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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【73】

 森の入口とは言っても明確に門や扉が設けられているわけではない。

 だけど、明らかに空気感が違う境界線をはっきりと感じる。端的に言うなら拒絶感。本能的に「進みたくない」と感じて体が強張る。


「大丈夫カ? 進めないなラそのようにギルド長ニ報告しよう」

「いえ、行きます」

「わかっタ。だが、限界になるより前ニ言ってくれ。余力ヲ残した状態デ帰還したい」

「わかりました」


 騎士達も何も言わないので、同意見なのだろう。足手まといにならないように、自分の状態にも注意しながら進まなければ。

 怖くて進みたくないと思う反面、私は進まなければいけないという焦りも感じる。

 その焦りがなんなのかはっきりしないけど、さっき遠目で見たヴォルフィとあの女がチラつくのが止まらなかった。



 ビクビクしながら進んだ割に、何事もなくレイルの木の群生地まで辿り着けた。

 ここも冒険者達の通り道だったようで、つい最近踏み荒らされたような気配がある。おかげで通りやすくて助かった。

 レイルの木はシルエットがいかにも針葉樹といった三角っぽい形をしている木だった。群生している中には、枝に手が届かないような大木も混じっている。


「サツキ様はこの辺りで、手が届く低いところの採取をなさってください。私とヒースクリフ殿で護衛いたします。手が届かないところはテオとヤンが魔法で切り落としますので、後で回収だけお願いします」

「わかりました」


 影のようにピッタリと私に付き従うヒースさんとともに、示されたあたりで葉っぱを採取し始めた。

 今日のヒースさんは小ぶりな弓を持っていて、それをいつでも使えるように手に持っている。デニスさんは剣を抜いて構えている。

 私はナイフを取り出して低いところの葉っぱを切っては収納していく。視界の片隅では騎士ふたりが盛大に枝を切り落としていた。


「この木は、なにかに使うことはないんですか? かなり激しく切り落としてますけど」

「昔、本当に食料に困っていた時代はレイルの木の実を食べていたそうですが、今は特別な使い道はありません。せいぜい薪にするぐらいで、それは他の木でも事足りますからご心配には及びません。群生している箇所は他にもございますし」

「それならよかったです」


 騎士ふたりがあまりにも勢いよく枝を落としているから心配になったけど、デニスさんの説明を聞いて安心した。

 伯爵もこの木の実を食べる話をしていたけど、実にも治癒の効果はないんだろうか。


「実って今はなってないんですか? できるなら実も鑑定したいんですけど」

「今は時期ではないのでなってはいません。剪定した枝についているものがあるかもしれないので、戻ったら確認してみます」


 もし実にも治癒の効果があったら、葉よりも効果が高いこともあり得るので確認しておきたい。



 そんなことを話しつつ採取を終えて、騎士ふたりが切り落とした分も回収して帰還した。

 帰り道では何種類か鑑定したけど、めぼしい植物はなかった。

 なんというか、この辺は土地の栄養があまりないのかもしれない。どの植物も育つだけで精一杯ですと言っている気がした。


 無事に森から出た時にはホッとして、どっと疲れが押し寄せてきた。

 伯爵に報告に行き、明日の午前中はポーションの試作をすることになった。道具は収納に入っているので、場所の手配をお願いしておいた。その時までに実が残っていないかデニスさんが探しておいてくれるそう。



 午後になって鍛錬場へ行くと、ヒースさんの足元にカゴに入ったニワトリがいた。


「これハ今日潰す予定のニワトリだそうダ。今日ハこれを闇魔法デ拘束する」

「なるほど」


 確かに生き物相手に練習しないと、魔獣や人間相手に使えるようにならなそうだ。人間相手っていうのはあんまり考えたくないけど……。


 今日も先に筋トレメニューと素振りをしてだいぶヘロヘロになった。そのおかげで午前中の精神的な疲労が中和されたのは助かった。


 そしていよいよニワトリを捕まえる練習だ。

 櫻月は片付けて、影月だけを構える。

 ちなみに、フリーデグントさんが使っていたベルトを譲ってくださるそうで、今は修理と双剣用に改造中だ。それがもらえたらようやく腰に差すことができるようになるので嬉しい。


「でハまず、ニワトリが逃げないようニ風魔法で壁を作る。触れると危ないかラ気をつけてくレ」

「はい」


 ヒースさんは私にわかりやすいように地面にぐるっと円を書いてから、円に沿って魔法で壁を作った。なんとなく空気が揺らいでいるのでよく見たらわかるけど、他のことに気を取られていたら気づかず突っ込むと思う。


「いつでモ始めてくれ」

「はい」


 ニワトリをカゴから出して、ヒースさんは壁のギリギリまで下がって待機している。

 私は深呼吸して、気持ちを落ち着けた。


「影月、抜刀。影縛り!」


 漆黒に染まった刀身から鞭のように影が伸び、ニワトリの影に絡みつく。


「コケーッ!」


 見た目にはニワトリ自身にはなにも起こっていないのだけど、急に動けなくなって驚いたらしく叫び声をあげた。

 ジタバタともがいているが、影月が拘束したままなのでニワトリは動けない。

 私は拘束を緩めないために、集中力を保つのに必死だ。


「サツキ、そのまま止めハ刺せるカ?」


 不意にヒースさんから言われた内容を頭が理解すると同時に、集中力が途切れて拘束が消えニワトリが逃げようとした。すかさずヒースさんがカゴを被せて捕まえてくれた。


「すみません」

「いヤ、いい。急ニ話しかけテ悪かっタ。休憩ニしよう」


 また鍛錬場の端のベンチに座る。


「今の魔法ニ慣れることも必要だガ、拘束していルだけではすまない時モある。サツキはその時ニ殺せるカ?」

「………………わかりません」


 さっき集中が途切れたのは、話しかけられたからというよりも「止めを刺す」という言葉に怯んだのが原因だ。

 私はこれまでに虫以外の生き物を殺したことはない。釣りもしないので生きた魚を絞めたこともない。

 この世界に来てから獲物を捌いて食べさせてもらったことはあったけど、捌くところは見ていなかった。

 剣を、武器を振るうことの()()()()()を思い知らされて、私には明確な返事はできなかった。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 明後日、19日(木)の更新は午後になりそうです。夕方や夜や翌日以降にでもご覧いただけると嬉しいです。

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