本編 2012年10月13日~19日
最近こればかりアイデアが出てくるんで短期に更新しました。
どうぞ
「やはり『琥炎』就役前の作戦は間違いだったか?」
「いえ。戦力的には練習艦である『天津』でも十分だったと思われます」
胡錦沌国家主席は日本に差し向けた艦隊の報告を受けていた。だがその惨状は見ていられないほどのもので、駆逐艦、フリゲート含め6隻が沈没、練習空母『天津』大破漂流中、その他新鋭駆逐艦は拿捕されるという結果だった。実に国内戻って来た艦は1隻も無かったのである。
「ではなぜ小日本ごときの艦隊に殲滅されたのだ!! 一個機動艦隊が丸々失われたのだぞ!! しかも新鋭の蘭州型まで拿捕されてしまった。技術解析は免れない!!」
「それは日本が予想以上の総力戦に出てきたからです!! 従来の日本艦隊なら空母艦載機で殲滅できたはず!! 次は間もなく就役の『琥炎』『龍炎』と保有する全艦艇を使った総力戦ならきっと日本艦隊を落とすことができるはずです!! 更に弾道ミサイルによる首都の波状攻撃、本土への陸軍派遣を持ってすれば必ず!!」
国内には後1年以内で就役する艦を含めればまだ数十の大型艦が残っている。だが停戦を認めさせた駐日大使は肝心な事を伝えていなかった。赤城総理がわざと聞かせたEMP誘導弾の存在である。これを使われては出撃前の艦艇の電子機器を破壊され、攻撃どころの話では無くなってしまう。それをまだ知らないのだ。
「・・・本当に可能なのか?」
「可能ですがそのためには大量の輸送艦及び弾薬が必要です。幸い日本は停戦条約を飲み、1年半の猶予があります。手配をお願いできますか?」
「分かった。ただし予算確保のため計画書をまとめてくれ。必要数も明記しろ」
「ありがとうございます」
中国の日本再攻撃作戦が練り上げ始められていた。
その頃日本の防衛省地下、NCCSでは、量産態勢へと進んだ対電磁層攻撃誘導弾の概要を、防衛省技術研究本部から防衛省幹部、3自幕僚長へと伝える説明会が行われていた。
「弾体は国内生産の認められた超高高度迎撃誘導弾のそれを流用していますので国内のイージス艦への搭載が可能です」
正面のモニターにイージス艦『金剛』から打ち上げられるSM-3と酷似した弾体がスローで映し出される。
「またそれらへの防護装置ですが、既に1年以内に建造した艦には搭載済みです。従来のEMP防護では絶対に破られてしまいますから新しく艦艇や航空機にも搭載が必要だと思われます。あ、F-3には搭載済みですので。陸上兵器については各々に搭載するのはまず不可能だと思われるので、キャンプ周辺に展開する磁気バリアを開発中です。これはリニアモーターカーに使用される技術を拡大改良をした物で、今のところ原理は日本だけが把握しています。車輌4両に搭載して囲んだ地帯の防護が可能で、大体2平方キロメートルの範囲になります」
今度はCGでの車輌防護装置の再現が写し出された。全体的に〝戦国自衛隊1549″に登場する対プラズマ用人工磁場シールドに似ている形状である。
「ミサイル自体の有効射程はどれほどですか?」
「地表から200キロ上空で爆発させるため攻撃確実有効範囲はおよそ半径20キロ。なので射程は200~500キロを想定しております。最大速度は理論上マッハ2.3。実測段階では3.2まで加速しました」
「派生型の開発は?」
「航空機発射型、及びハープーンミサイルの弾体を利用した潜水艦発射型、通常艦艇発射型の開発を開始させています。今月中には完成できるでしょう」
「話を変える事になりますが、別の、例の弾頭はどうなりましたか?」
「・・・現状量産は不可能と言う結論に達しております。融合炉の開発も難航し、現状での配備は2基にとどまっています。発射機も開発予算の不足で滞っており、代替としてH2Bロケットとその誘導プログラムを使用することも考えられています」
例の弾頭とは・・・例の弾頭である。防衛機密のため詳しくは話せないようだが、それ以上でも以下でもない。
「民間ロケット・・・ですか。さすが技本はやる事が違いますな・・・色んな意味で・・・」
「使える物はなんでも使うのが信条ですからね。話はそれましたがEMP誘導弾の概要はこのような物です。きっと核兵器に代わる抑止力になりうる兵器だと思います」
「ありがとう。これからもバックアップを頼んだ」
「光栄です。よろしくお願いします」
3自の指揮官と幹部が退席すると、技本の研究員はほっと息をついた。赤城政権になってから、対艦巡航ミサイル『飛炎』、EMP弾頭、空母の電磁カタパルト、長門型機動偵察衛星など、あまりの高性能にお蔵入りにされてきた兵器を実戦配備してきた技本だが、最近ではどうにも期待されすぎな感がある。その内某汎用人型決選兵器でも開発せよとか言われるのではないだろうか。
とはいえそのための技術研究本部。言われる前に先手を打つのも信条である。かくして十数年の月日を掛け研究を重ねたこの研究員は、某VF機を開発するのに成功したのであるが、それはまた別の話である。
