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某少女漫画原作賞についての備忘録

掲載日:2026/03/05

 こちらは、某少女漫画原作賞に出した応募作について、せっかく書いたので誰かに読んでほしいのと、今後応募を検討されている誰かの参考にしてもらって、賞の盛り上がりにちょっとだけでも貢献できたらな〜という意図でまとめたものです。

 最終選考に残り、それだけで個人的にはめちゃくちゃ満足ですが、そもそも入賞していませんし、このエッセイは受賞に関してノウハウを提供するものでも、受賞を保証するものでもないことをご了承ください。

 応募作品は一番下につけております。こちらは今回の賞特化で考えたものなので、現段階ではほかのどこかに掲載する予定はありません。


■今回の目標

 連載確約は正直まず無理だろうと思っていたので、最初から入賞狙い。(結果は最終選考落ち。この目標設定が反省点にも繋がるのかも)


■どのようにテーマを絞ったか


・某漫画誌について想いを馳せる

 思春期にほぼこの漫画誌一本で育ててもらったと自負するくらいには読者。例外はあるだろうが、この漫画誌のコンセプトとして、「不遇環境に陥っているヒロインが、なんらかの強さを持つヒーローと出会い、関係を深めつつ、問題を解決、現状打破、新しい人生を見つけていく」ものだと考える。


・ヒロイン像を決める

 普段は暗め復讐系のヒロインを書きがちだが、早々に選択肢から外した。某誌にもそういう傾向のヒロインはいるが、かなり少ないのと、このヒロインでないとならない理由がかなり強く求められる気がしたから。結果、通過しやすさを狙い、「ほのぼの・ほんわかキャラだが意志は強い」ヒロイン像とする。


・ヒーロー像を決める

 上で「強さ」と書いたが、おそらく完全無欠のヒーローではない。本人を縛るなんらかのもの(精神的)がある。前に進めない重い理由、過去があり、それが他者との関わりによるトラウマである傾向。よし、とりあえず封印しよう。


・フックについて

 ある程度のテンプレは必要だが(読者に安心感をもって読んでもらうため)、絶対に何か強いフックは必要(ここでは、フック=ほかと差別化できるオリジナリティ的な意味で使っています)。これまでの経験から、強いフックは自分の癖から持ってくるのがいいと思っているので、ネタメモを見返し、下記のメモを見つける。


※タイトル:鍵の姫

 ヒーローは軍人。クーデターで生き残った姫(ヒロイン)に接触・誘惑し、父王から王家に関する秘密を引き継いでいる可能性のある彼女から情報を引き出すように言われる。心を通わせる二人だが、実はヒロインの身体には、秘密兵器を目覚めさせる鍵が隠されていた。ヒーローにならそれを託せると感じたヒロインは、ヒーローの目の前で自分の身体に刃を突き立てる。


 ち、血みどろ〜〜〜〜!!!!

 

 このままじゃ絶対だめだぁ〜!でも鍵はモチーフに採用しよう。身体の中はだめだ!外にしよう。いやらしくならない場所にしよう。あと、そうなると対になるモチーフがいいよね。鍵なら、扉かな?

 という安易さでフックを決めた。書き始めた。


■小説を書く時に意識したこと

・文体

 少女漫画雑誌なので、男性目線にはせず、ヒロイン目線で。個人的にはかなり柔らかめの文体を意識して書いた。

・展開

 序盤のドアマットシーンはかなり短めに。漫画の一話分から二話の途中くらいまでを意識。何作か某誌の漫画の一巻分を参考にしました。

・漫画映えする描写

 鍵持ちの手の鍵が光る、封印の鎖のダイナミックな動き、家から王城、地下、丘への移動など、映像映えや動きを意識した(つもり)。できているかは分からない。


■振り返り

 結果、タイトル・ペンネーム・講評を雑誌に載せてもらえて、嬉しくて嬉しくて家宝にしたいと思っています。ただ、講評はもう仰るとおり。悔しいものの次へ活かせそうなコメントをもらえてありがたい限りです(講評を読みたい方はぜひ本誌か公式アカウントにて!)


