床では寝ない。皆で雑魚寝ならまだしも、一人ではぜっっっったいに寝んぞ! ふかふかぬくぬくでなくとも布団かベッドで寝る!!



 寝てるハージェストは上を着てない。引っ掛けてた寝間着の上はベッドに転がった時点でお役御免になっている。

 寒くないのかとか、風邪引くとか思うが… こいつ、寝る時は裸族なんだろーか? いや、パンツ履いてたし、裸族じゃねーか。単純に暑がり?



 ベッドに入るが寝る前に。

 肩まで掛け布団を掛けてやろうと思うが… うん、やっぱ毛布様に出番を願おう。前回と同様にして自分にも。よし、完備。 寝よう。


 

 「はうっ!」


 ベッドに横になったら電気消してねー。いや、電気じゃねぇっての!



 「えーと、スイッチは〜 どこだっけ?」



 ポチッとな!   ……よしよし。


 ベッドに入り直す内に、徐々に光度が落ちていく。供給切っても直ぐに落ちない。自然光はともかく、どっちかってーと俺は明かりがある方が寝難いんで、ゆっくりでも消えてくれるのが助かります。



 横になれば、とろとろ眠くなる。目蓋が落ちていく中、隣の寝息が微かに意識にを引いて低い歌声を思い出す。


 歌ってる顔は見てないなぁ… 今度は 歌ってるとこ  見たい、な…




 寝た。


 












 「…?」


 ぽっかりと目が覚めた。


 周囲は暗い。夜明けはまだだと判断できる。 こんな時間に何故起きた? 何が俺の眠りを妨げた?



 体勢は維持して、目だけを開き周囲の気配を探る。

 穏やかな小さな寝息に、素肌を滑る感触。感触に手で触れる。 ああ、アレだな。


 わかったから、静かに体の向きを入れ替え寝息の方を見る。寝息の本体が少し遠いんで、ずーりずりと近寄ろうと思ったが止めておく。


 寝息を聞き直すが乱れる事も無い。耳を澄ませど、特に変わった音もしない。何故、目が覚めたのか?



 ゆっくり静かに起き上がる。

 肌から滑り落ちる毛布に、手を置けば。


 ああ、やっぱり良い手触り!  わざわざ掛けてくれたんだよな…! うあ〜、嬉しい! 気遣われてるってのは、ひっじょ〜うに良い!!



 「ん?」


 腕を持ち上げ、手を握り締め、拳を作る。交互に両手で行い、肩を回す。


 

 「…… 」


 毛布を捲り、静かに、極力静かに気を付けて体勢を変えて胡座を組む。起こさない様に、気は張り詰めない。楽な方向を心掛けて息をする。吸って吐いて、細く長く。


 己が内なる力を探る。




 ………………なんで完全回復してるんだ? いや、俺の魔力量は多くない。多くないから、戻りは早い。早いが戻りの早さは人並みだ。いや、魔力じゃなくてもだな…  なんでこんなに体が軽い?



 昨晩は兄貴とやった。まじでやった。

 やったと言うより、頭から抑え付けられた。力と体力と技術で、ばかすか上から抑えられた。アレをやられると堪える。腹も立てられん程に堪える。出る杭が打たれる以上にガチでやられて、根性と耐性がつく。上手くいけば反動で、二乗程度上がりそうな気もするが、二度と芽が出ないんじゃないかと疑いもする。


 へこむシゴキなだけとも思えるが… 実際、上がった奴がいる有効手段だ。根性と力の相性が良かっただけなのかもしれん事が疑惑も呼ぶが。



 しかしこんなに短時間で、体が楽になった覚えは無い。



 …肌触りの良い毛布。


 これのお蔭か? 姉さんに聞かされても実感は伴わなかった。あの時は、普段通りとしか意識しなかった。 


 『普段通り』


 う、あ。 相手に意識させる事なく行い終わらせる。それこそが、拙い程にすごい事だ。




 …………便利で非常に使える道具。これは毛布と呼ばれる道具だが、果たしてこれは俺が求めても効果が出るものか? アズサが俺に掛けてくれたから、効果が出たのか?





