side巻き込まれ薬師【77】
それからは後処理が本当に大変だった……らしい。
というのは、私は魔獣を倒した直後に高熱を出して倒れてしまって、直接知らないのだ。
数日間はほぼ意識がなく、熱が下がった後も数日は起きているのも辛い状態でずっと寝込んでいて、ようやく大まかな事情を教えてもらえた時にはほとんどのことが終わってしまっていた。
魔獣に襲われた直後にまた私が倒れてしまったので、ヴォルフィの憔悴具合というか狂乱というか……とにかくすごかったらしい。誰も詳しく話してくれないのが、いかにひどい状態だったのかを物語っている気がして胸が痛む。
私の意識がなかった間もずっと付き添ってくれていたらしいけど、ほとんど寝ずに目の下にひどいクマを作っていて、私を診に来たお医者さんに怒られていたらしい。
熱が下がって少しは安心したらしく、次は甲斐甲斐しく世話をしていてくれる。今も体を支えてもらいつつ、薬湯を飲ませてもらってる。
ヒースさんは行方をくらませたそうだ。
私が倒した魔獣が絶命しているのを確かめた後、混乱に乗じて姿を消してしまっていたらしい。
護衛の依頼とはいえ、命をかけてまで護衛をする必要はない。ということは、冒険者ギルドの規約にもあるし、今回の依頼の注意事項にも書いてはある。
と言っても、護衛対象の身分が高かったらどうしても罰を受けることになってしまうことが多いらしい。
今回も侯爵家に連なる者が危険な目に遭ってしまったので、ヘタをすると死罪になるかもしれないから逃げたんだろうという話だ。
だけど、私はなんとなくそうじゃない気がしている。ヒースさんが逃げたのは、ヴォルフィに合わせる顔がないと思ったからなんじゃないかと思ってる。
咄嗟に自分の命を優先した後で、友人だと思っていたヴォルフィに対して取り返しのつかないことをしてしまったと気づいて、それで姿を消したんじゃないかと思ってる。
まあそれはどっちでもいいけど。ヴォルフィが傷つきながら怒っているのが痛々しくて見ていられないので、そっちの方が問題だもの。
ヒースさん以上に、シュナイツァー伯爵の責任問題が大変なことになっている。
どうやら私が魔獣に襲われたのは仕組まれていたかららしいからだ。
私が魔獣に襲われる直前、デニスさんは「冒険者の中から、討伐中に群生地を発見したと情報提供があった」と言っていた。そこに強烈な違和感を覚えた直後に魔獣に襲われたのだ。
私と伯爵が契約を結んでポーション製作を行なっていることは秘密だ。もちろん私がわざわざ護衛をつけて大森林に入って行ってるのは隠していないので、なにかあると感じる人はいるだろう。
私たちが行った場所で大量にレイルの木の枝が刈り取られているのに気づいて、レイルの木絡みかと思う人もいるかもしれない。
だけど、他の群生地を探しているとまで深読みするだろうか?
するかもしれないし、しないかもしれない。深読みして情報提供してくる可能性はゼロじゃないけど、なんだかおかしい気がする。
というのをあの瞬間に思ったんだけど、確かめる間もなく魔獣に襲われる羽目になったのだ。
調査の結果、あの赤毛の女……フィリーネと護衛騎士のひとりヤンさんはできていた。できていたと言うか、あの女の狙いはヴォルフィだからヤンさんは遊ばれていただけとも言えるけど。
どちらにせよ、ふたりが関係を持っていたがためにヤンさんは1度目の護衛任務の後、あの女に任務の内容を喋ってしまっていたそうだ。
そこであの女は、自分たちが討伐予定の魔獣の巣穴近くに私を誘導し、巻き込んで殺してしまおうと群生地の偽情報をヤンさんに言ったようだ。
ヤンさんはその情報を伯爵に報告し、伯爵はあまり精査することなくその場所での採取を認めてしまったそうだ。
伯爵は、ヴォルフィが危惧していたようにポーションへの誘惑から判断力が鈍ったのかわざと気づかないふりをしたのか、とにかく偽情報の場所へ私を行かせることにしてしまったのだ。
伯爵に対してはフリーデグントさんが激怒していて、伯爵は謹慎中。フリーデグントさんが実権を全部奪い取って、ユーディトさんとともに事態の収拾に努めているそうだ。
あの女は取調べが済み次第、死罪。
ヤンさんは騎士の身分を剥奪した上で、死罪か一族郎党奴隷落ちのどちらかになるらしい。
苛烈だなと思うけど、フリーデグントさんからしたら自分より高位貴族であるアイゼルバウアー侯爵家に誠意を見せないといけないので、思い切った断罪が必要になってくるそうだ。
後始末が済み次第、伯爵は息子に代替わりして、ギルド長はユーディトさんが就任することになるらしい。
これを機に、冒険者ギルド本部の介入を一掃するべく、ユーディトさんは高笑いしながら周辺の貴族への根回しなんかも行なっているそうだ。
私の身近なところでは、メアリとライデンさんたちにも心配をかけてしまった。
メアリは、熱で意識がない私を介抱している時に、直前に私が魔獣に襲われたことを聞いて蒼白な顔になっていたそうだ。でも、自分が倒れるわけにはいかないと歯を食いしばって意識を保っていたらしい。
ライデンさんたち騎士3人は、自分たちが離れている間にそんな事態になっていたことを反省して、その場で処刑してくれとか言っていたらしい。
その3人に「この領地の人が誰も信用できないのに、あなたたちが死んだら誰がサツキ様をお守りするんですか!」と一喝したのもメアリだそうだ。
それからは私の部屋の前に交代で立って、きっちり護衛してくれている。
本当にメアリには特別ボーナスをあげて給料も上げるように、侯爵にお願いしようと思う。
騎士3人は、領主に「俺がちゃんとやっとく」なんて言われたら、なかなか逆らうのは難しいよなって思うので、あまりひどい罰は与えないでとお願いするつもりではある。
そして、私の意識が戻った直後ぐらいに、アイゼルバウアー侯爵家からの使者がやってきたそうだ。
使者は王都の屋敷の責任者である家令で、数人の騎士を伴っていた。
私はとても人前に出られる状態じゃなかったので会わず、というか使者の来訪さえ知らないまま寝込んでいた。
ヴォルフィはすぐに会って話し合ったそうで、とりあえず今起きている問題の対応は家令にバトンタッチしたそうだ。
家令がやってきた理由、というかもともとは伯爵領への滞在が延びた理由は私はまだ聞いていない。
そろそろ体調も落ち着いてきたし家令と会って話を聞くかどうするかと言うのを、私を抱き締めて髪を撫でているヴォルフィに耳元で聞かれているのが今の状況。