・反省点

 おそらく某誌らしさを意識しすぎて、萌えをうまく熟成できなかった。あと何か新しいものが入れられていたらよかったのかな、とか。そして何より、漫画の展開が全く分からない、ノウハウがないことを突きつけられた。一巻分の構成の正解が全く分からない!もっといろんな漫画の構成を勉強しないとマジで無理!むしろなんで最終選考まで残してもらえたのか!嬉しいけど力不足すぎた!!せっかくのキャラクターと設定がほんともったいなかったなぁ〜!!でも完全に力不足だ!!わからんもん!!!

 本当は提出したの、締め切りの結構前だったんです。残りの時間でもっとお話の流れをちゃんと練ったらいけたかもしれないじゃん〜〜!!!くそぉ〜〜!!!!最終選考に残るって分かってたらもっと……もっと……くっそぉ〜〜!!でもコンテストってそんなもんですよね……。


 以上、なんの参考にもならない振り返りでしたが、何かの参考になれば幸いです。


■最後に

 下記、応募作品です。ご興味があればどうぞ。


【タイトル】

 闇の魔法使いの封印を解いてしまった


【あらすじ】

『鍵持ち』と呼ばれる子どもが生まれる世界。手の甲に浮かぶその鍵は運命の扉を開く鍵とされ、かつては隠された至宝を手にした鍵持ちもいると噂されていた。そんな鍵持ちの一人・エリフィナは、物心つく頃から両親がおらず、ある夫婦に保護されて暮らしていた。毎日こき使われている気はするものの、いつか自分の運命の扉が見つかるだろうと明るく前向きに生きるエリフィナだったが、十七歳の誕生日、いつまで経っても扉が見つからないことに痺れを切らした二人に追い出されてしまう。

 途方に暮れるエリフィナは、王城の前に掲示された看板を目にする。そこには「まだ扉が見つかっていない鍵持ちは申し出るように」と書かれていた。とにかくどんな可能性にでも縋って食い扶持を得る必要があるエリフィナは、王城に行ってみることにする。

 王城の地下、長年開かずの間と言われてきた扉に手をかざすと、エリフィナの鍵が光輝いた。扉はひとりでに開き、何重もの鎖に縛られていた何者かが目を開く。それは、封印された魔法使い・カイエルだった。

 強大な力を持つ闇の魔法使い・カイエルは、「封印から解放した自分に従い、願いを叶えるように」と命令する王を一瞥すると、ためらいなく攻撃を放った。誰もがなぎ倒されていく中、とどめを刺そうとしたカイエルに飛びつくエリフィナ。「だめーっ!」と叫んで彼に触れた瞬間、突然どこからか現れた鎖がカイエルを縛る。この世で唯一エリフィナにだけ、カイエルを止める力があったのだ。

 カイエルは「なぜこんな小娘に」と苛立ちを示しながらも、エリフィナと行動をともにすることになる。エリフィナには、闇の魔法使いに怯える気持ちもあったが、やっと見つかった扉と、その中にいたカイエルを特別に感じる気持ちのほうが強かった。「どのくらい生きているの?」「どうして封印されたの?」などと恐れず質問するエリフィナに対して、カイエルは最初冷たい態度を見せる。カイエルにとっては自分は特別ではなく、厄介な枷でしかない、としょんぼりするエリフィナの様子を見て、「お前は知らないほうがいい」「どの時代にも愚かな統治者はいる」などと、あしらいつつも相手をしてくれるカイエル。エリフィナはその姿に、とびぬけて美しく傲慢な以外は、カイエルが普通の青年に思えるのだった。

 カイエルが、現王が先代の王を毒殺したことを公にしたこともあって、王城は混乱しており、皆二人の扱いに困っているようだった。エリフィナはカイエルに、王城を出てみないかと提案する。「この運命の意味を知りたいの」と言うエリフィナに、「俺も、探したいものがある」と承諾するカイエル。カイエルは、昔別れた大切な人の痕跡を探すとともに、エリフィナの鍵を完全に解きたいとも思っていた。

 長い時間を生き、大切な人に裏切られた傷を抱えながら、それでも愛を求めるカイエルと、孤独な中でも人への愛情を忘れないエリフィナが、ともに旅をし、鍵と扉の謎を解き明かす中で、互いに心を通じ合わせていくお話。


【作品構成(一巻分)】↓改めて読むとふわっふわだなぁ〜!!くっそ〜!!!


