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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【82】

 一昨日は急に更新をお休みして申し訳ありませんでした。

 ヴォルフィを伺うと顔がこわばっているので、思わず手を伸ばして顔に触れた。怒りとかやるせなさとか悲しさみたいなのが、ごちゃ混ぜに吹き荒れているのに耐えているようだった。


「ヴォルフィが辛かったら聞かなくていいよ」

「……いや、どうせ避けられないから聞こう」


 心配ではあるけど本人がそういうなら仕方ないので、手だけは握ったままフリーデグントさんに向き直った。


「あの騒ぎの際に姿が見えなくなり、今も捜索中ですが行方はわかっていません。各ギルドにも通知を出していますので、立ち寄ればわかるはずですが報告は来ていません」

「そうですか……」


 予想はしてたけど、ヒースさんは完全に行方不明なようだった。


「はあ、そうか……」


 ため息をつくヴォルフィは、落ち込んでいるような怒っているような、でもどこか安堵しているようにも見えた。


「このままずっと探し続けるんですか?」

「最終的にはアイゼルバウアー侯爵様がどのように判断されるかになりますが、それまではわたくしの方で捜索を続けることになります。ただ、既に打てる手は打ってあるので、そこに引っ掛からなければ発見は難しいかと思います」

「そうですか……」


 領主やギルドといった表の組織と関われないような人たちが使う、いわゆる裏の組織も当然あるだろう。もし、そういうところを頼っていたら見つけるのは難しい気がする。


「ヒースクリフに関しては、わたくし達も依頼を完了せずに逃亡されてしまった被害者ということになります。その補償は冒険者ギルドに求めるものですが、ギルドの規約上、今回のように想定を超える強力な魔獣が出た場合などは例外扱いになります」


 なんというか、依頼者と領主とギルドと客人の貴族が入り混じっちゃってややこしいことになってるなぁ。


「ですので、最終的にはアイゼルバウアー侯爵様がどこまでの刑罰をヒースクリフに求めるか、ということになります」

「でもそれも、なんというか、慣例的な匙加減みたいなのはあるんですよね?」

「そうですね。今回の場合でしたら、冒険者資格は当然剥奪の上、罰金や鞭打ちなどの刑罰でしょうね。投獄まで行くかどうかは難しいところで、死罪はないと思います」


 個人的にはこのままヒースさんが見つからずに有耶無耶になればいいなぁと思っている。

 あの瞬間は私にとっては死にかけたというよりも、()()()()()()()()()()()()()なので、そこまで悪い出来事じゃない。

 だけど、それを見てた側の気持ちは別だからね。


 無言のままのヴォルフィを見て、フリーデグントさんは潮時だと思ったようだ。

 私たちが侯爵領へ帰還するときの物資や護衛などは全て用意すると最後に言って、部屋から退出していった。


「ヴォルフィ、大丈夫?」

「……うん」


 全く大丈夫ではないと思うけど。


「ヒースさんのこと、怒ってる?」

「………………わからない」

「………………」


「……あいつのせいでサツキが危険な目に遭ったんだから、俺はもっとあいつを憎んでるはずなのに……このまま見つからなければいいって思ってしまった」

「………………」


「でも、それではサツキの気持ちが収まらないだろ? だから俺は」

「いや、私は特別怒ってないよ」

「……え?」


 ヴォルフィの言葉を途中で遮って本心を言うと、虚を突かれたような表情になった。


「私はヒースさんのことをとりたてて怒ってないよ。だから私も、このまま逃げ切ってほしいと思ってるよ」

「……あいつのせいで死ぬところだったのに?」


「側から見てたらそうだったんだろうけど、私の主観的な世界では、私はあの瞬間にこの世界で生きていく覚悟を決めたから。なんていうか、特別な瞬間? それに比べたらヒースさんのことは割とどうでもいいというか……」

「サツキ……」


「それよりも周りで見てたヴォルフィのショックの方が大きかったと思うから、ヴォルフィがヒースさんを罰したいって思うなら反対はしないでおこうって思ってたの」


 私の気持ちを聞いたヴォルフィは、脱力してソファにずるずると崩れ落ちた。


「なんだかんだ言っても、ヴォルフィはヒースさんのこと気に入ってるんでしょ? ショックではあるだろうから1発ぐらい殴ったらいいとは思うけど、無理に憎まなくていいと思うよ」

「……サツキは寛大すぎる」


 なにを言っているのだろう。

 逆だよ、逆。

 大事なものを大事にすると決めたから、他に無関心になっただけだよ。


「父上は、どうするんだろうか」

「そうだねぇ、侯爵家の面子もあるから無罪放免とはいかないだろうけど。まあ、それもヒースさんが見つかればの話だけどね。ほんと、どこに行ったんだろうね」


「……心当たりがないわけじゃない」

「そうなの? そこは安全なの?」


「……おそらく」

「じゃあきっとそこでほとぼりが冷めるのを待ってるでしょう」

「……そうだな」


 ようやく肩の力が抜けたようで、私もホッとした。



 私たちも部屋に戻ろうと廊下を進んでいると、いきなりユーディトさんが現れた。


「お二人とも、少しだけお時間よろしいでしょうか」


 顔を見合わせた後に私たちが頷くと、ユーディトさんは近くの部屋に私たちを案内した。


「すぐにギルドに戻らないといけませんので、用件のみお伝えいたします。まず、ヴォルフさんのギルドカードはこのままわたくしがお預かりしておきます。ギルド長交代の中で、返却手続きが途中で止まっていたことにしておきます」

「あ、ああ」


 流れる水のごとく一気に話をされて、ヴォルフィがよくわからないまま頷いている。


「それから、こちらはサツキさんの冒険者カードになります。先日の功績を鑑みてCランクです。ただ、特例でのCランクスタートになりますので、当面はAランク冒険者の指導の下でに限るという条件は付けております。ヴォルフさんと行動しておられれば問題ありませんね」

「えっ!?」


 全く話についていけない。私はいつ冒険者になったの!?

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