本編 2012年10月9日 其三 1日さかのぼり
テスト終了ー
物理赤点だぜぃ・・・どないしよ
ではどうぞ
時はさかのぼり大和直上海戦前、SAH-1が偵察のために『大和』を発艦した後の事を話しておこう。
『大和よりSea Wall。何か確認したか?』
『こちらSea Wall。中国艦の航跡を確認。更に接近する』
『気を付けてくれ。レーダー波照合をした結果敵艦は旧式の旅大型駆逐艦だと思われるが大和の主砲弾から逃れ続けたほどの操艦技術を持つ艦だ。油断するな』
『了解。日本船籍の漁船はどうなったんだ?』
『君らが離艦したときにこの海域を離脱する様子を確認した。できれば拿捕したかったがあれだけ大量の船舶だ。拿捕したところで曳航はできない』
『了解。これから向かう中国艦だが、念のため警衛海曹集団1個分隊をSH-60Kで送る準備をしておいた方がいい可能性がある。頼めるか?』
『任せとけ。ついでにガンシップ化して送ってやる』
『ありがとよ。おっと、敵艦艦影を確認。レーダー波照射無し・・・いや、主砲の照準を受けたようだ。回避行動に入る。オーバー』
SAH-1は通信を終え翼を翻すと時速820キロでの回避行動に移る。旋回した機体のはるか後ろを旅大型駆逐艦の130mm連装主砲弾が狙いを外し飛んでゆく。レーダー追尾では無く砲自体の旧式FCS照準のため追尾が追いつかないのだ。
「金剛、もうちょい近づいて甲板のヘリを破壊する」
「ええ!? これ以上は危険ですよ。手動式ですけど旅大型にも対空機関砲はあるんですよ?」
「俺の腕を信じろ。大丈夫だ」
金剛2尉はタンデム複座の機内の、前部ガンナー席に座る射撃員である。
「霧島1尉・・・兵装に少しでも傷付けたら許しませんからね」
「分かってるよ。よし、右旋回90度。プロペラピッチ可変90度。射撃目標飛行甲板上のヘリ、Z-9C」
「ガトリング砲アイリンクシステム接続・・・接続確認」
「『大和』艦長、攻撃許可を・・・!!」
『許可する。ただし政府からは有事宣言がなされていない。撃沈は避けるように』
「了解! 射撃開始!!」
金剛2尉が操縦桿の上部にある射撃スイッチを押しこむと毎分650発の速度で大量の弾丸が機首のガトリング砲から撃ち出された。発艦しようとメインローターを広げてエンジンを点火していたZ-9Cは数十発の20mm弾を食らい、爆発炎上した。格納庫内で待機していたもう一機のヘリも爆発に巻き込まれ炎上したようだ。格納庫からは黒煙が上がっている。だがそのままじっとしている訳にはいかない。片舷2基ずつ設置された37mm連装機関砲と25mm連装機関砲の火線が上ってきた。
「あいつらを黙らせるぞ!! ロケット弾発射!!」
「発射!!」
次は翼下のハードポイントに装備した4基のハイドラ70ロケット弾ポッドに詰め込まれた70mmロケット弾が数発発射された。M111(架空)という対船艇用ロケット弾で、船艇を沈めないように搭載する重火器や砲填兵器を無力化するためのものである。そのため簡単な誘導装置を有し、今のようにかなり近い距離であれば、命中率は90%を誇る新型ロケット弾なのである。
「目標対空機関砲、全弾命中!! 次目標、艦首連装砲、発射!!」
またも数発のM111ロケット弾を発射し、主砲に着弾させると敵艦からの攻撃は完全に止まった。霧島1尉は通信を全周波数帯に設定し、機外のスピーカ―でも聞こえるようにすると、警告を発した。
「こちら海上自衛隊第1艦隊航空隊。貴艦の武装は既に解除された。即時降伏せよ。なお当海域は完全な日本領海内である。こちらの命令に従え。ジュネーブ条約により乗員の安全は保障する。繰り返す・・・」
数分後、中国艦から降伏の返答があり、『大和』と『日向』はただちに64式小銃をはじめとした完全装備の警衛海曹1個分隊を乗せ、念のためM134を装備した2機のSH-60Kと新たなSAH-1を離艦させて乗員の拘束に当たる事になった。また280人もいる乗員は500人の陸戦隊員を輸送できる第1補給艦隊の戦闘補給艦『琵琶』に収容することになった。
SH-60Kの警衛海曹らが艦内の制圧を終え、爆発したZ-9Cを海中に投棄した後甲板上に乗員を集めていると、遠くから近付いてくる『大和』らを上空を飛行するヘリのレーダーが捉えた。『琵琶』は100m以上小さい旅大型駆逐艦をラッタルを挟んで横付けにすると、直接乗艦できるように間に梯子を渡した。