・第一話:夫婦にこき使われながらも前向きなエリフィナが、家を追い出され、カイエルの封印を解く。同時に、エリフィナにカイエルを止める力があることが判明する。

・第二話:二人が一緒に過ごし始め、エリフィナがカイエルを質問攻めにする。カイエルの過去と優しさが垣間見えるシーン。二人が旅に出ることを決め、王城から逃げ出す。最初の街に到着する。

・第三話:二人は鍵と扉について、それがかつてこの世界で争った二人の神が、互いに科した枷であるという言い伝えを耳にする。街で火事が起こる。助けてほしいと祈るエリフィナの願いを叶えてやるカイエル。自分のことのように安堵する優しいエリフィナに、心動かされるカイエル。

・第四話:王城からの追手がやってくる。エリフィナを庇って戦うカイエルに、「そんな小娘さっさと殺してしまえばいい!そうすればあなたも解放される!」とそそのかす敵の魔法使い。エリフィナは初めて知るその事実に驚くが、守られるしかない状況の中、このまま自分がカイエルを縛れば追われ続けると思い、カイエルに「自分を殺してもいい」と言う。イエルはその言葉に驚愕し、追っ手を吹き飛ばして逃げる。無事に逃げ切る二人。「どうして?」と問うエリフィナに、「二度とあんなことを言うな」と縋るカイエル。強大な力を持つにも関わらず悲しい過去が垣間見えるカイエルを抱き締め、この人を幸せにしてあげたい、という気持ちが強くなるエリフィナ。


■原作一話


「はぁ、今日も『扉』は見つからなかったなぁ……」

 エリフィナは家の前で箒を持ち、夕日を眺めながら溜め息をついた。今日もおじさんとおばさんに言われるがまま、最近洞窟の中で見つかった扉の前まで行ったが、エリフィナの手の甲にある鍵の形の痣は、なんの反応も見せなかった。

 この世界では、『鍵持ち』と呼ばれる子どもが生まれることがある。エリフィナもその一人だ。手の甲に浮かぶ鍵は運命の扉を開く鍵とされ、かつては隠された至宝を見つけた鍵持ちもいたという。

 おじさんとおばさんも今日出かける前は、「あの洞窟にはきっと盗賊の隠した財宝があるんだ」なんて話していたから、きっと今も家の中で文句を言っているだろう。

「エリフィナ! 何やってんだい! ちんたらやってないで、さっさと夕飯を作りな!」

「あっ、は、はい!」

 そんなことを考えていたら、突然戸が開いておばさんが顔を出し、不機嫌そうに捲し立てた。

「……ったく、扉も開けられないくせに、無駄に金だけかかるったらありゃしない」

 気持ちのいいものではないが、ぶつぶつと言うおばさんの声も聞き慣れたものだ。沈みそうになった気持ちを立て直し、エリフィナは家の中に入った。大丈夫。きっと扉は見つかるし、そうすればおじさんやおばさんも、昔みたいに優しくしてくれるはず。

 そう思っていたの、だが。

「エリフィナ、私たちも悩んだんだけどね。もうあんたのことを置いてはおけないよ」

「いつか楽をさせてもらえると思って今まで育ててやったが、お前も十七になったんだ。これからは自分で生きられるだろう」

 エリフィナの十七歳の誕生日。お祝いを期待していたわけではなかったが、改まって告げられた言葉は予想もしていないものだった。

 唖然とするエリフィナに、おばさんは吐き捨てるように言った。

「さぁ、さっさと準備して出て行っとくれ!」

  *

 エリフィナは瞬く間に、小さな風呂敷包み一つだけ持って、家を追い出されてしまった。

(どうしよう!)

