本編 2012年10月10日 其二
今回少し短めです
実際こんな戦闘があったら冗談だと思われますよね・・・
『各艦、各機搭載する全兵装の使用を許可する。ただし戦死は最重要回避任務だ。総員〝死ぬ気で死なずに″敵艦隊を殲滅せよ!!』
『『『『『『『了解!!』』』』』』』
北緯30度43分 東経128度04分、戦場は設定された。その真下にはかつての超弩級戦艦『大和』が眠っている。
『F-2全機、攻撃開始!!』
高度4000を維持して飛行していた20機にも及ぶF-2戦闘機部隊は高度1000まで降下すると翼下に2発ずつ吊るしたASM-3を切り離しラムジェットエンジンを点火させた。F-2戦闘機から発射されたASM-3の総数は40発にもおよんだ。その内4発が作動不良で目標を逸れ、中国艦隊からの猛烈な弾幕により十数発が落とされた。マッハ3という超高速で突っ込んでくるASM-3はそうそう撃墜できるものではないが真横から真っすぐ突っ込むという態勢だったため弾幕をまともに浴びる形となり、迎撃数が上がってしまったのだ。しかし最終的に20発以上のASM-3が敵艦に着弾した。運の悪い艦は船体の真横に、運のいい艦でも機関部に着弾し、ワリャーグと同じように艦内で爆発したため内部に大量の死傷者を出した。ただ、ワリャーグは旧ソ連が建造をしたことだけあり、かなり丈夫な船体構造になっていたため、ゆっくりと沈没したが、今着弾した艦は純粋な中国産の駆逐艦の蘭州型と広州型、揚陸艦の玉庭型である。基本構造の脆い現代の艦ということに加え中国独自の構造により中にはミサイルが貫通したものや、内部で爆発を起こし一瞬で爆沈する艦もあった。残った艦艇は玉庭型揚陸艦が4隻、蘭州型駆逐艦が2隻、江滬型フリゲートが5隻である。沈没・航行不能艦は12隻に及びすぐに引き返してもおかしくないレベルの戦果だった。
『こちら海上自衛隊! 敵航空戦力が接近している。残りは海自に任せろ!!』
『了解! 航空戦力排除に向かう!』
F-2戦闘機が敵艦隊から離れると、『天城』から40機のF-3が発艦した。『武蔵』や『霧島』のレーダーに映る敵航空戦力は80機前後。いかに対空戦闘に特化したF-2E/Fがあるにしても全部で20機しかないのでは太刀打ちできないと思われたからだ。
さて。後は任せろと言った手前、攻撃を怠る事は許されない。
『第2艦隊全艦攻撃開始!!』
戦後初の艦隊戦が始まった。
第2艦隊旗艦『武蔵』CIC
「FCS-3D、出力良好。射撃目標ブレ無し。射撃管制機器異常無し」
「主砲及び全ミサイル、魚雷、発射準備完了です。射程内に全ておさまっています」
「僚艦野様子は?」
「データリンクでは全艦目標割り振りが完了し、『霧島』『夕立』『霧雨』『大波』『龍神』『水神』は90式SSMの発射準備に取り掛かっています」
「各艦の用意が完了し次第主砲及び対艦ミサイルでの攻撃を行う」
『霧島』『龍神』『水神』のVLSには赤城政権になって実戦配備が許可された対艦・対地巡航ミサイル『飛炎』が搭載されている。射程は90式SSMの4倍以上であるが威力が非常に高いうえに高価であり、今回は通常の対艦ミサイルで十分であるという判断により使用されない事になった。ちなみに『大和』型の主砲は90式SSMと同等であるため、巡航ミサイルの発射射程内での砲撃が不可能である。
(それなら対艦ミサイル積まないでいいじゃんと思うかもしれないが、現代の戦闘艦にミサイルを搭載しないなんて作者のプライドが許さないので勘弁してほしい)
「各艦、ミサイルは発射用意完了!」
「総員衝撃に備え!!」
これは別に攻撃に備えている訳ではない。試射を行った際に衝撃で瞬間的に精密機器類がフリーズするだけではなく、態勢を整えていなかった乗員がよろめいて壁や床に頭を打ち付ける事故が起きていたための臨時的な処置である。
「全艦、撃ちィ方始めェ!!」
海上自衛隊独特の合図とともに『武蔵』の前後部に設置された12式460mm砲と150mm砲、127mm砲、艦橋後部に配置された90式艦対艦誘導弾発射筒が一斉に火を噴き、甲板上に数瞬爆風が吹き荒れる。もし甲板に出ている人がいたら一瞬でズタズタに引き裂かれてしまうような爆風だ。
