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召喚  作者: 黒龍藤
序章
1/239

01 会話

 

 天高く目が覚めるような蒼天。

 太陽は中天にも達していないというのに、もう強い陽光を投げかけている。その陽光を浴びて、樹々は青々と繁った葉の影を色濃く大地に落としている。


 ここは王都 エルカナン。

 その王都にある一つの学舎に向かって、石畳を歩く男がいた。



 「王都に来るのは久方ぶりだな。ああっと、ここか。思ったよりもでかいな。 …当たり前か、田舎と王都の学舎を比べる方が間違いか」


 感慨深げに横目で見つつ、入り口の門にたどり着き門番と対話して中に入って行った。

 興味深気な視線をあちらこちらに飛ばしながら目的地まで歩き、職員室らしき扉を軽く叩いて開ける。


 「遅い!」


 開口する間もなく怒鳴られた。約束時間を多少過ぎていたようだ。

 謝罪から久方ぶりの挨拶に雪崩れ込み、怒りを逸らしてうやむやにしていった技はなかなかの物である。

 それでも、もう少し早く来いとぶちぶち言われ「正規の時間には遅れていないだろうが!」と言い返し始めた。



 「で、ヘイゼル。お前、本当に今日の午後からの召喚の監督役は無事務められるんだろうな」

 「おう、有り難くさせていただくよ。なんだ? そんなに大人数なのか?」

 「いや、制約もあるから特に大人数というわけじゃない。だがな、今回はお前さんの方からの言い出しだろうが。そっちが忙しいのも分かるんだが、きっちりしてくれよ? お前は監督役の基準を満たしているし断る理由もないけどよ、もちっと早く前もって言え。予定が狂うんだよ」

 「あ〜、悪い、悪い。きちんとやらせてもらうよ。こっちもそうそう足を引っ張るような失敗はしないさ。で、検査官の方はもう来てんのか?」

 「ああ、顔合わせの時間がもうすぐだ。検査官は一人だが、監督役は複数人いるからな。あとは移動しながら話すか」

 「頼む。少し遅れた詫びに昼飯くらいなら奢ってもいいぜ」


 知り合いらしい男と教師は、午後からの内容確認を話しつつ揃って歩き出した。


 午後に備えて人が動く。





 カラ〜ン  カララ〜ン


 授業の終わりを告げる鐘の音と共に教室内にざわめきが広がる。

 教壇に立つ教師が仕方ないという顔をして、手を叩き意識を集めてから話しだす。


 「時間となったので、本日はこれにて終了とする。先日も言っておいたが、本日の午後からは希望する上級生達の召喚術が行われる。召喚は繊細な術であり、召喚者以外の者の介入により破綻することもある。分かっていると思うが、召喚が行われる指定された棟には立ち入らないように。何か発生した場合は責任問題となるから、軽い気持ちで見に行って上級生の邪魔をするようなことは絶対にしないようにな。では、気をつけて帰りなさい」


 「「はい、本日の授業ありがとうございました」」


 複数の声が揃って教師に返事をした。


 子供達が帰宅の準備をしている。ある者は別の教室の友達を待ち、ある者は本日の授業で分からなかったことを友達に問うている。

 いつの時代でも変わらない日常の一コマである。


 「今日の掃除当番の人は帰っちゃダメだからね。昨日、誰かさんは忘れてたでしょう」

 「じゃあ、あたし帰るね。また明日〜」

 「あ〜はいはい、俺、今日当番だわ」

 「おーそれじゃ、お先な」


 掃除当番の者以外の皆は軽快な足取りで教室を出て行く。



 パタパタと叩く音 キュッキュッと磨く音 ザッザッと掃き出す音

 様々な音が重なり連なって室内が清められていく。



 「あー、掃除かったりー。なんか術でも行使してパパッと終わらして〜」

 「そんなに簡単にできるの…? 失敗してなんか壊したら先生に私まで叱られるじゃない、やめてよね!」

 「そ、そんなに失敗なんかしねーよ! たぶん…」

 「もう。術使うにしろ、最後に物を言うのは体力よ。地道に体を動かしなさいよね。それにあと少しで終わりじゃない」

 「あー、わかったよー」


 二人で言い合いながらも進めていく内に、廊下側から軽い足音がして室内に女の子が一人入ってきた。


 「洗い流しは終わったよ〜。あっちの分は外の置き場所に片付けてきたから。それでね、外の洗い場から帰ってくる途中で、上級生をみたの。ちょっとみた位置が悪かったからはっきりしなかったけど、すっごいかっこいいと思ったの! きっと、窓からまだみえるよ!」