 何軒か知り合いの家を訪ねてはみたが、明らかに困っている相手の顔を見ると追い縋れなくて、エリフィナは自分のほうから「やっぱりいいです!」と言って立ち去ってしまった。

 エリフィナは手袋の上からそっと鍵の痣に触れた。おじさんとおばさんから「トラブルの元になるから」と言われてつけていたこの手袋を外して鍵持ちであることを知らせれば、助けてくれる人はいるかもしれない。でも、それで相手の態度が変わるところを見るのは、今は少し辛かった。

 そうして、とぼとぼと歩いていた時だった。気づけばそこは王城の前。そこに、人だかりができている。

(なんだろう、仕事の募集とかかな?)

 エリフィナは期待に目を輝かせた。最近前の王様がご病気で亡くなって新しい王様が即位したところだから、何かの式典とかで人手が足りないのかもしれない。できれば住み込みの仕事がいいけれど、働き口が見つかるだけでも万々歳だ。

 そう思って人波をかいくぐり、看板の前に立つ。前の人たちが会話する声が聞こえてきた。

「開かずの扉だってよ」

「いいのかねぇ、王様が代わった途端にこんな」

「なんでもいいから、金目のものを探したいんだろう」

 新しい王様は、自分を飾り付けるのがとても好きらしい。看板に書かれていたのは、『王城内に開かずの扉を見つけたが、何をやっても開かない。まだ扉が見つかっていない鍵持ちがいれば申し出るように』という内容だった。だが、エリフィナが目を留めたのは、そこではない。

『扉を開いた者には、衣食住を保証する』

 今、何よりエリフィナが必要としているものだ。行くしかない! エリフィナはごくりと唾を飲み込み、門のほうに向かったのだった。

  *

 そうして今、エリフィナの前には重々しい扉があった。長らく閉ざされていたであろうその扉は、黒く錆び付き、蔦がはびこり、なんだかとても嫌な感じがする。宝物庫と説明されたが、どうもそんな雰囲気ではない。

「次は? お前か」

 前に並んでいた人が肩を落として連れられていき、立派な服を着た片眼鏡の男の人が、エリフィナを振り返り、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。王様はといえば、エリフィナを目に入れたくもないという様子で、綺麗な女の人に足を揉ませながら、ここまで運ばせた大きな椅子にふんぞり返って座っている。どちらもこういう状況でなければ、絶対言うことを聞きたくない相手だ。

 エリフィナは、自分でもダメ元だと感じながら、手をかざした。

「……っ」

 今まで、感じたことのない感覚だった。身体の奥から沸き上がるような高揚感。それと同時に、手の甲の鍵の印が光り輝く。

「お、おお……!}

「まさか!」

 周囲の大人たちが色めき立つ。エリフィナ自身も確信していた。

 ――これが、私の扉だったんだ……!

 ガチャリ、と扉が開錠される音がする。そうして、大の大人が何人かかっても開かなかった扉は、ギギィ、と音を鳴らしながら、ひとりでに開いた。

「えっ?」

 エリフィナの目に部屋の中の光景が飛び込んでくる。一瞬、何かの植物が沢山絡まっているのかと思ったが、違う。部屋の真ん中に集中しているそれは、何重にも巻かれた鎖だ。大量の鎖が、部屋の中央にある何かをぐるぐる巻きにして縛り付けている。

(え? え?)

 エリフィナはおぞましさを感じ、一歩後ずさった。嫌な予感しかしない。

 鎖がジャラジャラと音を立てて解けていき、そうして、中から、銀色の何かが見えた。宝物、ではない。

(人……っ!?)

 いったいなぜ、あんな所に人が? 生きているのだろうか?