「乗員に武器を持っているものはいないな?」
『琵琶』の副長が制圧部隊長に確認をとる。
「はい。今艦内に収容している乗員は全て身体検査をした者になります。また部隊投入直後は散発的な抵抗もありましたが死傷者は双方ともにありません」
「分かりました。念のため歩哨を立てておきます」
「お願いします」
「隊長!! 艦内の格納庫に多数の日本国籍のパスポート、免許証などが格納されているのが確認されました!」
「偽造か・・・?」
「それが・・・どうも本物のようなんです」
隊員が見せるそのパスポートは2006年以降に発行された一般的なICパスポートであった。中には今年導入が始まったNICPASもあったという。
「・・・どういうことだ?」
「まず一つ考えられるのがとても高度な偽造技術によって作られたという可能性、二つ目が単に落し物や盗難によって手に入れたものという可能性、三つ目が日本人が中国に協力してパスポートを横流ししている可能性。最後が拉致被害者の所持品という可能性です」
「まさか・・・中国も拉致をしていたというのか!?」
「いえ・・・その場合正確には観光にきた日本人を誘拐したのだと考えます」
「なぜだ?」
「このパスポートのICには中国からの出国と日本への帰国だけ記録されていません」
「つまり中国国内から出ていないと・・・」
「そういうことです」
「すぐに外務省へ照会しろ。新たな外交問題に発展するぞ・・・」
「了解しました」
「よし、制圧隊は集合。撤収する。ヘリに乗れ!!」
「「了解」」
隊長は驚きつつも解決は政府に懸けるしかあるまいと部隊に撤収を命令したのだった。
第2艦隊「大和」艦長室
「艦長。制圧部隊が発見したパスポートですが・・・中国観光中に行方不明になった人物の所持品であると判明しました」
「そうか・・・まさか誘拐・・・いや、拉致を中国もしていたとはな」
「政府は有事宣言のあと公表するそうです」
「有事宣言か・・・宣言されるのか?」
「されるでしょう。あの首相なら」
「このまま判断を誤らなければいいが・・・」
「いいえ。我々は既に誤った道へ進んでしまったのかも知れませんよ?」
「それは証明しようがない。進んだ以上、結果を見なければならないのは義務なんだよ」
「そうですか・・・では失礼します。何かあればCICかFICにいますので」
「あまり無理しないようにな」
「ありがとうございます」
そう言って副長は部屋から出て行った。
「大和、この戦いの先には何がある?」
「私に聞いてどうするのだ。艦長というのにそれではこれからが持たないぞ?」
誰もいなくなったはずの艦長室で聞こえるのは別に艦長が侍らせている女性自衛官では無い。この戦艦「大和」の艦魂である大和だ。海上自衛隊の黒い制服に身を包み、肩には海将補の階級章が光っている。高い身長と長い黒髪を持つ超絶的な和風美女である。年齢は二十歳前半といったところか。33歳という異例の年齢で「大和」の艦長になったが未だ独り身の自身としては気後れしてしまいそうな人物である。
「これから・・・ね。悪かったな情けなくて」
「別に責めているわけでは無い。むしろ元気になってほしいのだが・・・」
「それじゃこの書類の作成を手伝ってもらえるかな?」
「む・・・その・・・ぱそこんとやらに私は詳しくないのでな。失礼スル」
大和は二コリと笑いながらその場から姿を消した。
「はぁ・・・今日だけで訓練3カ月分の弾薬を使ったんだ・・・今夜中に終わらせるなんて不可能だよなぁ」
そう言いつつパソコンに文章を入力している辺り先輩幹部の常識が染みついているのだと感じた。
だがそれも作成を始めて数分で終わる。
「艦長!! 総理が有事宣言を発令しました。全艦隊戦闘待機に切り替えられました!!」
「総員戦闘配置を達しろ!! すぐにCICへ向かう」
有事宣言がされてから中国からの弾道ミサイルの警戒を含めた待機が全部隊に命じられたのであった。
大和直上海戦12時間前であった。
夜は更けていく・・・・
・今回登場した旅大型駆逐艦は、実験艦として少数改造された航空実験艦、旅大Ⅱです。
・パスポートはよくわからないです。国外に出たこともなければ持ってもいないので・・・
大和「意見、感想があったらぜひ送ってくれ。私もうれしいぞ」