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私のおちんちん買ってくれない

序章

「ねぇ!お姉さん達、私のオチンチン買わない?」

少年のような顔立ちをした、ハスキーボイスのボーイッシュな女の子が、私たちが楽しくお酒を飲んでいた間に突然割り込んできて、そう話しかけてきた。無粋な人だなと思い、「私たちには、そんな趣味はないわよ!」とそっけなく言い放った。

私、田中みのりは幼い頃に早く父を亡くした。父が残してくれた多めの財産があったため、母は特に仕事もせず、妹と私を女手一つで育ててくれた。「いない父に代わって家を守る」「母を守るのも、妹の世話をするのも私の役目だ」と思い込みながら私は成長した。

幼い頃から妹と二人きりで遊ぶことが多く、家から出ずに男の子と接する機会もないまま育った私は、幼稚園から大学まであるエスカレーター式の女子校に進学した。小学生の頃は進んでクラス委員長を引き受けるタイプで、クラスメイトからも頼れる「姉貴分」として慕われていた。何か揉め事があれば飛んでいって解決するような、正義感の強い性格だった。

一緒に飲んでいる岡田里帆は、二人姉妹の妹で、いかにもお嬢様育ちといった雰囲気の女の子だ。開業医である両親のもとで大切に育てられた過保護な彼女とも、小学校の時、里帆の誕生日会に呼ばれたことをきっかけに出会い、仲良くなった。私と同じように、彼女も父親以外の男性に対する免疫が全くなかった。

私は中等科からバレーボール部に入り、男の子のように髪を短くしてバレーボールに熱中した。里帆も私と一緒にバレーボール部に入りたがっていたが、幼い頃から習っていたピアノの先生から「指を痛めるからバレーボールだけはダメだ」と言われて断念していた。お互いに練習で忙しい日々を送っていたが、学校にいる時や休日の大部分は二人で過ごした。

そんな仲良しの二人が高校を卒業し、それぞれの進路が決まった。私はそのままバレーボールを続けられる母校の大学へ、里帆は音大へと進学した。大学入学のお祝いを街のおしゃれなレストランで二人きりでしていた時、「大好き!」と里帆に告白された。しかし、友人関係を壊したくなかった私は、その時はサラッと受け流してしまった。

お互いに親のおかげでアルバイトをする必要もなく、私はバレーボールに、里帆はピアノに打ち込んだ。忙しい大学生活の合間を縫って、二人でたくさん旅行にも出かけた。まるで本当の姉妹のような、とても仲の良い関係だった。

ある日の旅行でのことだった。ホテルの手配ミスでダブルベッドの部屋しか空いておらず、私たちは同じベッドで過ごすことになった。夕食のあと部屋に戻ってそれぞれ入浴を済ませ、ワインを少し飲みながら話に花を咲かせていると、酔った里帆が私にハグをしてきた。

「みのり!大好き!愛してる」

そう言って彼女が私の口にキスをしてきたとき、私のなかのタガが外れた。私も里帆のことはずっと大切に思っていたが、友人としての感情で抑え込んでいたのだ。

「私も里帆のことが大好き、離したくないよ。愛してる」

私たちはそのままダブルベッドの上で抱き合い、友達という一線を超えて愛し合った。

翌朝、目が覚めると、私の腕の中でスウスウと可愛く寝息をたてて眠る里帆がいた。あまりの愛らしさに胸がキュッと締め付けられる。里帆の髪を優しく撫でながら昨晩のことを思い出し、赤面しながら「里帆のこと、ずーっと大事にするからね」とおでこに軽くキスをした。女の子同士という関係に戸惑いはあったものの、こうなれたことを嬉しく思い、「里帆を一生守ってあげたい」という気持ちがより一層強まった。

その後、二人はそれぞれの大学を卒業し、私は母校の大学の体育教諭に、里帆は母校の高校の音楽教諭になり、同じ学園に就職した。

世間的には女性同士の友人関係として安心されていたこともあり、私たちは自然と同棲状態になった。実家の家計を少しでも助けるため、私は一人暮らしを始めたが、里帆は毎日アパートに通ってきている。毎日の生活はとても楽しかった。しかし、みのりの心の中には、どこか物足りなさというか、もっと里帆との「愛の証」が欲しいという思いがくすぶっていたのだ。

いつものように、街の南にあるビアンバー「レモン」へ久しぶりに出かけた。店員も全員可愛い女の子で、「ウーマン・オンリー・バー」のような気軽な雰囲気のお店で、私たちが気に入っているお洒落で居心地の良い店だった。

今日も楽しくお酒を飲んでいると、冒頭の光景が繰り広げられた。

「ねぇ!お姉さん達、私のオチンチン買わない?」

少年のような顔立ちをした、ハスキーボイスのボーイッシュな女の子が、私たちの間に割り込んできたのだ。一瞬、男の娘や女装の類いかと思って冷たくあしらったが、よく見ると彼女は普通の女性の体型をしており、出るところは出て凹むところは凹んでいる、一見してごく普通の女性だった。

「少しだけ話を聞いてくれますか?」

彼女は私の横に無理やり座り込み、コソコソと話し始めた。

「実は私、普通の女性なんですけど、わけがあってこの名刺のバーのママに相談したら、これを付けられたんです」

そう言って、彼女は自分の股間に私の手を無理やり持っていき、触らせた。グニョンと、今まで触ったことのない不気味な感触が手に伝わってきた。驚いた私は、彼女の手を振り払い、思わず手を引っ込めた。

「これが男の子の感触……キモいでしょ? どうしても必要だったから付けてもらったけど、もう用事が済んだから返しに行ったら、高額な金額を要求されて。『払えないなら違うお客さんを連れてきたら外してあげる』って言われてどうしようもなくて。今このバーで働きながら、引き取ってくれる人を探しているんです」

そう言って彼女は私に名刺を差し出した。そこにはこう書かれていた。

BAR

Crimson Gloves

〜new life time〜

名刺を受け取りポケットにしまうと、彼女は席を立ち際にこう囁いた。

「名刺のBARに来てください。あなたが彼女との関係で物足りなく思っているものを、バーのママがきっと埋めてくれると思うから。絶対来てね、待ってるから!」

そう言い残し、彼女は足早に去っていった。

ポケットの中で重みを感じる名刺を見つめながら、私は言い知れないざわめきを覚えていた。――里帆との関係に、本当に物足りなさを感じているのだろうか? あの奇妙な女の子の言葉が、私の心の奥底に隠していた小さな澱(おり)を刺激していく。このまま何事もなかったかのように日常に戻るべきか、それとも好奇心に身を任せてその扉を開けるべきか。迷いを抱えたまま、私はグラスに残ったワインを静かに飲み干した。


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