 「ええっ! その人どこどこっ!」


 いつでも女の子はそういう事には敏感だ。


 「えーと ほら、あそこ。金髪がキラキラしてる〜」

 「あ、ほんとだ。よくわかるわ。ああ、どーみても上級生だな。それより指定棟の方に行ってないか? なんかあれ、礼服っぽい感じだし。今日の召喚する人なんじゃないか」

 「ね、あの人もしかして上級生達が話してた人気がある人達の内の一人じゃない? その中の人に、金の髪が素敵な人がいるって聞いたけど」

 「ああっ。あたしも聞いたことある! そうかもっ」


 「…うーわー、学年が違って接点場所全くなくても、女のそういった情報ってまわってんだー。 はー、すげー… ところで、腹減ったし掃除終わったんなら帰りてーよ。話は歩きながらでいいんじゃね? まさか指定棟へ行くなんて言わないよな? 絶対つき合わねーからな、俺」


 女の子二人の盛り上がりに、男の子はちょっとついていけてないようだ。


 「やぁだ。いくらなんでも行かないわよー」

 「ねー」


 片付け忘れがないかどうか、室内を三人で点検して、これで終わりと扉を閉めて廊下に出る。

 その廊下の等間隔に並ぶ窓から見える光の強さが日の高さを示している。日中の明るい廊下を三人でしゃべりながら歩いていく。



 「さっきの人、絶対召喚にいったんだよね〜?」

 「この時間帯に指定棟ってことは、きっとそうだろ。やっぱ、する人はするんだなー」

 「すごいよね〜。あたし、喚べるんなら可愛い感じの喚びたいな〜」

 「え? 喚び込む奴の指定なんて無理だろー? できんのか? いや、できたとしても相手だって生きてんだぜぇ。来たって相性合わなきゃ契約成立しないって、俺は聞いたぜ」

 「そうよね、喚んだら絶対成功するって話じゃないし。難しいよね。他の術もそうだけど、どれだけ力があっても適性がないと無理みたいよね」


 女の子の一人が唇をちょっと尖らしながら言った。


 「適性かあ… 魔力があるからこの学舎に入れたけど、向き不向きはあるもんねぇ…」

 「好きこそ物の上手なれっていうけど、こればっかりは仕方ないわよ。希望があっても適性がないとねー」

 「まぁなぁ、適性があるもんの方が伸びやすいっていうしな」


 これからのことを考えるのか、三人はそれぞれに迷う様子だ。


 「でも、召喚っていいよな!」

 「え? そ、そう…かな?」

 「確かにいい面もあると思うけど、きっとそれだけじゃないよ… ねぇ?」


 女の子二人が顔を見合わせて、ちょっと言い淀むなか、男の子は拳を握りしめて力説した。



 「召喚獣を喚ぶってのは、浪漫ロマンだろ!!」

 「「 ……… 」」


 女の子二人は立ち止まって男の子を見た。

 割合冷めた眼差しだ。


 「な、なんだよ、二人してそんな目でみなくてもいいじゃんか!」

 「「 きゃははは 」」


 心なしか不貞腐れた男の子に女の子二人は笑い声を響かせ、三人で学舎を後に帰っていく。

 実に微笑ましく、一部からはなにか羨望を誘う光景である。






 その姿を一つの窓から上級生と思しき少年が羨ましそうに見ていた。


 「あー、下級生達が帰ってくー。俺も帰りてぇ」

 「うだうだ言う間にさっさと終わらしたら? 何時までたっても終わらないわよ」

 「言葉が冷たい…」


 ここで、がっくりと俯く少年をみる少女の目は早くしろと言っていた。

 どうやらこの少女は、仕方なく少年の居残りに付き合っている感じだ。


 「今日は年に数回の召喚の実施日なのね」

 「ん? なに、召喚獣持ちたいのか?」

 「そりゃあね。持てるもんなら持ちたいわよ。契約があるからってことだとしても、私の為にいてくれるっていうのは魅力よね」

 「あー、それで履き違えて何でもしていいなんて思う馬鹿もいるっていうしー」

 「召喚誓約を全く知らない人か、馬鹿がやっちゃうやつね」


 二人は馬鹿によって引き起こされた事例をいくつかあげて笑いあっている。


