side巻き込まれ薬師【84】
ツヴァイさんが先触れしてくれていたので、馬車が到着した時には見知った人たちがずらっと並んで出迎えてくれた。
中心にいるのはベルンハルトさん。
「兄上、ただ今戻りました」
「うん、話は聞いてるよ。いろいろあったみたいだけど、とりあえず無事でよかった。アルビー兄上は王都の始末を任されてるからまだ帰ってなくて、父上は客人が来てるから後で報告に行ってね」
「はい」
「じゃあゆっくりしてと言いたいところだけど、その前に彼女の紹介だけ。コンスタンツェ」
ベルンハルトさんに呼ばれて進み出たのは、斜め後ろぐらいに立っていた背の高い女性。
ダークブロンドの髪をきっちりと結い上げ、焦茶の瞳をしている。少しきつめというか、理知的な顔立ちをしている。服の色も落ち着いた色で、イメージの中の「貴族の家庭教師」って印象だ。
「前から話してた僕の婚約者、コンスタンツェ嬢だよ」
「コンスタンツェ・パウラ・ポラールシュテルンと申します。ヴォルフガング様、サツキ様、お会いできて嬉しく思います」
「ヴォルフガング・クリストフ・アイゼルバウアーです。こちらこそお会いできて光栄です」
「ゴトウ・サツキです。私もお会いできて嬉しく思います」
順番に握手しながら挨拶をする。
この人が魔道具開発のデザイン部門を担当する、将来の義姉かぁ。
にこやかではないものの真面目できっちりしてそうで、私の中の第一印象はとてもいい。
「コンスタンツェはぜひサツキと話したいらしい。時間のある時に相手をしてやってくれるかい?」
「はい、喜んで」
なんだろう、魔道具の話かな? でも私も話してみたいし大歓迎だ。
そのまま邸の中へ入ろうとしかけた時、ものすごくなにか言いたそうなヤルトさん&フリッツさんと目があった。
私と同時に視線に気づいたベルンハルトさんが許可を出すと、二人は私の足元に縋る勢いで駆け寄ってきた。
な、なにがあったの!?
「サツキ様、無事に戻ってこられて本当によかったです!」
「新しい魔道具のアイディアもくださってありがとうございます!」
「他にも必要なものがありましたらなんでも言ってください!」
「サツキ様のご要望なら自分たちが作っていそうなんで、ぜひ!」
どっちがなにを言ってるかもわからないし、言ってる内容もちょっとよくわからない。
二人の勢いに私が引いてるのを見かねたベルンハルトさんが嗜めてくれて助かった。
なんだったの……?
後で聞いた話では、ヤルトさん&フリッツさんは今では魔道具製作の統括的な立場にいるらしく、最初の頃ほど自分たちで製作できてないんだって。
でも二人とも、特にヤルトさんは根っからの職人だからフラストレーションが溜まっていたところに、ベルンハルトさんから「サツキのアイディアはふたりが直接試作すること」という指示が出たそうだ。
ベルンハルトさんの意図は、異世界の知識だから秘密保持のためにふたりが試作するってことだったらしいけど、製作に飢えていたふたりは「サツキ様が『作って』と言ったものなら自分たちで作っていい」と拡大解釈したそうな……。
ベルンハルトさんは解釈の相違に気付きつつも、あんまり制限をかけるのも良くないかと思って放置しているそう。
「だから、あのふたりが適度に満足しつつ、それほど手間隙がかからないものをリクエストしてあげて」
なんて言われましたが、無茶振りすぎやしませんか!?
まあ、いいや。スキルの剛力を使うために頑丈な靴が欲しかったから後でお願いしてみよう。
侯爵に帰還の報告をするまではなにもできないので、久しぶりの庭園をヴォルフィと散歩していたら、侯爵のお客さんが帰ったと知らせが来た。
面会の希望を伝えてもらい、程なくして執務室に呼ばれた。
「父上、ただ今戻りました」
「うむ。ヴォルフもサツキ殿も大事ないようでなによりだ。事情はカイから聞いておるが、いずれお前たちからも直接話を聞くことになるだろう」
「はい。ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
「よい。お前たちにも学ぶことはあったであろうし、おそらくこの話は悪くは転ばん。それに、ドワーフの集落からの交易の申し出という功績もあるゆえ、此度のことは不問に付す」
「ありがとうございます」
ここで侯爵は表情と空気をふっと緩めた。
「お前たちが無事に帰ってきたことが1番だ。また旅の話を聞かせてくれ」
「はい!」
「それからサツキ殿。新たな魔道具のアイディア感謝する。大まかな事情は聞いておるだろうが、詳細を詰めていくのにまた力を貸してほしい」
「はい、もちろんです」
「お前たちの部屋だが、ヴォルフがかつて住んでいた離れの建物を用意させている。すぐに住めるようになっているはずだが、気に入らない部分は変えていって構わない」
「父上……!」
「疲れているだろうが、晩餐は共にできるか?」
「はい。はい!」
「そうか。明日からはお前たちにも協力を求めることになるから、今日は旅の疲れを癒しておきなさい」
最後は穏やかに笑いながら言われて、私たちは執務室を後にした。 どちらからともなく手を繋いで離れに向かう。
「離れに住みたいっていつの間に伝えてたの? それにアウルヴァングルさんたちのことも」
「ドワーフの信書はカイに託しておいた。だけど、離れのことは戻ってきてから言うつもりだったんだけど……」
使用人さんたちが訴えてくれたのだろうか?
ま、私は夜だけでもヴォルフィとふたりで気兼ねなく過ごせるなら構わないんだけどね。
大勢の人が行き交うお邸の中は、部屋にこもっていてもなんか落ち着かないから。
のんびりと歩いていたら、ものすごい勢いでヤルトさん&フリッツさんがこっちに向かって走ってきた。
次はなんなの!?
「ヴォルフガング様、少々お話が」
「ああ、わかった。ごめんサツキ、ちょっとだけ待ってて」
用があったのは私じゃなくヴォルフィだったみたい。珍しい。
私から距離を取って3人でごにょごにょと話している。気になる……。
しばらく話したらヤルトさん&フリッツさんはまたドタバタと走り去っていった。
「ごめんごめん。さあ行こう」
話の内容を教えてくれる気はないみたいで、手を取られて離れに向かう。




