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落ちこぼれと師匠

今回も久しぶりの投稿です。

つたない文章ですが、よければ読んでやってください。

「それでは、本日はこれで終わりとします」

「起立、礼」


 先生が教室から出ていくと、クラス内が一気にざわめいた。おおかた放課後どこに行くといった話に花を咲かせているのだろう。

 この学院は基本的にHRを必要としない。何か重要な伝達事項でもない限り担任がクラスに出向くということはないのだ。

 

「帰るか」


 僕が机の上の教材をまとめ、教室から出て行こうとすると。


「あら、落ちこぼれさんは帰りが早くて羨ましいですわねぇ」


 この皮肉たっぷりのあざ笑うような物言い、リオルだ。基本的にこいつはクラスでは猫を被っているため、あの女子とは思えない口調を知っている奴はいない。


「ああ、やることもないからね。君の言う通り早く帰るとするよ」

「ほんと、何もすることがないっていうのは羨ましいわね。一回言ってみたいものですわ」


……何でこいつは執拗に僕に絡んでくるのだろうか? めんどくさいったらありゃしない。


「そうだね、ネチネチと僕みたいな落ちこぼれを陰湿に苛めることしかできない貴族のお嬢様には分からないだろうね」

「んだと……?」


 僕が煽ったせいか、裏のリオルが出てきて暴力的な口調になる。ただし、声がほかのクラスメイトには聞こえないようになるべく押し殺している。

 そう、リオルはこの国の有権者。高い地位に所属している騎士の家系や、商業などで富を築き上げた家。いわゆる貴族のご令嬢なのだ。


「だってそうだろう? まさか自分の家の娘、それも貴族の家の者が毎日落ちこぼれを苛めることだけに力を注いでいるなんてご両親が知ったらどう思うだろうね? ある意味傑作じゃないか」

「おい…… てめぇ、もう一回言ってみやがれ」


 リオルの体からは肉眼で確認できるほどの『煉』の発現が確認される。

 煉と言うのはこの世界で言う人間のエネルギーの源のようなものだ。生まれたときから体内に宿している。これを使った煉術とい技法もがあり、それを使えるようにするのがこの学院の目的の一つでもある。


「‹迸る雷 唸る雷鳴 はし」

「ちょ、ちょとリオル、それ以上は!」


 煉術の詠唱を始めたリオルを見てさすがにまずいと思ったのか、取り巻きのうちの一人が止めに入る。

 教室の中での煉術施行はだめだろ……


「っち、今度の模擬戦、覚えとけよ」


 取り巻きの忠告を聞いて、何とか我に返ったリオルはそこで煉術の詠唱を止め教室を後にした。


「ったく、もし先生でも来たらどうするんだよ」


 校内での煉術の施行は基本的に禁じられている。そのため、誰かが校内で煉を使えばそれを近くの教師が感知して止めに来る。口で言って止まらないようなら実力行使に走る教師もいる。国が経営する学院だ。それなりの実力は備えている。


「ま、今回は運良く教師陣の探知に引っかからなかったみたいだけど」


 リオルがいなくなったことで僕をこの教室にとどめておく理由がなくなった。

 今度こそ帰ろう――――――






 僕の家は学院から離れた森のそばにある。貴族など、学院から離れた場所に家がある者は大体寮に入って生活している。僕の場合は離れてはいるが、寮に入る金がないため仕方なく毎日徒歩で学院まで登校している。


「ただいま」


 家に入るとそこには乱雑に置かれたいくつのも空の酒瓶、食べかけのつまみ、そして脱げかけのタンクトップに短パンという何ともだらしない一人の女性が転がっていた。


「ん~、帰ったか~」


 もぞもぞと動き、今にも服が脱げそうである。


「ちょっと師匠、昼間っから酒飲まないで下さいって何回も言ってるじゃないですか」

「仕方ないだろぉ、こちとら連日仕事(・・)で酒でも飲まなきゃやってけないんだ」

「そんなんだから毎回二日酔いになるんですよ」


 そう。このだらしない酔っ払い女性こそ僕の師匠、カナ・スイメイルだ。十一年前、僕のことを救ってくれた恩人であり、僕が知っている中では最強の傭兵、そして唯一の家族だ。あの日この人に出会い、魅入られていなければ今の僕はなかっただろう。