 その疑問を噛み締める間もなく、現れたその人物の瞳がゆっくりと開く。エリフィナよりも、少し年上に見える。とても美しい、銀髪の男の人だ。だが。

 エリフィナは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。

 その目から感じるのが、明らかな敵意。不快感。とにかく、こちらに向いているのが、とても悪いものだったからだ。

「おお! 目覚めたのか、闇の魔法使い、カイエル!」

「やみ……!?」

 そういえば、おとぎ話の中に、闇の魔術師の話があったっけ……強大な力を持つがゆえに封印されて、その身は今も王城の地下にある、なんて、そんな言い伝えの……。

 そんなことを考えていると、王様が立ち上がり、傍仕えの人たちが「邪魔だ!」と言ってエリフィナを突き飛ばした。詰めかける大人たちに、エリフィナは尻もちをつきながらずるずると隅に逃げる。

「そなたを解放したのはこの私だ! 我が願いを叶えよ!」

 カイエルと呼ばれた男は、鎖の中から立ち上がると王様を一瞥し、そうして、手を軽く横に動かした。その瞬間。

「うわあああ!」

 大人たちが一斉に吹き飛ばされる。

「目覚めが悪い」

 億劫そうに言った男は、一歩、また一歩と近づいてくる。

(だめ……!)

 腰を抜かしてしまったエリフィナの前をカイエルが通り過ぎて、床に打ちつけられて呻いている王様を冷たく見下げる。

「なるほど、先代に毒を盛って王位を奪ったか。相変わらず、お前たちは愚かだな」

 そう言って手をゆっくり持ち上げると、王様の身体も宙に浮かぶ。

「まっ、待てっ、儂は……っ」

 そうしてカイエルがもう片方の手で何かをしようとした瞬間。

「だめー!!」

 エリフィナは何も考えず、その身体に飛びついた。

 カイエルが、はじめてエリフィナに気づいたように目を見開く。先ほどと同じような術でエリフィナを弾き飛ばそうとしたのだろうが、それができずに愕然とする様子がスローモーションに見える。そして、その身体にエリフィナの鍵の手が触れた瞬間。

「な……っ」

 カイエルの身体に、どこからか現れた鎖が巻きついた。カイエルがそれを解こうとするが、ぴくりともしない。

「なん、だと……!?」

 カイエルは驚愕の目でこちらを見て、エリフィナはその視線を受け止めてから、自分の手を見た。誰よりもエリフィナが、今起きたことに驚いていた。

  *

「なんでこんな小娘に……」

「小娘っていっても、そんなに年齢は変わらないじゃない」

 ぶつぶつと言いながら、カイエルは食事を口に運んでいる。

 カトラリーをどう扱っていいか悩むエリフィナに比べて、態度は不遜でも、その動作は優雅で洗練されている。

 エリフィナが、美味しそうなステーキをどこから切っていいのか迷いながら眉を寄せて言うと、カイエルが信じられないという目でこちらを見た。

「俺が何者か分かっていないのか?」

「知ってるわよ。でも、その外見なんだってことは、何年生きていても結局そのくらいの精神年齢ってことでしょ?」

「違う!」

 子どものような言い争いをする二人を、怯えて壁に貼りつくように立つ使用人たちが、信じられないものを見るような目で見ている。

「ふん」

 カイエルがまともに相手をしていられるか、とばかりに顔を背け、二人はまた黙々と食事をする。気まずい沈黙を、使用人たちが固唾を飲んで見守っている。

 エリフィナはといえば、気まずいし、カイエルのことは怖いのだが、どこか、この青年に親密さのようなものを感じてしまっていた。すぐにこちらに危害を加えようとしたのは悪いことだが、王様の悪行をみんなに教えてくれたし、あの場でなんとか逃げ出そうとしただけかもしれない。決して何か、恐ろしいことをしようとしたのではないと信じたい。

 それに。

 ――この闇の魔法使いが、私の扉……。

 何かを導いてくれる運命。そう思うと、期待に胸が高鳴ってしまう。

「王様が捕まっちゃって、どうなるのかな」

「遠縁の幼い子どもでも王位につけるんだろう。不憫なことだ」

 はっ、と歪めた笑いを落とすカイエルは、いったいこれまでどんな人生を送ってきたのだろう。

「カイエルは、本当は何歳なの?」

「知ってどうする」

 だが、エリフィナに対して、カイエルの反応は冷たい。こちらは運命だと感じていても、カイエル自身はその中に閉じ込められていた魔法使いだったというだけだ。エリフィナは彼を縛る鍵なのだし、この態度も無理はない。