 あ、 はははははは。


 立場として、そういう事を考える。当たり前に考える。探究心と呼ぶか、不明なモノへの解明とするか。どちらにしても、そこに金儲けが絡むのは外せない。付属として頭の片隅に必ずついてくる。


 しかしまぁ、人の物に手を出すのはどうだろうな? 甘い事を言っていれば儲け損ねる。シビアでドライに抜け目無く、少しの妥協で相手にも譲って悪くない関係を。


 良いねぇ、良いねぇ。それも道理。悪くないやり方で道筋を作る。





 あー、あー、あー、あー、あ〜〜〜〜〜〜〜〜。


 今の俺はみっともない欲の皮の突っ張ったツラしてんだろなぁ。底の浅いくっそガキのツラしてんだろなーーー。好意に対して、なーに返そーとしてんだあ? みっともねぇ。



 それに… 駱駝だっけ?



 暗い部屋で宙を眺めて、「ふっ」と笑った。

 


 「すいません、今の思考だけなんで。可能性の追求からなる模索をしてみただけですから」



 毛布を手にして、呟いておく。

 膝で躙って、寝てる体にふわりと掛ける。


 こんな時間に目覚めたのは、体が充実したからだろうな。



 「ありがと」



 髪にそっと触れたら、少し湿ってる? もしや、乾いてない!?


 周りを見たら、寝間着の上があったんでそれで良いだろうと手にして髪に触れる。気を付けて、気を付けて術式を展開して静かに髪を乾かした。

 


 

 ベッドから降りて窓に寄る。

 カーテンから外を伺えば… 夜明けはかなり先と見た。 あ〜、そうだな。起きたけど、やれる事もないし。もう少し寝るか? 




 ん、待てよ? あの飴玉… 「回復にどうぞ」って言ったが… もしやあっちか!?    あ〜〜??






 毛布、飴玉、回復、金儲け。

 止めろとゆーのに、再びぐるぐる回し出す。 『普段通り』と俺の普段通りの二つが絡んで欲を囁き渦を巻く。



 ああもう止めろ、俺の馬鹿。 自滅するぞ。

















 「…?」



 音が聞こえて目が覚めた。

 繰り返してる小さな音が、自然に目覚めを促した。


 周囲は暗い。まだ明け方でもなさそーなのに、一体全体ナンですか?



 目だけで周囲を伺ってみた。


 カーテン前、射し込む光に立つ人影。

 外を眺める横顔が見えて、音の発信源を理解した。




 ぼけら〜と見てたが中途半端でよく見えん。おまけに耳がヒヤリングを開始したが意味不明。 …変に気になる。



 でもまぁ…  そーゆー顔で歌うんだ。



 起きた。










 気配を感じた。

 首を回した。アズサが起きてた。



 …起きてた。   おおおおおっ、起きてたあああああああ!!!  



 「あ…  起こした?」

 「うん、声で目が覚めた」



 うああああああああ!  なんてこったい!!   起こしてどーする! 俺の馬鹿!!













 えー、現在。

 部屋の明かりを煌々と点けまして、真夜中のお茶会ミッドナイト・ティーパーティーをしてます。真夜中ではないよーな気もしますが、特に気にしません。


 ハージェストがお茶を入れてくれます。熱いお湯です。最初は風呂場の湯かと思いましたが、小部屋にコンロがあるそうです。


 「え? あった?」

 「あるよ」


 よー考えたら、田舎にもあった物がココにない方がおかしい。


 小部屋は、ちょろっと覗いただけだったが換気扇なかったぞと考えて〜〜  火は出んし、ガスじゃない。んじゃあ、換気扇は要らん?  調理しなくて臭いが回らないなら、換気扇なくても…  窓かドア開けとくだけで良いんか? …慣れたつもりで慣れてないですか。



 お茶を淹れてくれてる間に、おねえさんのお菓子をテーブルに並べました。菓子袋様をどんっっと出して、皿にざらっと。


 日持ちする物しかありませんが、湿気ってたら残念です。 クッキー、大丈夫だよな…? 警備さん達から頂いたのはアウトだと持ってかれたけどな〜  あはは…


 マシュマロとかメレンゲとか、羊羹とか芋けんぴとか。むーう、何とか無事なよーです。芋はポテトチップスじゃないのがミソですよ。チョコレートも少しあるんですが、ココのお店では見当たらなかったんで出して良いのか不安ですが… もう出しました。田舎だからないんだと思います。この世界に無いのは貰えないはず〜。


 淹れてくれたのは紅茶です。これまた嗅いだ事無い香りです。 ふーん、ふんふん。 



 二人して、大丈夫だろうと確認しながら食ってます。


 「美味いよね〜」

 「うん、こういうのも美味いね」


 砂糖加工シュガーコーティングの芋けんぴさんは、結構お気に召したご様子です。ボリボリ食ってます。食うからには、腹を下すなら二人仲良く一緒にだ。



 食ってれば思う。 

 …生きてる以上、記憶は上書きされてくもんです。なら、あの時と同じでも良いかもしれませんが、違うのも良いんじゃないでしょーか?


