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【願いと希望のエピローグ】

「んでwwwんでwwwんでwwwにゃーんでwww」


「………………」




 翌朝。いつものように朝練……は出来ないから少しだけ遅く起きていつもの時間に訪れたのは、これまたいつものように異空間化した魔境。色とりどり云々な部屋の主は、これまたいつものように濁声を心地良さげに響かせていた。……さて、昨日のアレは幻だったのか何なのか。夢オチは既に一回やっているからこれ以上は勘弁して頂きたい所。


「おおwww梨羽殿www毎朝大儀でござるwwwクポォwww」


 そう私に声を掛ける肥えた物体Xはいつもと変わらない言い回しでニヤニヤしている。昨日の件で部屋に入るのに少し勇気が要ったのだけど、そんな私の緊張や期待を見事に裏切るオタク豚。……もう色々信じられない。


「あー……そうよね、アンタはそういうヤツよね。期待した私がバカだったわ……」


 額に手を当てて嘆息一つ。残念な気も少しするけど、これが今の琉依なのだから仕方がないと言えば仕方がない。そんな気持ちとは裏腹に、まだちょっと痛む指先が昨日のアレは夢でも幻でもなかった事を物語っている。


「ッ…………!」


 ……それで思い出した。私は昨日、男の子の胸に顔を埋めて子供みたいに泣きじゃくったのだ。頬がかあーっと熱くなるのが分かる。……くっ、アレって実は一生の不覚だったんじゃないだろうか……?


「フォカヌプゥwww顔が赤いでござるよ梨羽殿www風邪でござるか風邪でござるかwww?」


「う、うっさい!! 変な所に気が付かなくてもいーのよアンタはっ!!」


 顔を背ける。……ヤバい、本当に一生の不覚っぽい。琉依が周囲に言い触らすとは思えないけど、何となく優位に立たれたようで居心地が悪い。こ、この劣勢を覆すには……あ、そうか、簡単な事だった。ふふふ……何でこんな単純にして最良の案に気づかなかったんだろう。もっと早くからやっておくべきだったんだ。むしろそっちの方が不覚。


「……な、何か邪悪な微笑みが見えるでござるよ梨羽殿www何を企んでいるでござるwww?」


 うっかり零れた私の笑みに何か不吉なものを感じ取ったのか、僅かにたじろく琉依。そんな様子を気にも留めず私は左手を腰に当て、右手で琉依をビシッと指さし、そして―――




「アンタをオタクから卒業させるわ! 何処へ出しても恥ずかしくない、私の幼馴染として立派に更正してあげる! これから厳しくビシバシしごくからねっ! 覚悟なさいっ!!」




 きっと何者にもなれないお前達に告げる、とでも言わんばかりの勢いで、高らかにそう宣言した。……いや、何の事だか分からないけれど。


「………………」


 琉依はバカみたいな顔で絶賛絶句中。まあ琉依の同意を取る気はないから、別に納得していようがしていまいが関係ない訳で。


「まずはその体型とニキビね。朝晩は私と一緒に5kmのジョギング! お菓子は勿論禁止! 食事はおばさんと相談して低カロリーメニューに変えるから!!」


「え……ちょ……」


「明日は……大会に顔出さなきゃいけないから、明後日の日曜日にはこの部屋の大掃除! 私がいらないと判断したものは全て捨てる! その棚に並んでるお人形なんて以ての外! マンガ・ゲームの類は明後日までに出来るだけ減らしておきなさい!!」


「ええええええええええええ!?」


「それと、音楽の趣味も変えなさい! 聴いていいのはE○ILE、○野カナ、加藤○リヤぐらいね!!」


「ちょ、ちょっと待てって……! そもそもオレ、その辺の歌には強い拒絶反応が……!!」


「そう? だったら特別にAK○48ぐらいまでなら許してあげる。私も鬼じゃないからね」


「……ああ、それならまあ何とか……って、そういう問題じゃねえええええええ!! 勝手に話進めんなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「アンタ気が動転しすぎて口調が元に戻ってるわよ?」


「どうでもいいわそんな事!! 一体何の権限があってそんな横暴な……!!」


「この可愛い幼馴染の梨羽ちゃんが、わざわざアンタを真人間に戻してやろうと一肌脱いであげるって言ってんのよ。手取り足取りね。感謝されこそすれ、逆ギレされる謂われはないと思うんだけど?」


「ひ、一肌……手取り足取り……つ、ついでに腰も取って頂けると……デュフフwww」


「エロい事考えたら殺すわよ?」


「じょ、冗談だって!! 冗談だから弓を仕舞えっ!!」


「そんな訳で、今朝はもう時間がないからジョギングは今夜からね! さーてと、朝食とお弁当のメニューをおばさんと相談しなくっちゃ! これから忙しくなるよー!! ……あ、遅刻するから早く降りて来なさいよ?」


「おい! まだ話は……!!」


 何か言い掛けている琉依を放置して、部屋を後にする。ドアを後ろ手に閉めた私は、自然と笑みを浮かべていた。これからの事を考えて楽しんでいるのかも。不思議なくらい心が浮かれている。……ふふふ、私も昔とあんまり変わってないみたい。


「おばさーん! ちょっと相談があるんだけどー!!」


 胸を弾ませるのは、表情を綻ばせるのは、思い出かそれとも希望か。遠い日の約束、後悔した過去、決意の昨日、そして続いて行く未来への道。共に歩く人は少し頼りないけど、その辺はお互い様だろう。まあ別に無理をする必要なんかない。私達のペースで、楽しく進んで行けばいいんじゃない? そんな事を想いながら、私は足取り軽く林原家の階段を駆け降りる。






 そんな訳で、少し短いけど私達の物語は取り敢えずこれにて閉幕。見守ってくれてありがとう。あの気紛れな作者の事だからまた何処かでお会い出来る日があるかも知れないけど、その時は宜しくね。




 願わくば、皆様にも心に灯るような大切に出来る出逢いがありますように―――――





どうも、新夜詩希です。この度は拙作を読んで下さりありがとうございます。

……「この程度の文量書くのにどんだけ掛っとんねん」というツッコミを頂きそうですが……それでもどうにか書き終えたという事で許して下さい。

賛否両論ありましょうが、これを読んで皆様が何か感じて頂けたら、それだけで幸いでございます。その何かを感想として送って下さったら次回作への糧ともなりましょう。お暇でしたら、是非ご一筆。


それでは、次回作でまたお会いしましょうね。

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