 結局扉というのは、これをきっかけに自分自身で人生を切り開いていけ、という思し召しというだけなのかもしれない。

 特別だと感じているのは、自分だけ……。

 それを突きつけられて、しゅんとなる。エリフィナがお皿のスープをちびちびと口に運んでいた時だ。

「知らないほうがいいこともある」

 先ほどより柔らかくなった声色に、エリフィナは顔を上げた。カイエルの顔はバツが悪そうに歪んでいる。エリフィナは、ぱあっと表情を明るくした。

「えっと、じゃあカイエルは、どうして封印されたの?」

 ごふっ、と使用人の一人が咳き込む。

 カイエルが目を見開いてこちらを見ている。深い青の目は美しく、まるで星空のようだ。

「いつの時代も、愚かな統治者はいるというだけの話だ」

 突き放すわけではないが、その声色がやけに寂しそうで、エリフィナはそれ以上何も聞けなかった。

   *

「お腹もいっぱいだし、ぽっかぽかだぁ~」

 王城の前の草むらからは、城下が眺められる。ごろりと寝そべって指に蝶を止まらせるエリフィナの横で、カイエルは呆然と宙を見つめていた。

「なぜ俺は……こんなことに」

 離れたところに見張りはいるのだが、実際は二人だけの日向ぼっこだ。次の王様の即位だとかで城の中は混乱しているし、カイエルとエリフィナの扱いにはみな困っているようで、やることもない。

「ねぇカイエル、相談があるんだけど、その……」

 エリフィナは起き上がると、見張りのほうをちらりと見て言葉を止めた。あの人に聞かれたくない。

 カイエルは片眉を上げて、そのまま寝転がり、目を閉じてしまう。

「ちょっと!」

 この流れで居眠りはひどくない? そう言いかけたエリフィナの頭に、直接響く声がある。

『見張りに聞かれたくなければ、こうして話せ』

『こうしてってどうやっ……こうか』

『そうだ』

 笑いを含んだ声が頭に響き、目の前のカイエルの口角も少し上がる。これは自分の心を読まれるということだろうか? と思ったが、別に読まれて困る心はないし、そのまま気にせず話すことにした。

『カイエル、このまま王城を出る気はない?』

『王城を? それで、どうするんだ』

『私は……』

 そこで、少し考える。自分の中に、迷いはない。

『私は、この運命の意味を、知りたいの』

 カイエルと出会ったその意味を。自分が鍵を授けられた、その理由を。

『カイエルには、何かしたいことはないの?』

 しん、と束の間、深い海のような静けさが過った。

『……探したいものがある』

 ぼそりと落とされた言葉。何気ない響きに隠された、強い意思があるように思える。

『あと、いち早く、お前の鍵の力を無効化したい』

「えーっ!」

 あまりに正直な言葉に、つい大きな声が出てしまった。見張りが怪訝そうな顔をしている。カイエルのくすくす笑う表情は柔らかく、さっきの一瞬が夢だったのかと思えるほどだ。

『じゃあ、二人でここを出て、この鍵の解除の方法と、カイエルの探し物と、私の運命を探す?』

『多いな』

 カイエルはおかしそうにいったが、エリフィナはなんとなく感じていた。

 その三つは、もしかすると、重なっているかもしれない。

『何か心当たりはあるのか?』

『神秘の街って呼ばれる街があるの。知ってる?』

『アステリナか。随分昔に訪ねたことがあるな』

『そこに行ってみたい』

『お前それ、観光したいだけじゃないだろうな?』

『それもある』

 呆れた様子の突っ込みに頷いてみせると、カイエルはまた笑った。

 エリフィナも微笑み、雲一つない空を見た。

 まずは、世界を知りたい。

 それから、どこか深い悲しみを背負った、この人のことも。


(おしまい)



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