 二人で夜中に菓子を食う。



 …悪くない、うん。  あ、胃には良くない?





 「歌、上手だね。歌ってたのナンの歌?」

 「え。 上手だった?  うるさくなかった?」


 「いや、何て言ってるかわかんなくて、逆に気になって起きた」

 「あ…  そっか。  そうだったんだ、良かった… 」


 なんでか、ホッと安心してた。



 …歌は子守唄だってさ。でもって古語って、アナタ。 …俺が理解できるのば現代語だけですな。さっぱりわからんかったんで、俺の努力だけが問われてますよ。


 しかし何もわからん真っ新の状態ですから、意外に早く覚えれたり?


 いやいやいやいや! 夢を見過ぎてはならんですね。現代語を先に完璧にせんと〜。それにしても、子守唄歌って起きたからショックだったと言われると、どー返事をすればいーんだか。


 

 「歌の勉強は長い?」

 「いや、然程してない」


 しれっと答えるのに、才能アリを見せつけてんのかと思った。


 「元々、覚えようとしたのは発声だったんだ」

 「発声?」


 「そう、契約の証を作成できたから」

 「…はぇ?」


 「召喚自体は魔力でするけど、会話は普通に自分の声。心話等で幾つかの例外もあるけどね。だから、その時に滑舌悪くて聞き取れないとか、口の中でぶつぶつ言われるの好かんとかなったら残念を通り越して立ち直れない」

  

 大変真面目な顔でした。


 「契約成功しても、後から不安定になる事はある。生きてるから当然だ。そんな時に慰め、落ち着かせるのは召喚主の務め。手段は人それぞれでも、基本中の基本を他人任せにしたら終わり」


 それで発声から歌を覚えたと。


 「楽器にしようか迷ったけど、今から覚えられるか手遊び程度のモノでイケるか不安でさ。それにずっと持ち歩くとなるとね。大体、剣を持ってる上に楽器もってのはね… 

 教書にも親交第一になってるし、物を上げるのは簡単だけど味気なさすぎだと俺は思ったから。声が嫌いとか言われたら泣くしかないけど、それなら契約に至りもしないって意見を参考に歌にしたんだ」


 

 …なんかね。そーゆー事ができない、又は方針が記されてないと申請に許可降りないってさ。 ……なーんかね? ココの召喚って、使い捨てとかその場オンリーじゃないんだねぇ。


 本当に召喚を成功させる事しか念頭になかったよーです。だからできるんですねー。  ……本気で頑張ってたんだな。 


 俺は嫌いじゃないよ、良い声だと思うよ。


 




 「後さー、帰ってきた時なんであんなに疲れてたん?」



 茶をごくりしつつ聞いたら、ガチッと固まった。

 


 「……その前に、兄と何を話してた?」

 「へ?」


 二人の最終判決内容の話に、もしもの仮定を話してた事を伝えてたら〜〜。むくむくと湧き上がり、止められないこの疑問。



 「あのさ、俺が犯罪者側だったらどーしてた?」


 質問に、じっと見られ返された。

 部屋の中は静かで、二人して動かなかったら何の音もしない。互いが無音の中で探るよーに見てた。 …俺はそんな感じで見てます。



 「俺が引き取るよ。どういう理由でそうなったのかを考慮する・しないを別にしても、俺が引き取る。他領でわかったら、そこへ引き受けに行く」

 「性格が本当に悪くても?」


 「そうだね… うーん… 性格云々より、そうだと判断できたら悩む前に引き受けに行くよ? まず生きてないと終わりだし」

 「うぎゃ!」


 そうでした! 普通に終わりがありました!! 死刑判決後の執行猶予はあんまり長くないよーなんですよ! いえ、あるには間違いなくあるそーですがぁ!!