 「大体、召喚獣だからってなんでもしていいわけないだろー。契約しても実行しなきゃ相手にぶち切られて終わるっての」

 「理由はいろいろあるんでしょうけど、ぶち切られるような真似をするなんて馬鹿すぎるわ」


 「それに、一介の個人が喚ぶ召喚獣だぜ? 基本一人の魔力で喚ぶ召喚獣が、一体で国を揺るがすほどの力を持つなんてまずないってーの」

 「ほんとにね。特定の能力を指定する場合や恐ろしいほどに力を有する召喚獣を喚ぶ時は、大人数で行わなきゃ成り立たないらしいし、そこまでしても成功するかは定かじゃない。大人数で魔力を飛ばせば、どうごまかそうとしても魔力は漏れる。そうなったら魔力持ちなら誰でも気付くわよねぇ」


 「まぁね。気付けない方が不思議だよな。召喚は喚んで、来てもらって、誓約を話して、契約に至って成功だろ。あ、名前もあったっけ? まぁ、力ずくで出来ないこともないっていうけど、それして良好関係が築けるのかって話になるよな」

 「来た相手の力が弱いと踏んで出した誓約や必要な契約を飛ばしてしまおう、なんて自分本位な事を考えるんでしょうね」


 しゃべりながらも少年は用紙に字を書き付け手を動かしている。案外、始めたら続くようだ。

 それを少女は眺めながら話し続ける。


 「力の強い召喚獣を望むのは当然のことだけど、それに対して自分が見合っているかどうかも大事よね」

 「あー、召喚獣が自分より飛び抜けて強いってやつか。そりゃ、居ればすっっげ楽だろうし、ある意味便利だよなぁ。でも、そうなりゃ契約も重くなるってんじゃなかったか?」

 「個人の契約の内容なんて聞いたことないけど… 普通に考えたらどう考えても、重くなるんじゃない?」


 「確か… 自分が背負える位の相手が来るから、相応ふさわしいっていうんじゃなかった?」



 女の子が小首を傾げながら言う。その髪の毛がさらりと流れる。頬に指を一本添えた仕草から、その年頃の自然な可愛らしさが浮かんでいる。


 「そうそう、そんな感じ。うん。でもその位だったら居なくてもいいかーとも思うんだよなー。自分の力で背負えるのが良くも悪くもミソだよな」

 「自分の能力を秤にかけるともいえるわね」


 共にどこか苦笑する気配がある。


 「契約を切られることもあれば、双方納得ずくで解消することもある」

 「解消したからといってその召喚獣が自力で元の場所に帰れるか? といったら絶対じゃないけど、不可能な場合がほとんどだし。こっちが送り返すのもほぼ無理」

 「一方通行の喚び込みだもんな。ほんと」


 「その事が原因でいろいろ問題も発生するけど、やっぱり召喚術は途切れないわよね」

 「秤にかけても試したいってのもあるんだろうしさ。それに、元の場所に返せないけど大体がここに適応するっていうよな?」

 「ええ、そうね。一説に、召喚においてはこの世界に適応するものだけがやって来るとか、むしろ世界が適応するもの以外を通さない。とか言ってなかったかしら?」

 「あー、他に確か、大きすぎる力は世界が弾くとか? にしても、世界が判断してるとかどっからでた考えなんだろうな? それに選定基準知りてーよ」


 少年は書き付ける手を止め、わかんねーといった目で少女を見た。


 「そんなとこまで知らないわよ。ただの一説じゃない。 でも… そうね。言い方を変えたら、家の中に入りきらない者を招き入れる家主はいないって話しじゃないの?」


 「…なんか、一気に品格レベル落ちなかった?」

 「あんた、私の例えが悪いって言いたいの?」

 「いえいえ、滅相もございません」


 少年が肩を竦めつつ戯けて言い、さっさと視線を用紙に戻して再び書き込み始めた。


 「でも、召喚獣がどこから来たというのは、よくわからないことよね」

 「んー、そうだね。次元が違うとか、異世界とかいうよね。でも、いま俺達が知り得る魔獣分類されてる奴だって、召喚で来るから一概には言えないってとこだろ。人によっちゃあそれを、ランクが違うとかっていってたっけ」