6日後の昼、中国から拉致被害者の特別便が海上自衛隊厚木基地に到着した。返還されたのは全部で20人足らず。わざわざ北朝鮮から中国に回ってもらった陸自特殊作戦群からは少なくとも200人の日本人が収容所で暮らしているとの報告が届いている。これでは停戦条約に違反している。すぐに閣議決定を下した赤城は第1輸送艦隊、第1護衛艦隊(第1艦隊とは別物)を中国吉林省沖へと向かわせた。幸い収容施設は砂浜に面しているとのことで、輸送艦のLCACを使用すれば十分に救出が可能であると判断された。
これは停戦後なお戦い続ける、愚かな人間の記録である・・・。
首相官邸応接室 2012年10月PM9:30
「拉致被害者の一時返還ですが、我が国の国民保護の態勢として、やはりあなた方の行動は認められる物ではありません。つきましては中国外務大臣殿。国へお引き取りください」
朗らかな顔で言い切った赤城は側に控えた空自隊員に指示して外務大臣の琅を空港へ送ろうとした。
「ちょっと待って頂きたい。貴方は一国のトップとして我が国との約束を反故にしようと言うのですか!? 停戦条約はどうなったのですか!!」
「…なにを言っているのです?」
振り返った赤城の顔は冷ややかだった。
「我が国の国民を本人の意思とは関係なく拉致した貴国に言えることですか? そもそも貴国は停戦条件を満たしていない。拉致被害者が20人足らず? ふざけないでもらいたい。ご存じでしょうが貴国吉林省沿岸の漁村の収容施設には未だ200人近くの被害者が取り残されているようです。よって我が国は貴国のこの地域に強襲をかけ、被害者救出を敢行する所存です。君たちは丁重に大臣を空港まで送って差し上げろ!」
強い口調で言い付けると空自隊員が小銃を持った手に力を入れる。だが琅大臣の態度はかわらない。
「まだ我が国に残る日本人がどうなると思っている? まだ観光客、企業社員含めて1万人以上が残っているはずだ」
強気なのはこのせいか・・・。
「言っておきますが今国外、いえ中国に居るのは左翼運動家、及び反政府派の過激派ばかりです。あなた方の蛮行を有事宣言とともに公表した時から渡航者が急激に減りましてね。帰国者も在中邦人の97%にまで登っています。正直に言いますと残りの3%は中国によって苦しめられている我が国の現状を何も知らず、「軍は悪」を地で行く現状とても厄介な存在です。平時ではそれも思想の自由として保護の対象でしょうが今は優先順位と言う物がありますから。どうにかするというならどうにかして下さい。一息ついたらそれにも対処させて頂きます」
「・・・・・」
かつてここまで国民を見捨てるような発言をした首相はいただろうか。しかし本人の目には決して国民を見捨てない意思を感じられる。こんなヤツを相手にして本国は無事ですむのだろうか。狼はうなだれながら、空自隊員に連行されていった。
「1030時より上陸作戦を開始する。一応停戦中のため、〝静かに″遂行せよ」
『第1輸送艦隊、了解します』
『第1護衛艦隊、了解』
『特戦群、了解』
「中国よ忘れるな。日本は、助けを求める者に平等にそれを与えるんだ!!」
菅野美樹には陸上自衛官の彼氏がいた。バイトをしていた時の先輩であり、かなりの年上だったが、同年代のチャラチャラした男には無い軍人としての魅力があった。どうやら普通の自衛官では無いようで、1ヵ月以上会えない事もあったが美樹は次に会えるのを待ち続けた。だが、彼女の両親は自衛隊員を毛嫌いし、二人が付き合っていることを知ると鬼のように彼女をしかりつけた。曰く、あんな低能のどこがいいのか。自衛隊なんぞ人間の仕事じゃない。軍人は日本人の恥。結局強引に別れさせられてしまった。
あまりの乱暴なやり方に何日も落ち込んだままの彼女を心配した友人が旅行へと連れ出した。中国である。大学の第2外国語で中国語を専攻していた美樹は、すこしでも元気になってくれればと自分を気遣ってくれた友人に押される形で中国へと飛び立った。
だがこれが間違いだった。
旅行中立ち寄った海岸で、銃器を持った男たちに拘束され、そのままボートで収容施設に連行された。始めは北朝鮮かと思ったが言葉は中国語である。必死に抵抗したが、相手は銃器持ち。友人は脚を撃たれて気絶し、自分も全身拘束されて独房へと入れられた。それから今日で1年である。まるで男が好きなゲームのようだが、明日私は中国人に凌辱される。1年たってから女性は別の施設に移され、男は北朝鮮へ送られた。施設では工作員を育成するための教育がなされるらしい。だからせめて、もう一度先輩に会っておきたかった。
(先輩・・・・)
「・・・・まだ、・・・まだ助けてくれないの・・・?」
「遅くなった、美樹」
目の前には迷彩服を着て、M4カービンを持ち、顔を緑に染めた男が立っていた。
「・・・しゅう・・じ・・?」
それは紛れもなく、
陸上自衛隊特殊作戦群隊員、溝内修次であった。
「要救助者発見!! 確保!!」
戦は繋がった。
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