僚艦からも複数のミサイルが発射され、合計約25発のミサイルが敵艦を目指しているが、今回はASM-3のような音速飛行では無く、精々マッハ1の亜音速飛行である。音速を超える『武蔵』の主砲弾を除いて全弾撃墜ということもあり得る。
「次射用意!!」
そういうことも考え、間をおかずに次を撃つことを選択した。
「主砲弾被撃墜圏到達まであと10秒、ミサイル到達まで25秒です」
「主砲弾2割被撃墜!!」
「味方対艦ミサイルが敵対空ミサイルによる迎撃で撃墜!!」
「本艦隊への敵対艦ミサイル多数接近!!」
「対空戦闘用意!!」
「対空機銃、ミサイル射撃用意!!」
入ってくる報告はまさに戦闘のそれである。
「対空戦闘システムオールグリーン、ESSM攻撃始めぇ!!」
ミサイル発射の電気通信が『大和』・・・では無く『龍神』のVLSに伝わり、一度に数十のミサイルが打ち上げられる。
本来艦隊防空の要であるイージス艦であるが、艦隊に新たに組込まれたミサイル防空母艦という種別により、個艦防空ないし僚艦防空まで役割が軽減されたのである。
そのミサイル防空母艦であるが、現在艦隊構成艦から送られてくる百数十の各ミサイル情報に対し、各個迎撃という難題を軽々とやってのけていた。自前の射撃管制装置だけに頼らず各艦に目標の指示を補助してもらう恩恵といえるだろう。
「主砲弾6発が敵艦に着弾。貫通して海面に突入!!」
「・・・少し信管が強すぎたか。主砲操作員に信管を弱めるように通達しろ」
「あれ? 貫通して海面に突入した主砲弾が何かに・・・潜水艦に直撃しました!! 圧壊音・・・沈没しました」
「なに!? なぜ見つからなかった!! 対潜警戒を厳と為せ!!」
「敵対艦ミサイル、『龍神』『水神』により全目標撃墜確認!」
「味方対艦ミサイル、敵艦に10発着弾、敵フリゲート1隻が轟沈しました! その他フリゲート全艦大破、駆逐艦1艦のみ小破、揚陸艦全艦小破です!」
「予想以上に蘭州型駆逐艦は強いな。さすが腐ってもイージスか」
蘭州型駆逐艦とは中国人工作員がアメリカからの情報を盗んで建造されたと言われるイージス・・・俗に中華イージスというシステムを搭載した駆逐艦である。どうやら我々はその性能を甘く見ていたようだ。
「全艦砲射撃用意!! 弾種三式弾!!」
「三式弾ですか?」
「そうだ」
一見貫徹力の強い徹鋼弾が最適だと思われるが、それは60数年前の戦艦対戦艦の戦闘での事である。それは先に撃った徹鋼弾がやすやすと敵艦を貫いてしまったことからもうかがえる。外部にレーダーやカメラ、ECMなど精密機器が集中する現代の戦闘艦では、それらの機器を無力化して継戦能力を奪う方が手っ取り早いのである。・・・・・もっと早くに気がつけばよかった。
「主砲、三式弾装填完了」
「副砲、高角砲も装填完了」
「自爆位置を敵艦隊布陣海域全体に満遍なく設定しろ」
「了解。全砲弾、設定完了。各員射撃用意!!」
「全システムオールグリーン。フリーズ機器無し。射撃エラー無し」
「総員衝撃に備え!!」
「第一射、撃ちぃ方始めェ!!」
盛大な発射音とともに全艦砲が吠え、その砲塔の下ではすぐさま全自動主砲弾装填装置が作動して二射目の砲弾が装填される。
「第二射、撃てェ!!」
再び発射音
数十の砲弾は真っ直ぐ敵艦隊に接近すると、それぞれに割り当てられた位置で正確に爆発し、赤い火の弾を辺り一面に飛び散らせた。その正体は996の可燃性ゴム弾と非可燃性榴弾であり、敵艦のレーダーやジャミング装置に高熱や小さな破片をぶつけ、故障を引き起こしていた。事実中国艦隊のCICでは突如としてソナーを除くレーダーディスプレイや射撃管制の画面がホワイトアウトしたことによって混乱が始まり、外部通信のアンテナが破壊されたことによる僚艦との交信不能によって衝突ギリギリのコースを航行する艦もあった。
「敵艦被害甚大!! 戦闘能力は喪失したと思われます」
「降伏した艦から順番に制圧部隊を送る。SH-60KとSAH-1の発艦用意を」
「了解」
数分後、通信が破壊されたことにより、全ての敵艦が降伏を表す白旗を中国国旗である赤旗の代わりにマストに掲げることとなった。
12月5日より定期テストがあるため次の更新はそれ以降になると思われます。
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