 なのに……


「あぁ~頭が痛い~割れる~カイ~、水くれ~」


 今ではこの体たらくだ。あの日の感動を返してほしい。


「はいはい、今持ってきますよ」

「ついでに酒も~」

「まだ飲む気ですかっ!」


 コップに水を汲み、二日酔い用の薬草を持ってくる。


「それで、今回の仕事は何だったんですか?」


 水と薬草を手渡す。すると師匠が水を一気に飲み干し、薬草をむしゃむしゃとほおばっている。

 薬草ってホントはすりつぶしたり粉末状にするものなんだけどな……


「ふぅ、少しはマシになったな。ありがとう」

「どういたしまして」


 この人の体内構造はどうなっているのやら


「で、今回の仕事だっけか? アッシュドラゴンの討伐だったよ」

「Aランクの魔獣じゃないですか、師匠なら30分かからないでしょう?」


 魔獣というのは、何かがきっかけで体内に魔力を持ち突然変異した獣のことである。危険度は低い値からF~A、S~SSSになる。アッシュドラゴンはその中でもAランク。普通に討伐しようと思ったら、入念な準備をしても三日はかかるとされている。

魔獣は大陸中に存在しているため、師匠のような傭兵、ギルドといった専門の討伐組織に討伐の依頼が来る。もっとも、傭兵個人に依頼が来るには相当な実力と人脈が必要になるため、ほとんどの者はこのギルドに入る。


「いや、まあそうなんだがな、どうも子供が生まれる時期だったらしくてな。気がたっていたせいか、これが中々しぶとくてなぁ、二日間も粘られてしまったというわけだよ」


 嘘だ。この人の実力なら本気を出せばAランクはおろかSSランクまでなら一撃で仕留めることができるだろう。いや、Aランク程度なら本気を出す前に終わってしまうだろう。僕はこの人の無敵っぷりを何年も近くで見てきたのだから


「師匠……酒飲みながら仕事してましたね……?」


 ビクッと、師匠の肩が震える。図星だ。


「そ、そそそそんんなわけないじゃないか我が弟子よっ! そんな危険なこと……」

「し・ま・し・た・ね!」

「……はい」


 認めやがったこのろくでなし師匠


「何やってるんですか! この前酔っぱらったまま討伐依頼受けたら標的だけじゃなくて、街にまで被害与えて報酬パーになったばかりでしょう! まだその時の被害額弁償しきれてないんですよ!?」

「うぅ……」


  師匠が口をつぐみ、涙目になりながらだんまりする。


「そうやって泣けば許してもらえるとでも思ってるんですか? だいたい、師匠はいつもだらし……」

「うるさーい!! 私だってたまには酒を飲んではっちゃけたいんだよ! この歳になってもまだいい男とかいないし、唯一近くにいる男といえばお前みたいな小便くさいクソガキじゃないか!」

「悪かったですね小便くさいクソガキで」

「こんな歳でもらってくれる人とかいるわけないし、あ~もう私の人生おしまいだ……」

「こんな歳って……」


 そういえば師匠は何歳なんだろう? 僕が拾われてから11年経ってるけど何故か見た目の変化はほとんどない。見た目だけで言えば、あの日僕が魅入った美しい黒髪の女性のままだ。


「ちょっと気になったんですけど、師匠って何歳さ……」

「ナニカイッタカコゾウ?」


 僕が師匠の年齢を聞こうとした刹那、音もなく僕の目の前に迫ってきて頭をわしづかみにされ、思い切り力が込められる。


「言ってない! 何にも言ってませんからその手をはなしっ、いでででででで!」

「貴様のっ、ようなっ、若造にっ、私の気持ちがっ、分かってっ、たまるかあああああ!!」


 やけくそになったのか、頭をわしづかみにされそのまま体ごと左右に揺さぶられる。


「ちょっ!? 師匠!? 手に煉込めないで下さいよ! ただでさえ僕煉も魔力もなくて抵抗できないのに、師匠みたいな霊長類ヒト科最強生物の煉食らったらひとたまりもないんですよ!」

「ええい! 若い奴らなんてみんな死んでしまえばいいんだ!」

「話の趣旨変わってますよ! ていうかこれ以上は本当にっ、ぎゃああああああああああああ!」


 僕の断末魔が人知れず森に中に木霊した。

 これが、僕の師匠。カナ・スイメイル。僕がこの世で最も尊敬する人である。

 


 

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