 「そうね、そういうことを声高に言う人程、品性が薄いのよね」

 少女は結構辛辣に言った。


 「確かに力の強い弱いはあるけど、その人の望む喚びかけに応えて来てくれたのよ。それを格付け扱いして」

 少女には思うところがあるらしい。いかにも『不快です』と顔に描いてある。


 「召喚獣って一言でいっても様々だしさ。召喚獣じゃない魔獣や幻獣だって、力があるものは普通に会話や心話が出来るし、人形ひとがただって取れる奴は取れるようだしさ。  召喚でも以前には、人が来たって聞いたことあるし…  」

 「ああ、あのなんかの教訓めいたおとぎ話みたいな? 昔どこかの国の王家の公認で召喚したら、強い人が来たっていう」

 「いんや、それ以外のやつ」

 「え …あるの?」

 「滅多にないけどあるっぽい。 だから異世界とかって単語がさ」


 少年と少女は顔を見合わす。どちらの顔も微妙だ。

 なんとも言い難い。


 「…そういえば、契約解消した召喚獣ってどうしてるのかしら。契約者がいなくなったら不安じゃない?」


 話を変える選択をしたようだ。ある意味賢い選択だ。



 「国が一時預かりみたいにするとか。ああ、でもそうなったら引く手数多だぞ。なんたって召喚獣だ。召喚成功が難しい相手が目の前にいるんだぜ。まず、声かけるってもんさ」

 「…それ、たなぼた? …それとも選ぶ方が選り取りみどり?」


 はっきりとは知らない話だったらしく、少女は口を開けて驚いている。


 「ああ、でも誰にでもってわけじゃないらしい、やっぱなんかの判断規定があるみたいだよ」


 少年の返答を聞いて、少女は「考えてみればそうよね」と頷いていた。



 そんな話をしながらも書き付けていたが、内容に詰まったのか少年は書く手を止めてしまった。

 それを機に、少女もちょっと出てくると言って外に行ってしまった。



 閉まった扉に背を向け、少年は椅子に深くもたれて呟く。


 「自分に相応しい召喚獣か… でも相応しいだけじゃなくて、似つかわしいとも言われるんだよな。似合いのってことだろうけど、それって見た目じゃなくて性格の場合もあるよな。やって来る召喚獣が望みに適合していても、優しい奴が来るなんて決まってない。性格が悪い奴のとこに同じく性格が悪い奴が来る。それはそれであいつには似合いだ、似つかわしいっていうんだろ。それってどうなんだろうねぇ…」


 応じる人のいない呟きは流れて消える。





 バタン!  


 勢いよく扉が開かれた。


 「ちょっと! 職員室に行ってちょうど居た先生に、『召喚によって人が来る事があるのですか?』って聞いてみたわよ!」


 息を切らし、頬を少し紅潮させながら少女はいう。


 「そしたら、『私は、召喚の専門ではないからさほど詳しくはないが、確かに条件づけをして喚べば、私達と同じような魔力をもつ人が来る事は理論上可能だ。しかし、召喚獣を喚ぶ召喚の術で人が来た、という話は私は聞いたことがない。そして、もしも人を喚ぶなら多くの人手が要るだろうし呪陣そのものも… おそらく違うものになるのではないかな? かなり昔の話ならわからないが、近年では私は聞いたことはないな。人を喚ぶ陣など学舎の授業では出ない。気を回して心配しなくても大丈夫だよ』って笑いながら言われたわよ! あんたねぇ、あんなにぃ、深刻な顔してぇ、人を脅かすようなこと言うなぁぁ!!」



 感情そのままに少女は少年が持っていた冊子を取り上げ、最後の言葉と同時に、ぱかっと口を開けたままの少年の頭を素早く叩いた。

 そして、清々したという感じで少年を見てから部屋を出て行った。


 叩かれた少年は部屋を出て行った少女の後姿を呆然と見送ったが、はっと気が付いて追いかけて行く。

 果たして、彼の謝罪は受け入れられるだろうか?




 幼い子供が、大人の言葉を素直に聞き入れ健やかに成長していく姿は可愛らしい。

 しかし、ある一定の年齢に達した者が、そう言われたからと聞き入れていく姿はどうだろう?


 確かに少女は答えを得た。

 だが、その答えの言葉に裏はないのだろうか? 

 いや、裏はなくとも違う答えの提示により納得して終わった。


 さて、それは如何なものか?


主人公その1 髪の色しかでてません。あっていない季節感はまるっと流して下さい。今回出てきた学生の子達に以降の出番はありません。

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