 「あのさ、迎えに行くよ。行かない方が嘘だよ。アーティスが俺の元に居る事が、迎えに行く約束みたいなもんだよ。それが何時か不明でも、 ね」

 「は?」


 笑った顔は明るいと言うより、苦笑と言うより、なんてぇの?    やっぱ、優しい?   その顔がナンだかな… 言い切れるお前の方が不思議だよ。



 「あ〜 ……   後はメダルくれるって」

 「え?  メダルって…  まさか!」




 安全保障のメダル。エルト・シューレ伯爵の紋のメダルを頂戴する事にショックな顔をした。 待てや、何がショックだ。



 「シューレの紋…  ああ、そーだよね〜。それが正解だよな〜。うん、ああ。そーだ。 俺はダメだー。ダメダメだー」


 説明に上がって下がる、こいつが。


 「確かに、新しく渡す分には当主である父の承認が必要なんだけど〜〜  個別に持ってる分には自己責任で先渡し可。但し、その後の承認が無いと手に負えない事態に直面した時、放置されても仕方ない。文句は言えない、俺の自己責任。だから絶対に会う必要があるんだけど〜〜〜」


 テーブルに両肘付いて、『あ〜〜〜』な感じで頭抱えてる。


 「俺自身のメダルの他に貰ってる分はある。でも、人にやった事はない。証として最上級な分だけ、重いから。下手な奴に渡す気もなくて。だから… だから家に置きっぱなしにしてて…  あ〜〜〜! 自分の分も置いてきてるしー!!」



 そのまま手を離すとテーブルに頭を、ごんごんしそうですよ。


 「自分のも持たなくてイケる?」

 「あ〜、それはこれで」


 手を持ち上げた。

 指輪に嵌まってる宝石がき〜らりーんのきらきらあ〜。はい、指輪がきんらきら〜。


 「母と姉が贈ってくれた特注品の魔光石で、調べれば特定できるんだよね。家族にはこれだけで理解されるし、対外的にもこれ一つで『上』だと通るんだ。移動には、常に制服と竜と竜騎兵の三点セット付きだし」



 記憶の中の竜と跨がる皆さんの勇姿を思い出せば〜〜 どちらさんか補完する物あったねぇ。



 「俺のを上げたいんだけど…  持って来てないからあああああああ〜〜〜…………    あああ、ダメだ。ごめん」



 …お前、仕事に来てたんだろー? 人にやる気が全く無いのに持ち歩く訳ないってー。身分証明も幾つかある内の一つを持ってるんなら、二つも三つも必要ないって。うっかり失くす方が怖いよー。



 「あ〜、大丈夫だよ。セイルさんの貰うから」

 「だから俺のを!!」



 ……………言わんとする事に拘りがなんとな〜くわからんでもないが、無駄な事を言うなよ。俺は安全保障が欲しい。



 「ほら」


 一人より、二人で食べると美味しいお菓子。天使と悪魔もシェアをする、無敵のお菓子は今はない。手元にあるのは芋けんぴ。


 だから、これ食え。



 ボリッ… ボリボリ。



 差し出したら涙目でも躊躇わずに食う所に潔さを感じる。そーゆーことで流してまえ。







 「先の返事の前にすいません。もう一つ、名前の件ですが」


 そうだな、ノイを拒否する理由も聞こうじゃないか。


 「あのですね、その名にはどの様な意味が?」


 ……………あぇ?



 真剣な顔に真剣に考える。

 梓の名はこいつの方が言った。俺も否定しなかった。それから他も言った。言ったが、自己紹介ってしたっけかな? 





 ………………ふふふふふ、してないな? してないわ。 


 わーお、用心深くストップ掛けてずーっと押し通したわ。  …よー、待ってくれてたなーって方向ですか?



 上見て、下見て、左見て〜。はい、正面。


 「えー、ずいぶんと遅くなりました。自己紹介します。 乃井 梓と申します。乃井が家の名で、名乗る時は家の名が先になります。年は十九です。 …時差的なモノで、年齢の上・下は不明ですが同い年のはずです。そのアタリだと聞いております。家族は姉が一人で、名前は乃井 あやめと言います。俺が居た世界で、幸せに生きてる事を希望・切望・懇望してます。それは本気で願ってます」


 こんなとこで良いだろか?



 「…家名。ノイって、家名なんだ?」

 「はい」


 「家名呼びって…  え、あのそれ、名前は… 」

 「え〜、シューレに来る道中で色々ありまして。それはちょっと横に置いといて、こちらに来たのだからノイで生きていこうと」


 前に揃えた両手を正面からよいしょっと横にして、キリッと言ってみたのにキリリ加減が通じてないっぽい。自分思考に入りやがったよ…



 「あ〜、その色々が聞けるまでは、ちょっと保留で横に置いといて」

 「えー、そこはそのままでいこーよ」


 「質問です」

 「何でしょう?」


 「道中でと言いましたが、最初はどうだったんですか?」

 「最初?」


 「はい、最初です」



 この世界に降りた当初?

