表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/203

side巻き込まれ薬師【83】

「順番が逆になってしまいますが、サツキさんの冒険者登録を行いますのでこちらにご記入ください」


 そう言って、登録用紙とペンを差し出される。


「す、すみません。先にもうちょっと説明してもらえませんか。私は冒険者になるつもりはないんですけど」


「お二人がここに到着されてすぐ、ギルド長からお話がございましたよね。サツキさんはCランクの冒険者になるだろうと。予定していた手順とは大幅に異なりますが、登録済みの新人冒険者が大きな手柄を上げたため、特例として一気にCランクに上がったことにします。ただ、当面はAランク冒険者の監督下でのみ活動を認めるという条件をつけて、摩擦が少ないようにしますが。そしてサツキさんのカードもヴォルフさんのカードと一緒にお預かりしておきますので、冒険者活動をされる際にはお二人で取りに来られれば再開できるという筋書きです。もしカードが不要になれば、ご一報いただければ抹消手続きを行います」


 確かに思い返してみれば、伯爵は私を「Cランク冒険者」と言っていた。すっかり忘れていたあの話がまさか生きてるなんて……。

 困惑したままヴォルフィの方を見ると、私とは逆に落ち着きを取り戻しているようだった。


「Aランクの監督下っていう条件は、いつまで付くんだ?」

「所属ギルドのギルド長判断になります。つまりわたくしですね」


「サツキにとって悪い話ではないと思うが、ユーディトさんには特に益もない話だと思うが?」

「そうですね……。お二人にはご不快かもしれませんが、わたくしは前ギルド長に悪い感情を持っておりません。本音を申し上げれば退く必要もないと思っております。ですので、ギルド長が進めていた計画や考えは基本的に引き継いでいくつもりです。サツキさんのこともその一環です」


 やっぱりというかなんというか、今回の一連の出来事に対してそれぞれ思うことはあるんだよね。


「私個人としてはそれで構わないと思います。ただ、侯爵様には報告しますので、抹消せよと命じられればそのようにお願いすることになると思います」

「承知しました。ではご記入を」


 記入する内容は名前、出身地、職業、使える武器・魔法・スキル等というざっくりしたものだ。


「名前はサツキだけでいい。出身地も書かなくていいし、書くならうちの領都でいい。別に調べられるわけじゃないし、素性を明かしたくない奴もいるからな」

「それは信用問題にならないの?」


 名前も偽名、出身地も適当に書いていたとしたらなんの意味もないのでは……。


「冒険者の信用は活動しながら積み上げていくものです。登録するだけなら誰でも、ごろつきでもなれますからスタート時点の信用は皆無というのが共通の認識です」


 私の疑問にユーディトさんが答えてくれた。

 なるほどね……。


「職業は薬師でいいのかな?」

「いや、パーティを組むときの参考にするためのものだから、普通は戦闘スタイルを書く。まあサツキの場合はパーティを組むこともないだろうから、なんでもいいといえばいいけど」


「……私って剣士じゃないよね。魔法使い?」

「…………」


 そこで無言にならないで!

 あの魔獣を倒して以降、私は実戦どころか鍛錬もせずひたすら療養していた。

 だから初心者のまま進歩していない。


「ひとまず薬師兼魔法剣士としておかれたらよろしいかと。活動を再開される時が来ましたら、その時に変更はできますから」

「わかりました」


 ヴォルフィに字を教えてもらいつつ、なんとか書いた。

 魔法剣士……。

 まさかそんな職業に就く日が来るなんてね。


「あとは双剣使いで、闇魔法と火魔法とだけ書いておけばいい。他のスキルや魔法は書かなくていい」

「わかった」


 それも字を聞きながら、書きにくいペンに苦労しながら書き上げた。

 早く魔道具のペンが普及したらいいのに。


「ではこれをカードに反映して、そのままお預かりしておきますね。ではこれで失礼いたします」


 ユーディトさんは登録用紙を持って颯爽と去って行った。本当に忙しいのだろう。


「私、冒険者になったみたい……」

「そうだな。おめでとう?」


 顔を見合わせて二人で苦笑してしまった。



 それから数日後、私たちはシュナイツァー伯爵領を発った。

 フリーデグントさん、ユーディトさん、あとはヴォルフィと面識のある冒険者たちが何人か見送りに来てくれた。

 伯爵とはその前日に面会したけど、心労からかずいぶんやつれていて心が痛んだ。


 なんというか、今回の事件は明確に悪意を持っていたのはあの女だけなのに、それにいろんな人の思惑が振り回されてずいぶん苦い結果になってしまったと思う。

 侯爵が寛大な判断をしてくれればいいんだけど。



 帰りは私の体調を優先するよう言われていたので、基本的に野営はせず宿に泊まりながらだった。

 馬車の中でも例のごとくヴォルフィに抱っこされているので、全然疲れない。

 なので、休憩時間なんかにストレッチ的な筋トレから始めて、ヒースさんに習った型なんかをやり始めた。


 影月と櫻月の魔法は使うタイミングがなくて練習できていないけど、それ以外の属性の基本的な魔法はだいぶ上手くなってきた。

 まあ、ヴォルフィの予想では影月・櫻月とずっとパスは繋がってるから、他の属性であっても補助されてる形になってるんだろうってことだけど。つまり私が自力で上達したわけじゃないっていう見立てだけど。なぁんだ……。


 そんなこんなで特にトラブルも起こらないまま半月ほどかけて、私たちは侯爵領に帰還した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