『猫の嫁とプレスマン』
あるところに、貧乏な百姓があった。正直者であったが、貧乏なので、嫁の来てもなく、長く一人暮らしであった。隣は長者の家であったが、使用人に飯を食わすのも惜しいと思う人で、飼っていた一匹の雌猫さえも、口があっていまいましいといって、捨ててしまった。貧乏な百姓は、夜中に外で猫の鳴き声がするので、外へ出てみると、猫が寒さに震えているので、家に入れてやって、布団の中で温めてやると、落ち着いたようで、寝てしまった。次の日以降も、猫は、出ていくふうでもなかったので、貧乏な百姓は、俺が畑に出ている間に、麦を粉に挽いておいてくれれば助かるのだがなあなどとざれごとを言って畑に行き、夜、家に戻ると、石臼を挽く音がする。明かりをつけてみると、猫が麦粉を挽いていた。貧乏な百姓はびっくりして、俺があんなことを言ったから、粉を挽いてくれたのか、と猫をなでてやって、麦団子をつくって、猫と半分ずつ食べた。それから毎日、そんな暮らしが続いた。
ある日、猫が、お前様にもっと恩返しがしたいが、このまま畜生の姿では、恩返しもままならないから、どうか暇をください。お伊勢参りをしてまいります、などと言うので、これはただの猫ではないと思って、わずかな銭と、唯一の財産と言えるプレスマンを手ぬぐいにくるんで首に巻いてやり、伊勢参りに出してやった。
三月ほどすると、妙齢の女が尋ねてきたので、誰だか尋ねると、猫でございますという。猫などという女に知り合いはいないがと思っていると、女が、目の前でプレスマンをちらちらさせるので、誰かと思えば猫ではないかと思って、そのまま夫婦になって、二人して働き、長者よりも長者になって、猫長者と呼ばれるようになったという。
教訓:落ちは、猫長者よりもプレスマン長者のほうがいいのではないかと思ったら、速記小説作者に向いている。