 

 別に… 拘るとか気にするよか考えてすらいませんでしたが?


 

 「それでは! あの、降りた当初から俺を、『当てにして来てくれた』が正解ですよね!? 本当にですよね!?」

 「はい、そうです。間違いございません」



 それ、言わんかったっけ? あれ?

 そこから、栄えある自分クエスト1の指令を語ってみた。



 「ああ、そうか、それで…  うん、ああぁ…… 」


 視線があっちとこっちをさ迷って、最終閉じられました。苦悩のよーで、無念のよーな顔してます。



 「今更なんで言わない方がと思いはしますが、今後を思うと… 伝える事が正解だと思うので言わせて下さい」

 「はあ」


 キリッとした顔でナンですか?



 「その場合には、代筆頼んで手紙を出して下さい」

 「へ?」



 ……えー、代筆の場合には依頼者と代筆者、両名の名前が明記されるのが通常だそうです。特に公的文書になると責任の所在を明らかにする為、必ず書かれるそうです。


 俺の場合、領主代理のイラエス男爵様宛てになるんで、絶対に書かねばならんそうです。手紙を見た男爵様はハージェストに必ず連絡を入れる。入れないとご自分がアウトになるよーですネ。


 「代理とは言え、領主宛てに出すんだ。長居しても、そうそう邪険にはされないはずだよ。宿泊費用もあったんだよね?」

 「……あります。あの時点では間違いなくございました」



 「ノイに覚えがなくても、アズサと記名があれば、俺は行く。絶対に行く! 何を置いても駆けつける。どうしても動けないなら、人をやる。

 俺はその名を人に告げた事は無い。文書で… 兄と姉は知っていると思うけど… 俺は言ってない。言う気もない。その名は俺を呼び出す絶対の名前(呪文)


 

 告げる顔を凝視する。

 俺ののーみそがバチバチと音を起てて弾き出す! 弾いて告げる!!



 自分クエスト1 「ハージェストを探せ」  ← X


 自分クエスト1 「領主様にお手紙を出そう」  ← ◎




 …そっち? そっちなんか!? そっちが当たりだったってぇの!?


 うあ? うあ、うああああああ!! 与えられたクエストを吟味して、自分に最適化して応用せよ!? 既に出されたクエスト自体を!? だって、だっておねえさんの指示でぇぇええ…… えーえーえー〜〜〜。



 ああ…  自分クエスト…   自分だから。



 いっろ〜んな事が走馬灯のよーにくるくる回った。回り過ぎて真っ白。  手の包帯も白いよ……

 




 「それに合わせ… たのでもないけど、いやそうとも言うけど。俺は言ってません。話が終わってない以上、どれだけ推測が正解であろうとも! 俺の口からは あ、筆記も含めて! ナンだと言う質問に答えません!! 絶対に言いません、目でも伝えません、沈黙します!  結果、へたっていました」

 


 疲れかナニかが過るその顔に… わかったよーでわからんよーな返事がのーみそを素通りする。でも、ナンであるかわかるよーな気がした。


 黙って互いの顔見てた。



 へ…  へらっと笑ってみた。ハージェストも似た感じで笑った。



 「それと、ちょっと良い?」

 「何?」


 「この前から思ってたけど、前髪伸び過ぎてる。伸ばしてる? 目に掛かってるよ」

 「あ、単に切ってないだけ」


 

 髪切ろうって話になった。後ろは伸ばしても前は切ろうって。夏になるし、切ってさっぱりしよう。




 「あ〜… 後はとりあえず…    もう寝よか」

 「………そうだね。 夜だしね」


 

 肝心な思考放棄をしてはならんのだろーが、時間を置くのも手の一つだ。家から出ないから問題も発生しないんだ。だから、良いんだ。


 二人で一緒にベッドに入る。忘れず、毛布様を二人で半分掛けにする。


 「俺は良いから」

 「良いから半分。油断大敵」


 「…ん、それじゃあ」

 「うむ」


 

 二人して夜中の二度寝です。




 多分、明日の朝日は拝めない。つか、起きれないね。





 

本日のもう一つの副題。 『深き夜に対と歌いて、暁を見ん』



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