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第三話


私が櫻井幸也に出会ったのは、入学式の時。

『新入生代表。経済学部経済学科、櫻井幸也。』

はい、と返事をして壇上に上がって来た人を見て、私はその姿に目が釘付けになった。

「ちょっ!友里恵、綾子!見て!あの人!超かっこいい!」

興奮した私は両脇に座る二人の膝を叩く。

痛みに少し顔をしかませた綾子は私の手をどかし、私と同じように壇上の人物を見た。

「ま、確かに華音好みというか、女に人気ありそうな顔だね。」

実際、私と同じように彼に熱い眼差しを送っていた人はたくさんいたはずだ。

けれど。

イケメンで、かつ頭もいいらしい櫻井幸也と同じクラスになれる。そう思ってドキドキしていた心はあっさり崩れてしまった。


入学式後、明日以降の予定等の連絡をするために学科ごとにそれぞれの教室に入る。

出席番号順に席は指定されていて、『島村』と『櫻井』だから、私とあいつの席は近くて。やった、ラッキー♪なんて思っていた。けど。

携帯をいじりながら片手でペン回しをしていたら、手が滑ってシャーペンは床に転がり落ちてしまった。

それと同じタイミングに櫻井幸也は誰か友達の所に行こうとしたのか、立ち上がり、私の席の横の通路を横切った。

カツーン、という音と共に、櫻井幸也の靴に当たったシャーペンは遠くの方まで飛ぶ。

あ。という顔をお互いにしていたと思う。

もしやこれが彼とのファーストコンタクト!?とか思い、いろいろ妄想がスタートした私だったけど、あいつが次にした行動に一気に血が頭に登った。

「あぁ、悪い。」

私の方を見もせずに、あいつはそのまま歩き出す。

「ちょっと待ったぁ!あんたそれが人のシャーペンを蹴っ飛ばした後の態度!?普通、拾って来て、『ごめんなさい』っつーのが筋でしょ!?」

そこで初めて私の顔を見た。その瞬間、僅かに動揺のためか瞳が揺れた気がする。

「んだよ、いきなり!謝っただろ?」

「はぁ!?あれが謝った態度!?あーあ、あんたのこれまでの人生が見えるようね!」

「お前こそ何なんだよ!初対面の相手に向かって言いたい放題言いやがって!」

「あんたが悪いんでしょ!?」

クラス中が静まり返る中、私達は睨み合う。

周りの視線を気にしているような余裕はない。とにかく腹が立った。

数秒後、私達はお互いから視線を逸らした。

あれで新入生代表とか!信じらんない!頭いいからって!イケメンだからって!

何でも許されるなんて大間違いなんだから!




そして私は今も櫻井幸也を睨みつけている。いつまで経っても腹は立つ。

「なるほどね、そんなことが……。」

綾子に的確かつ簡潔に、あの事件の内容を説明してもらった彰先輩は私と櫻井幸也を見比べた。

「さしずめ、『運命の出会い』ってとこかな?」

「「どこがですか!!」」

きれいにハモってしまい、私達は顔を歪め、目を逸らす。

あれが運命の出会いとか冗談じゃない!彰先輩ってば…

どちらかと言うと、私が彰先輩と慧先輩と出会った方を運命だと思いたい。

うん、あれは絶対運命よ!

でも…実行委員で櫻井幸也と一緒ってのは気にくわない…なんでこいつがいるのよ。私のキラキラキャンパスライフ(笑)を返して欲しい。

「…でもな…櫻井幸也がいるからって、辞めるのは癪だしな……あいつが辞めてくれるのが一番いい「華音、声漏れてる。」んだけど…?えっ、ウソ!?」

いつの間にか、考えていることを口に出していたらしく、私は慌てて口を塞いだが、時は既に遅く。

櫻井幸也の額に青筋が増えていた。

「ほんっと…お前は腹立つ!そのセリフそっくりそのまま返す!どうせならお前が辞めろ!」

「はぁ!?絶対やだし!」

売り言葉に買い言葉。

でもムカつくんだから、仕方ない!

「まぁまぁ、二人共落ち着けよ。」

「二人に辞められたら、困るよ?どっちもうちの実行委員会には必要なんだから。」

慧先輩と彰先輩にそう言われたら、何も言えない。『はい!』といい子に返事した私を見て、櫻井幸也は舌打ちをしていたが、気にしないことにする。

櫻井幸也本人も、先輩二人に言われたら、もう何も言い返せないらしく、大人しく席についた。

「さて、これで一年生は全員かな?」

いつの間にか、人数が先ほどよりも増えていた。けれど、彰先輩と慧先輩以外に、先輩らしき人はいない。

くるりと全体を見回した後、先輩達は私の前――教壇の上に立った。




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