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それぞれの異世界転移〜勇者と聖女と巻き込まれ薬師と巻き込まれ〇〇は、どう生きますか? みんな最後は幸せになりたいよね〜  作者: 紅葉月


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side巻き込まれ薬師【72】

 そして翌日。

 きっちり仕事をしてくれた影月のおかげで、私もヴォルフィも至って元気だ。

 でも、これはあれだね。

 影月に頼ればいいじゃんってヴォルフィに知られてしまったってことだよね……。

 考えないでおこう……。



 部屋を出たところでヴォルフィと別れてヒースさんとの待ち合わせ場所に行くと、ヒースさん以外に男性が3人立っていた。伯爵が言っていた騎士だろう。

 騎士らしく金属鎧だけど、馬上槍試合のイメージにあるような完全防備の鎧ではなく、動きやすさを重視したのか部分鎧だった。


「おはようございます。サツキです。よろしくお願いします」

「伯爵閣下より貴女様の護衛を仰せつかった、テオとヤン、それから私はデニスです。我らの守る領地にポーションをもたらそうとしてくださっているとお聞きしました。及ばずながら、我らも領地のために力を尽くしたいと考えております。なんなりとご命令ください」


 そう言って3人とも礼を取る。マルクスさん達と違って、この3人は見た目がよく似てるので顔が覚えられない気がする……。

 しかも、自分で思っていた以上に期待されているようで、顔が引き攣るのを感じた。


「ありがとうございます。どこまでできるかわかりませんが、お力を貸してくださると助かります」

「今日はレイルの木を採取されるとお聞きしました。すぐに群生地へ向かいますか? 冒険者の討伐隊と行き先が重なりますので、できるなら冒険者が行ってしまった後の方が安全だと思いますが」


「時間ヲずらそう。群生地へ行く前ニ、森の入り口あたりでモ採取と鑑定ヲ行おう」

「サツキ様のお考えは?」

「ヒースクリフさんの案の通りでお願いします」


 私が率先して意見を言わないといけなそうだと、今のやり取りで感じた。

 騎士達は決してヒースさんを下に見る態度を取っているわけじゃないけど、ヒースさんの指揮下にいるわけでもないと言いたいようだったし。

 単に体育会系の騎士達と、いかにも女を泣かせてますって見た目のヒースさんの相性が悪いだけかもしれないけど……。

 あんまりにもやりにくくなったら伯爵に相談して指揮系統を整理してもらおう。


 森の入り口へ向かう道すがらにヒースさんが教えてくれたことによると、大森林はどこからでも入れるといえば入れるけど、やっぱり下草なんかがひどくて通りにくいので、手入れして通りやすくしている場所を何ヶ所か設けて入り口としているそうだ。

 今向かっているのは1番西寄りにある入り口なので、「西の方」とか「西の入口」とか呼ばれているんだそう。


 そんなことを話していると、武装をした一団が森の中に入って行くのが遠目に見えた。

 あれが冒険者の討伐隊だろう。

 銀色の髪が見えてヴォルフィだと嬉しくなると同時に、まとわりつく赤毛が見えてイラッとした。それをヴォルフィがぞんざいに振り払ってるのには安心するけど、今度はあれでは連携を取って戦うのに支障が出ないか心配になる。


「ヴォルフと同じ隊ニ割り振られた女冒険者ノひとりが、腹を壊しタらしい。その代役にフィリーネが立候補したそうダ。……そういう筋書きダそうだ」

「……そうですか」


 例え嘘だと分かっていても、お腹が痛いと言っているのが嘘か本当かなんて確かめようがない。犯罪を犯したわけでもないのだから、自白させる魔法なんかを使うわけにはいかないし。

 それに、代わりの人員が立候補して穴が開かずに済むならそれを止める理由もない。

 伯爵はあの女がヴォルフィに近づかないように別の隊にすると言っていたけど、ペナルティを与えられるほどの問題行動をヴォルフィに対してしたわけでもないから限界があるのだろう。


「あの人、自分に割り振られた仕事があったんじゃないんですか?」

「それは所用ガあると断っていル。実際ニ街の外に出ていタそうだ。戻ってきテ、友人が腹ヲ壊したト聞き代役に立候補。一応、筋は通ル」

「はあ、そうですか。ヒースクリフさんはなんでそんなに詳しく知ってるんですか?」

「協力してくレと言われたからナ、本人に。断ったガ、その前にペラペラと教えてくれたゾ」

「…………」


 外堀から埋めるつもりなんだろうか。そんなことをしたって本人の気持ちが変わらなければどうしようもないとは思うけど、不安は拭えない。


「オレの今の仕事はサツキの護衛ダ。護衛対象が心身の具合ヲ悪くしたせいで依頼ガ失敗に終わるとオレが困る。だからフィリーネに協力すル気はない。だからといってサツキに積極的ニ協力する気もなイ。ただ、ヴォルフは友人だト思っているかラ、ヴォルフにとっていい方ニ手を貸すつもりでハある」

「それで私にとっては十分ありがたいです」


 ヴォルフィが私を望む限りは、ヒースさんは私の味方だと思ってよさそうで安心した。近くにいる人が敵だったら怖いもの。


「……我々はそういった人間関係には介入は致しませんが、サツキ様の身の安全は必ずやお守りしますのでご安心ください。伯爵閣下にも念の為に進言いたします」

「ありがとうございます」


 身の安全と言われてゾワっとした。

 この世界の人は武器を日常的に使うことも多いし、自分や近しい人が怪我をしたり死んでしまうことも、きっと日本にいた時よりずっと身近だ。

 日本の色恋沙汰で刃物を持ち出すなんてニュースになるレベルだけど、この世界ではもっとハードルが低いことなのかもしれないと改めて思った。



 西の入口に到着したので、とりあえず生えている草木に鑑定をかけまくる。

 私が鑑定と収納のスキルを持ってることは伯爵から騎士達に説明済みなので、その2つは遠慮なく使える。

 騎士の前で影月と櫻月は出せないので、自分の魔力で行わないといけないから、一応マナポーションをポケットに突っ込んである。


「うーん、昨日見たところとだいたい同じですね。特に新しい植物はなさそうです」


 一通り鑑定し終わって私がそう言ったので、いよいよ大森林の中に入ることになった。


「ヒースクリフ殿はサツキ様から離れないでください。我々はその周りを囲うようにお守りいたします。いざというときは、我々が食い止めますのでヒースクリフ殿はサツキ様をお連れして逃げてください」

「わかっタ、それでいイ」


「サツキ様、まずはレイルの木の群生地での採取を最優先いたします。採取後に、その周辺や帰り道で鑑定をされたい場合はその都度お声がけください。群生地より奥へは参りません。また、採取や鑑定中であっても危険だと判断した場合は中断をお願いしますので、我々の指示に従ってください」

「わかりました」


 緊張であちこちに変な汗が噴き出す。

 ここへ来る途中に倒木を収納しようとした時も緊張したけど、今はそれ以上だ。しかも、ヴォルフィがそばにいない。もう会えなかったらどうしようと縁起でもない考えがよぎったので、慌てて頭から振り払った。

 いつもお読みいただきありがとうございます。

 作風が違いすぎてここでは宣伝をしていなかったのですが、不定期で別作品も書いています。

 タイトルは「わがはいは、たむである」で、現代が舞台です。作者がずっと叶えばいいと思っている願いを、小説の中で実現した話となっております。

 お時間ございましたら、お読みいただけると嬉しいです。

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