好きな人に逆撫でされる話。
人はなんとなく、疲れる日がある。仕事が大変だったとか、人間関係に疲れたとか、そういう大袈裟なものじゃなくって。
その日の天気が良過ぎるとか。
その日の風が暖か過ぎたとか。
その日の布団が柔らかくて、とか。
そういう、贅沢な疲れがたまーに訪れるのだ。身体も精神も元気いっぱいなのに、なぜか何もやりたくなくって、ぐーって倒れてるだけの日。
「それを私は疲れと呼ぶのー」
「なにが??」
「知らなくていい」
とにかく、ともかく。
そんなとても疲れる日にはなにもやりたくなくなっちゃって、こんな風にごろごろとあっちこっち転がされるばかりだ。ベッドの端から端まで。
ころろろ。
「ねぇー」
転んでいたらぴたっと、掴まれて動けなくなる。脇をがっと掴まれて、ちょっと痒い。
転がるのが出来なくなって少し機嫌が悪くなったけれども。
これはこれで落ち着くし。
「まぁいいやー」
「ずっと一人でどうしたんだ。怒ったり満足したり」
訝しげな顔ではあったけど、彼もまたすぐ、まぁいいやってなってしまった。
「私みたいになったねー」
「おかげさまで」
「ふへへ」
思いのまま笑うと、脇をぐりぐりもみもみ。弄られた。なんかもっと笑ってしまう。
それを数秒。気が済んだらぴたりと止める。
「彼女はおもちゃじゃないのー」
「違った?」
「ちげーよばーかっ」
ばたばた。わざとらしく暴れる。そのまま、わざとらしくそっぽを向く。
私が拗ねたふりをして、彼が慰めに色々としてくれるのが、こういう疲れた日のルーティンだった。
でも、慰めは訪れず。
「………」
そっと覗いてみると、これ見よがしに、スマホを弄ぶ姿が見えた。スマホを見るんじゃなくって、ただスマホというのを投げたり掴んだりと。
キャッチボール用に使うスマホに負けた気がして、むっとする。ちょっといらいらもした。
私にめろめろにさせなきゃ。
5秒くらいは愛おしくてたまらなくなって撫でまくりたくなるくらいにしなきゃ。
「むーんっ」
ほっぺたをぱんぱんに膨らませて、転がる。見えないところまでころころ、ベッドの端まで行って、とん。落ちちゃった。わざとやったけど、着地にミスって少し痛い。
それをなんとか堪えて、再びベッドに登る。
相変わらずスマホでキャッチボールしてる彼に向かって、そろそろ。ベッドにくっついたまま音を立てずに近づいて行く。
わざと見て見ぬふりをするのか、本当に気づいてないのか。彼は今じゃスマホを指の上でぐるぐると回していた。バスケ部の子が片手でボールを回すみたいに、ぐるぐる。
どうやってるのか気になるけど、我慢。
私が可愛くて堪らなくさせる為には、ああいうのに興味を持っちゃ駄目だ。
「みゃぁっ」
ある程度近づいたら、がっと飛び込んだ。腰に腕を回して、脇にほっぺたをくっつける。
そのまますりすり。
服が擦れて、その中からちょっとだけぷにっとしたところが感じられて、この人の匂いもして。
「ひひ」
ちょっと笑った。
「もうー…」
それがとてもとても愛おしいみたいで、彼は声からも愛がいっぱい感じられるようになる。
もっともっと愛されたいな。
ぴたりとすりすりを止めて、するりと転がる。仰向けになって顔を見上げた。
下から見るとやっぱり、人って面白くなるなー。
目が合った。
「へへ」
笑ってあげた。
そしたらついに我慢の限界が訪れたようで。
「むぁっ」
逆撫でされた。
おでこが丸見えになるように前髪をかきあげて、喉のところから耳まで髪の毛を撫で上げる。
ちょっとだけ恥ずかしくなってて、ころろろと離れるとするすると近づいてきて、逆撫で。
髪の毛を下から上に。
根っこから端っこに、するり。
「きもちわるい」
なんか嫌だっ。
体の中の本能が嫌だって言ってる。
それでも手は止まらずなでなで。思いっきり髪の毛をぐちゃぐちゃにしていた。
「もぉっ」
やがて鬱陶しくなってて、手を振りほどいて逃げる。ベッドからも起きて、少しだけ睨みつける。髪の毛が顔の前にまで遊びに来て、視界が邪魔だった。




